2015/07/30

新解さんの謎 【久しぶりの再読】

新解さんの謎 (文春文庫)
新解さんの謎 (文春文庫)
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文藝春秋 (2012-09-20)
売り上げランキング: 8,234
kindle版
■赤瀬川原平
本書の単行本は1996年7月文藝春秋より刊行されている。
わたしの初読みはこの単行本版である。当時はまだ単行本はめったに買わない文庫派だったのだけれど、赤瀬川原平マイブームだったこともあり、珍しい本を買うことが好きであり、自分がふだん使いしている辞書が『新明解国語辞典(第3版)』で辞書を使うことが好きだったので購入した。
いまは手元に無いので、電子書籍で買い直し、久しぶりに読み直した。

いま読んでもやっぱりすごく面白かった。新明解国語辞典ってイイナア。
記憶になかったのだが、本書は新解さんのことだけで1冊になっているわけではなく、後半「紙がみの消息」は紙や筆記具に関するエッセイである。

新解さんの面白さは説明と、具体的な使用例の文章の選び方にある。引用元は本書には書いていないんだけど、辞書そのものにも書いていなかったように思うが、『日本国語大辞典』とかだと書いてあった気がする。
だからはっきりは言えないんだけどどうも漱石っぽいのが多いような気がする。こりゃ漱石じゃないのかなあというのが何回かあった。

kindleには辞書が搭載されているので、新解さんの説明と比較しながら読むという遊び方も出来たのが良かったな。

「新解さんの謎」が元にしているのは初版第1刷、第2版第2刷、第3版第46刷、第4版第5刷、第22刷とのことである。
いま調べたらもう第7版(2011年)が出てるんですねえ!

新明解国語辞典 第七版
新明解国語辞典 第七版
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三省堂 (2011-12-01)
売り上げランキング: 2,060

ちなみに本書で赤瀬川さんに新解さんの面白さを伝えた編集者SM嬢(SMというのは本名のイニシャル)は現在の作家・夏石鈴子なのだが、後に彼女自身が新解さんの本を出したのがこちら↓。
わたしは日記によれば2003年12月29日にこれを読んだらしい。当時の日記から引く。
【読んだものは角川文庫から出ていた夏石鈴子『新解さんの読み方』からそぞろに。これ、赤瀬川原平『新解さんの謎』の担当編集者による姉妹本といいますか。単行本のときは鈴木マキコさん(赤瀬川著書でお馴染みのSM嬢)のお名前だったのが、改名なさったということだ。ふーん。ちなみに私が普段愛用しているのが新解さんの第三版で、これは中学のときに買ったものなのだが、この時点でかなり個性的な辞書である。『謎』『読み方』に出てくる例が第三版から同じということも少なくない。まあ、理想を言えば第四も第五も手元にあるべきなんでしょーが~。普段の生活には「三」で充分だし愛着もあるし……。それにしても、おもしろい良い辞書です。】

新解さんの読み方 (角川文庫)
夏石 鈴子
角川書店
売り上げランキング: 170,608

2015/07/29

掌の中の小鳥

掌の中の小鳥 (創元推理文庫)
東京創元社 (2012-10-25)
売り上げランキング: 22,904
kindle版
■加納朋子
加納朋子の作品を読むのはかなり久しぶり。
上手い作家だという記憶もあり、今回、Amazonのレビューで評判が高かったこと、センスの良い女性バーテンダーが出てくるというので興味を持って読んでみた。
結論から先に言うと、日常系ミステリで、ミステリとしては悪くない。
ただ時代をけっこう反映している描写が多く、価値観など含めていささか古い感じが否めない。
また、決定的だったのはヒロインのことがどうしても最後まで好きになれないどころかどんどん嫌いになってしまったことで、読むのが苦痛だった。
この話、このヒロインを褒めている感想が多いから、わたしは少数派らしい。

連作短篇集。メインの登場人物は思っていたのと異なり、センスの良い女性バーテンダーはごく控えめに登場するだけだった。
第1話「掌の中の小鳥
最後まで読んだ身にはこの話のSCENE1だけ他のと設定が違うなあという感じ。
語り手は「僕」。名前は第2話で判明するが、冬城圭介という。若いサラリーマンの男性(大学時代から4年後らしいから26歳前後か)。
この話に出てきた容子という女性と先輩の佐々木氏がこの後も絡んでくると想像していたら第2話以降いっさい登場しなかった。
「僕」は「容子」を買いかぶりすぎじゃないのかなあ、芸術家としてだけではなく、ひととしての良心とか倫理観の面でも甘いわねえ。しょうもない女としか思えないんだが。思わせぶりに電話してきたりしてねえ。「殺されている」とはよく言えたもんだわね!

