2016/04/28

ビジネスマンへの歌舞伎案内

ビジネスマンへの歌舞伎案内 (NHK出版新書 446)
成毛 眞
NHK出版
売り上げランキング: 48,340
kindle版
■成毛眞
2014年11月刊の電子書籍版。
例によってAmazonの日替わりセールで¥199と安かったため「歌舞伎の入門書代わりにいいかな」と読んでみることにした。
わたしはビジネスマンではないし、ふつうの会社員である自分に歌舞伎の知識が仕事で役立ちそうだと考えたわけでもない。だいたい「サラリーマンのための」じゃなくて「ビジネスマンのための」ってのがポイントな気がする。最初のほうを読んだところで「この著者ってどういうひと?」と気になったので巻末を見てみたらプロフィールが載っていたがのけぞったね。こういう本を書きそうな歌舞伎関係者や伝統芸能系のひとではなくてバリバリの実業家さんらしい。

NHK出版のホームページから転載。
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒。株式会社アスキーなどを経てマイクロソフト株式会社に入社、36歳で同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイアを設立。現在は同社取締役ファウンダーのほか、書評サイト「HONZ」代表、早稲田大学ビジネススクール客員教授などを務める。

マイクロソフト株式会社というのは【日本マイクロソフト株式会社】のことで、マイクロソフト コーポレーションの日本法人のことらしい。
すっげー!! 36歳で(日本の)マイクロソフトの代表取締役社長って何者!!?

どうやら純粋に歌舞伎好きのファン、という立ち位置らしい。
他の活動などから、いろんな文化的なことなどで「良い」と思うものを人に勧めるのが大好きな方なのかな、と想像した。
書評サイト「HONZ」というのは知らなかったなあ。

ちなみに歌舞伎を見に行ったことは無いし予定もない。
「歌舞伎を見に行く」そのものにかなりハードルが高かったのであるが(何を着ていけばいいの?状態)、本書を読んで少し敷居が低くなったような気はする。
要するに、
①歌舞伎は同じ話でも役者によって演じられ方が異なる。
②歌舞伎はストーリーを見に行くというよりは、役者を見に行くものである。
ということらしく、それは落語なんかと同じだな。
現代語で喋っていないので初心者は筋がよくわからないとか普通だが、配られる冊子に筋立ては書いてくれてあるらしい。でもそもそも筋は大したことなくって、役者の表現が良かったり、衣装が綺麗だったり、そういうのを楽しめばいいとのこと。

「大向こう」、いわゆる「○○屋!」と叫んだりするのはてっきり贔屓の、ファンの方が言っていると思っていたんですけど違うんですね!(みんな知ってることだったら恥ずかしいなあ)。

もっと歌舞伎から現代日常生活や処世術として具体的に「役立つ」ところを挙げてあるのかと思ったら全然そうじゃなかった。
「ビジネスマンへの」っていうのは著者がビジネスの世界での成功者だから付いてる「飾り」程度に思った方がいいかも。まあ、実際に仕事で外国人に日本の文化を紹介したり説明したりする機会がけっこうある、という方で「歌舞伎についてどう説明したらいいのかわからない」という向きには結構役に立つのかもしれない。

目次を写す。

はじめに

第1章 忙しい現代人には歌舞伎が必要である
・私も歌舞伎がつまらなかった・歌舞伎はビジネスとしても素晴らしい・リタイア世代だけの娯楽にしておくのはもったいない・すなわち歌舞伎は「フェス」である・歌舞伎をわかろうとするのは野暮である・日本人必須の教養としての歌舞伎・忙しい現代人はリラックスできる場を求めている・生涯の趣味としても歌舞伎をどうぞ・歌舞伎がなくなることはない

第2章 知らないと恥ずかしい歌舞伎の常識
・歌舞伎の分類はそのうち覚える・長い演目の途中だけが上演されるのはなぜか・見た目で九割わかる「立役」の性格・総重量三〇キロ以上の衣装を身に纏う「花魁」・覚えておきたい時代物の定番キャラ「赤姫」・野際陽子的存在感で芝居を引き締める「老女形」・視線を独り占めの「女形」in歌舞伎舞踊・歌舞伎に女性が出演することもある・なぜ「大向う」と呼ばれるのか・通に思われたいなら下座音楽を聞け・浄瑠璃は「語る」音楽である・幕を引くのにも実は専門職がいる・ビジネスライクな歌舞伎の世界・歌舞伎とは役者を見に行くものである

