2013/11/30

ひさしぶりの海苔弁

ひさしぶりの海苔弁
ひさしぶりの海苔弁
posted with amazlet at 13.11.29
平松 洋子 安西 水丸
文藝春秋
売り上げランキング: 48,606

■平松洋子
週刊文春連載「この味」(2011年8月11・18日号~2013年4月25日号)の単行本化。
発売前に新刊情報でこれを知り、著者名に平松洋子と安西水丸と両氏の名前が並んでいたから、安西さんが書き言葉を添えたイラストを描いたりしてもっと出張ってくる感じの、濃厚なお二人のタッグを楽しみにしていたのだが、実際に読んでみるとあにはからんや、安西さんはごく大人しくふつうに本文に合ったイラストを添えているだけなのだった。なーんだと拍子抜けしたけれどまあ、当たり前っちゃー当たり前か。いや、村上(春樹)さんの挿し絵のときにちょっと戯れておられるイメージがあったので。

どーんと83のメニュー、目次を書き写しながら内容を思い出し、にやにやと楽しい。そういえばわたしの場合はね、と喋りだしたくなる。
連載が週刊誌ということもあってか、ターゲット読者層がややおじさん向けかな?という感じ。女性向けの細やかな家庭料理とかグルメとかじゃなくて、日常の、昔からよくあるみんな知ってる気負わないメニューが多い気がする。
本書では衝撃の告白が平松さんからなされた。なんと。あの何でも美味しく食べる健啖家の平松さんにして、「おでん」が苦手だったとは!!
しかしその克服(?)のためにいきなり鹿児島に飛んじゃうのが何故また、と思ったらかの南国のおでんには「なんこつ」が入っていてそれがトロトロでめっぽう美味いという。へええええ。

それにしても本書だけでなく平松さんの近刊を読んでいて少しく気になるのが「男子」「女子」という流行語使い。まぁ「男子厨房に入らず」は昔から言うけど、あくまで一般的に、例えば10年前なら「男性」「女性」というはずのところを、例えば「三十代素敵女子」とか書かれると、かなりげんなりする。三十代は女子じゃねえ!!とマシンガンをぶっ放したくなるのである。かまぼこの項に出てくる「ごめんねごめんねー」はもしかしなくてもU字工事か。そういえば脈略上必要かどうか、冒頭のツカミなんだろうけど「きゃりーぱみゅぱみゅ」も出てきたなあ。
週刊誌だもん、読んでもらえてナンボ、今どきの言葉だって使いますってことなんだろうけど、こういう旬モノは食べ物と一緒、新しいときはいいけれど、5年もすれば古さを強調するだけの材料だと思う。イカガナモノカ、と思ってしまう吾のアタマが固いんだろうけど。

まあ重箱の隅をつつくようなことを書いてしまったけど、本書が面白かったのは間違いない。パパパパパインの項で穂村(弘)さんと酒井(順子)さんが西荻窪仲間で出てきておお、と反応したり、カマボコってなんかそれぞれ思い入れがあるのかなやっぱ、とか思ったり。
平松さんの料理は読んでいると作りたくなる。食べに行きたくなる、のは遠いところが多いのでそこで「遠さ」がブレーキになるのかな。どうも細かく分量を指示されるレシピより、こういうふうにざっくりとした手順と材料を書いただけのもののほうが、わたしには向いているようである。
あ、モチロン海苔弁も作りマシタよ!

