2013/09/29

ピーター卿の事件簿 【再読】

ピーター卿の事件溥―シャーロック・ホームズのライヴァルたち (創元推理文庫)
ドロシー L.セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 432,472

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:宇野利泰
先日再読した『事件簿Ⅱ』は比較的近年に邦訳出版されたもので2001年4月刊だが、Ⅰにあたる本書が創元推理文庫から出たのは1979年3月が初版。わたしの手元にあるのは1997年12月の第15刷である。

短篇7つ収録。ざくっとレビュー。

「鏡の映像」★★
内臓が左右入れ替わった男の話。なんだか『ジキルとハイド』みたい。やや竜頭蛇尾の感なきにしもあらず。

「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」★★★
ピレネーの山嶽地帯に妻とふたりで棲む医学博士の恐るべき犯罪行為とは。

「盗まれた胃袋」
ホームズにもこのネタあるなあ。鵞鳥かなんかの。

「完全アリバイ」★★★
アリバイの話。現代では成立しないなあ。でも面白い。

「銅の指を持つ男の悲惨な話」★★
嫉妬にくるった狂気の芸術家。

「幽霊に憑かれた巡査」
巡査は素面だったし、見間違えたわけではないのだが?

「不和の種、小さな村のメロドラマ」
お金をめぐる人間性の薄汚さが露呈する。

なお、解説に相当する「シャーロック・ホームズのライヴァルたち――――ピーター卿と生みの親セイヤーズ」の書き手は戸川安宣御大である。

2013/09/27

顔のない男 ピーター卿の事件簿Ⅱ 【再読】

顔のない男―ピーター卿の事件簿〈2〉 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 133,861

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:宮脇孝雄
日本オリジナルの短篇集。Ⅰ、Ⅱがあるのだけれど、今回はⅡを再読。
短篇7つのほかに、1931年に実際にあった事件を経過を追って丁寧にセイヤーズが推理する「ジュリア・ウォレス殺し」と、探偵・怪奇小説の傑作集(1928年)の序文として書かれたセイヤーズが(いまでは古典となった)ミステリーの名作を具体的に挙げ、解説しながらミステリ論を滔々と語る才知あふれる評論「探偵小説論」が収録されている。

「ジュリア・ウォレス殺し」には興味がないというか、実際にあった事件で裁判もあって判決も済んでいて、でも実際どうだったか?は永遠の謎というのをいまさら読んでもなあ、自分がリアルタイムに生きていて事件を知っているのならともなくも、という感じでこれは最初の方をちょっと読んでパス。初読みのときは読んだのかなあ、どうだったっけ。
「探偵小説論」はその名作を読んでいないとネタバレ満載だが、ミステリ好きには面白く、興味深い内容だ。こういうのはどんどん新しくなっていくものだから、論点が古いのはあたりまえだけど、でも根本は変わらない、ミステリーに対する愛、興味はいつの時代も一緒だからかな。

以下、短篇はネタバレしないようにほんのさわりのレビューだけ。

「顔のない男」★★★
海岸で発見された顔をめちゃくちゃにされた殺された男の事件の真相にピーター卿が心理捜査官さながらに迫る。

「因業じじいの遺言」
クロスワールド・パズル好きにはたまらないかも。っていうかバンターもそうだったのか!おじいさんのキャラクターが素敵。

「ジョーカーの使い道」
いまどきのドラマのちょっとしたエピソードとかにも出てきそうな使い古された感があるけどこれは1926年に発表されたものだからして。

「趣味の問題」
利き酒の話。本物はだあれ?

