2014/09/29

犬は勘定に入れません  あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎【再読】

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
コニー・ウィリス
早川書房
売り上げランキング: 401,236

■コニー・ウィリス 翻訳:大森望
前回読んだのは2004年6月だからほぼ10年ぶり。先日『ボートの三人男』を1週間くらいかけてゆっくり読み終わったところで
週末になったので良い機会だからとそれをオマージュにしている本書を読むことに。分厚いので通勤に持っていく気は無く、土日で読んじゃわなきゃというわけで読みはじめたら記憶に違わずきちんと面白くて、間に家事と昼寝を挟んだりしつつ日曜朝読了(最終の百ページ弱を夜中に読んだら訳が分からなくなったので朝すっきりした頭で読み直した)。
装画は昔から可愛いな~と思っていたけどいま見ると松尾たいこだ。なるほどね!

500頁越えの二段組みなので結構読みではあるんだけど、読みやすいしユーモラスな“どたばたラブコメSF”だから気楽に楽しめる。
タイムトラベルがばんばん出来ちゃう時代がベースなので基本SFなんだけど、主な舞台は『ボートの三人男』の1880年代のロンドン、テムズ河。
他の時代にタイムトラベルすることをこの小説では「降下」と云うとか、短い期間に何回も「降下」すると「タイムラグ(時代差ボケ)」になるというのが基本設定。で、ふつうは狙った時代の狙った場所にほとんど誤差なく降下できるはずなんだけど、過去のモノを現在に持ってきちゃいけないのにそれを破った人間がいたせいで(そもそもネット[この世界のタイムマシン的な入口出口を指す用語]が開かないはずなんだけどそれが何故か開いたせいで)、「齟齬」が生じて来ている、それを正さなくちゃ……というのがこの話の主筋。この設定だけでかなりわくわくする。
主人公は、無茶な上司に何回も降下を強いられたために重度のタイムラグになっちゃった「僕」ことネッド・ヘンリー。無茶苦茶な要求を周囲に撒き散らす横車押しまくりの上司はレイディ・シュラプネル。なかなか強烈なキャラだ。その他もいろいろユニークな登場人物が出てくるが本書にはその一覧が無い、というのは最初にそれわかっちゃうと最初の方の(ここは正しい場所に降下したのか?)というシーンが生きないからだろうなあ。というわけでここでもこれ以上は触れないでおこう。

『ボートの三人男』の時代で、実際に河で彼らと遭遇したりする(ミーハーノリ炸裂!)が、この物語はそれだけがベースではなく、英国黄金期ミステリーおたくの女性が登場し、しょっちゅうクリスティのポアロやセイヤーズのピーター卿のことを引用するのですっごく楽しい。ピーター卿とハリエットのこととか、かなり入れ込んでいる。もちろんホームズも基本だから台詞の引用しちゃったりして、んーこれは、ミステリファンなら誰でも一回はやるよね、「初歩だよ、ワトソン君」ごっごみたいなね。というわけでSFファンも楽しいだろうけれどミステリファンもかなり愉快になっちゃえる要素満載なのだ。
そもそも「なんで齟齬が出るようになっちゃったか?」という謎を解く、という設定がミステリーだしね。ただ、この謎解きは本格そのものというわけにはいかないというか、SF的設定が絡んでいるから自力ではちょっとややこしいかなあ、だいたい「そこから!?」というようなあれだし……。

恋愛要素もあって、主人公のそれもあるし、主人公が齟齬を直すために「この彼と彼女をくっつけるのが正しいはずなのに別なひとと婚約しちゃったよ、なんとかしなくちゃ!」と奮闘するさまとかそのへんのいきさつもわくわく。

ブルドック犬のシリルと猫のプリンセス・アージュマンドがすっごいチャーミング。犬はフォックステリアじゃないんだねー。人間の言葉をけっこう理解していてそれに応える感じとかがめっちゃ可愛いんだよなあ。けっこう傍若無人なんだけど、愛くるしい~。
いまは文庫版(上下巻)が出ている↓




2014/09/27

ボートの三人男 【ものすごく久しぶりの再読】

ボートの三人男 (中公文庫)
ジェローム・K.ジェローム
中央公論新社
売り上げランキング: 519,589

■ジェローム・K・ジェローム 翻訳:丸谷才一
本書は、1889年に書かれた"Three Men in Boat"の翻訳で、昭和44(1969)年に筑摩書房の『世界ユーモア文学全集』のなかの1作として上梓されたものの1976年7月中公文庫版である。
わたしの手元にあるのは1992年6月15日15版。表紙のイラストは白井晟一。

