2013/12/28

小説のように

小説のように (新潮クレスト・ブックス)
アリス マンロー
新潮社
売り上げランキング: 15,992

■アリス・マンロー 翻訳:小竹由美子
表題作を含む10篇収録。
マンローは数年前に2冊読んで「小説は巧いけど、あんまり好きではないなあ。だってこの人絶対性格悪いよなあ」という感想だったがこのたびノーベル文学賞を受賞したというので再評価すべきかと久しぶりに読んでみた。
短編だけど、ひとつひとつが重いというか深いというか、噛み砕いて嚥下し、消化するのにものすごいエネルギーが要る感じ。
昼休みに少しずつ、ゆっくり時間をおいての吸収で。
結論としては、印象は変わらず。

以下はストーリーの内容にふれた上での感想になっています。
ネタバレあり。白紙で読みたいという未読の方はどうぞスルーしてください。


次元
いったいこの女の人の身に何が起こったのかは伏せられていて、読んでいくうちに徐々にわかってくる。セラピーに通わなくてはならないほどの精神的ショックを受けたということは相当な悲劇だろうと予想し身構え進んでいく。男の異常な性格がわかるがそれに唯々諾々と従っているこの女性もふつうとは思えなくて、「事件」の後も夫の面会に通い続ける気持ちが理解できなかった。そして最後の最後であの展開。びっくりしてしばらくページを見つめて考え込まねばならなかった。はあ、そういうもんなの、人間ってそういうふうに変わるときがある? しかし不思議と説得力があるのだ。

小説のように
ふたりとも賢くて、現代的で、同志のような気持でいた夫婦だったのに、夫はいつのまにか心変わりをして全然垢抜けない子持ちのダサい女と暮らすことを選んでしまった。自分のほうが美人で有能でイケてるのに! 主人公のプライドはズタズタ。
というのが前半で、後半はいきなりそれから何年(何十年?)も経った時点の、裕福で社会的地位も教養もある夫との落ち着いた暮らしをしている主人公になっている。現在は満ち足りた生活である彼女はある日パーティでひとりの若い娘の顔が妙に気が障ることに気付く。そして後日その娘の書いた本を見つけて読む。そこにはあの頃の自分が書かれていた……。
前振りの衝撃と、その後の幸せ、それをつなぐ「いまに至る期間」についての説明が一切無いことが、著者の意図なんだろうなあと思う。自分の拠って立つべき自信を奪われ、地にはいつくばった主人公がどういうふうに再生したのか、その苦悩の期間がすぱっと省略されている。だからこそ、幸福である「いま」に「昔」が入り込むその些細なとげが主人公にとって気になって仕方ないのだということがよりわかりやすくなっている気がする。
双方複数の離婚と再婚をしていて、それぞれに前妻前夫がいて、そのみんなが集まって談笑するパーティが出てくる。わからん。そこまであっけらかんとしてるものなのかなあ。カナダだからかなあ。 

ウェンロック・エッジ
ルームメイトのニナは若いけれども既に波乱万丈の人生を送ってきていた。早すぎる妊娠、出産、男の出奔を経ていまは性格の歪んだ金持ち老人に囲われている。女子大生である主人公はある日、その老人から食事に招かれる。屋敷に行くと秘書から全裸になることを命令される。しかし結局老人は彼女に指一本触れるでもなかった……。
なんなんだろうこの話は。変態?でもそれが主眼じゃないのよね。変な話だよなあ。人間の尊厳とかそういうことかなあ。命令されて聞いてしまった時点で実害がなくとも精神的トラウマは残る、自分はそういうことに従ってしまったのだという悔いと共に思い出すっていう……。恐いわねえ。

深い穴
家族でピクニックへ行き、ふざけて深い穴に落ち両足を折って意識を失った長男を父親が助けに降り、母親がひっぱりあげて助けた。めでたしめでたし、という話ではなくて、その少年は穴に落ちる前からちょっと独特の思考をする感じだったのだけど、長じて妙な団体とか思想にかぶれていって家族や社会的な輪から完全にはずれていく。父親は完全に息子を切り捨て、母親は戸惑いつつ会いに行ってやっぱりわけがわからないと絶望する話。
なんだかなあ。説明出来ないんだけど、この息子、大嫌い。