恒例目次写し。
Ⅰひさしぶりの海苔弁
きゅ うりをがぶり/豚足と「昭和の女」/エプロンにはレースでしょ/カフェ・ラテ 八月の真実/すいか相手にぶつかり稽古/バーでキャンプファイヤー/ラストチャンス!みょうが/なすは肉でした/油揚げ賛江/うれしい鮭缶/どうする、目 玉焼き/全裸のとんかつ/ミニカレーの誘惑/れんこん讃歌/伊勢海老の執念/越前がにがやってきた/ぬくもりの神さま/歳末感とともに、切山椒/パセリを 丼いっぱい/パパパパパインはいかがです/オリーブオイル恋慕/柑橘ガールズの追っかけ/女子マネ気分/ニッカボッカの男めし/ひさしぶりの海苔弁/きょ うも海苔弁
Ⅱアタマのいい鴨はうまい
根室の秋さんま/卵焼きキムパプ/負け るな!山田うどん/南国おでんの宇宙へ/鶏飯を朝市で/あぶない三つ巴/本日みぞれ模様/「うみねこパン」を盗み喰い/左右のパリパリふりかけ/新宿三丁 目の貝御殿/「まいにち大食堂」に行ってみた/高級紅茶に完敗/天空のジンギスカン/野郎ども、かかれ/自由が丘へお弁当遠足/奥州のぬか釜ごはん/いよ いよピーマンうどん/アスパラ祭り/道頓堀のさえずり/さぬきうどんの純白/青いレモンの鮮烈/ドリアンの悪魔/イラン式女の台所/モロッコの「いのちの 鍋」/金粉ショーとカスレ/クレープをモンルージュで/アタマのいい鴨はうまい
Ⅲ二十五年目のハンバーグ
か まぼこ板の美学/かまぼこ五連発/いくらバターごはん!/『刑務所の中』とおなじだった/サンドウィッチ対決/五秒ください/逃避の虫が疼く/さかさま油 淋鶏/秋みょうがの味噌汁/冷蔵庫の肥やし/トイレ問題で叱られた/グリーンピースに泣く/豚汁とスケアクロウ/「とん」ですか「ぶた」ですか/わかめ スープの漆黒/深夜のジェノヴェーゼ/ニッキは冬の香り/湯豆腐大作戦/春先だけのステーキ/アントニオさんのテーブル/さよなら、ホットケーキ/好子さ んといっしょ/夜中のひとり煮込み/昔カレーの救い/一升瓶マニア/二十五年目のハンバーグ/ぽろぽろ/幸せなほうじゃのう/緑の大入り汁/銀の針



2013/11/28

ポトスライムの舟 【再読】

ポトスライムの舟 (講談社文庫)
津村 記久子
講談社 (2011-04-15)
売り上げランキング: 69,452

■津村記久子
前回は単行本で読んで、今回この続篇が近々出ると知ったので文庫版を買い直して読んだ。
二篇収録。まずは表題作。
やはり良い小説だ。文章も好きだし雰囲気も好きだ。
この話は、29歳独身、母と二人暮らしの契約社員女性が主人公である。彼女は新卒で入った会社で凄まじいモラルハラスメントを受けた経験を持つ。そのため、現在も暇になることが怖いらしく、バイトから始めて契約社員になった化粧品工場の仕事の後に、友人がほそぼそと経営するカフェでの給仕のバイトをほぼ毎日し、パソコンにデータを入力する自宅バイト、週末はパソコン教室の講師のバイトを掛け持ちしている。契約社員としての手取りが年でだいたい160万ちょっと。
カフェ経営の友人のほかに、大学卒業と同時に結婚していまは2児の母で専業主婦の友人と、就職3年で結婚退職して幼稚園に通う娘が1人いる友人が登場する。
なんというか、若いなあ……まだまだ全然いけるやん、というのが今回読み直しての率直な感想だ。例えばこれが35歳のひとたちの話だったらもっと逼迫してくるだろう、そしてその設定が現実感がないかといえば決してそうではないんだから。
あと、就職せずに永久就職で専業主婦っていう立場のひとが身近にいたことがないのだが、本書では彼女が別世界のひとみたいな、「ずっと同じところをループしてる成長のないひと」扱いであるのが果たして公平な書かれ方であるのだろうか、というのが今回は少し気になった。冷静に考えるといまどきめっちゃ恵まれた環境ではないか、凄いなあ、羨ましいなあと思うが、どうやら姑と頻繁な交流があるようだし、ママ友グループとも上手くいってないようだし、彼女なりの苦労があるようなのだが、独身組にはそれはうまく共感できないらしく、見事にスルーされている。
「女の友情は共感が大事」というけれど、まさにそんな感じ。
自分の立場とか拠って立つところを是とするには、まったく違う価値観を是とするものを認めると矛盾が出てくるので、そうならざるを得ないのかなと思ったりする。実際はそんな一元的な単純な比較が出来るもんじゃないんだけど。
主人公たちが結婚して同じ立場に立つとどうなるのかなあ。どういう相手とどういう結婚をするかってほんと人生左右するよなあ。
続篇の彼女たちはどうなっているのか、ぜひ知りたい。

