2017/07/28

ラジ&ピース

ラジ&ピース (講談社文庫)
絲山 秋子
講談社 (2011-10-14)
売り上げランキング: 472,108
kindle版
■絲山秋子
先日の講談社ポイント還元セールに買ってあったもの、夏休み代わりの有給休暇の午後に読みはじめたら魔法の様に引き込まれてあっというまに夕方読了。
それもそのはず、kindleで1270頁しかない。短い。
表題作の中篇と、短篇「うつくすま ふぐすま」が収録されている。

2008年7月単行本刊、2011年10月文庫版感の電子書籍版。

久しぶりに絲山さんの小説を読んだけど、やっぱり上手いな。
そしてやっぱり「全然違うんだなあ根本的な性格とか考え方や生き方が」としみじみと思った。だいたいが主人公の思考や言動に驚きながら「つぎはなにをするのだろう」と小さくおののきながら(?)読んでいる。でも面白い。

今回は群馬が舞台の話ばかりで、2006年から群馬県高崎市に住んでらっしゃるその経験が活きているんだろう、と思われる。
群馬についてなにひとつ知らないので想像だけど。
FMラジオのラジオパーソナリティが主人公なのだけれども、読了後ググったら絲山さんもラジオ高崎でパーソナリティをされているそうで、だからリアリティあったんだな。
これも自分がラジオパーソナリティについて知っているわけでもないので想像だけど。

リスナーのひとりのおじさんに電話をかけて、毎週あちこちに出掛けるようになって、なんでそんなことするのかなあ、このおじさんは家族いないのかなあと思っていたら妻帯者だったので「えー」と思ったけどおかしな関係になる前におじさんが転勤になってまあほっとした。

「うつくすま ふぐすま」の主人公の考えていることはそれこそ宇宙人並みに自分と違って、へええええ、そういう考え方のひともいるのか、と思った。っていうかそこまで相手の男性を馬鹿にしててなんで付き合えるのかなあ? 絲山さんが賢くて甲斐性があって男前(この表現もジェンダー的にどうかと思うがニュアンス的にこれがぴったりなのであえて使う)過ぎるんだろうなあ。

いまはラジオを聴く習慣が生活の環境的に無いんだけど、どっちかっていうとテレビよりラジオが好きな人間なので、ラジオの話は好きだ。でもラジオの話って云うとふつうは「ひととひととの厚いあったかい交流」がテーマになることが多いと思うしそういう濃厚さが深夜ラジオなんかにはあると思うんだけど、これはFMということもあるのか、いやいや絲山さんの性格が大きいと思うんだけど、まー見事にそこを否定してくるんだもんなあ。

でもなんだか一時の絲山さんの作品にあった不健康な感じが減って、健康的な(?)清々しさがあって、よかったと思う。

メグル

メグル
メグル
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東京創元社 (2013-08-29)
売り上げランキング: 1,511
kindle版
■乾ルカ
6/21の日替わりセールで購入してあった本、ようやく読む。
読みはじめたらあっというまだった。予想していたより内容が良くて、面白かった。

最初、登場人物の女性の容姿についての描写が不要と思われるほどあって、そういうのはライトノベルにはよくあることだから、これも想定どおりそっち系のジャンルなのかな、と思いながら読んでいたのだが、途中でその容姿描写にきちんと意味があったことに気付いた。
タイトルがカタカナだし、作者名もカタカナだから先入観があったともいえる。
検索してみたら、著者は1970年生まれだった。

この作品の舞台が北海道で、北海道大学の学生を中心にしていたからあるいは、と思っていたらやはり著者は札幌市出身だった。
連作短篇集。
怖くないタイプのホラー要素のある小説であり、ストーリー上に謎(殺人とかではない)があってそれが解けるタイプの小説だからミステリーとも読める。

北大の学生部でアルバイトの斡旋をする奨学係の女性は年齢25歳くらい、長い黒髪と地味な服装で、表情をほとんど変えない。
しかし彼女に指定されていくアルバイトをきちんと終えると学生の側にいろんな変化が――。

最初の話「ヒカレル」が一番絵的にホラーっぽかったかなあ。
主人公の幼さ、身勝手さに内心腹を立てながら読んだ「モドル」。
内容的にいろんな意味で怖くて気持ち悪くて後味が悪かったのは「アタエル」。
前半の3つがあまり好きな話ではなかったのでうーんと思っていたのだが4つめの「タベル」が良かった。
最終話「メグル」はまあ、わかっていることを最後だからまとめに書いたみたいな「置きに行った」話で、ハートウォーミングにしたかったということはわかる。

どうして悠木さんが「その人に最適なアルバイト」がわかるのか? が最後まで読んでもよくわからなかったんだけど、つまりネタバレにつき白文字彼女が昔したアルバイトで受けた傷やなんかの副産物――ってことなんだろうなあ。

どうでもいいけれどこのタイトルと著者名を一緒に見るとどうしても某ボーカロイドを連想してしまうのだった。

VOCALOID2 キャラクターボーカルシリーズ03 巡音ルカ MEGURINE LUKA
クリプトン・フューチャー・メディア (2009-01-30)
売り上げランキング: 4,018

2017/07/26

怪獣記

怪獣記 (講談社文庫)
怪獣記 (講談社文庫)
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講談社 (2016-05-13)
売り上げランキング: 3,361
kindle版
■高野秀行
本書は2007年7月講談社から書き下ろし単行本として刊行、2010年8月文庫化の電子書籍版。
電子書籍版では解説は割愛されている。見たら、宮田珠己だそうで、うーん、読みたかったなあ。

今回はトルコ「ジャナワール」探しの探検の旅。
「ジャナワール」は未知動物もしくはUMA(Unidentified Mysterious Animal:未確認不思議動物)といわれるもののひとつだそうである。
そういう方面に関心がないので初めて知ったが、UMAファンの間では有名で、「メジャー」だそうだ。

吉村昭や佐多稲子など比較的硬めの作風を続けて読んだ後に久しぶりに高野本を読んだらのっけから高野さんが同好の士とUMAの話題でアツく電話でしゃべっていたりして、なんだか暑いさなかに冷えた生ビールをぎゅぎゅっと呑んだような、脳内がぱっかーん♪ と音を立てて開くような、そんな感覚がした。
ちなみにわたしは後述の森清氏と同様、UMAを信じていないほうである。
UMAの本だから読んでいるわけではなくて、「高野秀行が書いた本」だから読んでいるのである。

最初は乗り気ではなかった高野さんだったが、なんだかんだで現地に飛び、調査・聞き込みをするのはいつものことだが、なんと今回は終盤になってちょっとびっくりするような事件(?)が待っていた。
特にそのときの著者の心の動き、旅の終わりにかけての周囲の反応・展開も興味深かった。
実際は、そんなふうなんだ、と非常にリアル。
それが何かは、読んでのお楽しみ。

旅のお供はお馴染み講談社のカメラマン、森清さん。
そして慶応大学文学部大学院生(当時)の末澤寧史さん。
現地ガイドはエンギンさんと、コンビで車の持ち主兼ドライバーのイヒサンさん。
この5人の珍道中(?)はなかなかウマが合っていて、気持ちの良いひとばかりで、面白かった。
高野作品の中でも現地ガイドでこれだけ良い感じなの、珍しいような?

目次
第1章:驚きのUMA先進国トルコ
第2章:ジャナ、未知の未知動物に昇格
第3章:天国の朝
第4章:謎の生物を追え!
エピローグ
あとがき/文庫のためのあとがき

2017/07/24

女の宿

女の宿 (講談社文芸文庫)
女の宿 (講談社文芸文庫)
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佐多 稲子
講談社
売り上げランキング: 568,340
kindle版
■佐多稲子
1963年1月講談社刊、女流文学賞受賞、1990年7月講談社文芸文庫刊の電子書籍版。

未知の著者だったが、以前の講談社セールのときに冒頭数行読んでみて面白そうだったので購入してあったもの。
先日読んだ吉村昭私の好きな悪い癖「心に残る人々」の「青山斎場」に佐多稲子の葬儀に夫婦でに参列したという話、生前の関わりの話が出てきて、はあ、ここで繋がっていたのかと思った。たまにこういうことある。
佐多稲子。
1904年(明治37年)6月1日―1998年(平成10年)10月12日。

女の宿』は短篇集で、たまに左翼関係で「未決に入っていた」とかいう登場人物が出てくるからさてはと思っていたらウィキペディアに【1932年には非合法であった日本共産党に入党している】とあった。

最初の話が関西弁だったので関西の方なのかと思っていたら他は関西弁では無く、長崎生まれで小学校に入ったくらいで一家で上京している。

人生の中の幸福面よりはどちらかというと苦労話、暗い面を書いた話が多く、しかし何かそれだけに終わらない「力強さ」みたいなものもあって、また現代の話ではなく少し昔の、1950~1960年代=昭和30年代の日本が舞台なので、その時代への興味もあわさって、面白くて続けて次、次と読むが質量もそれなりに伴っているのでいくつか読んだらあえて少し頁を伏せるなどして気持ちを調整した。

