2017/01/28

アヘン王国潜入記

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)
集英社 (2014-06-05)
売り上げランキング: 559
kindle版
■高野秀行
1月19日のkindle日替わりセールで購入。
高野さんの本はよく日替わりセールで取り上げられており、安く読めて有難いけどこんなんで氏の印税は大丈夫なのかとちょっと心配になる。
本書は1998年10月草思社刊『ビルマ・アヘン王国潜入記』が2007年3月『アヘン王国潜入記』に改題されて集英社文庫となったものの電子書籍版である。解説は割愛されている。【カラー版】となっているがkindleはモノクロ表示しかされないのでまったく意味がなかった。

高野さんは単身、1995年10月から翌年5月にかけて約7か月のあいだ中国との国境地帯にあるビルマの反政府ゲリラ・ワ州連合軍の支配区に滞在した。そこは当時、世界最大の「麻薬地帯」「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれるところだった。
もちろん正規に日本人として、はそんなことは許されないので、【前日に金を払って作ってもらった真新しい通行許可証】で【ビルマ国籍の者で、「中国領での所用を終えてビルマ側へ戻るところ】というふうに成りすまして中国・雲南省から入国したわけである。

何故そんなややこしいところに行って、しかも半年以上も滞在したのか。それは「プロローグ」に詳しく書いてあるが、ざっくりまとめてみると、
①探検好きの著者は「未知の土地」への限りない憧れがあるのだけれど、地球上のあらかたの「秘境」は探検つくされてしまっていて、今や「秘境」なんて本当にヤバイところぐらいしか残っていない。
②いろいろ調べていくうちにジャーナリストの多くの捉え方とは違うアプローチで「ゴールデン・トライアングル」を理解したい、【村に滞在し、村人と一緒にケシを栽培し、アヘンを収穫してみよう、そのうちにそこに住む人びとの暮らしぶりや考えていることが自然にわかるにちがいない】と考えるにいたった。
――というところらしい。

文庫版あとがき」にこうある。
作家であれ、ライターであれ、ジャーナリストであれ、およそ物書きであるなら誰にでもその人の「背骨」と呼ぶべき仕事があると思う。
とにかく、「自分はあれを書いたのだ」と心の支えになるような仕事だ。
私の場合、それが本書である。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろく書く」というのが最初の本を出して以来、約二十年変わらない私のスタンスであるが、そのスタンスを最もハードに貫いたのがこの本だ。

さすが「背骨」で、いままで高野さんの他の著作を読んでいてもこのときの経験にちょこちょこ触れられていたりして、いちばん最近読んだのでは『ミャンマーの柳生一族』であったが、気になっていた本だった。でも同時に、「アヘンを作っている人たち」にあんまり興味がわかなかったので、読まないままだった。
本書を読んで、「アヘンを作っている人たち」に対して持っていたイメージが誤りであったことがわかった。
「アヘン」は日本で非合法なので、例えば日本でアヘンを作っていたらそれは犯罪者である。
いや、日本どころか、世界中のほとんどの場所でそれは適用される事実だ。
ところが(今は違うらしいが)当時のワ州ではそういう常識は通用していなかったというか、とりあえずワ州の村の人たちは「農業」をやっていて、その作物がその土地に適した「アヘン」である、ということなのだ。
そのへんの事情はワ州が反政府の立場だったことも大きく関係している。
反政府ゲリラというから常に武器をもって戦闘状態にあるのかと思ったら村の中はそういう出来事はいっさい無くて、戦争は別の場所でやっていてそこに兵隊として取られていく(だから村の中には男性が少ない)。
悪いのは「作っている人」じゃなくてそれを「売っている人」「権力を持っている政治関係の人」らしいのだが、本書に出てくるレベルのそういう人たちもあんまり悪い人っぽくない。裏でいろいろあるようだけど。
ややこしい問題なので誤謬なく短くまとめる自信がないので関心がおありの向きはどうぞ本書を読んでいただきたく。

びっくりしたのは著者がアヘンを作る農作業を手伝うだけじゃなくて最終的にアヘンを摂取してアヘン中毒になっちゃったりしていたことだ。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。何故、アヘンに手を出すか!「あかんやろ!」と全力でツッコんだが、なんだか文中では大した抵抗感も無く、実にあっさりとしていて、そしてよくあることだが「自分は中毒になっていない」と思ったときには傍からみたらもうずぶずぶ状態だという…。
村の人たちがそれをきちんと窘めているんだけど、それに対して嘘ついたりしてて、全然ダメ。
どうも、ワ州というところが外部世界と断絶していて、それが冷静な判断を麻痺させたということらしい。
そのへんのことが「エピローグ」にあり、非常に興味深く読んだ。
人間の善悪の価値観なんて、たかだか半年やそこらで簡単に狂ってしまうものなのか――!?
ここ何カ月もケシとアヘンばかりいじくっていた私としては、アヘンを作って喜ばれることはあっても、叱られるなどということは、まったく頭のなかになかったのだ。しかし、よくよく考えてみれば、彼の言うとおりである。ワ州以外では、アヘンは≪麻薬≫なのだ。】 

テレビもラジオもなく、識字率もほぼ無いに等しく、自動車どころか自転車も出てこない。電気もない。村の外から人がやってくることもほとんど無く、日々の生活は村と集落の中で完結している。そういう場所に生まれた人はそれが当たり前だと思って生きている。「白人」は「白人国」に住んでいて「白人語」を喋っているのだと信じている。アメリカもフランスも知らない。もちろん日本なんて聞いたことも無い。
高野さんが滞在した村は、そういう村だ。
アヘン云々も特殊だが、この閉鎖っぷりもかなり特殊だ。

現代のロビンソン・クルーソー、…まあ、村人たちがいるので違うけど…浦島太郎に近いものがあるんでは。うっかり持って出てしまった「アヘンのカケラ」はさしずめ「乙姫の玉手箱」というところか。
高野さんが村を出たか出ないかくらいのときに情勢が大きく変わり、ワ州との縁は切れ、ワ軍は政府側にべったりの関係になってしまったそうである。
文庫版あとがきには【日本の援助関係者の話では、「ワ州にはもうケシ畑はない」という。】【あの、見渡す限りのケシ畑が今はもうないという。】とある。
あの村人たちはどうなったんだろうか。

2017/01/27

本屋さんに憩う 第5回

某月某日
ジュンク堂。
気になったけど買わなかったもの。
購入に至らなかったのは気になった理由が「装丁が素敵…!」というだけのものだったから。
装丁だけで買うっていうのも場合によっては有りなんですけど。
この3冊は…それぞれの別の理由で、いまのところ「我慢するべし」となりました。
画面では伝わらないですがどれも紙の質感が見ているだけで素晴らしかったんですよ本当に…。

サロメ
サロメ
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原田 マハ
文藝春秋
売り上げランキング: 3,418

かいじゅうずかん ([バラエティ])
米津 玄師
ロッキング オン
売り上げランキング: 563

シンプルだから、贅沢
シンプルだから、贅沢
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ドミニック・ローホー
講談社
売り上げランキング: 25,099


購入したのは以下2点。

小川洋子『不時着する流星たち』/KADOKAWA/2017年1月28日刊

不時着する流星たち
不時着する流星たち
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小川 洋子
KADOKAWA (2017-01-28)
売り上げランキング: 4,627

d design travel NARA 奈良/D&DEPARTMENT PROJECT/2016年11月25日発行

d design travel NARA
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D&DEPARTMENT PROJECT
D&DPARTMENT PROJECT (2016-11-18)
売り上げランキング: 27,265