第3章 教養として押さえておきたい演目一二
・歌舞伎を語るうえで必須の「三大名作」・知っておいて損はない九演目

第4章 歌舞伎見物をスマートに楽しむ
・歌舞伎座以外でも歌舞伎は行われている・一年の始まりを告げる一一月「顔見世興行」・もっとも華やかに賑わう一月「嘉初春大歌舞伎」・歌舞伎界のスーパースターを偲ぶ五月「圑菊祭」・避暑におすすめしたい八月「納涼歌舞伎」・中村吉右衛門の功績を称える九月「秀山祭」・歌舞伎座の地下にも見所あり・建物の歴史にも思いを馳せよう・イヤホンガイドを借りるのは恥ずべきことではない・上演が始まるまでにネタバレをしておく・舞台に使われているすごい技術・夜の部には夜の部の楽しみ方がある

第5章 ビジネスに歌舞伎を役立てる
・歌舞伎から考える粋な生き方・働き方・舞台はビジネス社会の縮図でもある・ベテラン役者に見る年季の積み方・英語より先に歌舞伎を学べ・ベンツやエルメスよりも歌舞伎はすごい・歌舞伎を本当に役立てるための心構え

コラム①歌舞伎は接待にも使える!?
コラム②着物を着ていかなくてはダメですか?
コラム③歌舞伎の食事はぜひここで!
コラム④歌舞伎座の周囲にも歴史あり
コラム⑤歌舞伎を知ることの意外なメリット

付録 より深く歌舞伎を味わうためのブックガイド

2016/04/26

寝ながら学べる構造主義

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)
文藝春秋 (2012-09-20)
売り上げランキング: 44
kindle版
■内田樹
4月22日の日替わりセールで¥299で、「構造主義ってなに?」状態だったが著者が内田樹氏なこともあり、未知の世界をたまには読もう、と読んでみた。タイトルなどから気楽に親しめる入門書らしいこともその気になりやすかった。

具体的な例などが挙げられていて、わかりやすく、「そうか、そうだったのか」と驚いたりうなずいたりしながら好奇心と探究心を適度に刺激されながら「新しい知識を得ているヨロコビ」にもちょっとひたりつつ楽しく読むことができた。

ちなみにウィキペディアで「構造主義」をググるとこんな感じだ。
構造主義(こうぞうしゅぎ、仏: structuralisme)とは、狭義には1960年代に登場して発展していった20世紀の現代思想のひとつである。 広義には、現代思想から拡張されて、あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論を指す語である。

構造主義とはなにか? というのを短いセンテンスで説明すると非常に難解な言い回しになり結局「日本語で書いてあるのによくわからない…」となりがちだが、本書は内田氏が順を追って「誰々がこういうことを考えて、こういうことを云った」というふうに説明していくので、ひとつずつふんふんと理解していけばいい。

ウィキペディアには『寝ながら学べる構造主義』のページもあった。
目次とか、紹介されている学者などはここで見ることが出来る。

ちなみにいまは「ポスト構造主義の時代」なんだそうだ。
それがどういうことかも、この本を読むとわかりやすく書いてくれてある。ポストっていうから郵便屋さんがなんの関係があるのかと思ったよ(嘘)。

読んでいて思ったことは内田先生は語彙が豊富でらっしゃるなあということ。
ふだん見かけない熟語とかがたくさん出てきた。kindleなので、そういうときは意味を確認しながら読めて便利であった。
例えば「浩瀚(こうかん)」とか「趨向(すうこう)」とか。

全体的にわかりやすかったけど、第六章がややわかりにくかったのは「ラカン」自体が難解だからかなー。

千歳ヲチコチ

千歳ヲチコチ 8 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
D・キッサン
一迅社 (2016-04-25)
売り上げランキング: 541
■D・キッサン
完結…!

本作はコミックです。
2015年に読んだ本ベストテンの記事で紹介させていただいた作品です。

去年見つけて7巻まで読んであったのですがこれの8巻が先日出て(kindle版でダウンロードした)、物語はみごとに大団円を迎えました。
絵に描いたような王道の少女漫画的展開で、でも台詞とかいろんなこまかいところでネットスラング多用してあって少年漫画っぽい要素もあって、平安ものなのに現代の感覚が多用されていて、基本、コミカルな展開。でも主筋は少女漫画の王道という不思議な絶妙なバランスの漫画でした。

D・キッサン何者! 天才じゃね?
と思って前作をググって試し読みしてみましたがそちらは図書部が舞台と云うおいしい展開にも関わらず私的に不発。
千歳ヲチコチで花が開いたということでしょうか。

次作が楽しみです。
というか、千歳ヲチコチのスピンオフ的な続篇1巻分くらい出ないかなとちょっとだけ思ったりもします(最近の少女漫画そのパターン多いですよね)。

2016/04/21

ゲゲゲの女房 人生は……終わりよければ、すべてよし!!

