2014/03/30

青空の卵

青空の卵 (創元推理文庫)
青空の卵 (創元推理文庫)
posted with amazlet at 14.03.28
坂木 司
東京創元社
売り上げランキング: 30,111

■坂木司
いまごろ読む。というか、ようやーく読んだというか。
ご存知、坂木司2002年のデビュー作である。
当時「ひきこもり探偵」と話題になってたのでその存在は当時から知っていたのだがなんだか気が乗らず、目の端にひっかけつつもここまで来てしまった。そしてノンシリーズの『和菓子のアン』をこないだ先に読んじゃった。

3部作の第1作。
主人公が著者名と同じというか、著者がペンネームをデビュー作の語り手から取ったということらしい。
いわゆる「日常の謎」ジャンルの作品で、人が死んだり殺されたりは無い。

坂木司はいまも覆面作家で、生年(1969年)は明らかにしているけど性別は明らかにしていないということでふーん、どっちかなあとか思いながら読んだのだが、まあ、読んだら「これは女性だろうなあ」と思った。本書刊行時は33歳くらいか。
本書を読んでいちばんびっくりしたのは「ひきこもり」と聞いていたのにその青年鳥井真一というのがちゃんと職業に就いていたこと。コンピュータープログラマーなのでそのために外出とかはしないんだけど。でも友人である語り手「僕」こと坂木司が強引に誘えば近所のスーパーに買い物には行く。話が進んで必要が生じると電車とかにも乗っちゃう。
わたしのイメージしていた「ひきこもり」とはずいぶん違って、十分社会性があるなあ。

まあそれはさておき。
読んでる途中くらいから、「これはファンタジーだなあ」とも感じたのだった。それは読了しても変わらなかった。だって社会人の男性同士の友情(?)でこれはナイでしょー。依存しすぎというかナヨナヨくっつきすぎというか。いやまあ別にゲイとかそういう設定ではないんだけど。だいたい坂木が外資系の保険会社を就職先に選んだ理由からしてそういうのありなのかなあ?って感じで…。

いやでも、お話としては嫌いじゃないよ!むしろほのぼのファンタジーだもんフィクションだもんって割り切って読んだら楽しくってトゲが無いから安心だったし。

いろんな日常の謎っていうか、そういうのはあるんだけど、ミステリーと云うよりは普通小説の、人情ものって云ったほうが雰囲気が近い。しかしその人情ものというのも、リアルとか深みとかはそこそこしかないので、どっちかっていうと勧善懲悪エンタメ時代劇を現代でやった、くらいの。「それおかしくない?」「そんな簡単なもんじゃない」「単純すぎる」とか思わないこともないんだけど、いや、これはそういうのを書くことを目的としてる小説じゃないんだから。
社会派じゃなくて、ライトなエンタメ、ミステリ風味深読みすればちょっとBL風?みたいな。漫画化してるらしいけどその表紙なんかモロだったので笑ってしまった。

引きこもりの鳥井に弱点が多いのはともかく、主人公の坂木司のメンタルがちょっとどうかなと思わないでもないけど。っていうか世の中の平均はこんな感じなのかなとか思って読んだけど、アマゾンレビューを見たら「偽善」と感じるひともいらっしゃるみたいで、いやまあそこまではいかないにしても、高校生みたいなキレイなこころのまま社会人になってるって感じかなあとか。

っていうかね。もうね。
鳥井が可愛すぎる!!
んだよなあこの小説。リアルに想像しちゃだめ、ただもう文中の彼が、彼の言動、表情がもだえるほどすんごい可愛いの。殿様俺様王様みたいな無礼な口のきき方、そのぶっきらぼうさに相反して照れてる感じとか…! ツンデレ?とは違うかもだけど。
最初はそれほどでもなかったんだけど、だんだん中盤あたりから「あれ?もしかして大の男が可愛いなんてそんな馬鹿な」とか思ってたんだけどいやもうある時点で確信したね、著者絶対鳥居を可愛く書いてる!確信犯だ!って。

短篇集。「夏の終わりの三重奏」「秋の足音」「冬の贈りもの」「春の子供」「初夏のひよこ」の5篇。
解説は北上次郎で、三部作通して読んでからの解説になっている。

↓ は漫画版の表紙。これはちょっとゴカイを生むだらう…Σ( ̄⊥ ̄lll)


2014/03/28

後藤さんのこと

後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)
円城塔
早川書房
売り上げランキング: 78,974

■円城塔
円城さんの著作を購入して読むのは初めてだが、その文章を読むのは初めてではないというわたしには珍しいパターン。
というのも、2012年「道化師の蝶」で円城さんが第146回芥川賞を受賞されて後、書店で『Self-Reference ENGINE』とかの文庫をぱらぱらと確かめたらなんだかよくわからなそうな「ザ・前衛文学」っていう感じでだいたいタイトル英語ってなんでやねんという感じでオソレおののいてしまったんであるが、それから後、某新聞の夕刊でエッセイを週一連載されているのをたまたま知り、読んでみたらすんごい普通の親しみやすい日常的な内容だったので「おおこのひとはフィクションは難しいけどなんだかそれ以外は気の良さそうな穏やかな兄さんだなあ」と一気に親近感がわいたんである。年もそんなに変わらないし。うっかりすると読み逃すのだが(っていうか連載曜日も覚えてない程度なのだが)見つけたときは読んでいる。あまり熱心でないのは単に書籍化したらちゃんとまとめて読むつもりがあるからだ。

