2015/01/31

死者のあやまち 【再読】

死者のあやまち ハヤカワ文庫―クリスティー文庫
早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 11,998
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:田村隆一
本書は1956年に発表された"Dead Man's Folly"クリスティ48作目の長篇で、エルキュール・ポアロシリーズの第27作目にあたる。

デヴォンシャーのナスクームにあるナス屋敷が舞台。
祭日に、ミステリー作家オリヴァ夫人が筋書きを考えて犯人当てゲームをすることになっていたが、夫人は漠然と違和感と不吉な予感を感じ、ポアロを呼び寄せた。
だが事件は防げず、被害者役だった14歳の少女が本当に殺されてしまう。さらに屋敷の主人の妻も行方不明に…。
オリヴァ婦人が絡んでて日常じゃなくてお祭りで少女が死んじゃう、って『ハロウィーン・パーティ』(1969年)と同じパターンだなあと思いつつ。
これ、昔に読んだことがあるはずなんだけど全然覚えてなかった。最後まで読んで愕然。こ、こんな話だったっけか。思わず冒頭からしばらく読み返してしまった。

★★★以下は未読の方はスルー推奨。
未読の方が読むとミステリーの醍醐味台無しです。
作品を最後まで読み終えた方のみ、お読みください。★★★



犯人については真相を知ってすぐに信じがたく、理解しようといろいろ思い出して考えあわせるになんと身勝手でひどい奴かと、でもそれは殺人犯人にはほぼすべからく云えることであって珍しくはない。
この話の何よりゾッとさせられた点はそのことを知っていて止めようと思えば止められたはずの人物がそれをしなかったという、そこである。
ナゼ、ドーシテ。あれやこれやと考えてしまう。

読了後、他の人の感想をちらちら見ていると、「タイトルのダブルミーニングが」云々、と書いているひとが何人かいたので『死者の過ち』がどう解釈すると二重になるのかなと思ったら、ウィキペディアに載っていた【原題の Folly は、ダブルミーニングとなっており、第一義には日本語タイトル通り「過ち(愚かさ)」を意味するが、同時に装飾目的の華美な建築物を指す。】
なるほどねー。
これはこの小説を最後まで読んだら超・納得! なんともいえん気持ちになる。深いわ。
同じクリスティのこのあいだ読んだ短篇に「グリーンショウ氏の阿房宮」があって、そのときに「Folly」の意味を調べて感心したんだけど、ここでも活きていた…!

2015/01/26

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:田村隆一
本書は1934年に刊行された"Why Didn't They Ask Evans"のハヤカワ文庫版である。
翻訳田村先生が嬉しい。
ちなみに新潮文庫版では『謎のエヴァンズ殺人事件』というタイトル(絶版)。
ノン・シリーズで、名探偵や警察が話の主筋に絡まない。

主人公がゴルフをしていて、崖から落ちて瀕死状態の若い男性を発見、今際の際の言葉は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか」だった。彼のポケットに入っていた写真から姉が名乗り出て被害者の身元が判明し、周囲に柵などが無かったことや状況から事故死として片付けられたが、その後、発見者である主人公は大量のモルヒネを飲まされ殺されかける……。

事件にどんどんいつのまにか飲み込まれていく感じの展開で、「どうして警察に届けないの」と途中で思わないでもなかったが、最後まで読んで、納得。…この話、ポアロやミス・マープル、バトル警視、あるいはきちんとした警察組織がちゃんとセオリー通りの調査をしたらすんなり事件解決してしまうので、それじゃ面白くなかっただろう。

「なぜエヴァンズに頼まなかったのか」という題名なのにいつまでたってもエヴァンズが出て来ないし、探しもしないし、読者的に推理することもほぼ不可能。
そもそもの被害者の正体の謎や、その他のもっと身近に危険な謎や疑惑の人物がいるので、そちらを優先して当然の流れが出来ているのだ。

犯人当てなどの本格ミステリというよりもサスペンス、冒険もの、スリラーかな。
怪しい人物のいる家に滞在できるように仕組んで調査したり、聞き込んだりしつつ馴染になっていろいろ見えてくる、という流れ。
それにしてもこの時代の車を運転する若いお金持ちの女性というのはどの話を読んでもスピード狂だね。テンプレなのか、実際そうだったのかしらんけど、まあ牧歌的な時代の「小説」だもんなあ。

どういうことだろう・どうなるんだろうとハラハラドキドキがずっと続いて面白かった。ただ、最後まで読んで「なるほどなあ」とは感心したし実行犯は捕まってるから良いんだろうけど、いろいろ重要な役割を果たした芯から悪人っぽい犯人の片割れはまんまと外国に逃げおおせて最後は手紙なんぞ送ってきている……こんな小賢しいの放置で大丈夫なのかと心配。なんかちょっとスッキリしない後味だったなあ。

2015/01/24

チムニーズ館の秘密 【再々読】

チムニーズ館の秘密 (クリスティー文庫)
早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 24,500
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:高橋豊
というわけで、こちらも続けて読んで、読了。
さすがに3回目なのでこの話のメインの謎は早々に思い出してしまったが、そのほかの細かいのは覚えていなかったので、いろんな謎が解けていくたびに「おお、そうであったか」とびっくりしながら読んだ。
『七つの時計』もそういう要素があったけれども『チムニーズ』のほうがよりコージー小説っぽいかな。あとロマンス小説の要素も濃い気がする。
貴族の夫人が恐喝されてたり、王子が殺されたり、国際的に有名な変装の名人の怪盗が絡んだり、英・米・仏の警察が出てきたりして、いろんな見せ場がある豪華なエンタメって感じ。

以下に、再読時の日記から本作絡みの部分を貼りつけておく。「ボブってこういうヤツだったんだ……」というガッカリ感は今回読み終えてけっこう強く感じたので、日記を見て約10年前にも全くおんなじことを書いていたのがちょっと個人的に面白かった。ちなみに、同じ日に重松清『疾走』を併読していたのだが、そちらの感想はこのブログ内に単独記事がある(クリスティのは短すぎるので独立記事としてブログにまとめなかったのだけど今回サルベージ)。

