2017/06/29

雲をつかむ話

雲をつかむ話
雲をつかむ話
posted with amazlet at 17.06.29
講談社 (2012-12-17)
売り上げランキング: 65,778
kindle版
■多和田葉子
2012年講談社単行本刊の電子書籍版。
長篇小説。随筆風でもあり、著者自身のリアル体験がどこまで混じっているのかなあなどと考えつつ読んだ。
「雲をつかむ」というタイトルのとおり、話があっちへこっちへ空想・連想・見た夢と飛んで数日に分けて読んでいると主筋を忘れそうになる、いまは現在か回想なのか、夢なのか現実なのか曖昧になって数ページ戻ってから読み返すこともしばしば。まさに雲をつかむような話だった。そのわりに最後は「おー、こう終わるか!」と衝撃を与えてくる。
こういう話は休日に一気に読むほうが向いているかもなあ。

とりあえず一読後、もう一回最初に戻って斜めに全篇目を通し直した。
感想は「犯人が多すぎる」。
いや別にこれミステリーでもなんでもないのだが、主人公「わたし」がいままでに出会ったいろんな「犯人」とのことを書いた小説なので。

「犯人」といっても犯罪の種類は色々である。
郵便物を盗んだ少年、バスの中で他人を傷つける暴言を吐き続ける少年、複数人と浮気した夫を殺した牧師の妻、思想的な問題で国家から危険思想認定された中国の詩人、無賃乗車・罰金を頑として払わない青年、娘を侮辱した夫を殺した妻、相手の大事にしているものだけを無断借用・盗み続け、将来の夢・子どもの名前なども真似して最終的に相手を刺した女――。

最後の女に関しては、最初に刺された方の言い分が書いてあってぞっとさせられ、その後で共通の知人の話があり、最後に刺した側の言い分が書いてあるのだが言っている内容が双方で平仄が合わないので「果たして嘘をついているのはどちらなのか」わからないままでなんだか読み終わった後でも後味が悪い。

窃盗罪はともかく殺人、それも複数人を殺すとなるととても正常な精神では出来ないと思ってしまうので、その罪を犯した犯人を「他と変わりない」と捉えることはわたしには出来ない。そういう意味では主人公が理解出来なかったが、「犯人」のことを書いてある小説というふうにはあまり読めず、いろんな人間のあり方、周囲のことなどが書かれている小説で、それがほとんど当事者ではなくて傍観者的な立ち位置なのでクールに書いてあるので一歩引いた形でこちらも読んでいける。不気味で意味不明などろどろしたしつこい悪意によるささいな犯罪が殺人よりもずっとタチが悪いというか、そういう性質の人間に遭ってしまったら不愉快極まりないなあ、などと思うケースもある。宮部みゆきのある小説を思い出したり。

メインとなっているのは1987年に「わたし」の家をほんのいっとき訪れてそのままいなくなってしまったある青年のこと。
チャイムを鳴らされてすぐドアを開けたり、知らない男を家に入れたり、あまつさえ彼を残して2階に上がって探し物をしたりと現代の感覚では「あり得ない」ことの連続で読みながら「昔はドイツでもこんな感じでOKだったの? このひとが悪いひとだったらどうするの」と考えていたので彼の正体がわかったときにはゾッとしたが、どうもこの話の「わたし」は全然恐怖感はわいてこないらしい。理由もなしにひとを殺す、という犯罪が当時は無かったのだろうか。

赤茶色の細い巻き毛の、「わたし」より首ひとつ分は背の高いがっしりした男、33歳、名前はフライムート。「わたし」の家を出た後、結果的には警察に出頭し、複数の人間を殺した罪で終身刑を受けることになった(本書によるとドイツの終身刑は十数年で刑務所から放免されると書いてある。また、終身刑そのものも廃止された、と)。

この青年はその後はもう出て来ない。ただ、「わたし」の気持ちはずっと残っていて、彼の事が契機となって「犯罪」と「長い時間収監されること」「犯罪をする人間」について思索し、他の類似例などを「雲蔓式」(芋蔓式とこの話の「雲」を引っかけた駄洒落)に書いてある。

で、この小説は別に犯罪や「罪とはそもそもなんぞや」というテーマではなく、そもそも「罪」については最初から「脇に置いておいて」というスタンスである。
犯罪を犯した人間について突き放すようなことを言われたときに「わたし」はかっと腹を立てる。
その後のやりとりから出てくる畳み掛けるような女医の言葉に「わたし」は今までのこわばりをどんどん解かれていく。
そして「ドアを簡単に開けたわたし」に眉をひそめていたわたしにとっては女医の言葉はものすごく当然のことと感じられ、「わたし」に必要な忠告はまさにこれだったのだ、という思いがした。

彼女はドイツに住んでいるから、フクシマの事故の後日本から来たとわかると放射線検査をされるシーンが出てきて、これは先日読んだ彼女の本にも同じようなことが書かれていた。かなりナイーブになっているように思う。正確にはメルトダウンしていたと発表されてから、ということになるのかなあ。
日本の中にいて考える「日本の像」と、ドイツに住んでいて感じる周囲の国の「日本観」は違うんだなあということを多和田葉子の小説を読んでいると肌で感じるのだった。

2017/06/26

尼僧とキューピッドの弓

尼僧とキューピッドの弓 (講談社文庫)
多和田 葉子
講談社 (2013-07-12)
売り上げランキング: 401,422
kindle版
■多和田葉子
本作品は「講談社創業百周年記念書き下ろし作品」として2010年7月単行本刊、2013年7月文庫化されたものの電子書籍版。
長篇小説、kindle版で2565頁なのでそんなに長くない。
「第一部 遠方からの客」 が全体の7割を占め、「第二部 翼のない矢」が残り3割という二部構成。

第一部も第二部も「わたし」による一人称で語られるが、第一部の「わたし」は日本人であり、職業が小説家で女性であることなどから何となく著者の分身のようなイメージ、でもまあ「=著者」というわけでもないんだろうな、というような。
この「わたし」は観察者というか、取材的な目的でドイツの修道院に一定期間滞在しているだけの身なので、傍観者的な、非常にフラットな視点で修道院のメンバーを観ているから、読んでいるときは彼女の「眼」がカメラの目のような役割をしていて、その視点に同化しやすい。非常に読みやすかった。

「わたし」は個々の特徴をほぼ第一印象で判定し、それぞれに熟語(創作)の徒名を命名したりしていて(内心で考えているだけで口に出すわけでは無い)、ユーモラスである。徒名の付け方、その漢字のチョイスが日本人ぽくないというか、まるで日本語の達者な外国人が漢字の意味だけに重点を置いて選んでいるような雰囲気もある。ちょっと拾ってみよう。
尼僧は全部で9人登場する。
透明美」さん(尼僧院長代理)。「貴岸」さん。「老桃」さん(老尼僧院長。95歳以上。)。「陰休」さん(病気治療中)。「火瀬」さん(老尼僧院長)。「河高」さん(見習い期間中)。「流壺」さん(85歳)。「鹿森」さん。「若理」さん(元弁護士)。