以下に目次と、発表年月(この本ではそれぞれの最後に掲載されていて良かった)、簡単な覚え的メモを記す。

目次】+(発表年月)+好きな話に印 +ざっくり内容メモ。

内容に触れています。未読の方で白紙で読まれたい方は以下スルー推奨。

一部[  ]内は重要ネタバレにつき、白文字にしました。未読の方が先に知ると台無しです。

女の宿(1962.10)
大阪に用事で来て知人の家に泊めてもらった、その隣家の女主人(元舞子)の話。自分がされていたことを自分の家の女中にもするその負の連鎖が悲しい。
かげ(1962.10)
小さな料亭で働いている良枝が縁談を断った理由は。[弟のこと]、それだけだと言い切ってしまうと何か違うような気もする。「女」が美しくなっていくところもはっとさせられた。最後のシーンは幸せになれる前兆かな。
(1962.5)
[母を亡くして]泣き続ける娘(幾代・まだ二十歳にもならない)の話。業突張りの旅館の主人夫婦に怒りがこみ上げる。若い世間知らずの娘はこんなもんだなあという気持ちと。ああ、もう、歯がゆい、可哀想!
秋のうた(1961.10)
二十五年ぶりに知人の妹がアメリカから帰ってきた、その夫婦の顛末。何故これで別れないんだろうな。これは現代のそのへんにも転がっていそうな話でもある。
海の旅情(1961.7)
長崎県五島列島に「私」が訪れる話。紀行エッセイ的な話。田舎の女性の身の振り方はこの時代だからさぞ窮屈であったろう。「美人」が4人出てくるけど最後のひとはどこか儚くて幻のようだ。
狭い庭(1956.6)
庭の苗木を売りに来るちょっと変わった植木屋との話。こういうさびしいような、悲しいような微妙な気持ち、わかる……。「誇り」と書いてあって、そういうことなんだろうか、とちょっと立ち止まるおもい。
壺坂(1960.1)
女4人連れで小旅行として壺坂寺に泊まり(奈良観光をするはじまりの)話。「伝手がないと泊めてくれない」とあるが、いつまであったのか、いまもあるのかなあ。紀行文ぽい。
泥人形(1960.11)
少し足りない娘・敏子が家族に都合の良いようにつかわれる一生。実母・実兄・姪それぞれが手前勝手で腹立たしくも悲しい話。
色のない画(1961.3)
知人の遺作の絵画を鴬谷の博物館(東京国立博物館か)に見に行く話。随筆っぽい。ひとの名前をYさん、Iさん、Kさんとローマ字表記にしてあるのがなんだか浮いて読みにくい。モデル実話なのかな。
人形と笛(1955.8)
人形や人面などが苦手な「私」がこけし人形を見に東北の温泉場としても名が通っているN(鳴子か?)に行って、実際に作っているさまを見て思いがけず惹かれる話。紀行文のように読める。
祝辞(1956.9)
友人の息子の結婚式である男がスピーチをして、それは予定外の話だったが、思いもよらず受けた、という話。共産党運動が非合法だった時代の話。奥さんが水着を買うお金が無いから小麦粉の袋を藍で染めて急ごしらえの水着とするエピソードがすごい。
ある夜の客(1958.10)
嫌な客が嫌な話をして最後に当てつけのようなセリフを云う嫌な話。植民地の日本人技師長のみっともなさは最低でやめてくれえという感じだが、最後の台詞、これどういうこと?本当に[一緒にいたの]?
幸福(1963.1)
38歳、既婚、三人の子持ちの男の来し方。今の感覚ではかなり異様な。とりあえずこの主人公、わたしは嫌いだ。これで「幸福」だと思っている主人公、母より祖母や伯母を信じている主人公がことさら「頼りなさ」を強調して描かれているのはつまり、著者の真意は那辺にあるか。
著者から読者へ 共有を求めて(1990.5)
講談社文芸文庫化に際しての一文

2017/07/22

こいしいたべもの

こいしいたべもの (文春文庫)
森下 典子
文藝春秋 (2017-07-06)
売り上げランキング: 6,161
■森下典子
いとしいたべもの』の続きにあたる。
初出は、(株)カジワラのHP「おいしさ さ・え・ら(株)EPARKのHP「tomoni、アサヒフードアンドヘルスケア(株)の「彩々生活」、一般財団法人 首都高速道路協会の「首都高」で、大幅加筆修正したもの。文庫オリジナル。

やっぱりこのひとの絵は良いなあ。
一瞬写真?と見紛うくらい上手で、じっと見つめるとやっぱり絵だとわかる、そのタッチに味わいがあって、あたたかくてやわらかくて、美味しそう。

前作で書かれていたかは覚えていないが、今回は中学受験したことなどが何度か出てきた。弟さんがおられる(著者が大学生の時に中学生とある)。
気楽な読み物、という意識で読んでいるとたまにひとのこころの深い所にグサッと入り込んでくる文章があったりするから油断ならない。カレールウを混ぜて食べる父親に対して反抗期のときに感じた思い、大人になってからの思いなど、かなり「わかる…」と思いつつ苦しいような悲しいような気持ちが込み上げた。うちの家族にカレーライスをこのように混ぜて食べる者はいないし、あんまり反抗期にすら父に対して反抗的な気持ちになったことはないんだけれど。

お茶の先生に、お茶のお菓子は季節感を感じるものを選ばなきゃというふうなことを諭される回、著者は和菓子の店を覗かずにはいられないとあり、わたしもこうありたいと前々から思っているが全然実行できていないので「あー」と首を垂れる。

毎日お弁当を作ってくれる母親はありがたいが、時にはジャンクなものを食べたい(「コロッケパンは自由の味」)、というのも「わかるわー」。

「シュウちゃんの芋きん」のシュウちゃん、いいなあ、何故著者の家にちょくちょく顔を出していたのか、気になる。こういうつきあいっていまはどんどん薄れて行っているような。ほんとに辞めちゃったのかなあ。

「ちびくろサンボのホットケーキ」もすごく共感。やっぱりホットケーキって特別なおやつだった。幼い頃、母がそれをフライパンで焼いているのに気付くとたちまちテンションが上がった。虎がぐるぐるまわってとけてバターになって、それでホットケーキを焼いたという、そのシーンは垂涎の思いで絵本を見つめていたし、もう一生忘れっこない。少し大きくなって自分で焼けるようになると、牛乳の量や混ぜ方で仕上がりが全然違ってくるので、毎回いろいろ工夫して、結局セオリー通りが一番美味しいのだ、ということで落ち着いている。

【目次】
はじめに
読書のおとも/ 「かっくまら」の鳩サブレー/ 一筋の梅の香り/ 桃饅頭と中国の恋の物語/ 日常の手触り/ 潮干狩りでアースする/ 四月、桜の木の下で/ 九歳の夏、岩手へ行く/ 小さなものにこそ、心を篭める/ 父と焼きビーフン/カレーライス、混ぜる派? 混ぜない派?/コロッケパンは自由の味/停電の夜の缶詰/身も心もほどけるクリーム白玉あんみつ/夜明けのペヤング/駅弁の沢村貞子/シュウちゃんの芋きん/前世と熟柿とブランデー/横川駅の峠の釜めし/ワッフルとスカーレット/中学受験、合格発表の日/ちびくろサンボのホットケーキ
おわりに

ちびくろ・さんぼ
ちびくろ・さんぼ
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ヘレン・バンナーマン
瑞雲舎
売り上げランキング: 4,148

2017/07/21

私の好きな悪い癖

私の好きな悪い癖
私の好きな悪い癖
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吉村 昭
講談社
売り上げランキング: 638,750
kindle版
■吉村昭
初出はいろいろだがだいたい平成10年前後に掲載されたもの。
著者が掲載誌を切り取って袋に溜めておいた中から選んで編集者が並べ替えたものだと「あとがき」にある。
単行本は2000年(平成12年)10月刊、2003年11月文庫化の電子書籍版。

本文には発表年などの記載はいっさいない。
これが曲者だった。
「食品売場」という一文を読んで「なんたる時代錯誤、こんなものをよく公に発表出来るな」と思っていたら最後の初出一覧を何気なく眺めていてびっくり、なんとこれだけ昭和55年の掲載なのだ。じゃあ、まあ、しょうがないかなあ。内容も、本人がそういう思考だったのはそこから更に15年ばかり前(つまり昭和39年頃)で、55年の時点で本人は既にそう思っていないとあるし、編集者の気持ちは「尊敬する作家が…」というふうに解釈できるし。どういう文章かは、下手に一部分だけ引用してそこだけ強調されるのも本意ではないので、引かない。
しかしこういう年代バラバラの随筆集は、一文ごとに掲載年月を記してあったほうが良いんじゃないかなあ。