遊離基
Kotobankによれば、遊離基とは【フリーラジカルfree radicalまたは略してラジカルradicalともいう。通常の分子は偶数個の電子をもち,これらが対をつくっているが,遊離基には全体として奇数個の電子が含まれ,対になっていない電子がある。】とのこと。
主人公は老いた女。癌を患っていて、当然自分が先に逝くだろうと思っていたら健康診断もバッチリだった夫があっけなく突然死してしまって、だれも自分の気持ちなどわからないと慰めに寄ってくる周囲をわずらわしく思っている。
この家に家族3人を身勝手な理由で殺害したキチガイ野郎がやってきて……。
強盗相手に主人公が身を守るために昔の夫の女の話とかして毒殺したとか嘘をつくんだけど、例えばクリスティーのミステリだと間違いなくこの主人公は強盗を殺すことになるんだけど、最後のあれはえーと、事故?それとも?


顔半分に大きな痣を持って生まれた少年が主人公。
父親は彼の存在を否定し、母親は彼を溺愛し、学校にもやらず甘やかして育てた。
敷地内の小さな離れには父親の愛人?とその娘がいて、少年と少女は仲の良い遊び友達だった。が、ある日少女が赤いペンキを顔にかぶり少年の模倣だとしたことから二人は決別することになる。少女はふざけてやったと思っていたが何年も経って少年が大人になってからある事実が明かされる……。
この少女の愛というかなんというか、は凄いなあ。でも幼すぎて、どうなんだろう、長じて彼女は自分の頬の傷をどう思っていたんだろう。

女たち
田舎の村に、白血病の夫とその妻と妻の母親が住んでいて、主人公はその家に週何回か手伝いにいく下女みたいな立場。この妻は大卒で大学教授というインテリで、古い因習に固まった村人や主人公の母親は陰口をたたいていた。
この家にやたら陽気で人懐っこいマッサージを専門とする女が出入りするようになる。妻と主人公以外はこの女を受け入れているように見えたのだが……。
女の戦い?だわね。水面下の。めちゃくちゃ微妙な人間関係とか好悪の微妙な変化、食い違いみたいなものを実に巧く掬い出して描いてある。こんなの書くかあという感じ。あるよね、みんなに好かれている明るいひとだけどでも自分はなーんかイヤなの、みたいな。

子供の遊び
2週間の夏季キャンプで出会って、偶然同じ帽子をかぶっていたことや名前が似ていたことから双子のように扱われ、仲よくなったマーリーンとシャーリーン。いろんな打ち明け話をして秘密などを話していくなかで、主人公は自分の家(二世帯住宅みたいな感じで日本のように親子ではなくて他人が住んでいる)にいる障害児学級に通う少女ヴァーナが自分に関心を持ってつきまとい、周囲の大人にとっては些細なことだけれども自分にしたら脅威でいじめられているとしか思えないことをしてくるから理屈抜きで嫌悪感を持っているのだと打ち明ける。そしてそのキャンプもあと数日で終わるというときになって、障害のある子どもたちが彼女らのキャンプに合流し、その中にヴァーナもいた。
大人たちの、ハンデのある人間への対応と、それを「偽善」と断じる主人公の子ども視点、ただ本能的にヴァーナを恐れ、キャンプでも目を合わせないように逃げる心理などが克明に描かれていて、容赦がない。マンローの視点はこれを認めているわけではないし、これを読んで「差別だ」というのは明らかな読み間違いであるが、例えばこれをそのまま日本のテレビで放映することは不可能だろうなあとは思う。
主人公ともうひとりの少女はその夏、ある罪を犯し、そしてそれは表面化することなく彼女らは成長し、大人になった。現在ひとりは病により死の床にあって、懺悔し許されることを願っている。しかしもういっぽうの主人公は……。
よくこんなの書くなあ。


いろんな樹木にすごく関心があって大事に考えているロイ。
家具の布張りや表面の磨き直し、椅子やテーブルの修理もするけれど、それよりも彼にとって重要なのは森を歩き、木を見て回り、薪になるものを切り出していくこと。
森林を持っているひとと個人的に交渉して許可を得て、ひとりで入って行って仕事をするのだ。ちょっと危ないなあと思っていたら案の定というか、商売絡みの心配事に頭を悩ませていたからなのか、ふつうだったら考えられない初歩的なミスをしてロイは森の中でバランスを崩し、結果的に足をかなり痛めてしまう。立ち上がることさえ困難な状態で、這って戻ろうと努力するロイを助けにきたのはなんと妻であった。彼女は昔は陽気で活気があったのだが、最近は鬱のようになっていて、暗く考え込んでいることが多かった、その妻が、というのがおおおという感じ。
木があると寄って行って撫でてしまう木材フェチなので、萌えながら読んだ。ロイみたいに見ただけで何の木かわかるほど詳しくはないので、ロイの樹木への愛はすごいなっと面白く読めた。

