2017/03/29

異国トーキョー漂流記 【再読】

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)
高野 秀行
集英社
売り上げランキング: 36,280
kindle版
■高野秀行
昨日の「本日の日替わりセール」で上がってきてあまり考えずに「あ、高野さん」と購入して読みはじめて最初の章は気付かなかったけど途中で覚えている内容に遭遇して思い出した。前は10年前だからもちろん紙の本(文庫。本書は文庫書き下ろし)だったし、ついでにいうと表紙の絵もこんなんじゃなかった。ググったら出てきた。


おーこれこれ。これ、あの章に出てくるひとの似顔絵だな。装丁、南伸坊。

高野さんの本を読んでいると高野さんの外国語習得能力の高さにいつも驚いたり感心させられたりする。
だんだんわかってきて、もはや「ああはいはい、高野さんだから出来るそのスピード習得ね。わたしには無理だからね」と脳内で情報修正しながら読んでいる。本書だけでもベースにまず英語があって、フランス語、リンガラ語、スペイン語、と言語を次々に会得していく。それも、高野さんの場合現地で実用する必要があって学ぶので、どれも会話が出来るレベルになっているのが凄い。
本書は高野さんが高校時代のエピソードが「はじめに」で、第1章が大学2年生のとき、第2章が1986年、章ごとに年を重ねて行き、第8章は2000年のことが書かれている。

なんとなく覚えているのもあったけど、忘れていることがほとんどで、読んで思い出す、とかいうのもあった。安定の面白さ。

目次】の横に書かれている年代を書いておく。覚えのためのメモも記す。
はじめに(高校のときのエピソード ~20年余り経った今)
第1章 日本をインド化するフランス人
(高野大学2年生)
・・・「ブトウ」(舞踏)をやって自己表現をしようとするフランス人ダンサー、シルヴィ。
もっと若いのかと思ったら30歳を越えていてびっくりした。 仏語会話をこのひとに習いに行くのだが、そもそもこういう内容の授業が出来る高野さんがすごいというか、このレベルに達するまでが結構しんどいわけで(フランス語で会話して間違ったら直してもらうとか…既にあるレベルになってなきゃ無理)。
帰国した彼女と2年後パリで再会したときのエピソードがしみじみと感じ入る。
【シルヴィはもう「何か」を探してはいなかった。彼女は達人でないことはもちろん、もうすでに「選びし者」でもなくなっていた。その顔は安らかで幸せそうだた。思わず「よかったね」と声をかけたくなるくらいだ。】

第2章 コンゴより愛をこめて
(1986年の夏休み)
リンガラ語を学ぼうと日本にいるコンゴ人(ジェレミー・ドンガラ)にあたったけど教われず、ザイール人(ウィリアム・サイディ。21歳)を探し当てて習う。
明るくて陽気なウィリーも良かったけど、その後ジェレミーと深い縁が出来た展開がすごく素晴らしくて、お兄さんのエマニュエルさん(色っぽいイメージのある名前だけどキャラが全然違う)の小説が思いもよらない福音となる話も面白かったし、結婚式の高野さんのスピーチには感動しちゃった。

第3章 スペイン人は「恋愛の自然消滅」を救えるか!?
(1989年)
マドリード出身の32歳、パロマ。旦那さんのジョンはイギリス人で【顔立ちの整った穏やかな人】で年下らしい。しかも超らぶらぶで仲良し。なにその羨まし過ぎる設定(設定って云うな)。
このときの著者は初めて出来た彼女に愛想を尽かされかかっており(つきあって半年で3か月放置してコンゴに行ってしまっていたというんだから当然だが)、彼女の気持ちを引き留めようとあれこれもがいているのだが、それがことごとく的外れなのが「若さ」って感じ。「生温かい目」で見守ってしまうとはこのことね。ナナちゃんのプロフィール読んだだけで「そりゃ、タカノは合わんだろ」って多分みんな悟ると思うよ…。

第4章 開戦! 異国人バトルロワイヤル
(1996年も押しせまったころ)
第2章に出てきた作家のエマニュエル・ドンガラ氏が来日。高野さんが勝手に翻訳した彼の代表作『世界が生まれた朝に』が小学館から出版されることになったということで。
彼を案内して日本観光。京都と奈良にも行っちゃうよ。珍しく高野さんとソリが合わない人物が登場して興味深い。

第5章 百一人のウエキ系ペルー人
(1994年の春)
父の観光につきあってギリシア旅行に行った著者。帰りの飛行機でスペイン語を話すペルー人の「ウエキ」と名乗るどう見てもインディオの若者とふとした縁で知り合う。
しんみりしてしまう話。

第6章 大連からやってきたドラえもん
(1998年4月)
怪しいシンドバッド』に出てきた魯先生の息子さん、魯達夫が日本にやってきた。ドラえもんとは彼の事である(主に見た目の印象がそうらしい)。
1993年に著者はチェンマイ大学の日本語教師として就職するが、たった1年で退職した。その後いろいろあって、中国の大連で中国語を教わったのが魯先生だった。

第7章 アリー・マイ大富豪
(1998年。著者【30歳をいくばくか過ぎた頃】。)
フセイン独裁下のイラクで生活してみようと思い、アラビア語の会話を習得しようとする。最初に紹介された日本企業に勤めるサイード氏は【エーゲ海に捧げたくなるような甘いマスク】でイタリア人やスペイン人と区別がつかないタイプだったが、忙し過ぎて語学を教える余裕はなかった。彼が紹介してくれたのが2週間前に日本に来たばかりのイラク人、アリー・スマイル。見た目は「おっさん」で頭髪は薄く、眉毛と口髭と頬髯が濃く、腕も足も毛むくじゃらでまるで熊のようだが、29歳の青年だったという。マクドナルドがやたら出てくるのが時代かなあ。

第8章 トーキョー・ドームの熱い夜
(2000年のクリスマス翌日)
つくばで待ち合わせ。相手は5年前アフリカのスーダンからやってきた留学生のマフディ。高野さんの「外国からやってきた視覚障碍者の話が聞きたい」という希望で紹介された。マフディはなんと日本のプロ野球の熱心なファンで、広島カープのファンだった。ラジオで実況を聞き、かなり詳しい。外国人がどうこうというより、目が不自由なひとについて、という色が濃い。

あとがき

2007年に読んだときの感想はこちら

Amazonで検索したらヒットしたよ! ワオ! 中古の超高い本しか売ってないけど、ホントだ、翻訳:高野秀行って書いてある~! すご~い!!

