2015/02/28

ヴァン・ショーをあなたに

ヴァン・ショーをあなたに (創元推理文庫)
東京創元社 (2015-02-27)
売り上げランキング: 92
kindle版
■近藤史恵
ビストロ・パ・マル・シリーズ第2弾が文庫版とkindle版同時発売。
「ミステリーズ!」2006年4月~2007年6月に掲載された5篇に2008年単行本初出の2篇の計7篇。
kindle版で予約注文しておいたら発売日の朝kindle立ち上げと同時にダウンロードされ、おかげで朝通勤から読める状態に。おー、便利。
前作『タルト・タタンの夢』が良かったんだよなあ。
話はそれるけど、先月りんごの紅玉が袋売りになっていたので購入して「さてなにを作ろうかな」とネットでいろいろレシピを見ていたら比較的作りやすそうだったのでタルト・タタンを作ってみたりしたんであった(レシピは2カ所から見てアレンジした)。動機は小説の影響以外のナニモノでもない。
さて今回はヴァン・ショー(要するに、ホット・ワインにオリジナルで柑橘類とかスパイス類と砂糖を混ぜるオトナ向けの飲み物、レシピは多種多様)。アルコールが苦手でワインも美味しいと思ったことがないのでこれはどうかな…寒い時期にぴったりらしいが。沸騰させたら飲めるだろうけど美味しいと思えるのかなあ…。

いかん、料理の話じゃなくて小説の話をせねば。
でもこのシリーズはフランス料理のお店が舞台になっていて、事件も料理絡みだったりするから全然無関係ってわけでもないんだよね。
今回のメニューはこんな感じ。
「錆びないスキレット」
「憂さばらしのピストゥ」
「ブーランジュリーのメロンパン」
「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」
「氷姫」
「天空の泉」
「ヴァン・ショーをあなたに」

正直、全体的な感想として、第1作より数段出来が悪いというかあんまり好きじゃなかった。特に後半良くない。
やっぱりこのシリーズはちょっとトボけた気のいい青年・高築くんが語り手だからこそ、そして舞台が美味しい一流のフランス料理を出すけどほんわかあたたかい家庭の雰囲気を併せ持つビストロだからこそ、辛口で変人の三舟シェフに穏やかな志村さん、ソムリエの金子さんがそろっていてこそなんだよなあ、ということをしみじみ考えた。

以下、各話感想。
内容にふれているのでネタバレ含んでいるので未読の方はお読みにならないようご注意ください。

「錆びないスキレット」は切ない話だなあ。あんまり深くリアルに考えたくない。うちはスキレットは無いんだけどやはりフランス・メーカーのストウブという鍋を去年買って愛用してるんだよねー。めっちゃ重たいけどすごい便利なんだよ~(前述のタルト・タタンもケーキの型を持っていないからこの鍋で作った。全部鉄だから鍋ごとオーブンに入れても大丈夫なのだ)。取扱い注意だよなあ。

「憂さばらしのピストゥ」は後味があんまり良くない話…。まあミーハーなノリで勝手気ままにふるまう人間もどうかとは思うけど料理人の矜持は持っていてほしいよね。三舟シェフのそういう面を書くためだけにこんなくだらんヘボシェフの設定が作られたのかと思うと、うーむ。片っ方を「上げる」ために他を「下げる」っていうのはあんまり手法として美しくないよね。

「ブーランジュリーのメロンパン」は良かった。これはわりと好き。パ・マルのオーナーも登場する。オーナーのキャラ、すごい好みなんで(若いくせに変人だけど仕事は出来るとか……めっちゃどストライク、あ、小説のキャラとして、ね)もっとこのひと出してほしい!
それにしてもパンにもいろんなのがあって、菓子パンとか甘いパンとか柔らかいパンを否定して、フランス風の「みっしりと固く詰まっていて、味が濃い」パンこそ素晴らしいと考えるパン職人さんが出てきて、パンにもいろいろあるんだなあ、でも他をけなさなくてもいいのにね、と思った。フランスパンも好きだけどアンパンも好きだぜ!のほうが柔軟じゃないのかなあ。

「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」
三舟シェフが恋?っていうかそれがそんなに珍しいことかよ若者たちよ。
そしてマドモワゼルよ、そんな男と結婚して幸せになれるのか。そりゃ心配はわからんでもないけど束縛激しすぎてドン引き。

今回は後半3篇が変化球で、語り手がいつものギャルソン・高築智行ではない。
「氷姫」は一人称が同じ「ぼく」なんだけど、のっけから「杏子が出ていった」「愛していた」などと高築君のキャラじゃないので別人だとはわかる。途中で「圭一」「圭一さん」と呼びかけられているから下の名前だけは判明するんだけど、このいきなり出てきたモブ人物とちょっとエキセントリックな彼女の話が延々続くので「どこがビストロ・パ・マル・シリーズやねん」という気がしないでもなかった。終盤ようやくビストロが出てきて三舟シェフの推理も出てくるんだけど正直脇役の身勝手な女とそれに振り回された男の話だけという感じで不愉快。

「天空の泉」もいきなり出てきた脇キャラの女性が語り手。南仏のコルド・シュル・シエルという小さな町が舞台。読んでいくと修業時代の三舟シェフが登場する。オムレツにトリュフたっぷりの料理で作り方を見せてもらっても再現できん、というのは勿論シェフの腕もあるだろうけど卵も違うんじゃないのかなあ、どうなのかなあ。『星の王子さま』が絡めてあるけど、こういう使い方はあんまり好きじゃないなあ。

