2013/08/25

ブラバン

ブラバン (新潮文庫)
ブラバン (新潮文庫)
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津原 泰水
新潮社
売り上げランキング: 88,547

■津原泰水
本書の単行本が出版された当時「本の雑誌」の新刊書評で誰だったかが誉めていたように思う。未読でしかも将来的に読む可能性がある書評はネタバレはまあ大丈夫だろうけれども出来るだけ白紙に近い状態で臨みたいので書評も半目でナナメに見ただけゆえ詳しいことはわからないまでも、それがブラスバンドの話で部活の話であろうことは表紙イラストがトランペットを構える制服姿の女生徒だったから容易に推測出来た。
怪奇小説作家の津原泰水がブラバンの話?青春小説?
とは思ったものの、ミステリー作家恩田陸がミステリーでなく自身の高校時代の歩く行事を題材に作品をものしたりしているからそのクチかなと思っていた。
先日、津原さんの『瑠璃玉の耳輪』を読んだらあとがきに本書執筆の動機がさらりと書かれていた。引用しておこう。
【(前略)バジリコという零細出版社から出した『ブラバン』なる作品が、思いがけず売上げを伸ばしたことに端を発する。
 余談ながら僕が『ブラバン』を書いたのは、『少年トレチア』という作品に惚れ込んでみずから執筆依頼に訪れたバジリコの社長が、なんと偶然にも同じ高校、同じ吹奏楽部の大先輩だったからだ。本来の依頼のほかに、「その前哨戦として吹奏楽の話も」とごり押しされたものが、結果として売れた。まさか評判を得て大手の文庫にまで入るとは、誰も夢にも思っていなかった。


ブラバン
ブラバン
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津原 泰水
バジリコ
売り上げランキング: 573,072


さてめでたく読了しての感想であるが、結論から言うと、この話は青春小説ではなかった。
確かに高校時代のブラバンの部活のことも書かれているが基軸は四十代になっている〝いま現在"であり、過去を振り返って書くときもいまの、結果を知っている視点であるからだ。そして高校時代もいま現在も恋愛関係がけっこうドロドロで、そういうのが苦手なわたしには不愉快極まりなかった。狭い人間関係で二股とか教師と元生徒で二股とか不倫とか、なにやってんのという感じ。
先に嫌だった点を挙げたが、良いシーン、感動したところもいくつもあって、総合評価としてはまぁそう悪くないのだが「このエピすら無ければ~」と悔しい。

世代が違うし、高校でブラバンどころか部活自体やってないし、吹奏楽に詳しいわけでもない。主人公の性格や生き方にも全然シンパシーを感じない。行動原理が無責任でいい加減に思えて仕方ない。正直この小説には共感しにくかった。しかしわたしだって知っているグレンミラーやビートルズの音楽が出てくる。見たことはあっても触ったことすらない楽器に関する蘊蓄がしつこいくらい出てきてその情熱が伝わる、なにより、音楽の力を彼らは信じている。

特に感動したシーン。
お父さんとベースを買いに行くところ、買い物に行く前から買った後まで全部素晴らしい、少し泣きかけた。こういう話は昭和ならでは、という気もする。まだ未来が発展するとかろうじて信じられていた時代ならではの父親像なような。ブラバンの話だけど、さすがにコントラバスは買えないからベースなんだね。

登場人物はけっこう多いが読んでいるとけっこう覚えていける、混乱しても登場人物一覧がある。ただこの長さの小説にこれだけ必要だったか、エピソードも別に書く必要はなかったんじゃないのというのがなきにしもあらず、このへんは著者の高校時代への思い入れの加減だろうか。
「小説として、必要か」ではなく、編集者と共通の思い出で盛り上がって、著者の書きたいものを書いたんだろうなあという感じ。だって普天間さんの受難の話とか、前世が見える女の子の話とか、要る? ただそのことについて触れてあるだけで、それから主人公がどうした、というわけでもなく、書きっぱなしなのだ。ふつうは編集者が冷静になってアドバイスとかするんだろうけど出版社の社長自体が個人的な思い入れあるとか、なるほどそれでこの結果か、みたいな。