2017/01/25

結婚式のメンバー

結婚式のメンバー (新潮文庫)
カーソン マッカラーズ
新潮社 (2016-03-27)
売り上げランキング: 68,710
■カーソン・マッカラーズ 翻訳:村上春樹
本書はCarson McCullers(1917.2.19-1967.9.29)により1946年に発表された自伝的長篇小説"The Member of the Wedding"の村上春樹による新訳である。

旧訳は1958年竹内道之助(三笠書房)、1972年渥美昭夫(中央公論社)、1990年加島祥造(福武文庫『夏の黄昏』)と3つもあって、今回の村上版で4つめ。

去年2016年に新潮文庫で村上さんと柴田先生が組んで≪村上柴田翻訳堂≫という企画をはじめられたらしいのだが(つい最近までノーチェックだった…)その第一弾、ということで2016年3月末に刊行されていたらしい。
タイトルにはあんまり引かれなかったけど、文庫裏の概要にちらりと目をやったら12歳の少女の多感な感じが書かれているようで、面白そう。「結婚式のメンバー」というと結婚する当事者とかその家族の話を連想しそうだが、概要によるとどうもそういう話じゃないらしい、ので読む気になった。

3つの章にわかれている。全部12歳の少女、フランキーのちょっとどうかと思うくらい自意識と夢想で成り立っている小説で、なんだかとってもクレイジー。だけど何故か心にすーっと入ってくる感じがして、「これは良い小説だな」としみじみ感じ入った。再読、再々読していきたい小説だ。
章によって彼女の呼び方(これは彼女自身の意識)が変わるのだけど、そのことは「翻訳者あとがき」を読むと成程なあという感じ。彼女の正式なフルネームは、フランシス・ジャスミン・アダムスというのだけど、みんなに「フランキー」と呼ばれるのが嫌で、「F・ジャスミン」って呼ばれたいのだとか。
第1章はフランキー。
第2章はF・ジャスミン。
第3章はフランシス。

3章に分かれていて呼び名まで変わっているけど時間的には驚くほど動いていない。
フランキー12歳の夏、兄が結婚する。それを知ってから結婚式が済んで後日譚までの話で、メインは第1章が結婚式の前々日、第2章が結婚式の前日、第3章が結婚式の日といった具合。

初読みはせめて二十代前半までに読んでおきたかったという気もするが。でもいま読んでも十分フランキーの心の動きには沿えるし、周囲の大人(黒人のベレニス)の視点にも立てるからまあいいか。

アラスジにするとほとんど何も起こらない。
主人公の思春期の少女の思考は暴走しまくるし、実際の言動でもかなり危うい(もうちょっとで犯罪被害者になるところだったりひょっとしたら加害者になったのか?)けど所詮ひとりの年端のいかない女の子のやることだ。
そのまま淡々と妄想だけの嵐で終わっていくものと思っていたから、最後のほうでまとめに入りつついろいろ結構人生的に大きなことが起こったりしたからちょっと驚いた。でもこういうふうに書かれているのは物語的にもすごくバランス的に正しい(実際に起こったことだったとしても、「そのこと」をメインに書いた小説ではないから、後ろに寄せて書くことで、この小説のテーマが揺るがない)。

自分が12歳の時はもうちょっと落ち着いていたような気がするが、…どうだろう。
フランキーは兄が結婚すると知ってショックを受けておかしくなるんだけど、まあその前から結構突飛なことをする子だったようだけど、でもその気持ちはわかる。フランキーがもっと幼くて8歳(-4)だったら、あるいは16歳(+4)だったら、また全然別の反応を引き起こしたんだろう。
「わたし(フランキー)」は兄と兄の花嫁(あなたたち)で「わたしたち」であるという考えに取りつかれ、彼らは新婚旅行にフランキーを伴うであろう、と思い込む。それが「何故」かは論理的には説明出来ないが、感情的な面ではわからないではない。「わたし」が世界の中心である思春期の少女だから「わたしたち」も特別でなければならないのだ。理屈じゃないのだ。
まるでフランキーの乳母のような存在のベレニスは「嫉妬」だと言う。兄とずっと同居していたわけではないのにそれでもか、とも思うし、母親がフランキーの出産で亡くなっていてずっと父親がやもめ暮らしなことも影響しているのかもしれない、とも思う。

こういう話は途中で退屈になるかなという危惧もあったんだけど、フランキーの思考の世界が予想以上に違和感なくて、彼女の望むようにはならないことは見えているんだけど、でも「どうなるのかなあ」という気持ちもあって、退屈しなかった。
実際がどうこうというよりはフランキーの気持ちの整理のつけかたに興味があった。
劇的な成長があったりするわけじゃなくて、生きていくといろんなことが起こっていく、それは時に思いもよらない残酷さもはらんでいて、彼女の思惑を越えた次元で世界は動いていく。
淡々と語られていくその「日常」の描き方は実に見事だった。

2017/01/22

一汁一菜でよいという提案

一汁一菜でよいという提案
土井 善晴
グラフィック社
売り上げランキング: 283
■土井善晴
先週最初の方を読んで、全体のカラー写真をざーっと見つつ拾い読みしてみて、「ああこれは腰を据えて読まなきゃダメな本だ」とわかったので1週間置いてあった。
読む前からタイトルで、一汁一菜でええですやん、という、つまりはそんなにおかずを凝ってたくさん毎回作る必要はないんとちゃいます? という柔らかいサジェスチョンの本を想定していたのが、実際ひらいてみたらまあ要約はそういうことなんだろうけど、それに説得力を持たせるためにものすごく丁寧に土台を作り、石垣を築き、堀を掘って庭園に立派な松まで植えてある……といった感じの本だということに気付いたわけである。
これはちゃんと読み込まないと無礼じゃないの? というわけで。

昨日アタマからもう一度しっかり読んだ。
本書では土井先生のあたたかい優しい眼差しとお気遣いを感じて、本書は毎日の料理と仕事や家事に手いっぱいになっていてしんどそうなひとたちを勇気づけようという気持ちから書かれたんだな、ということをひしひしと感じる。
この本は、お料理を作るのがたいへんと感じている人に読んで欲しいのです。
と一番最初に書かれている。

「一汁三菜」という言葉はあるけれど、「一汁一菜」というのはワープロ変換でも一回で出てこない。
でもこの本は別に「質素倹約」を謳った本では無い。
読む前に、一汁一菜って「汁物と、おかず一品ってこと? まあ、定食って感じか」と思ったんだけどさらにハードルは低かった。なんと
「ご飯、味噌汁、漬物」】で良いというのだ。

「それでいいの?」とおそらく皆さんは疑われるでしょうが、それでいいのです。私たちは、ずっとこうした食事をしてきたのです。
つまり本書は「それでいいんだ」と理解してもらうために書かれた本。
だからものすごく根本的なこと、日本人の食の歴史や考え方、生活のありかたみたいなことまでずっと深く、ふだんから土井先生が考えて信じてこられたことを書いてある、んだと思う。