あまりに幸せ
これはフィクションだけれども、実在のロシアの女性数学者ソフィア・コワレフスカヤの実際の人生を下敷きにしてあるらしい。
短篇というか中篇だけど、登場人物が多く、おまけに時系列が現在と過去を行ったり来たりしてややこしい。しかもコワレフスカヤさんにはなんの関心も無いんだもの! 「壊れやすい」みたいな名前だわね、とか思いつつざっと読んだけど、整理しようと思ってウィキペディアで彼女の人生の概略を見たらその段階で既にめちゃくちゃややこしかった。1850年1月15日~ 1891年2月10日。
当時のロシア人女性は国内で高等教育を受けることができなかった。しかも夫や父親の許可証なしに家族と別居して外国へ行くこともできなかったのである。そのため、ドイツやフランスの大学へ留学することに憧れていた上流階級の進歩的な女性たちの間では、やむをえず偽装結婚する者が多かった。】とウィキペディアにあるが、こういう時代だったからこそ彼女の人生は波乱万丈にならざるを得なかったと言えるかもしれない。

2013/12/25

know

know (ハヤカワ文庫JA)
know (ハヤカワ文庫JA)
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野崎まど
早川書房
売り上げランキング: 1,961

■野﨑まど
初・野﨑まど。「本の雑誌」2014.1月号で初めて知った作家さん。
京都が舞台だというのと、表紙のイラストの美少女が可愛いので読んでみたくなった(変態)。ぱらりと中身を確かめるとSFらしいので、いったんは保留にしたのだがやはり気になると。
で、読み始めて100頁くらいすんごく退屈だったのだが、我慢して読み続けるとそれなりに面白くなっていった。

2080年代が舞台の近未来SF。
人間の脳に「電子葉」なるCPUみたいなもの?が埋め込まれるのが一般化した社会(30年くらいの移行期あり)。現在の我々がパソコンや情報端末でインターネット検索して得る知識を体内に組み込んだそれによって行うから、未来のその世界では「知っている」という言葉の意味が2013年とは違うという。たとえ知らないワードでも聞いた瞬間に脳内の電子葉で瞬時に調べ、知識として口に出せるのだから、調べる前には知らなかったこともほぼ同時に知っていることになる時代、というわけだ。おー、面白い。けど、そういう時代の学力試験なんかはどうするのかね? と素朴な疑問。まあ、数学の難しいのは検索しただけで理解はできないから教わる→理解するの過程が必要だろうけど例えば歴史とかスペリングとか漢字とか翻訳とかね、どうなるんでしょうね。
以下、ネタバレあり
未読のかたはスルー推奨!
ネタバレ じゃんじゃんばりばり してますよ!
これから読むっていうひとは読まない(* ̄(エ) ̄)/


というわけで、以下は既読を前提に書かせていただく。

思いっきり根本的な最初の設定で横道に逸れたけれどもそういう細かいことのほかに最後まで読んでもよくわからなかったのが、結局あの天才と呼ばれた道終先生は何をどうしたくて少女「知ル」をそういうふうに育て、そんであの時点でいきなり自殺しちゃったのか、ということ。いや、量子葉を埋めたヒトを作って育てる、その気持ちも目的もわかるよ? でもなんで死んじゃえるわけ? 理解とか共感とかが追いつかなかった。実験の為だとして、なんで最後まで見届けなかったのか。書いてあったかもしれないけど。読み飛ばしたのかなあ。生きてると不都合なことがある?じゃあ隠れてたら?駄目なのかなあ。 いや、他にもいろいろ読んでる最中に疑問は浮かんだんだけど、ちゃんと作中で納得できたので。まあ天才の考えることはわからん、ということなのかもだけど。