氏の作品は10年前に1作読んだことがあるだけだが、硬派な、史実の資料をきっちり踏まえて書くタイプの作家さんだと認識している。
随筆は、予想よりもやわらかい文章で、柔和で生真面目なお人柄が想像される、予想以上に興味深く面白いものだった。
氏の幼いころのこと、家族のこと、少年~青年期に結核を患って九死に一生を得るような、十代は病がちの日々だったこと。
近所の自転車屋さんにペニシリンの注射を打ってもらってそれを医者に云わないとか、仰天するようなことがさらりと書いてあるがその医者が誤診しておりその注射が無ければおそらく駄目だったというようなことが書いてあってさらに驚かされる。

締切をきっちり守る、早めに渡すのは作家には珍しいようだ。
「卯年生まれ」の性質は、家族にいなかったこともあり、初めて聞いた。わたしは「寅」なので一学年下がそうなのだが……、そうかなあ? しかしこの本に書いてあることだけで判断するなら、吉村昭先生は女性を褒めるのがうまい。それも昭和2年生まれの男性が、奥さんや奥さんの妹さんにそれを頻繁にされるというのだから、かなり凄いことだと思う。

吉村昭の奥さんといえばこれも作家の津村節子だ。
津村節子の本は恥ずかしながら1冊も読んだことがないのだが、この随筆を読んで、妻側の視点も読んでみたいような気がした。

イメージどおりだったのは史料・資料を図書館などで文献をあたるというところだったが、それだけではなく、実際にその土地を何度か訪れ、そこに住む人や図書館の長に話を聞いたりする。その思考&行動過程を裏話のように書いてくれてあり、大変面白く読んだ。

最後の「尾崎放哉と小豆島」は講演を活字に起こしたもので、放哉の句は好きで句集もある時期愛読したことがあり本書で挙げられている句は覚えがあるものばかりだったが、人柄などは知らなかった。本書を読んで、氏が小豆島でいろいろ話を聞き、放哉の人物評結論として書いてあった部分を読んで思わず笑ってしまった。

目次
下町日暮里商家の生まれ
私の写真館/私の中学時代/師走の小旅行/二村定一と丸山定夫/楽屋と鶏卵/ぼんぼり/誤診と私/白い封筒
私の小説作法
早くてすみませんが……/短篇小説の筆をとるまで/戦戦兢兢/入学祝い/資料の整理と保管
にが笑いの記憶
卯年生まれ/結婚披露宴/初心/隠居というもの/食品売場/養豚業
史実を究める
『関東大震災』の証言者たち/歴史を見た男を訪ねて/対向車/トンネルの話/外洋に未知の世界が/一人の漂流民のこと/一三歳船乗りの数奇な運命/文化の城──図書館
旅と一献
百円硬貨の町/長崎と私/悪い癖/「銀座復興」の思い出/充実した旅/酒というもの/大阪は煙の都/大阪の夜
心に残る人々
青山斎場/大きな掌/凜とした世界/『日本医家伝』と岩本さん
講演:尾崎放哉と小豆島
あとがき/初出一覧

2017/07/19

祝! 佐藤正午直木賞受賞!

第157回芥川・直木賞

芥川賞に沼田真佑「影裏(えいり)」(文学界5月号)
直木賞に佐藤正午「月の満ち欠け」(岩波書店)

佐藤正午の小説は1998年の『Y』で知り、2000年の『ジャンプ』以来読んでいないがエッセイは近年も読んで、好きである。
まだ取ってなかったのか……もっと前に取れたのでは、というのが最初に浮かんだ感想。

ともかく、おめでとうございます。


月の満ち欠け
月の満ち欠け
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佐藤 正午
岩波書店
売り上げランキング: 504


アゴの竹輪とドイツビール ニッポンぶらり旅

アゴの竹輪とドイツビール ニッポンぶらり旅 (集英社文庫)
集英社 (2015-11-06)
売り上げランキング: 44,129
kindle版
■太田和彦
いい酒、いい人、いい肴を求めて、ぶらりひとり旅。
日本ぶらり旅シリーズ第2弾。

初出は「サンデー毎日」2011年5月8日‐15日合併号~2012年2月12日号。
2013年3月毎日新聞社より刊行された『太田和彦のニッポンぶらり旅2 故郷の川と城と入道雲』を改題した集英社文庫(2015年7月刊)の電子書籍版。解説は割愛されている。

冒頭「横浜」は2011年3月、とある。
東日本大震災が起こった年のその月だ。
桜木町に桜を植える、とても心に沁みるエピソードから本書ははじまる。

この章で書かれているだけではなく、本書はずっとそのことに太田さんが大きな衝撃を受け、落ち込み、少しずつ力を取り戻していくその過程になっている。
こういうときだからなのだろうと思うが、本書は古都を訪ねたり、太田さんの子ども時代を過ごした故郷を訪ねて旧交をあたためたり、「原点」「ルーツ」にせまる内容にもなっていて、非常に興味深かった。

わたしは日本酒は飲めないが、太田さんが訪れる居酒屋さんの料理はどれもすんごく美味しそうで、いいなあ、行ってみたいなあという気持ちになる。しかし太田さんのようには行くまい。なんせ居酒屋探訪の通、先生だもの。お店のひととも古い付き合いだということもしばしば(9年ぶりに訪れて覚えているお店のひとも凄いし覚えられている太田さんも凄い)。
居酒屋だけではなくて朝食・昼食に寄ったお店についても時々登場してこれもなんだか粋なカッコいい感じ。

このシリーズ第1弾『宇和島の鯛めしは生卵入りだった』を読んだときは観たことが無かったのだが、その後、うちの周辺では京都テレビで金曜日19時からテレビ版「ぶらり旅」が放送されているとわかったので、都合がつくとチャンネルを合わせて楽しんでいる。プロ野球で放送がないことも多いのだが。
テレビの方は、「食」「呑み」に重点を置いていて、観光案内的な部分がやや少ないが、本だとその部分も結構しっかり書かれている。
テレビはかなり面白いが、エッセイもまた独特の味があり(小説家はこういう構成の文章は書かないよな、というのが時々ある)、読みでがある。

目次
横浜 桜木町に桜を植える/外人墓地の連理の桜/朝のクラブハウスサンド/港に下ろした最後の錨/横浜(ハマ)の清貧の居酒屋
奈良 古都の晩春、温かな酒/大仏様と白寿の媼/阿修羅、憂鬱の眼差し/大和の空の弓張月
鳥取 因幡の白兎とトビウオ/鳥取で故郷をおもう/静かな町、静かな夜/アゴの竹輪とドイツビール
松本 故郷の川と城と入道雲/石畳を踏んで蔵造りのバーへ/朝の光を浴びて/ナワテ横丁の七夕人形/古い宣伝うちわの値段/体育館に新世界交響曲ひびき/校庭に上がった花火
函館 北海道の秋空たかく/市電に乗って古い町へ/市場からタラコを送る/食堂の朝ごはんがうまい/真昼のバロックコンサート
小田原 彼岸花と謡曲「北条」/文学者の小田原事件/二宮金次郎とかまぼこ
鎌倉 江ノ電で大仏様に会いに/酒泉童子のお賽銭/絹代、清方、アルレッティ
木曾 名物は、栗のこわめし/馬籠宿から恵那山を見る/山の宿の木曾踊り/父のつくった校歌/これわが国のワイマアル/村を二分した越県合併/恩讐をこえて
あとがき/本書に登場する店や場所

2017/07/18

本屋さんに憩う 第20回

某月某日
ショッピングモールの中の書店。

気になったけど買わなかったもの。

吾輩は猫である〈上〉 (集英社文庫)吾輩は猫である〈上〉
(集英社文庫)
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夏目 漱石
集英社
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吾輩は猫である〈下〉 (集英社文庫)吾輩は猫である〈下〉
(集英社文庫)
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夏目 漱石
集英社
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『猫』がこんなにポップに可愛くなっている!

干したから… (ふしぎびっくり写真えほん)
森枝 卓士
フレーベル館
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こちらは夏休みの課題図書の一冊。面白そう。でもこれで感想文書くの難しそう?