それにしても終盤の展開にはぎょっとさせられた、爽やかな仕上げにしても良かろうと思うのにこの展開、まあ津原泰水らしいのかもしれないけど。
なんていうか、いろいろ考えさせられるし、ストーリーには山も谷もあるし、ワイドショー的なゴシップなどもあるし、映画“スイングガールズ”みたいな感動が待ってるんじゃないかという期待感で終盤までぐいぐい引っ張っていく巧さはさすがだ。だけど好きかどうか、また読み返したいかどうかっていうと、うーん。

桜井さんと主人公は最終的にくっつくかも知れないけど、長続きはしなさそうかな。それは直近のことは語りたくなさそうな独白だったのもあるけど、お互いの性格を考えると難しそうという。
この小説を読んで、ひとに優しくするのって大事だなあとすごく思った。あと、議論に勝とうとするあまり、相手に対する思いやりや敬意を忘れた人間というのは実に醜い、というのが実によくわかった。

たどたどしくも日本語で語りかけたローマ法王を忘れてはいけない。

2013/08/23

日本全国もっと津々うりゃうりゃ

日本全国もっと津々うりゃうりゃ
宮田 珠己
廣済堂出版
売り上げランキング: 17,733

■宮田珠己
ふいと地元の小さな書店に行き、文庫コーナーを見た後いちおう単行本の新刊コーナーの前に立ったらこれの背表紙が目に飛び込んできてびっくりした。宮田珠己の新刊が出るとはノーチェックであったし、このレベルの品揃えの店にマイナーな宮田大兄の単行本がさらりと置いてあるなんて思ってもみなかったし、タイトルから”津々うりゃうりゃ”の続巻であることは明らかで、おおおあれは単発ではなかったのかと驚いたのである。そしてなによりも、喜び!!! おおおお、単なる暇つぶしの本でもあればと何気によってみたらばお宝発見!!てな感じだ。素晴らしい。

前巻『日本全国津々うりゃうりゃ』は2012年4月の刊行だったから、1年数ヶ月後の続刊ということになる。前のは、ツヅ浦々とひっかけたタイトルにしては自宅の庭をどーんと一周していたりしたが、今回のは全部ちゃんとどこかに「旅」をしていてそういう意味では普通だった。でもまったく普通の旅行記とはやっぱりどこか違っていて、それは宮田珠己のオモシロレーダーがへんちくりんだからである。何故そこで喜ぶ、というところでアンテナびんびんだったりする。しかし宮田大兄の言を聞いていると、おおそれは凄い、ちょっと行ってみたい気がする、というふうに感化されたりもする。
前がどうだったか記憶に無いのだけれど、今回の旅はほぼ編集のテレメンテイコ女史が同行している。『スットコランド日記』にも出てきたひとだなあ。ちょっとコワい感じの切れ者なイメージ。

寝転がって少しずつ読んだけどすごく面白かった。旅はいいなあ。非日常ってたいせつだなあ。
以下、目次を写しておく。

長崎
1「出島とヒマ。」2「ランタンフェスティバルは、張りぼてが重要。」3「軍艦島で滅亡気分。」
奈良
1「飛鳥、石めぐり。」2「天理の巨大ふしぎビル?」
北陸
1「不眠と座禅。」2「よい奇岩、よくない奇岩。」
道南
1「今なぜ道南なのか!」2「父と息子のふたり旅。」
奄美大島
1「でかいヤドカリがいる海は、シュノーケリングに向いている!」2「ぼくたちの”マイ池”。」3「シーカヤックで無人島。」
山形
1「羽黒山の階段スゴロク。」2「謎のご神体?」3「人面魚と、クラゲ水族館。」
横浜
1「疲れた日は、工場とジオラマを見に。」2「工場には小人が住んでいる。」
琵琶湖
1「竹生島波低し。」2「安土城、吹き抜け礼賛。」
山口
1「特大タコ滑り台ともんもんトンネル。」2「本州の西の端には何があるか。」
あとがき