そんなわけで円城さんのエッセイが出る前に本職(?)のSFのほうの作品もちょっとは読んでおきたい、と思ってあれこれ悩んだ結果、本書を最初に読んでみることにしたのは中を開けたら本文に4色刷りとかが使われていたり、作品中に数学の展開図みたいなのが出てきたり、文章の実験みたいなパズルみたいなのがあったりしてしかも巻末には紫の別紙でなにやら書いたものが挟み込まれていて、とにかく文庫なのに変わっている!とびっくりして楽しくなったからだ(単行本で遊ぶのと、形式決まってる文庫で遊ぶのとでは珍しさが違う気がする)。

読んでわかったが、巻末の紫の別紙はそれ自体が「INDEX」という短篇作品であり、解説で明らかにされていたが単行本ではこの部分は大きめの帯として刷られていたんだそうだ。おおお面白すぎる!

短篇集。
SFというか、安部公房とかむかしの筒井康隆の実験小説的な、「ネオヌル」とかそういう系統の、へんちくりんな作品ばかり。なんとなくわかるもの、よくわからないもの、最初はわかると思ったのにどんどんわからなくなるもの、いろんなのがあったが総合的に云うと「文章は簡潔でわかりやすいのに内容が何言ってんだかというかアタマがおかしいひとが書いたものとのと云いたくなるような支離滅裂さ、だけど感覚的にたぶんわかって著者はズラしていってんだろうなあ」という、そんで好きか嫌いかでいうとけっこう好き~しかもわかんないのに面白いっていうのは全体とか解釈とかはわからなくても部分的な描写とか雰囲気とか展開とか言葉遊びとかユーモアがいいなって思えるからだろうな。

後藤さんのこと ★★★
三色刷りをこういうふうに使うとはね!素晴らしい!「後藤さん」は三分割出来ないけど「後藤後藤さん」にして三分割するとか超おもしろい。

さかしま 
ある種の形式的文章をパロってるんだろうけど、これはなにをひねってるのかなとか考えて読んでいくと結局そんな単純な作りにはなっていないからハズされて、ああそうかーって面白がる感じ。子どもの頃流行った「ゲームブック」というのを思い出した。あと薬の注意書きとか。このタイトルにしてるところがニクいね。

考速 ★★★
なぜか、俳句とか短歌とかそういうのの企画本を読んでいるときと似た感覚になった。こういう「言葉」を題材にした作品って好き。

The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire ★★★
こういうのはわかりやすい。パロディっていうのかな。面白い。銀河帝国をいろんな違うものに置き換えながら読んだりね。ひとつのジャンルというか事象のパロじゃないところがポイントなんだろうね。

ガベージコレクション
よくわからんけどこれはそんなに萌えなかった。

墓標天空 ★
これはいっけん少年と少女が出てきて「ボーイミーツガール」みたくわかりやすいかなと思わせるけどそう素直にはいかなくて、しかもちょっと長めなのでダレる。「雌豚」とかあちこちにくすぐりがある、それはこの作品だけに云えることじゃなくて全般的に。円城さんの本質は「おもろいひと」なんだろうなあと思う。

INDEX ★★★
実際に本体を切り離すのは嫌だったのでコピーして製本してみた。豆本みたいになった。切り離す前に裏表ページを探しながら読んでいったらちょっと混乱したけど途中でノンブルと本文文中のページ表記と本文冒頭のページ表記の関係に気づいた、うわあ面白いこと考えるなあ! 楽しい。製本してからもっかい読んだ。やっぱり製本したほうがぐっと読みやすいね。次はどこ?って探さなくていいから。「魔法使い・少年・本」の組み合わせってファンタジーの王道だから萌えるわ~たぶん多くのひとがそうだろう。そこがメインじゃなくてこの作品はその表現方法がメインっぽい感じなのに、でも中身も手を抜かずやっぱりちゃんと遊んでる。巧いよなあ。

解説は巽孝之というひと。
この本の解説というよりは、円城塔の作家論的な解説で、作品の解説が欲しいと思ったのに無かったのでちょっとがっかりしたけどこれはこれで興味深かった。

カバーイラストは市川春子。
カバーデザインは名久井直子。

おーこれ名久井さんだったのかあ。
市川春子ってどっかで漫画の表紙で見覚えがあるなあとググったらやっぱりそうだった。読んだことはないんだけど買おうかどうか迷ったことがあった。



ちなみに↓単行本はこんな。

後藤さんのこと (想像力の文学)
円城 塔
早川書房
売り上げランキング: 322,919


2014/03/27

創作の極意と掟

創作の極意と掟
創作の極意と掟
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筒井 康隆
講談社
売り上げランキング: 646