すばこ
すばこ
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キム・ファン
ほるぷ出版
売り上げランキング: 601
これも課題図書。いいなあこの感じ。


購入は地元の小さな書店で先日。

森下典子『こいしいたべもの』文春文庫/2017.7.6

こいしいたべもの (文春文庫)
森下 典子
文藝春秋 (2017-07-06)
売り上げランキング: 5,636
いとしいたべもの』の続篇。カラーイラストがすごくきれい。

2017/07/16

もう生まれたくない

もう生まれたくない
もう生まれたくない
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長嶋 有
講談社
売り上げランキング: 13,355
■長嶋有
休日の朝から読みはじめて家事・食事・午睡をしつつ夜のはじめ頃読了。

読みはじめから複数の登場人物・場面・それぞれのモノローグが交錯し、いずれも「ややこしさへの前兆」「いま現在ややこしい」を含んでいて、なんだか気分が重たくなる雰囲気、いつまで経っても物語に「すーっと溶け込む」感が湧かない、読みにくい話だなあ、なんだろうこの感じは……と思いつつも読み続けさせるナニカがあってそれが「長嶋有」の力なんだろうとか考えつつ。

彼ら彼女らは平凡な日々を送っているのだけれど、どこか屈折していたり小さな問題を抱えていたり。
有名人の「死」、それをネットやテレビで知って、情報が拡散していく、それぞれの受け止め方、思考の広がり方の差異。
「死」は現実世界でかつて本当に起こった有名人の死、だから読みながらその記憶を頭のなかから引っ張り出してくる、その頃のマスコミの報道なども引き連れて。
「いま」を書く長嶋有だけれども、これらの「死」は「少し前」のことで、「あれ? なんかちょっと古い所から出して来たな」何故だろう、とも考えつつ読んでいく。

現実に起こったノンフィクションの「死」と、小説世界のフィクションの「死」が全部同じラインで書かれている。「生きて」いる人々も離婚したり、別れたりくっついたり、自分でも説明のつかない盗癖があったり、教え子に次々に手を出す教師がいたり、ややこしい。読んでいる間、眉間に皺が寄りっぱなしだ。正直読んでいて幸福感は生まれない。
身も蓋も無いが「面倒くさい」というのがしっくりくる。面倒な状況、が多い。生きていくのは得てしてそんなもんだということか。

しかし終盤である人物が事故って危うく死にかける。
ものすごく、怖い。
他人事の「死」がたくさん積み重なっていったところで起こる「死ぬかもしれない恐怖」、それを越えて登場人物の「幼い我が子を死なせてしまうかもしれない恐怖」がなだれ込んできて、本当に怖い。
その後の、この人物の生き方に与える影響は、ものすごく説得力があった。
「生きている」ややこしさもあるけれど、「死」で喪うものへの恐怖はやっぱり、どうしたって「取り返しがつかない」怖さ。

この話には「フキンシンちゃん」こと蕗山フキ子嬢が女子大生で登場するが、彼女がごく普通に平凡な日常生活のバイト学生として描かれていてふーんと思って読んでいたら最後のほうでいきなりそこだけ別世界のエンタメ小説みたいな説明文が出てきて、つまりこれは、なんでしょう。「ノンフィクションの中にフキ子ちゃん」のような気持ちで読んでしまう、でもこの小説全体はいうまでもなく「フィクション」で、だけどあちこちに挿入される「有名人の死」は「ノンフィクション」なのである。
フィクションとノンフィクションの境目が揺らぐ、「死」はそう誰にでも起こるとみんな知っているけれどいつ起こるかはわからない、というようなことが本文のどこだかに書いてあったけれども、「死」と「生」の境目がどこにあるかはわからない。
その死が「予期できない」ものであればあるほど、周囲に与える衝撃・影響は大きくなる。

登場人物のそれぞれ結構変な癖みたいな個性があって、群像劇みたいな書かれ方で、特に誰にも同化・深く共感することは無くて、どちらかというと逆の感じで、だからこそ話の展開をわりと冷静に追えたように思う。「全体まとめて、何が描かれるのか」思えば『三の隣は五号室』もそういうタイプの小説だった。そういう方向でいくのかなあ。

読みはじめる前、「なんだか暗そうなタイトルだな」と思ったけれど、内容を読み終わって本を閉じて、あらためてそのタイトルを見るとなんだかもう本当に震撼としたというか、「おおう、……そう来る?」と思ってしまった。

こういうテーマの小説は、やっぱり重たい。

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫)
高野 秀行
講談社 (2015-09-15)
売り上げランキング: 106,641
kindle版
■高野秀行
本作は2012年11月講談社単行本刊、2015年9月講談社文庫刊の電子書籍版である。

2011年6月時点で、日本には外国人が207万人もいる。彼らの多くは一時的な滞在者ではなく、10年20年という単位で住んでいるという。
本書は、そんなふうに日本に定住している外国人が、どんな食事を摂っているのか、その食材はどこで買うのか、「ふつうの外国人」の「ふだん食べているもの」を知りたいという目的で1年間取材して書かれた。相棒は講談社カメラマンの森清さん、講談社編集者の溝口真帆さん、フリー編集者の河合好見さん。
「あとがき」に【私にとって本書は初めての「本格ルポ」であり】とあり、えっ、そうか、いままでの高野本は「本格ルポ」じゃなかったか、と驚いたりした。ルポタージュの定義ってなんでしたっけね。

連載第3回の頃に東日本大震災が起こり、第3回、第4回はその影響が濃く出ている。多和田葉子の本にも出てきたけどやっぱり外国からは「日本はもう終わりだ。日本から逃げなきゃ」というふうに見られていたんだね、ということがよくわかる。

外国によく取材に行き、外国語に堪能な高野さんならではのするっと入り込んでいく感じがすごい。また、迎えてくれる外国人の皆さんも非常に親切でフレンドリーだ。同じ文化の外国人同士が日本でお寺やモスクに集まり、故郷の食べ物を作ったり持ち寄ったりして楽しく飲み食いしている様は読んでいるだけで顔がほころぶ、良い空気だなあ、とほっこりした。しかもいつもどれも美味しそうだ。日本の食材や調味料では本場の味にはならないのでわざわざ個人的に仕入れたり、本場のものを扱っている店に買いに行ったりしているのがほとんど。日本人が海外で日本食を作りたくなった時も同じようなことになるんでしょうね。

本書では「あとがき」と「文庫版へのあとがき」があるが、後者のほうで最近の日本の風潮を批判していて、ちょっと珍しく感じた。興味深く読んだ。まあたしかに政府のキャンペーンとかで「クールジャパン」とか言い始めた頃からそういうふうにマスコミとかもなってきた面があるかな。でも自虐ばっかりしているのもどうかなと思わないでもないし。うーん。どっちかに偏向しないように、バランスが上手に取れていたら良いんだろうな。

目次
はじめに
第1章 成田のタイ寺院
第2章 イラン人のベリーダンサー
第3章 震災下の在日外国人
第4章 南三陸町のフィリピン女性
第5章 神楽坂のフランス人
第6章 中華学校のお弁当
第7章 群馬県館林市のモスク
第8章 鶴見の沖縄系ブラジル人
第9章 西葛西のインド人
第10章 ロシアン・クリスマスの誘惑
第11章 朝鮮族中国人の手作りキムチ
第12章 震災直後に生まれたスーダン人の女の子、満一歳のお誕生日会
おわりに
文庫版へのあとがき
漫画解説 グレゴリ青山

2017/07/12

流

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東山 彰良
講談社
売り上げランキング: 9,864
kindle版
■東山彰良
2015年5月単行本刊の電子書籍版(2017年7月14日文庫版刊行予定)。
6月25日の日替わりセールで買ってあったもの、今週月曜から読みはじめて水曜夜読了。kindle版で5551P。

第153回直木賞受賞作。あの、又吉直樹&羽田圭介芥川賞受賞のときに直木賞を獲った作品である。
選考委員の北方謙三が「二十年に一回という素晴らしい作品」と大絶賛していたからずーっと気にはなっていて、kindleで冒頭のプロローグまで試読みとかはしていたのだけど歴史が絡むとなると難しいかもだし、文庫になるまで待つかあ…と思っていた(そしたら日替わりセールで上がってきて文庫化にはまだ1年はかかるだろうから、と購入、したのに2015年の単行本なのに2017年でもう文庫化するのだね)。

プロローグだけ読んで中身の雰囲気をなんとなく想像していたのだが、実際に本編を読んでみたらかなりイメージと印象が違うノリ・展開が待っていた!