表紙や本文にたくさん宮田さんのイラストが載っていて、楽しい。このひとの絵は面白い。
ブックデザイン:金子哲郎 編集:川崎優子

本書は「廣済堂よみものweb」というところで2012年3月から2013年1月まで連載されたものに加筆修正を加えたものだそうで、その連載はまだ続いているらしく、ということはつまり順調にいけばまた一年ちょっとしたら第三弾が出る、ということである。次は「さらに」とか「それから」はたまた「R」「Z」「ちょー」「鬼」「ネ申」とか付くのかなあ。いまから楽しみである。

2013/08/20

マローン殺し 【再々読】

マローン殺し―マローン弁護士の事件簿〈1〉 (創元推理文庫)
クレイグ ライス
東京創元社
売り上げランキング: 48,383

■クレイグ・ライス 翻訳:山田順子
弁護士ジョン・J・マローンものシリーズは初読み以来、折にふれて読みかえしてきたから、本書ももっと最近読んだ気がしていたのだが、調べてみたら前回の再読は2003年、それも数篇だったらしい。10年ぶりかあ。どうりで忘れていることが多かったわけだ!

短篇集で、アマゾンの表記には<1>とあるけど<2>以下は出ていない、と思う。
10篇収録。ネタバレしない程度にざくっとレビュー。

「マローン殺し」★★★
なんとマローンは自分が殺されたという新聞の見出しを見ることになる……。秘書マギー嬢大活躍。ユーモアたっぷりのドタバタコメディ。これぞライス!楽しい。ミステリとしては単純なんだけど、それ以外の要素が良すぎる。

「邪悪の涙」★★★
愛し合っていた夫婦の妻が殺された……。読後もしんみりしてしまう話だ。ミステリとしても美しい。

「胸が張り裂ける」
再審が決まったのに刑務所内で首をつった容疑者、真相は。歌の歌詞が重要な役割を果たす。この犯人はひどいなあ。

「永遠にさよなら」
その曲の最初の4小節を演奏すると災厄すなわち死がおとずれるという迷信があった……。楽器で殺人といえばと思いきや。

「そして鳥は歌いつづける」★★
額を打ち抜かれて殺されていた美女。一方で、朝、鳥の声がうるさくて銃をつかったという天然ぽい妻が夫とともにマローンに相談にくる。真相は?この短い中でぐるぐるして、人間真理が絶妙。

「彼は家へ帰れない」★★
家庭的な広告で活躍している可愛いモデルのアパートに刃物が刺さった殺人死体が。弁護士って、こんなことまでしちゃっていいの?これもややこしいようで実はすっきり解決が。

「恐ろしき哉、人生」
マローンの行きつけのバー・天使のジョーの甥っ子ふたりがトラブルに巻き込まれた!いつもの恩返しをするときはいまだ。天使のジョーの身内には葬儀屋さんがいることまで判明。ミステリとしては竜頭蛇尾っぽいけどライスファンには楽しい。

「さよなら、グッドバイ!」★
彼女は頭がどうかしていて、自殺未遂の狂言を繰り返す?
どうしてマローンは若くてきれいな娘さんにこうも簡単に信頼されるのでしょう。身分を名乗らないうちに。なんともいえない魅力と、説得力があるんだろうなあ。ヘレン・ジャスタスも登場。

「不運なブラッドリー」
”不運なブラッドリー”と呼ばれるお金持ちの慈善家のうわさがあった。彼に仕事を紹介してもらったその日暮らしの労働者たちは皆そのあと行方不明になるという……。
この話はややこしいうえにスッキリしないのであった。不思議な雰囲気なので面白いけど。