以前に読んだのはたぶん学生時代なので随分昔なのだが、何回も行った蔵書整理でもこれは捨てずにずっと持ってきたのは「これはわたしの好きな北杜夫とかユーモア小説の原点だから」という認識があったからだと思う。繰り返し読む愛読書ではなかったが、手元に置いておきたかった。

今回読んで、ものすごく久しぶりだったのでほぼ初読みと同じなのだけれど、そうすると最初の方は「ああー北さんの原点みたいな感じ」と思い、だんだんと「ああ、宮田珠己とか土屋(賢二)先生とかのユーモアってこういう感じだよなあ」とか思いながら読んだ。

まずボートに乗って旅しようと決めてから準備とかする期間がけっこうあって、準備しつつも触発されて昔あったこととかエピソードが挟まるのでけっこうかかって、旅が始まってもそういう傾向はずっと続くのでなんだか脇道寄り道たっぷりののんびりした旅の感じが非常によく出ている。1889年に書かれた話!だもんね!と思う。河がきれいで、のどかで、牧歌的だ。文明はまだそんなに人類を無機質にしていない。犬も自由に走り回りケンカしている。

ゆっくり少しずつ読んだ。
「自分としては素晴らしい働きをしているのに周囲から客観的にみるとそうではなくて批判される」式の内容をユーモラスに書くというパターンが実に多く、西洋のユーモアの基本はこれなのかなと思う。
1889年というのは元号でいうと明治22年。
この年は、エッフェル塔の落成式が3月にあり、パリ万国博覧会が開催されたという。ウィキペディアで大きな出来事を拾ったらフランスネタになってしまったが、本書の舞台はイギリスのテムズ河である。

病気を書いてある本を読んだら自分は残らず罹患していると思ったり、荷造りは得意だと云って実際はじめたら大騒動だったり、ボートを優雅に漕いでいるつもりがハチャメチャだったり……様式美というのか、ワンパターンなんだけど、でもこれが面白い。大笑いはしないけど、にやり、にやにや、たぶん上手いコメディアンが演じたらかなり笑える芝居になるだろう、時代を超越した原点の笑いだと思う。パイナップルの缶詰を開けようとするドタバタなんてほんとに喜劇そのもので面白い。

井上ひさしによる解説が良くて、とてもわかりやすい。この話は実話が多いというから驚きだ。また本書は最初はユーモア小説として書かれたのではなく、歴史とか地理的な展望書として書かれたらしい。どうりで、ところどころやけに詳しくその地にまつわる歴史的出来事が語られたわけだ。あと、ひょうきんな表現のあいまにものすごく文学的美的な景色の描写があったりしてこの緩急(?)の差はなんだろうと思っていたがそういう事情も関係しているのかな。

この話に出てくるジョージとハリスとぼく(Jという頭文字が終盤会話の中で出てくる)は実在のモデルがいるらしいが、フォックステリアのモンモランシーも同様だそうだ。薬缶との格闘が実話とは……恐れ入ったなあ。いや、本書では「湯わかし」と書いてあるけど。そう、全体的に丸谷才一ならではの邦訳になっていて、それも良い味出してるんだよなあ。
ところでアイリッシュ・シチュー(P202-205)に結局ドブ鼠は入れたのだろうか……文脈からすると肯定的に読めるのだがそれは「まさかそんなことはするわけないでしょ」という共通認識のもとに書かれたジョークだと思いたい、なまじっかこのアイリッシュ・シチューがものすごく美味しそうだから余計に。

最後は家について終わりかなと思っていたらそうじゃなかったのでふーんと思った。イギリスには雨がつきもので、イギリス人はちょっとした雨だったら傘もささないと読んだことがあるけれど、やっぱり雨はきついか、実際。

現在は同じ中公文庫で同じ丸谷才一訳であるが、表紙が和田誠になっているらしい。

ボートの三人男 (中公文庫)
ジェローム・K. ジェローム
中央公論新社
売り上げランキング: 77,258


西加奈子と地元の本屋

西加奈子と地元の本屋

140B
売り上げランキング: 18,486

■大阪の本屋発行委員会・編
久しぶりに寄った大阪なんばのジュンク堂で見つけた。へーえ、こんな冊子出してたんやねえ。6月22日発行だそうだ。
3,4ミリの薄い、手作り感あふれた冊子。
出版社のPR誌みたいな雰囲気だけどずっと薄い。
定価352円+消費税。
140B」って書いてあるけどなんのことだろう(と思っていまググったらこの冊子を出した会社だった。なんと株式会社だった!)。