「白のクイーン」
短篇なのに15人も登場人物がいて、しかもそれを名前で読んだりパーティでしている仮想の格好にちなんで読んだりして非常にややこしいのだが、まあ、骨格はごく単純だ。

「証拠に歯向かって」★★★
車の中で火災によって真っ黒になって死んだ男の死因は? 短いけどピリッと効いたミステリー。

「歩く塔」
とてもミステリーとは思えない、夢の話なんか延々書いてあって、ちょっと不思議な感じの。ミステリの骨格は単純なんだけど味付けによって面白く仕上がった。

2013/09/25

ナイン・テイラーズ 【再々々読】

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 112,303

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:浅羽莢子
ナイン・テイラーズというのは死者を送るための鐘の鳴らし方で、この小説ではある8つの鐘を持つ教会が舞台になっている。
これも4回目の通読なので大筋は覚えていたけれども、細かいことは結構忘れていた。メインの犯人というかそのへんは衝撃的だったので忘れようもないのだが、脇で起こっているいろんなこととか。

教区長の先生も、奥さまも、とってもとっても素晴らしい方だなあああ。ということをしみじみと感じた。知的で思いやりがあって、上品で、ほのぼの。そして彼らを含めたすべての登場人物の人間性というものがきちんと話のスジを支えている、これはミステリーではなかなかあるようで無い美点なのであることよ、流石セイヤーズ女史。というようなことを読後つらつら考えたり。

前回読んだときは、ウィルブラハム夫人に一番怒りを覚えたらしいのだが、自分のことだけど、うーんそうかあという感じ、まあ確かにこのひとは問題あるけどね。
今回読んで怒りというのはあんまりなくて、むしろ、善男善女が織りなす悲しい話とか人生のあれこれが胸にせまって、ああこれはやっぱりシリーズの中で一番最高の、名作だなあ、傑作だなあ、トリックがどうとかじゃなくて小説として、と静かに強く確信したのであった。ほかの作品ももちろん面白いし大好きなんだけど、それは変化球の面白さというか。キャラ萌えとか。キャラ立ちとか。ストーリーとか道具立て、設定の面白さ、トリックとか舞台建てとかそういうのが派手で面白いんだけど、これは、地味に(いやはや決して地味じゃないんだけども)、実直に、ストレートの速球の美しさ、面白さというか。

読むたびに、その良さが深まる気がする。不朽の名作ということだろうなあ。

2013/09/22

誰の死体? 【再々々読】

誰の死体? (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 99,937

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:浅羽莢子
4回目の通読なので、しかも登場人物は限られているので、さすがに犯人とかいろいろ読んでいると覚えていて、つまりは記憶をなぞっていくかたちになるのだが、本作はピーター卿、バンター、パーカーが揃って登場していて嬉しい。前ふたりは言うに及ばず、チャールズ・パーカーも良いキャラなのだ! おまけに先代公妃も活躍なさるし。バザーのくだりとかほんとチャーミングで頭が良いお方よね。
それにしてもこの犯人は冷静で怖いわあ。何故怖いかを書くとネタバレしちゃうんだけど。本来ひとのためにするべきことを犯罪のために向けるとこうなるという……嫌ねえ!

2013/09/20

忙しい蜜月旅行 【再々読】

忙しい蜜月旅行 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 413)
ドロシイ・セイヤーズ
早川書房
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■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:深井淳
再々読。先日『学寮祭』を再読したのでその続きにあたるこれを。
これだけ早川書房のハヤカワ・ポケミスで、翻訳者も違う。
たしか最初に読んだときは『学寮祭』がまだ翻訳されていなかったのだ。
ずっと浅羽莢子さんの翻訳で読んできたから、深井淳氏訳のセイヤーズは違和感がある、それだけでなく、キャラの印象が違う、特にハリエット・ヴェインは別人としか思えない。しかしまあ、浅羽訳の『蜜月旅行』は存在しないわけだから、しかたがない。

↓↓↓こちらは松下祥子さんによる新訳で2005年6月に出たハヤカワ文庫版。未読です。ずっと気にはなってるけど、でも一番読みたい浅羽莢子さんじゃなし、ネットでちらちら評判を見てもやっぱ違和感あるみたいだし……。

