2016/09/26

聖なる怠け者の冒険 【文庫版】

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)
森見登美彦
朝日新聞出版 (2016-09-07)
売り上げランキング: 587
■森見登美彦
2013年5月出版された単行本を大幅に加筆修正した文庫版。
そもそもは朝日新聞夕刊に2009年6月から2010年2月まで連載されたものなのだが「単行本あとがき」によれば
【…全体として見れば「立て損ねた家」になった。
連載終了後、他の仕事や体調不良もあり、なかなか改稿にとりかかれなかった。どのように書き直せばいいのか、サッパリ見当がつかなかったためでもある。思いつくかぎりのありとあらゆる打開策をを模索した末、あらたに長篇を丸ごと1本書くしかないと覚悟を決めたのは二〇一二年五月のことであり、それから半年以上かけて執筆し、二〇一三年二月に書き終えた。
したがって、この新しい『聖なる怠け者の冒険』とは、タイトルと主要登場人物は共通しているものの、まったく違う小説である。
と書いてある。
実はこの単行本を買おうかどうかかなり迷ってチェックはしていたのでこの情報は知っていた。あまりに変わってしまったので朝日新聞出版のホームページに期間限定で掲載された「初出」の第1章分の原稿pdfも「ぽんぽこ仮面」もダウンロードしてあった(その当時はちらっとナナメ読んだ程度→今回文庫版読了後、きちんと読んでみたらなるほど、素材はかなり近いが文章は修正した程度ではなく「書き直し」たというのがよくわかる。部分的におんなじ所もあるんだけど。大変な労力だなあ)。
そして「文庫版あとがき」によれば
このたびの文庫化にあたっては、本文にかなり手をくわえてある。文庫化にあたって作品をいじくるのは好きではないが、今回だけはお許しください。
というのは、『聖なる怠け者の冒険』は朝日新聞の連載終了後、たいへんな苦労を経て出版にこぎつけたものである。愛着が湧いて削ることができず、結果として冗長になってしまった。「アンタもともと冗長な作風じゃないか!」と言われると返す言葉もないのだが、「私なりに居心地の良い冗長」というものがあるのだ。そういうわけで、できるかぎり削ることにしたのである。
物語は変わっていないので、その点はご安心ください。
とある。
kindleでは冒頭数ページが試し読み出来るので、試しに単行本の試し読み部分と照合してみると、確かに内容を変えずに、くどくなっている部分を削ってあって、なるほどなと思った。
ちなみにこの文庫版は初回限定で「リバーシブルカバー」で「著者からのメッセージカード」(全4種類のどれか1枚)が挟んである。リバーシブルは単行本と同じ表紙と、ぽんぽこ仮面のイラスト。
「著者からのメッセージカード」は本文の中に出てきた教訓(?)の著者手書きを印刷したもので、次のどれからしい。
転がらない石には苔がつく。やはらかくなろう
僕は人間である前に怠け者です
役に立とうなんて思い上がりです
人生いたるところに夏休みあり

さて、本書の内容の感想であるが、なんだかとっても書きにくいというか、書くことが思いつかない。
困った時の必殺箇条書きをしてみよう。
①いつものモリミーワールドだった。
②このひとほんま宵山好きやな。
③このひとほんま狸好きやな。
④せやけど既読のいままでのモリミー作品から一歩も抜け出てへん。
⑤むしろ『宵山万華鏡』のほうが出来が良かったんちゃうん。
まああなんのかんので面白かったから昨日今日で読み終わってしまったんであるが。
⑤は趣味の問題かも……。
「あとがき」にも書いてあったのだけど本書は『宵山万華鏡』と『有頂天家族』とリンクしている。別に単独で読んでなんの不都合もないと思うけど2作を読んであると「ああ、あれか」と分かる。

特に面白かったのは無限蕎麦の話と座布団いっぱいのところで眠っちゃうところと、あと終盤五代目と対面してからの怒濤のモリミー・ワールド炸裂する展開。
②からいきなり方言になってしまったのは本書が京都が舞台だからというわけではなくてわたしの地言葉だからである。そういえば他がどうだったかは記憶が確かでないのだが、本書で見る限り、登場人物たちは全然方言を話さない。訛らない。標準語を喋っている。イントネーションまではわからないが。
だけど地名とか具体的な通りの名前とか建造物の名前は全部リアルに京都に実在しているとおりに書いてある。何故、京都弁を喋らさないのだろう、たぶんどこかでインタビューで答えているんだとは思うが…。

冒頭に「むかしむかし。といっても、それほどむかしではないのである。」と書いてあるのだが読んでいる途中はそのことを忘れていた。何故なら全然読んでいて昔を感じさせないから。登場人物たち、携帯電話で喋ってるからね…。

ぽんぽこ仮面の正体は物語の中盤で明かされる。こんなに早く明かされるとは思っていなかったのでちょっとびっくりした。そしてそのひとがぽんぽこ仮面になろうと思った動機がだんだんわかってくる。あー切ないなー。でもまあ、普通はここまでしないよね。年齢も考え合わせるとけっこうびっくりだ。

「アルパカに似ている」五代目はそうは云っても人間なんだから人間の顔をしていると思うんだけどフジモトマサルの絵がまったくアルパカそのものを描いてあるのでそれしか頭に浮かんでくれない。あはは。物語の最初に主な登場人物の絵が載っている。楽しい。