「恐怖の果て」★
この話も途中まで何を言いたいのかよくわからなかったがともかくも読んでいって、最後まで読んだら要は単純なスジなのだがそれを持って回って書いた話なのだった。それでダメなわけじゃなくて、主人公の女性のキャラクターが立っていて、面白いサスペンス風になっている。

2013/08/17

ボタニカル・ライフ 【再々々読】

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)
いとう せいこう
新潮社
売り上げランキング: 57,882

■いとうせいこう
4回目の通読。
4回目なのでもうだいたい内容は覚えているのだが、細かい言い回しとかが面白いので相変わらずにやにやしながら楽しめる。

それにしても、わたしも「ベランダー」の端くれなのだが、いとうさんのベランダ園芸というのはとっても大雑把だ。そして次から次に新しい植物を買ってきては枯らしたり飽きたりして、また次の刺激を得るために新たな鉢を加える…という感じで、もうちょっと腰を落ち着けて、いまある植物たちを大きくすることに情熱を燃やしたり、レイアウトとか鉢とかに凝ったりとかしないのかなあとちょっと思っちゃうけどしないらしい。

詳しい感想は前回まででいろいろ書いたのでこのへんで (っ´∀`)っ

2013/08/12

文・堺雅人 2 すこやかな日々

文・堺雅人2 すこやかな日々
堺 雅人
文藝春秋
売り上げランキング: 779

■堺雅人
本書は、雑誌「CREA」2009年10月号~2013年4月号に連載された「月記」に加筆したもので、ただし、まえがきにあたる「からだ。」は辺見じゅん主催の歌誌「弦GEN」17号(2011年10月27日発行)掲載の記事をもとにしているとのこと。
2013年7月10日 第1刷発行。
わたしが入手したのは同年同月15日の第2刷だ。
前の『文・堺雅人』は出版されてからずいぶん経ってから読んだのだが、今回は発売されて1週間以内に買いに行ったのに第2刷ってどういうこと!?って感じ、たぶん最初の予定より売れそうなので追加で刷ったんだろうなあ。

『文・堺雅人』のときにどう思ったかは忘れたんだけど、今回は読みはじめてすぐに漢字と平仮名の遣い分けに特徴があるなあ、というのがすごく気になって、内容もさながら、漢字のひらきかたに注目しながら読んでいった。「考える」とか「見た」「知った」とか、全部「かんがえる」「みた」「しった」という具合。別に平仮名ばっかりというわけじゃなく、例えばとうふは「豆腐」。
いきあたりばったりじゃなく、意識的にひらいてらっしゃるなあ、と思うのと同時にそこまで文章についてポリシーを持って書かれるというのはとても俳優の片手間仕事とは思えない、いろいろ読んで、いろいろ言葉について見識のある方であればこそだろうなあ――――、というようなことを感じた。

内容は前回と同じく、俳優さんとしていろんなお芝居やドラマや映画でお仕事をする、そのなかで役作りや作品に触発されて考えたことなどを、つらつらと思考をまとめつつ、できるだけ簡単な言葉でわかりやすく書いてくれてある。

わたしは基本的には映画もドラマもお芝居もほぼ見ないので、そんな人間が云うのはおこがましいのだがいちおう堺雅人さんのファンである、と思っている。本書はファンにとって、堺さんの内面のほんのひとかけらでもつかめたら、という願望をかなえてくれる感じがして有難ーーい御本だと思う。

途中で、カラー写真がいくつか載せてくれてある、モデルさんみたいな感じの。本文についているモノクロの写真はスナップショットっぽい。

本書の中で一番「ああそういうことか!なんとなく違和感あったけど、その解釈でめっちゃすっきり!」と思ったのは「喜怒哀楽」についての文章。「読書感想文」についての文章は、日常的に読書感想文を書いてそれをブログとしている身にはいろいろ勉強になりました。

この本を読んで、ちょっといくつか映画を観てみたいかな?と思って、でも実行するかはまだわからない。映像作品が苦手なので、観るのには心構えとパワーが必要なのだ。「俳優さん」だけを観ていればいいのならいくらでも観られるんだけどなあ(そんなのは映画じゃない)。