「ヴァン・ショーをあなたに」これも同様脇キャラが語り手。一人称は「ぼく」で名前は「貞晴」だそうだ。このひとと修行中の三舟シェフがフランスのストラスブールという都市のユース・ホステルで出会った時の話。まだユーロ導入前。


2015/02/26

壇流クッキング

檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)
中央公論新社 (2013-03-28)
売り上げランキング: 10,526
kindle版
■壇一雄
火宅の人。
女優・壇ふみさんの御実父。
「最後の無頼派」。
この著者について持っているイメージはこんな感じなんだけど、本書を「料理エッセイの元祖みたいなこれをそういえばまだ未読だったな!」と思って買って読んでいるときにわたしの頭の中にあったのは料理研究家みたいにエプロンを付け、ちょっと押しの強い人懐っこさと同じ口癖を何回も云うような、そういうオジサンの図だった。ざっくり読んでから「あれっ、そういえばこの壇一雄ってあの〝無頼派"の壇一雄だよねえ?」と再確認してしまったくらい、本書には無頼の「ぶ」の字も無いのだった。料理好きのおっちゃんやん……昔の料理エッセイなのにやたら海外の庶民食に詳しくていったいナニモノって感じだったけど壇一雄だよ!

料理は、季節に合わせていろんなレシピが出てくるんだけど、ほんとにバラエティ豊か。
新聞(産経。当時はサンケイ)に連載されていたので途中であちこちから感想や意見が聞こえてくるらしく、「○○な感じの料理が多い」と云われれば「じゃあ今回は違う趣向のを紹介しよう」というふうな展開が文中何度かあったので、偏らず、まんべんなく、を心掛けていたのかも。っていうか、「なにおう。こんなもの知ってるぜ」とご自分の幅の広さを主張している、というふうにも感じたけど。

昭和45年(1970年)6月に単行本が出て、昭和50年に中公文庫に入ったのかな、いま出回っているのは2002年9月の改版、の2003年12月電子書籍版。

傾向としては、基本的に家庭料理で普段食べるケの日向けレシピがほとんどなんだけど、たまにハレの日用のもある。おせち料理紹介もあるけどちょっと変化球かな…。
内臓系のモツとかタンとかホルモン系を使う料理が多い。正直苦手だけどそういう人間に対して偏見を棄てよ、安くて本当に美味しいんだぜ、というスタンスで書いてある。まあそうなんでしょーけどね。
でも鶏まるごと一羽使う料理とか……鶏まるごと売ってるの、久しく見てないなあどこに売ってるんだろう。豚足とかスーパーで見ないよ…。
煮込む系も多い。半日とか一日とか二日掛かりの料理もある。まあ煮込むの好きだけどね。
いまもメジャーなメニューもあれば、昔の日常食でいまはあんまり流行らないなあ、というのもあるし、日本・ロシア・中国・韓国、イタリア・スペインといろんなところの料理が出てくるのでへえーとびっくりしたり感心したり。
季節別にレシピがわかれているので実用的だな。

梅干しやラッキョウを漬けると料理の幅が広がるのでオススメ、伊達巻は魚をつぶしたりして自作のススメ、ヨーグルトも牛乳を使って自作がイイ、という感じなので決して「手軽に簡単な」料理本では無いんだけど、気さくな感じで「難しくないよ!簡単だよ!」を伝えようとして書かれているということはよく伝わってくる。いやそうは云ってもけっこー大変では?というレシピもあるけど、まあ、そう難しくないのかな?というのもあり、いろいろだ。

文章にやたら読点「、」が多いのがちょっと気になったけどまあそういう文体の方なんだね。そういえば壇一雄の本って初めて読んだわけだ。

どんな料理レシピが載っているのか、いくつか挙げておく。全部で92種だそうだ。それ全部写すのはツライのでほんの一部ね。前から順番にこっちの気分でちょいちょい拾い写すということで。
【カツオのたたき、具入り肉チマキ、イカのスペイン風・中華風、タンハツ鍋、コハダずし、大正コロッケ、東坡肉(豚の角煮)、ツユク、柿の葉ずし、ソーメン、カレーライス、ピクルス、干ダラとトウガンのあんかけ、ロースト・ビーフ、サバ・イワシの煮付け、鶏の白蒸し(白切鶏)、オクラのおろし和え、ショッツル鍋、キリタンポ鍋、ボルシチ、アナゴ丼、クラム・チャウダー、ヒジキと納豆汁、牛タンの塩漬、ダイコン餅、伊達巻、アンコウ鍋、ジンギスカン鍋、ナムル、麻婆豆腐、杏仁豆腐、鯨鍋、チャンポンと皿うどん、パエリヤ、ブイヤベース、スペイン酢だこ、ビーフ・シチュー etc.】

鍋が多いような感じだけど全部読むとそうでもない、かなーあーでも煮込んでるしなー。野菜は少ないかもね?野菜主役の料理は。まあ主役張れる料理が多いってことかな。

実際に作ってみるかはわからん。既に自分なりの作り方持ってるのもあるしー、檀さんのレシピはちょい古い感じのも正直あるし、でもまあ気が向いたらね。
全体的に豪快なのが多いかな! でもこれ読んでこのとーりに作るの、まず買い出しが大変そうだな、ってレシピが多いし調味料等の分量は大雑把にしか書いていないので料理初心者向けではないと思う。