実はフジモトマサルによる本書の『挿し絵集』だけずっと前に購入して、「いつか小説を読み終えたらこれもじっくり見よう」と本棚に大切に保存してあった。というわけでこれでやっと、やっと『挿し絵集』を見ることが出来る…!(まあ、挿し絵は新聞連載に合わせてあって、単行本・文庫の内容とは随分違ってしまったから挿し絵集見てもあんまりわかんないのかもしれないが)。

柳小路と八兵衛明神には是非近いうちに手をあわせに参りたいものだ。「なむなむ」。

聖なる怠け者の冒険 挿絵集
フジモトマサル
朝日新聞出版 (2013-05-21)
売り上げランキング: 110,012

宵山万華鏡 (集英社文庫)
森見 登美彦
集英社 (2012-06-26)
売り上げランキング: 70,381

有頂天家族 (幻冬舎文庫)
幻冬舎 (2010-11-12)
売り上げランキング: 337

2016/09/24

死神さんとアヒルさん

死神さんとアヒルさん
死神さんとアヒルさん
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ヴォルフ エァルブルッフ
草土文化
売り上げランキング: 475,932
■ヴォルフ・エァルブルッフ 翻訳:三浦美紀子
枚方T-SITE蔦屋書店に行ってきました。
2016年5月にオープンしたところです。
駅前すぐにあって、ガラス張りで、キューブボックスを重ねたみたいなオシャレなビル。
入ったところが3階でスタバもある。
梅田の蔦屋とおんなじ雰囲気で、本の総量はそんな多くないけど展示方法が変わっているから面白い。ビル全体なのでゆったりしてますね。ひともそんな多くないし。天井までの本棚とか3階分くらいぶち抜いたその上の方まで本が詰まっているけどあそこの本はどうやって取るの? ってよく見たらある程度以上の高さにある本は洋書で売り物じゃなさそう…? 飾りの?もしかしたら偽物かもしれない。

4階には服とか雑貨、食器や鍋、栗原はるみとかのコーナーもあって、ぶらぶら休日にゆったりお買い物しつつ本にも親しむ、という感じでしょうか。

本書は児童書フロア(5階)に置いてあって、まず表紙の色使いと細長ーい生き物に「!?」と関心を引かれ、見本が置いてあったので中をぱらっと見たら死神さんが……まさかのガーリー! チェックのスカートとか履いてて可愛い…っ!(お顔は骸骨なので意見が分かれるところだとは思いますが)。
全体の色合いがいい感じなんですよねー。
ひとめぼれ。
自分用に購入しました。

ヴォルフ・エァルブルッフ
1948年ドイツ・ヴッパータール生まれ。ポストモダンのイラストレーター、絵本作家。コラージュの手法を用いる。80年代から絵本のイラストを描き始め、後に執筆も始めた。子どもの本には取り上げられにくいテーマを正面からあつかう絵本づくりで、注目されている。2006年国際アンデルセン賞受賞。

原著は"Ente, Tod und Tulpe" (2007)。
邦訳は2008年2月初版第1刷発行で、わたしの手元にきたのは2010年4月の第4刷。

冒頭はこんなふうに始まります。

しばらくまえからアヒルさんは、だれかが自分のうしろにいるような気がしていました。
「だれ? どうして、わたしのあとをつけてくるの?」
「うれしい。やっと気がついてくれたのね。わたし、死神なの。」

死神さんはベージュのチェックの長いワンピースを着ています。下に赤いチェックのスカートも見える。後ろ手にチューリップを一輪持っているけど、花の色が黒いかな。

内容は、「死ぬ」っていうことのこの作者独特の世界観が少ない言葉とやわらかい線の絵で描かれていて、テーマがテーマだけに、解釈はいろんなふうに出来ると思います。
本当に文章は少ないので、想像の余地がいくらでもあるというか。

あんまり、ちいさい子どもさんには向かないような気がします。
「死ぬ」っていうことがある程度理解出来ているお子さん、小学校高学年以上~かなあ…。
まあ、小さいお子さんなりに好きだというかたもいらっしゃるかもですが。
どちらかというと大人向けの絵本のような気がします。
「死神」をこういう可愛らしい、少女のような仕草で最後まで描ききっているところが凄いなあとか斬新だなとかでも違和感がないなとかいろいろ感じ考えました。いつか、どこかで豹変するんじゃないかということも考えながら読んでいったんですけれども。

それにしてもこのアヒルは……アヒルのイメージと違うんだけどあえてなんでしょうね。
あと、目が……この目はなんなんだろう。
途中驚いたときにやっと生気が感じられましたが。
老人、という雰囲気でも無いんだよなあ…けっこう若そうなんだよなあこのアヒルさん…。