■筒井康隆
わたしは作家志望者ではないが、筒井康隆の文学論なら読まずにはいられない。
氏の作品は十代後半から二十代はじめくらいまで愛読していて、その後も常にチェックはしている(読まないことが多いんだけど。近作で既読では『ダンシング・ヴァニティ』が良かった)ので、いちおうファンのはしくれではあるのだが、それだけではない。
筒井康隆の作品が面白いのはもちろんなのだが、氏が他の作家の作品について解説などで論評しているのを読んで、その群を抜いた面白さに脱帽した。ふつうの書評と明らかに違い、作品の構造や目的、手段などについて作家ならではの視点で実に細かくわかりやすく解いてくれてあり、感心したのだ。

帯には、当代の売れっ子作家、町田康と伊坂幸太郎両氏のおべっかかと思うくらいの推薦コメントが刷られている。そして、【これは作家としての遺言である――。『文学部唯野教授』実践篇】の文字も。

実際通読してみての感想だが、『文学部唯野教授』よりもずっとわかりやすく易しく書いてくれてあったような気がする。たまに、他では見ないような難読熟語が出てきて語彙の豊かさに唸ることはあっても、内容そのものは平易な文章で、丁寧・親切である。

前衛ばりばりーの文章を常に最前線でかっ飛ばしておられる筒井康隆の文学論だけど、おもいのほか、穏やかでごく常識的なスタンスで、まあ小説ではないから比較するのも変なのだけど、『唯野教授』みたいなケレン味みたいなのも全然ない。奇をてらうとかそういうのもなくて、あれっと思うくらい物静かな調子に終始した。あの独特の癖のある文体とかじゃないしね。

【目次】(「BOOK」データベースより)
凄味/色気/揺蕩/破綻/濫觴/表題/迫力/展開/会話/語尾/省略/遅延/実験/意識/異化/薬物/逸脱/品格/電話/羅列/形容/細部/蘊蓄/連作/文体/人物/視点/妄想/諧謔/反復/幸福

目次だけで難しい熟語がいっぱいあるなあ。
巻末に、著者名や著作名の索引あり。
自作についても絡めて説明されているけど、他者の作品を紹介している箇所もたくさんあり、おお筒井先生小川洋子読んでらっしゃるのかとか、そういう楽しみもあるかも。っていうかすっごいたくさん読まれてるんで驚くほうが失礼なんだろうけど。ハルヒについても出てくるぞ。守備範囲広すぎ。

装幀・装画は山藤章二。ゴールデンコンビだ。
カバーを外した本体の紙への凝り方など、ニヤリとさせられる。

追悼 安西水丸

青豆とうふ (新潮文庫)
安西 水丸 和田 誠
新潮社 (2011-06-26)
売り上げランキング: 26,998


先日、書店でいろいろまとめ買いした中に上記『青豆とうふ』もあったんである。いまそれを順番に読んでいってる最中で、これも近いうちに読む予定なんである。そんなときに朝、新聞を読んでいたら安西さんの訃報記事を見つけてしまった。えっ、と数秒固まってしまった。71歳かあ~。。。ううううう。

安西水丸というと、やっぱり村上春樹の表紙のひと、っていうイメージが強いかなあ。最近は平松さんののり弁の表紙があったよなあ~。。。

謹んでご冥福をお祈りいたします。。。


村上朝日堂 (新潮文庫)
村上 春樹 安西 水丸
新潮社
売り上げランキング: 2,737

がたん ごとん がたん ごとん (福音館 あかちゃんの絵本)
安西 水丸
福音館書店
売り上げランキング: 345


2014/03/23

アズミ・ハルコは行方不明

アズミ・ハルコは行方不明
山内 マリコ
幻冬舎
売り上げランキング: 165,512

■山内マリコ
デビュー作を含む『ここは退屈迎えに来て』がなかなか新鮮で斬新で良かったので、第2作にして長篇である本書を楽しみに読みだしたが、なんだか引きこもりというか中二病というかネットで云うところのDQNみたいなのばっかり出てきて、自意識ばっかり高くてなんにも具体的に一生懸命やってない、なんにも出来てないのに自尊心と他人への依存心ばかりが高い二十代ばっかり出てきて、読んでいて鬱々として非常にしんどかった。
暗いというか、よくわからない、共感できないというよりもっと拒否反応が強く出てしまう。

途中から変化するかな?最後はどうにかなるかととりあえず最後まで努力して読んだが、うーん。別にどうにもならなかった。アマゾンのレビューでは誉めているひとが多かったから、わかるひとにはわかるらしい。
文章などは悪くないと思うんだけど、扱われているテーマとか、出てくるひとの考え方、行動原理、心理などが……。「自分自身がどうしていいかわからない、迷っている、モラトリアム」というのは自分だって経験しているからわかるはずなんだけど、なんか生理的に受け付けない言動をするんだよね、この小説に出てくるひとたちって。
二十代前半で読んだら理解できたとかそういう問題じゃなくて、根本的な倫理観念・道徳観・人生観が「そういうのはわたしはキライだ」と思ってしまうので拒否反応起こっちゃう。小説として、他人事として楽しむタイプの話でもないし。今作は合わなかったということだ。残念。
でも山内さんの第一作は凄かったので、次が出たらまたチェックしようと思う。