2013/08/10

生ける屍の死 【再読】

生ける屍の死 (創元推理文庫)
山口 雅也
東京創元社
売り上げランキング: 72,517

■山口雅也
ミステリー作家山口雅也のデビュー作。1989年10月に東京創元社から上梓され、1996年2月に文庫化されたもの。(初読みがいつかは不明だけど、わたしがHPを作る2001年7月より以前だったことは確か。)

明るく、ポップで、ユーモアにあふれた、しかも本格ミステリなのである。
忠実に映像化するとちょっとグロいかもしれない。なんせ死体がうようよ出てくる。
舞台はニューイングランの片田舎にあるトゥームズヴィルという墓の町。スマイリー・バーリイコーンの手がけるスマイル霊園が手広く葬儀屋を営み、町のほとんどがお墓という土地柄である。

このところアメリカでは、信じがたい異常事態が起こっていた。たしかに死んだはずの人間が、あっちでもこっちでも生き返っていたのだ。

日本と違い、土葬の習慣が根強く、火葬は嫌われがち。アメリカではお葬式のときに故人を参列者にお披露目するためのエンバーミング(死体防腐処理技術)が施されるのがふつう。これ、初めて読んだときはめちゃくちゃびっくりした。えっ、全身の血を抜いて、その代わりに防腐剤注入しちゃうの!?とか。感覚が違うんだなあ。
600ページを超える長篇で、ミステリの骨子だけならもっと短くなるところに枝葉・枝葉末節なんのそのでてんこもり。この小説の読みどころはその、これでもかと盛り込まれたアメリカの葬儀屋にまつわる薀蓄・トリビアだ。それと繰り広げられるアメリカンなドタバタ・コメディ・ギャグ・ミステリー。素材が素材だけにブラックのキョーレツなやつもある。

主人公は、パンクな格好の少年、グリンことフランシス。スマイリーの孫で、好奇心旺盛、見かけによらず素直でまっすぐな好感の持てる良い子なんである。考えることが好きで、知識も豊富。本書における名探偵役である。
そのコンビは通称チェシャ(アリスのチェシャ猫から)と呼ばれる同じくパンクっぽい恰好をした少女。彼女は底抜けに明るく、あっぴろげで、猪突猛進型。グリンのように深く考えたりすることは苦手みたいで、後先考えずに突っ走るけど、こういう子は強運も連れてるみたいね。

霊園を舞台に、経営一族をめぐる殺人事件……というと、日本だと愛憎絡んだどーろどろのぐーろぐろになると思うんだけど、舞台がアメリカ、しかもノリがパンク! ピンクの霊柩車に乗って主人公が登場したりするんだから目を白黒させちゃう、でも楽しーい!
死人が蘇るという常識もリアリティもぶっとぶ世界の中で、本格ミステリなんて成立するのか!? と危ぶまれるむきもあろう。だがしかし、山口雅也はスゴかった。きっちり、やってくれる。この奇妙な世界も、あらゆる枝葉も、みんなきちんと最後に向けての見事な伏線となっているのだ!!

いかにもアメリカっぽいイメージが書かれてるなあ、と思ったのは事件が複雑化すると警部が精神分析医に通うシーンかな。13日の金曜日とか「早すぎた埋葬」が出てきたりして、多分わかるひとにはもっとわかるんだろうけど、いろいろ細かい「ニヤリ」ネタが仕込まれている。あっちこっちにユーモラスなシーンが盛り込まれていて、真面目に考えると結構グロテスクなのにそれを感じさせない。
10年以上ぶりに読んで、以前読んだ記憶はほぼ消えていて「すごくハイセンスで、しかも面白かった」という印象ははっきりあったのだが、今回もそれを裏切られなかった。昔と違うなあ、というのはバブルのジャパン・バッシングが扱われていることかな。