ゲゲゲの女房 (実業之日本社文庫)
武良 布枝
実業之日本社
売り上げランキング: 75,430
kindle版
■武良布枝
これはNHK朝ドラにもなった、漫画家水木しげるの妻が書いた自伝。2008年実業之日本社刊。の、2011年9月同社文庫の電子書籍版。
4/17の日替わりセールで¥199だったから購入して読んでみた。定価だったらまず買わない守備範囲外の作品。
ちなみに朝ドラも観ていない。水木しげるとその妻の役を誰が演じたかくらいは知っているが。

著者の苗字はこれで「むら」と読む。水木しげるの本名は「武良茂」なんですな。
「ゲゲゲの女房」というタイトルだが、最後まで読んで最後の7章でやけに教訓めいたことを語りだすなあと思って「あとがきにかえて」を読んだら編集者である実業之日本社の鈴木さんというひとに著者が何気なく言ったことが印象に残って「自伝を書かないか」という話があったらしく、その台詞というのがサブタイトルにもなっている「人生は終わりよければすべてよし」だったらしい。

水木しげるの漫画は読んだことが無いけどテレビアニメで「ゲゲゲの鬼太郎」は観ていたし、京極夏彦が崇拝している漫画家だということも知っているし、戦争でいろいろご苦労なさったかただというのもたびたびテレビで紹介されている。その方の奥さんの話。朝ドラになったりしたこともあって、なんとなく「夫に従って、いろんな苦労を重ねてこられた古き良き時代の日本の奥ゆかしい奥さん」というイメージを持っていたが、本書を読んだらまさにその通りだったので、逆に少しびっくりした。絵に描いたような夫唱婦随の人生というか…。
「あとがきにかえて」でご本人が「私は古い日本の女性の生き方を、そのままとおしてきたように思います。」と書かれていてそうか、ご本人もそう思われるのか、とまた少し驚いた。
続けて「『すべてを受け入れる』だけの人生でした。」とも書かれているけれど、決してマイナスの意味ではなく、プラスで書いているからこそ「私は不幸ではありませんでした。」「『終わりよければ、すべてよし』なのです。」という言葉につながる。著者は続けて書く。

  なんだかいまは、「家庭環境」、「結婚」、「就職」など、人生の入り口でどれだけ幸運をつかむかで、その後のすべてが決まってしまうかのように思い込んでしまう人が多いと聞きます。
  人生の入り口での状態は、といえば、水木も私も、お世辞にも、幸運だったとはいえないでしょう。でも「いろいろなことがあったけれど、幸せだ」と素直にいえるのは、「水木が自分自身を信じ続け、私も水木を信じ続けてきた」からだと思います。

島根県安来市に生まれたところからの始まり、故郷の紹介、子ども時代の思い出、女学校を出て家業を手伝った時代、そして見合い話で水木しげると出会い、なんとその5日後に結婚…。
昔はそんなこともそう驚くような話ではなかったのかもしれないが、さすがに5日というのは短かったようだ。本人たちも記憶があいまいになっていて、長い間10日後だったと覚えていたのが、子細に日記を残していた兄が見直したら5日後だったとのこと。

そして貧乏生活!
水木先生は最初貸本屋で漫画を描いていて、その原稿料がものすごーく低かったらしい。税務署のひとに「こんな収入で食べていけるわけない」と疑われてしまったというエピソードが面白い。
でも貧しい中でも一生懸命に働き続け、そんな中で何故か夫婦して戦艦の模型作りにハマったりしていて、楽しそうなのがリアルで、ああ人間、貧乏でもこういうふうに楽しみを見つけて仲良く生きられたらいいなあ、と思ったりした。

最終的には「ゲゲゲの鬼太郎」やなんかで売れっ子漫画家になって……という現在の評価を知っているからどこかで安心して読んでいたけど、売れてからも貧乏時代が骨身にしみているから仕事を断れずに働き過ぎて過労になるとか、本当にご苦労なさったのだなあ。
でも、奥さんとしては、売れてからどこかカヤの外になってしまって、むしろふたりで頑張っていた貧乏時代の方が幸せだったとかいう気持ちの吐露があったけれど、それはよくわかる、と非常に同情した。