一汁一菜の提案はシバリでは断じてない。
その逆。
でも「おかずなんて適当に一菜でいい」というようなサボり指南とも違う。

作る余裕も時間もないのに、できっこないのに、おかずまで作る必要はないということです。

一汁一菜だからといって、ご馳走を食べないと決めるわけではありません。いろいろな日があるわけで、それでよいのです。

なんだか先生に頭を撫でてもらえたような。
すごく有難い気持ちに何度もなった。
わたしたちはついつい、一汁三菜、いろんなおかずを作らなくちゃ、見栄えもよくしなくちゃ、というその義務感みたいのがあったりするけど、おかずってそんなに毎回、無理して作らないとだめなものなのか。
誰のために何のために作っているのか。
そこに「見栄」は無いのか。
栄養とバランスって一汁一菜でも充分取れる、と。
量が足りなければおかわりすればいい。
別に洋食もありだし、麺類もありだ。サンマが美味しそうで作る余裕があれば出そう。
肩の力が、変な風に入っているのを、すっと一回楽にしてくれる。
そもそも「食事」ってなんだろう、というものすごい根本的なところを、例えば「食べるひと」と「作るひと」の関係やなんかをずっと考えていく。

親が子どもに食事をさせること、その意味。
季節ごとに旬のものを食べる、味わう、身体で覚えること。
毎日の味付けの微妙な違い。
お茶碗やお椀、食卓まわりのこと。
買い物に行って、作り、食べて、後片付けをすること、その繰り返し。
あたりまえのことだけど、何気なくしていることだけど、それが「日本人の暮らし」であるということ…。
原点回帰、そういうことか。

前著にも書かれていたけど、大事だなと思う考え方。
「おいしいもの」を食べたい。と思うと同時に、わたしたちは「身体に良いものを食べて健康でいたい」とも考えている。
毎日の家族の食事をあずかるということは、家族の体を任されているということもである。
私たちがものを食べる理由は、おいしいばかりが目的ではないことがわかります。メディアでは「おいしい」「オイシイ!!」と盛んに言われていますが、繰り返し聞かされている「おいしいもの」は、実は食べなくてもよいものも多いことがわかります。メディアから発信される刺激的で新しいものには、よくわからないものもあります。そうした流行りはすぐに廃れ、次々変化していきます。情報的なおいしさと、普遍的なおいしさは区別するべきものです。全く別物であると理解して、食を選ぶのです。

思ったよりもずっと「理論」の本で、料理のエッセイ……いやこれは評論? 
「大人の男の人が書かはった本やなあ」というふうに、ちょっと感じてしまった、まあ、男女どうこう云うのは時代遅れなんだけど。

いま自分自身の献立を考える基本が「お弁当づくり」にあるので、ごはんと具沢山のお味噌汁じゃお弁当に出来ない……まあ、スープジャーという手はあるか、いやまあこの本が言いたいのはそういうことじゃないか、基本はなにかってことだよな、そもそも何故お弁当を作っているのか? とかまあいろいろ自分の生活と食事のことについて考えるきっかけとなる本でもある。
大事にしたい本。
装丁(佐藤卓さん)もシンプルな中に味があって、帯のお味噌汁の色とか、良いなあ。
題字と本文写真は著者自身のもの、鉛筆で書かれたのが題字になったとかって、面白い。

【目次】
一章 今、なぜ一汁一菜か
食は日常/食べ飽きないもの
二章 暮らしの寸法
自分の身体を信じる/簡単なことを丁寧に/贅と慎ましさのバランス/慎ましい暮らしは大事の備え
三章 毎日の食事
料理することの意味/台所が作る安心/良く食べることは、良く生きること
四章 作る人と食べる人
プロの料理と家庭料理 考/家庭料理はおいしくなくてもいい/作る人と食べる人の関係「レストラン(外食)」/作る人と食べる人の関係「家庭料理」/基準を持つこと
五章 おいしさの原点
和食の感性 考えるよりも、感じること/縄文人の料理/清潔であること
六章 和食を初期化する
心を育てる時間/日本人の美意識/食の変化/何を食べるべきか、何が食べられるか、何を食べたいか/和食の型を取り戻す
七章 一汁一菜からはじまる楽しみ
毎日の楽しみ/お茶碗を選ぶ楽しみ、使う楽しみ/気づいてもらう楽しみ、察する楽しみ/お膳を使う楽しみ/お酒の楽しみ、おかずの楽しみ、季節(旬)を楽しむ/日本の食文化を楽しむ、美の楽しみ
きれいに食べる日本人―結びに代えて

[一汁一菜の実践]
食事の型「一汁一菜」
・日本人の主食・ご飯
・具だくさんの味噌汁
一汁一菜の応用
一汁一菜はスタイルである

※本書にはレシピは載っていません。

2017/01/19

祝! 恩田陸直木賞受賞! 山下澄人芥川賞受賞!

第156回芥川賞・直木賞(平成28年度下半期)が発表されました。
芥川龍之介賞:山下澄人『しんせかい』(新潮7月号)
直木三十五賞:恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)

おめでとうございます!

しんせかい
しんせかい
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山下 澄人
新潮社
売り上げランキング: 40

蜜蜂と遠雷
蜜蜂と遠雷
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恩田 陸
幻冬舎 (2016-09-23)
売り上げランキング: 8

マイナス・ゼロ

マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1) (集英社文庫)
集英社 (2016-11-04)
売り上げランキング: 10
kindle版
■広瀬正
1月17日の日替わりセールで購入。ちょっと気になっていた作品だったので嬉しい。
この作品は、ウィキペディアによれば1965年(昭和40年)「宇宙塵」に処女長編として連載されたが、【1970年(昭和45年)10月15日に河出書房新社から刊行されるまで単行本化されることがなかった。この単行本化までにかかった時間は、後に「空白の5年間」と呼ばれる。】とある。
著者は1924年(大正13年)生まれなので、41歳のときに書いた話ということになる。

タイムトラベルもの。
タイムマシンが使われて、タイム・パラドックスなどが扱われるのでSFだが、昭和38年、昭和7年の東京の様子が日常的な生活レベルでかなり詳しく描かれているので、その時代の資料としてもかなり貴重な小説だと思う。物価など、かなり細かいところまで書いてあるので「これは当時の資料が見つかって嬉しくて写したのかなあ」とか思った。よく調べてあるという感じ。巻末に「参考文献一覧」が欲しい。
ふつうはそんな話の筋に関係の無い細かいことまで書く必要はないのだが当時はこれを懐かしいと噛みしめて読まれる読者が少なくなかったのだろうし、今となっては近代史的な興味がひきつけられる。
昭和の日常の小説というと戦争のときの悲惨さを克明に描いた小説はいくつも読んでつらいのでもういいという感じだが、これは平和な時代が主だったので(昭和20年の描写は少ない)、安心して読めた。しかも出てくるひとがみんな驚嘆するくらい良い人ばっかりだったし。一瞬、「昔はみんなのんびりしていたから善良だったのかな、そういう時代だったのかも」と騙されかけたけど、いやいやいやいや、違うよね。明治の夏目漱石の小説読んでたって性格に問題があるのは出てくるからね。この小説のスタンスがそうなだけ、だろう。しかし読んでいて気持ちが清々しいので騙されていたい。

例えば、昭和7年についたばかりの主人公が煙草屋のおかみさんから情報をさぐりつつ煙草を買うシーン。つまりふたりは初対面で、顔見知りでも馴染みの客でもない。なのに今持ち合わせがないと焦る主人公におかみさんは今度ついでのときでいいと愛想よく言うのだ。
この家は都会(銀座とか)ではなく田舎(昭和7年10月に大東京市に編入された当時の世田谷市は「田舎」だったらしい。)だからというのもあるようだが。

とりあえず「昔のSFで、星新一とかと同世代なのに評価にこれだけ違いがあるっていうことは…」と全然期待せずに読んだので、読みはじめてしばらくして面白いなあと思えることに驚いた。
古臭さもほとんど感じられない。言葉遣いで「昭和のむかしの年配のひとの話し方だなあ」というのはあったけど。
「どうなるんだろう」「どういうことだろう」というミステリーがあるので引き込まれるし展開を知りたくなるからやめられない。
SFの肝「センス・オブ・ワンダー」があるのだ。
そして終盤にはちゃんと謎解きが! ぱたぱたぱたっとパズルが組み上がっていく、ああそういうことか! なんとなく頭の中でもやもやと渦巻いていたギワクが収まっていく。
まあ、全部明らかになるわけでもないんだけど…お話としてはこれくらいで綺麗にまとまっているような。
例えばタイムマシーンはどこからきたのかとか、最初に乗ってきたあのひとはどこからきたんだとかわからないままだけどそこを詳しくやりだすと違う話になってくるんでしょうしね。

あんまり書くとネタバレになるからちょっと自分の頭の中を整理する程度にメモってみる。
注意★未読の方は以下スルー推奨!