2003年8月18日(月)
◆眠る前に昨日の続き、クリスティ『チムニーズ館の秘密』を読む、読了までまだ届かず。
この主人公、なんともいえない魅力があるなあ~。例えて云うならルパン3世のような。再読なのですが、このひとの正体がウロ覚えなのでわくわくして読んでます(いつもながらお得な脳みそだ(^_^;)。それにバトル警部もすごく良いし、バンドルもとてもキュートだ。その父親もまた良し。クリスティの魅力はこういうところにもあるんだよなあ。キャラが魅力的なのだ!しみじみ。。。若竹七海さんもクリスティファンだったと思うけど、なんか共通する空気があるようにも思う。主に本格を愛するカーやクイーン好きの読者の中には「クリスティ?女・子どもの読み物だよね」という風潮があるとかも聞くけど、「ほっといて~」(カフェオレのCMのaiko風に)という感じです(笑)。

2003年8月19日(火)
◆『チムニーズ』読了。ああそうだったそうだったね。ボブって女好きで軽かったのねー。

七つの時計 【再々読】

七つの時計 (クリスティー文庫)
早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 14,743
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:深町眞理子
本書は1929年に発表された"The Seven Dials Mystery"の邦訳で、バトル警視ものの長篇である。
翻訳が深町さんというのはなんか安心感。
同著者『チムニーズ館の秘密』(バトル警視もの)と同じくチムニーズ館が主な舞台になっている。

煽り文句を考えてみれば、
青年が不可解な死を遂げ、そのマントルピースの上には七つの時計がきれいに並べられていた。
そしてまた次の犠牲者が。
彼のダイイング・メッセージにあった“セブン・ダイヤルズ”とはなんなのか。
謎の組織の秘密に迫る!

――といったところか。

この話については細かいことは覚えていなかったが、目覚まし時計をたくさん仕掛けて寝坊の青年を驚かせようと若者数人がいたずらをしたら……という導入部と、「面白かった」「好きな話だった」ということだけを覚えていたので読んでみた。そしたらやっぱり面白くて楽しくてスリリングな、良質のミステリーでありエンタメであった。
犯人全然わからなかったし! わかってから冒頭に戻ってしばらく読み直してしまったよ。そうとわかって読めば「なるほど、この描写はそういう意味でも読めたのか」などという解釈も可能だけど普通に読んだら流してしまうような何気ない言い回しだし、……いやあ違和感なかったわ、気付かなかったなあ~。

ミステリーとしても一流だけど、このお話の愉快なところとして是非挙げたいのが登場人物たちのキャラの若さ、明るさ、ユーモア。
主人公の通称バンドルなるお嬢様が可愛くて勇敢で行動派なのも良いし、その他のキャラもなかなかみんな良い(個人的にはボンゴが好みなので、彼の話をもっと読みたい気も。バトル警視も落ち着きがあって渋くて恰好イイけどね)。若いのだけじゃなくて大人たちも良い感じなんだよね。バンドルのお父様もユーモラスで茶目っ気があるし、執事さんは素敵だし、庭師との攻防も面白い。そういえば他人に屋敷を貸して、そのあいだにそのひとがお客を招待して……とかいう世界、イギリスの上流階級ではそう珍しいことでもなさそうだけど日本の感覚じゃちょっとわかんないなあ。まあ英国でもこれはクリスティの時代ならではなのかも知れないけど。
スパイスリラー的な「絵に描いたような」場面もあるし、なのに上質のラブコメでもあるのがすごいよなあ。

それにしても日記によれば前回読んだのは2003年で、そのときも「セブンダイヤルズ」を先に読んでその後「チムニーズ館」を読み返していたみたい。「チムニーズ館」の内容をアマゾンのレビューなどを見ても全然思い出さないどころか「読んでたっけ?」レベルだったんだけど(パソコン内検索機能って実に便利ですな!)。というわけで次は「チムニーズ館」を読むぞ、なんだか前読んだときもとっても楽しんだみたいだしワクワクだ!

◆2003.8.17(日)の日記(当時はホームページ上で公開してました)
A・クリスティ再読続く。昨日寝しなから『ゴルフ場殺人事件』、朝起きて続きを読んで午前中読了、続いて『七つの時計殺人事件』これを夕方読了。続いて(まだ読むか、)『チムニーズ館の秘密』読書中。
「ゴルフ場」はポアロもので、ヘイスティングスのあるロマンスの話、ゴルフ場といっても日本のを想像してはいけない。個人の貴族の庭の延長にあるものです。スケール違うね。いわゆるホームズ式の、物的証拠至上主義のジロー刑事と心理的推理をモットーとするポアロの比較対決でもあります。でもジロー刑事をステレオタイプに書きすぎのような気も?いつも読むたびに思う疑問なのだが「何故シンデレラはあんまり公に疑われないのかなあ」。まあ女性だし動機もなさそうだからかな。でも人を見たら犯人と思えという最近の日本のミステリーなんか読み慣れてるといささか違和感。まあでもこのお話も好きです。
「7つの時計」はお寝坊さんに友達がいたずらで目覚ましをいっぱい仕掛けて驚かそうとするところから始まるんですが、まあそんな感じで全体的にユーモラスな空気が感じられます。これは「バトル警視もの」。とてもかわいらしくて勇ましくて好感のもてるバンドルお嬢さんの活躍が楽しいです。彼女が隠し部屋に潜入して一夜を過ごすシーンは何度読んでもわくわくします。ちょっと『ビッグ4』を思い出すシーンでもあります。
「チムニーズ」も「バトル警視もの」。「7つの時計」より以前の話で、これにもバンドルとかその家とか父上とか出てきます。出版はこっちのが先。私の再読の順序が逆なだけです(7つを読んでこれも読みたくなったと云う)。これから続きを眠るギリギリまで読む予定です。いひ。

2015/01/20

葬儀を終えて 【何度目かの再読】

葬儀を終えて
葬儀を終えて
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早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 11,709
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:加島祥三
本書は1953年に刊行された"After the Funeral"の翻訳で、名探偵エルキュール・ポアロ・シリーズ第25作目にあたる。
葬儀の日に「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」
と発言したコーラが、翌日斧で殺されているのが見つかった……。