世界が生まれた朝に
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小学館
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2017/03/28

永日小品 【再々読】

永日小品
永日小品
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(2012-09-27)
kindle版
■夏目漱石
硝子戸の中』を読んだらこちらも読みたくなって。こっちのほうが執筆時期は数年前。
随筆集、でも小説みたいな話もあったりして。
英国の思い出を書いたのがことごとく鬱々としているように感じるのは先入観があるからかな?
一番好きなのは「行列」。漱石絶対子どもの描き方うまいよなあ、子ども好きだよなあ。上質の短編アニメーションにしてほしい。

初出:1909年(明治42年)1月14日より3月14日大阪朝日新聞

目次】に自分の感想メモを付ける。好きな話に
元日:フロックを着ていたのは誰だろう。高浜虚子が鼓を打つ。黒い紋付で。想像しただけで雅だなあ。
蛇:子どものころの思い出か。ちょっと怪談めいて「夢十夜」に入っていてもおかしくない。
泥棒:帯泥棒というのがいたんだね。
柿:喜いちゃんと与吉の攻防。微笑ましい。
火鉢:寒くて仕事する気になれない先生の一日。
下宿:イギリス留学のときの陰気な下宿の話。
過去の匂い:「下宿」の続き。同胞下宿人Kの話。
猫の墓:「猫」が病気になったときはほったらかしだったのに死んだとたん親切になる家族。
暖かい夢:ロンドン留学時の思いなどが表れているような。
印象:小さいころの一種の人混みに惑う感覚。
人間:髪結いの御作さんの話。活写という感じ。
山鳥:貧しい青年の話。しみじみとした味わいがある。ある意味型通りだけど。
モナリサ:古道具屋で女の肖像画を買ったものの、という話
火事:火事を見に行く話。
霧:ロンドン留学中の話。
懸物:老人が大事な懸物を先立つものが無いので売る話、最後の部分が良いなあ。
紀元節:【あれが爺むさい福田先生でなくって、みんなの怖がっていた校長先生であればよかったと思わない事はない。】その気持ちは、ようく、わかる。
儲口:商売が下手なのはこのひとだけなのか、当時の日本人みんなこうだったのか。
行列:家の中で子どもたちが母親の羽織や風呂敷で仮装行列をして遊んでいる様子。非常に微笑ましい。
昔:英国留学時の名所ピトロクリの谷に行った話。
声:下宿へ来たばかりの初々しい学生が近所の親が子を呼ぶ声を聞いて母親を思う話。
金:友人・空谷子との会話。誰かなあ。
心:小鳥と戯れつつ物思う話。
変化:中村是公と2畳(2畳!)で下宿していた時代の思い出。
クレイグ先生:ロンドン留学時に師事したシェイクスピア研究者の先生の話。

前回読んだときの感想(新潮文庫『文鳥・夢十夜』に収録)はこちら

2017/03/23

硝子戸の中 【再々々読】

硝子戸の中
硝子戸の中
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(2012-09-27)
kindle版
■夏目漱石
初出:「朝日新聞」1915(大正4)年1月13日~2月23日

感想を書くのは3回目なのでもう大概書いてしまった感じだが、まあこういうのはずーっと読んでいられる。なんの心配も要らない心地良さというか。
前も思ったことだけど、書いていなかったので今回は忘れないように書いておきたい、漱石の性格がよく表れているなー、と思うエピソード。

三十一~三十二の、小学校時代の、【喜いちゃんという仲の好い友達】との思い出話。
喜いちゃんが子どもらしく家から持ち出してきた本を漱石にウソみたいに安い値段で売っちゃって、後で叱られて返してもらいにきた。漱石は本は返したけど、返金は受け取らなかった、表面だけ見たらそれだけの話である。でもその心のうちでいろいろ考えていることが、その思考が「ははあ……」と大変にこちらを考えさせる内容で。

子どものときからいろいろ難しいヒトだったんだネエ、いやまあ分かるけどその気持ちも、でも実際やったら「まーなんて頑ななんでしょう」と云われかねない。

そしてそれを受けての三十三回は、出来事が珍しく何も書かれず、漱石の葛藤、心情の吐露のようなことが縷々書かれている。
これは三十一や三十二を読むのと同じような調子で一読してもよくわからない。
ん?
と思って今度は一字一句考えながら読む。
けどやっぱりよくわからない。
いや日本語はわかるんだけど。

内容が難しいというんじゃなくて……どうやったらここまで人間を疑うようになるのかというか。嫌な人・理解できない人はそりゃあ、いますけど。うーん。いやこれ、大変ですよ。めっちゃ苦しいよ、こんなこと考えながら生きていたら。
あんな賢い、尊いお方が。ひとに騙される、ということについてのこんなに苦しい気持ちをずっと抱えて生きておられた。
こんなことを考えないといけないとは、いったいどういう体験をしてきたのか(やっぱ養父関係とかでしょうか、詳しくは知らないけど)。
そんな目に遭わせたお前ら、夏目先生を誰だと思ってんだ、そこに正座シロー! そして反省シロー!!
とか言いたくなっちゃう。

そうしてうぐぐぐぐ、と眉根を寄せて読む次の三十四のなあんて爽やかで気持ちの良いエピソードであること!(前半は「アレマー」という感じだが後半、後の付けたしが素晴らしい)。

次いで幼いころのお母様との思い出が語られ、最後はかわいい娘さんたちが焚火にあたる微笑ましい様子で、本作は終わっている。
わたしは場所があれこれ移動しない話が好きだが、これもそういえばそういう話でもあるね(小説じゃなくてエッセイだけど)。

あと、前に戻るけど十六の床屋の話から十七の御作さんの話に至る部分も好きー。
漱石と床屋ってなんか『草枕』思い出して良いんだよね~御作さんの前で初心な感じの金之助萌えー!