文中で「僕」が「グリーンのカード電話に寄り掛かり」電話をかけるシーンがあり、「ああこの時代は携帯電話まだ普及してなかったんだなあ」と思った。その後も若い女性の服装や髪形の描写などがバブル期のそれのイメージそのもの。
後でみたら初出は1993年~で、単行本が1995年7月刊。そりゃ古いわけだなあ! 文庫は2001年2月刊。
この話のSCENE1のラストでこの本のメイン・ヒロインとも言うべき女性が登場する。これがなんと鮮やかな赤のワンピースを着ているときた。「僕」はこの女性にどうやら一目惚れしたようなのだが、読み手はすまんが真っ赤なワンピースを着る女性という時点でなんだか苦手だなあ、と思ってしまったのだった。

第2話「桜月夜
バーEGG STANDと女性バーテンダー・泉さんがようやく登場。
(この話以降のお馴染みのキャストに彼女とセットで登場する「小柄な初老の男」がいるのだが、いつも花瓶である大きな壷の後ろから登場し、仙人じみた雰囲気を持っていることから通しで読んだらなんらかの種明かしがあるんだろうと思って読んでいったのだが…。)
ちなみに第2話でヒロインの名前も判明するが、これがちょっとした謎かけと絡んでいるのでここでネタバレするわけにはいかないのである。

第3話「自転車泥棒
この話の種明かしには「んなあほな…」と思ってしまった。ちょっと苦しくないスか。

第4話「できない相談
これは有名なミステリに似たトリックがあるなあ。話の本筋からそれるが、若い女性が子ども時代以来という久しぶりに会った異性の同級生の「知り合いのマンションに行く」のに付いていくっていうのはこの話が書かれた当時はどうだかしらないが現在では考えられないくらい危機意識が欠如している、とか思っちゃうのはやっぱりわたしが彼女を好きになれないからかなあ。

第5話「エッグ・スタンド
これもバブルっぽい話だなあ。150万の指輪が結果的に2つね…。
犯人の初恋の相手に対する感情はわからないでもないけど、いや、あかんでしょそれ。窃盗してどうするか。しかものうのうと別の相手と結婚してるし…。

読了後調べてみたら、わたしが加納さんの著作を初めて読んだのは2001年以前に数作、このブログ上に感想が残っているのは2002年9月に読んだ『沙羅は和子の名を呼ぶ』、2003年11月に読んだ『螺旋階段のアリス』。その感想を読んでみたら、すっかり忘れていたが、こんなことを書いていたのでびっくりした。
【以前加納さんのをまとめて数冊読んだときになんとなく感じたササクレ】
【今まで加納さんの著作を読んでいて「このひと私好みの作風だし、道具立ても雰囲気も悪くないんだけど、なんっかイマ一歩足らないというか……」と思っていた】
【加納朋子さんのを読むのは4作品目で、この人の創る世界は決して嫌いではないはずなのに、どこかぼんやりと合わないところがあり、よってファンに至らないという作家さんです。たぶん、それはちょっとしたトゲというかササクレみたいなもの。毒がダメってんじゃないんだけど。例えば若竹七海さんの毒なんか好きだし。なんなんだろうなあ。上手な作家さんなんですけどねえ。】

そうか、そうだったのか。昔も肌があわなかったのか…。
加納朋子は評価が高い作家さんである。ミステリとしてはわたしも好きなのでもっと読みたいのになんなんだろうなあ、相性ってやつなのかなあ。残念。

2015/07/27

ぶたぶた日記

ぶたぶた日記(ダイアリー) 光文社文庫
光文社 (2005-09-15)
売り上げランキング: 49,637
kindle版
■矢崎存美
シリーズ第5作。第4作までは徳間文庫から出ていたのが5作からは第8作以外は光文社文庫になる。

今回は、カルチャー教室の「日記エッセイを書こう」という講座が舞台。
ぶたぶたさんはその参加者6人のうちの1人(人?)。
仕事をしている中年男性で結婚していて幼い子どもが2人いる、という設定はいままで通り。ただ、平日の夕方からの講座に月2回、男性が通えるという職場はそんなに多く無いような気がする。【うちは二人とも時間の融通はつきやすいので】と書いてある。奥さんも仕事を持っているらしい。ぶたぶたさんが何の仕事をしているかはこの本では出てこなかった。定時で上がれるサラリーマンなのかなあ。

第6章まである長篇というか、毎回語り手が違うので連作短篇集というか。すべてカルチャー教室がらみの登場人物の視点。
それぞれエッセイが作中作で載っているのも面白い。
第1回「突然の申し出」はぶたぶたさんがカルチャー教室に通うことになった理由、視点は先生の磯貝ひさみつ氏。
第2回「二番目にいやなこと」は江本佳乃という27歳の大手広告代理店の総務勤務のOLさん視点。広告代理店だけど総務、っていうのがポイントというか、巧いなあ、いいとこ突いてるなあ。
第3回「不器用なスパイ」は高校を中退した16歳の少女、篠塚千奈美さん視点。なんと教室でではなく偶然スーパーでぶたぶたさんを見掛けて尾行して…。
第4回「もっと大きくなりたい」は主婦の松浦順子さん視点。既に勤めている息子さんと娘さんがいる年代。40代前半のぶたぶたさんを「年下」と書いてあるから50歳くらいかな。悠々自適を絵に描いたような生活、でもずっとイライラしている……。人間、余裕があればそれで幸せかっていうとそうでもないというのが難しいなあ。
第5回「紅茶好きの苦悩」児玉修氏視点。70歳。ぶたぶたさんの話を家族にしたらボケたと疑われて……。まあ、それが普通でしょうなあ。でも最後に直に見ても信じなくて病院に行った方がいいかなどと言い出す家族のほうも柔軟性無いなあ。大阪堂島の美味しい紅茶の店が出てきたけど、どこのことかな、とか考えつつ。ググって一番に出てきたお店があるんだけど堂島のお店は閉店してしまったみたい。うーん。堂島と云えば英国風の紅茶の素敵なお店があるけどあそこは現在も地下だから違うよなあ。
第6回「今までで一番怖かったこと」日比谷正明氏視点。会社でリストラ対象者のリストに入ってしまって茫然としているひとの話。ぶたぶたさんと同世代と書いてあるので40代半ば。まだ小さい息子たち、と書いている。厳しい話だ。奥さんは怒るだけしかしないというのもさみしい。でも最後にぶたぶたさんと話をすることで立ち上がれたみたいで、ほっとした。