直木賞受賞発表の時に、著者が台湾国籍の方で、この小説も台湾を舞台にしていて、著者の父親がモデル、みたいなことは云われていた。
本作を読む前にweb本の雑誌作家の読書道」でこの方の回を読んだりもしていた。

いやあ、面白かったなあ!
二十年に一回かどうかは、まあ好みもあるからよくわからないけれども、歴史が絡んでいるとか、身内がモデルとか、そういうのブッ飛ばす容赦なさというか、立派なエンタメで、全然小難しくない。歴史のややこしいこと抜きにして、個人の立場で書かれているので、主人公に同化・共感しつつその心情に沿っていくのになんのつまづきもない。

以下、内容に触れつつ感想を書くので、未読の方で白紙で読まれたい方はスルー推奨です。


主人公は 葉秋生(イエ チョウ シェン)。最初にプロローグがあり、そこから遡って、物語本編は1975年の、秋生が台北の高等中学に通う17歳だった時点からはじまる。
第一章のタイトルで明らかなように、1975年4月5日蒋介石が亡くなった年の5月20日の晩から夜中の間に、秋生の祖父、葉尊麟が亡くなった。それも、殺害されて、浴槽に沈められている、という形で。死因は溺死。
第一発見者は、秋生だった。
死者を見たのは、初めてだった。
そんなこともあってか、祖父の突然の暴力的な死は、その後の秋生の人生に大きな大きな波紋を生む――。

* * * * *

はっきり言って、この主人公はちょっとヤンチャが過ぎる。
最初は優等生だったようだが、ヤクザに片足をつっこみかけたような悪友の親友がいて、彼との仁義もあって、一昔前の不良みたいな言動が目につく。
でも間違いなくある種の魅力・カリスマ性、ヒーロー性も持ち合わせていて、少年漫画の主人公にもなれそうな、カッコよさ(?)みたいなのも持ち合わせていて。
一対一の命懸けの闘いになったときに、定規の刀をああいうふうにしたシーンとか、その状態を具体的に想像してギャーと内心叫びつつも「いやでも格好良い……んだろうな、男の人とかこういうのすっごい好きそう」とか。
その後もいろんな場面で「ちょい待ち、何故そこで事態をさらに大きく広く悪くする!?」と呆れつつも「そういう性格なんだろうな…」と飲み込んでいたので、終盤の方で自分で
どうしてそうなのか、自分でもわからない。(中略)物事が壊れかけたとき、わたしの心は修復よりもさらなる破壊に傾いてしまう。
と書いてあって、なんだかもう、大きく脱力、仕方ないなあ――、という感じ。

17歳から19歳くらいまでの期間がメインに書かれているから、青春小説の趣きも強く、純情な主人公と2歳年上の幼馴染みの少女との初恋物語なんかもうすっごく甘酸っぱくて、微笑ましくて、そわそわしてしまった。そして、切なくて、その真相を読んだときは「こっ…この設定がここで投入されるか」と。
大人になってからの恋は、苦くて、でもそれはそれでリアルで、切ない。「現在」二人がどうなっているかも時系列をバラバラにして書かれている都合で先にさらりと書いてあったりするので、複雑な思いで読んだ。

秋生はおじいちゃんを殺した犯人を見つけたいとずっと思って、自分なりに探ったり話を聞きに行ったりもしていたので(大人になって一時は日々の生活に追われて抑えられていたが)、その犯人に終盤で思い至り、追い詰める、という面は推理小説のような愉しみ方も出来る。というか、わたし個人はこれをメインに読んでいた。ミステリーとして、なかなかに面白い、単純だが、周辺書き込みがしっかりしているから、奥行きがあって、複雑な人間心理、ドラマが忖度されて、面白かった!

この小説は最初に登場人物一覧が載っているが、各人の個性が書き込まれていることや、台湾の名前なので漢字であることなどから、読書中この一覧に頼らずとも誰が誰でどういう関係、というのはほぼ把握できていて、見返す必要はなかった。兵役時代の同期はちょっと忘れていたけど(そのひとは最初出てきたときほとんど綽名で呼ばれていたからというのもある)。

先に触れた「作家の読書道」でマジック・リアリズム作品のこととか南米文学が好きだとかいうのを読んであったので、この小説に時々登場する「とんでも系描写」(ゴキブリの大量発生とか、糞系)や、幽霊や狐火が出てくることなど「ははあ……ニヤリ」と頷きながら読むことが出来た。真面目な展開の中にいきなり変な展開が混ざっていて、それがまた絶妙のユーモアを生んでいるのだ(単なる小学生的下ネタに陥っていないところが、ギャーゴキブリ!やめてぇぇ とか思いつつも「これは要るよな」と頷けるさじ加減・バランスになっているというか…)。
百年の孤独』(たしかに英米文学とは全然根本から違うのだ)しか読んでいないんだけど、南米文学見逃し過ぎてたかも、面白そうかも!と先のインタビューを読んで思ったり。

目次】を以下に書き写したが、未読の方に展開が読めちゃいそうなのは白文字にしておきます。
プロローグ
第一章 偉大なる総統と祖父の死
第二章 高校を退学になる
第三章 お狐様のこと
第四章 火の鳥に乗って幽霊と遭遇する
第五章 彼女なりのメッセージ
第六章 美しい歌
第七章 受験の失敗と初恋について
第八章 十九歳的厄災
第九章 ダンスはうまく踊れない
第十章 軍魂部隊での二年間
第十一章 激しい失意
第十二章 恋も二度目なら
第十三章 風にのっても入れるけれど、牛が引っぱっても出られない場所
第十四章 大陸の土の下から
エピローグ

2017/07/09

フロスト始末

フロスト始末〈上〉 (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 372
■R・D・ウィングフィールド 翻訳:芹澤恵
土曜日の夜読みはじめ、翌日曜日の朝から晩までかかって家事の合間に頑張って読み切ってしまったのは通勤に持って行く気力がないのとこういう神経が滅入る犯罪が押し寄せるミステリーは最後まで読んでしまわないと気になって仕方ないから。

面白かった。
けど相変わらず胸糞悪い犯罪がこれでもかと……あと身内も性格悪いのがまたも追加投入されるし、ボンクラはほんっとーにいつまで経ってもボンクラのままでちっとも成長しないし(悪い奴じゃないんだけど警察だから結果重大だったりするのがなあ)、これでフロスト警部の魅力と、あと署内の気の置けないジョークでニヤリ、みたいな展開がなければ救いがないところ。

でもまあ、やっぱりエンタメ小説としてよく出来てる。面白かった!
何がすごいってお馴染みのメンバー、今回限りのメンバーと合わせてこれだけたくさんの登場人物が出てきてもきっちり書き込まれているから一度も冒頭の「登場人物リスト」に頼らなくて大丈夫だったこと。「これ誰だっけ?」が無かったということだ。これはカタカナ名前が苦手なわたしには驚異としか言いようがない。まあ、ほぼ一日で読んだからというのも大きいとは思うが…。

あと前から言ってたけど今回もしみじみと、ところどころじんわりと、翻訳が良い! 使われている日本語チョイスがセンスが良いのだ。

R・D・ウィングフィールドが亡くなってしまってフロスト警部シリーズ未翻訳はあと2作、というのは2008年に翻訳された『フロスト気質』で明らかになっていたが、ついにその最後の翻訳作品を読み終わってしまったわけである。最後である。第1作『クリスマスのフロスト』が翻訳されたのが1994年だもんなあ。

フロスト始末〈下〉 (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 360


注意☆ここから下は内容に触れた感想です。

このシリーズのデントン署は常に人手不足の状況に陥っているというのがまず下地。そこへ事件が次から次へ降って湧いて、フロスト警部はあっちこっち駆けずり回る羽目になる……というのがテンプレである。
今回の下地は署長のマレットが警察長にゴマ擦りのために人員の半分をよその事件に投入させてしまったから。事件は冒頭の人間の脚遺棄事件からはじまり、連続少女強姦事件が複数発生しているところへ複数の行方不明が追加され、スーパーマーケット異物混入脅迫事件も同時に起こり、さらに腐乱死体が発見され……。
原題は"A Killing Frost"

さらにこのシリーズを通しての「敵1(?)」マレット署長と、話ごとに毎回新たな「敵2」が投入される、というのもパターンなのだが、今回の「敵2」は新たに赴任してきたスキナー主任警部。面倒はすべてフロスト警部にやらせ、解決の目星がついたら担当を自分にするように、と堂々と言ってのける厚顔無恥の偉そうなヤツだ。
マレットと組んでフロスト警部をもっと劣悪な地に異動させ、デントン署から追い出そうとする。マレットはあれで結構可愛げ(?)があってフロスト警部の舌先三寸にコロッと騙されて曖昧にされてしまうというところもあるのだが、このスキナーに関しては妙なところできっちり要点を押さえてくるので隙が無い。フロスト警部はデントンから追いやられてしまうのだろうか!?(まあフロスト警部のことだからどうにかするんだろうと思ってあんまり心配してなかったけど)。

署内でフロスト警部の人気が高く信頼も厚い、というのが救いだ。彼らとの和気藹々ぶりに心が和む。
でもフロスト警部よりも仕事が出来て、人望もふつうにあって、書類仕事もきっちりするひとがやってきて、今回スキナーが指摘したフロスト警部の領収証の偽造問題を取り上げたらどうするんだろうねえ……とか思うけどもうフロスト警部のオリジナル新作は望めないのだった! 嗚呼!