前回読んだときの感想はこちら

青空文庫『硝子戸の中』へリンク

2017/03/21

満韓ところどころ

満韓ところどころ
満韓ところどころ
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(2012-09-27)
kindle版
■夏目漱石
香日ゆらのコミックス『先生と僕~夏目漱石を囲む人々』全4巻を何度めかで読んでいたら漱石先生と是公の話を読みたくなって、青空文庫からこちらを¥0でダウンロード。
恥ずかしながら、初読み…。
漱石の作品は高校生くらいのときから有名作品を中心に新潮文庫で少しずつ読んだけど、この紀行文は入っていないし。気に入った作品こそ何度も読み返したけど、全作品・手紙類を全集で読もうとか、人物について文献を調べまくるとか、そういうことは漱石先生に関してはしなかったので。っていうか下手に調べて「理想の先生像」を崩したくないとか妙なことを考えていた…。
文庫だと岩波文庫『漱石紀行文集』ちくま文庫『夏目漱石全集<7>』に収録されている模様。

「満韓ところどころ」というタイトルだが、南満州からスタートして、旅そのものは韓国にも至ったらしいのだが、朝日新聞での連載は韓国に行く前に終わっている。っていうのはゆらさんの漫画にも描いてあったけど、実際読んでいって、その終わり方のあまりの「ブッツリ」ブツ切り感にびっくりして何度か確かめてしまった。連載終了へむけてのまとめとかそういうのいっさい無いんだね…。言い訳もないし。打ち切りなのか、漱石先生の意志なのか。
ま、このへんもちょっと調べたらわかるんだろうけど、あえて調べないでおく。

この旅は先生の学生時代からの友人、中村是公、当時の南満鉄道会社の総裁だった人物に誘われたことがきっかけなのだけど、年号が記されていない。先生の胃の調子が悪そうだ。
後で調べたら、明治42年なので、42歳の秋の旅行だったようだ。
とにかく胃が悪くて身体がつらそうな描写がずっと出てくる。
それが原因で、精神的、気持ち的にもかなり具合が悪そう。
周囲に対して八つ当たりしているような無茶苦茶な屁理屈や意地悪な思考がしょっちゅう出てくる。

この本、満州が舞台なので中国のひとが先生の目に入ってそれについてマイナスなことがたくさん書いてあって差別用語も書いてあって普通に読んでいて青くなったくらい「うわあっ」って感じなんだけど(現代の人間はまず使わない言葉や表現が頻出する)、よく考えたら別に中国のひとに対してだけじゃなくて、向こうで一緒になって世話になっている日本人とかにも自分が行けないときとかかなり底意地の悪いこと書いてたりするんだよね…。

つまり、この旅で漱石先生は、ほぼずっと機嫌が悪かった。
というスタンスで読めば理解しやすいのかもしれない(特定の民族を差別してるわけじゃないと思いたいファン心理である)。
それを作品に出しているのがイイとは云わないけど、まあ、素直に書いてあるとも云える。
別にずっと悪口ばっかりじゃなくて中国人のひとを誉めている部分もあるしね。
でもまあ、結局は「そういう時代、空気だったのかなー」とは思う。漱石みたいな知識人でもこんなんか、とびっくりしたけど。

しかしせっかく中国行ってるのに全然観光、紀行文になってないね!
つき合うのは向こうにいる日本人ばっかりだし。
中国のひとで固有名詞出てきた人っていたっけ?
なんで外国なのにこんなに日本人(しかも同じフィールドのひと)しか出てこないんだ?って思う。

どうも是公は満州鉄道のPR的な効果があればいいなーくらいのことは考えていたっぽいんだけど、漱石はあえてそこを外していったんでは、的な鏡子夫人の発言はなかなか鋭いと思う。

本書はだから「当時の満洲の様子が知りたい」と思って読んでいると欲求不満。
「漱石の文学関係以外の人間関係をちょっと覗きたいわー」という興味で読むと是公が風呂に呼びに来るシーンとか「すげえな」とその親しさぶりにわきわき出来ます(?)。
文学関係ないシーンでの「人間・夏目金之助」が読めるというのも興味深いし。
基本夏目漱石好きですから。
結果、かなり面白かった。

後半は是公が全然出てこなくなるのでちょっと退屈かもーとか思ってたらこのあたり是公、大変な事件にニアミスしてたり…!(本文では一切触れられていない)。
長さはkindle版で2112ページなので、これ一冊で文庫にするにはやや薄いか。
でも歴史とか、出てくる人間のこととか、調べ出したらかなり奥が深そうで、面白そうではある。ややこしい時代すぎて地雷だらけだから気軽にはタッチできないけどね!