第一部は「事件」へのほのめかしがあって、事件と云えば殺人、とついつい連想してしまうのだが、もちろんそういう話では無い。「事件」というのはネタバレでも何でもないので書いてしまうが、この修道院の「尼僧院長」が就任後1年くらいで突然辞めて、修道院を出て行ってしまったことを指している。その原因やいきさつなどは中身を読んでいくとわかる。
舞台となっている修道院(クロースター)は千年以上も前に創立された。「ニーダーザクセン州」のW市(不思議な鳥たちを世界中から集めた鳥公園がある)にある教会に身を寄せている。

この話では先に触れたように9人の尼僧が出てくるのだが、そのどれもが個性的で、くるくる立ち代って登場して「わたし」に話しかけてきたり部屋に誘ったりしてきて、皆「わたし」には比較的好意的なのだが、修道院内部の人間関係、それぞれの思惑などがだんだんわかってきたりして、それが面白くて「えーと、このひとは誰だっけ」などと前に戻って読んだりを繰り返しているとその場にいない「辞めちゃった尼僧院長」のことなんか正直忘れていくというか、辞めた理由もそんなに突飛でもない(恋愛絡み)ので、だんだんどうでもよくなっていく感じではあった。

「尼僧」「修道院のシスター」というと、それはいろいろ難しい人もいるんだろうけれども基本的には敬虔で、落ち着いていて、穏やかで、優しくて、神様に人生を捧げている非常に宗教心に厚い方たち、というイメージだったが、本書を読んだ限りでは、もうちょっと世俗的というか、ある意味「どこにでもいそうなごく普通の女性たち」だった。
それはこの話が始まったときの「わたし」もそうだったらしく、最初の方にこんな記述がある。
わたしはその窓の向こうに監獄の独房のような僧房があるところを想像してみた。薄闇の中に黒衣に身をくるんだ、青ざめた尼僧が跪いて祈っているところを思い描いてみた。この時はまだ自分の空想がどれほど的外れなものであるか分かっていなかった。

ほほう、つまり尼僧さんの実態はそうじゃなかった、っていうことがこれから描いてあるわけね、と頷きながら読み進むわけである。そして実際読んでいくと「男性なんか当然入れないんだろう」と思っていたらお客は自由に出入り出来、あまつさえ泊まりさえしなければ恋人がいたって良いとか書いてあるので「へええ」と驚く。既婚者は駄目なのだが、離婚していても全然問題ない。「修道士」「修道女」といえば「生涯独身」「神が配偶者」というイメージだったのでびっくりした。
実際、この修道院にいる女性たちの多くは昔結婚していて、子どもが独立した後にここへ入ったというひとが多い。離婚した旦那がこの修道院に訪問するのも普通。
ふだんは尼僧の黒い衣は着ていなくて、私服。日曜日の礼拝のときは正装する。
自ら車や自転車で出掛けるのもOK。ただ、いろいろ仕事の分担が有るので、それを放り投げて長期休暇、とかは出来ない、つまりまあ、「職業」なんですな。人々にキリスト教を広めるのが仕事なのかと思ったら布教はしないんだそうだ。修道院を維持し、見学者を案内するのが義務なんだそうだ。
修道院に入るときに財産の没収などはいっさい無い。何故ならそんなことをしてしまったらその個人が「やっぱり辞めたい」と思ったときに辞めにくくなってしまう、個人の自由を奪ってしまうからだそうだ。ほー。修道院によって違いはあるのだろうけれど、この自由さは良いなあと素直に感心した。

第二部の「わたし」は「辞めちゃった尼僧院長」で、第一部の「わたし」が日本語で書いた小説が英訳されたのを書店で見つけて読んでしまい、「これはわたしじゃない」と憤慨して自分の経緯を語る内容。

第一部がきれいに終わっていたので、「第二部」という中表紙が現れて「えっ、まだ続きがあるの」と意外に思いながら読みはじめたらどうやら今までの世界と違う、「よく知っているのによそよそしく遠い人、それは紛れもなく、過去のわたし自身だった」の「わたし」とはいったいあのうちの誰だろうかと思いつつ彼女の憤る独白を読んでいくと段々わかってくる。舞台はカリフォルニアだ。「離婚の疲れを癒す旅だから」とかさらりと書いてある。

正直第一部を読んでいく中で「どうでもいい」という気持ちになっていたので微妙な気分だったので、無くても問題なかったとは思うが、「書かれた」ということはやはり意味があるのだろう。
その「意味」とは一番は「大筋では同じだが、当事者はやはり違う点が非常に気になる」「当事者の語る内容は、脇で見ているだけではわからない、伝わりにくい微妙な原因の積み重なりが引き起こした結果である」というようなところか。
この話に出てくる男性のいずれもが「どこが魅力的なのかよくわからない、とりあえず凄く鬱陶しくて、邪魔な存在」にわたしには思えた。そういう描き方をしてある。

修道院という場所になんとなく淡い憧れみたいなのがあり(宗教的な意味ではなく)、どういう生活なのかなど少し興味があったので、それが著者の取材をもとにリアルな感じで描かれている本書はかなり面白かった。第二部をひっくるめて「恋愛小説」として読むことも出来るだろう。「プロテスタント」というとかなり厳格なイメージがあったのだがそれを飄々と乗り越えていく、生活力の強さ、実務的な「生きていく」60歳を越えた女性たちの肩肘張らない日々、それぞれの個性・(あくまでも小さな)軋轢、みたいなものが面白くて、いままで読んだ多和田葉子作品の中で一番読みやすかったように思う。

2017/06/24

kindle【50%OFF以上】小説・文芸 フェア

Amazonの電子書籍大幅セールが期間限定:6/23(金)~7/2(日)ではじまっているので取り急ぎお知らせ。

ラインナップをざっくり見ましたが、「砂利が多い」って感じかなあ。たまにイイのが混じってる。
こういうのを吟味して「自分にとってのお買い得」を探す作業もまた楽し。

2017/06/23

旅をする裸の眼

旅をする裸の眼 (講談社文庫)
多和田 葉子
講談社
売り上げランキング: 264,944
kindle版
■多和田葉子
本書は単行本2004年12月刊、文庫版2008年1月刊の電子書籍版。
長篇小説。
といってもkindleで総ページ2787頁だからそんなに長くない。