あくびノオト 【十代の頃の愛読書、再読】

あくびノオト
あくびノオト
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新潮社 (2013-09-06)
売り上げランキング: 47,020
kindle版
■北杜夫
高校生~二十代前半くらいまでの、特に十代後半での愛読書。
文庫本はもう手元にないのだが、kindleで購入できたので久しぶりに読んでみた。
何回も繰り返し親しんだだけあって、活字を追うと同時進行で思い出していく感じ、非常に懐かしい。
この本で八丈島のイメージが出来てしまったので、いまだに八丈島と聞くと「ホラ吹き」と連想してしまう。
まあこのことだけでなく、昔はそうだったんだなあ、古いなあ、と思う見解や当時の社会常識やなんかがたくさんある。北さんと云えば精神科のお医者でもあったがこのエッセイで書かれるそのへんの記述も相当に古いといまは素人でもわかる。
そのへんは巻末に新潮文庫編集部の「本作品中には、今日の観点からみると差別的表現ととられかねない箇所が散見しますが、著者自身に差別的意図はなく、作品自体のもつ文学性ならびに芸術性、また著者がすでに故人であるという事情に鑑み、原文どおりとしました。」という注釈がある。
だいたいkindle版ではこの種の釈明文が載っていることが多いのだが、これは紙媒体時点で既に載っているパターンである。

本書は昭和36(1961)年新潮社から出版された。kindle版は昭和50(1975)年新潮文庫の、昭和55年第15刷を底本としているとのこと(北杜夫の没年は平成23(2011)年だから「注釈」はその後の新潮文庫から引いたのだろう)。
エッセイ集だが、創作(短篇)も数篇収録されている。
ユーモアたっぷりのぶっとんだ文章もあれば、真面目な人柄がそのまま出たような文章もある。小説なんかは繊細な感じがあったり。エッセイと区別がつきにくいのもあるけど。漫画が子どもに良くないとかそういう論が昔はあったなあ…。

目次。
1.なまけもの論/なまけもの再論/ホラ天国・八丈島/女人礼讃/アフリカ沖のながあい航海
2.第三惑星ホラ株式会社【小説】/少年と狼【小説】/彼は新しい日記帳を抱いて泣く【小説】/活動写真【小説】
3.人われを白痴とよぶ/当世医者心得/葡萄酒のこと/酒をやめさせる薬/ボロ車のこと/子供マンガはやはり害がある?/私の児童漫画ロン/名前のことなど/虫をくれるのは困る/一等船客失格/アフリカ・マイマイ/宮古島にて/沖縄のはずれの島/税関にて/大凧/宇宙の加速度/朝の光【小説】

2015/07/23

刑事ぶたぶた

刑事ぶたぶた
刑事ぶたぶた
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文蔵Books (2013-10-25)
売り上げランキング: 25,805
kindle版
■矢崎在美
ぶたぶたシリーズ第3弾(1以降は順番に読まなくても大丈夫そうなので2を飛ばした)。
何故ならミステリ好きだからである。刑事モノといわれたら興味がわくからである。
今回はなんと長篇。
刑事というと小説の世界では1課のひとが主役であることが多いが、今回の話は刑事3課。主に窃盗を扱う課である。主人公は新米刑事の立川。彼が今回の語り手でもある。
メインの事件は赤ちゃん誘拐事件。病院からかと思ったら、被害者の自宅からほんのちょっとのあいだにさらわれてしまったという。
もうひとつは事件とは違うけど、小学生の桃子の両親(特に母親)との問題。
他に章ごとに別の事件も出てきて、銀行強盗、宝石店の窃盗事件、スーパーの商品の針混入事件など。
章が進んでいくと赤ちゃん誘拐事件の裏にある背景や、桃子の嘘のほんとうの理由などがだんだんわかってくる。

ぶたぶたさんは文句なしに(外見は)可愛らしいし、それが今回はラジコンカーに乗ったり、ゴールデンレトリバーに乗って町を歩いたりする。想像するだに微笑みを誘われるはずなのだが、性同一性障害のことや、多忙な両親に放任主義で育てられる子どものこと、不倫している女・不倫された女の話などが出てきてなかなかそういうのほほんとした気持ちだけでは読んでいられない。タイトルやぬいぐるみが活躍する話ということで誤解してしまいそうになるけど、実はけっこう真面目で重たいテーマを扱う作家さんなんだなあ。まあ、ぶたぶたさんが間に入ることによってかなり和むように書かれているんだけど。

今回の話でぶたぶたさんには奥さんとまだ幼い娘さんが2人いることが明かされたがえーと、お子さんはどっち似なんでしょうね?