忙しい蜜月旅行 (ハヤカワ文庫 HM (305-1))
ドロシイ・L・セイヤーズ
早川書房
売り上げランキング: 254,751


本書はミステリーとしてはどうっていうことのないトリックだし、むしろミステリーはスパイス程度でしかなく、メインはなにかというと、シリーズの主役とその恋する相手がついに結ばれ、めでたく新婚旅行としてハリエットが昔住んでいた村の古い家を買って、そこにしばらく住む、そのばたばた新鮮な様子や、ご近所との濃厚な人間関係だ。あと、主人と従僕があまりにもぴったりとしているそこへ若奥様として入り込む(?)ことになった、ハリエット・ヴェインの新妻日記みたいなふうにも読める。

前に読んだときも思ったみたいだけど、今回も、いざ犯人がつかまってからのピーター卿の心理状態というか憔悴ぶりとかにすっごく違和感がある。だってぜんぜん同情すべき犯人とかじゃないんだもの。利己的で、幼稚で、他人に迷惑かけまくってる下品な犯人なのに。いままでいろんな犯人を指摘してきたピーター卿がなんでここでここまで落ち込むのか、いまいちよくわからない。説得されるべき材料が見当たらない。最後のシーンを書きたかったからなのかなあ。それだったらもう少し犯人の人間像をどうにかしてほしかったなあ。

ああ、松下版も読むべきだろうか(※)。
どうもこのポケミス版は翻訳的に問題があるようで、読んでいて意味が通らない箇所が数点気になったことでもあるし。うーむ。
とりあえずバンターは有能すぎる。
しかし自分の化粧台などは自分で片づけたい、と思う。バンターがきちんと直してくれるとか、ありがたいけど恥ずかしいよ。ハリエットは貴族出身じゃないのになんで平気なのだろう。召使が当たり前だった時代のひとだからかなあやっぱり。
あとピーター卿のお母様はやっぱり素敵ねv

※松下版を購入、読んでみて旧訳の明らかな誤訳(意味が通っていないのとか)は直っていて正しく読めるのだけれどやっぱり浅羽訳とは全然違うのでしっくりこないという点では満たされないのでした。悲しい。

2013/09/16

学寮祭の夜 【再読】

学寮祭の夜 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 381,553

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:浅羽莢子
なんか唐突にピーター・ウィムジイ卿とハリエット・ヴェインの恋愛が読みたくなって、これを再読。
ハリエット視点で、舞台はオクスフォード。

ピーター卿の言動は読んでるだけでファンなので「素敵…」とうっとりしちゃう。対するハリエットが頭が良すぎて自尊心が高すぎていろいろ考えまくってるところが「もったいない~っ」と思っちゃう、まあわかるけど。出会いがアレだし、身分とか立場とか、自分ばっかり助けてもらってるのとか、負担に感じちゃうのはあたりまえの感性だろう。

それにしても10年以上ぶりに読んだので、例によって犯人のこととかは忘れきっていたのだが、すごい小説だなあ改めて! ミステリとしてだけじゃなく、自立心のある全女性の心をわしづかみにするだろう。しかもこれ書かれたのって、1935年なんだよ! その普遍性に凄いというべきか、100年前からいまだにその問題が社会的に解消されずに残っていることを嘆くべきか。どっちも、かなあ。

700ページを超える長篇で、手首がなかなか疲れたけど、面白いのでずっと読んじゃう。最後の犯人の長台詞は強烈で、もうここまで来ると気が狂っていてどうしようもないのだけれど、でも恐ろしいのはいまでもこういう考えた方の人間がそこらにうじゃうじゃいるのがわかっていること、違いはわざわざそれを口にしたりしないだけということ。

女の生き方って難しいなーと思った。でもねー、やっぱり少なくとも1935年よりは2013年のほうがマシだね。

ミステリとしても、シリーズものの中の恋愛色の濃いエピソードとしても、そして普通小説としても読める、いろんなものを含んでいる実力作。
純粋にミステリーを楽しみたい、という方にはちょっと枝葉部分が多すぎて冗長とみえてしまうかも。

2013/09/13

猛スピードで母は 【再々読】

猛スピードで母は
猛スピードで母は
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長嶋 有
文藝春秋
売り上げランキング: 176,555