メインは西加奈子と津村記久子の対談。大阪弁で小説を書くこと、大阪を書くことがテーマかな。和気藹々。
他は、大阪の書店員による「ウチの店で売れている本」、いかにも土地柄・場所柄売れてるんだなというのは結局あんまり多くなくて、ちょっと期待しすぎたか。

とりあえず全体的に西さんファンの色が濃いかな。
西さんと津村さんの対談は「書店員ナイト」っていうイベントであったらしいんだけど、面白そうだなあ。
この冊子ってこれ1回きり? それとも続くのかな?

2014/09/20

本屋さんのアンソロジー

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)
大崎 梢
光文社 (2014-08-07)
売り上げランキング: 15,923

■大崎梢リクエスト
いままで読んだことのあるアンソロジーというのは既に書かれている作品を編者が集めてくるというものだったが、この企画はまず企画ありきで各作家にテーマをリクエストして書いてもらう、というものらしい。最後のほうに載っている初出によれば「週刊宝石」に大崎さんがまずトップバッターで書かれ、毎月1篇ずつ掲載された後、単行本になった。本書はその文庫版だが、1年ちょっとで文庫化されている、早いなー。
10篇所収。全部ミステリー風味。
そして新刊書店シバリ(「あとがき」参照)。素晴らしい!
「本屋の小説」と言ってもやっぱり古本屋さんが書きやすいのか多いんだよね、あと図書館とか。そこをあえて「新刊書店限定」とした大崎さん、グッジョブ!
この本のおかげで初めて読んだ作家さんがなんと6人もいて、そのうち2名さんは略歴の代表作を見ても全然知らないひとだった。狭い範囲しか読んでいないからなあ……。
でも全部面白かった!好みでいろいろあって、を付けさせてもらったけど、シリーズ化してほしいのがいくつもあって。

本と謎の日々(有栖川有栖) ★★★★
店長さんがキャラ立ちしていて地味だけどリアルな名探偵さが良い。小さな謎をちりばめる手腕もさすが有栖川有栖!ふつうにシリーズにありそう。

国会図書館のボルト(坂木司) ★★★
なんでこのタイトル?と思ったらそういうことか。万引き犯が全然反省していないのが嫌だなあ。

夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話(門井慶喜) ★★
初。すごいタイトルだ。この話の「解答」はわたしも好きなので出題時点ですぐピンと来たが、でもあれは女性作家だからなあ。男性目線だとやっぱり緑雨のような考え方がメジャーなんだろうか。っていうかやっぱ石とかダメだよ…。

モブ君(乾ルカ) ★★
初。他人を見て「モブ」とあだ名をつけるなんてどうかとは思うが、本屋の話としてはよく出来ていた。

ロバのサイン会(吉野万理子) ★★★
初。「ボク」という一人称に最初拒否反応を起こしかけたがロバ君なら仕方ないね!出版業界もせちがらいなあ。夢のある話に仕上げてあって救いがある。

彼女のいたカフェ(誉田哲也) ★★★
同性でこういう感情ってよくわからないけど、まあ男性目線だし。終盤の展開の爽快さがこの著者の持ち味なのかな、と思った。書店内にカフェがあって、日本各地に店があるってジュンク堂書店を想定したお話なのかな。

ショップtoショップ(大崎梢) ★★
後味悪し。それにやられた側の高校生のキャラもちょっとつかみにくい。万引きってほんと嫌!

7冊で海を越えられる(似鳥鶏) ★★
初めて読んだけど、文体とかノリとかサボリ常習犯の店長にしっかり者のバイト君とか面白かった。謎解きはまあ、ちょっと苦しいかな?本棚に他の本と一緒に仕舞っちゃったら終わりだよねー。この毒舌店長さん素敵。シリーズ化してほしいかも。

なつかしいひと(宮下奈都) ★★★★★
初めて読んだけどこういうお話を書かれるひとだったのか!ほんのり温かく心に沁みる、いいファンタジーだ。本好きの気持ちもよく伝わってくる。「男むき女むき」は確かにあるなあ。それを破るのも楽しいんだけど。重松清は上手いよね確かに。泣かされるから最近は敬遠してるんだけど。