2015/02/25

八百万の死にざま 【再読】

八百万の死にざま
八百万の死にざま
posted with amazlet at 15.02.25
早川書房 (2013-08-23)
売り上げランキング: 33,814
kindle版
■ローレンス・ブロック 翻訳:田口俊樹
本書は"Eight Million Ways to Die"(1982年)の1988年10月ハヤカワ文庫から出た邦訳の電子書籍版。
アル中探偵マット・スカダー・シリーズ第5作にして最高傑作とされている。PWA賞最優秀長篇賞受賞作。

二十代のころ本書からこのシリーズのファンになり、次々に読んだ。早川と、二見から出ている。
ずいぶん前に文庫版を手放してしまったので、今回電子書籍で久しぶりの再読。
最初のほうはなんとなく覚えていたが、誰が犯人かなどはいつものことで忘れていた。
読みはじめたら予想以上に面白くて、こんなに面白かったんだなとびっくりした。

チャンドラーのフィリップ・マーロウ・シリーズと雰囲気が似ていると思う。
犯人当て(フーダニット)もさりながら、話の展開・雰囲気、主人公の人となり、その生き方やスタンスの格好よさにひたりながら楽しむ小説。
男性受けする内容だと思うが、女のわたしが読んでも嫌悪感が起こらないのは変に都合の良い展開などが無いからだろう(あっても小説ってこんなもんだという程度)。それにあれかな、月並みだけどマットが抱えている弱みというか脆さ、過去の事件による心の傷なんかが彼に人間味を持たせるというか、同情というと語弊があるかもしれないが彼に心を添わせやすくなるというか。

1982年に書かれた小説だから、もちろん携帯電話なんか無いので電話応答サービスが出てきたり、そもそもひとを探すのにあちこちの酒場に行って聞きまわったり、そういう手順を踏まないといけない。でもマットが事件を調べるためにひとりひとりの娼婦に話を聞きに行き、きちんとメモを取るのなんかがなんだかすごく良かった。 こつこつ、ひとつひとつ丁寧な感じが誠実な感じで信頼感を生む。

たくさん娼婦が出てくる小説だけど、お色気シーンはほぼ無いと云っていいんじゃないかな。マットは元警官で、警察絡みのひととか、事件の依頼者とかいろいろ出てくるけどみんななかなか味がある魅力的な登場人物で、話に飽きるところが全然ない。ほんと面白い。


以下の感想は未読の方はお読みにならないでください。
本格ミステリだと犯人は…と考えながら読んでいたので、犯人がわかってそれが揺るがないと知って「ああこれは本格じゃなく、そういうタイプのミステリーだったっけ」と思った。ああそういうことか、成程なあ、うーんあれもそれも全部意味があったんだと記憶のなかを確かめるようにして静かに感動した。
最後まで読んでからもう一度冒頭からしばらくざあっとナナメに見直したけど、巧いなあ~そして良い小説だなあ。

2015/02/22

杏のふむふむ

杏のふむふむ (ちくま文庫)

筑摩書房
売り上げランキング: 802
■杏
これは紙の本で買った。初めて入った複合施設の中の小さな書店で購入。
本書は2012年6月に筑摩書房から出た単行本に書き下ろしを加えてこの1月に文庫化したもの。
実は本書が出てすぐに某全国チェーン書店店頭で手に取ってはいるんである。なんせ、帯にでっかく「解説 村上春樹」って書いてあったもんで。
村上春樹の文庫本には解説が無くて、それは自著に解説を書いてもらうとしがらみで解説を書かなくちゃならなくなるからそれが嫌だっていうのも大きな理由のひとつらしくて、だから村上春樹の解説っていうのは結構レア、だと思うんだよね。
だから思わずその場で村上さんの解説だけざっと斜め読みしちゃったことをここに告白しておこう。「へええ、村上春樹と女優の杏さんて知り合いだったんだー」と思った(どういう機会で知り合ったのかなあ?)。

正直ドラマも映画も雑誌もほぼ観ない人間なので杏さんというひとについてはあんまり知らなくて、つい最近ネットで遊んでいて渡辺謙の娘さんだと知って驚いたくらいだ。

本書は杏さんが「それまでの人生を人との出会いをテーマに振り返って描いたエッセイ集」ということで、いろんな人との出会い・交流が書かれている。一般のひとも有名人も含めて。俳優さん、演出家さんが出てくるのはまあ意外ではないけど漫画家さんとか作家さんも出てきて、杏さんが読書家であることがよく伝わってきた。あとイマドキの「歴女」のはしりみたいなひとだったんだね。

職業は「女優さん」と思ってたけど本書を読むと「モデルさん」でもあるらしい。お兄さんも俳優さんなのかー。で、こないだご結婚されてたけど、そのへんのことは本書では全然出てこないっす。

本書に出てくる有名人は、黒柳徹子さん(この方とのエピソードは本当に素敵だった本書の中でもかなり好きな話)、堺雅人さん、大沢たかおさん(このかたは直接は出てこないけど)、亀梨和也さん・鈴木福くん(このおふたかたも「妖怪人間」がらみでちょっと触れられた程度)。

演出家のスズカツさんとのエピソードは杏さんの女優としての考え方とかがよくわかって、すごく面白かった。
飼い犬のハリーの話もしみじみと良かったなあ。柴犬のヤマトの話も可愛かったし。
お父様のエピソードはゴルフのくだりでちょっと出てくるくらい、だったかな。
「初めてのニューヨーク」でプラダの12センチのハイヒールを履いて歩くシーンが超カッコイイ! とシビれた。

本書には毎回すごくかわいいイラストが描かれているんだけど、これが杏さんご自身の作で、すっごい絵~上手い。ゆるふわ、って感じでじっと見つめてほっこりしちゃうとても良いイラスト。