目次に合わせて【 】内に舞台となっている年を入れてみる。主人公の年齢も入れてみる。

プラス・ゼロ    【昭和20年】主人公13歳。
(根拠:電子書籍№2153「俊夫は昭和七年二月生まれなのである」)
プラス18           【昭和38年】主人公31歳。
 (根拠:電子書籍位置№360「三十一歳になった俊夫の下した解釈だった。」)
マイナス31     【昭和7年】 主人公31歳(=タイムマシン使用後)
ゼロ              昭和23年】主人公47歳
(根拠:電子書籍№4358「浜田俊夫として年齢を計算すると四十八歳になるわけだが」←ここでの年齢計算はその直前の会話から「かぞえ」で話している。)
マイナス・ゼロ   【昭和38年】主人公62歳

ここで「主人公」というのはおんなじ人間である。
昭和38年に31歳だったひとが何故昭和7年に31歳なのかというとタイムマシンを使ったからである。つまり俊夫は昭和7年から昭和38年を2回生きたということになる。よくある「人生やり直し」と違うのは、年齢が戻っていないという点。
びっくりしたのはネタバレなので白文字にするけど、主人公は「戻らないんだね。
この話においては「同じ空間に同一人物は存在できない」というルールは適用されていないため、例えば昭和7年にはタイムマシンでやってきた主人公Aと生まれたばかりの主人公(A’)が同時に存在している(AはA’の泣き声を聞いたりあやされている姿を目にしている)。

最後まで読んで、途中でもしばしば感じたことだが、ちょっと男性優位主義というか、男性のご都合主義なストーリー展開や思考回路がまま見えるので、正直不愉快なところもあった。31歳のおじさんが18歳の可憐な美少女と深い仲になるのだって純情恋愛っぽく書いてあるけどその前に酒を飲ませて酔わせているでしょう。で、その後いくら時代が違っても簡単にレイちゃんを囲ってしまうし。そのわりにレイちゃんはあくまでも「わたしは2号」的なことを言うのを美談っぽく書いてあるのも不愉快。男が悪いんでしょーがっ。
「オールドミス」という単語や独身の女性を馬鹿にしたような表現も何回か出てくる。昭和40年に書かれた話だからしょうがないのかなあ。
特に、ヒロインが主人公のちょっとした冒険心というか好奇心のせいでその後どれだけ苦労したか、詳しくは書かれていないけどちょっと想像しただけでじわじわと不条理感が……まあ当人たちがしあわせそうなので外野がどうこう言うことじゃないんだけど。
主人公はちっと反省したほうがいいんじゃないのかなあー。


2017/01/16

聞き出す力

聞き出す力
聞き出す力
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日本文芸社 (2015-03-20)
売り上げランキング: 46
kindle版
■吉田豪
1月13日の日替わりセールで購入。
凄いインタビュアーがいて、それが吉田豪さんという名前のかただというのは数年前に「本の雑誌」のどこかで見掛けてちょっと気になってたので嬉しい。
アウトローなイメージがあって、本書の装丁も鉄パイプ椅子を振り上げる著者の写真が使われていたりして、まああながち外れとも言い難いのであるが、本書を読んでものすごく真っ当な仕事をなさる、真面目な方だったのだなあ、という感想を持った。
著者が、というよりも、インタビューされる側に結構アウトロー系が多いからそういうイメージになったのもあるのかな。

本書は対談集ではなくて、かと言って本書を読んだらインタビューに役立つハウツー本や新書本の類でもなくて、まあ、いわば、「読み物」である。エンタメである。吉田さんのエッセイ(いろんなひとが世の中にはいるよー 変なのも 危ないのも いっぱいいるよー)という感じだ。
「聞き出すための五十の方法」が挙げられているから、人間関係で応用できることもあるいはあるかも知れない。
基本的にすごく丁寧な仕事をなさる方で、だからいろんなひとに信頼されて、いろんな深い話や他で聞けない話を引き出すことができるんだろうな、と超納得。
かなりミーハーな興味・動機で本書を購入したので、その期待は裏切られなかった。面白かった。でもちょっと、ときどき、「引いて」しまったりもしたけど…。

なお、電子書籍版には阿川佐和子さんとの対談は収録されていないので、それを読みたい方は注意。

【目次】(全部は写していません。)

第1章 「聞き出す力」の基本テクニック―相手を乗せるための技術
いい答えが返ってきたら、いいリアクションで返すこと/普通なら聞きにくい話にどれだけ踏み込むか/空気が悪くなるとしても、引かないところは絶対引くな/NGネタを相手の方から話させる聞き出し方/心を開かれすぎず適度に突き放す、この距離感が大切/・・・ほか

第2章 「聞き出す力」の心構え―インタビューに臨むときのスタンスを固めよ
自分語りは話を引き出すための道具、記事では裏方に徹すべし/子供を取材するときは、こちらが怯えるくらいがちょうどいい/相手を好きにならなければ、インタビューはできないものである!!/些細なつながりを大事にすることでインタビューのチャンスが訪れる/直接会って話すまで、その人の本当の姿はわからない/・・・ほか

第3章 危機を回避する「聞き出す力」―不利な状況から面白い話を引き出すには
人と接する上でハードルは限界まで下げておけ/インタビューは取材後が勝負。無難にさせないための戦いに勝利すべし!!/どんなトラブルにも悠然と流れに身を任せる度胸を持つべし/知識が皆無な取材時には、話を上手く合わせて聞き出す余裕を持て/対面せずに取材するときにこそ常識や礼儀が大事/・・・ほか

第4章 「聞き出す力」応用自在―さまざまなケースに学ぶインタビュー術
無邪気さは、時には大いなる武器となる/話が合っても盛り上がるのは程々に。相手に信用されないほうが良し?/他のインタビュアーと同じ条件の中で違いを出すのが腕の見せ所/手強い相手に対する最終手段、それは気弱で素人なインタビュアー!?/・・・ほか

あとがき

2017/01/15

本屋さんに憩う 第4回

某月某日
地元書店。
単行本で既読なので買わないけど、去年暮れあたりから文庫本コーナーで目について気になっている。
すわ続篇かと思いきや、ググったらまったく同じ内容を版元を変えて出し直しているだけ。
講談社文庫版は現在でも普通に入手可能。

新潮文庫版について「イラストで今風にしたのね。新潮文庫nexって、そうかラノベ扱いなのか…」と思っていたらそれだけじゃなくてなんと全4冊!
単行本の4章を1冊ずつ分冊にしたってことらしい。