まだ一度読んだだけなので、読み込むといろいろ見えてくるかもしれません。

2016/09/22

小説の家

小説の家
小説の家
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柴崎 友香 岡田 利規 山崎 ナオコーラ 最果 タヒ 長嶋 有 青木 淳悟 耕 治人 阿部 和重 いしい しんじ 古川 日出男 円城 塔 栗原 裕一郎
新潮社
売り上げランキング: 88,372
■福永信・編
というわけで「読了」。
何故「 」付きかというと、全篇完読ではないから。
「まあ読了ということにしておきましょうかとりあえず今の時点では」というのが正確なところ。
アンソロジーにはたまにあることだ(私的には)。
理由は合わなかったり今の自分には難し過ぎたりする作品も収録されていることがあるから。
まったく手を付けないというのはしないけど、数ページでダウンしてしまう場合が……でもそのとき読めなくても数年後に読むこともあるので、まあ……言い訳だけど。
で、全部読んでいないことを前提に、なのだけど、全体的な印象では「純粋に【小説】としては超A級もA級も無いかなあ」という感じがしないでもない、まあこれは美術・芸術とのコラボとかそういう【企画】込みだっていうのもあるのかな…。

内容と簡単な感想など。★はイイネ! 数字は初出掲載号

鳥と進化/声を聞く柴崎友香   2011.9
2つの話みたいなタイトルだけど1つの短篇。
出だしが「こんにちは。」で始まっていて、すごく唐突で、1行あいて普通に小説が始まっていて、面白い。
内容もカラスや鳩の鳴き声を活字にして鳥のことをぐるぐる考えている「わたし」の日常をいつものテイストで淡々と書いてあって、引き込まれる。
これは「美術手帖」掲載時には田中和人という方の写真が使われていたらしいのだが単行本では上條淳士という方のモノクロイラストになっている。
話と合っているか、好みの絵かといわれたら、そうでもなかった。

女優の魂:岡田利規  2012.2
殺された女優(舞台女優系)が生きていた時の事とかを死んであの世?で会った美大卒の絵描き崩れの青年(自殺)と話していて、その設定は面白いと思ったが青年のぐだぐだ「何かになりたかったけど何者にもなれなかった」系の耳タコ愚痴を長々延々と聞かされてちょっとうんざりしていたら突然話が終わってすごくびっくりした。
挿し絵?というよりもこれを舞台化した実際の舞台女優さん(佐々木幸子)が演じているところのカラー写真(高橋宗正)数点。

あたしはヤクザになりたい:山崎ナオコーラ   2010.8
これは挿し絵もナオコーラさんご自身によるものだ。
なんだか「報酬」つまりお金にこだわっている主人公が出てきて、変なひとだけどこれで成功して……っていうかこの路線でまあそこそこ平和に暮らしていく系の話だろうかと思っていたので最後の2行で唖然とさせられた。まじっすかナオコーラさん。凄い男前ですね!

きみはPOP:最果タヒ  2014.4
気になる作者(名前の読み方がまずわからないけど一回見たら忘れられない)。
これで「さいはて・たひ」さんとお読みするのだね。ウィキペディアによるとこのペンネームには特に意味はないそうだが…インパクト強いし、雰囲気素敵だし、忘れ難いし、良いお名前だと思う!
作品は、ミュージシャンの女の人の話で、曲の音楽とか歌詞のこととかについて結構青臭いというか若いというかモラトリアムというか、そういう議論めいたことがうだうだ書いてあって、文章をCDのところやビルの看板のところとかにも書いてあって、内容とリンクしていて面白がりながら読んだ。ちょっと「女優の魂」の青年の云うことと似た世界観なのかなあ。十代二十代の頃はみんなこんなことを延々喋って、アウトプットしていかないとモヤモヤが遣り切れないっていうか…こういう距離間でしか読めなくなっているっていうのは年を取ったってことかなあとか思いながら読んだ。最後まで読んで「あれそんな陳腐な恋愛小説にしちゃうの?」とやや興醒め。
写真・森山智彦、アートディレクター・佐山太一、デザイン・Three&Co

フキンシンちゃん「帰ってきたフキンシンちゃん」の巻:長嶋有   2014.8
云うまでも無くこれは漫画なのだけど、タイトルのところに<小説>と書いてある。福永信さんがあとで書かれている長嶋さんの言葉によれば先生にとって「小説」と「漫画」の違いはあんまり無いってことかな。とにかく何をおいても「フキンシンちゃんが死んでなくて元気で良かった!!」に尽きる。だってあの単行本の結末じゃまるで天国…。
そしてフキンシンちゃんの挙げた「最近の出来事」セレクトに笑った。流石です。
作画(といっていいのかな?)にはダイナマイトプロという方の協力。

言葉がチャーチル:青木淳悟  2013.11
数行しか読んでいないので評価外です。すみません読み手の気力がありません。
学習漫画みたいな挿し絵と紙とレイアウトを見ているだけでも面白いのですが。歴史なのかな?歴史小説なのかな?読めばわかるんでしょうが…。
イラスト:師岡とおる

案内状:耕治人  1958.7
この作品だけ昔の<小説>企画からの掲載。1958年元号でいうと昭和33年。わお。
挿し絵だけ現代の漫画家さん(福満しげゆき)が描いている。文章だけ読んだ感じと、挿し絵を込みで感じるこの作品の雰囲気が随分違って、なんだか面白い。つまりえーと、挿し絵込みだとなんだか文章の持っている重さが軽くポップに見えるというか。内容は駄目人間の話なのだけど(ざっくりぶった斬り過ぎたか)、昭和の第三の新人あたりの作品と思って読むと変に真面目に、眉根を寄せて「芸術家におけるモデルというものの存在意義は…」「画家にとっての生活とは…」とか考えて読んだりもしそうなところを、挿し絵でなんだか梯子を外される、みたいな? 違うか。がくっと肩の力が抜けるのだ。
挿し絵って影響大きいのだなあ(超今更)。