以下は内容に踏み込んだ感想・ネタバレなので未読の方は読まないでください
(白文字)。

正直な感想だが、全体をぐいぐい引っ張っていくエンタメ性はさすがだが、ミステリーとしてどうだったか、だけに焦点を絞るといささか説明不足で欲求不満が残るという気がしないでもない。このシリーズが好きだという大前提で、あえて、云うならば。
①何故犯人があそこまで残忍なことをしたのか、それは単なる嗜虐性・変態的性欲というだけの問題なのか。終盤に出てくる残酷極まりないビデオの件はそこに金儲けが絡んでいることはわかったけれどもやはりそこに至る掘り下げが足りない、と思ってしまう。「そういう人間がいるのだ」ということなんだろうけど小説なんだから描くからには裏も背中も書いて欲しい、と思ってしまう。理解不可能、説明不能、それが現実なんだろうけれども(つまり知りたいのは続きが書かれるなら裁判で明らかにされるのだろう部分だ)。
②スキナーの終盤での展開、この扱いはどうなんだ。雑すぎないか。どうやって「敵2」と折り合いをつけるのかと楽しみにしていたのにあっけなさすぎる。異動問題の解決も同様。まあそりゃ書類が無けりゃどうとでもなるんだろうけどさ、でもさあ……。

解説は小山正氏で、それによると著者逝去の為オリジナルのフロスト警部シリーズはこれでおしまいだが、別の著者による新作(?)が既に2作ほど原著で刊行済みらしい。まあこれだけ売れている人気シリーズだからなあ。

◇フロスト警部シリーズ
クリスマスのフロスト
フロスト日和
夜のフロスト
フロスト気質(上・下)』
冬のフロスト(上・下)』
『フロスト始末(上・下)』

2017/07/08

フィンランド語は猫の言葉

フィンランド語は猫の言葉 (講談社文庫)
講談社 (2015-01-09)
売り上げランキング: 40,788
kindle版
■稲垣美晴
フィンランド語についてはなーんにも知らないしフィンランドについても同様だ。でもなんとなく良いイメージを持っている。
ムーミン(トーベ・ヤンソン)アニメを子どもの頃観て、いい年になってからも講談社文庫で読んだりして、スナフキンやちびのミイを可愛いと思う。映画『かもめ食堂』は素晴らしかった。この本のタイトルはあの映画に出て来たっけ? どこで聞いたんだろう?

本書は、1981年11月に文化出版局から単行本として刊行され、1995年2月に講談社文庫に収録された、その電子書籍版である。

稲垣晴美さんはウィキペディアによれば1952年生まれ。
初めて渡忿(フィンランド)したのは「1976年の夏」とあるから単純に引き算すると24歳くらいのとき。大学夏休みに2ヶ月ヘルシンキに滞在して【夏期大学でフィンランド語の手ほどきを受けた後、フィンランド中をまわった】。言葉に関する本を書かれるくらいだから外国語大学だろうかと思ったら東京芸大なのだった。その後4年生になるとすぐ【私は卒論を書くためまたもや渡忿。】【アクセリ・ガッレンカッレラについて書くことにした。】フィンランド政府から論文に対し奨学金をもらったとのこと。このときは8か月くらい滞在したようだ。(ウィキペディアではアクセリ・ガッレン=カッレラという表記)
そしてその後ヘルシンキ大学のフィンランド語と文化という科に入学。最初は1年予定だったが、もっと勉強したいともう1年延長。
渡忿歴4回。全部合わせるとフィンランドに住んでいたのは三年弱。】ということになるらしい。

つまりこの本に書いてあるのは1970年代後半のフィンランドということで、携帯も、パソコンもメールもまだない時代だ。それどころか終盤に日本に帰国後の文章の中に【着物を着て学校へ通う時代は終わり、今やファッションの時代。この頃では、着つけ学校に行かなくては着物を着られないほど、洋服全盛だ。】と書いてあったので思わずのけぞった。えー? いやいや、1952年(昭和27年)生まれって丁度わたしの母親の世代なんだけど、その著者が書くにしては、もう一世代前の話のように思うんだけど……。

途中まで読んでだいたいわかったのだけれども、この著者も昔の日本人あるあるで、不出来を主張してしきりと謙遜されているが、実際にテストなどを受けた結果はかなり優秀だったみたいだ。真面目なんである。そもそも、語学に興味があって、英語、フランス語、いろいろ勉強されてそれでもまだ勉強意欲が飽きたらず、フィンランド語を学ぶために遠い北の国の大学に入られたくらいなのだから当然なのかもしれないが。
だいたいは彼の国での日常面白エピソードがユーモラスに綴られているのだが、たまに語学の説明が始まるときがあり、それを読んでいるだけで「難しそーっ」「ややこしーいっ」と思った。フィンランド語を用いて現地の大学の先生に楽しみにされるほど愉快な作文をものする著者は文章の才能がおありのうえに努力家で優秀な学生さんだったに違いない。

フィンランドの大学はみんな国立で、学費はほとんどかからなかったという。また、月に一度試験があり、自分が納得できる成績が取れるまで何回でも受けることが出来るのだという。答案については先生の部屋で一対一で説明を聞くことが出来る。良いシステムだなあ、勉強熱心な学生には素晴らしい環境だなあと感心することしばしば。
先生と生徒が非常に親しい感じで距離感が近い。まあこれは著者が優等生ならではの面もあるかもしれないが。でも「近い」というのは決して「友達感覚」とか「馴れ馴れしい」とかいうのではなくて、例えば晴美さんが先生のされたことや言われたことをきっちり敬語を使って書かれているのを読むにつけ、「美しい日本語だなあ」「親しくしていただいても、勘違いせずに、きっちり師を敬う姿勢を崩さない」というのが素晴らしいなあ、と清々しく感じた。

内容を読んでいくと、語学系の学科だから、丸暗記しなければどうにもならない科目が多そうで、丸暗記が苦手なわたしは「うへぇ」と思った。ハルミさんは凄いなあ。おまけに2年目はフィンランド語の古典や方言まで学んでいる。よくやるなあ。

日々の生活では、やはりフィンランドと云えばサウナで、サウナについての話。それと、食べ物は「じゃがいも」が一番愛されているらしい。日本人の晴美さんは「インスタント豆腐の素」なるものを日本から送ってもらって作って食べていたらしい。【お豆腐の素を水で溶いて、煮て、冷やして、固める】んだそうだ。へえー、そんなの今もあるのかな!? と調べたらハウス食品通販で「ほんとうふ」というのが売っていた…これは皆さんよく御存じのことなのかも知れなくて、いったいこのひとは何を驚いているのか、何も知らないんだなと呆れられているかも知れないが…。

そういえばあんまり観光のことは書いていなかったな。ムーミンのムの字も出てこない。言葉についてと、家や大学周辺のエピソードに絞って書かれたようだ。
フィンランドのことを書いたエッセイは、同時に当時の日本の若い、勉強熱心で明るくて朗らかな学生さんのきらきらした真面目な青春を見せてくれる本でもあった。

目次
忿学事始/ヘルシンキおばけ?/初めての試験/外国で脳腫瘍/音声学/北おーってどーお?/英語からフィンランド語への翻訳/作家としての日々/夏休み/フィンランド語の文法/サウナでの赤裸々な話/森の小人たちと文学/東大さん讃歌/マイナスごっこ/フィンランド語の方言/お城で誕生パーティ/作文とかけっこ/フィンランド語の古文/言葉の使い方/通訳稼業あれこれ/海外適応の時間的経過―たとえば、じゃがいもとのおつきあい―/女と言葉/大相撲愛好家と世界の言語/フィンランド語は猫の言葉/日本一・フィンランド一/コーヒーカップの受け皿
あとがき/文庫版のためのあとがき

Akseli Gallen-Kallela: Collector’s Edition Art Gallery (English Edition)
Davis Art Center (2014-10-23)
売り上げランキング: 231,381

本屋さんに憩う 第19回

某月某日
地元中型書店。

気になったけど買わなかったもの。

HERE ヒア
HERE ヒア
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リチャード・マグワイア
国書刊行会
売り上げランキング: 104,033
以前からAmazonで気になっていた本の実物があったので手に取ってみたが。

もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら
神田 桂一 菊池 良
宝島社
売り上げランキング: 150
話題書。ぱらっと見たけど特徴とらえてるなあ~。

あのころ、早稲田で
あのころ、早稲田で
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中野 翠
文藝春秋
売り上げランキング: 10,455
装画が佐々木マキだ。団塊の世代あたりには懐かしいのかも。

パン屋再襲撃 (HARUKI MURAKAMI 9 STORIES)

スイッチパブリッシング (2017-06-20)
売り上げランキング: 15,704
「漫画で読む村上春樹」だそうです。薄くて高い。


購入したのは以下。

長嶋有『もう生まれたくない』講談社/2017年6月28日第一刷発行

もう生まれたくない
もう生まれたくない
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長嶋 有
講談社
売り上げランキング: 16,187

R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』(上下)創元推理文庫/2017年6月30日初版

フロスト始末〈上〉 (創元推理文庫)フロスト始末〈上〉
(創元推理文庫)
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東京創元社
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Amazon.co.jpで詳細を見る
フロスト始末〈下〉 (創元推理文庫)フロスト始末〈下〉
(創元推理文庫)
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東京創元社
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ヨシタケシンスケ『あるかしら書店』ポプラ社/2017年6月20日第一刷発行・6月30日第三刷
あるかしら書店
あるかしら書店
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ヨシタケ シンスケ
ポプラ社
売り上げランキング: 125