本書にはアシスタントとか編集とかの絡みでいろんなひとが出てくる。中でも、つげ義春がアシスタントだったとか、ガロの編集者時代の南伸坊だとか、興味深かったなあ。

文章も構成もすごく上手くて、とても普段文章を書かない人が初めて書いた本とは思えないくらいよく出来ている自伝。「あとがきにかえて」に「ライターの五十嵐佳子さんに、執筆にあたっていろいろとアドバイスをいただきました。」と書いてあって、なるほど、プロの手助けがあったのかと納得。
水木さんの自伝漫画からの引用的挿し絵や写真などが数多く収録されているのも読んでいて楽しかったしわかりやすかった。

2016/04/17

柴田元幸講演会「エドワード・ゴーリーを見る/読む/訳す楽しみ」レポ @伊丹市立美術館2016.04.16

The Iron Tonic
The Iron Tonic
posted with amazlet at 16.04.16
Edward Gorey
Bloomsbury Publishing PLC
売り上げランキング: 2,001
▲当日会場で購入した原書 ¥1,728円。

ゴーリーの没後、アメリカ・ペンシルバニア州のブランディーワイン・リバー美術館で2009年に行われた回顧展 'Elegant Enigmas: The Art of Edward Gorey' は大きな話題となり、その後世界各地を巡回しました。この「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密展」が、ついに日本初上陸。約2年間の予定で全国の美術館を巡回します。

いつも素敵な情報をくださる旅犬さんに教えていただきまして、昨日、伊丹市立美術館で行われた柴田先生の講演会にご一緒してまいりました。

柴田先生の翻訳やエッセイのファンであるわたしですが、エドワード・ゴーリーはどうもテーマが暗そう怖そう&どこから手を出すのが正解かわからない……ということで実はいままで1冊も読んだことがありませんでした。

ちなみに伊丹市立美術館にも初訪問。
このあたりは美観地区に指定されているため、ニトリやタリーズコーヒーなども瓦・白壁調を取り入れています。美術館も石庭などがある和風の外観。そこにゴーリーのポスターなどが貼られている様は柴田先生もおっしゃっていましたがなかなかシュールな感じです。
中は地上2階、地下2階で一回庭にある通路を通っていく構造など、ちょっと迷路っぽくて(?)面白かったです。

10時開館でまず展示をじっくり拝見。
空いていたのでゴーリーの原画を自由に至近距離で好きなだけ凝視することが出来ました。
絵だけじゃなくて字(レタリングっていうんでしょうか?)も全部手書きなんですよね、あまりに美しいから活字かと思っちゃうくらい、でも活字にはないユニークさと個性がある。
旅犬さん「1ヶ所もお直しが無い…!」の指摘に、そう言われれば、と。
ホワイト修正とか、誤魔化した跡がいっさい無いのです。

ゴーリーと云えばモノクロで細かい線で描き込み!というイメージでしたがカラーも数少ないけどある。人間の描き方に比べて猫のそれの愛らしさ、ユーモラスさは何なのでしょう…。
柴田先生の講演でもゴーリーの本では「子どもは酷い目に遭ってばかりだけど」猫や犬はそういう目には滅多に遭わない。とおっしゃっていました。でも会場から質問があってそれに答えられたのですが実際のゴーリーが子ども時代にトラウマがあったという話は1回もされたことがなく、また甥っ子さんも「やさしいおじさんだった」と言われたそうです。

柴田先生の講演で最初におっしゃったのが名前についてで、そこから既にすごく興味深くて、まさに「ツカミはオッケー」という感じ。
「エドワード」という名前は現代のアメリカ人の名前では1925年生まれのゴーリーが最後くらいで、今は「エド」とか「テッド」とかが一般的だと。ゴーリー[GOREY]という名前も綴りの1文字[E]を抜くと「血みどろの」という意味になる[GORY]になる。
エドワード・ゴーリーって本名なんですね(←というくらい知らなかった)。本名なのに、作風に合わせたペンネームかの如くだ、っていうのが凄いですよね。ファースト・ネームも時代によって違いがあるんだなあ。日本の名前でそういうのはわかるけど英語圏もそうなんだ~!