THIEVES IN THE TEMPLE:阿部和重  2012.8
白い紙に白いインクで印刷してある問題作というか話題作というか。
阿部和重の作風は完全に守備範囲外なのでいきなり単行本購入よりもこういうアンソロジーでお試しというのは良い機会だと思ったのだけど…。
ライトや光の反射を利用して3ページ読みましたが続きを読みたい欲求<読み難さ だったのでここで投了。すみませんこれも読み手の問題です。

ろば奴:いしいしんじ  2010.12
7ページほど読んで投了(以下同文)。
「美術手帖」掲載時はプロの写真とのコラボだったようだが単行本ではまだ1歳にならない御息女(いしいひとひ)の描いた絵(幼児の絵だ)が使われている。
いしいさんの小説はむかーしにいくつか読んだのであの当時のわたしなら最後まで読んでいたと思う。

図説東方恐怖譚/その屋敷を覆う、覆す、覆う:古川日出男  2011.4/2012.4
これは別の話が2つ…なのか2つで1つなのか…いちおう全部読んだけど難し過ぎてよくわからなかった。あ、掲載年が丸1年開いてるなあ。
前衛的の一言で済ますのもどうかと思う。右側が絵と描き文字(これも2種類)あって左側に活字の文章があって全部絡んでいるんだろうけどそこの意図もきちんと理解できたとはとても言えない。なんとなく面白そうなことをやってるな、という雰囲気があって、好きな感じではあるので最後まで読めた。「その屋敷を覆う、覆す、覆う」はページ自体が本体よりも8割くらいの大きさになっていて、それも含めての「作品」なんでしょう。でもどうしてかはわからなくてもいい、のかな。楽しんで読めれば。絵・近藤啓介

手帖から発見された手記:円城塔   2010.4
これは掲載誌が「美術手帖」だから円城さんのご挨拶的な作品でもあるんでしょう。円城さんらしく、「手帖」といってもそれについて書いてあるのだけれどとても一般的に認識されているあのメモ取ったりなんだりの手帖とは全然違う、果たしてこれはなんなのか、わかるようでわからない不確かな感じ。絵で文章がつぶれて読めない系の作品かと思いきやきちんとつぶれた分は次におくって読めるようにしてある、これ絵と文章とどういうふうに作業したんだろう。まず文章書いて、絵をもらってレイアウト決めて、そこからまた字を足す作業をした、のかな。円城さんの小説は理解出来なくても楽しめればいいと開き直っていて、この話は円城さんの中ではそんなに難しくなかったので「何が言いたいのかなーこうかな、そうかな」と想像しながら読んだ。
イラスト・倉田タカシ

初出と紹介
文章執筆者とイラスト・写真・デザイン者について。
文章執筆者についての略歴は「謝辞」の前に別にあるので、ここではそれ以外の方の略歴をごく簡単に書いてある。
ここの初出掲載によって単行本の掲載順と雑誌の掲載順は違うことが確認できる。

〈小説〉企画とは何だったのか:栗原裕一郎  2012.12
今回の企画本を説明するために、元祖<小説>企画についてかなり詳しく紹介、執筆者や作品について触れてある。解説というか。

文章執筆者略歴
小説やエッセイの紹介ではなく、参加アンソロジーを紹介しているところが変わっている。好きなアンソロジーの記載が面白い。円城さん、好きなアンソロジー集は『新古今和歌集』って……わはっ、あれってアンソロジー集か、そう云われればそうか! あはは、凄いねー。
次の見開きページでみなさんの写真(日常スナップ)がモノクロだけど紹介されているのも楽しい。いしいしんじさん、これはどう見ても…手作り帽子ですよね、娘さんとコラボ。これで町中歩かれるんでしょうか…すごいな…。

謝辞とあとがき:福永信 
「謝辞」は明らかに遊んでいて、一見真面目で、実際大真面目なんだろうけど、文章上はなんでもかんでもに「感謝」しまくっていて、実際に感謝しまくっているんだろうけど、だんだんエスカレートしていって、これはこれでひとつのパロディみたいな、「作品」としても楽しめる。活字が小さくてこんな長い謝辞は珍しかろう。
「あとがき」はふつうのあとがきだった。

装丁は名久井直子、謝辞によれば最初は「美術手帖」の出版元から本を出すつもりがそこがつぶれてしまったために新潮社で出すことになって、新潮社装幀室も一緒に仕事をしたらしい。
中身がこんなに遊んでいて冒険しているのにぱっと見の装画とか本の佇まいがすんごくシンプルで、もっと攻めたほうが売れたんじゃないかなとかこの表紙で葉引きが弱いんじゃないかなとかでも中身にお金がかかるから表紙まであんまりコスト掛けられないのかなとかすみません完全に素人の感想なのだけど。
実際のところ、どうなんでしょうか。

2016/09/17

スタッキング可能

スタッキング可能 (河出文庫)
松田 青子
河出書房新社
売り上げランキング: 44,836
kindle版
■松田青子
これは2013年1月河出書房新社より単行本として刊行されたものに、書き下ろし短篇(「タッパー」)と穂村弘氏による文庫版解説を新たに収録した文庫(2016年8月80日初版)の電子書籍版である。