解説は法月綸太郎。ノリノリで、長くて丁寧。文庫表紙を開けるとまず中扉にアオリ的なコメント欄があるのだが、その執筆者が北村薫。
ワセミスつながりだね~。

なお、ピーター・ディキンスン『生ける屍』とは関係ないようだ。こちらは古書蒐集家にはお馴染みのサンリオ文庫で絶版で、長らく高値がついていた伝説の書だったようだが、本年6月にちくま文庫からめでたく再販された模様。これ、未読なんだけどレビューとか見ると「読者を選ぶ」らしい。どうしようかなあー。。。

生ける屍 (ちくま文庫 て 13-1)
ピーター・ディキンスン
筑摩書房
売り上げランキング: 16,773


2013/08/05

瑠璃玉の耳輪

琉璃玉の耳輪 (河出文庫)
津原 泰水
河出書房新社
売り上げランキング: 76,363

■津原泰水 原案:尾崎翠
津原さんの『たまさか人形堂物語』を読んでいるときに書店に行ったらこれが新刊コーナーにあって、目に留まった。尾崎翠といえば『第七官界彷徨』のひとである。昭和初期に創作活動を行った少女小説のひとで、近年再評価されている、一部の愛読者には神さまのように愛されている作家。
尾崎翠をなんで男性であり怪奇作家である津原泰水が?
イメージ全然合わないなあ、と思いつつ手に取り帯を見ると「名探偵 岡田明子 最初の事件簿」とある。探偵小説なのだ、それならまあ、津原さんが出てくるのもわからないでもない、かな?
とりあえずいま読んでいる作家の本に偶然気付いたのはご縁だし、尾崎翠が絡んでいるとなると見逃す手はない。とりあえず購入。
それにしてもあまりにも意外なとりあわせだったので、本編に取り掛かる前に「単行本あとがき」を読んでみた。
引用すると【昭和二年二月、尾崎翠は映画脚本「瑠璃色の耳輪」を、阪東妻三郎プロダクションの公募に応じるために書いた。】のだそうだが、入賞には至らなかったということで、【これが遂に一般へと開帳されたのは、尾崎の病歿から二十七年を経て出版された『定本尾崎翠全集』(稲垣眞美編)においてである。】とあるから、尾崎翠の原稿を読みたければ大きめの図書館などに赴けばそう難しいことではないようだ<後記>参照。ちくま文庫で読めます。

何故この脚本を、津原泰水が小説化することになったかの経緯は引用で単純に説明することは難しく、まあ簡単にいうと津原さんが「是が非でも」と電光石火で仕事したわけでは無くて、2人の編集者との信頼関係とか、その編集者の熱意があったからそれに応えるべく、みたいな感じかな。本編読了後読んだ「文庫版解説に代えて(尾崎翠フォーラム2011講演抄録『通底する記号性 ―――「たま」の物語から第「七」官界へ』」によれば、隣県出身作家であったことから高校時代に手にはしたものの、その真の魅力に気づいたのは小説家になってから、とのこと。全然作風違うし、大人の男性が読むジャンルでもないと思い込んでいたけど、それは誤認だったわけだなあ。

さて実際読んでみての感想だけど、津原泰水の小説を読んでいるという気がしなくて、まさしく「昭和初期に書かれたちょっと妖しい探偵小説」を読んでいるとしか思えない文体・雰囲気になっていて、見事であった。もっとも、原案のすじだて、トリックなどそのままだととても現代にミステリーとして出版するレベルではなかったようで、それを補強するために前半から登場人物を増やし、それぞれの役割を補強したりして、後半は大幅に津原さんのアイディア、ストーリーになっているらしい。それでも文体はそのままだから違和感は無かった。なかなかスケールの大きいネタで、これもなんか昔っぽいなあ。この話にはいろいろうさんくさい理論付けがあるのだけど、それについても「あとがき」で「作品に登場する様々な似非科学はその一切、尾崎の着想を現代に通用しやすくするため、僕がでっち上げたものとお考えいただいて差し支えない。」とある。これ、先に「あとがき」を読んであったからいいけど、いきなり本編読んだら「なんじゃそりゃー」って感じにならないのかな。昭和初期に書かれたもんならこんな感じ、と納得してたかな。
尾崎翠の少女小説しか知らなくて読んだ身にはなかなか妖しいお色気とかも出てきてこんな刺激的なの、どこまで「原案」でどこからが津原色なんだろうかとか思った。機会があれば原作のほうも目を通してみたいものだ。

