2013/07/30

0能者ミナト <6>

0能者ミナト (6) (メディアワークス文庫)
葉山透
アスキー・メディアワークス (2013-07-25)
売り上げランキング: 244

■葉山透
霊能力じゃなくて“0能力”な九条湊が、怪異を思いも寄らない手段・方法ですぱーんとやっつけちゃうシリーズ第6弾。
めっちゃ面白かった!!デス!!!
今回は表紙を開くとなんだか可愛げのあるミナトのイラストがお迎えしてくれる。可愛いのも当然、このミナトはまだ高校生なのだ。その裏はモチロン、女子高生時代の理彩子姉さんのセーラー服姿。

以下は、内容(ストーリー)などに触れた感想です。
本書を未読の方は、スルー推奨ε(*´・∀・`)з゙です。


注意★以下は、ね た ば れ あ り なので未読の方は読まないでね★
というわけで、今回の物語はミナトがまだ今ほど世を拗ねていなかった頃、素直さの残る少年時代から端を発する事件だ。そして怪異は、じゃーん。イヨッ、待ってマシタ★の「件(くだん)」!!
件はね~学生時代小松左京に親しみ、内田百閒に出会ってゾッコン愛している身にはやっぱ特別な怪異なのだっ、怖いけど。絶対会いたくないけどね。だって予言が悪いことしか言わなくて、絶対当たるとか嫌すぎる。
自分が気になってる件のお話だからか(いやそれだけじゃないなきっと)、今回のお話はめちゃめちゃ面白かった。巻を措く能わずという感じ(実際はままならないから中断何回かしましたケド)。
少年時代のミナトが可愛げがあるだけじゃなくて、今回のミナトは暴言もいつもより少なかったし、恩義ある警部さんへの敬意をきちんと払ってたし、すごく礼儀正しい面が見られて、なんかほっとしたというか、ちゃんとひとを大事にする気持ちはあるんだな、って感じられたのが良かった。
あと、バトルじゃなくて頭脳戦だったのも面白かったし。
バタフライ効果とか、そういう、普通に聞いても「なにそれなにそれ」って興味を刺激されるようなことがいっぱい出てきたのがわくわくしてすっごく面白かったんだよね~!
葉山透の描く「件」は、いままで「牛の体に人間の頭」「予知をする」「すぐ死ぬ」という設定は読んだことがあったけど、それをもっと理屈とかつけて、ぶ厚くこねまわして。味付けいっぱいして濃厚に!って感じで追求してあって、おおおおお、と大興奮。ああこういう、「わけのわからないもの」に「わけとりくつ」が付いて「科学的に論理的に説明してるっぽい」のってめっちゃ面白い~っ!!
映像的に「凄いっ」と思ったシーンは列車に中年男性が飛び込んで、それがあれよあれよというまに大惨事になっていって、ミナトがこれでもかのアクションシーンみたいなのをやって危機一髪! のシーン。
読んでていちばんニヤニヤして面白かったのは、高校生時代のミナトが理彩子を待ち伏せ→喫茶店での会話、のシーンかな。笑えました。でもやっぱ可愛いよね。
解決方法は、「えっ」と一瞬思ったけど、でも容赦なくて、いままで湊の先輩とか警部さんとか多くの犠牲者を出していて「うううう」と眉根が寄っていたのがスカッ!としました。いやでも恐ろしい怪異だね、だって全知全能っぽくない? スケールでかすぎてびびったよ……。
いつものような三部構成で、「首」がミナト高校生時代の事件、「件」がそれに端を発する現在の事件、「戯」は無事解決のあとのお口直し的な。
いままで最後の短いお話はいつもミナトや理彩子など大人チームの閑話って感じだったんだけど、第6話は本編が大人世代中心だったため、沙耶ちゃん視点の、ユウキくんとサトリの倫寧ちゃんが中心のお話だ。沙耶ちゃんは倫寧ちゃんに「可愛い小さい女の子、萌えvvv」って内心大興奮なのに、なぜだかそれを表面に出すことは控えまくってて、だから一緒に遊べないという……。えーと、なんでその「可愛い~っvvv」をオモテに出しちゃイケナイのかな??? オジサンとか高校生男子が幼女萌えというのは一歩間違えればハンザイ扱いされちゃうかもだけど、女子高校生が小さい女の子ときゃいきゃいするのはなーんの問題もないと思うんだけど。うーん、わからん。恥ずかしい、のかな? でも相手サトリじゃん……。表面だけクールにお姉さんぶるとか意味ナイじゃんっ!
えーと、第6話の本編は、第5話の最後で理彩子さんが振った事件とは違うらしい(どういうフリだったかなんて忘却の彼方だ)。なんでそうなったのかな???
くだんのはは (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所
売り上げランキング: 34,798