刑事ぶたぶた (徳間文庫)
矢崎 存美
徳間書店 (2012-11-02)
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2015/07/22

ぶたぶた

ぶたぶた
ぶたぶた
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文蔵Books (2013-10-25)
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kindle版
■矢崎存美
Amazonでこのシリーズ最新作が上がってきて「ぶたぶた? 何それ?」と調べてみたら本物のぬいぐるみが人間の如く動いて喋るらしくて「なんだそれ!」俄然興味がわく。
著者名でググったらウィキペディアに無くて「はてなキーワード」【矢崎存美】によれば、【1989年、『ありのままなら純情ボーイ』(MOE出版、矢崎ありみ名義)】でデビュー。ぶたぶたシリーズ以外も書いてるけどこれで有名なひとっぽい。著者のブログ(矢崎電脳海牛ブログ)によれば現在スピンオフ2作を含めるとシリーズ第21作まで出ているらしい。

記念すべきぶたぶたシリーズ第1作である本書は、広済堂出版から1998年9月に発行された後、徳間デュアル文庫2001年4月で出版され絶版になったりしていたが徳間文庫で2012/3/2に復刊。
わたしが読んだのは電子書籍版で、文蔵Booksというところから2006/4/1の発行。

短篇集。9篇収録。
主人公は全部違って、全部に山崎ぶたぶた氏(同一人物…同一ぬいぐるみ!? )が登場する。
ユーモアものかと思いきや、人情もの? いろんな立場の人間の悩み、行き詰っている状況がテーマになっていることが多いけど、ぶたぶたの存在によって緩衝剤になるというか…。あんまり深刻にならない深入りする手前くらいまでしか書いていないという気もする。

初恋
ぶたぶた(以下B)初登場。
Bの職業:ベビーシッター。ふだんのお姉さんの上司らしい。Bはバレーボール大の大きさで(予想よりもずいぶん小さい)、中身はおじさんらしい。おじさん…見かけは愛くるしいぶたさんのぬいぐるみなのに…何故に、おじさん。と思ったけど「中身は子ども」だったら全然違う話になっちゃうし、なんかかわいそうというか、職業には就きにくいか。
でもぬいぐるみがベビーシッターってのはめっちゃ適材適所って感じだなあ! ぬいぐるみが動いて喋って遊んでくれるんだぜ? まさに、子どもの夢!

最高の贈り物
B=おもちゃ屋の店員。
学校をさぼった思春期の少女がBを思わず万引きしてしまった。彼女は家(両親)のことで最近鬱屈した思いを抱えていて…。

しらふの客
B=タクシードライバー。
ええとですね、Bはバレーボールの大きさしかないのにですね、普通乗用車を運転するばかりかタクシーの運ちゃんにまでなれてしまうのですね、でも小さいから外から見たら誰も乗ってないように見えるっていうんですね、……いったいどうやって運転してるの!? ハンドルは? ブレーキは踏めるの!?
などとまともなツッコミをしていてはこのシリーズは読めないのであった。まずそもそもの根本、ぬいぐるみが喋るわ食べるわ歩くわ…。

ストレンジガーデン
B=フランス料理のシェフ。
疲れて運転していた主人公はうっかりBを轢いてしまう。Bはとても腕のいいシェフで、近々フランスに渡る予定だったが…。
B自体が悩みというか迷いを抱えている設定。随分人間くさいぬいぐるみだなあ。

銀色のプール
B=放浪者?
小学3年生の少年がシーズンオフのプールでBを見つけ、出会う。家と学校と塾にうんざりしていた彼はプールに家出する…。
Bが少年とカレーを作るシーンがあるんだけど、燃料についての描写がないなあ。コンロとか常備してあったのかなあ。

追う者、追われる者
B=サラリーマン
なんと普通の会社員で電車に乗って通勤し、お昼は職場の同僚と出掛け、営業もし、金曜日には飲みに行ってカラオケにも行くB。
主人公は私立探偵で、Bの尾行を言いつかるのだ。
この話でBに美人の奥さん(人間の女性)がいることが判明する。……。

殺られ屋
B=殺られ屋。殺し屋じゃなくて、「誰か殺したいひとがいるなら代わりにBが殺されて差し上げましょう、だってBは燃やされない限り復活できるから」ということらしい。
なかなか重い暗いテーマを扱っていてどうするのかと思いつつ読んだが最後のこれで果たしてそう簡単に解決するかなあ、疑問だなあ。

ただいま
B=主人公の失踪した兄???
主人公には家事が得意で優しい兄がいたが10年前に謎の失踪をとげている。
台風の夜に風で飛ばされてきたBは記憶喪失になっていて…。

桜色を探しに
B=詳細設定不明。
今までのBとリンクしている。
主人公は東京に出てきたばかりの学生。雑誌でBについて読んだ彼女はその記事を書いたフリーライターと共にBを探す。フリーライターは「銀色のプール」に出てくる某だった。そしてこの物語の主人公のリンクは最後の方でほのめかされる。おー。

徳間文庫版はこちら↓

ぶたぶた【徳間文庫】
ぶたぶた【徳間文庫】
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矢崎存美
徳間書店 (2012-03-02)
売り上げランキング: 56,955

2015/07/19

左京区七夕通東入ル

左京区七夕通東入ル
左京区七夕通東入ル
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小学館 (2013-02-22)
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kindle版
■瀧羽麻子
amazonのオススメに上がってきて、タイトルで京都の話というのはわかって、センスが良いなあと思った。著者についてググってみたら1981年芦屋生まれの京都大学経済学部卒業ということでお勉強が出来るお嬢様。デビューは携帯メール小説大賞、っていうのがギャップだなあ。