最初の2行くらいがいきなり一瞬意味が分からなくて、あ、映画観てるのかと理解して、大丈夫だろうかと思って読みはじめたら後はかなり読みやすくて物語の中に比較的スムーズに入っていけた。途中で飽きることもなくて、時々理解が難しいところもあったけれど、最後まで読んで、「これで終わり!?」とちょっとびっくりして確認するように見直してしまった。

最近の翻訳小説は昔のいわゆる「翻訳調」が少なくて、あと村上春樹なんかで日本文学の文体にも変化があったことも影響しているのかもしれないけれど、とりあえず違和感が無い。
それもあってか、本書を読んでいるときに「最近の翻訳調ではない翻訳小説」を読んでいる錯覚に何度も陥った。
これは主人公がベトナム人で、舞台がずっと外国だからということが大きいのだろうが、多和田葉子がドイツに住んでいることやその作風も結構影響しているのかも知れない。

わたしは映画を全然知らないので、本書の章ごとに出てくる映画や主人公が「あなた」と呼びかける女優が実在の人物であるということに気付いたのは本書も随分後のほうになってからだった。
第六章で「シェルブールの雨傘」というワードが出てきて、さすがに超々有名作品だから題名くらいは知っている(観たことは無い)。ここまで「(著者は)小説の筋だけでなく映画の筋まで考えないといけないとはなかなか大変な作品だな」「でもひょっとしてこんだけ出てくるってことは実際にあるのかなモデルとか」と間抜けにも考えていたのがこれで氷解。
章タイトルごとに年号があって横文字が(英語のときもフランス語?のときもあってその後にまた年号がある、これは何かなあ、年号どうしの関係は?)とか考えつつとりあえずその問題は横にやって読んでいたのも「実在の映画である」とわかって解決。映画のタイトルと、発表年度だ!(ああ間抜けすぎる…)。
映画音痴なので映画タイトルを示されても女優さんのフルネームが本書には出て来ないので、読後、ネットで検索して初めて「カトリーヌ・ドヌーブ」という名前がわかった。名前・写真を見ても知らないひとだった(すみません、わたしが俳優女優を知らなさ過ぎるんです)。

なんでこんなふうにわざわざ己の無知を晒すのかというと別に無恥なわけではなくて、「このように、わたしのごとく映画の事を知らない人間にもこの小説は面白く読むことが出来た」と伝えたいからである。フランス語を解さない主人公がフランス語の映画を愛してやまなかったように、「作品」には個々のそのときなりの愉しみ方がある。

主人公はベトナム・サイゴンに住む高校生の少女。
彼女はロシア語の弁論大会で発表するために東ベルリンに派遣される。そこで知り合った青年にお酒をすすめられ、気が付くと西ドイツのボーフムのアパートに連れ去られていた。相手の隙を見てサイゴンに戻ろうとしてソ連行きの列車に乗り込んだまではよかったが、ソ連行と思ったその列車はパリ行きだった…。

主人公はこの物語の中で2回ほど名乗るが両方偽名で、本名は最後まで出て来ない。まずこれが変わっているし、ひとつのポイントのような気もする。

彼女の頭の中はバリバリの社会主義・共産主義で。
時代は物語が始まったころは1988年で、まだ東ドイツがあった。ベルリンの壁が崩壊していなかった。

言葉もわからない、お金も無い少女がパリに行ってどうなるんだろうと危ぶんでいたのだが、結論から言うと、この少女はいろいろ運が良い(?)というのか、なんのかんので助けてくれるひとに会ってとりあえず食べ物や眠る場所には不自由しないで生き繋いでいく。安定したかと思うとまたもや…という繰り返しもある。

列車の中で偶然出会った同郷人にお金を貸してもらい、パリの街をさまようが言葉がわからないのにどうするんだろうと思っていたら辻に立つ娼婦を「宿所に案内してくれるひと」と誤解したりして、その娼婦(マリー。マリーという名前は結構重要。というかカトリーヌ・ドヌーブが演じる名前だから主人公の頭の中で意識される。)の家にしばらく住ませてもらったり。後半では同郷人の医師と出会って彼の家に住むことになってなんとプロポーズされるんだけど(一緒に映画を観に行く仲になったシャルルは良いのか!?シャルルの事が好きだったんじゃないのか!?)、要するに不法入国だからパスポートはあってもビザが無い。ここでこの話に初めて日本人が(伝聞で)出てくるがなんと闇パスポートを手配するとかいう怪しい人物。……。

主人公が映画に出てくる女優に頭の中の空想で「あなた」と呼びかけ、その女優の出てくる映画を見つけては見、ときには何十回と繰り返して見に映画館に通う。
何故主人公が最初から彼女を「あなた」と特別視するのかは特に書かれていないので想像するしかないのだが、まあ、惹かれた、ってことなんでしょうか。
映画を観ると言ってもパリで見るのだからフランス語の映画で、彼女はフランス語を理解しないのである。だから全部映像だけで推測している。

この話で描かれる映画は実際の映画だけれども、彼女の想像した映画の筋なので、実際の映画とは違っているのかも知れない(元の映画を知っているひととわたしでは本書の読み方が全然違ったものになるということでもある)。
まあだからと云ってこの本に出てくる映画全部観るとなると大変だしなあ。文庫には「解説」が付いているらしいからそれを読めば何らかの助けにはなったのかもだけど電子版では割愛されてるからなあ。

しかし主人公の映画、というかカトリーヌ・ドヌーブが演じる役柄たちに対する思いの揺るがなさ、その真摯さには目を見張り、こちらの心を動かす純粋でとても強い「何か」がある。「何か」とはやはり映画の心みたいなものか。ひとがひとに伝えようとする何か大切なもの。
おそらくこの小説の「肝」はそこにあると思う。

主人公はベトナムでは成績優秀だったと(自己申告だが)書いてあってだから東ドイツに行く生徒として選ばれた。だけど外国で一人で知り合ったばかりの青年の前でウォッカをがばがば飲んだり、妊娠しているのに生理がくることに疑問を感じなかったり、子どもが何カ月で生まれるかを知らなかったり、いろいろ知らないことが多すぎてとても賢い女の子とは思えない。これは社会主義・共産圏の女子生徒は性の教育を受けていないということなのだろうか。ある種のプロパガンダに染まった十代少女の危うさや頑なさは本書のあちこちで表現されている。彼女自身はその「違和感」に気付かない。

目次
第一章 1998 Repulsion 1965
第二章 1989 Zig Zig 1974
第三章 1990 Tristana 1970
第四章 1991 The Hunger 1983
第五章 1992 ndochine 1992
第六章 1993 Drôle d'endroit pour une rencontre 1988
第七章 1994 Belle de jour 1966
第八章 1995 Si c'était à refaire 1976
第九章 1996 Les Voleurs 1996
第十章 1997 Le dernier métro 1980
第十一章 1998 Place Vendôme 1998
第十二章 1999 Est-Ouest 1999
第十三章 2000 Dancer In The Dark 2000