「十二月の窓辺」
前回読んだとき、こんな異常な上司にモラハラを受ける苦しい話は一読で充分だ、もうごめんだと思って、今回も「ポトスライム」だけ読むつもりだったのだが、ポトスライムを読んだらこちらも読まずには収まらなくなってしまって、歯を食いしばってというか、いじめられているシーンはできるだけ「無」になって入り込まないように気を付けて読んだ。
そういう上での感想だが、やっぱり冷静に読んでもV係長は個人としても会社の一員としても問題があり、それを放置している組織にも上役にも問題がある。モンスター社員ってこういう感じなんじゃないだろうか。
主人公の性格および働き方や職場への接し方にまったく問題がないとは言わないが、彼女が最初からこんなひきつった顔しかできなかったわけではないだろうから、やはり周りが悪すぎたとしか言いようがない。あと、主人公の言動に対して常に感情を見せずにしか対応しないP先輩とかも嫌な感じだよなあ。
しかしあれだね、部長はこの主人公を本社に異動させるとかなんでしないのか。支社と本社の軋轢が最初のほうでさらりと書かれていたけどそのへんかなあ。みんな自分の立場守るのが一番だもんなあ。けっ、って感じだ。

前回読んだときは主人公のことで精一杯な感じだったのだが、今回はときどきお昼を一緒にする他社のひとのこととかにも気を配って読んだのだが、自分が苦しいときに他の苦しさまでどうこうするのは難しいだろうし、でも彼女はむしろ積極的に主人公の愚痴を聞いてあげていて、これは性格的なものもあるので一概には言えないが、それにしても彼女の抱えていた闇の大きさみたいなものがかえって強調される気がして、もし彼女の視点で書かれる物語があるとしたらそれってどういうふうになるんだろうと考えると暗澹たる気持ちになった。主人公は会社を辞められたけど、彼女は辞められないなにかがあって、こういう方向に出ちゃったのかなあ…。

2013/11/21

御馳走帖 【再々読】

御馳走帖 (中公文庫)
御馳走帖 (中公文庫)
posted with amazlet at 13.11.20
内田 百けん
中央公論社
売り上げランキング: 65,311

■内田百閒
本書は現代流通している一般書籍にはかなり珍しい部類だと思うのだが、旧仮名遣いである。少なくともわたしの手元にあるものはそうである(1979年1月10日初版発行/1996年9月3日改版印刷/1996年9月18日改版発行)。例えば上に写した「シヤムパン」「吸ひ殻」は入力ミスではないというわけである。
「蔬」とか「酲」とか「聯」とか、目次だけでも難しい漢字があるくらいなので、本文でも普段目にしないようなのがちょこちょこ出てきて、まあ前後の関係もあるし、読めるのだが、自分では使いこなせそうもない雅やかな言葉遣いであって、なんというか、眼福である。

それにしてもあらためてじっくり読んだが百閒先生はイラチだなあ(これ関西人にしか通じないか。せっかち、短気なひと)、とつい思ってしまう。他人が批判的に書いたわけではなくご自分をここまで客観視して正直に書いておられるそこには自虐やユーモアのための誇張もあろうからそう思うのは浅慮とわかっているのだが。そして毎度出掛ける仕度に異様に時間がかかっている気がする。朝にはてんで弱く、午餐の蕎麦屋の出前が正午ちょうどに届いておらねば機嫌が悪く、晩餐は晩酌であってずるずると長そうだ。奥さんやまわりの若い方や編集者のみなさんは大変だったろうなあああ、と思う。岡山の造り酒屋に生まれ乳母日傘で育てられたというから基本的に「ワガママ坊やちゃん」なのかもしれない。しかし同時にお育ちがとっても良いのであろう。すくすく歪まず真っ直ぐきれいなキラキラのこころのままで大きくおなりになったのであろう。そうでなければあの伝説の「イヤダカラ、イヤダ」なんて名言は出て来ない。周囲のみなさんのみならず後世のたくさんの読者に好かれ、愛され、尊敬されているのだからどれだけ愛嬌のある天性の魅力と知性にあふれた御仁であったかと思う。