他にもゴーリーが最初はペーパーバックの会社でサラリーマンやっててそこでフォントなどで認められていった話とか、柴田先生がお若い頃にゴーリー装丁とは知らずに英語を学ぶ基本中の基本の書で学んだりTシャツを買っていたこと(つまりアメリカでは絵本作家になる前のゴーリーが既にメジャーな存在だった)とか、文章が別の人の作品に挿し絵をつける場合は暖かみのある絵を描いたりしてる例だとか、アメリカでいちばん売れているゴーリーの作品(先生ご自身は「ゴーリーの作品の中で最もつまらないので自分では日本で訳して出版するつもりはない」とのこと)の紹介だとか、柴田先生のお気に入りのゴーリーの作品の紹介だとか、盛りだくさんでした。質問タイムを最後だけに取るんじゃなくて、2時間の講演の中で3回も取って下さるのとかは大学で教鞭を取られていたからでしょうか。英語で「clever」は誉め言葉では無いとか、へえ~って。

エドワード・ゴーリーの絵が使われたテレビ番組のオープニング・アニメーション。


講演会でご映像を流しておられ、ミステリアスでカッコ良かった。ユーチューブで簡単に見ることが出来るとおっしゃっていたので検索してみました。

そういえば『うろんな客』の「うろん」という日本語はいしいひさいちの漫画につかわれていて、それから取ったとおっしゃっていたのが意外だったなあ。原題[The Doubtful Guest]の[Doubtful]が現代英語での使われ方よりも少し古い意味で使われていると下書きなどから判断できたのでそっちの意味で訳そうと思ったというエピソードの後にさらりとおっしゃっていました。面白~い!

うろんな客
うろんな客
posted with amazlet at 16.04.17
エドワード ゴーリー
河出書房新社
売り上げランキング: 5,259



思ったよりもたくさん朗読をしてくださったのですが、それが日本語だけじゃなくて英語でもたくさんあって、それであの、めっちゃくちゃ朗読がお上手なんですよ! 日本語はもちろん、英語も、なんていうか、全然構えてなくて、超ナチュラルで、「英語が母語じゃないひとが英語を話そうとしてる感」がぜんっぜんなくて境目が無いの! 東大で英語を教えてらして、英語で仕事をされている方ってこういうことなのか! もう聞こえてくる「音」が「声」が美し過ぎる!!! なんなのこのひと凄過ぎるネ申か、ネ申がここにいらっしゃる!!! って感じでもう驚異に目を見張り耳はすべての音に集中しまくり、堪能しまくりでした!!! 眼福ならぬ耳福!!!

しかもしかも、美術館のホームページには「講演会」としか書いていなかったのにその後サインをしてくださる手筈をスタッフの皆様が整えてくださっていたのですよ!
サインしてくださる前に確認の言葉のやりとりがあり、嬉しいお言葉まで頂戴でき、頭のなかが真っ白になって思わず「大好きです」と口走ってしまった。告白してどないすんねん。
しばらくテンション上がりまくりで手が緊張で震えていました。あーすんごく偉い方なのになんって気さくでお優しい方なんでしょう!!!

その後、先生の講演を踏まえてもう1回ゴーリー展を見直してから帰路につきました。
心の洗濯、という言葉をすごく実感できた素晴らしい一日となりました。
(講演会前に待っているときに目の前を小川洋子さんがすーっと通り過ぎて行かれた、関西在住でいらっしゃるし、柴田先生のアンソロジーにも作品掲載されているし、そのへんのご縁でいらしたのかしら! 『ブラフマンの埋葬』サイン会(2004年4月)以来の生・小川洋子先生まで拝見出来るとは……! 望外のヨロコビ!)

旅犬さん、柴田先生、スタッフのみなさま、本当にありがとうございました…!!!


★展覧会 次は福島、下関と回られるようです。
詳しくは雑誌「MOE」のこのページとか。リンク貼っておきます。


エドワード・ゴーリーの優雅な秘密: 展覧会公式図録
カレン ウィルキン 濱中 利信 柴田 勢津子
河出書房新社
売り上げランキング: 3,019


ケンブリッジ・サーカス (SWITCH LIBRARY)
柴田 元幸
スイッチパブリッシング
売り上げランキング: 494,271

2016/04/14

近所の犬

近所の犬
近所の犬
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姫野 カオルコ
幻冬舎
売り上げランキング: 214,646
■姫野カオルコ
kindle版
直木賞受賞後第一作。2014年9月18日幻冬舎刊。の電子書籍版。
いままで電子書籍は文庫になっているものを、という原則マイルールでやっているのだが(既にこのあいだ坂木司『アンと青春で破っているが)これは「文庫まで待つかな~」とずっと迷っていた。が、他に読みたい本が無く、試し読みで最初のほうを読んでみたら淡々とした中に独特のセンスがキラリと光る文章で「この平凡なテーマをこのひとが書くとどうなるのか」面白そう、ということで。

この作品には「はじめに」があり、それによれば、直木賞受賞作『昭和の犬』(同じく幻冬舎から2013年9月12日発売)は「自伝的要素の強い小説」であり、本作は「私小説」だそうだ。