2017/06/19

献灯使

献灯使
献灯使
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多和田 葉子
講談社
売り上げランキング: 271,402
kindle版
■多和田葉子
多和田葉子をまとめて読んでみよう週間を極私的に行う手始めとして短篇集『ゴットハルト鉄道』(1996年5月講談社刊/2005年4月講談社文芸文庫)の表題作と「隅田川の皺男」を読んでみたのだがあんまり理解できなくてとりあえず「昔の純文学って感じがする」とは思った、のでこれはまた後日多和田さんにもう少し馴染んでから再チャレンジするとして、近著の本作を読んでみることにした。『ゴットハルト』よりは随分読みやすくわかりやすかった気がする。

2014年10月単行本刊。初出は以下のとおり。
「献灯使」:「群像」2014年8月号
「韋駄天どこまでも」:「群像」2014年2月号
「不死の島」:『それでも三月は、また』講談社2012年
「彼岸」:「早稲田文学」2014年秋号
「動物たちのバベル」:「すばる」2013年8月号

中身について何も知らないでただ表紙のハシビロコウが良いなー、タイトルも「遣唐使」の音を「献灯使」とするなんてなんだか慎ましやかで深い物語が眠ってそうで良いなー、くらいの軽いノリで購入したのだけれど、途中くらいで「あれっこれってなんだかここ数年の日本のありかたみたいなのにモノ申してる?」とか気付きはじめ、Amazonの商品紹介文を見てみたら【原発事故後のいつかの「日本」を描いたデストピア文学の傑作!未曾有の“超現実”近未来小説集。】とか書いてあって、「あ、そういうこと…」そういう目で読むとああそういうことを云いたいのね、というのがどんどん強調されて目の前に流れてくる。
表題作「献灯使」はわりとそれが昇華されていて「物語」っぽさが強いんだけど、短篇のほうが結構露骨に書いてあったりする。最後まで読んで初出が表題作はけっこう後というのを見て成程なあと。

リアルに描いているだけじゃなくてところどころに言葉遊びみたいなのが混じってて、ユーモラスな表現が有ったり、ひょっと視点をずらしてあったりして、どこにどう転がるのか……先が読めなくてずいずい活字を追ってしまう面白さもある。
近未来の日本が舞台で、鎖国してて、外国の言葉を使うと罰せられる、とか江戸時代の鎖国よりもむしろ太平洋戦争の時のことを連想して不穏極まりないんだけど、でも何故かあんまりそういう「恐怖」みたいなのは書かれていない。むしろいろいろカタカナに漢字をあてて言葉遊びみたいになっていて次は何が来るだろうと面白く読んでしまう。
「主人公の義郎は百歳を越えているんだけどこの時代の日本においては若者が(おそらく環境の悪化のせいで)極端に弱体化しており、老人は「死ななく(または死ねなく)」なっていて、元気で、第一線の働き手。義郎も曾孫の「無名(という名前)」を助け、無名のことをいつも考えて生きていて、その弱さ脆さを心配し、胸を痛めている日々。しかし物語の調子は何故かどこか飄々としていて、それは当の無名が明るく無邪気で嬉しいことがあると「極楽!」と飛び跳ねていたりするからだと思う。
終盤でいきなり15歳に話が飛んでちょっとびっくりしたけどまあ元気で良かった。この「献灯使」はレイ・ブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』の主人公みたいだなあと最後の方を読んで感じた。無名君には是非元気で長生きしてほしい。

本書は5つの話が入っているけれども、いずれもテーマが共通しており、連作とは違うだろうが、併せて読むことでいろいろ積み重なってくるものがある。
長さが結構違って、表題作の「献灯使」は中篇でこれだけで全体の62%を占める。残りの4割で4つの短篇。

韋駄天どこまでも」では震災の日の描写が出てくるし(漢字の部分を分解して言葉遊びみたいなのとか、登場人物の名前の漢字で遊ぶとかはブンガクしてて面白い、それとリアルな災害の描写と、主人公のもうひとりの女性への依存の気持ち悪い感じが混ざっているのが独特の雰囲気になっている)。
そこへきて「不死の島」だからもうタイトルからして「よし、そうきたか」と身構えて読んでみるといきなり冒頭からかなり衝撃的なことが書いてあって、これ本当? と一瞬思ってガクガク震えながら読み進むと「似てるけど、違う近未来の話」だとわかってちょっとだけ肩の力を抜く、だけど、だけど、現実にこういう展開にこれから先を考えるとならないとは言い切れなくて、やっぱり恐ろしい。
彼岸」に至ってはあまりの暗い突き放した展開に息を詰めて、うーん、これか、これが「ディストピア」ってことか。現実には某国が我が国の難民を快く引き受けてくれるとはとても、想像上ですら出来ないんだけど…。
動物たちのバベル」は戯曲のような作り。イヌとネコとリスとキツネとウサギとクマが出てくる。人間が滅んだあとの世界の設定。と思っていたら最後の方で生き残りが一人だけ出てくるんだけど発言は一切なし。とりあえず「人間ってどうしようもなくてごめんなさい」って云わせたいのかなあってことを動物たちが延々喋ってるんだけどでもちょっと変なことも言ってて、だから「そのまんまな話」じゃないのかな。そもそも動物だけど「人間が演じている」っていうのをわざわざ強調してあるト書きとか、これってつまり人間の話ってことでしょう。バベルの塔の話も人間の話だし、どっちにしろ、愚か。「なにも成長していない…by安西先生@スラムダンク」ってコトでしょうか。
難しーなー。
難しいけど、いっぺん読んだだけだとやっぱり消化不良だけど、この小説、この小説って多和田さん、日本に震災前も震災後もずっと住んでて日本のテレビとか観ててあの空気とか世論とか知っててそれでも書けますかねこんな話。ドイツに住んでて、そりゃ日本の福島とかも訪れて取材はしたみたいだけど、たとえば日本国の象徴の方たちが「大震災に備えて、という名目で」京都御所に移住、とかいやー……どうしてこんなことが書けるかなあ。

よくわからないので読了後ネットで著者の本作についての記事をいくつか見てみたが、ドイツでは「どうして逃げないのか」という疑問が一番多かったとか書いてある。日本の報道に問題があるってことかなあ。日本の社会とか。ドイツの人は例えばドイツで同じことが起きたら余所へ逃げるのだろうか。

講談社BOOK倶楽部/献灯使 多和田葉子
『献灯使』をめぐって(現代ビジネス)

2017/06/18

ミステリ国の人々

ミステリ国の人々
ミステリ国の人々
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有栖川 有栖
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 26,584
■有栖川有栖
本書は日本経済新聞朝刊に2016年1月3日から12月25日まで連載されたエッセイ集である。2017年5月11日刊。