全篇食べ物や飲み物、口にする嗜好品に関する随筆ばかりなのでお腹が空くかもしれない。昔はアイスクリームを「飲む」とか言ったんだなあ。「唐茄子の味噌汁」エピソードが出てきて「唐茄子」とはナスビの種類かとググったら南瓜のことだった。無知を恥じる。でも「水菓子は果物のこと」とわかっていても「菓子」といわれるとやっぱり水羊羹とかゼリーの類の映像が最初に脳裏に浮かんでしまう。字面で連想しちゃうんだよなあ。

だいたいにおいて年寄りの思い出話は繰り返しが多くなるもので、本書だけでも同じエピソードが数回出てくるが、幼いころの煙草をめぐるエピソードでねじこむ相手が祖母と母親で異なっているのがあった。
黒澤明が百閒先生をモデルに描いた名作映画「まあだだよ」に出てくる馬の肉を買うシーンにしても本書だけで3回書かれてそれぞれ微妙に味付けが違う。
だんだん思い出したのか、脚色がすすんだのか。
解説の平山さんは「阿房列車」でおなじみのヒマラヤ山系氏である。解説というより詳細で貴重な資料という感じで、これまた面白い。


まあだだよ デジタル・リマスター版 [DVD]
角川映画 (2010-07-23)
売り上げランキング: 7,664
目次
序に代へて
薬喰|食而|菊世界|解夏宵行|饗応|林檎|沢庵|雷魚|百鬼園日暦|謝肉祭|酒光漫筆|三鞭酒|芥 子飯|河豚|養生訓|白魚漫記|撿校の宴|蒲鉾|おから|シュークリーム|鬼苑日記|腰弁の弁|宿酲|廊下|馬食会|窮屈|牛乳|チース|下宿屋の正月| 玄冬観桜の宴|船の御馳走|バナナの菓子|カステラ|紅茶|不心得|痩せ薬|茶柱|缶詰|喰意地|人垣|油揚|大手饅頭|可否茶館|麦酒|吸ひ殻|餓鬼道 肴蔬目録|こち飯|お祭鮨 魚島鮨|猪の足頸|食用蛙|雅会|小難|がんもどき|酌|鼻赤|列車食堂|めそ|一本七勺|御慶|お膳の我儘|す|我が酒歴| 焼豆腐とマアガリン|ひがみ|未練|実益アリ|おからでシヤムパン|聯想繊維|煙歴七十年|牛カツ豚カツ豆腐|鹿ノミナラズ|車窓の稲光り|解説(平山三 郎)

2013/11/15

家守綺譚 【再々々々読】

家守綺譚
家守綺譚
posted with amazlet at 13.11.14
梨木 香歩
新潮社
売り上げランキング: 6,956

■梨木香歩
『冬虫夏草』を読んだらこちらも読みたくなってまた読む。さすがにほとんど記憶にあるのをなぞっていく感じだがそれがまた良い。おいしい御馳走はなんど食べても嬉しい。

綿貫は変なやつ(誉め言葉)だと思っていたがそうなのだ、ヒツジグサのところで「この水草が、最近、『けけけっ』とたいそうけたたましく鳴く。ヒツジなら他に鳴きようもあろうに。」とかしゃらっと書いてある。こういうところが変なのだ。ふつうは「ヒツジグサのあたりから妙な鳴き声がする、なにか棲み付いたんだろうか」と云うんじゃないかと思う。そこをすっ飛ばしている。案の定、ヒツジグサじゃなくそこにいた河童が鳴いてたんだ、そーれみろ。
っていうか河童(がリアルに存在する世界)かよ!
という素晴らしい脳内ノリつっこみが出来てしまうのだ、ああ楽しい!!(変態)。
全篇そんな感じでにやにやわくわくしながら楽しんじゃう。

それにしてもわたしは白木蓮ファンなのだがあの花を見て中に龍の仔を身籠っているとは思いついたことが無かった(おおいま気付いたが籠るという字には龍がおるぞ!)。
池には河童が、川にはカワウソがいて、カワウソが母方の祖父である長虫屋がいる。
狐と狸の化かし合いかと思いきやサルスベリまで人間のなりで登場する。