ウィキペディアでちょっと関係ワードを引いておきます「満韓ところどころ」「中村是公」「南満州鉄道」「満州」。

ちなみにわたしなんかは「満州」というと「満州国」をすぐに思いうかべてしまうのだけど、漱石が旅したのは1909年(明治42年)9月2日から10月14日まで。満州国は1932年から1945年。
1909年の満州がどうなっていたかというと、さっき上に貼ったウィキペディアをご覧いただくと【1904年から勃発した日露戦争は日本の勝利に終わり、上記の条約によって確保されていたロマノフ王朝の満洲における鉄道・鉱山開発を始めとする権益の内、南満洲に属するものは日本へ引き渡された】そこから5年後ってことですね。

先生と僕 ~夏目漱石を囲む人々~ 3<先生と僕> (コミックフラッパー)
KADOKAWA / メディアファクトリー (2012-10-12)
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漱石紀行文集 (岩波文庫)
漱石紀行文集 (岩波文庫)
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岩波書店
売り上げランキング: 56,953

夏目漱石全集〈7〉 (ちくま文庫)
夏目 漱石
筑摩書房
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2017/03/19

本屋さんに憩う 第11回

某月某日
地元書店。
イイ感じで非常に気になった本。帯が木皿泉さんだー。
…ちょっと、今日のところはどうするか、うーん。
保留。


2017/03/17

本屋さんに憩う 第10回

某月某日
会社最寄駅の小さい書店。

ちょっと気になったけど購入はしなかった本。

丘の火 (野呂邦暢小説集成8)
野呂邦暢
文遊社 (2017-03-06)
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みすゞと雅輔
みすゞと雅輔
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松本 侑子
新潮社
売り上げランキング: 52,685

生成不純文学
生成不純文学
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木下 古栗
集英社
売り上げランキング: 33,245

購入したのは以下2点。発行日は奥付から。

内田洋子『ボローニャの吐息』小学館/2017年2月27日刊

ボローニャの吐息
ボローニャの吐息
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内田 洋子
小学館
売り上げランキング: 6,849

江弘毅・津村記久子『大阪的(コーヒーと一冊)』ミシマ社/2017年3月25日刊

大阪的 (コーヒーと一冊)
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江弘毅 津村記久子
ミシマ社
売り上げランキング: 9,625

2017/03/15

島へ免許を取りに行く

島へ免許を取りに行く (集英社文庫)
集英社 (2016-06-03)
売り上げランキング: 39,806
kindle版
■星野博美
お笑いコンビ「バイきんぐ」のネタにこんなのがある。

久しぶりに学校に戻って来た卒業生。校内のあちこちに目をやり、懐かしがっている。
煙草を吸いに出てきた教師に気付き、懐かしげに感動して声を掛けるが、教師の方は至ってクール。「覚えて、ないねえ」と淡々としている。
生徒と教師が久しぶりに会ったら、多くの先生は覚えていてくれて懐かしがってくれるものなのに…と違和感を感じていると、教師がこう言い放つ。
だってここ、自動車学校だからねえ!
ドッカーン、客席から大爆笑が起こる――。

つまりまあ、一般的に、自動車学校の生徒と教師の関係なんて一時的なもので、例えば中学校とか高校のような関係はない、ということが共通認識としてあるからこのコントは成立している。

しかし本書を読み終えたとき、わたしは思った。
星野さんと「ごとう自動車学校」の場合は、卒業後何年か経って星野さんが訪ねて行ったとしても、先生の側も彼女を覚えていて、懐かしがって喜ぶに違いない、と。

それはこの学校で星野さんが普通の合宿免許より取得まで時間がかかって長めに滞在したというだけのことではない。
星野さんと学校の先生の間で、自動車免許を取得するための実際的、事務的なやりとりだけではない「人間関係」が成立していたからである。

本書は星野博美さんが44歳にして初めて自動車学校に通い、第一種運転免許を取得しようと奮闘する日々を書いた、明るいタッチのルポタージュだ。

あまり苦労せずに、スムーズに仮免取得、卒業検定合格となった方にはあまり共感するところは無いかもしれない。
しかしS字カーブやクランクに苦戦し、なぜみんなできてることなのに、自動車の運転とはこんなに怖く、難しいのかと悩んだことがある方にはかなり頷くところ多いのではないだろうか。

わたしは27歳のときに教習所に通いで免許を取ったが、それでも周りはハタチそこそこの学生さんがほとんどなので「世代が違うな」と感じたが、星野さんはもっとだった。でもこのくらい離れていた方がかえって話易いというのもあるのか、あと何よりキャラクターも違うし、「合宿免許」で学校の宿舎に泊まり込んでいることもあり、学校の職員さんや生徒さんたちと結構交流している。この自動車学校では馬や犬や猫などを飼っていて、厩舎があるのでそこで世話をするひとと仲良くなったり。
東京や街中の教習所と違って、島で自然と動物に囲まれた場所で、通ってくる生徒たちはほぼ地元の子らで、という環境。会話の中で自然に島の女の子がみんな結婚が早くて若いお母さんが多いとかもわかってくる。島なので物価が高いとか、釣りが趣味が多いとか、新鮮な魚介が当たり前だとか…。
都会から離れた島での暮らし、といえば先日読んだ内澤旬子『漂うままに島に着き』だが、まああそこまでガッツリではないが、そういう雰囲気が好きだったら本書も面白く読めるのではないだろうか。

星野さんの運転は上手くはないらしいが、かなり慎重で、速度もルールもきっちり守った運転だそうだ。駐車と車庫入れが苦手というのがおおいに共感。地図が読めるというのは強いよなあと思う。道を覚えるのも得意そうだし。

五島自動車学校のホームページに行ってみたら、ちゃっかり星野さんの本書が紹介されていたので笑ってしまった。
やーでも、いい学校。校長先生は、お元気なのかしら。

時期的に『戸越銀座とつかまえて』執筆~推敲・修正~出版までの期間とかぶる、のでこの2冊の年号が書いてある記述を元にちょっと整理してみた。
ネタバレ?しているので『島へ免許をとりに行く』未読の方で白紙で読みたい方はスルーしてください。

2004年9月 愛猫「しろ」を亡くす。
2005年春 実家で飼っていた猫「たま」を亡くす。
2006年暮れ 実家へ帰る決心をつけ大家さんに報告する。
2007年1月 愛猫「ゆき」を連れて実家に戻る。
2008年7月~2009年9月 「週刊朝日」で「戸越銀座でつかまえて」を連載する。
2010年初頭【ここ二、三年で築いた人間関係がズタズタに壊れた】【愛猫、ゆきを亡くした】→自動車免許を取ろうと決意。
2010年4月20日福岡着。21日「ごとう自動車学校」入学。
2010年5月18日 卒業検定。
2010年5月25日 東京の鮫洲運転免許試験場で筆記試験を受け、免許取得。
2011年5月号~2012年3月号まで「すばる」に「島で免許を取る」を隔月連載。