住居の広さ、住人の数、自家用車の有無などから「私は」動物を飼ってはいけない環境である、と考えている。だが犬は好きだ。ということで「私」は近所の犬が散歩されているときなどに目で見て愛でたり、タイミングが合えば飼い主に許可を得て撫でさせてもらったりすることで無聊をなぐさめている。これを指して「借景」ならぬ「借飼(しゃくし)」という造語を披露されている。

章ごとに比較的深く交流のあった犬・猫を中心にそのエピソードなどが書かれており、それをテーマにしたエッセイのようにも読めるがわざわざ最初に著者が「小説」だと断っておられるので適所々々に「創作」が混じっているということだろうか。例えば家主の「鶴田かめ」という名前のあまりに目出度い字面などを見つめつつそんなことを考える。

わたしは近所で犬猫を見かけたときに目で追うことはあるが、家で飼ったことがなく、小学校低学年時に野良犬に追い詰められたことなどから中型犬以上はリードが付いていても少し怖い。だからこの作品の「私」が顔見知りのシベリアン・ハスキーにじゃれかかられて立っているときに肩に前脚をかけられて顔を舐められたり、飛びつかれて尻餅をつくシーンなどでは「ほわあ~、すごいなあ、これが嬉しいシーンなんだ」と感心したり驚いたり。
要は、犬について無知だから、「噛まれる」とすぐに思ってしまうのだ。たまにニュースで土佐犬に噛み殺されたとかやってるし……まあ土佐犬は相当大きいしシベリアン・ハスキーとは全然違うんだってことは頭ではわかってるけど……感情・感覚として。

本書の途中で2014年1月16日から6月くらいまで突如、人生で最もというくらいものすごく忙しくなった、という描写が出てくる。直木賞受賞だね。テレビにも出ていらしたのでびっくりしたよ(ジョブチューン)。そのときもジャージを着ておられた。イメージで頼まれたのかなあ。

出てくる中で一番良いなあと思ったのはラニという犬だった。飼い主の粋な人柄も素敵だし。でもこんなに賢い、飼い主以外の通りすがりの人間を覚えていてくれる犬には姫野さんもいままでで2匹しか会ったことがないと書いておられるからそうそういないんだろう。
猫のシャアの話は小説『昭和の犬』にも出てきたけど、ほんっとーに幼い姫野さんにとって大事な存在だったのに行方不明とは、と読むたびにあれこれくよくよ考えてしまう。どうにかならなかったのかなあ。

[グレースとミー]の章で前章のシャアの話を引き摺ってというかずっと心の中心にあるからだろうけど気持ちの中の年代がごっちゃになって猫をねえやと思っていた幼いころの思考がわーっと戻ってくるシーンは白眉であった。

最後の[ロボ、ふたたび]の章で中核派とかの安保闘争の学生運動とかのひと? が近所に一時いたその人たちとのことを連想して思い出していくシーンはいままで犬や猫の話だったのにいきなりどうしたんだとちょっとだけ戸惑った(まあ宇津木さんという名前だけはもっと前に鶴田夫人との会話の中で唐突に出てきて説明なしだったのでここで判明してある意味平仄が合うんだけど)。ひとの思考は小説のように順序立って説明順に出てくるものではない、ということを書いてあるのかなあ。

『昭和の犬』でも主人公の両親の一種異様な教育方針が書かれていたけど『近所の犬』でもさらりと、でもずっしりとそういうことが書かれていたのでほぼ著者の実際のご両親だと解釈していいのだろう。

直木賞受賞して多忙な中モノクロ「ざらばんし()」の紙面に載る写真の撮影だと思ってすっぴん&擦り切れた服で行ったら結果はカラーグラビアで特集組まれてましたというエピソードの「持って行き方、書き方」が面白かった。担当編集者についての前振りとかね。で、その同じ章でシャアとミーのシンクロが書かれるんだものなあ。やっぱこの章凄かった。