■長嶋有
長嶋さんは本書の表題作で第126回芥川賞を受賞した。
本書には「サイドカーに犬」という話と「猛スピードで母は」の2篇が収録されている。このふたつはまったく別の話で連作とかそういうのではない。ただ両方とも子どもの視点でおとなの女のひとのことが書いてある。
これも感想のほとんどは前回までに書いてしまったので今回思ったことを。

①やっぱり「サイドカーに犬」の洋子さんみたいなひとは好きになれない。嫌いというわけではないが、周囲にいたとして、まあ必要最小限の関わりしか持ちたくない。子どもに食事を用意してあげるときにそれを「エサ」と言うのとか、悪意がまったくないことはわかっているが、そういう問題では無く、もうダメなのである。自分が食べるものを言うのならまだ許容範囲だが。

②「猛スピードで母は」のお母さんもやはり同様に好きにはなれない。何故かというと、こういうタイプは苦手だからである。価値観が違うし、向こうからしたら自分はきっとつまらない人間に見えるんだろうなとか勝手に思ってしまう。

③そういう苦手な人物を描いてあるにもかかわらず、この2作とも小説としてはものすごく面白く、素晴らしく、何度でも読めてしまう。それは文章が素晴らしいからだ。そして、小説は細部に宿ると言うが、細部まで神経が行き届いた、嘘や手抜きの無い作品だからだ。語り手である子どもの視点が子ども騙しされていない。大人視点の子どもになっていない。本当の、あの不憫で真面目で融通がきかなくて弱くて可哀想で可愛い、子ども独特の思考が書いてあって、もちろん個人差があるので「わたしならそういうふうには考えない」とかはあるんだけども、ああでもこういうふうだったよなあ、としみじみ共感する。

それにしてもロクな大人が出てこんな。


猛スピードで母は (文春文庫)
長嶋 有
文藝春秋
売り上げランキング: 17,353


2013/09/12

ジャージの二人 【再々読】

ジャージの二人 (集英社文庫 な 44-1)
長嶋 有
集英社
売り上げランキング: 35322

■長嶋有
アマゾンでふらふらしておおそうじゃ、これは原作が好きだし良いのではないかということで「ジャージの二人」の映画のDVDを購入したのだが、まだ大切に置いてあるばかりで観ていない。
最近初読みが続いたのでここらで再読でもするかと思い、映画のための予習復習を兼ねて本作を引っ張り出した。

やっぱり面白い。
大好きだ、この話。

細かい感想は前回までに書いたので、今回思ったことだけ書いておくと、
①このお父さんは3回目の結婚なんだなあ。
②お祖母さんの改築好きは既にここでさらりと書かれていたんだなあ。
③どうも長嶋有さんは「結婚していて、だけど妻は他の男に真剣な恋愛感情を持っている」という設定に萌えているとしか思えない。ゲームなのだ。これは。
④これに出てくる別荘地のご近所さんは佐野洋子さんがモデルなのかなあ。違うかもしれないけど、でもやっぱりそう思って読んじゃう。
⑤カマドウマは前回検索したからもう見ない。
⑥あ、解説が柴崎さんだ。やっぱ仲良しグループなんだなあ。

いちばん感心したシーンは、「ジャージの三人」で、キャベツ畑で妻が主人公に腕をからませてきたときにとっさに振り払ってしまい、それでそれが「選択をした」んだと考えるとこらへん。それぞれの感情とか、微妙ないろいろとかあって、言葉でははっきりお互い言わないんだけど、でもこういう無意識のときの行動でね、肌が拒否るっていうか。わかっちゃうんだよね、一瞬でぜんぶ。
それでああもっとゆっくり考えて解決していきたいとか曖昧にしておきたかったのにとか後でいろいろ考えちゃう感じの、でも「選択してしまう」「せざるを得ない」「待ったなし」な時が人生にはあるというような意味のことを主人公はぐるぐる考えているんだけど、「そうだよなあー」ってすごく納得したので。