2012年9月『島へ免許を取りに行く』単行本刊。
2013年9月『戸越銀座でつかまえて』単行本刊行。

2017/03/13

巨流アマゾンを遡れ

【カラー版】巨流アマゾンを遡れ (集英社文庫)
集英社 (2014-06-26)
売り上げランキング: 138
kindle版
■高野秀行
日替わりセールで購入。
本書はなかなか変わった来歴というか、そもそも最初に当時早稲田大学6年生(6年生?)だった著者に持ち込まれた企画はあの「地球の歩き方」だったという。つまり、ガイドブックですよね。
でも本書を読んでみればわかるけど、これはガイドブックじゃなくて旅行記・旅行体験記だ。
どういうことかというのは【文庫版あとがき】に詳しいけど、要は、ガイドブックを書くつもりがこうなっちゃったらしい。
アマゾンの船旅』(地球の歩き方)ダイヤモンド・ビッグ社 (1991/09)

単行本には体裁を整えるためにガイドブック的なページもあって、本書本文にある部分はかなり活字が小さかったらしい。出版社側も【地球の歩き方】シリーズとしては扱えず、書店では文芸書扱いもされず、つまり扱いに困られ、売れなかったそうである。
2003年3月に改題して集英社で文庫化したときは、ガイド部分やカラー写真をを削ってしまったそうだ。単行本はどんなだったんだろうと興味がわくが、元々あんまり刷られなくて絶版になって久しく、ためしにAmazonで見てみたら8千円くらいの値がついている。ちょっと買えないな! そこらの図書館でも置いてないだろうなー。
kindle版はこの集英社文庫を底本にしているんだけど、電子書籍版特典として巻末に写真が多数収録されているのが嬉しい。注釈が無いのでよくわからないのもあるんだけど。

内容は、別にアマゾンに特に興味が無いのにも関わらず、かなり面白かった!
高野さんは1966年生まれ(って、先日読んだ星野博美と同い年かあ)で、本書中の年齢は24歳くらい。1枚だけ、高野さんが写っている写真があるが、わーロン毛! 若ーい!
文章とかもほぼ違和感なくて、あっというまにいつものタカノ・ワールドに引き込まれた。

アマゾンというとまあとにかく広いわけで、しかしまずアマゾンにたどり着くまでで既に長い。もっと直接アクセスする方法もあるみたいけど、そのへんは高野さんたちのやり方というか。序章で日本からブラジルはサンパウロに飛んでそこから陸路をバスでリオ(6時間)→サルバドール(36時間)。観光したようなのだが2行くらい書いてあるだけ。で、ここからようやく、アマゾン河口の街ベレン行のバスに乗る。34時間後、無事到着。で、めでたく第1章が始まるわけだ。

とりあえず1990年前後の、今から約30年前の情報だというのは踏まえたうえで。
印象に残ったことなど。
虫(蚊や蚋など吸血でかゆくなる系)がずっとつきまとうから蚊取り線香(日本製じゃないと虫が落ちない)と蚊帳(目が細かいもの)が必須。
川を船で上って行く。船内では各自、綿の布でハンモックを吊るしてそこで休む。
ピラニアに人間が襲われたという話は聞かない(釣りのときに指を齧られたとかはある)。
ピラニアの歯は唇で隠れている?(むき出しのキバはやらせ?)
原住民が昔ながらの集落で住んでいるところは保護区のようになっており、そこを調査目的などで管理しようとした白人が襲われ出したのは近年になってから。それは自分たちの環境が壊されることへの危機感から。

本書で一番印象に残っているのは、第7章。逆ルートからアマゾン入りした著者の後輩宮沢さんの身に1ヶ月の間に起こった話だ。
到着早々身ぐるみ剥がれて、大変な目に遭ってその後周囲の人に助けられたりして最終的に行商人のグループに入れられて物売りになっていた。そして彼らは市場で偶然再会する…。
凄過ぎる。逞しいというか、やっぱ怖いなーと。でも捨てる神あれば拾う神あり? 貧しい商人たちがなんのかんの利用しつつも助けてくれているところがイイナアと。もっとヤバイ人に関われていたらどうなっていたことか!
というわけで本書の旅行メンバーは著者と写真家の鈴木さんと宮沢さんのトリオなんだけど、この章以外でそのへんの記述が無いのは「旅行記」じゃなくて「ガイドブック」だから常に一緒にいるけど書いていないってことみたい。

意外だったのは文明化されていない未開の秘境探検だからいろんな不便や衛生状況の悪さ、食べ物の合わなさがあるかと思ったんだけどそういうのがほとんど出てこない。これは、著者がどんなところでもテキオーしてしまう高野秀行だからだと思う(どきっぱり!)。
あと、語学能力の高さはこの本でもそこここに見受けられる。ポルトガル語とかスペイン語とか、なんでそんなにさくさく会得出来るんだ?

読後、本書に出てきた街の名前などを探してグーグルマップでアマゾンらへんを見てみた。その広大さにおののく。まだまだこのへんはストリートビューに載っていないところがほとんどだなあ(当然か)。

目次
はじめに
序章 アマゾンへ
第1章 旅は市場で始まった〔ベレン〕
第2章 出航〔ベレン―ジャリ〕
第3章 奇妙な町の奇妙な住人〔ジャリ〕
第4章 世界でいちばんすごい名前のホテル〔サンタレン〕
第5章 加熱する都市〔マナウス〕
第6章 水と森と時間〔テフェ〕
第7章 日本人の行商人に会った話〔テフェⅡ〕
第8章 南国の楽園にハマる〔ジュタイ〕
第9章 船もたまに沈みそうになる〔ジュタイ―タバチンガ〕
第10章 ごたまぜの国境地帯〔タバチンガ/レティシア〕
第11章 インディオと呼ばれる人々〔レティシアⅡ〕
第12章 コロンビア・コカイン・ストーリー〔レティシアⅢ〕
第13章 最後に出会ったアマゾン中のアマゾン〔イキトス〕
終章 アマゾン源流〔カイヨマ・ミスミ山〕
文庫版あとがき
電子版特典写真

アマゾンの船旅 (地球の歩き方・紀行ガイド)
高野 秀行 鈴木 邦弘
ダイヤモンド・ビッグ社
売り上げランキング: 820,733

2017/03/12

本屋さんに憩う 第9回

某月某日
近所の本屋。本日購入なし。

装幀室のおしごと。 ~本の表情つくりませんか?~ (メディアワークス文庫)
範乃 秋晴
KADOKAWA (2017-02-25)
売り上げランキング: 11,833
おお、良いね! 校閲の次は装幀にスポットライト!