2013/07/27

夜のフロスト 【再読】

夜のフロスト (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 8,255

■R・D・ウィングフィールド 翻訳:芹澤恵
本書はイギリスの架空のデントン市を舞台にジャック・フロスト警部を中心に次々に起こる事件とそれに限られた人員で署員が奮闘するさまを描いた傑作警察小説のシリーズ第3作。原書は1992年“Night Frost”。本邦では2001年6月、創元推理文庫から刊行された。
約12年ぶりの再読だが、ほとんどのことをきれいに忘れ去っていたので初読みみたいなものである。

今回も冬の真っ只中、しかも市内には流行性感冒(いわゆるインフルエンザ)が蔓延し、それでなくても人員不足のデントン署は頼りになるアレン警部以下多数が病欠で、青色吐息に陥っていた。
老女連続殺人事件、15歳の新聞配達の少女失踪事件、やはり15歳の少女の自殺は遺書があったはずなのにそれが見当たらない。ポルノビデオの違法販売、何者かが市内のあちこちに送りつける告発の体をとった誹謗中傷文書、若き美術商とお色気たっぷりの若妻への脅迫・放火・殺人予告……。

今回の相棒は新米部長刑事のギルモア。洒落者で、デントン署などという土田舎に配属されたことを本人もその妻もおおいに不満に思っている。その仏頂面を隠そうともしないのはいただけないが、彼は実に有能な刑事で、フロスト警部の穴だらけの行動をちょこちょこナイスアシストする。内心はいい加減で無能な警部の下に付かされたことをついていないと思い、フロストのことも基本的に軽蔑しているが、しかし文句も言わず、あの「いつ寝てるのか」というぐらい働き続ける警部にしっかり付いていく。素晴らしい人材ではないか。初読みのときの記憶ではあんまりいい感情をギルモアに持っていなかったような気がするのだが、今回読んでみておおいに感心した。第5作の芋にいちゃんの駄目っぷりに怒り心頭に達した身には清々しさすら感じる。すっかりギルモアのファンになってしまった。

それにしても、フロスト警部は大好きだし実は鋭い推理力を備えたとっても良いキャラなのだけど、基本的に行き当たりばったりだし、よく失敗するし、口を開けば下品な話をするし、場をわきまえないし、常にヨレヨレの不潔な格好だし、……正直、小説のキャラクターだからおおいに笑っていられるけど、同じ職場の直属の上司とかだったら大変な困ったちゃん、時にはかなり迷惑な存在なんじゃないでしょうか? 冷静にリアルに彼の欠点を数え上げているとなんでフロストの応援をしてしまうのか自分でもわからなくなってくるという……。

間違い・ヘマを繰り返し、直観に頼って玉砕し、マレット署長の嫌味攻撃、書類出したらんかい報告せんかい地獄も相変わらず、一度出勤したら交代要員がいないこともあって延々出ずっぱり働きっぱなしのフロスト、いったいいつ休んでいるんだろうという感じ。文字通りのワーカホリックだ。奥さんが亡くなってしまって家に帰っても空しいだけの警部は仕事に逃げてるのかなあ。でもそれに付き合わされるギルモアはたまったものではなく、疲れ切ってやっと獲得した数時間の睡眠のため帰宅するたびに妻に「こんな田舎に連れて来られて」「自分ひとりでずっとどこにもいけずに待っていなくちゃいけない」と金切声で責め立てられる。まぁ、奥さんの気持ちもわからんでもないけど、頑張って働いてくれてる旦那さんにその言い草はないんじゃないの?なんでそこまで当り散らすのかな、我が儘だなーと思わないでもなかった。