大学生が主人公の純愛小説だというので気軽に読んでみた。「お勉強が出来る」優等生っぽさがまったく無い内容でびっくりした。偏見だったんだなあ。
うーん、これは純愛? っていうかのほほん学生生活? でもあんまり学内描写無いんだよね…。
京都で学生生活を過ごした方には懐かしい感じがするかも。
とにかくめちゃくちゃ健全で今時少女漫画でもキスくらいするのにこの話の主人公と恋愛対象の男子学生のそういうシーンはほぼ無い、っていうかこれはえーと付き合ってるのかなあ、仲の良い友達となにが違うのかなあ、彼氏の感情がどこにあるかわかりにくいし。
途中まではそんな感じだったんだけど終盤は「あ、ちゃんと男の子も意識してるんだな」と明確にわかる言動をしてくれてほっとした。

もう就職先も決まっている大学4回生の花が主人公。京都大学とは書いていないけど文中の描写で自転車でたどる通学路とか百万遍とかモロ舞台はそこ。文学部はイケてるけど理系はダサいということになっているらしい。で、いままでは文学部のイケてる友人とかとつるんでいて、女子率が圧倒的に低い大学だから適度にちやほやされて夜ダンスに行ったりするような学生生活を送っていた花が数学部の「たっくん」と出会い、恋に落ちる。だが「たっくん」はいままで花が接してきた友人とは全然タイプも思考回路も違って一番大事なのは数学というような変わり者で…。

恋愛どうこうはよくわからなかったけど、理系好きなので、数学科やその他理系男子学生の描写にワクテカしながら読んだ。数学者の藤原正彦先生のエッセイにあったことそのまんななようなキャラクターなので面白かった。
最後の方、ふたりで初詣に行ったところのシーンが良かったなあ。

2015/07/17

太陽のパスタ、豆のスープ

太陽のパスタ、豆のスープ (集英社文庫)
集英社 (2013-09-10)
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kindle版
■宮下奈都
美味しそうなタイトルにつられて読んでみた。あと、著者が『スコーレ№4』のひとだからそうオオコケはあるまいという判断も手伝って。

主人公、「あすわ(明日羽)」は冒頭で婚約破棄をされる。結婚直前で、周囲にも知らせて、家やなんかも見に行った後で婚約者から「やっぱり合わないんじゃないかな」なんて言われてフラれてしまうのだ。これは相当きつい。立ち直るのはかなりしんどいと思う。

まあしかしこの小説は失恋とか恋愛とか相手の男性に対する感情を描いた小説ではなく、大きく転んだあとに主人公がいかにして立ち上がり、回復し、前進していくか、を主題としているらしい。最初にグワーンと大きなショックを与えた後は他にとりたてて負の出来事は起こらないし、周囲に出てくるのは性格の良い親切なフレンドリーなひとたちばかりだ。

世の中こんなに優しくないんじゃないのかなーとか思わないでもなかったが、まあ、これは傷ついたひとにエールを贈るための、元気を出してもらうための話なんだから開き直って素直に読んだ方がいいのだろうと考えなおした。

あすわには「明日羽」という漢字があるのだが、主人公がその字をあまり好きでないからなのか、全篇「あすわ」と平仮名表記である。これが結構読んでいて引っかかりやすく、どうしても「あすは」のほうが目にする機会が多いから「こんにちわ、きょうわ」的文章を読まされているような不安定な印象を持ってしまったんだが少数派かな。自分の名前が「あすなろ」というのもあるかもしれない。

あすわの年齢ははっきりとは書いていないが作中で「もう2,3年で30歳」だとか「勤めて8年目」とかあるので27,8歳。ぜんぜん大丈夫だ、若いもん。 でも逆に言えばその年で結婚することによって仕事も自立も放棄して「やさしい夫」に全力で寄り掛かろうとしていたっていうのがあすわ自身、だんだん回復していく中で冷静に見つめ直して疑問に思えてくるわけで。うーんなるほどなあ、そういう話を書きたかったのか。

あすわには10歳くらい年上の叔母さん・ロッカさん(母親の妹・六花)が近くに住んでいて、あすわが一人暮らしを始める場所を探してくれたり、毎日訪れてきてあすわが作った夕食を一緒に食べたりする。
こういう親戚がいてくれるっていうのはすんごくうらやましい。
失恋して、親元離れて、そしたらふつうはいきなり毎日一人のご飯になる、それって結構孤独感とか湧いちゃう可能性があると思うんだけどロッカさんがいてくれるのだあすわには。

お母さんもお父さんもお兄ちゃんもあすわを大事にしつつ自立を妨げない距離間を保つという今時珍しい素晴らしい家族だし、会社には可愛くて朗らかな同僚がいるし、先輩も嫌味言うどころかねぎらってくれるし、上司は「しばらく休んだらどうだ」とか言ってくれるし、おまけにあすわに一目惚れする男性まで出てくる。
そして終盤にはあすわは責任あるやりがいのある仕事をまかされ、会社のみんなから信頼信用されていることを実感して仕事に充実感と意義を見出すことも出来るようになる…。

――そりゃ婚約破棄はつらいけど、その後の順風満帆ぶりが凄すぎて、絵空事・ドリームだなあという醒めた視点をまったく持たずに読むことが難しかったよ。まあ、あすわは良い子だから応援するけどね。主人公だからしあわせになってくれたほうがこっちも楽しいし清々しいからね。