昭和3年、若き女性探偵・岡田明子はヴェールにつつまれた謎の貴婦人から不思議な依頼を受ける。三姉妹を探して欲しい、彼女らは左の耳に瑠璃玉が嵌った白金の耳輪(ピアス)をしている――――。

現実から遠く頭を引き離し、細かいことには目を瞑り、レトロチックな冒険活劇と割り切って読むがよろしかろう。

<後記>
ちくま文庫『尾崎翠集成(下)』に、「瑠璃玉の耳輪」の梗概、本編が収録されています。わたしも2002年に入手済み、読了本でしたが忘却の彼方でした。今回改めて読み直してみました。


尾崎翠集成〈下〉 (ちくま文庫)
尾崎 翠
筑摩書房
売り上げランキング: 132,722

本編は193頁から294頁の短篇で、津原さん版や「単行本あとがき」で予想していたものとは全然違う雰囲気の物語でした。これは、探偵小説としては読めないなあ。あらゆるところで推理小説、探偵小説としては有り得ない展開があり、あまりのことに開いた口がふさがらないというか。ベールの夫人、探偵雇う必要ないじゃん! 探偵に依頼しといて自分のほうが上手行ってるじゃん! 探偵の方も依頼人が見つけたのにだが断わる、みたいなこと言ったそばから車の後ろに張り付いていくとかうわーカッコ悪~!
――ツッコミドコロ満載、なのである。でも、これが「尾崎翠ワールドの、お話なの」と割り切れば、妖しく非現実的な、探偵風味?の物語として読めてしまうという……。
とりあえず、「原案」がものすごーく芯のところの、登場人物とか初期設定だけのモンダイで、津原版はほとんどが肉付けとかストーリーとかトリックとかほとんどオリジナル、ということがよっくわかりました。
テーマすら違うのだ。別物ですね。

2013/08/03

たまさか人形堂物語

たまさか人形堂物語 (文春文庫)
津原 泰水
文藝春秋 (2011-08-04)
売り上げランキング: 167,316

■津原泰水
この著者の作品は昔『蘆屋家の崩壊』だけをよんだことがあって、これはポーの『アッシャー家の崩壊』をパロディにしたタイトルなのだがミステリアスな雰囲気の怪奇小説である。単行本と文庫で都合2回読んだ。舞台立てが好みなので悪くないのだが、やはり根がホラーを苦手としているので根底にある気味悪さが嫌で、この作家の他著書も読もうという気にはならなかった。
先日、友人から創作人形作家の展示会の知らせと共に本書をオススメいただくメールを受けたときはだから、著者名を見て少々意外の感にうたれたものだ。津原さんが人形のお話を?怪奇小説?いやでもこのメールの文脈からそれは考えられない。数年前にホラーでないさわやかな青春小説だという『ブラバン』が評判になっていたから、これもその「怪奇じゃない津原」のクチだろう、とあたりをつけた。ネットでググってみると、人形修復をするお店のほのぼのしたお話のようだ。おお、これは。というわけで読んでみた。