収録作品は以下の通り。
スタッキング可能
初出「早稲田文学」5号(2012年9月)
マーガレットは植える
初出「早稲田文学」記録増刊 震災とフィクションの“距離”(2012年4月)
もうすぐ結婚する女
初出「早稲田文学」増刊π(2010年12月)
ウォータープルーフ嘘ばっかり!/ウォータープルーフ嘘ばっかりじゃない!
初出「早稲田文学」増刊wasebun U30(2010年2月)「早稲田文学」3号(2010年2月)「WB」vol.019(2010年4月)
タッパー
書き下ろし

この方の小説は本になっているのを読むのは初めてだが近作「おばちゃんたちのいるところ」が電子書籍版の雑誌「アンデル」に連載されていたので創刊号と2号分は既読。そのときに「あんまり合わないかも」と思ってしまったのだが先日旅犬さんから同氏のエッセイが面白いとオススメされ、検索したら以前から気になっていた本書が文庫化&文庫版の電子書籍化されていることを知り、良い機会だから読んでみることにしたのであった。読んでみたら「おばちゃんたち」2回はよくわからなかったのにこちらは最初からかなり面白くてびっくりした。どんどん読んだ。

スタッキング可能」というのはデジタル大辞泉にあるように【積み重ねること。特に日本では、揃いの食器・家具などを積み重ねることをいう。】ということで、表紙のイラストのような感じなのだが、この小説で描かれているのは「積み重ねられている」ということもそうだがそもそもそれは「同じ形をしているから(積み重ね可能)」なのでありその「同じ形をしている」→「おんなじようなことみんな言ったりしたりしてる」→「積み重ねても、入れ替えても、変わんないことになってるよ」ということが風刺的に書かれている。
というと小難しそうな理屈っぽさをイメージするかもしれないが、ひとつのビルのそれぞれの会社の社員同士の何気ない会話や思考を使って書いてあるからすごくわかりやすい。リアル、かどうかは知らないがまあいかにも雑誌やテレビに出てきそうなステレオタイプなバカ騒ぎをしていたり、OLどうしの会話があったり、小さな小競り合い、セクハラ、ジェンダー問題、うわべだけの会話の下の思考、なんかが重なり合っている。一面だけではなく数パターン書かれることによって多角的な観察ができ、面白い。

ああまさにその通りのヤツ、昔いたわ! と物凄く共感した部分引用。
あの男性社員はなんでもセクハラで済ませばいいと思っている。そう女子社員たちが話しているのをトイレ掃除をしている時に聞いたことがある。(略)ほかの男性社員が女子社員にくだけた調子で話しかけると、ちょっと踏み込んだ質問をすると、女子社員が答えようとする前に、一緒に笑おうとする前に、こう言う。「おまえ、それセクハラだぞ」「おいおい、セクハラやめろよな」そして理解してますよみたいな調子でこう言う。「セクハラですよって言った方がいいぞ」「なあ、セクハラだよなあ。まったく困った奴らだよな」。セクハラでも何でもない時も。女子社員の一緒に笑おうとした口元がしぼむ。心が少しだけ冷える。


マーガレットは植える」というのは恥ずかしながら穂村さんの解説を読むまで気付かなかった……ああそうだマーガレット・ハウエルじゃないかー! わーまさかの駄洒落だったー! マーガレットハウエルの靴お気に入りだったのにっ。ブラウスも好きなのにっ。
ちょっと前衛的な、言葉遊び的な作品。どんどんエスカレートしていくパターン。
マーガレットハウエルのブランドイメージと重ねてみる、っていうのもあるよね。

もうすぐ結婚する女
「もうすぐ結婚する女」は複数の、そういう集合体を描いてあるのかと思って読んで行ったらごく個人の単体のことで、そうかと思って更に読み進んでいくといつのまにか違う「もうすぐ結婚する女」のことが書かれていて、やっぱり複数のことなのだけど、まるで単体のように、いろんな「もうすぐ結婚する女」と語り手(これも複数)との思い出話などが描かれる、これもある意味「積み重ねられて」いく。
何故「集合体」だと思ったのかともう一度文章を読み直したら冒頭2行目に
もうすぐ結婚する女はビルの最上階にいる。
と書いてあり、これかと思った。仮に、
「もうすぐ結婚する女はマンションの最上階に住んでいる。」
と書いてあったとしたら、単体だと思っただろう。
「マンション」「住む」と言う言葉は使わないルールなのかと思ったら同じ話の後半に【幼少期家族で住んでいたマンションは八階建てだった。】と出てくる。意図的なのだ。
「ビル」は「生活」を連想しない。買い物をしたり、仕事をしたり、あくまで一時的な滞在をする場所、という気がするのだが、一般的にはどうなのだろう。
「もうすぐ結婚する女」が住んでいる建物の描写がとても良い。壁の色とか、内装とか。真ん中に主役のような階段がある。この階段についての描写がまた素晴らしいので引用する。
この階段のためにこのビルは存在していると言っても言い過ぎではないくらいの存在感である。黒い手すりがどこまでも従順に寄り添っている階段の色はくすんだ白、場所によっては灰色が混じり、まるで太古の恐竜の骨を思わせる。恐竜みたいだと言いつつも、特に恐竜にくわしいわけでもないので種類はわからないが、ずおーんと首が長い恐竜が私のイメージである。肉より草を食べていそうな恐竜である。やさしめな方である。恐竜は優雅に首を伸ばし、もうすぐ結婚する女がいる部屋まで私を連れていってくれるはずだ。