古今東西いろんなミステリ(本格ミステリ中心なので「ミステリー」ではなく「ミステリ」なのだ)の登場人物を軸に、未読の人にも既読の人にも楽しめる作品紹介となっている。エッセイだけど、書評でもあり、ミステリ入門書にもなっている。
基本的に物故作家の作品というくくりはあり。1回だけ例外あり。また、英米の作品が多い。
理屈っぽさは無く、読みやすいので気軽に楽しめる。未読本が溜まる一方なので休日にイッキに読んでしまったが、眠る前などに1つ1つ読んでも楽しめるだろう。面白かった。掲載誌がミステリー専門誌とかじゃなくて新聞で一般読者向けっていうのもあるんだろうな。

最近はあんまり読まなくなったが小学校5年のときに学校の図書室でポプラ社文庫の児童向けに書かれたシャーロック・ホームズ・シリーズにハマったのを最初として(ホームズに関しては高校生のときに新潮文庫で完全版を読み直して以降何度となく読み、聖典以外にも手を出したけどシャーロキアンってほどでもない)、以降十代、二十代、三十代と本格ミステリだけに限らずミステリーにはそこそこ親しんできた。しかし本書を読むとまだ未読の作品もあったどころか、「へえ、そんな作品があったのか」と存在自体を初めて知ったものもあり、まだまだだなあ、ミステリーの海は広いなあ、と思う。物故作家の作品中心だから現役のミステリ作家も加えたらもうどれだけ……ってなる。「本格」縛りでこれだからなあ。後で気になった作品をチェックしなくっちゃ。

もうひとつ云うと、ミステリそのものも好きだけど、それにまつわるエッセイとか書評とかベスト100とかの類も大好きなんで、本屋さんでこれを見つけたときは「なんて楽しい企画なんだ」とテンションが一気に上がる感じだった。有栖川さんの著作は大昔に『月光ゲーム』『幽霊刑事』あとはアンソロジーに入っていた短篇を読んだくらいで、あんまり読んでいないんだけど。

まあ、実際読んでみたら「ミステリ国の人々」という定義にはイマイチ迫りきれていない感がなきにしもあらずな気がしないでもないのだけれども(歯切れ悪いなあ)、でも言いたいことはわかる。早い話が、本格ミステリに出てくるある種の登場人物たちは、たとえば社会派ミステリーなんかに投入すると確実に「浮く」だろうからだ。

エッセイだけど有栖川さんの日常生活・身辺雑記などはほぼ出てこなくて「なんでこれ書評集じゃなくてエッセイって帯に書いてあるのかなあ」とちょっと思うがとりあえず著者のすごく謙虚なお人柄が伝わってくる本でもあった。

毎回挿絵があるが、それはモノクロだが、表紙カバーにカラーで載っていて、中身をずっとモノクロで眺めた後にあらためてカラーイラストを見ると「そうかこういう色だったのか」と思う。ちなみに装幀・装画・挿絵:大路浩実。ちょっと真鍋博っぽくて、毎回新鮮な味わいがあって良かった。

【目次】には取り上げられている登場人物(キャラクター)の名前と、作者名、登場する作品名なども書かれているが、ここでは登場人物名だけに省略させていただく。登場人物名だけを見ただけで「あの作家の、あの作品ね」などとすぐ浮かんでくるものもあれば、その作品を既読でもキャラの名前までは覚えていないこともあったりする。それは紹介されるのが主人公やメインキャラとは限らないからであり、「何故、有栖川さんはこのキャラに注目したのか」という読み方も楽しめる。

 【目次
はじめに
ヴァン・ダイン/シャーロック・ホームズ/松下研三/明智文代/スコット・ヘンダーソン/アリス/金田一耕助/三原紀一/黒後家蜘蛛の会/サッカレイ・フィン/柳川とし子/八坂刑事/ユーニス・パーチマン/ヘンリー・ポジオリ/杉戸八重/正木敬之/コーデリア・グレイ/ニック・ヴェルヴェット/亜愛一郎/三角形の顔をした老婦人/ヒュー・ベリンガー/ブロンクスのママ/苑田岳葉/蓮丈那智/ミ/アルセーヌ・ルパン/鬼貫警部/半七/ギデオン・フェル博士/ドートマンダー/仁木兄妹/バキリ/トム・リプリー/オッターモール氏/藤枝真太郎/おしの/イライジャ・ベイリ/ルーフォック・オルメス/門外不出の弦楽四重奏団/砂絵師のセンセー/ディー判事/ジーヴス/蝿男/紫式部/リュウ・アーチャー/アン・デイ/QAZ/五十円玉両替男/テナント少佐/エラリー・クイーン/菜々村久生/ポアロ&ミス・マープル
あとがき

ミステリ国の住所録・各エッセイ文末に作家案内(編集部作成)

2017/06/17

本屋さんに憩う 第18回

某月某日
某ショッピングモール内のヴィレヴァンと普通の書店。

気になったけど買わなかったもの。
おんなのこはもりのなか
おんなのこはもりのなか
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藤田貴大
マガジンハウス
売り上げランキング: 20,031
帯に又吉さんの推薦コメントがついていた。両方の書店に置いてあった。

マンガでわかる「西洋絵画」の見かた: 美術展がもっと愉しくなる!
まつおか たかこ
誠文堂新光社
売り上げランキング: 45,328
普通の書店のほうで。これ面白そうだなあ。

これはヴィレヴァンで。面白い発想だなあ。ドラクエやったことないっていうかゲームしないけど。


購入したのはこれ。
有栖川有栖『ミステリ国の人々』日本経済新聞出版社/2017.5.12

ミステリ国の人々
ミステリ国の人々
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有栖川 有栖
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 15,461

そういえば先日会社最寄書店でこれも買いました。文庫オリジナル。
平松洋子『あじフライを有楽町で』文春文庫/2017.6.8
あじフライを有楽町で (文春文庫)
平松 洋子 安西 水丸
文藝春秋 (2017-06-08)
売り上げランキング: 746

2017/06/12

続 聞き出す力

続 聞き出す力
続 聞き出す力
posted with amazlet at 17.06.12
日本文芸社 (2017-02-03)
売り上げランキング: 95
kindle版
■吉田豪
日替わりセールで上がってきて、前回『聞き出す力』がエンタメとして面白かったので続篇である本作も迷わず購入。

実用書として人間づきあい、仕事の参考にする向きもおられるのだろうが、わたしはほぼ娯楽として楽しんでいる。だってインタビューとかしないからねえ……まあ最近は企業でもストレスチェックの義務化を受けてメンタルヘルス講習とかあって、本書でもその講習でも「聞く(聴く)」姿勢でいるということは大事、と強調されているからまったく参考にならないってことはないんだけど。
有名人のちょっとびっくりなエピソードが入るし文章も読みやすいから気楽に面白い(基本下世話だけど)。