空の上、空の下(飛鳥井千砂) ★★★★
初。あら、なんてロマンチックなドリーム展開。初めて読んだけど『タイニー・タイニー・ハッピー』のひとと知って納得。空港の本屋さんの気持ちってそうなのかあ。本好きも旅行のついでに行きますよ。あと、売れてる作家のは別に自分が読まなくても、とか思っちゃう心理はよくわかったけど、最後の方で主人公がその考えを改めるというのもふーんと思った。

総論。
万引きはやっぱり絶対に絶対にダメ!っていうか窃盗だし。犯罪だし。遊びとか嫌がらせとか小遣い稼ぎ感覚で罪悪感も無しにやるっていうのはなんでなのかなあ。わからん。
本屋さんも本屋好きのお客さんもみんな真剣に怒ってるんだよね、っていうことをしみじみ感じた。

2014/09/17

なんといふ空 【再読】

なんといふ空 (中公文庫)
最相 葉月
中央公論新社
売り上げランキング: 380,717

■最相葉月
目次を写す。
Ⅰ:わが心の町 大阪君のこと/側溝のカルピス/星々の悲しみ/貝殻虫/わかれて遠い人/鬼脚の涙/時をかける人
Ⅱ:おシャカさまに近い人/遠距離の客/パン屋の二階/あなたはだあれ?/旨いけど/女にはわからんけど/夢見るキャッチボール/まだ、虎は見える/ジュリー、ジュリー、ジュリー/音が気になるツボ/声の力/目で聞く人/左手は戦略家
Ⅲ:テーブルマナー/歩き出す谷間/赤いポストに/蕾/昆明断想/白菊/二十万人の夏/彼女の疑問/黒いスーパーマン/ドラマチック・ドラマ/ふたりのM/サルと呼ばないで/二十五年ぶりの宝塚/こんにちは赤ちゃん/本屋へ/お花畑の悪魔/知らない作家の本を読む人/二百円の災い/なんとお呼びすれば
Ⅳ:壁の穴/ふくろふはふくろふ/夢/ある写真家/ある退社/記憶/心の時間軸/私が競輪場を去った理由/手紙
あとがき
解説・重松清


「わが心の町 大阪君のこと」は映画「ココニイルコト」の原案である。
初読みは10年前か。映画を先に観て、原作があると知り、探し求めて購入したらそのエッセイはものすごく短かったのでびっくりし、少々がっかりというか拍子抜けみたいな気持ちになったものだ。2ページと数行。全部で30数行。しかしそのなかには、とてもハンサムでおしゃれなのに古いものが好きだというちょっと変わったでも素敵な趣味をもつカッコイイ青年がやさしい女の先輩の目線で描かれている。
読み返して思うに、前回もそう考えたかもしれないが、本書の中で「大阪君」の話はちょっと浮いているというか異質な気がする。他は全部最相さんの話なのにこれだけ大阪君の話だからだ。

本書を通して読むと、最相葉月というひとが見えてくるような気がする。仕事の出来る、きれいなひと。頭は良さそうなのに財布を落とすのはしょっちゅうだとか。兵庫県は神戸の御影出身というからお嬢様なのかなあ。中学から受験して私立に通ったというが、周囲が裕福な家庭の子ばかりで学校の中でうまく行かなかったと書いてあるが。
タイガースファン。少女時代はジュリー(沢田研二)のファンだった。さらりと前島密(日本の郵便制度を作ったひとだ)が「おじいちゃんのおじいちゃん」だと書いてあったりして、びっくりする。

昭和38年生まれ。25歳で結婚を機に東京に出てきたが、30歳のときに離婚、8年務めた会社もやめてフリーになり、編集の仕事をしながら雑文を書いた。そしてこのへんははっきり書いていないけれど、35歳までに再婚をしてその御主人は久留米の創業100年になる家具店の長男で、著者の箸の持ち方を直してくれたひとらしい。
最相さんは最初競輪の世界を取材して、惚れ込んで本にしたけれどあまり売れず、次に書いた『絶対音感』がベストセラーになって、そこではじめて「新人作家」扱いになったそうだ。

基本的にルポライターというか、取材して書くタイプのひとらしく、物語や小説を創作して書くタイプのエッセイとはそこらへんの根本的なスタンスが違うなあと思う。祖父だって、父親だって、「取材ネタ」になり得るのだ。

アマゾンで古本を買う話が出てきたけれど、このころはまだアマゾンにも浪漫があったんだなあとちょっと面白く感じた。

2014/09/12

帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ【再読】

帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。 (文春文庫)
高山 なおみ
文藝春秋
売り上げランキング: 9,815