いろんなジャンルにどんどん積極的に関わっていくその姿勢、元気な感じにきっと周りを明るく笑顔にさせる素敵なチャーミングなひとなんだろうな、って思った。
ちなみに寅年だそうだ。おおっオンナジ!(同い年ではナイのよん)

2015/02/21

もぎりよ今夜も有難う

もぎりよ今夜も有難う
もぎりよ今夜も有難う
posted with amazlet at 15.02.21
幻冬舎 (2014-09-26)
売り上げランキング: 157
kindle版
■片桐はいり
kindleで「日替わりセール」に上がってきたので購入。
はいりさんの本は『わたしのマトカ』以来。
『マトカ』が良かったので『もぎりよ』が出たとき気にはなったんだけど、もぎりといえば映画。映画については全っ然知らないので内容も理解しにくいんじゃないかなと見送っていたのだ。 セール価格ということで、手が伸びやすくなった。そういう意味でこの制度、すごく有難い(1日1冊で、実用書の日が殆どなんだけどたまにこういうアタリがある)。

本書は2010年8月キネマ旬報社より刊行され、2014年8月に幻冬舎文庫化が同年9月26日に電子書籍化したもの。
読む前は「映画のことについて書かれたエッセイ」だと思っていたが実際読んでみるとまあ確かに各回の題名ががほぼ全部映画タイトルのもじりだし、でもなんだろうナニカガチガウ……とぼんやり考えながら読んでいくうちに「そうか、これは映画について書かれたエッセイ なんだ」と気付いた。

片桐はいりさんは女優さんだという認識なんだけど前述の『マトカ』でもそうだったがご自分の職業を「俳優なので」と必ず書かれる。「女優」という言葉を遣わないわけではない(現に本書でも4回、すべて他人に対して用いられている) 。

文章を書くことを生業にされている方ではないが、読んでいてつまづくことはほぼ無く、とてもきれいなさらりとした文体だと思う。変な力みや癖も無い。
映画と映画館に対する深くて身体に沁みついている静かで強い愛情が常にくふくふと湧き出してエネルギーになっている、そんなことを感じさせる内容だった。

毎回映画のタイトルがもじりになっていて、有名なのばっかりだからタイトルは知っているけれども観たことがあるのが1本も無い、と書けばわたしがどれだけ映画音痴かは明らかだろう。もし映画を知っていればもっと深く理解し共感できたのだろうが、そうでないわたしのような無知な読者にもはいりさんの文章はきちんと独立しているから楽しめた。映画に寄っかかっていないのだ。

いろんな町の映画館。最初の方ははいりさんの青春時代にアルバイトをした映画館の話が中心的だったが後半になるにつれ、仕事関係で訪れた町の多種多様な映画館の様子が描かれるようになり、そういう観点で旅を愉しむという発想がゼロだったからすごく斬新で興味深かった。

わたしにとって映画館とはすまんが単なる「場所」だった。映画を観るための「建物」。
だけどそうじゃないんだ、映画館ってこんなにドラマチックな、いろんなひとの想いの詰まった夢のある特別な「装置」なんだ、と本書を読んで目を見開かされた。

そうだよな、考えてみれば本が大好きなわたしにとって本屋さんや図書館はすんごく大切なトクベツな空間だもんなあ。

2015/02/17

絲的炊事記 豚キムチにジンクスはあるのか

絲的炊事記 豚キムチにジンクスはあるのか (講談社文庫)
講談社 (2012-12-21)
売り上げランキング: 35,773
kindle版
■絲山秋子
ひっさしぶり~に絲山さんの本を読む。kindleを買って読書生活に変化があるとすればリアル書店で本を探すのとなんかこう、違うんだよね。まだkindleになっているコンテンツ自体が少ないってのと新刊のkindle化に時間差があるっていうのが影響しているんだと思うんだけど……。

でもこの本見るからにすっごく面白そうなのになんでいままで読んでいなかったのかな?といまちょっと調べてみたらわたしが絲山さんの著作をがしがし読んでいたのは2007年4月~5月頃で、本書の単行本『豚キムチにジンクスはあるのか 絲的炊事記』(メインのタイトルが違うんだなあ)が出たのは2007年12月6日。つまりあれだ、マイブームが去って半年後に出たんだ、あーだからスルーしちゃった、のかなー(自分のことだけど7年以上前のことだからもう覚えていないのだわ)。

本書初出は「Hanako」2006年1月26日号~2007年1月11日号で、単行本化のあと2011年1月講談社文庫として刊行されたものが2012年12月1日に電子書籍化されたもの。
つまり、読んでる途中に既に気付いてちょっとガクゼンとしたんだけど1966年生まれの絲山さんはわたしにとって「姐さん」なんだけど、このエッセイが書かれたのはいまから8~9年前であって、だからこの文中の姐さんといま読んでる自分との年齢差はほぼ無い!んだよね、うわーなんか不思議な感覚。で、タメ感覚で読むととりあえず姐さん食い過ぎっスよ!!