この話はそのドラマティックな幕開けから意外な真相解明に至るまでとても面白く、ポアロものの中でも好きな話のベスト5に入る。アマゾンで「さわり」を読んでも犯人など思い出さなかったので(アクロイドとかオリエント急行とかABCはあまりにも衝撃的で素晴らしすぎたので犯人や大まかな筋も忘れられないのでさすがに再読する気になれない)、今回久しぶりに読み直したのだが、コーラが殺されてしばらくあたりのところまで読んだら犯人とそのトリックをぼんやり思い出してしまった。が、ハッキリとは確信が持てなかったし、読み続けると「あれ?やっぱり記憶違いかな?」なんて気もしてきて、終盤まで自信が持てない始末だった。いやぁ、「わかっていても騙される」というか……巧いよなあやっぱり。

そもそも、ミステリーとしても面白いんだけどそれ以外の要素(人間模様、心の動きの描写)も読みごたえがあって、だからクリスティは何度も読めるんだよね。
今回も忠実な老執事のモノローグから始まって、彼が家族のひとについて考えたりする、それで舞台説明や登場人物紹介にもなっているわけだけれど、ここで既にちゃんとクリスティの気配りが隅々まで行き届いていたことが犯人判明後気付かされて唸らされるしね。
登場人物は少なくないけれどもそれぞれが個性的できちんと書き込まれているのが本当にお見事。よく理解できるひともいるけど、何考えているのかわからないひともいて、読みながら疑心暗鬼になるのを高めてくれるわけだ。ミステリーを読むときはドキドキするね。
今回はぼんやり犯人を覚えていたからその人物に関する描写には特に注意をはらって読んだわけだけれども他にもあやしいのが複数いて、信用できない。

この作品に出てくるポアロさんはもう引退している身で、登場人物のほとんどから「誰それ?」ってな扱いを受けている。これは彼の自尊心を傷付けたろうなあ。「この国の教育が悪い」ってポアロさんはおっしゃってる。この台詞はいつの時代も云われるんだね。
ポアロさんが事件に乗り出す前にこの家の弁護士がいろいろ独自に調べるんだけどその部分もなかなかどうして素晴らしい。
ちょっとどうにかならなかったのかなと思うのは最後に被害に遭うひとについて、ポアロさん、その段階だったら危険人物はほぼ把握出来ていたわけで、なにか対策打てなかったものかと……。

あと、最後の最後に出てきたあるひとの打ち明け話は余韻、深みを与えるという解釈もできるけどちょっとトートツなような気もした。クリスティとしては書きたかったメッセージなんだろうなあと興味深くは思う。

それにしても登場人物の男性陣のロクデナシ度が高いこと!

この話は昔ながらの大きな屋敷が舞台になっていて家具や装飾品の描写も効果的で、脳内で想像しながら楽しんだけれども、映像で観たらさぞ美しい、愉しい作品だろうなあ。

※細かいこと、翻訳文で。本書は加島祥三訳。『ナイルに死す』で「(飲み物を)すすった」と書いていて気になった翻訳者だ。本書でも「ポアロはシロップをすすりながら」の表記がある。しかし後の方で「チビリチビリ飲みながら」の表記もある。ちなみに飲み物は同じ「シロップ」である。これ、原書ではどうなってるんだろうなあ……。

2015/01/17

おしどり探偵 【一部再読】

おしどり探偵 (クリスティー文庫)
早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 15,770
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳:坂口玲子
トミーとタペンスの唯一の短篇集。創元推理文庫版では『二人で探偵を』という書籍タイトルになっている。2004年11月3日の日記に【あんまり読書意欲が湧かなくて大島弓子の漫画をちょっと再読したり、クリスティ『二人で探偵を』(創元推理文庫)から短編2つばかり読んだ程度。】とあって、その後続きを読まなかったのかなあ。
そもそもトミーとタペンスものは偕成社文庫の『アガサ=クリスティ推理・探偵小説集(2)』で十代前半に読んだのは確かなんだけど、手元にないのでどの話を読んだのかは不明。読んでいても忘れるような人間だし。「なんだかユーモラスでほのぼのして元気いっぱいの奥さんが出てきてポアロものとは随分雰囲気が違うなあ」というような印象だけは覚えており、今回きちんと読んでみて実際そのとおりだった。
お手伝いの少年(オフィス・ボーイ)は15歳と若い!労働基準法とか児童福祉法とか関係ないもんね。タペンスは25歳以下らしいけど、トミーはタペンスと同い年なんだろうかちょっとは上なのかな、最初の事件(長篇)を読んだらわかるんだろうなあ。

トミーとタペンスがいろんな名探偵の口癖や癖を真似して「名探偵ごっこ」をするので、詳しいひとほど楽しいのだろうと思う。いやあ、ミステリマニアの若い夫婦ならではだねえ。
わたしといえば中学生の時に買ってもらった学研まんが事典シリーズ 『世界の名探偵ひみつ事典』で読んだことはあるけどそれで詳細にネタバレされていたこともあり大人向けというかちゃんとした翻訳本では読んだことの無い名探偵が多く、細かいパロディはよくわからないのもあった(さすがにホームズやポアロはわかるけど)。まあでも「隅の老人はいつもチーズケーキとミルクを頼み、紐で遊びながら推理するんだろうな」とかいう感じで読んだ。

以下、ざっくり感想。
内容に触れているので(直接的なネタバレはいちおう避けたけれどもカンの良い方にはバレバレかもだし)、
未読の方はスルー推奨で。

二人で探偵を (創元推理文庫 105-12)
アガサ・クリスティ
東京創元社
売り上げランキング: 1,072,135

アガサ=クリスティ推理・探偵小説集〈2〉 (偕成社文庫)
アガサ クリスティ
偕成社
売り上げランキング: 114,618

アパートの妖精 (A Fairy in the Flat )
長篇の導入部みたいな話、これだけ読まされても成立しない。何故諜報部のトミーとその妻であるタペンス(元看護婦)が探偵事務所を引き受けることになるかという前置き的な話。

お茶をどうぞ (A Pot of Tea )
探偵事務所を始めて最初の事件。ひょっとしてこの本て「短篇集」って書かれているけど連作短篇集っぽい長篇なんじゃあ?これは単独で読んだら成立しないレベルの話だよなあ…。

桃色真珠紛失事件 (The Affair of the Pink Pearl )
ようやく、これだけで出てきてもいちおう成立する話。でも前の話の「いきさつ」が必要だし、順番に読んでいかないと意味がないみたいだし、やっぱり本書は純粋な短篇集とは言いにくいわねえ。石鹸のくだりが面白かった。