ふだん読んでいるのと全然違う設定やストーリー展開で面白かった。登場人物の名前が漢字とカタカナの妙な組み合わせで、これは2080年代の流行を示しているのかなと思って読んでいたのだけれど、読後、アマゾンのレビューを見るに未来とかは関係なくてこの著者の特徴のひとつ、なのかな。
現在の人類では想像できないレベル9の人間がどういう思考・言動をするかとか、面白い。なんでこんな平然としてられるのかなと思ったら「全部よける」とか……! なんたること。しかもフォーマルにドレスアップしてるんだぜ! 超絶すぎて、真面目にツッコむなど無粋を誰がが出来ようか。

メディアワークスの作品かと錯覚するけど早川文庫。
主人公が28歳の遊び人の青年で、恋も仕事もスマートにこなす超エリート設定で、美人で有能な部下が実は惚れていて転職先までくっついてくる。なんとも脳内オメデタイことで、という感じ。ほんとラノベっぽい。アサハカだなあ。この設定要る?要らんよね?まあドリームっつーことでスルーするが。駄菓子菓子、14歳の美少女が好奇心から迫ってくるのに刹那的としか判断しようがない感情で手を出しちゃうのはいかんでしょ。(事後、純愛ぽくしたいんだな、という描写が見受けられたが、無駄である。どう読んでも稚拙な独占欲と動物的欲情だけだった)。
あと、アスタリスク(レベル*)の野郎があそこまで品性下劣だとリアリティや説得力に欠けるのでは。敵だけどさあ~バカすぎるんだもん~なんでこの能力と権限与えられてんのかわかんないわ~、みたいな。

身体に直接検索機能を埋め込んで、というのは先例があるけど(菅浩江『永遠の森 博物館惑星』2001年)、それが全人類対象で、どういうふうに社会的に機能しているかとか丁寧に設定があって、全然違うパターンで面白かった。京都の寺のお坊さんに話を聞きに行って全部吸い取るところとか良かったなあ。あのへんは「0能者ミナト」をちょっと連想したり。なんか、高僧もそうだったし、電子葉を埋め込んでないヒトのほうが一周まわってカッコイイんだよね。

読む動機のひとつであった、京都が舞台である意味はあんまり感じられなかったので少し残念だったが(例えばそのまま京大→東大、京都御所→皇居としてなにか差しさわりがあるだろうか)、地理的に親しみやすいし京都の地名がいろいろ出てきて嬉しかった。
ラストへの展開は、えええこれだけ壮大な話で「知りたかったこと」ってそれ!?と拍子抜けせんでもなかったが……エピローグ読んで、かなりギョッとして「ああ、確かにこれはいままで読んだことなかったところに持っていったな」と思って、いろんなこと考えるヒトがいるもんだとびっくりした。

カバーイラストはシライシユウコ。カバーデザインは有馬トモユキ。題字プログラミングは坪谷サトシ。
これ、題字はカバーデザインのひとが一緒にやっちゃうわけにはいかないのかな? カバーデザインって装丁ということでしょ? なんでわけるんだろう。
よくわからん。

2013/12/19

本の雑誌 2014年1月号

本の雑誌367号
本の雑誌367号
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本の雑誌社
売り上げランキング: 2,492

■本の雑誌編集部
いろいろ考慮のすえ、ここ2年は1月号しか買わなくなりました。
住宅事情、雑誌の変化とわたしの読書傾向やスタンスの変化などいろんな事情をふまえてのことです。
1年ぶりに読むと独特の世界だなあと思います。
1997年1月号から持っていたんですがこれもすべての年の1月号だけを残してほかは処分したのが半年ほど前。
最近この、1月号を夜、順番に読み返していっています。
1998年に松村さんと浜田さんが新人さんとして出てくるとか。
このあたりは椎名さんが編集長時代なんだよなあとか。
編集部に金子さんがいる~、吉田伸子さんが97年のベストでは「編集」としてまだいらっしゃる~とか。
「この時に既にこの作家を発見、絶賛しているとはすごい、さすが」
などとうなり、感心することもしばしばあります。
本好き万歳。

2013/12/12

箱庭図書館

箱庭図書館 (集英社文庫)
乙一
集英社 (2013-11-20)
売り上げランキング: 14,687

■乙一
集英社WEB文芸「RENZ ABURO」の人気企画「オツイチ小説再生工場」から生まれた6つの物語。
乙一がそれぞれをリメイクすると同時に6篇を共通する町で起こっている、登場人物がリンクする連作短篇集の形に仕上げている。