これはお料理エッセイなので、しかもどうやら絲山さんオリジナル手料理・アレンジを紹介する主旨、っていうかいろいろチャレンジしてみて体を張って「これは美味しかった」「その逆だった」を検証するという捨て身の(何故!芥川賞受賞作家が!おいたわしい)ギャグ・エッセイなので、その回のテーマとなる料理を何食分も作って食べなきゃなんない、というのはまあわかるんだけど、でもじゃあもうちょっと1回分の料理を少なめにしましょうよ…毎回毎回けっこうボリューミーなお料理を何食も、炭水化物系多いし。半日でひとりでパン1斤とかちょっとそれヤバイっす、お腹がおかしくなっちゃうっスよ。しかも鬱病の時期は1日1食しか食べられないとかそういうときもあるらしくて、めっちゃしんどそう。
絲山姐さんってサービス精神旺盛というかプロ意識高いというか、久しぶりに読んだのだけどああこういう方だったなと思った。
っていうか群馬在住だったんすね。

で、レシピなんだけど、基本的に姐さんは辛い物が得意、あっしは大の苦手、なので辛いのはこっちでアレンジしないと無理そうだった。辛いの得意だったら美味しいんだろうなあ~。
たまに「何故その組み合わせ……!?」とビックリするのもあるんだけど。例えば初回の「力(ちから)パスタ」、何故かパスタとお餅を一緒に食べるというレシピなんである。なんでパスタにお餅?いやその組み合わせがアリなのは知ってるけど(力うどんとかあるもんね)それは「栄養バランスとかどうでもいいからとにかくお腹をいっぱいに充たしたい」という欲求に満ち溢れた十代二十代の発想じゃないの?姐さん健啖家やなあ。
「すき焼き実況中継」美味しそうだったけどこれはセレブのお肉が買えないと真似できません(助手席で焼き芋イイっすね)。近いうちに真似させてもらいたいと思ったのは"ヘナッポ"(「へっぽこナポリタン風ソース」の略だそうだ。(C)絲山秋子)。
群馬の舞茸うらやましいなあ。たまごとトラバターに出てくる卵もすごい。っていうか「トラバター」って絲山用語で「恋をしている」状態を云うんだって!ひゃー!恋した相手から超美味しい卵をもらったんだって!ひゅー!
最後のキッシュ・ローレーヌは父と娘の実に「ええ話」だった。キッシュが得意料理なお父様なんて素敵すぎですv
そして「あとがき」までもがレシピ…でも激辛だし…ハハハ。

目次。
力パスタ/冬の冷やし中華/大根一本勝負/すき焼き実況中継/GoGoお買い物/丼五連発/蕎麦屋で飲む酒/デパ地下チャーハン/豚キムチにジンクスはあるのか/春の日記/“ヘナッポ”の行く末/ようこそ我が家へ/エスニックこてんぱん(前編)/エスニックこてんぱん(後編)/素麺七変化/真夏の洋風ちゃんこ鍋/されどインスタント/サーモンのサンドウィッチ/高崎コロッケめぐり/秋は舞茸の季節/ゴロピカリはかあさんの味/たまごとトラバター/命からがら牡蠣ごはん/親父と作るキッシュ・ローレーヌ/あとがき

ちなみにいま姐さんがいつ芥川賞とったのかググったら第134回で、その発表って2006年1月17日なのだった。
うわあ、「Hanako」連載初回の9日前とか!!どんだけ!!タイムリーっすね、Hanako編集部さんはさぞや狂喜乱舞☆踊り狂ったでしょうなあ。


豚キムチにジンクスはあるのか―絲的炊事記
絲山 秋子
マガジンハウス
売り上げランキング: 941,418

2015/02/14

犯罪心理捜査官セバスチャン 模倣犯

犯罪心理捜査官セバスチャン 模倣犯 上 (創元推理文庫)
東京創元社 (2015-01-22)
売り上げランキング: 881
犯罪心理捜査官セバスチャン 模倣犯 下 (創元推理文庫)
東京創元社 (2015-01-22)
売り上げランキング: 2,122
kindle版
■ミカエル・ヨート&ハンス・ローセンフェルト 翻訳:ヘレンハルメ美穂
犯罪心理捜査官セバスチャンのシリーズ第2作。
このシリーズは全部上下2巻なのかなあ。
本作「模倣犯」では第1作についての壮大なネタバレを孕んでいるから第1作を未読の方は絶対に第2作を先に読んではいけません第1作で明かされる衝撃の事実および犯人が誰かとかまで文中で触れられていた! どっひゃー。


さて第2作について。タイトル「模倣犯」なので既に示されていることだけど。
今回は昔起こった連続婦女暴行殺人事件を何者かがそっくり模倣して犯行している、ということまでは最初からわかっている事件。
その過去の事件の犯人は現在刑務所に服役中で、当時彼をつかまえたのはセバスチャン・べリマンだった。セバスチャンはその事件について書いた本で一躍有名人になったわけである。

そんなわけであるから、トルケルがリーダーを務める国家刑事警察殺人捜査特別班は普通だったら速攻セバスチャンを仲間に入れて一緒に捜査するはずなんだけど、問題はセバスチャンの性格。これをメンバーが徹底的に嫌っていて、断固拒否しているのだ。
「おまえら、そんな感情的な問題で仕事やってていいのかよ……犯行についてなんの手がかりもないくせに」と読みながらちょっとびっくりしてしまった。

ミステリーにはいろんな書き方があるけど、今回の話は最初から黒幕が誰でどういうふうに犯罪を行っているかは読者に明かされている、といういわば「古畑任三郎」形式。

誰が実際に犯行を行っているか?も読者には途中で明らかにされる。
というわけで少なくとも下巻なんかは読み手が推理することは無くなって、探偵側がどうやって真実にたどりつくか、犯人との戦いには勝てるのかとドキドキハラハラしながら読み続ける形。

この話で一番キモというか、これは途中でセバスチャンが気付くんだけどびっくりした衝撃の事実とは被害者に選ばれる理由だった。うわー、なるほどねー!と読みながら唸った。