怪しい来訪者 (The Adventure of the Sinister Stranger )
最初のシガレットケースのくだりが利いてくるね。

キングを出し抜く (Finessing the King )
これは殺人事件。そんなものに出くわすとは「持ってる」というところか。ちょっとセイヤーズっぽかったわね(舞台立てが)。

婦人失踪事件 (The Case of the Missing Lady )
この話は読んだことがある、とネタバレした段階で気づいた(遅!)。この話はシャーロック・ホームズごっこをしている。最後の台詞とか、ホームズを読んだことがあるひとはニヤリとするだろう。

目隠しごっこ (Blind Man's Bluff )
アーネスト・ブラマの生んだ盲目の名探偵マックス・カラドス(ちゃんと読んだことない)ごっこをしていると……。

霧の中の男 (The Man in the Mist )
霧の都ならではの事件。思えば、トミーが神父の格好でお店にいて誤解を招いたというのもテーマ的にちゃんと意味があったのね。ブラウン神父系かな。

パリパリ屋 (The Crackler )
パリパリ屋って何だろうと思って読んでいくとトミーの造語だと判明。パリパリの新札の偽造紙幣を作って儲けているヤカラのことを云うんだって! なんと、アンデルセンの「火打ち箱」のエピソードが絡んできたのにはびっくり。楽しいシリーズだなあ本当に。

サニングデールの謎 (The Sunningdale Mystery )
新聞を賑わすゴルフ場で起こったミステリーの謎をトミーとタペンスが現地に行かずして解く。尤も、以前にそのゴルフ場に行ったことがある、という経験を活かしているが。オルツィ「隅の老人」(ちゃんと(ry)ごっこ。

死のひそむ家 (The House of Lurking Death )
田舎の農場を継いだ若く美しい女性から毒入りチョコレートの件で依頼を受けたが訪れる前に彼女は毒殺されてしまった…。
 毒殺ものはクリスティ真骨頂という感じ。
 メイスンのアノー警部ごっこ(ちゃ(ry)

鉄壁のアリバイ (The Unbreakable Alibi )
恋する男性が依頼人。相手の女性から出されたアリバイ問題を解いて欲しいという。この話は覚えていた。アリバイと云えば、というわけでクロフツのフレンチ警部ごっこ。

牧師の娘 (The Clergyman's Daughter )
牧師の娘が依頼人。伯母の「赤い館」を相続したのだが奇妙なことが続いて起こって…。

大使の靴 (The Ambassador's Boots )
ベイリーのフォーチュン医師ごっこらしいがこれは聞いたことすらない、全然知らなかった…。
アメリカ大使がイギリス到着時にいつのまにか鞄が入れ替わっていたらしく、すぐにもとに戻ってきたが、その間違えられた相手に後日挨拶をしたのにそんなことは知らないと云われて疑問に思い依頼に。


16号だった男 (The Man Who Was Number 16 )
最終話。いままでの事件にふれる発言もあるので最初に読んだら台無し。いよいよこの事務所を借りた本元の事件に挑む。
 タペンスが危機に陥りトミーがかなり頑張る話。エルキュール・ポアロの台詞でアルバートが励ましたりするシーンがしみじみしちゃう。投げ輪のくだりはぞっとしたけど…(危なすぎる)。

2015/01/13

パーカー・パイン登場

パーカー・パイン登場 ハヤカワ文庫―クリスティー文庫
早川書房 (2012-08-01)
売り上げランキング: 12,748
kindle版
■アガサ・クリスティ 翻訳: 乾信一郎
パーカー・パイン・シリーズばかり12篇を集めた短篇集。
ハヤカワ文庫で読むのは初めてだったが、新潮文庫から昔出ていた『クリスティ短編集』(Ⅰ、Ⅱ)に9篇が収録されていたので初読みは3篇。

新聞に「あなたは幸せ? でないならパーカー・パイン氏に相談を。リッチモンド街十七」という広告を出している中年男性。こういうのは職業なんていうんだろうなあ。探偵じゃないし。人生相談? でもP・Pのすごいところは相談を受けて答えるんじゃなくて彼が持っているスタッフとか客に払わせた費用とかによって相談主を「幸せ」にしちゃうところ。そういうことが出来るのは彼の人生経験と前職によって得られた統計によるらしい。
スタッフにはポアロシリーズでお馴染みのミス・レモンと女流作家オリヴァ―夫人も登場する。
ポアロもの等と違って、殺人がほとんど出て来ないこと、全体に明るいポップな雰囲気の作品であることなどから気軽に楽しめる。

中年夫人の事件 - The Case of the Middle-aged Wife ★
これは初めて読んだとき衝撃を受けて以来ずっと覚えている話だが何べん読んでも面白いのだった。

退屈している軍人の事件 - The Case of the Discontented Soldier
なんとなく軍隊を引いた人だから中年以降と思っていたけど意外に若かったようね。映像化したら映えそうな話。

困りはてた婦人の事件 - The Case of the Distressed Lady
出来心で模造品とすり替えてしまった宝石を元に戻してほしいという依頼。捨て台詞が見苦しいなあ。逆切れとはこのことだね。

不満な夫の事件 - The Case of the Discontented Husband
妻の心変わりをなんとかしてほしいという夫の依頼。珍しくパインが失敗する話。

サラリーマンの事件 - The Case of the City Clerk
平穏無事な人生に不満なサラリーマンの話。相手の女性はそれでいいのかと思っていたら。「金の切れ目が縁の切れ目」にならないとイイデスね。

大金持ちの婦人の事件 - The Case of the Rich Woman ★
これはなかなか大がかりで長期的な計画だなあ。深いっす。

あなたは欲しいものをすべて手に入れましたか? - Have You Got Everything You Want?
長距離列車の中の事件。夫がメモした痕跡を元に不安になった妻は…。

バグダッドの門 - The Gate of Baghdad ★
この話以降、P・Pは旅先で休暇中なんだけどなんのかんので事件に巻き込まれる系。出身大学のネクタイを付けるのってイギリスでは普通みたいね。

シーラーズにある家 - The House at Shiraz ★
昔読んだ訳では「シラズの家」で、「知らずの家」と脳内で雰囲気を混ぜていたっけ(内容と関係無し)。イギリスから中東にあるシーラーズに来た娘が何故かふさぎ込んでずっと帰国しようとしない…。