  選択。一瞬で、分かれ道の一方を選ばされた。どんな選択だったのかまったく分からないのに、選択したという感触が今なお右腕に強く残っている。
  あのとき妻はどんなつもりだったのだろうか。その瞬間のことを思い出しながら、腕をからませてきたわけを考える。
 (中略)
  分からないが、とにかく選択だった。選択してしまった。どうしようもなかった。日頃から人生は選択の連続のように見える。だけど本当には選択できる機会なんて、ごくわずかなのだ。大抵は、否応なく選ばされる。

あと、今回は「これ映画でも出てくるんだろうか?」というのをあれこれ予想しながら読んだ。
「和小学校」の読み方は忘れていた……。
↓ちなみにいまの文庫の表紙はこうなっている模様。


ジャージの二人 (集英社文庫)
長嶋 有
集英社
売り上げランキング: 59,948


2013/09/09

宵山万華鏡

宵山万華鏡 (集英社文庫)
森見 登美彦
集英社 (2012-06-26)
売り上げランキング: 126,722

■森見登美彦
連作短篇集。
祇園祭っていわれるとニュースとかで出てくるのは山鉾巡行が多いけど、これはその前日である「宵山」を舞台に繰り広げられる魔法のような幻想的な物語。

すっごく、良かった。面白かった~。
ファンタジーはあんまり読まないんだけどなーとか思いつつ読みはじめたんだけど、ファンタジーに染まりすぎない、現実の裏方の種明かしとかあって、でも100%現実でもない、やっぱり「妖し」の領域が残っているところが、そのさじ加減が。

イラストレーションは、さやかさん。
表紙の鮮やかな美麗イラストも良いし、目次と、お話ごとのからくり絵?みたいな連作の絵も面白くてわくわく。

宵山姉妹」ではじまって、ちょっと怖いような、不思議な物語の幕開け、これは妹の物語、「宵山金魚」はスケールのでかい明るいお祭り、陽気なバカさ加減が素晴らしく楽しく、「宵山劇場」で種明かし、青春って良いなあの微妙なツンデレ恋物語でもある。「宵山回廊」でちょっと落ち着いた娘さんと伯父さんと従弟の悲しいお話になり、それを受けて少しななめから見る「宵山迷宮」はミステリーのような、奇妙な空気を伴う。そして「宵山万華鏡」は姉の物語であり、すべてをのみこんでくるくる回る万華鏡のごとく、不思議は不思議のまま、すうっと終わっていく。

お話としては「宵山金魚」が一番面白かったし、頭の中にアニメーションのように豊かで素敵な映像が浮かんできてとっても楽しかったが、他のお話も捨てがたい。通しで出てくる金魚のような赤い浴衣を着た少女たち、宵山様……。それに、乙川君っていったいナニモノなの!?って感じ。まさか人外じゃないよなーいやでもえーっと?みたいな。

ジブリアニメの、「千と千尋」みたいな雰囲気がちょっとだけ近いかな? 怖くて、不思議で、でも綺麗。
寄り道しては、いけないよ?

2013/09/06

永久に刻まれて ―リディア&ビル短篇集②

永久に刻まれて (リディア&ビル短編集) (創元推理文庫)
S・J・ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 3,580

■S・J・ローザン 翻訳:直良和美
中国系アメリカ人女性リディア・チンと、白人男性ビル・スミスの私立探偵コンビ・シリーズの日本独自に編まれた短篇集第2弾。

第1弾『夜の試写会』が正直イマイチで、ローザンは長篇だけでいいやと思ったこと、直近に翻訳された長篇『この声が届く先』があまり好きな話では無かったことなどから、本書の出版情報をネットで見たときは今回はスルーしようと思っていた。
ところが先日、書店でこれを見かけていちおう帯や表紙裏などの紹介文をチェックしたらなんとあのリディアのご母堂が主人公の話が収録されているというではないか。
このシリーズにおいて、リディアの母親というのは脇役のくせにものすごく存在感のあるキャラで、東洋系の(西洋人とは異なる)、娘に対する関わり方の深さなどが他人事とはとても思えない、注目のひとなのだ。あのお母さん視点の話ですって!?それを読まずにいてこの先例えばネットなどでそれを踏まえた書評など目にした日には、どれだけもどかしい思いをすることか。これは、この1篇だけのためにも読まねば!