犯人側の描写とか気持ち悪いしあんまり興味が持てなかったのでそういう部分は読んでも楽しくないし、こういうタイプの話は後半ダレるなあとちょっと思ったけどこのシリーズが面白いのは犯罪云々もあるけれど主要キャラたちの人物造形、人間模様がいろいろ興味深いからで、シリーズ第1作巻末で衝撃の事実が明かされたけど第2作でもなかなか驚愕の事実が明かされている。

第1作のときから薄々感じていたことだけど…この話に出てくるひとたち、ちょっと異性関係に対する考え方・モラルが変というか低いのが多いよなあ。セバスチャンのことあれこれ言えないじゃん。っていうかセバスチャンが嫌われてるのは女性関係だけじゃなくて性格がアレだからということなんだけど彼のモノローグとかも読んでるせいか、そんな問題あるとは思えないんだけどなー。

個人的に心のオアシスとしているビリーが今回はちょっと心境の変化で頑張る話でもある。つきあっている相手に影響されてるっていうのが気になったけど最後落ち着いたかな?

第1作でイライラさせられた仕事が出来ないのに自尊心だけは高いトーマス・ハラルドソンが何故か第2作でも登場してきっちりいらんことをしまくってくれるのには本当にうぐあああ、という感じだった。著者には気に入られている小説にスパイスを与えてくれる大事なキャラなんでしょうなあ、だって他はみんな仕事出来るひとばっかりだもんね、こういうのがいないと深みが出ないよね、それはわかる、わかるんだけどさあ~…と思ってしまうのだけどアマゾンレビュー見てみたらこういうキャラが好きっていう方もおられるのね。ひとそれぞれだなあと感心してしまった。

2015/02/11

犯罪心理捜査官セバスチャン

犯罪心理捜査官セバスチャン 上
東京創元社 (2014-06-27)
売り上げランキング: 80
犯罪心理捜査官セバスチャン 下
東京創元社 (2014-06-27)
売り上げランキング: 224
kindle版
■ミカエル・ヨート&ハンス・ローセンフェルト 翻訳:ヘレンハルメ美穂
本書は、スウェーデンを代表する脚本家ふたりがタッグを組み、傍若無人、傲岸不遜、女たらしの犯罪心理学者を主人公に据えて書きはじめた、<犯罪心理捜査官セバスチャン>シリーズの第一作にあたる。
本書下巻にある「訳者あとがき」はこの一文で始まっている。
本国スウェーデンでは2010年8月に刊行されて以来、五カ月連続でハードカバーのベストセラートップ10入りを果たした。】そうだ。
原題は"DET FÖRDOLDA"。ネットで翻訳してみると「不分明」という日本語になるんだけど日本語になってもよくわからない言葉だ。まあ、内容を最後まで読んだ身には「あー…」と思い当たるふしがあるんだけど。

本書の邦訳は2014年6月28日に出ており、amazonのおすすめでも再三上がってきていて気にはなっていたけど海の物とも山の物ともわからないし「上下巻かー。長いなー」と見送っていたのだ。
先日kindleの「本日のセール」にこの上巻が¥499円で出ていたので試しに読んでみるには良い機会だと購入した。

まったくの白紙で読みはじめたので、「スウェーデンのミステリーか、珍しいなあ」と思ったが読んでいる感覚はふつうの英米ミステリを読んでいるのとあまり違いを感じなかった。
「国家刑事警察の殺人捜査特別班」という組織が出てくるんだけど、そのへんの仕組みを知らなくても「日本でも地方の重大事件に警視庁が出てくるとか内容に応じて公安が出張るとかあるからそんな感じかなー」と思って読んだ。読後、「訳者あとがき」を読んだらだいたいその想像で合っていたみたい。

セバスチャンのキャラクターについては本文を読みはじめるより先にタイトルの後に書いてある「あらすじ」みたいなアオリ文章を読んでしまい、知ってしまったんだけどこれってあれか、創元推理文庫って中表紙のタイトル下にそういえばこういうのが毎回書いてあって、わたしはこれで先に情報を得るのが嫌だからいつもわざと無視していた部分か!(いま気付いた、遅!)
kindle版だからそういういつもの紙の本と感覚が違うから読んじゃったんだよなー、まーいーけど次回から気を付けようっと。

というわけでこのレビューでも余計なことは書かないようにするけれど、結論として評価だけ書いておくと、面白かった!
良いミステリーだった。
上巻を読み終えてなんの迷いもなく下巻を購入した。途中でやめられないだけではなく、本書のレベルの高さに敬意を抱きつつあった。最後まで読んだいまとなっては言わずもがな。
素晴らしい作品だった。
読んでる途中は犯人が憎らしくて早くつかまって罪を償わせなければ気が済まなかったが、真相がわかってみればなんともやるせない、悲しい切ない苦しい。いろんな立場の登場人物それぞれのことをあらためて考えさせられた。上手い!
最後、事件を終えてからもまだ続きがあったので「ちょっと冗長じゃないのぅ」と思いつつ読んだんだけどちゃんと意味があったんだねー。わー。

セバスチャンのことは最初の方からなんかジャック・フロスト警部のイメージと似た印象を抱きつつ読んでしまったんだけどもちろん別人デス、はい。セバスチャンに対して嫌悪感とかは全然抱かなくて、なんかこのひと女のひとに好かれるのわかる気がする(仕事のメンバーには睨まれてるけどでも優秀だよね)。性格も云うほど悪くないと思うけどな。

むしろこの小説ではトーマス・ハラルドソンに腹が立ってイライラしてしかたなかった(そういう位置づけで書かれてるし)。こういうキャラをひとり混ぜておくのが最近のミステリの流行りなのかしらねえ。昔はこんなのいなかったと思うんだけど。と言い切れるほど数を読んでいないんだけどフロストシリーズの近作にもいたし…。リアルはそんなもんでしょーけどね。
ちなみにハンセルも好きじゃない。
ヴァニヤとビリーが好き。特にビリーは心のオアシスよ!