原作はwebで読むことが出来る。原作というのでどの程度かと思ったら、印象的な部分を抜き出して原案からかなり構成・テーマなど変わっている物もあれば、リメイク後の面白いところは全部原案にあって感心しきり、というようなものもある。
原作が面白かったのは「青春絶縁体」。野村美月の「文学少女」シリーズとかぶる?と最初の2頁くらいは思ったけど、すぐにそんなことは気にならなくなるくらい面白かった。原作はちょっと漫画チックでそのへんの動きの描写が「ああこういうことやりたいんだろうなあ」とはわかるけど惜しい、アイデアに言葉がついていってない、という点はあったけど乙一版よりもユーモラス方面が強調してあって面白かったし。乙一版はふたりの学校生活からのはみ出し方に重点が置かれていて、最終部に至る展開のひねりなどはややこしいのを鮮やかに書きだしてあって、流石プロの技、という感じだった。

「小説家のつくりかた」
原作「蝶と街灯」
乙一版の主人公の小説家になった動機がいまいち理解できない。それがなんで復讐になるの?

「コンビニ日和!」
原作「コンビニ日和!」
コンビニが舞台で強盗というのはありきたりすぎるんだが……。

「青春絶縁体」★★★★★
原作「青春絶縁体」★★★★★
上記コメント参照。
文芸部ネタというだけでも美味しいのだが内容もキャラ立ても会話の面白さも絶妙!

「ワンダーランド」
原作「鍵」
原作と乙一版の主人公キャラの微妙な違いが興味深い。

「王国の旗」
原作「王国の旗」
こういう話は十代じゃないと思いつかないよなあ、っていうか十代のころこういう思考文化が周囲にも児童書にもあったなあと懐かしかった。おとなは敵、だったねえ。しみじみ。

「ホワイト・ステップ」★★★★★
原作「積雪メッセージ」
雪の上に姿はないのに足跡が、すわ密室モノ!?――とミステリファンは考えたがその後の展開は予想をはるかに上回るファンタジーというかSFというか、すんごくわくわくする面白展開で、そしてそれが悲しい、あたかかい、切ない、下手したら泣きそうになる物語になっていくのだった。すごおおく良かった。主人公の男性の自虐的なキャラはちょっとモリミー思い出したけど。丁々発止の友人との会話も面白いし。
原作を読んで、あらためて乙一の言葉や設定の巧さを確認できた。うんうん、やっぱ同じ場所で、文字だけじゃなく足跡からはじまって、のほうが断然良いよね、とか。
このお話を読んでいると、6つの話を通してリンクして出てくるひとびとが、それぞれ少しずつ、ささやかだけど幸せな人生を送っているのかな、と思える描写がちょこちょこ出てきて、作者の目のあたたかさみたいなのを感じて、良いなあ、とじんわりこころがあたたまる気がした。

解説・友井羊というひと。乙一のコアなファンだったひとが作家になったらしい。すごいなあ。

2013/12/10

ジーノの家 ――イタリア10景 【再読】

ジーノの家 (文春文庫)
ジーノの家 (文春文庫)
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内田 洋子
文藝春秋 (2013-03-08)
売り上げランキング: 12,642

■内田洋子
初読みは今年の4月なので、再読するのはちと早いのであるが、ちょっと読みかえしたくなって開いたらどんどん入って行って、やっぱり堀江先生に似てて、好きだなあと思うのだった。今回はアトランダムに読んだ。

「黒いミラノ」はやはり日本人って甘いのかなと思う。
「黒猫クラブ」は市場でチーズを買うくだり、みんなが屋上で食べるところが良い。
「ジーノの家」はドラマだなあ、つらいなあと思う。
「初めてで、最後のコーヒー」は最後がかっこいいよね。
「私がポッジに住んだ訳」は修道女はじめ出てくるいろんな立場のひとの人生模様が面白い。
「船との別れ」は劇的映画になりそうだ。
「サボテンに恋して」は最後のどんでんがえしに向けての前振りがわかって読むととってもユーモラス。
「リグリアで北斎に会う」はちょっとどう消化していいかわからない。
「僕とタンゴを踊ってくれたら」も実はあんまりぴんとこない。
「犬の身代金」は前半の犬の散歩仲間とカフェに毎朝行くエピ、自宅に招いててんぷらパーティをするくだりまでが好きである。誘拐はいかんよ。犯人のダメ男とぬけめのなさそうな嫁のくだりがなんとも、ねえ。