成功者K
成功者K
posted with amazlet at 17.03.12
羽田圭介
河出書房新社
売り上げランキング: 3,905
受賞以来テレビで何度も見かけて面白いキャラクターの方なので一度何か著作を読んでみたいと思ってずっとチェックはしているのですがことごとく自分の好みから外れていて非常に残念なのでありました。

2017/03/08

戸越銀座でつかまえて

戸越銀座でつかまえて (朝日文庫)
星野博美
朝日新聞出版 (2017-01-06)
売り上げランキング: 269,117
kindle版
■星野博美
1966年2月生まれの星野さんは就職を機に戸越銀座の実家を離れ、中央線沿いで暮らしてきた。ざっくり18年半。
その彼女が2007年の1月末に実家に戻った。
その理由やそこからの1年間をベースに日々の思いを綴ってあるのが本書である。
初出は「週刊朝日」2008年7月から2009年9月だが、
当時、一人暮らしを断念して実家に戻った経緯を素直に認めることができず、その点を回避しながら】だった。だから、連載終了後単行本化の話が出たが、うんと言えなかった。そのあたりの自分の感情に整理がつき、認められるようになって、それを言語化したら、【鉛筆が進み始めた。そして結局、連載時の原稿のおよそ半分は捨て、あらたに書きなおすことにした。敗北を認めるまでに六年以上かかってしまった】。
勿論これを「敗北」とするのが正しいとかそういう話ではない。
星野博美の2013年の思いがそう綴っている、ということだ。

著者はこの葛藤期間に別の著作を2冊、上梓している。2011年『コンニャク屋漂流記』2013年『島へ免許を取りに行く』。そちらも是非読んでおきたい。

本書の単行本「あとがき」の日付は2013年8月9日である。
本書は2017年1月30日に朝日文庫となり、ほぼ同時期にkindle版も出た。
kindle版なのに解説が割愛されていなくてきちんと収録されていて、おまけに解説を書いているのが平松洋子なのでかなり嬉しい。というか、電子書籍版で解説が無ければ今回は紙の本を買おうかと思っていたが、商品説明に収録されているふうに書いてあったので…。有難い。
先日読んだ『転がる香港に苔は生えない』はkindleで7480P、本書は3059Pなので半分以下。
日本の、同時代の日常を描いたエッセイなので、さくさく読める。

実は結構重たい内心をはらんでいる、というのは「まえがき」「あとがき」「文庫のためのあとがき」などを読めば一目瞭然なのだが、本編のエッセイはわりと軽めの調子で書いてあることが多く、まあそのへんは、著者も作家だから、内心の葛藤をそのまんま出したりはしないわけで。むしろ「まえがき」「あとがき」でよくぞここまでぶっちゃけてくれたなと。本書は実は傷だらけのハートからだらだら血を流しながら書かれていた、とかいうとすんごい陳腐な言い回し過ぎてあれなんだが。

いやー……。

読み終えて。
何て感想書いたらいいのか全然わからなくて、しばらく……考えたんだけど。
ネットで他の人の感想ググったら「爆笑した」とか書いてるひとがいて、本当に、驚愕したんだけど。

わたしは本書を買うかどうか迷ってサンプル版が「まえがき」までだったので「まえがき」だけ都合5回くらい読んだんだけど、そこでの悲壮なまでの著者の「己の腸を日本橋の真ん中でさらすような」決意をぎゅうぎゅう感じて、意を決して本篇をよむことにしたせいなのか、本書をそういうふうには読めなかったんだけど、うーん。
まあ、ユーモラスに書いてある、というふうに読めるのも確かにある。
でも本書の大半は「怒り」で出来ていて、後は愛猫さんたちへの「愛」とそれを失ったときの「深い悲しみ」。

星野さんは生まれ月なども考慮するとわたしより約9歳年上なのだが、彼女が戸越銀座に戻った時がちょうど今から10年くらい前だから、現在のわたしと本書中の彼女はほぼ似たような年齢である。そういうこともあって、共感できるところもあったけど、正直あんまり共感できないところも多かった。
「なんでそこまで頑ななの…」「なんでそんなことでそんなに怒りをあらわすの」と驚くことが多かったか。でも、理解は出来なくとも、彼女が絶望的に傷ついて、なお、闘っていることは痛いほど伝わってきた。
だからわたしは本書を眉根を寄せながら、苦しみを忖度しながら読んだ。

どうして星野さんがここまで苦しんだり、本音を隠したりしなくちゃいけないんだ。
いや、客観的に見ると、全然、そういうふうに卑下しなくていいのに、とも同時に思う。
ちょっとガチガチに凝り固まり過ぎではないのかとも思った。
でも、結局のところ、そういうふうに彼女をさせる「世間の目」が「社会」がもっと変わって、柔軟に、いろんな生き方をほっこり認めてくれていたら、こんなエッセイは生まれないはずなのだ。