主人公は、澪さん(苗字は出て来ない)という三十代の独身女性。広告代理店を突然リストラで辞めさせられ茫然としていたのが、流れで代々稼業の「玉阪人形堂」を祖父から継ぐことになった。戸惑いつつも、良い職人さんに恵まれ、小売りより修繕がメインとして細々と商いをしている。「玉阪」は屋号だと断るシーンがあるから、苗字とは別、なのかな。
玉阪人形堂のメンバーはあと二人で、職人さん。ひとりは二十代、新卒の青年冨永君、資産家の息子らしく低賃金でもいいから雇ってくれと押しかけてきた人形好きで好奇心旺盛で遠慮のない口のきき方がユニーク、もうひとりは中年の、落ち着いた佇まいだけど家族も前職もプライベートはなにもかも謎の凄腕の職人シムさんこと・師村さん。
6つの連作短篇集。ミステリー風味だけど人情譚の色が濃い。すべて「たまさか人形堂」が舞台になっている。いろんなお人形が出てきて(市松人形とかテディベアとか西洋人形、マリオネットや文楽人形まで)、とても楽しかった。謎解きもあって、面白い。1つ1つのお話は短めで読みやすい。キャラクターも良いよね。

以下、感想はネタバレあり。
未読の方はどうか読まないでください。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψ


「毀す理由」
「毀す」とは難しい漢字だなあ、というのがタイトルを見たときの率直な感想。
それがいないと眠れないテディ・ベアを何故だか修理してもすぐ毀してしまう幼い坊やの話と、非常に精巧に作られた美しい女性型のドールの、こわされた顔面の修復を依頼してきた女性の話がひとつにまとまっている。あとがき「跋」によれば元々初出の雑誌上では2つの話だったのを単行本にまとめるにあたり「合成」したのだという。
人形の毀された理由、そもそもその「人形に人間のほうを似せてしまう」行為はちょっと理解し難いものがあったがいかにも『蘆屋家』の著者が書きそうだなと思った。人間は年々老いていくものだが、彼女はこれからも定期的にこわすんだろうか。ぬいぐるみの熊君が手足を引きちぎられる理由、修復のやり方などもわからないではないがどうもすとん、とは納得できない。この男の子は幼稚園か家庭内かいずれかで問題を抱えているんじゃないのかな。ちょっと変わってる、こういう個性の子というだけの理由かもしれないけど。
「恋は恋」
ラブドール、ひらたくいうならダッチ・ワイフのうんと高級で精巧な作り版、ってことかな?の出てくる話なのだが、これへの冨永君の感情も、それを見ている澪さんの反応も共感しにくかった。わたしは人形好きだけど、恋愛対象にするひとの気持ちは全然、想像だに出来ない。でも男性にはわかるのかな。出てくるひとみんな興味持ってたもんね。実物目の前にしたら納得するのかも。この話で個性の強い束前(つかまえ)さんという男性が登場し、単発かと思っていたら準レギュラー化する。
「村上迷想」
6篇の中で最もミステリーっぽい。人形で有名な村上市が舞台。澪さんの遠縁の歯科一家で起こっている謎の死は。「このひと怪しいなあ」と疑いまくってたんだけどまあ、よく考えたらそんなストレートでは推理小説にならないか。真犯人がわかって、いろいろ思い返して考えさせられてしまった。ううむ、恐ろしい。
「最終公演」
人形カラクリの名手と謳われる巨匠の舞台の話。ちょっとミルハウザーっぽい。ふつうの感動話と思って読んでいたから、最後の種明かしにぎょっとし、まさかと思い、仰天。そんなことって、あり得るの!?
「ガブ」
束前さんは師村の前身を知っていた!? 謎のシムさんの過去にまつわる物語。悲しい。
「コレクター」と呼ばれる女性が個性的でいい味出してるなあ。もっと出てきて欲しい、彼女の話が読みたい。
「スリーピング・ビューティ」
たまさか人形堂を突然閉めると言い出した澪、でも心の底では未練が残っている。本書を購入前にアマゾンでググった身には本書には続刊があることを知っているから最後は落ち着くべきところに辿り着くんだろうとわかってしまっているのでハラハラ出来なかったのが残念。それにしてもどうしてこんなタイトルなのかと妙に思っていたら最後で判明。えええええ。危ないよ澪さん~。