タイトルから、お料理がたくさん出てくる話かと予想したほどではなかったものの、豆のスープとか豆の料理とか煮込み系のが多くて美味しそうだった。豆料理はほとんど作らないのだがこの小説を読んだら断然豆を買いに行って、鍋で水をたっぷり吸わせて、じっくりことこと煮たくなった。
太陽のパスタというのはなんと失敗作、というか料理下手なロッカさんの作なのだった。でもトマトのパスタは王道だからきちんと作れば美味しいはずだ。

美人のエステティシャンや、女装している男性美容師である(おかまっていうことなのかな)の幼馴染みの京など個性的な脇役の存在も面白かった。彼らが主役の物語があったらそれは是非読んでみたい。スピンオフで短篇集とか。ロッカさん、ソムリエを目指すフリーターのお兄ちゃん、豆の郁ちゃんなども加えて。
ああ、妄想してるうちにどんどん読みたくなってきた~。



2015/07/16

祝!第153回芥川賞 又吉直樹『火花』

火花
火花
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又吉 直樹
文藝春秋
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第153回芥川龍之介賞受賞作が先程発表され、又吉直樹さん「火花」と、羽田圭佑さん「スクラップ・アンド・ビルド」の2作品が選ばれたとのこと。
昨日あたりからドキドキして待っていたのでニュースで速報発表をみた瞬間、わああ、やったあ、すごーい!と叫んでしまいました。

太宰治が欲しくて欲しくて川端康成や佐藤春夫にみっともなく泣きついて、それでもとれなかった芥川賞を、太宰を愛してやまない又吉さんが受賞、しかも初めて書いた純文学小説で。

…なんだか、運命を感じてしまいます。

又吉さん本当におめでとうございます~!


2015/07/15

三人目の幽霊

三人目の幽霊 落語シリーズ (創元推理文庫)
東京創元社 (2012-10-25)
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■大倉崇裕
落語シリーズの第1弾というので読んでみた。
なお、著者経歴的には表題作「三人目の幽霊」で1997年第4回創元推理短編賞佳作を受賞、2001年、『三人目の幽霊』でデビューということらしい。

落語とミステリといえば北村薫の円紫師匠と私シリーズ(1989年~)、田中啓文の笑酔亭梅寿謎解噺シリーズ(2004年~)などがあり、どれも好きなので。
先に上げた2つとも落語家さんが探偵役だが、大倉さんのは落語専門誌の編集長がホームズ役。語り手は新米編集者の若い女の子(23歳)である。

短篇5つ収録。
なお、最初と最後の話は寄席が舞台で噺家さんに起こった謎を解くミステリ(かつどちらも嫌がらせの犯人を捜せという話)だが、間の3篇は落語関係無し。

三人目の幽霊
ライバル同士の噺家一門、嫌がらせをしているのは…? これは途中で犯人がわかってしまった。知らない落語の噺が出てきて面白そうだったのでまた探してみよう。

不機嫌なソムリエ
温厚なソムリエが1枚の写真を見て顔色を変え、その後失踪してしまう。ワインが実に美味しそうに描かれており、飲めたら素敵だろうになあと思う話。

三鶯荘奇談
なんと殺人もの。油断していたのですごく怖かった。よくわからない状況で殺人犯に追いかけられるシーンとか身にせまる怖さ。

崩壊する喫茶店
なんちゅうタイトルだ。読んでも出てくるのは「改装中の喫茶店」「潰された喫茶店」であって、「崩壊する」という劇的な表現が何故使われているのかわからない。おそらく既存の有名な何かに引っかけてあるんだろうなあ。小説としてはなかなかドラマと奥行きがあって良かった。ただ、70歳の描き方が老人過ぎて違和感あり。

患う時計
これも噺家一門のこっちとそっちの名人襲名を見通したいざこざで起こる嫌がらせの話。いろんな点で微妙。

探偵役の牧編集長のいつも平常心的な、落ち着きまくったキャラが良い。知的なナイスミドルって感じ。落語界では鉄壁の信頼があるらしく、なにか起こったら相談されているようだ。
寄席視点で描かれる東京(月島、築地)もなんだか雰囲気が良くて「月島といえばもんじゃ」しか知らないんだけど実際はどんな感じなんだろうなあ。

2015/07/11

福家警部補の再訪

福家警部補の再訪
福家警部補の再訪
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東京創元社 (2013-10-04)
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kindle版
■大倉崇裕
福家警部補シリーズ第2弾。
倒叙もの本格ミステリ短篇、4篇収録。

マックス号事件
豪華客船をイメージした豪華フェリー〈マックス〉で起こった殺人事件。乗船チケットは販売開始後数日で完売したというこの船に警察、ましてや福家警部補が乗っているということは想像しにくく、どうするのかなあ、港に着いてから捜査が始まるのかしらんと思っていたらちゃんと出てきた。まあそりゃそうだわな。
この犯人も雑で、証拠をべたべた残しており、案の定、福家警部補にはあっというまに目を付けられている。そんな特徴的なモノを身に着けたまま犯行するなよな…。
被害者が勝手な性格をしているのであんまり同情出来なかった。

失われた灯
真犯人のすることを読んでいて何がしたいのか分かるまでにちょっと時間がかかるのだが、ははあ、考えたなあ。しかし実弾入り拳銃が出てきたのでびっくり。靴脱ぐ順序と靴の位置の部分が良かった。どこから犯行がバレるのかと思っていたけどうーんこれは読者には予想するの難しいなあ。そんなものがあるんだー。