というわけで、出来不出来はぜんっぜん期待せずに購入、いの一番に読んだのはもちろんくだんの「チン・ヨンユン乗り出す」。リディア視点で読むよりも物分かりの良いひとになっていた気はする。

ざくっと作品別にレビュー。
注意!内容にふれています! いちおうネタバレ部分は白文字に。

永久に刻まれて
ビル主人公。リディアも登場。長篇第1作以前に書かれた古いもの。
レースの手袋キャラ、良かったのになあ。老ピアニストがピアノを手放した理由はあの咳とかが原因でいいのかな。やはり、ビルとリディアの雰囲気が初期は甘いね。この作品でリディアは初めてひとを銃殺するんだけど、わたしだったら彼じゃなくて捕まえられていたあの下種野郎のほうを撃ちたいところだ。それが感情のままに動く素人とプロとして仕事するひとの違いなんだろうなあ。

千客万来の店
リディア主人公。ネタが古くて定番なので面白かったのはリディアがおしゃれして出てきてお母さんが一瞬絶句するところだけだ。毎回思うけどリディアの服の趣味はわたしにはわからんなあ。若いのに、ラベンダー色のスーツってどうなの?

舟を刻む
リディア主人公。クルーズ中に行方不明になった娘の謎を解くために、同じ船の同じ航路のクルーズに乗って調査することを依頼される。この母親の描写がすごく思わせぶりだったんだけど、単に夫に萎縮してるのを表現してただけなのか。なーんだ。タイトルは「剣を落として舟を刻む」という「呂氏春秋」察今の故事(古い物事にこだわって、状況の変化に応じることができないことのたとえ)から。

少年の日」★★★
ビル主人公。
とても爽やかで気持ちのいい青年だっただけに、悲しい。残念だ。つらい話だし、読後もいろいろ考えてしまう。ビル自身が自分の過去の悲しみを引き摺っているから、いろんなひとの思いが積み重なるようでやるせない。

かけがえのない存在
ビル主人公。
バスケットボール・ミーハーな感じ。自分の夢がかなえられず、無邪気な天才の弟に尽くす実はもっと才能がある姉の話、最後の一文は悲しすぎる、残酷すぎる。
話そのものは、前振りから事件の犯人が容易に想像できるからミステリーとしては凡作だ。

チン・ヨンユン乗り出す
リディアのお母さん主人公。
事件そのものはテンプレと言いたいくらい型どおり。慣習や常識や世間体を重視しまくるお母さんの日常思考、いやーでも、我が子が孫が誘拐されてその相談に来るのに手土産が無いことを非難するというのはどう考えてもお母さんがおかしいよね。
長篇で読んでいるとお母さんはリディアの仕事に反対してるんだけど、この作品を読むと意外にも関心を持ち、娘の仕事ぶりを内心自慢に思っていることがわかり、リディアに教えてやりたくなった。っていうか、この後、お母さんから顛末を聞かされたらリディアはどんな顔をしたのかしら?と思うと楽しい。良かったね。

春の月見
これはリディアもビルも出て来ないが、次の長篇でリディアと組むことになる美術専門の私立探偵ジャック・リーが主人公なので収録されたとのこと。
それは別にいいのだけど、これもミステリーとしても小説としても型通り過ぎて……。発端を読んだだけでそのあとの展開が結末まで想像できてしまい、しかもそのとおりに進む小説を読むのはよほど枝葉が面白くなければ退屈極まりない。せめてジャックがもう少しキャラ立ちしてればねえ。

2013/09/02

きつねのはなし

きつねのはなし (新潮文庫)
森見 登美彦
新潮社
売り上げランキング: 10,340

■森見登美彦
先日『太陽の塔』を読んだらかなり面白かったのでただいま個人的に注目株のモリミー(勝手にニックネーム)。
書店でこれの冒頭を見たら、「天城さんは鷺森神社の近くに住んでいた。」という文章から始まって、鷺森神社に至るまでの鬱蒼とした場所とかが好印象だったのでおおっ、という感じだった。更に文章は次のように続く。