フロスト警部の推理というのは主に直観に因っていて、本人はものすごく信じてとりあえず容疑者をしょっぴいてきて尋問し、相手が認めればOK、という非常に乱暴極まりないやり口で、無実なのに警察に疑われる身を想像するだに迷惑である。
それでも読んでいてフロスト警部を嫌いにならないのは、警部が事件の解決だけをひたすら目指していて自分の出世や上司受けなど屁とも思っていない、という揺るぎない姿勢があるからである。

初読みのときはマレット署長がほんとに小役人で俗物で鼻持ちならない頓馬で役立たずのスットコドッコイとしか思えなかったのだが、今回シリーズ1話から順に再読していて痛感したのがこのシリーズのユーモアの担い手、第一級のエンターティナーは主役のフロスト警部なのは勿論なのだが、その素晴らしいボケ役の相方としてのマレット署長なくしてはこの漫才(?)は成り立たないのではないか、ということである。極度に誇張されたような上役へのへつらいっぷり、権力には逆らわず、唯々諾々と言いなりになり、部下の手柄は自分のもの、組体操の下っ端がどんなにつらい荷重を追っていようと上に上がるのは自分だと平気で踏みつけていく厚かましさ、それを正当化する無類の無恥っぷり。こう列挙するとほんとにクズみたいなもんだが、書かれ方が非常にユーモラスで仕舞に笑えてくるのである。

カンだけを頼りに、フロスト警部が真相にたどり着くためには「ツキ」と「運」の助けが必須。真面目な捜査官なら白目を剥くようなやり口が散見する。いろんな意味で、すごいとしか言いようがない。
今巻は特に、犯人がつかまるまでは憎しみが募る一方だったのが実際供述を読んでみるとなんだか複雑な感情がわきおこる、単純に快哉を叫ぶ気になれないものが多くて、ううむという感じだった。いやもちろん犯罪も犯人も許されるもんじゃないけど。
第2作では文中に出てるのに主要登場人物表にすら記してもらえなかったジョン・コリアー巡査も活躍(?)。1990年の話とあって、文明の利器、コンピュータも導入されて大活躍する。携帯電話はまだである。これがあったらフロスト警部はマレット署長からの叱責を逃れるのがますます難しくなるね。
第5作まで読んでの感想だけど、このシリーズはどれもベストテン級の面白さだけど、中でも本書はベストなんじゃないかな?

2013/07/26

悪魔が本とやってくる 吉野朔実劇場⑦

悪魔が本とやってくる (吉野朔実劇場)
吉野 朔実
本の雑誌社
売り上げランキング: 10,500

■吉野朔実

2013年7月25日 初版第1刷発行

初出 「本の雑誌」2010年5月号~2013年8月号
対談 「英国式」入江敦彦×吉野朔実

帯コピー 「いっしょに読む? /悪魔が本を持ってくるのか、本が悪魔を連れてくるのか?」

◇連載タイトル
記憶にございません/コラボレーション/ひとりカズオ・イシグロフェア/恐怖の食卓/イザ、再びの京都へ/今さらフランケンシュタイン/誰でもはじめはチートイツ/ひと文字名前に囲まれる/ピダハンな人々/見る前に読んでしまった/天才は何を読んでいたのか/嘘語り/ロボット/何も語ってはならぬ/あの本を書いた人はこんな本を読んでいます/でも、さっきそうおっしゃったじゃねえか!/競馬って楽しい!!/献辞/禁じ手/いつか猫を飼う日まで/駅には怪しい秘密がある/逃げる

2013/07/23

間取り図大好き!