しかし星野さんは負けてはいなかった。本書を書きながら、【書くことで長いリハビリをしていたような気がする】。
星野さんが戸越銀座に戻ってから、10年。「あとがき」で前向きな言葉にたどり着いていた彼女は「文庫のためのあとがき」でさらに柔らかく、大きな視点で当時を、過去を、そして現在から未来を俯瞰し、最後の最後で肩の力が抜けたユーモアを含んだ、こちらもほっとして微笑みたくなるような文章を綴ってくれている。

目次
まえがき●自由からの逃走
第一章 とまどいだらけの地元暮らし
二つの町/妻妾同居/奥さんと大根/ティッシュは差別する/戸越銀座の時代/人を美しくする仕事/レレレのおばさん/バナナと茶室/目的地は遠い/ウィンナーコーヒー
第二章 私が子どもだった頃
仔猫と旅人/えこひいき/おままごと/ぼくのゆめ わたしのゆめ/本嫌い/夢の地下手/エベレストでアロハシャツ ほか
第三章 あまのじゃくの道
負け猫と負け犬/時間よ 止まれ/行列のできる国/せーらとわるつ/スシ食いねえ/また今度/健康センターの小宇宙/クリスマスの呪縛/食い逃げ ほか
第四章 そこにはいつも、猫がいた
皆既日食/時差/入院/冬の訪れ/窓辺のランプ
第五章 戸越銀座が教えてくれたこと
二〇一一年三月十一日/防災訓練/大切な彼と彼女/やぎさんゆうびん/井戸端会議/ループ会話/空き巣
あとがき
文庫のためのあとがき 敗者の兵法
解説/平松洋子

2017/03/05

本屋さんに憩う 第8回

某月某日
地元だけど違う沿線の小さな本屋→近所の本屋
出掛けたついでに池辺葵の漫画を探しに行ったら1軒目に無かったのでハシゴすることに。

気になったけど買わなかった本。

dancyu 日本一の野菜レシピ [愛蔵版] (プレジデントムック)

プレジデント社
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↓家に帰ってネットで検索したら2014年5月に出たこれの再編集らしかった。

dancyu日本一の野菜レシピ (プレジデントムック dancyu)

プレジデント社 (2014-05-16)
売り上げランキング: 78,707

↓カラーページが最初のほうしか無かったのが惜しい…。
海駅図鑑 海の見える無人駅
清水浩史
河出書房新社
売り上げランキング: 3,224

購入したのは以下2点。

日本の仏研究会『イラストでわかる日本の仏さま』KADOKAWA/中経出版 2014年9月26日刊

イラストでわかる 日本の仏さま (文庫)
日本の仏研究会
KADOKAWA/中経出版
売り上げランキング: 9,463

池辺葵『雑草たちよ 大志を抱け』祥伝社フィールコミックスFCswing/2017年2月刊 

雑草たちよ 大志を抱け (フィールコミックスFCswing)
池辺 葵
祥伝社 (2017-02-08)
売り上げランキング: 11,809

2017/03/04

転がる香港に苔は生えない

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)
文藝春秋 (2015-07-17)
売り上げランキング: 39,959
kindle版
■星野博美
1997年7月1日、香港返還。その日を自分の目で、肌で感じたくて、私はこの街にやってきた。故郷に妻子を残した密航者、夢破れてカナダから戻ってきたエリート。それでも人々は転がり続ける。「ここは最低だ。でも俺にはここが似合ってる」。ゆるぎない視線で香港を見据えた2年間の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
文春文庫ホームページより。

本書は2000年4月情報センター出版局から単行本上梓、2006年10月文春文庫化、の電子書籍版である。
やっと、読んだ、という感じだ。
この本の存在をいつ知ったかははっきりしないのだけど、星野博美という作家の名前イコールわたしにとってはこの本の著者であった。近著がAmazonのオススメなどで上がってきて興味がわいても、「星野博美の本を読むならまず『転がる香港…』を読まなきゃ始まらない」という認識だった。
読むのが遅れたのは、まず「香港」に対して興味があんまり無い、ということがひとつ、それに対して本書が結構重量級であること(kindle版で総ページ数が7480ある)、絶対ガチの本気のルポだっていうこと。
気軽に手を出し難かった。
2015年7月に電子書籍版が出たときもチェックして、サンプル(冒頭の試し読みが出来る)をダウンロードして読んでみたけどやっぱり「長い」からよほど「気合い」が入らないとおいそれと購入できなかった。

このたび「読みたい」欲求がフルになって満を持して読んでみたんだけど、まーこれが……、
めちゃくちゃ面白い!(>遅いわ!)
難しいことや政治的なことはほぼ出て来なくて、星野さんの等身大の目で見て鼻で嗅いで手で触って歩いて感じた香港の、生活と日々の記録。
昼休みと通勤のときと家で空いた時間があれば読んで足かけ5日かかったけど、なんていうか、「充実」した読書体験というか。みっちり肉が詰まっている、どこを読んでも「実感」で埋まっていて、流して書いた箇所がちっとも無いというか。
ラストの〆のパートは流石に「まとめ」の文章になっていたけど、そこで初めて「ああ、頭の回線が切り替わったな」ってしみじみ感じるくらい、フルパワーで香港と格闘している「実態」が書かれていた。

星野さんは1966年生まれ。1986年8月に中文大学の交換留学生として香港にやってきた。当時20歳。そして10年後の1996年8月、再び香港に戻って来た。30歳。それは1997年7月1日の中国への返還を見届けるために。
だからこのルポも当然そこで終わるんだろうと思って読んでいたのだが、その後も1年以上、香港に居続ける(正確にはビザの関係で細かく出入国を繰り返すのだが)。本人も最初はそのつもりだったらしいが、【いつ頃心変わりしたのかは覚えていない。ただ返還が終わった時点で、あと一年ぐらいはいるのではないか、と漠然と思っていた。
別に香港で「安定」していたわけではない。安くて狭くて汚い部屋を借りているから「旅行者」ではなくて「住んでいる」感じではあったが、これは本文で後でも出てくるが、所詮は「一時的な滞在」という気持ちなのはわかった。だから読んでいて正直「え?帰んないの?」って思ったけど、同時に「そうか、まだ香港とオトシマエつけてないから帰れないのか」とも思った。