2017/07/04

ボルドーの義兄

ボルドーの義兄
ボルドーの義兄
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講談社 (2014-01-17)
売り上げランキング: 161,124
kindle版
■多和田葉子
初出は「群像」2009年1月号、2009年3月講談社刊単行本の電子書籍版。

主人公・優奈は、ドイツのハンブルグに住んでいる学生(「今でもハンザ都市と呼ばれるこの町で大学に通う優奈」「やっと二十歳代半ばに達したところで」とあるから25歳か。)
ふと目にした講演をする年上の女性レネ(「銀色の髪」「何十年も前からハンブルグでフランス文学を教えて」「町の文化白書で偶然レネがハンブルグに昔あったフランス語文化研究所の館長だった」などとあるから60~70そこそこくらいだろうか)と親しくなる。

フランス語の勉強をしたいとレネに相談し、彼女に勧められ、レネの義兄(レネの姉より20歳以上若い夫。モーリス。作家。)が夏の休暇の間2カ月余りベトナムに滞在する間家が空くので、そこに滞在するためにフランスのボルドーに赴く。

最初、そのボルドーの駅で待ち合わせするシーンから始まり、レネと知り合った頃に遡り、会話の中で思い出されたことにどんどん話が飛び、飼っていた猫(タマオ)が生きていた時分、亡くなって以降、過去と現在が入り混じって物語が構成されていく。筋らしい筋は無く、身辺雑記・日常活写的な内容。
数日かけてプツプツ途切れながら読んでいくと頭の中がこんがらがり、毎回数ページ戻って読み直す感じ(この前読んだのもそうだったな)。
最後まで読んで「え・これで終わり」とまたもや思わされる。
物語をたどり直すようにもう一回頭から読んでいくとすんごいよくわかる。一読目はひたすら手探りで、最初に待ち合わせてる相手がまずわからなくて「モーリスって誰?」「優奈って若そうな名前だけどいくつなんだろう?」って感じで後で説明がどんどん積まれていく感じの構成なので。

優奈は毎日の出来事の芯みたいなものを漢字一文字で記録している。一日一個というわけではない。その一文字がごく短い各章(長さはバラバラ。出来事ではなく、考えたことで成立している章もある)のタイトルになっているのだけれど、漢字そのまんまではなくて、何故か鏡文字になっている。逆さまではなくて左右反転。内容的に漢字の意味の逆のことが、とかいうわけではないが、そのまんまにしていないということには何らかの意図があるんだろうなあ。
あたしの身に起こったことをすべて記録したいの。でもたくさんのことが同時に起こりすぎる。だから文章ではなくて、出来事一つについて漢字を一つ書くことにしたの。一つの漢字をトキホグスと、一つの長いストーリーになるわけ。

レネと優奈の関係がよくわからなくて、まあ一種の友情だと思うのだけれども、どこか恋愛関係めいている。「ソファの隣に座ったらケンカは終了の合図」とか、恋人同士みたいなんだもの。別に一緒に住んでいるわけではなくて、でも知り合ってからはかなり頻繁にレネの家に行っている。レネは昔は結婚していたが夫と死別し、いまは寡婦。
「尼さん」についての言及があり、本作(2009)次に発表されたのが『尼僧とキューピッドの弓』(2010)なのでニヤリとする。
レネは姉の話はしないし、けっこう地雷っぽい。刑務所に入っていた、と書いてある。

そのわりに、本作を読んでも、タイトルになっているくらいなのに、ボルドーに住むこの義兄がよくわからんのだよね。レネを通して見た義兄(モーリス)。
モーリスは濡れ衣をきせられて反論するかわりに、一人、ノルマンディーの小さな宿にこもり、怒り狂った人間にしか真似のできない猛烈な速度で自伝を書き上げた。その本は数週間たつと、今週一番売れた十冊の本のリストに載った。
モーリスは怒り狂って、失うものはもうないっていう状態に陥って、キリスト肌を脱皮して、プライベート哲学をゴミ箱に捨てて、民衆の感情の河に身を投じて、大衆の神経系に触れることができた。
当時わたしはモーリスが自分自身のためにものを書くことを認めなかった。

優奈とモーリス。
モーリスと優奈は不器用にしかし丁寧に英単語を交換しあった。サイゴン、祖父、数年間、大切な数年間、僕の初めてのアジアへの旅、僕の次の本、祖父についての本。
「ボルドーには、大切な場所が全部で四つある。庭園、市場、ユートピア、水」と英語で言った。

終盤、優奈はプールに行くのだけれど、そのときに辞書を持って行く。それをプールサイドに置いて水に入っていると栗色の長い髪の女が辞書を盗んでしまう(【辞書泥棒】は出てきたときからそう書いてある)。その盗まれ方が盗んでいるところをずっと目にしていて、相手も気付いているのに、止められないというまるで悪夢のような不条理な感じで。
そしてタマオの死についての回想。
プールのロッカーの暗証番号を忘れてしまい、泣いているといつのまにか辞書泥棒が後ろに立っていて……。

優奈は人生で3回、フランス語を習おうとして挫折している、と書いてある。辞書を盗まれた一連の出来事が3回目。優奈にとって「言葉」「言葉を学ぶこと」「辞書」はそれだけのことではなく、いろんなものを含んだ意味のある事象であるのだろう。
ドイツ語で話をし、フランス文学を教えるひとに惹かれ、フランス語を学ぶためにやってきた場所で知人であるモーリスとは英語で話している。
優奈にとって「フランス語」とはなんなのか。
2回目の挫折
フランス人の書いた本を持たずには電車にさえ乗りたくないというほどなのに、フランス語を習いたくないのはなぜなのかについて、優奈はハンブルグでは考えたことがなかった。】№567
そして優奈はずっと忘れていたヴィヴィアンヌについて思い出す。彼女はアントウェルペンの出身で、大阪の語学学校でフランス語を教えていた。その入門コースに申し込んだ優奈は、そこで文法的に間違った作文を得意になって読み上げ、ヴィヴィアンヌに叱責され、【屈辱感に耐えられず教室を飛び出した。フランス語を勉強しようという試みがくじかれたのは二度目だった。
1回目の挫折。
大阪での高校時代、友達が地方紙で「フランス語教えます」という広告を見つけ、その家に行ったら出てきて挨拶した男イヴェス・Sはアフリカ大陸出身(おそらく黒人だったのだろう)で、アラン・ドロンを想像していた友達はそのまま帰って来てしまった。
優奈もその頃は、その友達と同じくらい無知だった。フランス語という言語が、アフリカ大陸に移民として出かけて行って、そこでどういうことをしたのかについてはまったく知識がなかった。優奈は図書館へ行って、歴史の本を何冊か読んだ。】№1039
優奈は彼のところでフランス語を習う決心をしたが、電話番号はもう繋がらなかった。その彼の身にその後何が起こったのかは【何年かしてからある映画で知った。】。

つまり優奈にとってフランス語とは十代の自尊心を傷付けられたトラウマであり、無知と羞恥の象徴であったということだろうか。それをいうならドイツ語だって相当なもんのような気がするし日本語だって、ねえ。
いやーそれにしても難解だなあ。全然読み込めた気がしない……。

2017/07/03

万城目学×森見登美彦×上田誠 「ボクらの時代」2017.7.2 

先日7月2日の「ボクらの時代」@フジテレビは万城目学と森見登美彦と上田誠の鼎談で、かなり面白かったので自分用に書き留めておきたく。

録画ナシで記憶に頼って書いているので発言内容・言葉づかいなど、不正確です。
ご了解ください。順番も思い出した順です。

この番組は日曜の朝7時からやっているので寝過ごすと見逃してしまうのだけれども基本朝型なのでちょくちょく観ている(先日の作家3人揃いの町田康×又吉直樹×山下澄人も濃いメンバーで実に良かった)。

とりあえず今回は万城目さんがめっちゃ面白かった。
それに尽きる。
モリミー(森見さん)も良い人で面白かったけど、これはエッセイとか作品とかから受けているイメージどおりだったので、うんうん、って頷きながら観ている感じだったのだけれども、万城目さんに関しては「え? こーゆーひとやったの?!」って意外だったこともあって。

作風が似てる?とか同じ京大出身で年齢も近くて関西を舞台に書かれることが多いので似たタイプなのかなあと思っていたら、考え方とか正反対なのが多くて、それも興味深かった。

珍しくオープニングトークが長めで。
のっけからモリミーが家に万城目さんは呼ばない、綿谷さんも誰それ(これ忘れた)も来たけど万城目さんは「呼ばない」とか不穏なことを云いだして。
今はそれほどでもないけど「ライバルだから」とか「心を許した人しか呼ばない」とか。
万城目さんはライバルと思ったことはないと。
呼ばないのはいいんだけど「(呼ばない理由を)わざわざ云わなくてもいいよね」とか言ってて(そうだよなあ)って思った。