今日時点での価格を調べてみたら以下のとおりでした。

単行本¥2,052
講談文庫版(上¥756+下¥864)=¥1,620
新潮文庫版(Ⅰ¥497+Ⅱ¥562+Ⅲ¥562+Ⅳ¥594)=¥2,215

単行本読了時の感想はこちら。

2010年5月14日 単行本 講談社刊
2013年10月16日 講談社文庫(上下巻)
2016年12月23日 新潮文庫nex Ⅰ
2016年12月23日 新潮文庫nex II: 世界の縁側
2017年01月28日 新潮文庫nex III: カモメの名前
2017年01月28日 新潮文庫nex IV: 鉄路の春

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)
宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 174,095
    ↓
小暮写眞館(上) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社 (2013-10-16)
売り上げランキング: 23,297
小暮写眞館(下) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社 (2013-10-16)
売り上げランキング: 23,075
    ↓
小暮写眞館I (新潮文庫nex)
宮部 みゆき
新潮社 (2016-12-23)
売り上げランキング: 3,560
小暮写眞館II: 世界の縁側 (新潮文庫nex)
宮部 みゆき
新潮社 (2016-12-23)
売り上げランキング: 4,210
小暮写眞館III: カモメの名前
宮部 みゆき
新潮社
売り上げランキング: 2,128
小暮写眞館IV: 鉄路の春
小暮写眞館IV: 鉄路の春
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宮部 みゆき
新潮社
売り上げランキング: 3,563

2017/01/14

明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて
明るい夜に出かけて
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佐藤 多佳子
新潮社
売り上げランキング: 3,831
■明るい夜に出かけて
2016年9月20日発行の単行本。書下ろし。
どこかで「深夜ラジオのリスナーの話」という情報を目の端に引っかけ、「あ、それは面白そう」と思ってでもそのあとなんでか忘れていた。
先日購入して、今朝読みはじめたらやっぱりすごく面白くて、雑多家事の合間にどんどん読んで、夕方読了。

主人公は18歳の青年トミヤマ(富山)。
人に触ったり触られたりが出来なくて、詳しいことは本書を読んでいただくとしていろいろあってそれがトラウマとなって大学に通えなくなり、とりあえず両親の引きとめもあって現在1年限定の休学中ということになっている。
兄と両親と東京の世田谷に住んでいたが休学の期間という約束でいまは神奈川の金沢八景駅の近くのアパートで独り暮らししている。
コンビニの深夜アルバイトとして3月末から週5で働きはじめ、今日は2014年5月14日。
ここから物語はスタートする。

富山君の一人称語りの文章なので、いまどきの若者言葉、チャラい言葉やスラングがちょこちょこ入ってくる。意味わからんのもある。「フツオタ」って「普通のオタク」ってことだろうか、とか推測しながら読み、いまググってみたら「普通のお便り」のことだって。…知らんかったー。

彼が抱えている苦しみや問題にすっぽり共感できたかというと正直あんまりわからなくて、でも、18歳とか19歳にしたら物凄く重大でしんどいことなんだろうな、ということは理解できた。とりあえず本書を読み終える頃には彼なりの結論、彼なりの成長をしているだろうと思って読み進み、実際に徐々に人と交流したり、行動範囲や使うネットツールなどが増えて行き、「他者」や「自分」に向ける視線や考えることが変わっていくのを息を詰めるようにして読んでいった。
わたしは富山君の倍以上生きているし、生きている社会環境も性別も、その他いろいろ違うから彼の気持ちを「わかった」とは言えないけれど、想像することは出来る。
いろんな失敗や駄目なことや後悔を繰り返してきた身からすれば富山君は全然大丈夫だよ、問題ないよ、気にしちゃ駄目だって思えるけどまあ本人は苦しくてしんどくてそこから抜け出せていなかった。それが少しずつ回復していく。歯がゆく感じたりしつつ、がんばれ、と見守りたくなる。ゆっくり、ゆっくり。
こういうふうに、若い時の躓きなんて、人生全体からみたら全然問題ないってこと、いまならわかるよなあ――と考えながら読んでいたので、終盤、副店長が同じようなことをいうシーンでは深く何度も頷いてしまう感じになった。

登場人物がみんなとても魅力的で、主人公の富山君にはラジオ・リスナーにして名の知れた「職人」という裏の(?)顔があるし、バイトの先輩・鹿沢君とか、リスナー仲間の佐古田愛ちゃんとか、高校時代からの友人永川君とか、みんなすごく「会ってみたいなー」って思う、もちろん同世代のときに会えてたらなーという意味で。
店長さんはあんまり出てこなかったし、副店長さんも出番は少なく、でも要所要所でおさえてくれる感じ。この一卵性兄弟設定のふたりはなかなか設定だけで面白そうで「濃ゆい」感じがするから、本書のスピンオフでもなんでもいいからこの二人の話も読みたかったかな。
あと佐古田愛ちゃんの話も読みたいし、「だいちゃ」の別名を持つ歌い手・鹿沢君の生活ももっと覗いてみたい。
永川君の日常や思考回路を書いたらかなりヤバくなるかな? 痛くなるかな? でもリアル、な気もする。それはそれで絶対面白いような。
こういうタイプの小説に続篇は無いんだろうけど、そういう妄想をしてしまうくらいみんな良い味出してて、なにより人間的に大好きな面々だったので読むのが楽しかった。安易に恋愛小説にならないところも良かったなー。

深夜ラジオを聴く習慣はもう何十年もなくて、中学2年生あたり~大学生のあいだくらい、かな、かろうじて、夜ラジオ聴いていたというのは。番組に手紙を出したことは3回ほどあり、2回読まれた(それぞれ別の番組)けど、それはこの話の登場人物たちのような「職人」としてではなくて全然普通の、ネタじゃない、感想とか相談とかそんな内容だった。

ラジオでよく読まれている職人さんに実際にリアルで会ったことは1回だけある。学生の時、短期アルバイト先で何故かたまたまあるラジオ番組の話題になり、そこに職業をラジオネームにしている職人さんがいたので、「…えっ!? もしかして!?」となったのだ。いやー、ははは、あのときはさすがにちょっとテンション上がりましたね。だからといってこの小説みたいな展開は1ミリもなかったですが。
相手が同世代だったら、また違ったのかなあ、なんていま、初めて思い至ったりしたんであった。

この小説には深夜ラジオを帯で持っている級の芸能人の名前や番組名がガチでたくさん出てきて、それが「有名だ」ということは知っているが、いかんせん完全朝方生活者なので聴いたことは1回も無い。でも実際のリスナーさんが読んだらわくわくするんじゃないかな。特に、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を知っている方にはどんぴしゃのような。
聴いたことが無いわたしでもかなり面白かったので、リアルに知ってたらさぞ楽しいだろうなあ。

2017/01/13

いま見てはいけない デュ・モーリア傑作集

いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)
ダフネ・デュ・モーリア
東京創元社
売り上げランキング: 28,628
kindle版
■ダフネ・デュ・モーリア 翻訳:務台夏子
1月10日のkindle日替わりセールで上がってきたので即購入。
昔読んだなあといま調べたら2004年の夏だった。短篇集『』と『レイチェル』。代表作の『レベッカ』は当時版切れだったので機会を逸し、そのまま読んでない。
このひとの作品はホラー、に属するのかなあ。すごく広い意味でミステリーといえなくもない? 本書にはなんとSFまで出てきたのでびっくりした。