香港に行ったことは無いし、「百万ドルの夜景とか? 買い物したり、飲茶したり。中国だけど、イギリスの植民地だったから、中国本土とは違う文化があるのかな」なあんて曖昧なイメージしか無かった。書いてて自分で情けなくなるけど。
本書で出てくる香港は、そのイメージと全然違った。
もちろんここに書かれている香港は1996年~1998年くらいの香港だ。今から20年も前だ。
っていうか、たぶん、星野さんの当時の経済状態と、住んだ地域とかのせいもあるんだろうけど。深水埗という街で、日本で言うと秋葉原が近い……のかなあ、それのもっとごちゃごちゃした質の悪い感じ、だと思う。

香港はとにかく住宅事情が酷くて、日本じゃ考えられないようなことがいっぱい書いてあって、読みながら「無理だ」と何回思ったか。
星野さんの住んだ部屋には洗濯機が無い。クリーニング屋やコインランドリーなんて単語すら出てこなかった。じゃあ、どうするか。手洗いである。窓から竿伸ばしてそこに干すんである。でもそこは上から謎の汚水が振ってくるような町である。だから白い服は着れなくて、汚水で汚れても目立たない濃い黄色がおすすめ。もちろん質の良い服なんかもったいなくて着れない。

日本人が観光で行く香港や、日本人の海外駐在社員が住むような地域は、たぶんわたしのイメージの中の香港に近いんだろう。
たまに星野さんが日本人の知人と会うためや、そういう場所でしか売っていない質の良い食べ物などを買いに出かけると、着ている服装がアイロンもかかっていない安物のシャツだったりするので周囲から完全に浮いて、白い目で見られる。そういうことが書いてあった。
日本でも、「ワンマイル服」とか言うけど。近所のスーパーに買い物に行く格好で電車に乗ったり百貨店には行けないとかそういう感じ。でも日本では近所のスーパーでも質の良いものも売ってる。香港はそうじゃないらしい。

一時的な滞在者ではあるけれど、星野さんは地元の人たち(学生時代の縁だったり、住んでる近所のお店のひととか、芋づる式に知り会ったひととか)とどんどん友人になっていって、そこに住むひとたちの思いや考えていることを追っていく。
目次の次に【人物紹介】というのがあって、22人の主な登場人物の紹介がされているけど、それ以外にも本書には実に多くのひとが出てくる。
特にキイというか、強い印象を持ったのは、阿琳(九龍城塞で出会ったまんじゅう職人・35歳)、阿強(中文大学の同級生・34歳)、子俊(近所のカフェ新金豪茶餐庁のウェイター・「美少年」21歳)の3人。
阿強の屈折した感情や物言いには腹を立てたりもしたけれど、このひとの人生は「当時の」「香港だから」、そしてその負の感情が生々しく出てくるところがやはり忘れ難い。
子俊は博美のアイドルというか、これほとんど「恋」だよね…9歳も年下だから個人的にはちょっと共感できないけど。でも彼の素直さや明るさは本書を読んでいて一服の清涼剤のようだった。
阿琳は、著者が香港に来た原点みたいなひとだから。そしてこの本の主筋でもある。彼はどういう風に生きて、いなくなってしまったのか。

香港では家族や友人との人間付き合いが濃厚で、「誰それの紹介」「誰それの知りあい」というのが強力なコネになる。それは、買い物ひとつとってもそう。衛生観念はとてつもなく低そう。食べ物は新鮮を重視され、香港人は冷凍の鶏なんか誰も見向きもしない。既婚者になってはじめて一人前、大人扱いされ、独身だと非常に片身が狭い。外国のパスポートを手に入れるのがすごいステイタス。香港人は大陸人を見下している。香港人は日本の流行には敏感だが、日本が好きなわけではない。香港人のつきあいはまず経済状態をつまびらかにすることから始まる。奢り奢られることで人間関係が深まっていく。etc,etc…。

20年前の香港の情報なので、いまそれを知ったからって何の役にも立たないのかも知れないのだが、そんなことはさておき、目の前に次々に出てくる「知らなかった香港」にわあわあ・どきどき・わくわく・時にぞわぞわしながらページを繰る手を止められない、面白さだった。

外国に住んで、地元の人の懐まで入り込んで、濃厚なルポを書く……というとイタリアの内田洋子もそうなんだけど、住んでいる国も、経済状態も、いろんなことがまったく違って、まったく違うのだった。もう、それは、見事なくらい、全然、違う。
星野さんの他の著作も是非読まねば。
このひとの書くもっといろんなことが知りたい。

目次
一九九六年八月一九日、香港時間午後一時四〇分
第1章 香港再訪
彼に何があったか、何もきいていないのね/旧友との再会/中文大学の同窓会/人民公社は修道院に似ています/移民したい女 他
第2章 深水埗
奇妙な住所/唐楼の窓から見えるもの/眠らない街・鴨寮街/清貧の挫折/四つの名前を持つ女 他
第3章 返還前夜
消えゆく植民地は金になる/香港人はなぜ住所を隠すのか/移民の街の「新移民」/誰かの気配/君と教養に満ちた会話ができないのは本当に残念だ 他
第4章 返還
俺は家族と一緒に暮らしたいだけなんだ/そして彼はいなくなった/植民地最後の夜/七月一日の夜明け/あなたはどうやって返還を迎えましたか 他
第5章 逆転
金の話/あっけらかんとした密輸/大陸と香港のはざまで/香港は日本を崇拝する?
第6章 それぞれの明日
鶏のない正月/裏返しの地図/偽物天国/シェリーの落ち着かない幸福/何となく民主的 他
第7章 香港の卒業試験
潮時/私の隣人/肖連との再会/君は最初、あの席に座っていた/再見香港
二〇〇〇年三月一五日、日本時間午前二時二〇分
浅い眠りの中で見る夢は