間取り図大好き!
間取り図大好き!
posted with amazlet at 13.07.22
間取り図ナイト
扶桑社
売り上げランキング: 34,182

■間取り図ナイト・編
吉野朔実の書評漫画の最新刊『悪魔が本とやってくる』が先日発売されて、喜んで買ってきた。「本の雑誌」を毎月買わなくなって2年くらい?経つので、いままでと違い、ほぼ初読みばかりだった。そんななか、自分の読んでいる本について書かれていたり、リンクしていたりすると妙に嬉しい。

「あとがき」で間取り図の本について触れられていて、おおなんだか面白そうと思っていて、次の日書店をぶらぶらしていたら建築コーナーにこれが表紙見せでディスプレイされていた。おお、単行本なのに千円未満。中をパラパラ見るに、変な間取り図ばっかりだーうわっ。というわけで購入。

関西のテレビ番組「土曜はダメよ!」のワンコーナー、「小枝不動産」ではギョーテン物件として変な家、変わった家、いやいやいやいやそれはあかんでしょみたいな物件から豪華過ぎる物件までさまざま扱われていて面白いのだが、それの間取り図版という感じ。
mixi「間取り図大好き!」コミュから生まれたイベント「間取り図ナイト」を完全書籍化したものだそうだ。凄いなあ。
明かな図面の間違いというのもあるんだけど、そうじゃなくて実在している妙な物件もたくさんあり、実物が見たくてうずうずする。
長すぎる廊下、入れない台所、隠し納戸、クローゼットを通らないと入れないお風呂、飛び移らないと二階に上がれない家、やたらドアがある家、やたら細かく区切ったマンション、物置しかない家、一畳しかない家……。
狭くて妙な部屋ばかりでなく、広くて部屋がたくさんある家とか、吉野さんも気に入ったというライブラリのある部屋とかいろんなタイプのがある。
ぱっと開いて「じーっ」とみて、味わう。
3人の主催者さんのツッコミにニヤニヤする。

悪魔が本とやってくる (吉野朔実劇場)
吉野 朔実
本の雑誌社
売り上げランキング: 2,850


2013/07/21

フロスト日和 【再読】

フロスト日和 (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 7,785

■R・D・ウィングフィールド 翻訳:芹澤恵
本書は1987年に出版された“A Touch of Frost”の邦訳版で、1997年10月に刊行されたフロスト警部シリーズの第2作である。700頁越えの長篇。
このシリーズでは登場人物がいつも寒がっているイメージがあるが、第2作の季節は肌寒さが深まる秋。
今回も複数の事件が入り乱れる。若い娘が次々に毒牙にかかる連続婦女暴行魔事件、公衆便所浮浪者殺人事件、富豪のティーンエイジの一人娘の行方不明事件、ソブリン金貨盗難事件、宝石店強盗事件に果ては警察官殺人事件まで……。

今回の相棒は、とにかく短気でカッとなりすぐにひとを殴ってしまう青年ウェブスター。若くして警部に昇進してた(過去形)んだから優秀なんだろうに、酒が入って上官を殴って巡査に降格となり(現在)デントン署に飛ばされてきたのだ。署員からいちいち嫌味やあてこすりを言われ、すっかりヘソを曲げているところに見るからにだらしなく「役立たずの老いぼれ」としか見えないフロストの下につかされたもんだからふてくされまくっている。

それにしてもフロスト警部はもうほんの少し服装に気を配って(例えばスーツを変えるとかクリーニングを活用するとか)、もう少し書類管理を部下などに手伝ってもらうなりしてきちんとし、もう少し時間や約束を厳守すれば言うことないのになあ。とこのシリーズを読んでいると毎回思わずにはいられないのだが、しかしまあ、そんな性格の御仁はもうジャック・フロストじゃないよなあ、とも思う。
でもだって、マレット署長とかが外見やなんやかやの些細なことの積み重ねで警部を馬鹿にし、彼の実力を認めようとしないのが悔しいんだもの!
……まあそれは、彼の奥さんですら、認めていなかったっぽいんだけどね。どうやらフロスト警部の結婚生活は後半はさびしいものだったみたいだ。「病気で逝ってしまった妻」というとどうしても美化されがちなんだけど、ウィングフィールドはそういう煙幕に甘んじることなく、もっと現実味のある、後悔と、深いところに残っている愛情などをほんの数行で実にリアルに描き出していて、巧い。フロストが妻の誕生日に気が付き、あれこれロマンチックなことを考えるもそれを打ち消し、そのあと遅刻の言い訳に使ってしまうところなど……うわあひどい、と思うけどうーんフロスト警部っていうのはつまりはそういうところがあるよなあ、だから奥さんにも愛想をつかされたんだよなあと納得してしまうというか。