装幀が思い切って派手な感じで、カバーをはぐったらショッキングピンクに背だけ黒くて、見返しが薄紫、扉は金色と徹底して悪趣味スレスレの派手さで、凝っていた。何故かスピンは鮮やかなブルーだし。

ブックデザイン:原条令子デザイン室
装画:Pierre Mornet/Marlena Agency

2014/03/21

残夢三昧 内田百閒集成16

内田百けん集成16 (ちくま文庫)
内田 百けん
筑摩書房
売り上げランキング: 497,439

■内田百閒
ちくまのこの集成はテーマごとに纏めているようだが、この巻は前半が「火事」それから「雷」「台風」「一歩間違えたら死んでいた出来事」「暗所、高所などの恐怖症」についての文章、そして「夢」関係で、なんだか全体的に不穏というかぞわぞわ底冷えするような、妙な不気味さに満ちている。
“フキンシンちゃん@長嶋有”よりもよっぽど不謹慎というか、怖がりだけど好奇心旺盛というか、たとえば火事見物が好きで、どこそこで火事だと聞くとそれっとばかり電車に乗ってまで見に行く、あるいは焼け跡まで足を運ぶ。己にはない習性なので、なんなのかなあと思う。たき火などで炎を見るのは好きなのだが。台風のときに妙にテンションが高くなるあの感じか。火事によって災難を受ける人の内情などいちいち忖度しているふうでは無く、何故忖度せずにいられるのかがよくわからないが、まあ、時代の違いもあるのだろうか。百閒先生の若いころの火事というのはまだ消防車が無く、半鐘をたたいて町中に火事を報せる、そういう時代だった。後年消防が出来て半鐘がなくなったときにちょっと残念そうである。
子どもというのは危なっかしく、一歩間違えれば、という経験は誰しもひとつやふたつは持っていそうな気もするが、百閒先生も運よく助かったというのが子ども時代だけでなく空襲のなかでもあったらしく、おおよくぞ生き延びてくださったという思いである。後世の読者にとっても幸いであった。
他人の夢の話はつまらないというのが定説であるが、百閒先生のこれはほとんど小説みたいで、どこまで夢のままか知らないが、だいたい百閒先生の小説というのがふつうに悪夢のようだったりするので、区別がつかない。これは夢ではなく想像・妄想かというのもある。若いうちに亡くなった知人たちを机のまわりに4人並べて思い出にふける話などはとても素晴らしく、胸を打つ。

解説は翻訳家の岸本佐知子!なるほど、絶妙のセレクトという感じである。このひとのエッセイも現実と非現実と創作の境界線が曖昧で面白いもんなあ。
もうひとり、昔の百閒先生との思い出の一文は、先生の家に書生のようにして10年も一緒に住んでいたという内山保さんという方による。思いついたら絶対実行しないと気が済まない、お琴も気になる個所があったら気が済むまで延々やるという実に内田百閒らしいエピソードで、やはり「百閒は遠くにありておもふもの」という気がする。

巻末の初出一覧を写す。テーマ別に、古い順から並んでいるので、掲載年が若返るところがテーマの区切りである。

炎煙鈔 「東炎」昭和9.5月号
炎煙鈔 続 「東炎」昭和9.6月号
予行 「大阪朝日新聞」昭和9.9.7,8,11
沖の稲妻 「改造」別冊時局版21 昭和16.8
火の用心 「アサヒグラフ」昭和17.3.11
近火 「日本海事新聞」昭和18.4
蒸気喞筒 「日本海事新聞」昭和18.5
町の野火 「国鉄情報」昭和22.9.30
煙塵 「西日本新聞」昭和31.4.16,17
巨松の炎 「小説新潮」昭和39.9月号
雷 「小説新潮」昭和39.10月号
大風一過 「小説新潮」昭和41.12月号
その一夜 「小説新潮」昭和43.12月号
沙美の苔岩 「小説新潮」昭和36.10月号
雞声 (掲載誌不詳)
軒提燈 「河北新報」昭和10.1.1
忘れ貝 (掲載誌不詳)
狸芝居 「時事新報」昭和10.1.5
暗闇 (掲載誌不詳)
夜道 「国鉄情報」昭和22.4.30
暗所恐怖 「小説新潮」昭和42.2月号
土手 「小説新潮」昭和41.11月号
夢路 「国鉄情報」昭和23.12.10
片寝 「べんがら」昭和26.9月号
夢裏 (掲載誌不詳)
心明堂 「小説新潮」昭和40.9月号
天王寺の妖霊星 「小説新潮」昭和43.5月号
残夢三昧 「小説新潮」昭和44.1月号
残夢三昧残録 「小説新潮」昭和44.3月号
新残夢三昧 「小説新潮」昭和44.5月号
舞台の幽霊 「小説新潮」昭和44.6月号
四霊会 「小説新潮」昭和45.7月号

2014/03/16

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て
ここは退屈迎えに来て
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山内 マリコ
幻冬舎
売り上げランキング: 15,267