わたしは著者の本はこれで2冊読んだことになるが、文章を読んでいる限り、非常にクレバーで仕事熱心で魅力的な人物のよう、だけど「面白くするためなら腹くくって突撃しちゃう」タイプだから穏健派には顔顰められるかなあ。ラジオやテレビにも出演されたようだが、実際に喋っている感じってどうなのかな。

本書の紹介文を見るとタレントネタが満載のような印象を受けるがあくまでもこの本はインタビュー記事ではなく、具体例を挟みつつインタビューの手法を面白おかしく書いてある本なので、ゴシップ記事を読みたい欲求からすると物足りない。対談集も出版されているようなので一回読んでみるべきなのだろうか。
でも、2冊読んだ限りだと著者の守備範囲ってプロレスとアイドルが主みたいで、あとは俳優・女優さんとか話題のひととか。プロレスにもアイドルにも詳しくないので本書でも知らないひとが結構いる。結構悪口とか実名あげて書いてあったりするんだけど、大丈夫なのかな? そのへんもちゃんと計算済みっぽいけどね…。

目次】(通しで50の法則になっています)
第1章 「自分の型」を持て!
第1則 キャバクラはインタビュー修行の場に最適…なのかもしれない!?/第2則 テレビ的に美味しくないインタビューに気を付けるべし!/第3則 インタビューとは、アドリブの要素が強くてガチな展開もあるプロレスなのである!! ほか
第2章 「相手の懐」に切り込め!
第11則 時には取材相手との距離感を詰め、味方であるとアピールするのもテクニック!/第12則 人間的に合わないタイプでも、あえて心を開いて話をするべし!!/第13則 インタビューは音楽と同じ。イントロならぬ最初の質問を工夫すべし!! ほか
第3章 「修羅場」を潜れ!
第20則 取材中に大きなミスをした場合、まずは全力で素直に謝るべし!!/第21則 過去の発言で敵認定されたインタビュー相手こそ盛り上げよ!/第22則 如何に好きな人間であっても、生きている世界が違う相手にはインタビューしないほうが良い!? ほか
第4章 「他流試合」に学べ!
第31則 インタビュアーにはディレクタータイプというものもあるのだ!/第32則 インタビュー相手が困惑するほどの質問を繰り出すべく、下調べに創意工夫をすべし!/第33則 「天然」という装いは、インタビュー時には大いなる武器になる! ほか
第5章 「予測不能」を楽しめ!
第41則 堅い話しかしない相手には、好きな映画や漫画について聞くのが有効!!/第42則 面白いインタビューにするべく、ものすごく危険な話に突っ込む勇気を持つべし!/第43則 タブーに踏み込む際は、相手の返しを注意深く受け、一気に間合いを詰めるべし! ほか
あとがき

2017/06/10

間取りと妄想

間取りと妄想
間取りと妄想
posted with amazlet at 17.06.10
大竹 昭子
亜紀書房
売り上げランキング: 38,595
◆大竹昭子
この小説については私的には「ツイッターで存在を知って購入に至った初めての本」ということになる。ちなみに発信元の書籍編集者の方をフォローしているわけではなくて、別の作家さんのリツイートによって知った。
初・大竹昭子さんだし、初・亜紀書房の本だ。
初めて尽くしの中、装丁が名久井直子、という名前を確認してなんだか「うははっ」。イイ仕事してるなーやっぱ。この青い図面風表紙。青焼きっていうの?

間取り、にそんなに執着は無いけど、変わった間取り、はかなり好きだ。というか変わった家とかが好き。
こんな本を買ったりするくらいには(『間取り図大好き!』)。

本書は短篇集なのだけど、全部の話の最初にちょっと変わった家の「間取り図」が付いていて、その部屋に住むひとについての物語が描かれている。間取りにだけ惹かれて著者のことも何も知らずに購入したのだけど、読んでみたら不思議な雰囲気あり、ちょっと色っぽい話あり、読むともっと踏み込んだ続きが知りたくなり、次の話を読んでもまた全然違う話でああそうか、連作とかじゃなくてまったく独立したお話たちなのだ、そりゃそうか、変わった家の住人達がみんな繋がってるとか不自然だもんなとか思ったり。恋愛が絡む話が複数あるが、それも色んなカタチがあり、ちょっと変化球。
間取り図は原案を著者が描き、それを建築家でもあるイラストレーターたけなみゆうこさんがイラストにしたという(大竹昭子のカタリココより)。

最後の「夢に見ました」は書き下ろし。
そのほかの作品は、亜紀書房ウェブマガジン「あき地」に2015年8月から2016年12月まで連載されたものを大幅改稿したものだそう。
「夢に見ました」は著者の実話?エッセイのような、小説のような。幼い頃、間取り図に興味をもったきっかけから始まって最終的にはバナナの形状に魅せられるところまで。うーんバナナかー。最終回のこの図面はバナナだったのかー。
間取り図だけを集めた別紙が挟み込んである。

眠る前に1篇、今日は2篇と少しずつ数日かけて楽しんだ。良い本だった。

目次】と、一言感想。
船の舳先にいるような
→こんな家ってアリ? 玄関入ってから部屋までが長細い廊下とか。面白いなあ。そう思って読んでいたらこの家の肝はそこじゃなかったという…。

隣人
→最後の語り手の二人の微妙な空気で終わるところが、なんだかいろいろ考えさせられて余韻があった。悲しい結果になってしまうのかなあ…。

四角い窓はない
→まさかの色っぽい展開に「のわー」。

仕込み部屋
→打って変わってこれはホラーチック。当たり前だけど全然共感できなくて気味が悪かった。

ふたごの家
→怖い話の次に読んだのでこれもちょっとその余韻を引きずってしまい、双子の言動にびくびくしてしまった。

カウンターは偉大
→お色気系、っていうかそれは犯罪なんじゃないのか。気持ち悪いよー。

どちらのドアが先?
→猫に負ける女の話。恋愛もの。

浴室と柿の木
→隠し窓とかその発想は好きなんだけど、動機はそれか! 気持ち悪い変態オヤジには鉄槌がっ。

巻貝
→勝手な想いから勝手に失恋しているバカ男の話。この図面と話は何が面白いのかなあ。

家のなかに町がある
→最初に図面をじっくり見て、話を読みながら「え?」と思って、話の展開に「そうだよなあ」と。ちょっとミステリチックで、江戸川乱歩っぽい空気も少しdけどあって、面白い。やっぱ複雑な建築はイイネ!