高価な真珠 - The Pearl of Price
 P・Pのやり方は心理学だよね。8万ドル(!)のイヤリングをしょっちゅう落としても付け続けるこの娘は大丈夫か。

ナイル河の殺人 - Death on the Nile
そこまでわかっていても殺人を防ぐことは出来なかったのかなあ、残念だなあ。 

デルファイの神託 - The Oracle at Delphi ★
溺愛する息子が誘拐された夫人を助ける話。これは映像化不可能だね。いや、やり方をちょっと工夫すれば出来るか…。

ちなみに新潮文庫『クリスティ短編集』の収録作品は以下の通り。ポアロ、マープル、P・P、ノンシリーズといろんなものが入っていて良い短篇集だった。絶版。取っておけばよかったなあ。タイトルが微妙に違うのも面白い。

クリスティ短編集 (1) (新潮文庫)
クリスティ
新潮社
売り上げランキング: 125,535
Ⅰ=「エジプト墓地の冒険」「火曜の夜のつどい」「検察側の証人」「うぐいす荘」「ダヴェンハイム氏の失踪」「イタリア貴族の怪死」「アスターティの神殿」「金塊事件」「舗道血痕」「動機対機会」「中年の人妻の事件」「悩める淑女の事件」「あるサラリーマンの冒険」

Ⅱ=「溺死」「クリスマスの悲劇」「不満な軍人の事件」「不満な夫の事件」「金持ちの女の事件」「シラズの家」「高価な真珠」「デルフィの神託」「遺言書紛失事件」「首相誘拐事件」「安アパートの冒険」「マーズドン荘の悲劇」「百万ドル公債の盗難」「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」

2015/01/12

モンスターズ 現代アメリカ傑作短篇集

モンスターズ: 現代アメリカ傑作短篇集

白水社
売り上げランキング: 248,235
■B・J・ホラーズ 翻訳:古屋美登里
「本の雑誌」2015年1月号の座談会で編集松村さんが挙げておられたので本屋さんで探してみたら帯の推薦文に岸本(佐知子)さんのお名前があったのでぱらぱらと中身を確かめてまあそう合わないことも無さそうかな、と買ってみた。
タイトルどおり、モンスターのことを書いた現代アメリカ短篇を集めたアンソロジー。大晦日あたりから少しずつ読んでいたのを今日ようやく読了。
もともとモンスター好きとか特に関心があるとかいうわけではないのだけれども要するにもっと大きいくくりで云えば「アウトサイダー」とか「マイノリティ」とかそういうのに含まれるかなという解釈でいて、そして読んでいくとそれはまあそう間違った捉え方でもないようだな、という感じだった。

この本にはいろんなモンスターが出てくるけど、昨今社会問題になっている人間の「モンスターなんちゃら」みたいなのは出てこなかった、有難いことに。いろんなジャンル・タイプの話があり、最後にはコミックまであってびっくりだが、どれもなんていうか、底に流れているものはちょっと悲しい、さびしい感じ。表紙のイラストなどからもっとファンタスティックな楽しい可愛らしいポップな話が多いのかと思っていたんだけどちょっと違った。
現代アメリカ文学のもっと抽象的なわかりにくい世界もありかなーって構えていたんだけどそれもあんまり無かったし。

ちなみにこの編者の「ホラーズ」というのは綴りは「Hollars」。

【収録作】
序として/B・J・ホラーズ
クリーチャー・フィーチャー/ジョン・マクナリー ★
 モンスター番組が大好きな少年の家に赤ちゃんが生まれることになった。少年の独特のこころのなかを描いてある。
B・ホラー/ウェンデル・メイヨー 
 絶妙の悲鳴を上げるのでホラー出し物の「女優」である少年の話。
ゴリラ・ガール/ポニー・ジョー・キャンベル
 狼男の女版みたいな感じかなあ。
いちばん大切な美徳/ケヴィン・ウィルソン
 吸血鬼の話…と云っていいのかなあ?
彼女が東京を救う/ブライアン・ボールディ ★
 キング・コングとゴジラの恋愛の話!(驚)
わたしたちのなかに/エイミー・ベンダー ★★
 ゾンビの話、と思いきや……。この話、面白かったなあ。
受け継がれたもの/ジェディディア・ベリー ★
 謎の「獣」の話。哀愁がある。父から子へ「受け継がれた」ってことなんだけど…。
瓶詰め仔猫/オースティン・バン ★
 事故で顔に傷を負った青年の欲望、ハロウィーンのときの話など。苦しく哀しい狂気。
モンスター/ケリー・リンク ★★
 野外テントなどで活動するキャンプにモンスターが。なんか「ムーミン」に出てくる「モラン」を連想した。モランよりずっとグロかったけどね…。
泥人間(マッドマン)/ベンジャミン・パーシー
 爪から生まれた泥人間に家族が…。これは予想通りの展開なんだけど、悲しい話だなあ。
ダニエル/アリッサ・ナッティング ★
 ダニエルという子の話。吸血鬼もの。ダニエルが異常と思って読んでいくんだけど最後で母親のがそもそも、っていうね。
ゾンビ日記/ジェイク・スウェアリンジェン ★
 ゾンビ騒動、日記形式。自分だけが疎外されるっていう怖さ。
フランケンシュタイン、ミイラに会う/マイク・シズニージュウスキー
 このサイード博士は何者だったのか。前半ドキドキさせておいて「結局そういう話か」という気がしないでもないでもない。
森の中の女の子たち/ケイト・バーンハイマー ★★
 ヘンゼルとグレーテル、のパロディっていうのかなんていうのか。
わたしたちがいるべき場所/ローラ・ヴァンデンバーグ ★
 ビッグフットになるバイトをしている女優さんと余命宣告された恋人の話。なんか切ない。
モスマン/ジェレミー・ティンダー
 コミック。ロックファンの魂に訴えかけるものがある、のかも知れない。

巻末に著者紹介も載っている。ケリー・リンク以外は知らないひとばっかりだった。大学の准教授とか創作学科で教えているというのがけっこう目についた。アメリカでは結構多いのかなあ。
「訳者あとがき」に「原書は絵本のような装本で、モーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』を連想させるようなイラストがついている」と書いてあったので検索してみたらこんな感じだった↓
うーんこれはセンダック……かなあ?