ダフネ・デュ・モーリアは1907年ロンドン生まれ。
1907年って和暦だと明治40年。
でも読んでいて全然古さを感じないのは翻訳が新しいからだけではないと思う。外国の話だから多少昔の話でもあんまり昔と思わないっていうのと、まあ自動車とか電話とか出てくるし…それに何より、話が面白いから気にならないんだよね。
山崎まどかさんの解説によると本書表題作の初出は1966年に出たこの本と同名の短篇集で、収録作品は違うらしい。今回のと同じ短篇集の原書"Don't Look Now and Other Stories"が出版されたのは1971年とのこと。
表題作は映画「赤い影」(1973年)の原作だそう。
5編収録、いろんなタイプの話があって、面白かった。

以下は白紙で読みたい未読の方はスルー推奨。
内容にふれつつ感想コメントを書いています。

【目次】
いま見てはいけない
最後まで読んで、あっ、と思ってストーリーが頭の中を逆走する。あのとき、あの行動をとらなければ。でもそもそもがあれは。などといろんな思いが錯綜する。こういう、主人公が気を揉んで、うまくいかなくて焦る話でしかも最後の展開。まー…救いが無いこと。でもこの旦那さん、最初は良かったのに奥さんと離れてからちょっと偏執狂っぽかったので怖かった。

真夜中になる前に
なかば予想を付けながら読んでいって、王道なんだけど、でもやっぱり「そうきたかー」という驚き要素もちゃんとあって、あと、単なるミステリーにはないあやしさとか不気味さとかもある。旅の地であるという浪漫もあるかな。

ボーダーライン
これもメインのどんでん返しは途中で「それしかない」から気付くんだけど、でも切ないというか残酷というか。主人公の母親への嫌悪感が繰り返し出てきてちょっと違和感があったんだけどまあそれも無意識の…という伏線だったのかなあ。うーん。「どうして正直に言っちゃわないの」と何度か思ってしまった、わたしならこんな何回も嘘つくの無理だわ。

十字架の道
これ、クレイグ・ライスの本で読んでたら間違いなくドタバタ・コメディ・ミステリーとして気楽に楽しめるだろうになあ、この旅先でのトラブル続きの群集劇。デュ・モーリアなのでちょっとドロドロしてたり毒やパンチがきつい。幼い少年がくるくる動いて微笑ましくなるところをまたどえらい爆弾を落とす役回りにしたりして…。新婚旅行であの妻の言動は有り得ないと思うんだけど、いったいどういう経緯でどういうつもりで結婚したの? って感じ。
でもまあ、みなさん無事でよかったわ、ほっとしたわ。

第六の力
まさかのSF-! そしてホラーチック要素もあり。お話としては面白かったけど、発達障害についての書き方とかが……大丈夫なのかこれって首を傾げざるを得ないのだけど、1971年出版の本だから仕方ないのだろうか。
死後について扱っていて、怖くて、不気味。でも研究所のひとたちが予想以上に良いひとで。犬も可愛いし。
頭の中に映像を浮かべると、研究所周辺の建物の描写とか、すごく独特。
主人公たちが少女を救おうとするのを応援しながら読んだので、最後の明るい笑顔とダンスに嬉しくなった。

なんでセールに上がって来たかというと先日デュ・モーリア短篇集がまた新たに出たからですね。

人形 (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)
ダフネ・デュ・モーリア
東京創元社
売り上げランキング: 3,164

2017/01/11

そして生活はつづく

そして生活はつづく (文春文庫)
星野 源
文藝春秋 (2013-01-04)
売り上げランキング: 10
kindle版
■星野源
ドラマは観ないので俳優さんのことはよく知らない。歌番組も観ない。
そんなわたしでも「最近の星野源さんてまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだなあ」と感じる。
一番最初にこのかたを認識したのは2015年の秋(遅!)、書店の文庫コーナーである。文春文庫で星野源さんがイメージキャラクターの「秋の100冊フェア 2015」が展開され、文庫の帯に彼の写真が使われた。『働く男』誰だろう星野源て、知らない作家さんだなあ。と思った。メガネが似合うひとだなとも思った。
海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』原作は読んでいるがドラマは観ていない。
大河ドラマ「真田丸」に家康の息子役で出てらしたのは認識している。

本書はそんな「旬のひと」の数年前にまとめられたエッセイである。
連載は雑誌「ウフ.」2009年上半期。初出をみると単行本のための書き下ろしがけっこうある。
ウィキペディアで見ると、1981年生まれなので28歳くらいのときに書かれたということになる。1stアルバム「ばかのうた」で歌手としてソロデビューするのが2010年。
最後まで通して読み(あっというまに読める)、最初にもどってぱらぱら気になったところを読み返した。どういう内容のエッセイか、思い返したときに「下ネタが多かった」しか出て来なかったからだ。そういえば箸のこと書いてたね、とか思ってしまう。たいした量でなくとも下ネタって強烈な印象を残すから、他を凌駕してしまうのだな。

本書は星野源さんにまったく興味がないひとにはかなりキビシイかもしれない。
小学生男子が好む系の下ネタが好きだというかたなら面白いか。
あるいは星野さんより若くて「なんでもいいから芸能界に食い込みたい」とかギラギラしている若者にもなにかしら訴えるところがある…のかも…しれない。
少なくともふだんオススメするタイプのエッセイでは無いが、しかしやはりさすが売れるひと、キラリとした視点もお持ち。
だがしかしそのメタファーが思いっきり下ネタなので引用したくない。
メタファーが指すところは、要するに、太宰治の「トカトントン」ですかね。ちょっと違うか。とりあえず、周囲の空気に流されることへの警鐘。そんな高度なことを下ネタで語ってしまう彼はかなりシャイな方なんでしょうね。

【目次】
料金支払いはつづく/生活はつづく/連載はつづく/子育てはつづく/貧乏ゆすりはつづく/箸選びはつづく/部屋探しはつづく/ビシャビシャはつづく/ばかはつづく/はらいたはつづく/おじいちゃんはつづく/口内炎はつづく/舞台はつづく/眼鏡はつづく
ほんとうにあった鼠シリーズ 「はたち」漫画…小田扉 原作…星野源
ひとりはつづく
文庫版特別対「く…そして生活はつづく」星野源×きたろう
単行本版あとがき/文庫版あとがき

本書を文庫で読んだひとは気になるであろう、単行本の表紙画像はこちら↓。続けて読むと…。ははは。なるほどね!