■山内マリコ
しばらく前(2013年6月)に休日の早朝テレビをつけたら「ボクらの時代」をやっていて、又吉(直樹)さんと川上(未映子)さんと、そしてもうひとり知らない三十歳くらいの長い髪をひとつに束ねた女のひとが話していたのでふーんと思って観た。それが山内マリコだった。
番組は川上さんが圧倒的にボスというか姐御的な立ち位置になっているというか、又吉さんはああいうひとだし、もうひとりはどうやら新人作家なので先輩に遠慮しているふうだったので、川上さんが7割喋っている感じで残り2割を又吉さん、山内さんは質問を振られてはじめてぽつぽつと自分の考えを話す…という感じだった。
そしてこの番組の内容は実はあんまりよく覚えていないのだが、とりあえずわたしのそのときの山内さんから受けた印象は「頭が良くて自分の考えがしっかりある、男性が馬鹿に出来ないタイプの和風美人」だった。
書きながら番組の内容を少し思い出してきたが、男女間の恋愛がらみの話をしていて、又吉さんの発言を女性二人が姐御目線で一刀両断していたっけなあ。明らかに女性陣の方がリアリスティックで、男の甘い夢を鼻でわらっている感じで、いろいろ経験がおありのようだった。

本書はタイトルがいわゆる少女マンガの基本理念みたいな言葉で凄く巧い。
短篇集だが、本のタイトルと同じ作品は無い。
8つの話があるのだが、そのすべてに「椎名一樹」という男性がいろんな年代、その話の主人公から見た立場で描かれるので、連作短篇集というふうに読めるのかも知れない。いずれの話でもとりあえず十代の椎名君はめっちゃモテたということは共通していて、同性にも異性にも人気があったということはわかる。「椎名君と喋った」というだけで舞い上がれるような、ああ、そういう男の子、いたなあ~(すっごく遠い目になってしまうが)みたいな。

本書の作品が書かれた順序とか年月日は不明なのだが、一番最初に書かれたのは最終話で、2008年これによって「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞したという。(因みに同賞第1回でデビューしたのが豊島ミホ)。なかなかショッキングなタイトルで(と云っている時点で古いのかもしれんが)、しかし中身は大したことはあるまいと高をくくっていたら中身は結構ぶっとんでいたというか、よくこんなの若い女性が書いたなあ、相当腹くくってるんだなあと思った。

恋愛体質だとかそうじゃないとかいろんな人間がいて、わたしは相当奥手なので、こういうひとの話はなんだかもうカッコよすぎるというか、スタンスが違いすぎるステージも違うとしか思えない、もし同じクラスにいたとしても友達にはならないだろう、ただもう口を開けてどう相槌をうてば軽蔑されなくて済むかな?と考えなければならない感じなのだが、それじゃあそういうひとの書いた小説を読んでも全然共感しないかというとそうじゃないところが不思議なのだった。いや全部まるっと共感とかではないのだけれど。違いを探せば違いだらけの「設定」なのだけど。
でもところどころでびっくりするくらい、それわかる! という文章があるのだった。
それは山内さんが、ほんとうのことを一生懸命自分の身を削って、自分のこころをさらけだして、書いているからに他ならない、と思う。そしてそれが出来る作家というのが現代にどれくらいいるかというと、実はそんなに、ここまで書いてるひとはいないんじゃないか、大なり小なり、もう少し手加減があるもんなんじゃないかと思う。
誤解があるといけないので念のために断っておくが、これは本書の8篇が「実話」だと云っているのではない。8篇の設定、ストーリーはあくまでも創作、フィクションで架空の話である。しかし、ここで書かれている登場人物たちの「こころ」は本当だなあと。嘘やごまかしをしていないなあと。
だから、同じ設定の体験をしたことがなくても、その気持ちは知ってる、とか、そういう状況でそうなったら当然そう考えるよなあ、とかビシバシくるのである。

.私たちがすごかった栄光の話
.やがて哀しき女の子
.地方都市のタラ・リビンスキー
.君がどこにも行けないのは車持ってないから
.アメリカ人とリセエンヌ
.東京、二十歳
.ローファー娘は体なんか売らない
.十六歳はセックスの齢

目次を書き写しながらなんとなく、これらってなにかの有名な作品とかのパロディになってるとかそういうことはあるのかな?すぐわかるのは「2」の村上春樹だけなんだけど。1も4も8もいかにも「原典」がありそうな。

本書は装丁も素晴らしく、使われている写真もタイトルと合っていて凄くおしゃれだ。ちなみにカバーをはずすと淡い色のボーダーになっていて、これもめっちゃ可愛い。
写真:Morton Bartlett "girl at the beach"1994
装幀:佐々木暁

2014/03/14

たらちおの記  内田百閒集成13

たらちおの記―内田百けん集成〈13〉 (ちくま文庫)
内田 百けん
筑摩書房
売り上げランキング: 313,596

■内田百閒
【早くに亡くなった父の姿を描く表題作をはじめ、幼年時代の思い出、古里岡山のことなど懐しき日々を味わい深くつづった随筆集。】とあるように、本書には百閒の父親、母親、祖父母、親戚、育った町のことや教わった先生の話など、 まさにそのルーツを知るうえで実に興味深いテーマの作品ばかりが集められている。同じ話・エピソードが何回か繰り返して出てくるというのがしばしばあるのはご愛嬌。もちろんコピペでは有り得ない、細かい描写や表現などが少しずつ違うので、どっちが本当なのかなあ、両方創作が少々入ってるのかなあ、昔の話を記憶を頼りに書かれているわけだからなあ、などと思いつつ。