Monsters: A Collection of Literary Sightings

Pressgang
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かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック
冨山房
売り上げランキング: 2,256

本の雑誌379号
本の雑誌379号
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本の雑誌社
売り上げランキング: 21,354

2015/01/06

半七捕物帳 66~69 【再読】

kindle版
■岡本綺堂
66 地蔵は踊る ★★★
縛られ地蔵というのが世にあるそうだが、その話から事件の思い出話に。なんと縛られ地蔵の次は踊る地蔵という話で、しかもそこに若い女が殺されて縛られていたので事件に。
悪い輩に弱みを握られるとえげつないことになるよなあ。
「半七捕物帳」シリーズでは死んだと思っていた人間が何かの拍子で息を吹き返すというのがいままでに何度か出てきたが、つまり死亡したという根拠が「息してない」とかそのレベルだったからでしょうな。もしそのまま埋められていたら……。お通夜とかお葬式という制度があるのは亡くなってすぐ埋めないための時間猶予としても有効な手段なのかなあ。副次的な効果なんでしょうけどね。

67 薄雲の碁盤 ★★★
主人に忠義を見せた猫の因縁話がある美しい碁盤にまつわるこれも男女のもつれの話。この被害者の女が節操無しなので同情出来ない。浮気相手の男も遊び人だし性格悪いし。
でも元にある碁盤をめぐるお話が良かった。この碁盤があると鼠が来ないというのも不思議のままに描いてあるのが良い。碁盤に女の首を乗せて晒す云々はいただけないが……。


68 二人女房 ★★
小金井の花見の話から展開。意味深なタイトルだが女房の起こした事件が2つ同時期に起こったという話。双方の事件は関連していないが概略が似ている。もう若くないいい年になった妻が若い男に入れあげて……。


69 白蝶怪 ★★
これだけ長篇で、半七が出て来なくて、最後に「この事件の探索に主として働いた岡っ引の吉五郎は、わたしが「半七捕物帳」でしばしば紹介した彼の半七老人の養父である。」という一文があるのでようやくシリーズとしたいんだなとわかる。
真冬の夜に白い蝶が飛ぶ怪。
それを見た娘が寝込んだりするがそのへんの超常現象的な話はいままで半七捕物帳を読んできた者なら(面白いし妖しい雰囲気がいい感じだけれども、まあどうせ結局こういうのは「つかみ」の為の描写で「偶然」で、「気のせいでした」とかになるんだろうな)と予想出来てしまう(でもひょーっとしてすごいどんでん返しがあればイイナアと期待してしまうこのサガよ)。
話そのものは要するにこれも男女のもつれでゴタゴタしているが骨格や登場人物の人数などから考えるともっと短くまとめることも出来そうな感じもしないでもない。要はみんな自分勝手で節操無いからいかんのだ。
夜に白い蝶がほのかに光りながら妖しく飛ぶ様が繰り返し描かれ、想像するだになかなか美しく儚く、綺麗である。
「半七捕物帳」でググると「68の短篇」と出てくるのに青空文庫では69の作品が半七捕物帳として出てくるのでどういうことかなと思っていたのだがこういうことデシタか。

とりあえず全篇コンプリート!
いやあ、長いこと楽しめた。
特にどれがオススメとかいうのはまったく趣味のハナシで、北村(薫)御大の「全部読んでとしか言いようがない」とかいう評はまことに適切だなあ。
江戸時代ファンのみならず、冒頭は大正時代の風俗も出てくるのでそういうのが好きな方には面白いだろうし、今読んでも全然古くなくて読みやすいのが驚きだった。ミステリーとしては、まあ、どんどん進化しているので物足りなく思う向きもあるかもしれないけど明治に書かれた日本初期のミステリーという認識で読めばいろいろ吸収できると思う。
特にどれが好きとかいうのは無いケド、半七親分が気風が良くてイナセで素敵。妹さんも奥さんも好きです。同心さんや子分さんはあんまりキャラ立ちしていないかなあ、せいぜい職業で区別するくらいしか。そうそう、書き手の青年も「閻魔帳」もとい「メモ帳」を常に忍ばせていて熱心でユニーク。穏やかな半七老人と好奇心いっぱいの青年の対話というスタイルがとてもほのぼのして、殺人のハナシばかりなんだけど江戸の語りから現代(=明治)に戻った時になんだかほっこり出来た。いい設定だなあ。

2015/01/04

プリティが多すぎる

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)
大崎 梢
文藝春秋 (2014-10-10)
売り上げランキング: 250,642
■大崎梢
本作は『クローバー・レイン』と同じ出版社である千石社が舞台で、ちょっとリンクしてるというので興味を持ったところ、昨年10月に文庫化したので買ってあった。
編集者工藤が真摯に仕事に取り組むその純粋さ、ハートフルな話に感動したからだった。

で、結論から云うと、本作『プリティが多すぎる』は『クローナー・レイン』で感動した者がそれと同じかあるいは近いものを期待して読むとなんだかとっても残念な思いにとらわれるであろう。
…イヤ、この話なりに最後に向けて盛り上がりとかは作ってあるんだけどなんか環境とか他の要素でどうにもイマイチ乗り切れなくて…首を傾げてしまうところもあって…主人公のキャラが違うっていうのもあるんだろうけどそれじゃないよなあ、この読んだ感じの違いの原因は。

工藤より後輩の26歳、新見佳孝は難関である大手出版社の千石社に入社し「自分は仕事が出来る」と自負するキャリア志向バリバリな青年だ。目指すはもちろん、文芸部。小説好きで、作家と良い本を作っていきたくて、学生時代からいろいろ努力してきたのだ。
しかし、そんな彼に異動の辞令が下りた。行先はなんと、ロウティーンの女の子のためのファッション誌「ピピン」編集部――。

まあ、会社員なら自分の希望とは違う仕事をまかされることなんて珍しくもないし、それが出来ないなら務まらないわけで、異動で一喜一憂というのは誰しも大なり小なり経験したことがある、本人にはそれなりの一大事である。だから新見の気持ちはよくわかる。そこで最初は腐って、でも気を取り直してそれなりに努力していくうちに大事なものは何かに気付いていく過程もまあ、オーソドックスだけど好意をもって読むことができた。