相棒
「相棒」というと流行りの刑事物を連想してしまったが漫才のコンビの話だった。それは「相方」っていうほうが多いんじゃないのかなあ。
この犯人はこの被害者を殺す必要はなかったんじゃないのか、なんで殺す以外の方法を選ばなかったんだろうって納得できなかったが最後まで読んでますます無駄な無意味な無慈悲な殺しだったと思った。被害者に深く同情した。

プロジェクトブルー
ネットでこの著者が怪獣マニア・特撮マニアだという情報を得ていたのでこの話はニヤリとしてしまった。犯行方法はなかなかユニークなこと考えたねって感じだけど雑すぎる! 顔についたモノをふいた麺棒を犯行現場にそのまんま残していくとか有り得ないんだけど…! しかもそれがV字折りで癖がバレるという特徴ありまくりのものだとかもうバカ過ぎる…! これだけ雑な犯行なのにいざ捕まえようとすると証拠固めとかが大変だというのが、なかなか難しいね刑事も大変だねと。

それにしても毎度福家警部補の趣味の多様さには恐れ入るよ! テレビ、映画、演芸に詳しすぎる。捜査のときのイメージとのギャップが面白い。
でも「刑事には見えない」って何度も言われて捜査現場に入るのを毎度止められているんだから不毛な会話をなくすためにも最初から身分証を相手に見せつつ「警視庁の福家と申します」と名乗ればいいのにと毎回いらいらさせられる。これだけしっかりした捜査が出来るひとなのになんでそこをちゃんとしないのかが納得できん。大雑把な性格というキャラならわかるんだけど。忘れ物、身分証がすぐに出てこないとかいうのも取ってつけたようにしか思えない(途中から首から提げるようにしたのは良いアイデアだ)。

このシリーズは単行本で既にあと2巻出ているので文庫化(の後のkindle価格変更)が待ち遠しい。なお、kindle版では解説は省かれている。本編が始まる前のページにいつも「協力・町田暁雄」と書かれていて、いったい何だろうとググってみたらどうも『挨拶』の解説で小山正氏が説明されているらしく、町田氏は刑事コロンボについて造詣が深い方のようだ。

2015/07/09

福家警部補の挨拶

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)
東京創元社 (2012-10-25)
売り上げランキング: 13,060
kindle版
■大倉崇裕
福家警部補シリーズ第1弾。
amazonのおすすめでよく上がってくるが知らない作家さんなのでスルーしていた。女性刑事物というので昨今多いキャラ萌え「ミステリ風味」ではないかと軽んじていたのだ。
ひょっと気が向いてサンプルを読んでみたら予想したより硬派のミステリーのようだったので続きを購入して読んでみたら「こ、これは本格ミステリだったのか…!」なかなか面白く、アタリだった。
刑事らしくない風貌の小柄な女性・福家が主人公だが必要以上のキャラ立ちは無い(短篇集の宿命でキャラ紹介的なお決まりの設定を何度も読まないといけないのはちょっとくどく感じるが)。
倒叙もので、真犯人の視点から犯行が描かれた後、福家警部補が犯人の矛盾を細かく突いて論理的に犯人にたどり着くその地道な感じが良い。

4篇収録。
最後の一冊
『ミステリーズ!』vol.12(2005年8月)掲載、「本を愛した女」を改題。
こんな雑な偽装工作で騙される警察がいるのかなあと思ったら最初から怪しいと思われたみたい、でも確実に犯人だと結びつける証拠などを固めるのにはやはり地道な捜査とひらめきが必要なんだな。
本を愛する犯人には同情するが、よりによって本を凶器にしている時点で全然ダメである。殺した後で本棚を倒しているのに本棚が倒れたことが死因だと思われると考えている時点で絶望的であった。

オッカムの剃刀
『ミステリーズ!』vol.13・14(2005年10月・12月)掲載。
「ベッカムの剃刀?」と一瞬思ってしまった。哲学用語でそういうのがあって、犯罪捜査学にそれを引用して指導する人物が登場する、イコール犯人なんだけど、警察の捜査を知り抜いているからこその偽装工作を張り巡らせる(の割にツメが甘いなあっていうところがあって露見するわけだけど)。
福家警部補にエラそうに謝罪を要求する場面はなかなか腹立たしかったね。最後で逆転、鮮やかなり!

愛情のシナリオ
『ミステリーズ!』vol.16(2006年4月)掲載。
そんな理由で人を殺すかなあ…いや殺人はどれもダメだけど。
殺される側の名前が「柿沼恵美」でクッキング番組もしたことがある…ってどうしても上沼恵美子さんを連想してしまうなあ、キャラの造詣は全然違うけど。
すごい潔癖症の犯人で、水道の水で手も洗えない。だからペットボトルの水で洗う……ってそんなひとは大変だろうなあ。お金がいくらあっても足りない。湯水のごとくってそのまんまだ!
それにしても福家警部補…どこまで芋蔓式に調べてるんだ。ゴシップカメラマンの仕事の標的の男の職業まで調べるかなあ? しかもけっこう短期間で。睡眠時間が極端に少ないというのもむべなるかな。