ウォータープルーフ嘘ばっかり!」と「ばっかりじゃない!」はABの30代OLふたりが気炎を吐いている会話形式の作品。化粧品メーカー「ちふれ」ってえっ、そうだったの?と思わずググってしまった。そしたら本当だった。
ウィキペディアより引用
全国地域婦人団体連絡協議会(ぜんこくちいきふじんだんたいれんらくきょうぎかい、全地婦連)は、日本の女性団体の一つ。
戦後、地域の婦人会組織をつなぐような形で、1952年(昭和27年)7月9日に結成された。当初は原水爆禁止運動や沖縄返還運動など、政治的な運動の色合いが強かったが、1970年頃からは電気製品の二重価格表示の実情調査や、低価格化粧品「ちふれ化粧品」を送り出すなどの実績を持つ。
わーそうだったんだー。ちふれの化粧品を使ったことはないんだけども。

タッパー」は、停電の知らせがあり、冷凍室で保存しているいくつものタッパーを出してどうしようかというところからどんどん連想・空想が広がって行った、というのが時系列的に逆方向から描いてある。ちょっとファンタジックなSFっぽい話でキレイだ。映像化したら面白いんじゃないかな。

松田さんは1979年生まれで、ウィキペディアによれば契約社員として働かれた経験もおありで、現代の日本の会社で働く女性が周りから受ける干渉とかそういうのを実感としてお持ちなんだな、だからこういう作品が出てくるんだなと非常によく理解できた。一昔前の男女差別とはまた違う、このなんというか気持ち悪い真綿で首を絞めるみたいなのがね…。
また、同項を読んで、amazonの単行本の紹介記事にあるそうそうたる作家陣による推薦コメントにも納得がいった。

kindle版なのに解説がきちんと収録されているのが有難い。

マーガレット・ハウエルの「家」
マーガレット ハウエル
集英社
売り上げランキング: 47,698

2016/09/13

殺人出産

殺人出産 (講談社文庫)
殺人出産 (講談社文庫)
posted with amazlet at 16.09.13
村田 沙耶香
講談社 (2016-08-11)
売り上げランキング: 2,120
kindle版
■村田沙耶香
「産み人」となり、10人産めば、1人殺してもいい──。そんな「殺人出産制度」が認められた世界】を描いた小説。かなりショッキングな設定ということもあり単行本が出版された2014年7月くらいのとき結構話題になっていたので、わたしも未読だけどその設定だけは知っていた。で、なんでか「ミステリー」だと思ってしまった。いやだって作者のこと知らなかったし、「小説で殺人っていったらミステリー」という思考回路だったので。

このあいだの芥川賞を同著者が『コンビニ人間』で受賞され、『殺人出産』の著者だと気付いて「あーあれは純文学だったのか」とあらためて設定とかを見てみたらそもそも長篇じゃなくて短篇なのだった。あんまり設定的にそそそられないんだけど、やはり変わった設定なのでどういうふうに料理してあるのか気になるし、『コンビニ人間』が良かったので読んでみることにした。

えー…で、短いので1冊あっというまに読めてしまったのだが、「発想は面白い」「こんなとんでもない設定を妄想しているこの作家さんはとっても面白くて興味深い人物だ、好きだなこういうことずっと考えてるひと」と思ったが、テーマとか書き方とかがわたしの好みじゃなかった。うーん。
飲み屋で話したらめっちゃ盛り上がりそうだとは思う。
「たとえばさー、10人産んだら1人殺してもいいって云う法律が出来たとしたらさー、どうする~?」
とか、すごい面白い問題提起。喧々諤々、丁々発止と意見が飛び交いそう。
実際に、その問題提起だけ知っていた状態が結構長かったから、読むまでにいろいろ想像はしていたんだけど、実際読んでみたら想像していたのといろいろ違ってびっくりした。

まず「10人産んだら1人殺してもいい」という世界であってもそれは江戸時代の武士の敵討ちみたいな、そういう解釈でいたので、そのこと自体を神聖化したり憧れの存在に祭り上げられているというのが意外だった。
そして殺される側の人間には1か月前に通知して殺される側も祭り上げられる感じで、選ばれた側が特に取り乱したりせずに受け入れることがほとんどだというのに仰天した。
さらにその葬儀では参列者に美化されたり感謝されたりするというのがよくわからなかった。
殺される側は選ばれた時点で逃げようがないのとか、弁明の余地とか、懇願の余地とか、そういうのないのが…うーん…。
しかもこの仰天設定は100年くらいの間で社会全体に浸透したとかで、実際に話の中のアラサーくらいのまだ若い主人公たちですら「昔は殺人って罪だった」とか自分の昔の経験として知っている移行期間の世代なんだよね。社会認識ってそんな簡単に短いスパンでここまで極端に変わるかなあ…。
あと実際に殺すシーンが気持ち悪いくらいに「さらり」と書かれていて。いや単語的には液体的描写が多いんだけど。全篇通じて血とか体液とか好きなんだねって感じで。でも精神的な葛藤とかがほんとに無くて。ひとの命を奪っていく躊躇とか、嫌悪とか。無いの、普通かなあ…。
よくわからんわーこの姉妹!