昔の怖い先生は本当におっかなかったんだろうなあ、とか、おばあさんは随分迷信家だったんだなあ、とか、百閒先生の万事、自分の思うようになっていないと気が済まない性格は、奥さんはさぞ大変だったろうなあ、とか。

百閒先生は作家としてその作品を読んだり、面白がるにはとっても素敵なひとだけど、家族だったらものすごーーーく厄介かもしれない。畳の目に沿って、全部きちんと日常道具があるべき場所にないとそれだけで不機嫌になるのだとか。これは本書と同時進行で読んだ内田百閒のムックで娘さんが語っておられたことでもあるので、事実なんだと思う。

百閒先生のお家が造り酒屋で跡取り息子、しかも一人っ子ということで甘やかされまくって育ったというのはこれまでも知っていたが、お母様のルーツ、お父様の生前の様子など、明治の日常が不思議な遠い世界のことのように思えた。

日記、随筆だからリアルな本当のことだけが書いてあると思って読んでいると、たまにとんでもないことがしゃらっとナチュラルに書いてあったりする。油断ができない。というか、随筆と小説の境目があいまいな百閒先生のことだから、嘘ではないけれど、フィクション入ってるのがふつうと思って読んだほうがいいのかも知れない。

牧師が帰ったと云うので、早速二階に駆け上がって見ると、開けひろげた座敷に初夏の薫風が吹き込んで、べんがら色の表紙をした、「馬太伝」と云う薄っぺらな本が、まくれてひらひらしながら、畳の上を走っていた。


収録作品とその初出を書き写してみる。

虎列刺 「東京朝日新聞」昭和8.9.11,12
風の神 「週刊朝日」昭和8.8.1号
琴書雅遊録 「週刊朝日」昭和9.4.29号
烏城追思 「烏城」(岡山中学校校友会誌)昭和9.10末執筆
稲荷 「都新聞」昭和9.12.20,21
水心 「都新聞」昭和10.8.17
山屋敷 「名古屋新聞」昭和11.2.2
たらちおの記 「中央公論」昭和12.1月号
竹島 「東炎」昭和12.6月
大般若 「大法輪」昭和11.11月号
虎の毛 掲載誌不詳 
六高校以前 「帝国大学新聞」昭和13.10.14
片腕 「都新聞」昭和14.1.28
五百羅漢 「新風土」昭和14.4月号
高瀬舟 「日本海事新聞」昭和18.3月号
古里を思う 「月刊をかやま」昭和21.5~11月号
三谷の金剛様 「小説新潮」昭和34.2月号
山屋敷の消滅 「小説新潮」昭和32.11月号
夜の杉 「小説新潮」昭和35.11月号
裏川 「小説新潮」昭和36.6月号
鶴の舞 「小説新潮」昭和38.7月号
狐が戸を敲く 「小説新潮」昭和37.2月号
文選女工 「小説新潮」昭和37.7月号
遍照金剛 「小説新潮」昭和40.4月号
麗らかや 「小説新潮」昭和42.4月号
風かおる 「小説新潮」昭和42.5月号
目出度目出度の 「小説新潮」昭和44.7月号
枝も栄えて 「小説新潮」昭和44.8月号
葉が落ちる 「小説新潮」昭和44.9月号
二本松 「小説新潮」昭和44.11月号

岡山出身の作家、小川洋子の解説が面白い。百閒の出身地の隣町だったとは!

江國滋「ふるさと、まぼろし」なる一文も収録されていて、江國さんは内田百閒文学散歩をひとりでやられてディープなファンだったのだなあと初めて知った。

2014/03/09

文鳥・夢十夜 【再読】

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
夏目 漱石
新潮社
売り上げランキング: 13,417

■夏目漱石
文鳥
鈴木三重吉にすすめられて文鳥を飼う話。小鳥の造作や動きについて観察したことが丁寧に書いてある。基本的にこの文鳥の世話をする役目はこの小説の主観たる「自分」らしいのだが、どうも積極性に欠けるようで、そもそも文鳥だって飼いたくて飼ったわけじゃない、押し付けられた珍しい美しいもの、というスタンスのような気がする。文鳥と昔の女とを重ね合わせたりしていて、そのうち文鳥が世話を怠ったせいで死んでしまって、家人のせいにしていたりして、世話が出来ないのであれば生き物は飼ってはいけないという話ではないと思うんだがそれにしてもなんだかなあという感想。