■高山なおみ
このあいだ(7/25)読んだばっかりなんだけど、なんとなく再読。
最近読んだので本棚の手前にあったからだけとも云う。。。

にしてもこの表紙の写真ほんとにいいよねー。日置さんの写真いいよねー。

感想はこないだ書いたので。
追加的に書くと。
①夢の話が本当に多い。
寝てる時にみた夢の話が現実と地続きで書いてある。
②料理が最初の「プロローグ」以外はほぼ出てこない。
これはプロの料理人だから、料理を文章で読ませる仕事じゃないからなのかなあ。
③夜中に書いた日記のようだ。
だから「文庫版のためのあとがき」で読み返せなかった、というのはすごくよくわかる。
④なんていうか、感性で生きてるひとだなあ。

よい香りのする皿→おとなの味 【再読】

よい香りのする皿
よい香りのする皿
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平松 洋子
講談社
売り上げランキング: 167,403


おとなの味 (新潮文庫)
おとなの味 (新潮文庫)
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平松 洋子
新潮社
売り上げランキング: 36,756

■平松洋子
『よい香りのする皿』をそぞろ読み(レシピ集なので日置さんの写真を堪能)し、続けてエッセイ集『おとなの味』を再読。
このひとは最初知った時は「フード・ジャーナリスト」とか紹介に書いてあってそうかと思ったけど、やっぱり根本は文章書きのひとだなあとしみじみ思った。料理ネタが多いのは事実だけど。
文章の書き方とかが、やっぱり文学好き本好き読書好きの書く文章だなあと。料理好き、美味しいもの好き、それを文章で表すことに長けている。比較的若いころに書かれたものは多少文章が浮いているけど、ある程度書く量が増えてからはスタイルが確立してきたみたいだ。まあ、あんまりにも「形式」「様式美」にのっとりすぎじゃないか、と思う部分がないわけじゃないけど。そのへんを自然に美しい文章にするテクニックも年々上手くなってきていると思うし(すみません上からな言い草で。ナニサマって感じデスね)。

「おとなの味」はいま現在味わう、おとなだからこそわかる「味わい」も書いてあるけれど、同時に郷愁色もけっこう強くて、子どもの頃の日常口にしていたものとか、台所のお手伝いとか、そういうのがしっかりそのひとの後年に影響しているんだなあということをしみじみ考えた。

ちゃんとした(?)感想は初読みのときに書いたのでこのへんで。

2014/09/06

クローバー・レイン

([お]13-1)クローバー・レイン (ポプラ文庫)
大崎 梢
ポプラ社 (2014-08-05)
売り上げランキング: 17,983

■大崎梢
ひさしぶりの大崎梢。
この前に読んだのは2009年の『スノーフレーク』でそれ以来だ。
文庫買い溜めをしているときに書店で見かけ、帯に「本をつくる仕事には、あらゆるものが詰まっている」と書いてあり、編集者の仕事がらみのミステリーか~面白そうだな~と軽い気持ちで買ってあったのを本日読みはじめたのだが、読みはじめるやかなり面白くて、仕事の前&昼休み&夕食後と空いた時間はずっと読んで、あんまりいっぺんに読んでも疲れるしもったいないから、と半分くらいのところでいったん伏せたのだが続きが気になってまた読み出し、とうとう最後まで読んでしまった。
おおお、面白かった!良い話だった!ハートフル!
でもミステリーでは無かった。大崎さんは初めて読んだのが創元の書店絡みのミステリーだったしわたしが既読の5作はすべてそうだったのでミステリー作家だと思っていたけどそうじゃないお話も書かれるんだなあ。

主人公は大手出版社に勤める29歳の若手編集者。彼がある晩、ある作家の家で偶然まだ行先の決まっていない原稿を目にしたことから物語がはじまる。
作家が書いた小説がどういうふうに出版社を経て本屋さんに並ぶのか、その工程などがとても興味ぶかく面白かった。いや、他のいままでの読んだ本などから漠然とある程度は知っていたのでまったく未知の世界とかいうんじゃないけど、このお話はそこに主人公の熱意、素晴らしい小説だから本にして売りたい!という素直な気持ちがあって、でもいろんな問題があって、そうすんなりとはいかなくてそれで悪戦苦闘するんだけど、いつまでたっても真っ直ぐにへこたれないで努力を続ける主人公にこっちも「どうなるんだ、無事出せるのか、大丈夫なのか」と手に汗握る感じではらはらどきどきしてしまって、途中でやめられなくなってしまったのだ。そういう意味では、広い意味でミステリーでもあったわけだなあ。