今回の事件では解決シーンがいくつかあったが、警部の推理がぴたぴたっとはまっていくところなんかは読んでいて爽快だった。特に終盤の展開、フロスト警部がある人物にむかって懇々と推理した過程を話すシーンはすごく良かった。

2013/07/13

クリスマスのフロスト 【再読】

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)
R.D ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 16,044

■R・D・ウィングフィールド 翻訳:芹澤恵
本書は創元推理文庫から1994年9月に上梓された、フロスト警部シリーズの第1作である。
原書“Frost at Christmas” は1984年の刊行。
いまから実に30年も前に書かれた話で、邦訳が20年前ということである。
本書を初めて読んだのはいつか、記憶にも記録にも無く(2001年6月刊行の第3作『夜のフロスト』を2001年7月に読み、それ以前に1,2も既読だというのは日記として記録に残っているのだがそれが直前なのかもっと前なのかが不明)、あろうことか、文庫自体処分してしまっていた。当時のわたくしはいったいどういう料見であったのだろうか。
シリーズ第4作を読んだくらいからそれを悔やんでいたが、迷ったまま保留にしていた。今回第5作を読んで「やはり」と決意し、1~3作を再度新刊で買い求め、読み返すことに。

ほとんど何も覚えていなかったので結果的には新作を読んだのと変わらないが、大きく違うのは「このシリーズは面白い」と実証済みで、フロスト警部とマレット署長については既に読者としては“馴染み”になっていること。
それにしても第1作である本書を読むと、フロスト警部は40代後半、マレット署長は42歳と明記してあるではないか。署長ってそんなに若かったのか!
第5作の表紙イラストでマレット署長がロマンスグレイの初老の男性として描かれているのにも特に違和感がなかったのだがええとこのシリーズってお話上で時代進行しているんだっけ?発行年と共にキャラも加齢しているんであれば、原書の第5作の刊行年が1999年だからマレット署長57歳でつじつまは合うんだけど、少なくとも第5作には年齢表示もそれに関する記述も無かったので。まあ今回シリーズをまとめて再読したいと思っているのでそのへんはおいおい明らかになる、かもしれない。

今回いちばん感じたのは「事件が少なくて、メインの事件がくっきりしていて、話がすっきりわかりやすいなあ」ということ。8歳の少女が教会の日曜学校の後行方不明になった事件が一番のメインで、もうひとつが途中で出てくる白骨死体の事件、あとは銀行の表の事件、アレン警部から引き継いだ盗難事件などで明らかにサブだ。
警察庁の甥の新人刑事がロンドンから赴任されてきて、彼の主観がけっこう書かれているのだが、彼の価値観や表面からすると「アレン警部やマレット署長はきっちりしていて押し出しも良く、優れている。フロスト警部は万事にだらしなく、身だしなみも部屋の整理も書類管理もなっていない、だから仕事も出来ないヘボ警部である」となるのだが、その彼がフロストと組まされ、心中ぶうぶう言いながらもそれを表面には出さず、果敢についていくのが天晴れ。彼はともすれば「偉いさんの身内だから贔屓だろう」と斜めに見られ、皮肉や当てこすりを言われるのだが、実際は実力で勝負している真面目な青年刑事であり、清々しい。最後にはフロストの真価にも気づくしね。