夢十夜
高校の教科書に第一夜、第三夜、第六夜が載っていたことは覚えている。一読してそのSFみたいな奇想天外な面白さ、ユニークさ、斬新さに仰天した。漱石ってこんなのも書くひとだったんだと思った。そのあと文庫で他も読んだ。「昔の文豪が書いた純文学」というイメージと違い過ぎて、驚愕した。
第一夜は絵が綺麗、第二夜はこんな悪夢ありそう、第三夜は怪談だよね(吉野朔実にこれをイメージさせる漫画がある、『いたいけな瞳』収録)、第四夜はハーメルンっぽいというか民話とか昔話の不思議系、第五夜は西洋の星座の神話っぽく、第六話は仁王を彫る運慶の図が鮮やかに眼前に浮かんで面白い、第七夜は何故かドタバタコメディ洋画のワンシーンぽく思え、第八夜はよくわからないが不気味であり、第九夜は悲しく、第十夜はまさかの庄太郎物第二弾で怖い話である。

永日小品
創作なのか実際あったことを書いてあるのかわからないが、単純にそういうふうに読めるので、漱石の日記風随筆と思って面白く興味深く読んでいると、どうも現実のこととは思えない小説のようなものもある。子どもの頃の思い出のような話、人から聞いたのかと思う話、目にしたことをそのまま活き活きと書きつけたかのような話、いろいろある。英国の話と日本の話がアトランダムに混ざっている。以下は小見出し。試しに英国物は( )で印を付けてみる。
元日、蛇、泥棒、柿、火鉢、下宿(英国①)、過去の匂い(英国②)、猫の墓、暖かい夢(英国③)、印象(英国④)、人間、山鳥、モナリサ、火事、霧(英国⑤)、懸物、紀元節、儲口、行列、昔、声、金、心、変化、クレイグ先生(英国⑥)

英国物はすべて昔のことを思い出して書いている随筆系だと思うが、その他を印象で分けてみるとこんな感じ? 
現在の日記風なもの:元日、泥棒、火鉢、猫の墓、行列
対象人物をテーマに書かれた写実風の話:柿、人間、山鳥、モナリサ、懸物、儲口、声、金
過去の思い出系:火事、紀元節、変化
創作ぽいもの:蛇、心

思い出す事など
いわゆる「修善寺の大患」の前後の出来事、心情などを非時系列で書いてある。生死についていろんな考えたことを書いてあることはもちろん、看護婦や医師が世話をしてくれるのは職業上の義務からだけど、そこに好意もあるのだと解釈したほうが心があたたかいというふうな考察があって、共感した。また、同時期に東京で起こった大水の話も書いてあって、知り合いなども被災してという話は、最近の被災なども思い合わせ、いろいろ感ずるところがあった。俳句や漢詩もたくさん出てくる。自分は一瞬死にかけてしかしそこから生き延びたのに、院長や知人の訃報を聞いてその差について考えたりする。特にドストエフスキー(本文ではドストイェフスキー)の生死の間をめぐる運命とそれに対する先生の考察はたいへんに心を衝かれた。
「生き返ったわが嬉しさが日に日にわれを遠ざかって行く。あの嬉しさが始終わが傍にあるならば、――ドストイェフスキーは自己の幸福に対して、生涯感謝する事を忘れぬ人であった。」

ケーベル先生
英国から日本に来て十八年になる教授の家に友人と晩餐に行ったときの話、教授の人柄が淡々としている。

変な音
入院生活で、夜中に隣の病室から大根おろしを使うような不思議な音がする…。快復する患者、死んでしまった患者、そのことについて考える話。「思い出す事など」連載の後に書かれたもの。

手紙
これは現代にもどこかで似たような話がありそうな、恋愛というのか、人間性についてとかいろいろ考えさせられるドラマチックな話、読み終えて「はあー」とためいきをついてあれこれ考えちゃった。十代でもわかるだろうけど、もう少しいろいろ経験してから読むとこの短い話のもつ深さへの共感度が増すように思う。

2014/03/02

深夜の初会 内田百閒集成21

深夜の初会―内田百けん集成〈21〉 (ちくま文庫)
内田 百けん
筑摩書房
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■内田百閒
ちくまの集成21は百鬼園先生の対談・鼎談・座談記事をまとめた巻。

あの頃の機関学校★★
(昭和19年)
豊島与志雄 黒須康之介 内田百閒
百閒先生は横須賀の海軍機関学校で教師をしておられたことがあるのでその関係。兵学校とは違いがあるらしい。機関学校というのは特殊ではなく、バランスが取れていて優秀で、素晴らしかったという話。芥川龍之介のエピソード(?)も読めて嬉しい。

豚小屋の法政大学
(談話筆記 昭和27年)
多田基 奥脇要一 内田百閒
法政大学で教鞭をとられていた関係で。騒動以前の話まで。昔は穏やかで良かったなあという内容。(笑い)という表記が頻出し、煩い。

貧乏ばなし
(昭和21年)
中村武羅夫 長谷川仁 
「頬白先生」という映画があったんだね。調べてみたら、古川緑波が百閒先生役だったと。ふーん。
百閒先生といえば借金、貧乏というイメージがついてしまったが貧乏とは清貧とは何ぞやという。画家の貧乏と小説家の貧乏はただの貧乏と違うか。50銭にまつわる思い出など。

ユウモアコンクール
(昭和22年)
徳川夢声 高田保 内田百閒
何か面白いことを喋ってください、というのは困るというのはもう昔っからなんだね。時事が絡んだのもあるけど基本雑談であんまりタメになることは言ってないしユウモアというほどは面白くもない。