そして生活はつづく
そして生活はつづく
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星野 源
マガジンハウス
売り上げランキング: 81,259

2017/01/09

おいしいもののまわり

おいしいもののまわり
おいしいもののまわり
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土井 善晴
グラフィック社
売り上げランキング: 11,609
■土井善晴
2015年12月25日刊。
最近になって読みたくなってもそこらの小さい書店では見つけられず、正月早々Amazonでポチったもの。
手元にきたのは2016年12月25日の初版第5刷。
初出は「おかずのクッキング」(テレビ朝日・刊)2007年~2012年に連載されたもので、本書はそれに加筆・修正し、まとめたもの。「はじめに」だけ鹿島建設社内報「月報KAJIMA」675号からの再録とのこと。
この連休でぼちぼち読んだ。

すごく論理的というか、理にかなっているなあ、「よう考えてはるなあ」ということを読みながら何度も感じた。
「おいしくするために」というよりは、もともとの味を損なわないようにとか、衛生的にとか。
それは食中毒云々のレベルじゃなくて、例えば雑菌が増えるともうそれだけで味が変わってしまう、料理は作りたてで味見しておいしいと思っても時間が経つと変化していってしまうからそこまで考えて味付けしなくてはいけないとか。
いわれてみればお弁当に入れるためのおかずとそのまま食卓に出して出来立てを食べる前提でとは味付けとかいろいろ調整するよなあ。それはなんとなく体験とか実際お弁当を食べての経験とかで身に染みているからで。あらためて文章できっちり説明されると「ああそうやな、ほんまにそのとおりやわ」とうんうん頷きながら読む。
両手で調理してしまったら蛇口を汚れた手で触らないといけない破目になる、だから片手はきれいにしておくべきだとか、そういうのは毎日料理していたら経験で知っているがそういうことも丁寧に説いてあるので「そこまで世話を焼いてくれはるんやなあ」とびっくりする。理想はそうだとは知っているけどどうしてもうっかり両手を使ってしまったり、不器用なので片手では出来なくて両手を使ってしまうこともあるんだけど。
もちろんあらためて教わって「あっ、そうか、」と目から鱗が落ちたのもたくさん、ある。
例えば日本の庖丁に合うのは日本の柔らかい木で作られたまな板が一番いいという話。日本の庖丁をヨーロッパの硬い木で出来たまな板で料理したらあっというまに刃がダメになってしまったというエピソードは非常に面白い。興味深い。言われたらあたり前の、非常に自然なことなのだけどふだんそういうのを考えていない。
料理の事を、毎日、仕事として長年考え続けてこられたひとの、親切極まりない本。
この本に具体的なレシピは載っていないけど、この本を読んだら料理をするのに少し誇り高くなれるというか、背筋が伸びる感じがする。難しいことはなんにも書いていない。でも「料理する人」の責任、大事さ、台所を預かっているということの意味を教えて下さる。

土井先生のテレビなどでの話し方は柔らかいざっくばらんな関西言葉だが、書かれる文章は非常にキリッとした端正なもので、読んでいて気持ちがいい。清々しい。漠然とイメージしていたよりも数段引き締まった、余計な遊びの無い、すっきりした美しさで、そしてこういう本は「筋がわかればいい」というわけにはいかないから一言一句じっくり理解しながらなので読むのに時間をある程度かけないといけない。

ネットを開けたら土居先生がツイッターをされていて仰天した。すごい。
そして「ほぼ日」の正月企画で糸井さんと対談をされていて(まだ途中)、それも読ませてもらったけどこれも面白い。本書に書かれていることも出てくる。話し言葉の中なので、もう少しくだけた言い方になっていたりして、その違いなども楽しみつつ。

素敵な装丁の御本だなと思っていたら、あとがきでそのことにも触れられていた。
また、本書には料理や器などのカラー写真が多数載せられているが、それがまたびっくりするくらい美しくて目の前に鮮やか!
写真は、澤井秀夫さんという方。
装丁(ブックデザイン)は、10inc.の柿木原政広さんと西川友美さん。

目次
はじめに
季節を感じること、信じること/食の場の区別/台所のお布巾/計量とレシピと感性と/お料理をする箸/まな板/玉じゃくし/味をみること・味見皿/パイ缶/保存容器雑味のない味にするために/火の通り加減をみる串/落とし蓋を使う煮物/白いエプロン/おひつご飯のおいしさ考/水を料理する/混ぜ合わせる/洗いものから、学んだこと/焼き色のおいしさ/食卓の味つけの考え方/お料理の火加減/肉をおいしく焼いて食べること/お料理の温度のむずかしさ/茶碗の感性/日本のだし汁/お塩のおいしさと健康のこと/海苔の香り、胡麻の香り/とろみのおいしさと効用/庖丁するという調理法/器を使いこなすための器の見方/お茶をいただく「お湯のみ」の話/大根の一年/日本のお米 日本のご飯/お料理の姿 人の姿
あとがき

※本書にはレシピは載っていません。

2017/01/07

本屋さんに憩う 第3回

某月某日。
ジュンク堂。
気になったけど買わなかったもの。
表紙の感じが可愛いなーという。それにホームズの時代だっていうし。「質屋探偵」っていうのもなかなか良い所をついていると思う。
両方、2016年12月10日刊。
発行元は流石の国書刊行会!
ただ全然評価がわからなかったので保留。
ホームズもののパスティーシュとか何作品か読んだことがあるけど「ホームズ」の名によっかかったB級ものが多いので、純粋に作品としてみたときにどうなのかなーという用心。
この2冊は装丁の雰囲気が似ているのでシリーズものかと思いきや、作者からして違うんですね。

質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿 (シャーロック・ホームズの姉妹たち)
ファーガス・ヒューム
国書刊行会
売り上げランキング: 151,135
駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険 (シャーロック・ホームズの姉妹たち)
レジナルド・ライト・カウフマン
国書刊行会
売り上げランキング: 244,044

購入したのは以下4点。

『一汁一菜でよいという提案』土井善晴/グラフィック社/2016.10.25刊
一汁一菜でよいという提案
土井 善晴
グラフィック社
売り上げランキング: 74

『働く男』星野源/文春文庫/2015.9.10刊
働く男 (文春文庫)
働く男 (文春文庫)
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星野 源
文藝春秋 (2015-09-02)
売り上げランキング: 10

『村上柴田翻訳堂 結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ 村上春樹・訳/新潮文庫/2016.4.1刊
結婚式のメンバー (新潮文庫)
カーソン マッカラーズ
新潮社 (2016-03-27)
売り上げランキング: 25,243

『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子/新潮社/2016.9.20刊
明るい夜に出かけて
明るい夜に出かけて
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佐藤 多佳子
新潮社
売り上げランキング: 92,550

2017/01/06

この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義

kindle版
■池上彰
12/31の日替わりセールで¥199で購入。
池上彰の東工大講義シリーズ第1弾。
いやーこのあいだ12/17に日替わりセールで第2弾があったばかりなのに早い!
そしてこれで目出度くシリーズ3作とも安価で読むことができました。多謝!!
出版順に並べるとこうなる。わたしは逆走してしまったわけだけど特に不都合は無かった。

この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義』(本書)
(文藝春秋、2012年11月15日、2015年3月10日文庫化)

この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方 池上彰教授の東工大講義』
(文藝春秋、2013年3月27日、2015年7月10日文庫化)

学校では教えない「社会人のための現代史」 池上彰教授の東工大講義』
(文藝春秋、2013年10月15日、2015年11月10日文庫化)

3作読むと重複しているところもあるけど順番に説明していっての過程なのでまあそれはあるかなと。コピペしてるわけじゃないし。
本作は最初のほうの章はそれほど新鮮味を感じなかったけど(高校までで習ったことや、2012年の時事問題を絡めた内容が多いので、「ちょっと前にあったなー」って思うことが多い)、でもあらためて頭の中を整理できてよかった。
リアルタイムでニュースを見ていた身には例えば「Lecture10」を読んだだけではあの当時の得体の知れない恐怖は全然伝わっていないような気がしたりもしたけど。
最後の「白熱討論」は3作中で一番面白かったかも。東工大の学生さんの発言がいろいろ聞けたから。みんな優秀だなあ。それに前の人と似ていてもそれを踏まえて自分の意見をきちんと持っていてそれを発表できるのがえらい。
池上先生の「良い企業、良い社長像」はあまりにも清く正しく美しくて逆に新鮮だった。もはやそんなことにあまり期待しなくなってしまっている。愕然。わー。毎日仕事する日常にはあんまりそんな企業の上の方のことは考えないからなあ…。平和に仕事できてる証拠かしら。
池上彰さんが一般企業の取締役とかされたらどうなるのかとか興味あるなあ。