原著ではシリーズ第4作まで出ているそうなので、楽しみです。

2015/02/08

キッチン 【十代の頃以来の再読】

キッチン
キッチン
posted with amazlet at 15.02.08
幻冬舎 (2013-10-26)
売り上げランキング: 77
kindle版
■吉本ばなな
本書は1988年1月福武書店より刊行され、1991年10月に福武文庫、1998年6月に角川文庫、2002年7月に新潮文庫として刊行されたものが2013年9月幻冬舎から電子書籍化したものである。
kindleの通常価格¥430が先日「本日のセール」で¥199になっていたので買って読んでみた。
カバーデザインは増子由美(電子書籍でカバーがこういうちゃんとしたものであることは珍しい)。

この本は昔かなり話題になっていて、すごく売れている感じだったが、このkindle版に収録されている2002年春に書かれた「そののちのこと」という「文庫版あとがき」(つまり新潮文庫に入るとき用だね)はこんな文章からはじまる。
 【この小説がたくさん売れたことを、息苦しく思うこともあった。
  あの時代のものすごい波に飲まれてしまって、なんとなく自分の生き方までが翻弄されるような感じがした。
  私の実感していた「感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がある。それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっとそれはさほど悪いことではないに違いない。(後略)】

正確な時期は覚えていないが、わたしは吉本ばななのこの作品をたぶん高校生のときに文庫で読んだ。もう1作、『TSUGUMI』も同じような時期に文庫で読んだことははっきり覚えていたのだが(牧瀬里穂主演で映画化していたなあ)、『キッチン』についてはよく思い出せない。だから初読みと同じことかもしれない。

本書には「キッチン」「満月-- キッチン2」「ムーンライト・シャドウ」の3つの短篇が収録されていて、前の2つは関連しているけれども3つめの話は別の話だ。
しかし3篇とも読んでいて共通しているなあと思ったのは「身近な人の死」が扱われていることで、すごく大事なひとの後2編はまだ若いひとの突然の死によって残された側の物語である。

主人公はいずれも二十代そこそこの若者だから、なんでこんな若いのにその最愛のひとが続けざまに死んじゃう経験をしなくちゃならないんだろう、というかなんで吉本さんはそういう設定にして小説を書いたんだろう、例えば「恋人を失う」にしてもふつうに「別れた」というのと「相手が死んでしまった」というのは「もうこれからは一緒にいられない」という意味では一緒なのかも知れないけどやっぱりそれでも全然違うよなあ……などということを考えながら読んだ。

そしてこの話はやっぱり昔読んだみたいに十代から二十代前半くらいまでに読むのがもっとも胸に響くであろうしずっぷりと共感・共鳴して感動するだろうなあというのをしみじみと実感した。
いま読んでも良い小説だなと思うのだが、なにか一枚フィルターが挟まってしまっている(読み手であるわたしの側に)。
「ああ、こういう思考回路、心理状態に激しく反応した時代がむかしはあったなあ」という過ぎ去った自分の過去を顧みるような思いで、それはそれで意味があるんだろうし悪くはないのだが、やはりこの小説はもっと若い未完成なみずみずしい感性にこそ訴えかけるものがあるんだろうと思う。

だから本文を読んだあと「そののちのこと」を読んで(さっき引用した後に書かれていることなどを読んで) 、ふむふむ、そうでしたか、そうでしょうなあ、というような納得をしたりした。

「ムーンライト・シャドウ」は設定が悲しすぎてあんまりまともに読むことが出来なかった。でもよく出来ているよなあ、やっぱり吉本ばなな昔っから上手かったんだなあ、こりゃ売れるよなあ。

「キッチン」を読んでいるときから気付いたのだけれど、登場人物たちの言葉づかいがとてもきれい。いまの小説の若いひとはこんなにきれいにしゃべらない、当時はまだこれが残っていたのか。

「満月」を読んでいて連想的に浮かんだのは料理家の高山なおみで、そういえば彼女の文庫の中に吉本ばななの家に遊びに行くシーンがあるから関連があるのだった(『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ』)。彼女たちが知り合ったのはこの小説が書かれる前からなのか、後なのか。少し気になる。高山なおみの雰囲気とこの主人公は似ている部分があると思う。

2015/02/04

ひとり上手な結婚

ひとり上手な結婚 (講談社文庫)
講談社 (2014-04-11)
売り上げランキング: 2,365
kindle版
■山本文緒&伊藤理佐
初・山本文緒。
山本文緒は恋愛小説を書く小説家なので、恋愛小説が守備範囲外のわたしは未読である。本書を読み終えて山本さんにちょっと興味を持ったので小説も読んでみようかとアマゾンで有名な『恋愛中毒』と最新作『なぎさ』のアラスジとみなさん絶賛のレビューを読んだだけで「良い小説なんだな、でもわたしには合わないというかしんどそうだなあ」と腰が引けてしまった。
伊藤理佐は絵や内容があんまり守備範囲ではない漫画家だがインテリアとかが好きなので『やっちまったよ一戸建て!!』(全2巻)を昔読んで面白かった。あと最近『女いっぴき猫ふたり』がキンドル版で割引セールになっていたので1巻だけ読んだ。
伊藤さんの再婚相手って吉田戦車なんだよね。吉田戦車の漫画は読んだことがないんだけど唯一読んだエッセイ『吉田自転車』に確か伊藤さんと再婚したと書いてあった気がする。
少ない読書のなかでのイメージだけど、伊藤さんて下ネタ漫画とか描いてるけど実はまじめ、堅実な現実派、良識のある方だなと認識している。