本書は表題作のほかに3篇の短篇が収録されている。長さはバラバラ。kindle版のページ数で見てみると、
殺人出産」10~1081
トリプル」1082~1424
清潔な結婚」1425~1711
余命」1712~1753
となっており、最後の「余命」はかなり短い。さあここからどう展開するんだろう、と思ったらそこで終わっているという感じ。
トリプル」は「カップル」の恋愛よりも十代の間で「トリプル」でつきあうほうがメジャーになってきている時代、っていう設定。彼女らの母親世代は「カップル」が普通と思っていて、「トリプル」を嫌悪している。「トリプル」というのは3人で付き合うんだけど2人で付き合う時にすることといろいろ違っていて、そのへんの描写がけっこう詳しく書かれているんだけどそのへんからどんどん気持ち悪くなって飛ばし読みしてしまった。でも最後のところで「カップル」の実態を知った主人公が不快感を示しているから全然違う、っていうことは確からしい。これもこういうのを妄想している作者の頭のなかが面白いなと思った。
清潔な結婚」はお互い性的な関係にはなりたくなくて、でも結婚して家族は欲しくて、子どもも欲しくて、という夫婦の話。これもそういう夫婦が結構「アリ」になってきてそういうひとを専門に扱っている機関が存在したりしている架空世界の話。途中まではふんふんと頷きながら読んでいたが、性的関係を持つためにお互いに愛人を持っている、というところで「なんじゃそりゃー」と崩壊してしまった。それって愛人にされたほうが迷惑千万じゃねーか。夫婦で勝手に好きなように約束してるのはいいけど、他人様を巻き込むなよー。
余命」はさっきも書いたけど「そこで終わりかーい」と思った。面白くなるのはここからでしょうに。

単行本→文庫本で装丁の雰囲気ガラリと変わりましたね。

殺人出産
殺人出産
posted with amazlet at 16.09.13
村田 沙耶香
講談社
売り上げランキング: 94,472

2016/09/11

小説の家 (まだ中身はほぼ読んでいませんがとりあえずご紹介いたしたく!)

小説の家
小説の家
posted with amazlet at 16.09.11
柴崎 友香 岡田 利規 山崎 ナオコーラ 最果 タヒ 長嶋 有 青木 淳悟 耕 治人 阿部 和重 いしい しんじ 古川 日出男 円城 塔 栗原 裕一郎
新潮社
売り上げランキング: 119,090

変わった本が好きで
執筆陣に好きな作家が複数人いて
気になる作家もいて
こういうのは持っているだけで楽しいというかとりあえず持っておきたい本。

Amazonで書影だけ見ていた時にはまさかこんな面白お遊び本だとは気付けなかった。
こーゆー本があるからリアル書店に行かないと駄目なんだなあ。最近ほんと行けてなくて反省。
ジュンク堂難波店でコーナー紹介されていて「ん?」と思って本を手に取って小口を見た瞬間に
「こっ…これはまさか…!」
紙の色が一色じゃなかったのね。
で、中身ぱらぱら見て「おー!そういう仕掛けか」
こういうのは電子書籍では味わえないから紙の本一択。で即決購入決定。
裏返して本体価格見た時「わー高いなー」とは思いましたが、こういう造りの本ならむしろ適正価格でしょう。税込¥4,104円。

というわけで先日購入して中身をパラパラ見て凄い凄いと驚いて面白がっていますが
中身はまだ長嶋有の「フキンシンちゃん」(新作)しか読んでいません。
また中身読んだら感想書きます。
⇒読了後の感想はこちら。

初出が「美術手帖」ということでもわかるように
これは「小説」と「美術」のコラボなのです、というか小説・文学を芸術しちゃうというか。

白い紙に白いインキで印刷しちゃうとか…なんということ!(THIEVES IN THE TEMPLE@阿部和重)
本を明かりに照らして角度を工夫して読むしかないのですこんなの電子書籍化で再現不可能…!
作家ごとにいろんなお遊びをして、見ているだけでも楽しい豪華本になっております。

目次
鳥と進化/声を聞く  柴崎友香
女優の魂  岡田利規
あたしはヤクザになりたい  山崎ナオコーラ
きみはPOP  最果タヒ
フキンシンちゃん  長嶋有
言葉がチャーチル  青木淳悟
案内状  耕治人
THIEVES IN THE TEMPLE  阿部和重
ろば奴  いしいしんじ
図説東方恐怖譚/その屋敷を覆う、覆す、覆う  古川日出男
手帖から発見された手記  円城塔
〈小説〉企画とは何だったのか  栗原裕一郎
謝辞とあとあき  福永信
ブックデザイン・名久井直子

新潮社の紹介ページはこちら。

2016/09/04

大聖堂 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 3

大聖堂 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈3〉
レイモンド カーヴァー
中央公論社
売り上げランキング: 321,040
■レイモンド・カーヴァー 翻訳:村上春樹
あえて全集で読むカーヴァーその2。1990年5月中央公論社刊。
この巻に収められているのは円熟期の作品で、『頼むから静かにしてくれ』よりも落ち着いている設定が多いせいもあり、読みやすかった。