カメラのように
→地下室のようで地形の関係でそうではないという部屋のある家。この話の最後の部分はよくわからないなあ、なにか言おうとしてるんだよね…。語り手が意外に若いのにびっくりした。

月を吸う
→こういう部屋を「レールロード」というらしい。恋愛もの。

夢に見ました
→夢に出てきた夢の様に不思議で面白い部屋の話。著者の実体験を書いてあるんだろうか?

2017/06/08

西南シルクロードは密林に消える

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)
講談社 (2016-10-14)
売り上げランキング: 368
kindle版
■高野秀行
「もうジャングルはたくさんだ!」と心中、何度罵ったことか。もはや私は森に対して陰湿な悪意しか感じなくなっていた。

身も蓋も無いことは承知だが、本書を読んでいるとつい「どうしてこんな、しなくてもいい苦労をわざわざしてるんだろうか高野さんは」と数回思ってしまった。答えはまあ、それが仕事になる職業だから、になるのだろうか。

いや、違うな。
誰に強制されたわけでもない、企画を立ち上げたのも自分だしそれどころか日本や旅先でいろんなひとをその苦労に巻き込んでいる。お金、というけれども大したお金は動いていない(何しろスポンサーもついていない個人の行動だ、案内役や現地の村に落とすお金なんて知れている)。
高野さんがやりたがったから、だ。
自分の職業としての成果に対する奮い立ちみたいなのもあったようだ。そのへんは本書の最初にも書かれている、でもヤッパリ読んでいくうちにジャングルでヒルまみれになっている場面なんかでついつい「何を好き好んで」と思ってしまうのだ。まあ、誰にでも出来ないことをやるから高野さんの職業が成り立っているんでしょうけどね。

高野さんの著作はkindleで日替わりセールによく上がってくるが、リスト化していて気付いた。セールになるのはどれも集英社文庫なのである。しかし講談社文庫の本書『西南シルクロードは密林に消える』での行動のツケが『怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道』(集英社文庫)に回ってきたりして、流れ的に『西南…』は押さえておきたい。考えていたところに“講談社の書籍・雑誌 1万点セール”が行われ、検索してみたら高野著作も該当していた。これぞ好機! 有難し!

本書は一般に知られるシルクロードと違い、中国四川省の成都を起点とし、ビルマ北部を通ってインドへ至るルートを云う、が、そもそもルートも不確定だし治安的にも地理的にも環境的にも厳しい。そもそもビザが取れない。そんな誰も行こうとしないところへあえて行くのが高野さんなのである。もちろん法に反しています…(だから本書でもひどい目に遭うし、その後もネタバレになるから伏せるけど辺境作家としては大変なペナルティを負う)。
この旅は2002年で、講談社から単行本が2003年2月刊、講談社文庫が2009年11月刊。「文庫版あとがき」が登場する人物のその後に触れているので文庫版推奨(電子書籍では解説は割愛されている)。

旅先で現地のゲリラの伝手をたどってポーターや案内人を得て旅を繋いでいくのだけれど、本当にびっくりするくらい金銭による報酬が出て来ない。
そして最初の印象が悪かった相手と一対一でつきあってみると意外にも……というのが二人出てきて、これがかなり印象的だった。
高野さんは普通に書いているけれど、状況や周囲とは違う立場なだけかと錯覚するけれど、やはり難しいことだと思うし根本は「個」の人間性だろう。つまり高野さんの人間づきあいの腕のなせる業だと思う。

本書の中である父と息子の感動の再会などという高野本には珍しいベタな感動シーンがあるのだが、高野さんはなんのかんのでこの息子の学費を出すことを決める。おおおおお。そして彼ら親子にはびっくりの後日談があるのだがこれ以上の言及は控えたい。是非読んで欲しい。この親子のネタだけでも本書には凄いドラマがある。波乱万丈の小説の主人公より凄いよ!

本書を読んでも「西南シルクロード」については正直よくわからない。だいたいが本文中でもあんまりその痕跡を辿るだとか歴史的な意義とかそういう記述がなかったし。ふつう「シルクロード」って云ったら「歴史ロマン」が付いて回るというか定番だと思うんだけど、そんなことよりも虫とかヒルとかジャングルとか、そもそもビザなし国境越えとかいう違法なことをずっとやってるので「明日はどうなる?」っていう不安、日陰者の意識がずっとあって。最初の方では無難に法を守って行くルート案とかもカメラマンのひとと話したりしてたときもあったんだけど、なんせ相手は政情不安な国、現地で頼りにするのがゲリラのみなさん、警察に捕まったら即アウトなので裏街道(というか道ならぬ道)を行くこともしばしば(たまにイケそうなところでは自動車とか電車とかにも乗ってるけど)。
一番乗り物で凄かったのはやっぱりジャングルで象に乗って進むところかな、落ちたら死ぬんだけど、睡眠不足で寝そうになって大変。人が歩いたほうが早いっていう速度で、しかも揺れるから酔いそうになる。絵的にはいいけど…っていう。

いろんな美しい景色とか珍しい景色が文章で出てきて頭のなかで一生懸命想像するけどカメラマンがずっと同行していたわけではなく(森清さんは講談社のサラリーマンカメラマンなので期限が40日と限られていたため)、高野さんもカメラを持っているんだけど全体に本書は写真が少ない。俳優張りのカッコイイ現地人が何人もいる、とか書いてあるシーンに写真が無い!(もちろん美女のも無い)。
残念だ。
まあそれは冗談として、この本はドラマチックさとか行程の困難さとか内容の濃厚さとかで高野本の中でもかなり密度が高いと思う。いつもながら本編よりあとがきとかエピローグとかで巧いことまとめてくるテクは流石酒の席の勢いで真面目なカメラマンを言いくるめるおひとよのう、という感じだ。このへんがインテリっぽさの残るところというか。

森清さんのホームページがあり、彼の撮る写真の美しさにしばし見とれた。

目次
プロローグ

第1章 中国西南部の「天国と地獄」――中国・四川省~貴州省~雲南省
1.シルク発祥の地・四川省成都/2.三星堆遺跡の驚異/3.棺桶の見下ろすパラダイス/4.知られざる中国最貧地帯/5.中国のバリ島・大理/6.タイ族の古都・瑞麗の天国/7.タイ族の古都・瑞麗の悪夢/8.全財産は風とともに去りぬ

第2章 ジャングルのゲリラ率軍記――ビルマ・カチン州1
1.カチン軍ゲリラ出現/2.中国公安に捕まる/3.トゥ・ジャイ議長との会談/4.カチン軍の総司令部にて/5.あらゆる障害を乗り越え、いつも元気な兄弟/6.ジャングル・ウォーク開始/7.アガの川/8.ジャングル搭象記