だけどこれ、肝心の十代の女の子が嘘っぽくない?
――というのが、本書を読んで違和感を感じた最大の問題だ。いちいち固有名詞が必要なのか首を傾げたくなるくらいこの長さにしてはたくさんの女の子が登場する。それぞれに設定があるらしいこともわかる。
なのに全然、リアルじゃないっていうか……それこそファッション誌で目にする程度しか彼女たちのことが伝わってこない。みんながある一定以上の容姿を持っている雑誌モデルが何人もいる世界で、こんなにきれいごとだけ言ってられるものかなあ。15歳前後の少女ってもっと複雑だしそこに競争要素がシビアに絡んでるんだからいろいろあると思うんだけどなあ。

つまりこの小説における「ロウティーンの女の子たち」って所詮は新見くんのお仕事小説上に配置された「小道具」扱いでしかない、って感じで……文芸目指してる青年が配属されて一番出鼻くじかれるのって何処デスカ、っていうのの答えで「設定」された「環境」として彼女たちを描いてあるからこうなるのかなあとか考えてしまった。みんな良い子過ぎて仲良しすぎてびっくりしたのだ。モデルさんを主役に据えて小説書いたらこういうふうにはならないんじゃないかなと思うんだけど違うのかなあ……。

なお、この作品の新見は「にいみ→新美→新美南吉」という連想から「南吉」というニックネームが付けられ、ほぼそれで通されている。大崎さん、書店営業マンシリーズでは主人公「井辻」に「ひつじくん」というアダ名をつけていたよなあ。そういうのがお好きなのかな?

ちなみにポプラビーチというwebページで工藤視点で新見も絡む特別短篇「花とリボン」が公開されており、読むことが出来る。

2015/01/03

木下古栗を読む スポークンワードvol.2

木下古栗を読む: スポークンワードVol.2
(2014-09-10)
売り上げランキング: 11,806
kindle版
■柴崎友香&長嶋有&米光一成&豊崎由美
イラスト:ウラモトユウコ
これはkindle版のみの発売らしい。

アマゾンの紹介文をそのまま引用させていただく。
小説家の柴崎友香・長嶋有・ゲームクリエイターの米光一成・書評家の豊崎由美の4人が結成したユニット、その名も「チア・リーディング部」。活動内容は、著者本人を敢えて招かず、他人様の新刊を応援する公開読書会「スポークンワード」をおこなうというもの。
第二回目の課題図書は、木下古栗『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』(講談社)。2006年に群像新人文学賞を受賞しデビュー後、発表する作品が常に話題を呼ぶ古栗ワールドを、4人の読み手はどう語るのか。(イベント告知文より引用)
2014年4月30日にリブロ池袋本店で行われたイベント〈スポークンワードVol.2 柴崎友香×長嶋有×豊崎由美×米光一成「木下古栗『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』を楽しむ」〉を、文庫本換算で約62ページのテキスト(39字×15行の場合)で再現しました。

要するに、座談会の内容を活字に起こしてくれてあるわけ。写真も何枚か差し挟まれていて活字は横組みで、なんだか雑誌風。
すごく面白かった。これで100円は安いなあ。

木下古栗って読んだことないんだけど、アマゾンのおすすめに『金を払うから…』も上がってきたことがあり、面白いタイトルだなあと印象に残っていた。何故か短歌の本だと思い込んでいたのだが、本書を読んで純文学(それもかなりぶっとんだ内容)だと判明。

しかも「本の雑誌」で数年前、翻訳家の岸本佐知子さんがベスト3の1つに挙げておられた『いい女vs.いい女』の著者がこのひとだったんだー。(気にはなったけどかなり個性的な読者を選ぶタイプの小説とみて手を出していなかった、この座談会の記事を読んでその判断は正しかったと判明。この著者の作品の中でもかなり気力を要する部類らしい)。
ちなみにこの『いい女…』は2011年8月に講談社から定価1,400円+税で出版されたんだけど現在は絶版のようで、Amazonだと¥4,044円~とかいう値段が着いている。とても買えない…。

いい女vs.いい女
いい女vs.いい女
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木下 古栗
講談社
売り上げランキング: 448,623

っていうか、この純文学作家おふたり、書評家などの「読み」を読んで木下古栗はかなり手ごわそうというか合えば大好きなんだろうけどちょっと買うのは冒険だなあと云う気がかなりしたので最初は文庫から様子を見たいなあ。まだいまのところ単行本しか無いみたいなんだけど。

でもこの座談会だけ読んでも十分面白かった。長嶋有と柴崎友香ってよくつるんでるなあ。そしてこの座談会では豊崎さんが「社長」キャラじゃなくてどっちかというとまとめ役みたいになっている。3人の誰かのファンならオススメ。イベントそのものも楽しそうだなあ。良いなあこういうの。

↓いちおう貼ってみる。

金を払うから素手で殴らせてくれないか?
木下 古栗
講談社
売り上げランキング: 129,976

2015/01/02

洋子さんの本棚

洋子さんの本棚
洋子さんの本棚
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小川 洋子 平松 洋子
集英社
売り上げランキング: 24,043
■小川洋子・平松洋子
対談があったとちらっと触れてあって日記で触れたこともあったが(2014.1.12平松洋子『本の花』)、もう1年前のことなんだなあ。
小川洋子と平松洋子が対談したのが1冊にまとまっているというまるで夢のようなご本が出た。奥付の発売日は1月10日となっているけど年末の書店で既に積んであったので喜びにうちふるえて踊りながら買ってきた。

年末年始でじっくり堪能。おお、全編対談なんだ。それぞれのエッセイとかは無し。
最初にページを開くとこうある。

  ここに、ふたりの少女がいる。
 岡山で生まれ、子どもの頃から本が好きで、
 地元の高校を卒業後、十八歳で上京。
  (中略)
 少女から大人になるまでには
 いくつもの踊り場がある。
 無類の本好きだった彼女たちは、
 いかに読み、
 どんな本に背中を押されてきたのだろう。