目次、感想メモ。はイイネ! *は『傑作選』にも収録。

夢の残影 ―日本版レイモンド・カーヴァー全集のための序文 テス・ギャラガー
夫人にして作家によるカーヴァー作家論・作品論。

羽根 Feathers 
仕事仲間の家に夫婦で夕食に招かれる。妻は気が乗らずカリカリしている。友人宅には孔雀が放し飼いにされていた。そして八か月になる坊やは…。
最初はどういう話になるんだろうと思っていたが食事が済み、話が進んで坊やの描写になって唖然。でも話のまとまりかたには「まあ、夫婦ってそんなものなのかな」と妙に納得するような気も。なかなか一筋縄ではいかない味わいがあった。

シェフの家 Chef's House 
シェフといっても料理人じゃなくてそういう名前の、以前アルコール中毒だった男がいて彼が主人公の前夫に家を無料同然で貸してくれて、そこで夫婦が元鞘に戻って暮らしていたが…という話。上手くいくのかと思っていたがこの展開だとやっぱり駄目だったんだろうなあ。

保存されたもの Preservation 
仕事を解雇されてからソファーの上から離れなくなってしまった夫と、その妻。ある日冷蔵庫が壊れてしまい中のものがみんなどろどろに解凍されてしまって…。
冷蔵庫が壊れたから新しいのを買う、んだけどそれを中古で競売で買う、という発想が無くて、アメリカでは普通なんだろうか。なんというか、身も蓋も無いが、お金が無いって云うのは嫌なことだなあとしみじみと実感した。この夫婦だって夫の仕事が順調で、生活が安定していたらこういうふうにはならなかったと思う。

コンパートメント The Compartment
8年ぶりに息子に会うために列車で旅をしている男。コンパートメントを離れたあいだに時計が盗まれてしまって…。なんでこういう貴重品を身に付けないでウロウロするかな。
結局この主人公は息子に大して会いたくないのだ。家族だからって無条件に愛し合うわけじゃないんだ、ということが書いてあって「おー」と思った。

ささやかだけれど、役に立つこと A Small, Good Thing * 
これはすごく悲しいやるせない話で、でも「有り得る話」だから余計に胸にずんとくる。
読んでいると「なんできちんと名乗らないんだ」「事情を説明しないんだ」といらいらしないでもないが、実際は両方腹を立てていたりものすごいショックと悲しみの中にいたりするんだからこうなってしまうのもまたリアルなのかもしれない。
こういう内容で、このタイトルというのは、巧いと思う。カーヴァーの小説のタイトルに感じ入るとは…!

ビタミン Vitamins
ビタミンを売る商売をはじめた妻。上手くいっているように見えたのだが…。
夫が浮気をしようとする過程が実になんというか良心の呵責とかがいっさいなさそうで、倫理観が違う人間というものはこんななんだなとリアルだった。

注意深く Careful 
耳に垢がつまって聞こえなくなった夫、妻がオイルを温めて耳に注いでしばらく時間をおいてから耳を傾けると汚れが流れ出る…というくだりがなんだかぞわぞわするような、でもなんか気持ちよさそうな。面白い。「解題」で春樹氏も書いておられるが、日本人ではあんまり聞かない症状ですな。

ぼくが電話をかけている場所 Where I'm Calling From * 
アルコール中毒治療所での日常を描いた静かな作品。そこでの仲間JPの煙突掃除の娘との恋の話。最後の部分が淡々としていて、でも「彼女」への想いが伝わってくる。

列車 The Train
待合室での一コマ。よくわからないがなんだか苛々させられもする。

熱 Fever
妻が駆け落ちで出て行ってしまい、子どもの世話などに途方にくれる高校教師の主人公。ベビーシッターを頼んでみたが碌に子どもの世話もしないでボーイフレンドを連れ込む始末。そんなときに家政婦さんがきてくれることになり…。

轡 The Bridle
ミネソタから元農家の一家(夫婦と、十代の子どもふたり)がやってきて貸家に住む。夫が競走馬にのめり込んで一文無しになってしまったからだという。妻はこちらにやってきてウェイトレスを始める。この話の語り手は貸し手の管理人夫人で、美容室も開いている。この美容室の設定がなんだか商売毛が薄くて昔風でなんだか良い。酔っぱらって飛び降りて額を割るくだりはなんというか…酔ってただけなのか、人生そのものにやけっぱちになっていたのか。

大聖堂 カセドラル Cathedral * 
主人公の妻には独身時代に働いていた関係で盲人の知人(男性)がいて、家に招待することになった。主人公は妻と盲人の親しいつきあいがなんとなく面白くない。しかし3人で食事をし、マリファナを吸ったり話をしているうちに主人公の気持ちがだんだん緩やかになっていって…。
最後の目を閉じて彼が思うことがなんだか不思議な感じで、そういうふうに感じるものなのかと思った。

解題 村上春樹
初出一覧
レイモンド・カーヴァー、その静かな、小さな声 ジェイ・マキナニー
カーヴァーが大学で教えていた時の学生による思い出話など。カーヴァーってインタビューの録音機に残らないくらい声が小さかったとか書いてあってそんなひとが学校で教えられたのかな?とかちょっと思う。

付録<月報>
テス・ギャラガーの小説 高橋源一郎
夫婦ともに作家という例などからテスの小説の紹介など。
カーヴァーとサーモンと 宮本美智子
カーヴァーの担当編集者としたカーヴァーの思い出話など。

大聖堂 (村上春樹翻訳ライブラリー)
レイモンド カーヴァー
中央公論新社
売り上げランキング: 109,686