あまり意識していなかったがわたしは高堂が好きみたいで、何故今回わかったかというと『冬虫夏草』にはくだんの登場割合が少なかったから少し物足りなかったのである、ということをあらためて「家守」のほうを読み直してようやく気付いた。あとゴローが、というかゴローと隣のおかみさんの交流具合も好きみたいである。和尚と綿貫のやりとりは「草枕」のそれも連想させて好き。
要するにまあ、たいがい好きなんである。ちなみに「冬虫」では村の地元の人々と交流するさまが好きだった。

2013/11/10

冬虫夏草

冬虫夏草
冬虫夏草
posted with amazlet at 13.11.09
梨木 香歩
新潮社
売り上げランキング: 156

■梨木香歩
わたしはなっきーのファンであり、その著作はどれも好きであるが、中でも一番と言っていいくらい好きなのが『家守綺譚』で、その年のベスト1位はもちろん「今まで読んだ中のベストテン」でも2位に上げているくらい好きである(1位は漱石『草枕』)。
考えてみれば「草枕」も「家守」も、浮世離れした主人公で、俗世からちょっと浮いたような世界観があって、山とか自然とかが濃厚で、事件らしい事件も無く、人間関係のややこしさも無く、ただ素の己のままに清々しく生きている、そういう共通点があるかも知れない。いやそんな理屈は抜きにしてただもう、読んでいるだけでしあわせというか、なにもササクレ立つところが無いというか、問答無用に「いい」のであるが。

そんな『家守綺譚』のつづきがあるなんて夢のような、とにわかには信じ難かったのが数年前「yom yom」という雑誌に載せられていた短篇を見つけたときで、当時はまだヨンダパンダの原色表紙時代であった。おおおお、あれの続きを書いてくれたかヨムヨム編集者よくやったグッジョブ!と快哉を叫んだものだ。とは言え、わたしは雑誌の連載を読むタイプではないので単行本になるのを待つしかなかった。

魚をよく知らないので表紙を見たとき鮎?と思ったけれども内容を読んでみればこれはイワナらしかった。
文士・綿貫征四郎のちょっと不思議な「ほんの百年前」の日々が綴られている、今回のメインは「鈴鹿山脈」。鈴鹿というとサーキットしか知らなかったが、そう、あらためて地図を見ると鈴鹿の山は近江の国から続いているのだ。自分が奈良育ちのため、「近江は奈良の北、三重は奈良の東」という位置把握でその二県が繋がっているという意識が無かったことを自覚、うーんなんという自己中で貧相な地理感覚よ、と反省したそれはさておき。

作中に登場する植物関係の学者南川氏によれば鈴鹿というのは「本州では陸地が一番狭まったところに在しているので、かなりな風の通り道」になっていて、さらに「岳によって地質も分かれて」おり「石灰岩質、花崗岩質、と、当然山の姿形もそれを好む植物も違ってくる」というわけで「そのような天の事情、地の事情が絡み合い、彼の地では日本海経由大陸経由の北方系植物と、黒潮由来の南方系植物が奇怪な混淆を成している」「標高から云えば大したことはないが、驚くほどの植物層を有している」のだそうだ。「どうだ、俺がのめり込むのも無理はなかろう」と南川氏はのたまうが、読み手はここで深く頷き「なるほど、我らがなっきーがのめり込むのも無理はない」と心中つぶやいたことである。

綿貫氏の家にはゴロー君という実に賢い犬君がいるが、今回のお話では序盤くらいでこれが結構長い間留守にしていて、任意のことなのかのっぴきならない事態に陥っているのかはたまたその無事は、という心配な状態になる。探そうにもゴロー君の行動範囲はめっぽう広く、あても「どこそこの山でいつぞや見掛けた気がするが」という甚だ頼りない伝聞である。旅の途中でも氏はイワナの夫婦がやっているという宿に心惹かれたりなんだりして寄り道が多く、あんまりそのことだけに気を取られて我を忘れてという感じではない。ただ心の隅にずっとひっかかっている感じではある。わたしは犬を飼ったことがないのでわからないがこんなものなのかな?

