2017/05/07

まぬけなこよみ

まぬけなこよみ
まぬけなこよみ
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津村 記久子
平凡社
売り上げランキング: 10,861
■まぬけなこよみ
本書は「ウェブ平凡」に2012年9月24日から2015年9月18日まで連載された「まぬけなこよみ」に加筆修正されたもの。「お鍋の幸福」「藤棚に入る」は書き下ろし。

このウェブ連載の存在は知っていた。ネットで「津村記久子」を検索したら出てきたので2,3回ナナメに読んだことはあったが例によってネットでは熟読できない性質なので「エッセイか。本になったら読もう」と思っていた。
いまくだんのページを見に行ったら最終回が「第七十二回 ツバメと縁結び」で終わっていた。
単行本で「ツバメと縁結び」は218頁から始まっている。本書は全部で298頁までページ番号が振られている。
ネットのそのページにある「目次」に並んでいる順序で単行本の「目次」は並んでいない。間に違うのが入っていたりする。
そもそも連載は9月下旬から始まっているが、単行本の最初は「初詣」である。
つまり3年にわたった連載を、正月を起点として暦順に並べ直したのが単行本ということであろう。

本書は【脱力系歳時記エッセイ】であり各エッセイの冒頭に「季節のことば」としてテーマとなっている事象を掲載し、各文末に該当時期の二十四節気七十二侯が記されている。
「歳時記」と「津村記久子」といえば、別のエッセイでそういう小説を書いたらどうだろうみたいな言及があって「面白そう~」って思ってこのブログで書いた覚えがあったな、でもこれはエッセイだから思ってたやつと違うな、と調べてみたら
やりたいことは二度寝だけ』の「Ⅳ 作家で会社員」の章(雑誌「本」「文學界」「本の旅人」「yom yom」「群像」、東京新聞夕刊、未来研会報、産経新聞夕刊(大阪版)に2008年~2010年に掲載されたもの)にある「個人的な歳時記」で「すべての行動を歳時記にのっとって生きている人」の話、が書いてあったようだ。
つまり時系列的にこのエッセイを受けて平凡社の編集さんが依頼して、という平仄が合うなあ、ふーん、そうかそうか…。

目次
新年
初詣はめでたくつめたい/かるたの宇宙/一月のエビスマス ほか
冬から春へ
厄除け後のゆるゆる/高校は筆談の彼方に/チョコレートの独特/咳と体 ほか
春から夏へ
自転車の頃/寿司とカーネーション/花咲く通学路/薔薇との距離感 ほか
夏から秋へ
ガラス戸越しの稲妻/土日ダイヤお盆クラブ/手のひらの中の蚊/いつのまにかお菓子 ほか
秋から冬へ
膝掛けを持った渡り鳥/ライフワーク千歳飴/ボタンと夢想/イトガワさんのみかん ほか

目次のごく一部を写してみたが、これを見ていただければわかるようにタイトルだけ見ても別に「なるほど歳時記、二十四節気を意識したエッセイだ」という感じはしない。ごくごく普通の日常エッセイ集のようである。
で、実際頭から終わりまで通して読み終わった感想としても、実はおんなじような感じなのである。
もしそういうのを強く出すのであれば各話ごとに季語をつかった俳句でも詠んであれば最高だったのだが、まあ津村さんは俳句はされないのであろう。
そもそも日本人の日常に季節感はあまりにも浸透しすぎており、我々一般人の日常会話のもっともあたりさわりのないテーマとしてあるくらいだから、季節にちなんだ随筆・エッセイというのは殊更それに特化せずともふつうに書かれてきた。だから逆にそれを「テーマですよ」とするならばかなり意識して作り込んでいかなければ目立ちはしない、――そういうことだろう。

上に挙げた目次の例えば「高校は筆談の彼方に」ってどんな季節のことば? と思ったら「試験」。2月10日くらいの二十四節気は「立春」で七十二侯は「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」、この時期のために書かれたエッセイとのこと。
「試験」って立春の頃の季節の言葉なのか、そうか、試験って年何回かあるけど…高校入試とかは3月の頭くらいのイメージが強いけど…そうなのかなあ。
ちなみに『歳時記』を持っていないのでネットでちょっとググってみたけど「大試験」っていう言葉が出てくるんだけど「大試験」って日常生活ではつかわない言葉のような…やっぱ俳句の世界のルールってことなんだろうか。

純粋に本書の感想を全然書いていないので書いておくと、まあ、いつもの津村さん、だけどあんまり会社ネタは無いかな? 長年二足のわらじをされていたが2012年に退職されて専業作家となった、その後に書かれたエッセイだからというのも大きいか。
ごく幼い頃のことが多い印象。
津村さんのご両親は津村さんが幼い頃に離婚されたというのは他の書でも書いてあったけどその父方のおばあ様についての記述があったりするのが珍しい。他のエッセイではよく出てくるネットで検索するスポーツの事や洋画のことはあんまり出てこない。実際に津村さんが動いて、その時期に戸外でされたことが書いてあるのが多いというのはある意味やや珍しいような気がしないでもない。

血液型がO型ということ、蚊によく刺される、という記述があり、わたしも同様なので大いに共感!
津村さんは昔ぜんそくもちで、風邪をひくということにあんまり拒否感がないみたいなんだけど、これには共感できなかった。風邪はひかないに越したことは無い。咳は本当にしんどいし、周囲にも気をつかうし、会社は休めないし……。
津村さんがじゃがいもがかなり好き(95頁など)で、魚介は駄目(183頁など)、というのは他でも書いてあったのかもしれないが、わたし的には本書で「へえーそうだったのかー」という認識だった。じゃがいもは確かに美味しいですが野菜の中で一番好きとして上げるかというと……わたしは野菜で何が一番好きだろう、そういうくくりで考えたことがまずなかったな! という新鮮な気持ちになる。えーとえーと、ズッキーニとセロリかな? 
千歳飴への熱い思いなどは異邦人を見つめるような気持ちで読んだが、そういえばあれ、最後まで食べきった記憶は無いな、確かに。
コンビニおでんを自分から食べたことは一回もないので津村さんが会社員時代の昼食にかなり入れあげていたというのは(家で食べるおでんとはかなり異なるらしい)なかなか興味深かった(でもこれからも自分で買い求めることはないだろう)。

ほんとにいつも思うが、年齢も住んでいる県も性別もまあまあ近いのに、津村さんの日常とわたしの日常はこんなにも違う、でも、あ、たまに重なる、…というのが津村記久子を読む楽しみであり、面白さである。