第3章 密林の迷走――ビルマ・カチン州2
1.文明という名の重力/2.中国気功整体に救われる/3.なぜカチン人は熱心なクリスチャンであるのか/4.窓際大尉の憂鬱/5.ビルマ「逆ウラシマ体験」

第4章 秘境・ナガ山地の奇跡――ビルマ・カチン州~ザガイン管区
1.インド国境へ/2.怪しい大尉と舟の旅/3.七人の侍とタカノ井戸の夢/4.エピキュリ大尉と焼畑の将軍/5.聖域プンラブム山を越えて/6.謎の西南アヘンロード/7.ビルマとインドの狭間で「アジノモト」/8.生き別れの親子、奇跡の対面

第5章 異常城市――インド・ナガランド州~ベンガル州
1.密林のドン・キホーテたち/2.東側の実家と西側の里親/3.ゾウ・リップの西側シルクロード独自調査/4.インド国境を越える/5.武装町内会の冒険/6.「用心棒」状態のナガランド/7.未来の独裁者クガル/8.大どんでん返し/9.カルカッタへ

エピローグ
あとがき/文庫のための注/文庫版へのあとがき/参考文献


2017/06/04

kindleで講談社の大規模ポイント還元セール 6月8日まで


kindleで講談社の大規模ポイント還元セール 6月8日までです。
あまりにすごいので思わずお知らせまで。
詳しくは上の文字と下の猫さんにリンク貼ってますので電子書籍ご利用の方はよかったらご覧下さい。

【最大50%ポイント還元】講談社の書籍・雑誌 1万点セール、ということで。
価格はそのままですけど、購入するとポイントがもらえて、次に買い物したときにそのポイント分値引きになる、という流れです。
「最大50%」なので35%とかのもあるようです。

わたしもちょっと気になっていたのを買い溜めしちゃいました。

冷静に、クールに、あんまり買い過ぎないようにしなくっちゃ……(自戒)。

http://amzn.to/2qLZvM3

2017/06/03

芸人式新聞の読み方

芸人式新聞の読み方
芸人式新聞の読み方
posted with amazlet at 17.06.03
プチ鹿島
幻冬舎 (2017-03-09)
売り上げランキング: 2,748
kindle版
■プチ鹿島
本日のkindle日替わりセールで上がってきて、著者の事は寡聞にして存じ上げないのだが「新聞の読み方」でエンタメというのは面白そうだな~と気軽に購入。
新聞によっていろんなカラーがあって、それぞれ自分に合う新聞を取ればいいわけだが、報道の方とか、新聞好きの方とか、いろんな理由で複数紙を購読して読み比べたりしているひとがいる。著者もそんなひとりで、なんと朝刊全紙を取っている(紙媒体と電子媒体あわせて)というのだから凄い。
個人でそこまでしなくとも、図書館で読み比べとか、もっと手軽に、テレビの朝の番組とかで新聞拾い読み紹介みたいなコーナーは各局あるしね。
そして何より、本書でも言われているが、ネット時代となり、検索サイトのトップに各紙からの見出しが混ぜこぜでどんどん上げられている。

あと、本書で思わぬ副産物というか……。新聞社による違いをエンタメした内容を楽しみに買ったら、それはもちろんあったのだが、具体的に最近起こったSM○P解散騒動の各紙報道を追う記事であらためてまとめて内容を確認できたり、オバマ大統領が来日したときのお寿司に関する内容にけっこう踏み込んでてそれが面白かったりと、全然社会派じゃなくてミーハーなノリで楽しめちゃったりして、いろいろサービスあっていいなあ。

一番面白かったのは安倍首相と「ゲンダイ師匠」(日刊ゲンダイを擬人化した表現)の相思相愛(?)なやりとりや、『ゲンダイ用語の基礎知識』だ。思わず声を上げて笑ってしまった箇所が何回か……(家で読んでいたので心置きなく笑えてよかった)。

読む前に、「このひと、どういう立ち位置の人なんだろー」とは思ったけど、まあ、読めばわかるだろうと思って読んだけど、んー、まあ、がんばって中立的であろうとはしてるんだと思うけど、どうかしらね、自民党とか安倍政治とかに大賛成ではなさそうな? こんだけ安倍政治おちょくってて民進党とか野党に関する記述がほぼ無いっていうのはどうしてなのかなー。

森元首相が何故オリンピックであんなに権力持ってる位置にいるのか、とか改めて「へー」っていうのもあったな。やっぱ森元首相好きになれんわー。でも半径十メートルのひとにはすごく好かれるタイプらしい……そういうひとがいる、っていうのはわかるけど……。
「安倍マリオ」が何故誕生したのかとかの「憶測」なんかも踏み込んだりしてる。
ナニゴトも、いろいろ思惑があるんだねー。

他にもなんとなく流してしまっている時事問題とかにわかりやすく説明してくれているのがあった。「時事問題をわかりやすく」っていうと池上先生とかですけど、まああそこまで広く丁寧にではなくて、もっとピンポイントで、著者さんのアンテナにひっかかって、なおかつ「エンタメ」になりやすいのをピックアップして書いてくれてある感じかな? 

「オカタイ」新聞が「実はそうでもない?」って感じで興味をもつ良いきっかけになるような、楽しい本だと思う。

目次
はじめに
第1章 新聞はミステリー小説だ
◆「オバマすし報道」に見る読み比べの醍醐味

第2章 朝刊紙はキャラごとのベタを楽しめ
◆各紙には「芸風」の偏りがあって当たり前
◆朝刊紙各紙の「キャラ」を独断で解説する
◆同じできごとの「見出し」「扱いの大きさ」を比べよう
◆世論調査は、質問の言い回しを比べよう

第3章 朝刊スポーツ紙は「芸能界の言い分」を読める
◆スポーツ紙はある立場からの「公式見解」が載る場所
◆スポーツ紙各紙の「キャラ」を独断で解説する
◆「誰からの情報か「誰が得をするのか」を考えよう

第4章 夕刊紙・タブロイド紙は「匂わせた行間」を読め
◆玉石混淆のなかに真実の宝が眠っている
◆『東京スポーツ』の強みは〝匂わせ芸"
◆野球賭博報道に〝匂わせ芸"の真骨頂を見た
◆辛口おじさん『日刊ゲンダイ』は永遠の学生運動

第5章 新聞は下世話な目線で楽しもう
◆難しいニュースも〝下世話な目線"に落とし込む
◆アンチを楽しむためにはまず大元のベタを知れ

第6章 ネットの「正論」と「美談」から新聞を守れ
◆政権のメディア・コントロールに屈するな
◆紙とネットの温度差が悲劇を招いている
◆スポーツ新聞の大仰芸とポリティカル・コレクトネスの予期せぬ出会い
◆「半信半疑力」を鍛えて陰謀論に流されるな
◆もっと〝意識の低い"大人でいいんじゃない?

おわりに