ちなみにこの講義の単位はかなり修得が難しいらしい。ネットでググったら【悲報】スレとか立っててちょっと笑っちゃった、まあこれはネタでしょーけど。
文藝春秋社の編集者は仕事が早い、ということが「あとがき」でわかりました。素晴らしい。

【目次】
はじめに 「学際的教養」のススメ
Lecture1 科学と国家 実は原爆を開発していた日本
Lecture2 国際情勢 世界地図から見える領土の本音
Lecture3 憲法 日本国憲法は改正すべきか?
Lecture4 金融 紙切れを「お金」に変える力とは
Lecture5 企業 悪い会社、優れた経営者の見分け方
Lecture6 経済学 経済学は人を幸せにできるか
Lecture7 世界経済 リーマン・ショックとは何だったのか?
Lecture8 社会保障 君は年金に入るべきか
Lecture9 メディア 視聴者が変える21世紀のテレビ
Lecture10 宗教 オウム真理教に理系大学生がはまったわけ
Lecture11 社会革命 「アラブの春」は本当に来たのか?
Lecture12 アメリカ 大統領選でわかる合衆国の成り立ち
Lecture13 中国 なぜ「反日」運動が起きるのか
Lecture14 北朝鮮 “金王朝”独裁三代目はどこへ行く
Lecture15 白熱討論 君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか?
あとがきに代えて「現代世界の歩き方」

2017/01/02

鳥の巣

鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)
鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)
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シャーリイ・ジャクスン
国書刊行会
売り上げランキング: 86,855
■シャーリイ・ジャクスン 翻訳:北川依子
本書は1954年に発表されたジャクスン長篇第3作"The Bird's Nest"の全訳で、国書刊行会の<ドーキー・アーカイヴ>全10巻の第3回配本として2016年11月25日に発売された。本書には叢書の刊行記念対談として若島正×横山茂雄の対談冊子(カラーでなかなか素敵)が挟まれている。
発売されて早々に紀伊国屋で購入だけして、年末年始に読もうと寝かせてあった。
というわけで、2016年12月31日から読みはじめて空いた時間にぼちぼち読み、2017年1月2日正午読了。
正直途中でだらけそうになったときもあったけど、中盤くらいからどんどん面白くなった感じ(慣れのせいもあるのだろうか)。

多重人格もの。
多重人格ものといえばダニエル・キイス『五番目のサリー』(The Fifth Sally:1980)『24人のビリー・ミリガン』(The Minds of Billy Milligan:1981)が有名だと思う。わたしも20年くらい前に大変面白く読んだ(もちろん、単行本でだ。ダニエル・キイスは待っていても決して文庫化されないと諦められていた時代が長くあったよなあ)けど、「訳書あとがき」によれば、【このブームより二十年も前に、やはり多重人格が注目された時期があり、その先駆けのひとつとなったのが本書である。】とのこと。そんなに昔から小説や映画のテーマになって流行ってたんだなあ。やっぱりドラマチックだし、いまだに解明はされていないミステリアスなところがひとを惹きつけるのかな。

この小説の登場人物はものすごく少ない。3人だけ。
主人公エリザベス(・ベス・ベッツィ・ベティ)・リッチモンド
モーゲン・ジョーンズ(エリザベスの叔母)
ライト医師

もうひとり、ライアンという医者も出てくるけどほんの脇役。あとは通りすがりのモブキャラだけ。
エリザベスは帯にもあるように「4人」の人格を持つ。
エリザベスは博物館に勤める23歳の独身女性で、母親を4年前に亡くしてからは母親の妹である独身の叔母と同居している。
最初に博物館の描写が出てきて、「博物館勤務」という舞台設定も良いな、萌えるなと思ったけどこれはある種の比喩的装置扱いだったことが読んでいくと判明する。つまり具体的な「博物館勤務」の様子はほぼ出てこない。最初のところだけだ。3階分を貫く穴を開ける、というところが象徴しているのだろうな。
表層のエリザベス。
軽い催眠で出てくる「ベス」。
更に深い所にいた「ベッツィ」、そして最後に「ベティ」。

エリザベスが多重人格に陥った原因はこの小説を読む限りでは「母親」もしくはその「死」「奔放な生き方」にあるようだ。あとほぼアル中のようになっている性格のかなり歪んだ叔母の影響も大きいだろう。このライトって医者は彼女を治すために出てくるんだけどこのひともかなり変人だし勝手な考え方をする。人格者のいない小説だなあ、まあ実際はそんなもんだろうけど医者が「正義」じゃないっていうのがね。

章タイトルは以下の様になっていて、主な視点がそれに倣っているので読みやすい。
1.エリザベス
2.ライト医師
3.ベッツィ
4.ライト医師
5.モーゲン叔母
6.女相続人の命名

最後の「6」ですんなり綺麗に収まるようで実際は「完治」じゃない、あくまで決定的な描写が無いことがなんとなく不安な感じを残したまま物語を終わらせている。
冒頭に詩のエピグラフがあって、エリザベスという名前の愛称はいろいろあるという注がついていて本書を読むにあたり非常に良い助けとなっているが、これは原書にはないそうだ。翻訳者さんのご親切。あと、原書ではベティではなく「Bess」らしいが、「Beth」とカタカナ表記で区別が出来ないので「ベティ」としたそうである。

シャーリイ・ジャクスンの小説を読んでいると「主人公はまるで十代の少女ではないか」と思うことがしばしばあるのだけど、本書のエリザベスも23歳だけど別人格のベッツィとベティはたぶん生まれてからあんまり経っていないから、少女のような言動、思考、社会性しか身につけておらず、そしてこの小説の大部分は彼女たちの視点で描かれているから今回も「少女」を読んでいる気持ちがした。
終盤で4人がそれぞれお風呂に続けて入るシーンがあって、そんなに何回もお湯につかってのぼせないのかと思ったけど多重人格は体の状態は超越するのかなあ。「訳者あとがき」ではここをジャクスンのユーモアが表れているシーンとして紹介しており、うーんそうかユーモアだったのか……。

叢書編者で、本書の翻訳・刊行を決めた若島正さんが対談の中で【なぜ今まで訳されていなかったのか不思議なほどの傑作です。】と書かれているけど、訳されなかった原因はちょっと冗長気味なところがマニアックすぎるところかもしれない。あと多重人格ものでダニエル・キイスが面白すぎる・凄過ぎるからというのもあるのかも。昔読んだきりで読み比べていないから曖昧だけど…。
でも、ジャクスンファンとしては嬉しい翻訳。ありがたい!
叢書の他の9作はこれよりもずっとマニアックです。

<ドーキー・アーカイヴ>全10巻
L・P・ディヴィス『虚構の男』
サーバン『人形つくり』
シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』
ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』
ステファン・テメルソン『ニシンの缶詰の謎』
ロバート・エイクマン『救出の試み』
アイリス・オーウェンズ『アフター・クロード』
チャールズ・ウィリアムズ『ライオンの場所』
ジョン・メトカーフ短篇集『煙をあげる脚』
マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』


2017/01/01


あけましておめでとうございます

いつもありがとうございます

みなさまにとって平和で平穏な良い年になることを願います



こけこっこー (たんぽぽえほんシリーズ)
林 木林
鈴木出版
売り上げランキング: 158,836