月の雫
『ミステリーズ!』vol.15(2006年2月)掲載。
酒造会社の社長がライバル会社の社長を殺す話。殺し方がまた雑で「これって場合によっては死なないで反撃される可能性もあるんじゃ…」もっと確実に殺らないと不安にならないのかなあ。ライトを付けないまま山道を運転するというのも危なっかしいし。
この話で福家警部補がお酒にすんごく強いということが判明する。

2015/07/07

生きていてもいいかしら日記

生きていてもいいかしら日記
毎日新聞社 (2013-12-20)
売り上げランキング: 17,594
kindle版
■北大路公子
このひとのことは何一つ知らなかったがkindleでamazon内をふらふらしていたらぶつかりスゴいタイトルだなあとサンプルを読んでみたら面白かったので購入して最後まで読んだ。
読書中、「このひとは何者なのか」と気になりパソコンでググる。1963年北海道札幌市生まれで、現在もエッセイを読んでいるとそうらしい。たぶん会社勤めとかはしてなさそう。2001年3月からはじめたウェブ日記が面白くて話題になり相当な読者がついて、後に書籍化したりして…ということらしい。
お酒が好きでそれに絡めたネタ、自分の境遇を自虐を装いつつ笑いに持って行くという感じのが多い。

底抜けの明るさというか、世間の評価なんぞどこ吹く風というキャラクターに驚いたり尊敬のまなざしを送ったり、吹き出して笑いが止まらなくなりしばらく笑い続けて涙が出てきて、まあ落ち着いたかなと思ってもう1回そこを読んでしまいまた笑い転げる、というような読書状態だった。部分によっては電車内で読んだが、ツボにはまったときはたまたま家で本当にさいわいであった。
このひとは精神力が強くて肝が据わっていてアイデンティティーがしっかりしているんだろう。少なくともこのエッセイ集を読む限りでは。実際は、悩む日も苦しいときもあるんだろうけどそういうのはあえて文章に出さない、感じさせない軽やかさ。

印象に残ったエピソード。
*北海道では車のワイパーに夏用と冬用があるんだなあ。っていうか雪国とかではそうなんだねえ。付けはずしが面倒らしいのだがずっと冬用を付けてたら駄目なのかなあ(ダメというかずっと冬用タイヤ付けてるみたいなもんなんだろうなあ)。
*公子さんにはこのエッセイが書かれた時点で幼稚園に通う娘さんがいる妹さんがいて、筆者いわく「身長も体重も見かけもほとんど変わらない」らしいが体脂肪だけ姉40%妹25%だそうだ。体脂肪がそれだけ違って見かけが「ほとんど変わらない」って有り得るのかなあ。公子さんの「ほとんど」ってすごくユルイんじゃ、っていうか妹さんが聞いたら猛反論がありそうだな。
*巻末に編集者による著者インタビュー対談記事みたいなのがあって、小学校のときの通信簿に書かれていた評価「投げやり」というのもすごいが本書を読み終えた読者はみんな「あー…、わかるわ…」と生暖かい目で中空を見つめてしまうだろう。
*それにしてもよく借金を申し込まれたり詐欺にあったりしているなあ。高額所得者とかじゃなさそうなのに、性格がそうさせるのかなあ、友達が多そうだしなあ。

北大路公子というのは最初の本の出版社社長がものの5秒で考えてくれたペンネームだそうだ。こういうとこ1つとっても「名」にこだわらず「実」さえ変わらなければいいんだっていうしなやかさがうかがえるなあ。
わたしは小心者でとてもこうはいかないので、爪の垢でも煎じて飲ませてもらいたい。


2015/07/03

マローン御難 【再読】

マローン御難 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
クレイグ ライス
早川書房
売り上げランキング: 478,022
■クレイグ・ライス 翻訳:山本やよい
本書は1957年に発表された"Knocked for a Loop"の2003年9月の新訳版である(現在は絶版)。

マローン物にはありがちなんだけど、この話は特に「すぐその場で親に届けていたら」「警察にまっすぐに届けていれば」こんなにややこしい展開にはならなかったんじゃないのかなあと何度も思ってしまった。
そのなかでも特に「エレベータ係の何度も言いかけた発言をきちんと聞いていれば」っていうのはね!
ハナから相手にせずどんな内容かも確認せずに今はそれどころじゃないと発言をことごとく封じるマローンにいらいらさえしてしまった。まあ発言してたらお話が成立しなかったわけで、でもじゃあそもそも「エレベータ係が何か大事なことを言おうとするけど」という設定がなんのために書かれたかというとそれは最後を読めばわかるというか、このオチの台詞をマローンに叫ばせたかったが為だという。

またこれもお馴染みのパターンだけどヘレンが自分から厄介ごとに関わり、ジェイクに連絡を取らないで行方不明になるもんだから彼が心配になって探し回ってマローンのところに押しかけてきてすったもんだがある。携帯の普及した現在では有り得ないことだが昔にしたって固定電話は各家庭にあるのである。あるいは、急ぎの連絡の常套手段だった電報でもいい。なんできちんと夫に心配させないように手配しないのかなあ。

Knocked for a Loopというけれど、なるべくしてそうなったというなら美しいがこれは探偵役のツメが甘すぎるからという気がしてどうもなあ。マローンものファンはこういうぐるぐる大混乱をこそ愛すべきなのかもだが。まあ、このシリーズのことだから最後は絶対大団円に収まると信じていられる、っていうのはあるんだけど…。