森見→朝の体力・気力が充実しているときに仕事(執筆)するのが良い。夜だと良いものが書けない。
万城目→逆に元気なときは書けない。10時間机の前に座っていても書けるのは最後の1時間だけ。追い込まれてからしか書けない。
最初から最後まできっちり話を作ってからしか書けない。登場人物が勝手に動き出して、とかいうひとがいるけれども自分にはそういうことは無い。全部しっかりコントロールしている。
なんで最後が出来ていないのに書けるの?
森見→いや、おおよその行きたい方向は見えているけれども…。

お金の話を森見さんが振ったら万城目さんが「勝間さんがタンス預金しているやつはバカだとかいうから東電の株を買ったら震災が起こってガタ落ち」とかめっちゃリアルなお金の話をして結論としては「タンス預金が一番!」ということだったんだけど、それを受けて森見さんが「誰がそんなガチの話をしろと……もっと作家とお金とかそういうふわっとしたテーマのつもりだったのに」とかいう感じのことを若干引き気味で言ってたのが笑えた。

「型」の話で、万城目さんが「型ばっかりで話すひとが多い。たとえば今日のこの番組についてSNSとかで、【上田・森見・万城目 なんて俺得 大草原不可避 】とか書く人がいると思うけれども【上田・森見・万城目】これは「事実」、【なんて俺得】これは「型」、【大草原不可避】これも「型」なんですね」とか言ってて、で、自分としてはそういう「型」は使いたくないとおっしゃってて、面白いなー。ネットスラングけっこうお詳しいですね(わたしは「誰得」「草生える」くらいで止まっていたので己がネアンデルタール人のような気持ちに陥りました)。

万城目さんは最初2年ぐらい働いていて、書く時間が無いから仕事をやめて、書くのに集中してそれでモノにならなかったら諦めようと思っていたと。対する森見さんは仕事を別に持っていないと編集者と対等に話が出来ないと思っていて、だから国会図書館でフルタイムで働きつつ作家業もバリバリこなして「鬼神の如く俺は働く」(←森見作品のキャラそのまんま過ぎるのでこれはサービス発言か?)みたいな感じで言ってていたらプッツンしてしまって、それまで東京にいたのを仕事を辞めて奈良に帰ってのんびり美術館とか回る日々になったとか。
そういえば森見さんたら国会図書館が職場なんてなんて素敵・カッコイイ!と思ったことあったなあ。

この流れで編集者が「気分転換にどうですか」とかいう誘い文句で他の仕事を依頼してくる、気分転換って仕事が気分転換になるかあ! みたいなことをお二人が笑いつつリアルな感じでツッコんでいたのが興味深くて面白かった。そうかそんな感じで依頼してくるんだー。受験勉強アドバイスでオリラジのあっちゃんが「気分転換に別の教科を勉強する」とか狂ったことを云ってたなあ。
万城目さんは小学生の時『まんが道』を読んで、編集者の言いなりになって仕事やり過ぎてバクハツする例を知ったからそういうのは最初からならないようにしていたんだとか。

初めて小説を書いたのは森見さんは10歳くらいのときで、万城目さんは21歳の時(遅めですね)。友達3人くらいに見せたら「気持ち悪い」と云われたと。「万城目が主人公とかぶる」「村上春樹みたいなことを云ってる」と。それで「村上春樹読んだらあかんわ」という結論になったらしいんだけど、何が面白かったって「村上春樹」って呼び捨てしているところが。
同じ業界の大先輩だから「村上さん」とか「村上春樹さん」とか「先生」とか尊称つけるのかなーって思ってたらフツーに呼び捨てなんデスネ。面識ないからかな? 面識あったらこういうふうには云わないよね。

全体的に森見&上田チームが同意見で(上田さんは森見さん家に何度か呼ばれたことがある!)、万城目さんが違う意見、という傾向があった。自販機好き⇔興味ナシ、とか。

万城目さんと森見さんで交換エッセイとかしたらいいのに(既にあったりして)。トークショーとか(これは見に行けないだろうからなあ)。編集前の、そのままトークを観たいです。
万城目さんがトークの中心で、今回は万城目さんに話が来て、森見さんを誘ったのだとか。お互いの仕事の領域には入らないように協定を結んでいるけれど今回は例外、みたいな。
面白い関係ですね! 良いなあ~こういう関係って。「殺伐とした収録」とか言ってたけどイヤイヤ、仲良いんでしょ、結局はwww

そんなおふたりの近著(番組冒頭で紹介されていた)。

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2017/07/01

あじフライを有楽町で

あじフライを有楽町で (文春文庫)
平松 洋子 安西 水丸
文藝春秋 (2017-06-08)
売り上げランキング: 10,066
■平松洋子
初出は「週刊文春」2013年5月2・9号~2014年12月25日号
本書は文庫オリジナルとのこと。
だいたい連載→単行本化→文庫化するのに、なんでこれはいきなり文庫になったのかなあ。
表紙・挿絵は2014年3月19日に急逝した安西水丸画伯である。
どうも連載順と文庫の並びは違うようだ。
解説は俳優・劇作家・小説家の戌井昭人さん。

いつもの平松節である。途中、ちょっと元気がない様子のときもあり、どうされたのかな、何があったんだろうと少し気になった。まあいろいろあるか……。
すっごく贅沢な料理で(そんなん一生食べられへんのちゃうか)と思うものもあれば、例えばタイトルになっているアジフライの様に自分でも作れちゃうレベルの料理まで、いろんなジャンル・レベルのお料理にまつわる短めのエッセイたち(1つ3ページなのであっさりしたものだ)。

こういう美味しいものばっかり出てくる本は夜中に読むとつらいというけれど、むしろ休日の昼間に読むとストッパーがないもんだからついつい無駄にオヤツなどに手が伸びてしまい、食べ過ぎてしまい、ユーワクに弱い私はダメであった。というわけでもっぱら眠る前に気の向くまま、少しずつ読んだ。

平松さんの本には鰻がしばしば登場するが、昨今の鰻の価格上昇を見るにつけ、「ヒラマツさんはどうされているのか」と気になっていたので、本書の後ろの方でさすがの平松さんもおいそれとは手が伸びない旨が書かれていてそうかー、と思った。

海苔弁アンケートという回がある。
①海苔弁ラブ度(満点100)②すきな海苔弁のおかず③海苔弁を食べたいとき④海苔弁にたいして言いたいこと
答えてみた。
①70点。②自作の場合はほうれんそうのお浸しと牛蒡のきんぴらと沢庵。購入するなら唐揚げか白身魚のフライ。③ごはんと海苔を味わいたい気分の時。④そういえば海苔弁って買った事あったかなあ?(購入するとなるとおかずの豪華なのを選んでしまう)。

目次
Ⅰ 危うし、鴨南蛮
危うし、鴨南蛮!/詩人の卵人生/台ふきんの白/どっきり干瓢巻き/トリュフvs松茸/見たな?/ヤバい黒にんにく/どぜう鍋を浅草で/レモンサワーの夏/歌舞伎座で、鰻/粗茶ですが/羊羹でシンクロ/ステーキ太郎、見参/あじフライを有楽町で/熊タン、鹿タン/海苔弁アンケート/インドのお弁当/最初は鯨めしだった/おばちゃんの実力/パンケーキ男子

Ⅱボンジュール、味噌汁
「はまの屋」、復活/久慈でもたまごサンド/谷中のひみつ/外ジュース、家ジュース/冷麺あります/生ウニは牛乳瓶で/えいね! 土佐「大正町市場」/花火と「フレンド」/砂糖じゃりじゃり/無敵なスープ/ボンジュール、味噌汁/パリのにんじんサラダ/ちょっとそばでも♪/ムルギーランチ健在/品川で肉フェス/そして神戸/八十三歳の意地

Ⅲ エノキ君の快挙
ちくわカレー!/凶悪ヅラなのに/ステーキ、ジュージュー/もっとアミの塩辛/海苔も挟みます/出たか、筍/とうがらしめし!/シビレる鍋/朝はジュース/梅雨どきの冷蔵庫/朝顔とドライカレー/夏の塩豆腐/ぽく、ぽく、ぽく/二ケ月ぶりのごはん/いちじく祭り/エノキ君の快挙/ごぼうアセンション/磨けば光る/わたしの柚子仕事/朝も夜も、湯豆腐/今年も焼きりんご/暴走深夜特急/冷やごはん中毒/森の贈りもの/煮物ことこと

Ⅳ 鶏肉は魚である
鶏肉は魚である/夏は瀬戸内で/線香花火と鮎/征太郞少年のカキタマゴ/1972年、釜ヶ崎/栗の季節です/居酒屋ごっこ/きれいな女将さん/白和えフリーク/霜柱を食べる/牛鍋屋へいらっしゃい/かけそばと目玉焼き/もったいぶって、鰻/志ん生の天丼/キャラメル夢芝居/塩豆とビール

あとがき/解説