対談★★
(昭和22年)
辰野隆 河盛好蔵 内田百閒
クラシック音楽の話とか、漱石先生の思い出とか、桂離宮の話とか。

酒仙放談
(昭和23年)
井伏鱒二 三木鶏郎 内田百閒
「頬白先生」についてまた。ラジオの話、雷の話、貧乏話など。せっかく井伏鱒二なのに文学の話は無い…。

金の借り方作り方★★
(昭和24年) 
獅子文六 森脇将光 内田百閒
お金の話。高利貸しの話。森脇というひとの若いころの話が興味深かった。

逢坂閒談 
(昭和25年) 
三淵忠彦 宮川曼魚 内田百閒
日本各地の珍味の話。メフン、ベラタ、シャコ、シラウオ、鰻の皮鮭の皮、そば等。

薬剤金融椿論 
(昭和25年) 
神鞭常泰 久米正雄 内田百閒
お金を貸す借りるの話。病気の話。

漱石をめぐって★★
(昭和26年) 
安倍能成 小宮豊隆 和辻哲郎 内田百閒
百閒先生は漱石を純粋に尊敬していたが他のお弟子さんは晩年ちょっとねという話。百閒先生は中盤までずうっと黙って聞いてらっしゃる。先輩に囲まれて、かしこまっておられたのかな。質問を投げかけられて、ようやくのご発言。そういえば、『百鬼園随筆』に「太宰に教わって」というような記述があり、太宰治のわけはないし、誰だろうと思っていたらここの225頁に「太宰施門」とフルネームが出てきて解決した。

問答有用 
(昭和27年) 
徳川夢声 内田百閒
お金の話、忘れるために覚える説、小鳥の話、女性に関する「伝説」の真偽。

汽車の旅 
(昭和27年) 
戸塚文子 堀内敬三 内田百閒
汽車、機関車、鉄道サービス。

倫敦塔を撫でる★★
(昭和28年)
宮城道雄 内田百閒
洋行帰りの宮城道雄さん。百閒先生は飛行機がイヤダカラ外国も行かれなかった。

西小磯雨話★★★ 
(昭和31年) 
吉田茂 徳川夢声 内田百閒
なんとこの記事は途中から始まる。最初はかなり警戒していたが、お酒が入ると元総理の吉田茂相手によくもまあ……という目を剥く展開に。乗り物の話、犬猫の話、陛下ラブの話など。

深夜の初会★★★
(昭和31年) 
古今亭志ん生 内田百閒
落語の話とか噺家の話。漱石『三四郎』に出てくる小さんの話とか、お酒の話とか、飛行機の話とか。

虎の髭 
(昭和35年) 
古賀忠道 内田百閒
上野動物園園長との対談なので、そういう話。

漱石先生四方山話★★★
(昭和41年) 
高橋義孝 内田百閒
漱石先生の思い出エピソード。独特の送り仮名の校正の話とか、お酒を召し上がらなかった話とか。百閒先生が漱石先生の全裸を目撃した話など。

解説 阿川佐和子 ★★★
いろは交遊録 徳川夢声 ★★★★★


対談は2人、鼎談は3人、4人以上は座談会。
4人いるはずなのに、百閒先生のご発言がなかなか無いなあというのもあり、やはり先輩に遠慮されているのかなあとか空気を想像する。
吉田茂、志ん生なんていう大有名人もいるけど「ええと、誰?」っていうひとが多くて、収録当時は有名だったのかもしれないけれど、ちょっと簡単な人物紹介略歴くらい載っていてもいいのになあと思ってしまった。内容を読むと、だいたいわかるんだけどね。ああこのひとは大学関係者か、とか、たぶん文学関係の研究者だろうなあとか。
たとえば森脇将光さんという方なんかは、お金を貸すとかそういう話題で出て来られたので「金融業の方?事業家かな。なにしろお金儲けが関係する職業だよなあ、それも成功したひとだよね」などと考えながら読んで、後でインターネットで検索して確認した。まあだいたい合ってるわけだが、例えば「金融王と呼ばれた」とかそういうのは想像ではわからないよね。
宮城道雄さんは琴の大先生だけど百閒先生の作品にたくさん出て来られて、そういうの読んでるととてもエラい方とは思えない親しみやすい感じで書かれているからお馴染みな感じ。井伏鱒二と内田百閒という顔合わせは近代文学ファンには愉快極まるんだけどほんとにざっくばらんな話しかしてなくてね、とか。獅子文六はこういうところに出てくるのかと思った。ちゃんと読んだことが無いのだけど(絶版が多いし)。
阿川さんの対談の現代の名手ならではの感想、解説が面白い。
わたしは徳川夢声というひとを黒柳徹子『トットチャンネル』で高校生くらいのときに知ったクチだが、このひとも昔の本のあっちこっちに登場するので相当人気者だったんだろうなあ。「いろは交遊録」は回想エッセイだが、百閒先生との交流エピソードがものすごく面白い。竜虎相搏つ。変人どうしというかなんというか、すごいなあ。