2013/12/06

東京百景

東京百景 (ヨシモトブックス)
又吉 直樹
ワニブックス
売り上げランキング: 34,997

■又吉直樹
太宰治の「東京八景」を思い出させるタイトル。そういえば「富嶽百景」というのもあったな。
この連想はあながち間違いではなかろうという感触があって、「はじめに」で確認して頷いた。又吉さんは太宰ラブを公言されているからだ。
初めてそれを聞いたとき、思わず又吉さんの年齢を確認した。凄いなあ、と思った。太宰と言えば「はしか」に例えられるように思春期や学生時代などの若いときにハマる者はハマるが、後年、いい年になると恥ずかしくて読めなくなるというので有名な作家だからだ。十代のひとが公言しても微笑ましく思うだけで別に感動はしないけど、1980年生まれのひとが真顔で真剣に言い切ったのでおお、と思ったのである。
このひとは本物(の太宰好き・文学好き)やな。と確信した。と同時に精神的にちょっと疲れているというか繊細すぎるというか危ういんじゃないか、大丈夫なのかな、と心配もしている。
大阪出身で、上京して最初に住んだ三鷹のアパートが偶然太宰の家の跡だったというエピソードは恰好良すぎて「これぞ“選ばれた者(の恍惚と不安)”」とか口走りたくなってしまう。

本書は4年くらいの間に書かれた百のエッセイで、いずれもどこか東京の地名や場所(浦安もあったけど)と、そこであったことや思ったことなどが書かれている。景色や風景描写はほとんどない。
長さは1頁だけのものも数ページにわたるものもあり、まちまちである。
読んでいると、うぉ!と内心叫び、もっかい読み返し、その通りだなあ、凄い核心を突いた真実だなあとしみじみ感じ入ることが何回もあった。思わず鉛筆で傍線を引くとかポストイットを貼るとかしたくなった。しかしいざそこをここに引用しようとすると、あまりにも真実なのでちょっと自分の青さをさらけだすようで恥ずかしいということも判明した。

それにしても又吉さんはご自分を低く見積り過ぎなこと甚だしく、お洒落でセンスが良く頭も良く文章もうまいのに非常な謙遜家である。
全部じっくり読ませていただいき、面白がったり共感したりしたが、特に好きだったのは、クラブに行って酔って醜態をさらしたときに「お前のどこが人見知りやねん」と言われたことに対する反撃のために書かれた面白いくらい持って回った渾身の分析&批判で、全部「まえおき」なのだが、こういう理論武装、話の持って行き方は非常によくわかるし共感する。しかもその中身がめっちゃ良い。単なる冗長ではなく密度の濃い真理であるところが凄い。ちっとも逃げてなくて感心した。「くくるのは人であって自分であってはいけない」。

ほかにも、放送作家にタクシーの中でネタを説明したのに運転手が最後の作家の台詞で爆笑した話、ライブ会場で音響さんと照明さんの粋な反応があって盛り上がった話が特に良かった。木の実が落ちるのを同時に見たことから始まった恋の話はなかなかに切ない。将来の夢の話に大阪城が出てくる話はまるで漫才のネタのようだ。栗原類君の楽屋にいったときの類君の挨拶は偉いなあ、とわたしも見習おうと思った。ちょっと文章としては敬語がくどい感じだけど。
よく職務質問されるというのはへえーという感じだけど最近は有名になったから減ったかな? 
東京に土地鑑のあるひとが読んだらもっと臨場感があるのかもしれない。

以下、好きだった章具体的に列挙する。 [ ]内は自分用メモ
22.一九九九年、立川駅北口の風景 [高校で出会った友人エピ1]
26. 国立の夜明け [高校で出会った友人エピ2]
35. 杉並区馬橋公園の薄暮 [しずる村上さんエピ]
36. 堀ノ内妙法寺の雨降る夜 [江戸川乱歩みたい]
56. 赤坂草月ホール [誕生日サプライズ]
63. 池袋西口の地図 [職質]
76. 池尻大橋の小さな部屋 [東京のハイライト]
82. ルミネtheよしもと [音響さん!照明さん!]
85. 麻布の地下にある空間 [人見知り]
87. 蒲田の文学フリマ [そら目立つがな]
91. 車窓から見た淡島通り [一読爆笑でちゅ]
94. 湾岸スタジオの片隅 [類君偉い]