※姫野さんは「藁半紙」のことを「ざらばんし」と書かれていて、わかるけどあれ?って思って後でググったら滋賀などでつかわれている方言らしい。


2016/04/06

蕎麦屋の恋

蕎麦屋の恋 (角川文庫)
蕎麦屋の恋 (角川文庫)
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姫野 カオルコ
角川書店
売り上げランキング: 451,135
kindle版
■姫野カオルコ
Amazonのアラスジ、タイトル、表紙イラストにダマされた。
表題作。「蕎麦屋の恋」っていうから、蕎麦屋から連想する「いぶし銀な、堅実な、あっさりした、粋な」恋を想定していたら、まあ後半のメインのはかろうじてそういう気配が無くもなかったのだが。
だってこの主人公の男、既婚者だから!
製薬会社経理部の課長、秋山健一。43歳。高校の時から付き合っていた女性が妊娠したことをきっかけに21歳かそこらで結婚したので、43歳にして22歳と20歳の娘がいる。商業高校出身で、そろばんが得意。珠算一級、簿記二級。
この男が何故か意味不明に無駄にモテる。若いの、同僚、年上のキャリアウーマン。
そして何の罪悪感もなく、身体の関係を持つ。不倫と云うのか浮気と云うのか知らないが、随分節操も倫理観も無いやつだなあと思うのに本人は「平凡」だと思っている。「自分の平凡な暮らし。ありふれている。」「たまにはレールから逸れてみたい。たま、でいいから。」などと考えている。日々の「暮らし」に「わびしさ」に包まれたりしている。断わっておくが、浮気や不倫を既にしている段階でこう考えているのである。「逸れたい」から不倫するのではなく、不倫も既に「平凡な日常」に組み込まれているのである。人生に倦んでいる。全然、全く、自分の言動が妻を裏切っていることだと悔いていない。「よくある平凡なことだ」と考えている。

もう1人の主人公は板前を目指し、大学卒業後勤めていた商社をやめ、調理師専門学校に通う波多野妙子、31歳。髪は短く切り、化粧気もない。育った家庭環境が孤食で、テレビを見ながら家族で談笑することも、こたつで団欒することも拒む親だったためにそれらに異様な執着心を持っている。父親の価値観を押し付けていることなどからどうやら「毒親」のようだ。破綻した夫婦を親として見て育ったためか、恋愛や結婚について関心が無いのに周囲はそうは扱わず、しばしばその言動が誤解を生む。しかしいくらなんでも年頃の女が一人暮らしの男の家に「遊びに行きたい」というのが何を指すのかわかっていない成人女性という設定には無理があるのでは。言われたほうが気の毒である。

このふたりが通勤電車内で顔馴染みになっていて、ふとしたことから言葉を交わしたりするようになり……というのが主軸。普通の恋愛小説の展開には至らない。でもタイトルが「蕎麦屋の恋」だということは著者はこれも「恋」だと云いたいのだろう。その前に何度も言うようだが男は既婚者で別に夫婦仲も悪くなくて妻に落ち度があるわけでもないのだが。
正直、秋山健一のような人間は大嫌いである。気持ち悪い。
波多野妙子のほうはなかなか興味深くて面白いし好きである。
妙子が腐れ男の餌食にならなくてよかった。

お午後のお紅茶」
最初はこういう展開になるとは予想できなかった。これも恋愛絡みなのかと思っていたら全然違う方向の話だった。面白かった。
ヤケに醤油のことがしつこく書いてあるなあと思って読んでいったらそういうことか。こういうひと、世の中にいっぱいいそうだなあ。カラーの花がおしゃれだったりするのが時代だなあとも。一時期どこもかしこもカラーの花をガラス瓶に活けてありましたな。お店のメニューも一昔前の「体に良い」感じ。いまはもっと凝って、塩分とかにも気を配ってる。
価値観の押し付けはいついかなる時代も、いまいましい。まして本人に自覚がない日には、どうやって反省させたらいいのだろう。

魚のスープ
この話が一番好きかもしれない。
最初は主人公の妻のキャラクターが好きになれないなあ…といらいらしながら読んでいたのだが、映画の話のあたりで「おっ?」と思わされ、彼女への評価がどんどん変わっていった。それと同時に主人公の妻への思いも深まっていったように思う。それにしてもこの語り手の妻や女性全般への考え方はどうなの? 馬鹿にしてんの? よくこんな考え方で結婚したね。呆れたわ。
男が昔の友人の女性について内心考えていた判断がまったくの誤解で、自分の都合の良い解釈を勝手にしていたことがわかるシーンが良かった。馬鹿だね~。でも気付いて笑えるだけ偉い。ここでひとりで怒りだしたり不機嫌になったりする救いがたい馬鹿が少なくないと思うから。ストックホルムが舞台というのも良かった。

単行本は2000年イースト・プレス刊。2004年角川文庫、ウィキペディアに〈単行本の一部を収録〉とある。収録されなかった作品もあるということか。kindle版は文庫を底本にしている。解説は例によって省かれている。
全体的に少し内容が古い気はした。昭和の流行、価値観というか。