  長い坂の上にある古い屋敷で、裏手には常暗い竹林があり、葉の擦れる音が絶えず聞こえていた。芳蓮堂の使いで初めて天城さんの屋敷を訪ねたのは初秋の風が強い日で、夕闇に沈み始めた竹林が生き物のように蠢いていたのを思い出す。薄暗い中に立つ竹が巨大な骨のように見えた。

萌えである。
こういう文章、雰囲気、「長い坂の上」「古い屋敷」「常暗い竹林」それにこの「芳蓮堂」はたぶん骨董屋であろう。美しい。さっそくこれを購うことにした。

表題作を含めて4つの短篇から成る。
最初は独立しているのかと思っていたが読んでいるとどうも他の作品とがっつりではないものの少しずつリンクしていたり、ちょっとずらした感じで繋がっていたりする。
それにしてもわたしが既読の氏の他2作とは随分趣きの違う連作集であった。『夜は短し恋せよ乙女』も『太陽の塔』も、独特のヲタクっぽい、ちょっとアナクロチックな文体で、ユーモラスで明るい空気だったのが、本作はシンプルな飾らない語り口で淡々と語られるその内容が不思議でどこか狂気と妖しさを孕んでいる、ホラーというほど怖くはないがファンタジーとメルヘンチックに言い切れない底に沈んだ澱みが暗い。
情景が美しくて、いろんなことが謎めいていて、現代の話であるのに何か一昔前の寓話めいている、郷愁と異世界を感じさせる、そしてベースが古都・京都の日々の素顔。
すごく好みに合っていて、予想以上にどんぴしゃの面白さで、流して読むのがもったいなく、ゆっくりと噛みしめるように味わった。
以下、ざくっと感想。

きつねのはなし
これを読んだら伏見稲荷に気軽に行くのをちょっと躊躇う、かな? 二回行ってて大好きなんだけど。少なくとも狐のお面はちょっと手を出せなくなるかも? 主人公と、ナツメさんの関係が『ビブリア』っぽくて、一度そう思っちゃうともうずっとその「絵」で読んでしまった。たはは。

果実の中の龍
二部屋アパート借りて、そのうち一部屋は書庫状態で壁全部本棚、……って良いなあ!!
瑞穂さんも騙されていればもっと楽だったのかも知れない、っていうか自分だけが知ってるっていうの、苦しかっただろうなあ。
先輩に対して「私」や読者が抱く感想と、彼女のそれはきっと全然違うんだろうなというようなことを読後考えた。


これはなんかジュブナイルっぽいっていうか、青春ファンタジーぽくて、そのままアニメ映画とかにしても面白そうかな、とか思った。だいたい展開は予想通りで、ベタなんだけど、幼馴染みの剣道仲間の高校生とか、男子より強い女子とか、ちょっと不良っぽい一匹狼タイプとか、兄弟で弟は守られてる感じとか、いろいろ需要(?)がありそうな気がする。

水神
うちはこういう親戚付き合いの濃厚さ(?)というほどではないんだろうけど、伯父さんとかと一緒にお酒を飲むとかまあ無いだろうし、三人兄弟で祖父だの曾祖父だのいろいろ繋がっている一族の話、というのがいかにも京都の旧家っぽいという感じがした。
この話だけじゃないけど、京都の疏水って、そこらへんに住んでいる人たちにはこういう感じで生活に密着してるんだなあ。川とはまた違う気がする。南禅寺とかがすぐ近所でこういうふうに絡んでくるってなんかそれだけで不思議な雰囲気。4篇とも、京都の地名が出てきて、京都ファンにはいろいろ嬉しい。

初読みのときは展開が読めないサスペンスがあったが、これは再読するとまた別の味わいがあるはずの、とても大切に読み込んでいきたい作品集だった。珠玉。