相変わらず河童が普通に人間にまぎれて生計を営んでいたり、そもそもがイワナが人間になって宿をやっているという話がわりと素で出てきたり、さすがは「家守綺譚」の世界である。お菊ちゃんの話はかなり胸を突かれた。人間の生き死にというのはほんとうにどういうことになっているのか、病がちでも細々とそれでも長生きする人生もあればついこのあいだまで元気溌剌だったのにちょっとしたつまづきであれよあれよというまにはかなくなってしまうひともいる。この話には年を重ねられたおじいさんやおばあさんも出てこられるが、彼らがカクシャクとされているのを読んでいるとやはりそれはそれなりの得難いこと・有難いことなのだなあとしみじみ感じ入る。ことに若宮八幡神社の神主のご母堂の様子は読んでいるだけで楽しいというか、良いなあ、かく有って欲しいなあという存在感であった。

  聞けばその子の家は神社のすぐ近くであった。そばで逐一聞いていた、齢九十の母上は、
  ――――おまはんはここにおり。うらが行くのがええ。
  何もかも心得た風で、すたすたと歩いていった。お母はんにはいつまでたってもかなん、と神主はぼやいた。



梨木さんの作品すべてに言えることだが、本シリーズにも植物はたくさん登場し、章ごとのタイトルがそれになっているのが特徴のひとつだ。読後、それらをネットで検索し、ああこういう花であったかと確認するのも楽しい。
本書で登場する中でいちばんこれは美しいと感じ入ったのはアケボノソウ

それにしても、最初のほうで出てきたイシガメの産卵はなんだったのか。このシリーズはまだまだ続いておかしくない気配がある、というか続いて欲しい。
どうぞよろしくお願いいたします(祈っちゃうよもう)。

2013/11/01

HAPPY HALLOWEEN

Pumpkin Moonshine
Pumpkin Moonshine
posted with amazlet at 13.10.31
Tasha Tudor
Simon & Schuster Books for Young Readers
売り上げランキング: 11,597

あの素晴らしい庭で有名な、アメリカを代表する絵本作家の1人、ターシャ・テューダー1938年のデビュー作だそうです。絶版。持ってません。手に取ったこともありません。和訳版はいまいちっぽい?

ガンジス河でバタフライ

ガンジス河でバタフライ (幻冬舎文庫)
たかの てるこ
幻冬舎
売り上げランキング: 43,892

■たかのてるこ
単行本は幻冬舎から2000年11月刊。本書はその文庫版で、2002年3月刊。――を、今頃買って読んだ。
単行本刊行時に書評誌に載っていてそのあまりにも印象的なタイトルに度肝を抜かれてずっと覚えていたが何故かタイミングが合わずというのかなんというのか、読むに至らぬままこんにちまで来た。
先日、ふらりと入ったヴィレッジ・ヴァンガードでは相変わらず本書が平積み状態で置いてあり、「ああそういえばこれはまだ読んでいなかった。今日買わねばまた読みそびれてしまうだろうそうだろう」というわけで買ってきて読んだ。

なんとなく想像していたみたいに読んで爆笑とか吹き出す、とかは無かったのであるが、まあ、大阪の面白いおねーちゃんが関西弁でいうところの「イキってる」というか、こういう感じのお笑いなひとは昔からクラスにひとりはいたなあ、とか思ってにやにやしながら読んでいたのだが、それにしてもこのひとはものすごく会う人間に恵まれているというかご本人の人徳なのか、だんだんある種の尊敬すら覚えるようになった。

当時女子大生だった著者が1991年に香港とシンガポール、翌年にはインドへと一人旅をした、そのときのことを面白おかしいフランクな文体で綴ったエッセイ?旅行記?なのだが、『深夜特急』みたいなストイックなもの、典型的なバックパッカーものをなんとなく想定して読んでいくとそれはことごとく覆される、まではいかなくてもずらされる、くらいはある、なんとも不思議な展開が待っているのであった。そしてその原因というか要因はすべて著者・たかのてるこの素晴らしき性格に因る、と思う!

どこまでリアルそのままかよくわからないのだけど、たかのさんは怖い目に遭ったりしなかったのかなー、いろいろ大変な状況になったり行き当たりばったりだったりしても、周りのひとたちが本当に親切に助けてくれるんだよね。いやー……ふつうはこう上手くいかないってば。

わたしはインドとか行ったことないけど、この本を読んで真似するのだけは無謀だと言い切れる。
たかのてるこ凄過ぎ・ナニモノ!(ええ、世間は10年前に知ってたざんすね)。