2016/04/01

アンと青春

アンと青春
アンと青春
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坂木 司
光文社
売り上げランキング: 248
kindle版
■坂木司
和菓子のアン』シリーズ第2弾。
いや~、第1弾読んで「続篇が待ち遠しい感じだなあ。」とは書いたけど、まさか本当に続きが出るとはあんまり期待していなかっただけに嬉しい。
単行本価格ではkindle版は原則買わないんだけどこれはやっぱ続きが読みたかったのでいちにち保留したけど結局ポチってしまったことであるよ。
この本、結構売れてるっぽい(「読書メーター」小説部門1位だって。アマゾンのランキングだって単行本でこの位置はすごいよ)。みんな和菓子のアン、好きだったんだなあ~うふふふふ。
しかも第2弾を最後まで読んだらまだ続くっぽい終わり方だし。

百貨店の地下の和菓子屋さんでアルバイトをしている、杏子(きょうこ)嬢、18歳。
高校を卒業して、働いている。
背が低めでぽっちゃり体系、まわりのみんなにぷにぷにされたりして想像するだに可愛らしいお嬢さんだ。
ニックネームはアンちゃん。

和菓子のことも、一般的な教養も、接客に必要な敬語もまだまだ勉強が足りなくて「学校で教わらなかったのか?」「大丈夫なのかな?」って思う面もあるけれど、彼女なりに一生懸命だし、「知識だけ」を詰め込んだ人間じゃなくて、アンちゃんはまっさらだからこそ、素直な疑問を持ったり、それを流したりしないで自分なりに理解しようと努めているところが立派だと思う。

短篇集で、最初の「空の春告鳥」は読んだことがあるなと思ったら『和菓子のアンソロジー』収録のやつと同じ話だった。ちなみに今その感想を読み直したらアンちゃんの無知ぶりにちょっと文句をつけているけどこれは否定じゃなくて「アンちゃんはもうちょっと知ってるはずだ」という「小説設定」についての疑問だと言った方が近かった。今回同じ話を読んで最初同じことを感じたけど、この話の終盤を読むうちに「そうか、アンちゃんはまだまだ吸収するし、思考が柔らかいんだ」とわかって短慮を反省した。

目次
空の春告鳥
女子の節句
男子のセック
甘いお荷物
秋の道行き
あとがき

以下、具体的なアラスジというか
内容に触れて感想を書いているので

ネタバレが嫌な方はスルーなさってください。

(o^o^o)

立花君はねー、そりゃまあわからんでもないけど自分の中の感情と現実を動かす力が一致しなくてもがくのは勝手だけどそれを態度に出してアンちゃんに冷たくしたり職場の空気悪くするとか最悪だと思うよ? まあ反省してたから許すけど。

今回の本には京都のイケズなひとが出てきたり、嫁に和菓子を使って嫌味で無神経なメッセージを送ろうとする姑が出てきたりで「こいつらが反省したり自分の言動の恥ずかしさに気が付いてくれればスカッとするのになあ」と思わずにはいられなかったが、そういうことにはならないのだった。まあ現実そんなもんだけどさ。でもいろんなことに気がついてもそれを己の立場をわきまえてぐっと飲み込んで笑顔で接客する椿店長とかマジで素晴らしいっス。
あ、あと臨時でやってきた女性社員が桜井さんを勝手に敵視して難癖つけまくるのもあったし……このシリーズってなかなか人間的にヤな脇役が多い、ような、うーん。

「空の春告鳥」に出てきた飴細工の某さんが「男子のセック」で再登場したのでびっくりした。柏木さん。その後も話に絡むし、これは短篇集じゃなくて連作短篇集って言った方がいいのかな、でもまあシリーズものだったらキャラはずっと出てくるのは当たり前…か。
とりあえず柏木にもムカムカすることが多かった。ああ、ヲレって短気。でも仕事出来なさすぎじゃないかなあ、仕事っていうか要領悪すぎっていうか。初めてでもないのに。
しっかりもののイケメン店長柘植さんのほうが殆ど出てこられなかったのが残念! 

このシリーズは「日常の謎」系でいちおうミステリー? ではあるんだろうけどあんまりそれっぽくない。今巻は主人公が絡んだ「恋の三角関係」も出てきたし(ただし少女漫画のお約束で本人はぜんっぜんわかってないっぽい。って少女漫画じゃないけど。でも一昔の少女漫画の王道的展開よね~)、なんかラブコメっぽいかなあ。

立花君にも柏木君にも全然萌えないのでせっかくの設定に全然トキめかないのがちと難点。ま、読み手が年食ってるせいもあるかもだけど。でもカッコイイものはそんなの超越してカッコイイから。立花君には是非、ガンバッテもらいたいものである。せっかく見目が良いんだから! 教養もあるんだから! 嫉妬で意地悪とかちっさいことしてちゃ駄目だよガッカリだよ~?