つまりそういうコンセプトで、時代ごとに読んだ本、自分にとって意味のある本を数冊ずつあげ、それをおふたりとも読み込んだうえで対談された形。読書家で知識豊かなミセスの対話は本当にハイレベルで、いろんな意味で凄かった。男性同士とか男女とかだとこういう空気感は出ないよなあと。
ある程度年齢を重ねた女性同士、年齢も近い、育った環境、出身地だけじゃなく「家」の雰囲気も近い、その中でそれぞれの違いもあって、個性を生かした作家業で生きているおふたりというので独特の空気があるというか。
たぶん見えない火花も散ってたんだろうけどそれは見えないことにしてあってね。あくまで穏やかに、たおやかに。持ち上げる気遣いを忘れない。そのお互いの距離感のはかり方というか……この年齢、このふたりだからこその、瞬間瞬間の間合いの取りかたとかにどきどきしながら楽しんだ。
女性同士の人間関係って、こういう感じ、大事なんだよなあ。すごく勉強になる。

平松さんの著書というのはエッセイがほとんどなので、ふだんから考えてらっしゃることを読んでいるつもりだけどやっぱり作品という枠があるから出てこないこともたくさんあるわけで、本書を読んで初めて知ったこともいくつかあった。てっきり一戸建てと思っていたら「マンション」という一言が出てきてびっくり。住まい、だったか暮らしだったかは記憶が曖昧なんだけど。でもその後で庭木の剪定を頼む話とかもある。マンションで庭や植木もあるバージョンってことか、えっそれでプロに頼むレベルの大きさの木があるのか…?(東京の住宅事情が全然わからない)。

小川さんの著書にはエッセイもあるけれど、読み手(わたし)が小説中心にしか読んでいないのであまり生活のことは知らなくて、息子さんがいらっしゃるとか阪神ファンとかいうくらいの認識だったんだけど、あらでもお弁当作るときそんな感じだったのねとか、旅行お好きじゃないんだとかいろいろ本書で知ることができた。いやでも基本的にクールで聡明な方よねえ。

平松さんがお母様との間でいろんな葛藤がおありだったこと(でもまだご健在なのに書いちゃっていいのか?)、上京前のふらり旅で新潮社のひとと偶然出会っていたこととか興味深いなあ。
若いころの平松さんがお嬢さんを学童保育に預けて遅くまで働いていた、というのはいままでのエッセイなんかでも何度か目にしたけど、このころのお仕事ってなんだったのかそこには言及が無いんでなんでかなあと思う。会社勤め…で小学生のお嬢さんが就寝した後しか帰れないってかなり遅いよね。なんだろう。やっぱり最初っからフードジャーナリスト、かな。で、出版関係だから遅くなりがちとかそういうことかな?

採り上げられている作品は自分が読んだことのないものがほとんどで、でもなんだか「らしい」感じがした。おふたりの対談を読んで読んでみたいなと思ったものもあるし、おいそれと気軽には読めないなとしり込みしたものも、ハナから「守備範囲と違い過ぎる…」と敬遠したものも。

小川さんの方がこの対談に向けて「予習」的にあらためて平松さんの近著を数冊読んできた、って雰囲気かしら。平松さんはもともと読んでそうだよね、読書家として作家・小川洋子を。
いままでも漠然とは考えていた筈なんだけれども本書を読んで平松洋子って「お姉さま」って感じだなあ、という感想をかなりくっきりと持った。中高キリスト系の女子校出身、というのもあるかもしれないけど(大学も女子大だ)。ご両親に寮に入れられてしまうとか、かなり門限などを制約されていたという点はわたしもそうなんだけど、でも「本人」の成長の速度が違い過ぎだよなあ。小川さんも平松さんのこと「5年ぐらい進んでる」とおっしゃってたけど本当にそんな感じ。きりりとして、頭が良くて、行動派で、オトナになるのが早い。まさに格好いい憧れの「お姉さま」そのものだよ~。やっぱり素敵だなあ。

小川さんはサイン会でご尊顔を拝したこともあるけれど、良家の奥さま、賢夫人、という印象で、物柔らかさの奥にピシッと芯の通った知性がある感じだ。本書を読んでもそれは変わらない。こんな上品な方が、阪神ファンとかフィギュアスケートの高橋選手のファンだとおっしゃってミーハーな一面をちらりとのぞかせてらっしゃるところがチャーミング。平松さんのお子さん時代の写真を見られたときの反応とか、ちょっとやっぱり関西のかたでらっしゃるな、と思った。

とりあえず一読、でもまた読み込みたい。本書に上げられている本も、心して読んでいきたいと思う。
特設ページがあって、これも素敵だったので(なんとおふたりの自筆の葉書が!)リンクを貼っておく。小川さんのサインはいただいたことがあって、きっちり楷書だったんだけどお葉書だと雰囲気変わるなあ。平松さんは素敵な手蹟…初めて見たのか、考えてみれば。イメージ通りというか、なんでもよくお出来になるのねえ…(ほう、と感嘆のためいきをついちゃったり)。

半七捕物帳 62~65 【再読】 

kindle版
■岡本綺堂
62 歩兵の髪切り ★
深川八幡の歳の市から半七老人の散髪、江戸時代の「髪を切る」が大変な重い意味があることだったという話から女の髷切り、男の丁髷切り騒動の話になる。そういう犯罪が時にあったそうで…。それにしても「豹」とはねえ。

63 川越次郎兵衛 ★
江戸城大玄関先の騒動の犯人探しの話。呑気ないたずら話かと思いきや、いろいろややこしいのが沸いててあんまりすっきりしないなあ。この姉も馬鹿ねー。

64 廻り灯籠 ★★
「お正月らしい話をしろと云われても」という前振りで始まるのでこれも「タイムリー」と思った。でも読んでみたら全然お正月関係なかったしお正月らしくも無かった。岡っ引きは犯罪者を捕まえるのが御用だけど、中には犯人からの逆恨みを怖れるのもいたという話なので珍しくはあったけど、結局色男が女の人に心配されていたんだという話の持って行き方がなんだか釈然としないなあ。

65 夜叉神堂 ★★
長谷寺と書いて「はせでら」でなく「ちょうこくじ」というのがいまの麻生(昔の区割りでは渋谷)にあるらしいが、そこのお開帳の造り物をめぐる事件の話でこれはひとが死なないし割とほんわかした話だったのでまあほっとした。ちょっと昔話っぽいね。

2015/01/01



あけましておめでとうございます

みなさまにとって2015年が良いとしとなりますように

                                                
翌の読書手帖



創作市場研究所 01 羊のスケッチ

マリア書房
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