実はこの本が文庫化した昨年2月くらいのとき書店で見かけて「面白そうだなー」とは思っていたんだけど「結婚って所詮は個人生活だから参考にはならんだろう」と思ってスルーしたのであった。今回キンドルで気が緩み、気軽にポチった(だからキンドル……恐ろしい子!なのデス。ちなみに文庫と値段はまったくおんなじ。なんでやねん)。アマゾンのレビュー見てるとレイアウトが悪い、という感想が散見されたんだけどキンドル版は章ごとに最初山本さんの文章、その後伊藤さんの漫画、というスタイルで読みやすかったんだけど文庫は違うのかなあ?
んで実際読んでみた感想は「面白かった。でもやっぱり未読のときの予想は当たっていた」。
自分のなかにここに上がっている相談者と同じとか似ている悩みが無かったっていうのも大きいかもしれんが。
っていうかね、山本さんも伊藤さんも基本的に恋愛体質なんスよわたしに云わせれば。
恋愛体質のひととそうじゃないひとは生き方とか考え方がたぶんかなり根っこの、根本的なところからして違うんスよ。
だから「あ、そうなんだー」と興味深くは思っても共感はあんまりしなかったというか。

この本は、既婚、独身の方からの結婚に関する悩み相談を受けて、山本さんと伊藤さんが同時に原稿をそれぞれ書いて答える、という企画もの。文章とイラストがある本の場合、多くは先に文章が書かれてそれに挿し絵的にイラストが描かれるんだけど本書は違うらしい。まあ、章ごとに文章に合わせた挿し絵はあるんだけど、漫画のほうは別個に、文章とは関係のないところで書かれている。だから同じ相談に対する回答なんだけどそれぞれの個性が生きたものになっていてとても面白かった。
相談をしたひとが回答を読んで納得したかどうかはわからないけれど、第3者的にはなかなか鋭いなと感心したり、「凝り固まっている思考を崩して変えてみるとまた世界の見え方が違うよねえ」と頷くことが多かったかな。

相談するひとって自分の中に既に回答を持っているパターンがあって、その後押しをして欲しいだけ、っていうひとがいる。
あと、相談してそれを参考に言動を起こして失敗したときに相談に乗ってくれたひとを責めるタイプのひともいる。
どちらもなかなか困ったひとだ。
いま気付いたんだけど、本書の相談に対する回答ってそういう困ったちゃんを生み出さないように上手に答えているような気が。
うーん、さすが。賢いね。

巻末に漫画家のけらえいこと3人で鼎談記事あり。
『吉田自転車』を読んだときの感想はこーちらー。


吉田自転車 (講談社文庫)
吉田戦車
講談社
売り上げランキング: 55,707



2015/02/03

そんなつもりじゃなかったんです THEY THEIR THEM

そんなつもりじゃなかったんです THEY THEIR THEM 角川文庫
KADOKAWA / 角川書店 (2014-12-18)
売り上げランキング: 4,905
kindle版
■鷺沢萠
本書は1992年12月角川書店から『THEY THEIR THEM』というタイトルで出版された単行本を1995年9月文庫化に際して改題したものの電子書籍版である。

放っておくとクリスティばっかり読みそうになるのであえて違うものを。
本当は『過ぐる川、烟る橋』(1999年)を再読したかったのだが電子書籍版には無かった。昔単行本で読んで、そのときは鷺沢さんになんの思い入れもなく、まるで行きずりのように終わってしまったのだが(だから単行本も既に手元に無い)、近年彼女の著作をいくつか読んで「もう一度あれをちゃんと読みたいなあ」と思ったりしているんだけど、うーん、文庫買うしかないのかな(というか調べたら絶版だった、あー)。

で、電子書籍で見つけたこれは手軽そうなエッセイだったので気軽にポチッたわけだが、中身は想像以上に軽かった。
ってゆーかこれ、ほとんど「鷺沢さんの話」じゃなくて「鷺沢さんの友達もしくは知人の身に起こった面白い話」だし!
鷺沢さんには興味があるけど、鷺沢さんのお友達には別になんの興味も無いんデスケド……。

ひとにはそれぞれ「ネタになる話」というのがあると思うのだけど、それを鷺沢さんが聞きだして雑誌「サリダ」に連載して、単行本化したもの。
内容はだから自分の身の回りに居る面白いひとの酒の上の失敗とか間抜けな話とかと同レベルで、こういうのは実地に話していると実に面白くて笑い転げたりするものだけど文章で読んだらさほどでもないというか、別に本書を読んで笑ったりはしなかった。楽しそうなひとだな、とか、これを実際に見聞きしたら笑うだろうなとは思ったけれども。モデルにされた友人たちが「モデル料をよこせ」と冗談で云ったと書いてあるけどそりゃまあ言われても仕方ないくらいご本人の話が無い!「友達はこうだった、そういえばわたしもね」くらいはあってもいいと思うんだけど徹頭徹尾ヒトの話なんだもん。
どうよこのバブルならではのお気楽な仕事っぷりは。まあでもこの「お友達」が自分でエッセイを書いたところで誰もお金を払って読みはしないわけで、そこはやっぱり「鷺沢萠」というネームバリューがモノを言ったのであろう。

文庫版の表紙、挿し絵は安西水丸ということで、電子書籍版でもそれが収録されているのが収穫。