読後、興奮した頭で他のひとの感想を知りたくてネットでちょっと見てみたら、「泣いた」というひとも少なくないみたいだ。わたしは泣くとか泣きそうとかそういうのは無かったんだけど、でも良いお話だったし感動した。まあ、ちょっと「良い話」すぎる気はしないでもないんだけど、っていうか、あんまりにも悪人が出てこず悪い展開にならないので、「そんなにうまくいくはずがない」と勝手に心配し、なにか落とし穴があるんじゃないかと勝手にヒヤヒヤしたりしてしまったというか。娘の難病でお金の無心、ってまんまそういうチェーンメールがあるよなあ、実はなおちゃんが悪党になっていて詐欺だったりしたら後味悪いよなあとか、最後のあるひとが主人公を人気のないところに誘うシーンでうわあ、逆恨みで刺すんじゃないでしょーねとか…。

この本は、本好きにはとっても身に沁みる、共感のわく本で、そしてすべての働くひとに「情熱をもって仕事をする」ことの喜びを思い出させてくれるお話である。まあ、「こんな甘くねーよ!」というツッコミもあるでしょーが、理想だよね、あと環境はどうあれやっぱり自分の気持ちと真っ直ぐ向き合って直球で頑張る姿勢は清々しいし潔い、忘れたくないハートだと思う。
主人公は根っからの本好きでもあるので、文中に実際にいる作家とか作品名が飛び交うのも愉快。

2014/09/05

逃げる幻

逃げる幻 (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ
東京創元社
売り上げランキング: 2,846

■ヘレン・マクロイ 翻訳:駒月雅子
本書は1945年に書かれた"THE ONE THAT GOT AWAY"の本邦初訳で、ウィリング博士シリーズものである。
例によってミステリーなので、未読の方には白紙で読むことをおすすめしたい。
わたしなんぞ、ミステリーの場合は帯も読了するまで読まないよう気を付けている(カバーごと外すとか、書店カバーをかけてもらったままで読み終える)。

あたりさわりのないレベルでご紹介すると、これはいっぷう変わったミステリーで、第二次世界大戦終了直後の1945年という時代を色濃く反映しており、なかなかじっくり読ませる説得力があった。
また、舞台がスコットランドの田舎ということで、ムアが広がる独特の風景、要塞の描写なども味わい深かった。
語り手が元精神科医の予備役大尉なので、出てくる人物に対する観察方法も細かくてミステリ向き。
この話でもウィリングは途中からの登場である。

以下は内容に踏み込むので白紙で読みたいかたはスルー推奨。
本書のテーマなどに触れています


帯には「人間消失と密室殺人」と書いてあるけれど、読み終えてからこれを見て「まあたしかにそれもあったけど、なんかそれを本書の特徴として上げるのには違和感があるな」と感じた。というのは、本書の力点は明らかにそういういわゆるミステリーらしい謎にあるのではないからである。
いったいこれはどういう展開をみせるミステリーだろうかといろんな可能性をなんとなく考えつつ読み進んでいったわけだが、田舎に越してきたある一家の息子(少年)が3度目の家出をした、でも何故家出をしないといけないのか、周囲のおとなには理解し難いという「謎」が提示されて、でもまさかこれがミステリーとしての謎ではないよなあ、家庭問題だよなあ、思春期で難しい時期だからそりゃーいろいろあるだろうさ、とか思っていたらなんとこれが本書の根幹であり、テーマでもある重要な「謎」だったのだから驚いた。殺人があるのだが、その犯人が誰かというのは全体の流れの中から揺るぎない結論として出てくる形。
そういう意味でミステリー的な突飛な展開はほとんどないし、驚愕の事実、というのもないんだけれど、でも本書が優れたミステリーだというのは間違いない。それは、歴史と、それぞれの人物の内面についてしっかり描いた説得力のある展開が支えているからで、読了後もあれこれ考えてしまう余韻がある。
これだけ他がしっかりしてるんだから最後の終わり方がちょっとだけ残念で、とってつけた感があるような気もするが、まあ本書の本筋とは違うんだから仕方ないか(そっちをメインに書くと恋愛小説かコージーみたいになってしまうだろうし)。
ウィリング博士ものを数作読んだけど、シリーズものの名探偵役としてはどうしてもキャラがいささか薄いと思ってしまうのは突飛な設定ではなくごくごく常識的な紳士だからだろうなあ。