マレットは一般企業や役所の管理職としては向いているのかもしれないが、こういう「己の名誉と出世と名声」にウェイトを置いている人間が警察組織の頭にいるというのはどうなのかなあと思う。
万事にだらしないフロストが何故署員や読者に愛されるかというと彼は己の名誉も出世も名声も気にしないからだ。「何が大事か」をちゃんと知っていて、人間としての尊厳を自分のものはさておき他人のものを守るような優しさ備えた稀有なヒーローだからだ。そしてそれが前面に出ているような小説の主人公然としたキャラクターではなく、基本は下品で身汚いだらしなさの権化であり、いざとなったらシャキーンと変身するわけでもない。どこまでいっても誰を目の前にしようとも決して名探偵でもスーパーマンでもマッチョでも有りえない、フロストはずっとフロストであるところがこのシリーズの特徴であり愛される所以かと思う。

子どもは判ってくれない

子どもは判ってくれない (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋
売り上げランキング: 11,695

■内田樹
樹木の「ジュ」で「たつる」と読むんだそうだ。
筆者がどういうひとかなど一切知らなかったのだが、本屋でオススメのコーナーに置いてあって表紙デザインがカッコよく、ちらっと見た文章が面白そうだったので読んでみた。
こういう種類の書物は久しぶりだったので興味深く、ふだん使わない脳を刺激される感じがあって、面白かった。途中でさすがにウィキペディアで経歴などを調べたりした。
共感すること、首を傾げること、よくわからないこと、いろいろである。若輩者としては、新たな視点をご教示いただき勉強になった。先生のおっしゃる内容は賛否分かれるような重たいものもあり、その判断は無理だし賛否の表明もしたくないので棚の上にえーいと投げ上げておきたいが、そのロジック・論法は素晴らしく、文章もわかりやすく丁寧に説明してあって、読みやすかった。

以下、索引代わりに目次を丸写ししておきたい。
(特に第1章から第3章までは大人から若者へのメッセージというスタンスで、新鮮な論点が多く、面白かった。全面的な賛成は出来ないけど、ふだんの会社員生活でこういうロジックに出会うことが無いので、刺激になるのだ。第4章は歴史問題・国家観などがメインで、いろんな意味で難しい。まあこの方はこういう考え方の方なんだろうと。ごく乱暴な分け方は承知で左右でいうと左の方かな?と思う)。

たいへんに長いまえがき
第一章 はじめて大人になる人へ
教養喪失と江口寿史現象/ヴァーチャル爺のすすめ/本が読む/学歴が知性の指標にならない時代/「ずれている」から大学/漢文がなくなる不幸/精神年齢の算出法/私が授業で怒らない理由/読む雑誌がない/歴史を物語ることの効用/「いまどきの若い者について」と問われて/対話を始めるための条件/正論を信じない理由/オリジナルとコピー
第二章 大人の思考法
「自分らしく」あるのは当然か/後悔、後に立たず/論理的な人と理屈っぽい人/才能の測り方/「嫌いなこと」を言葉にできない人に未来はない/自立のために知っておくべきこと/身体を丁寧に扱えない人に敬意は払われない/幻想と真実は交換できない/「セックスというお仕事」と自己決定権
第三章 大人の作法
話を複雑にすることの効用/呪いのコミュニケーション/目からウロコの愛の心得/友達であり続ける秘訣/すべての家族は機能不全/ヨイショと雅量
第四章 大人の常識
諸行無常の高度情報化社会/無事なのに国家有事/熱く戦争を語ってはいけない/「目には目を、歯には歯を」の矛盾/日本人であることの「ねじれ」/在日問題と国民の「権利と義務」/人種という物語の賞味期限/日本人であることの「ねじれ」再考/ベトナムの青年が教えてくれたこと/風通しのよい国交とは/ネオコンと愛国心/さよなら、アメリカ/動物園の平和を嘉す
あとがき/文庫版のためのあとがき
解説 橋本治
カバーイラスト 安齋肇
装丁 坂本志保

解説もなかなか良かったと思う。

2013/07/05

冬のフロスト (上下)

冬のフロスト<上> (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 521

冬のフロスト<下> (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
売り上げランキング: 489

■R・D・ウィングフィールド 翻訳:芹澤恵
シリーズ第5弾。
上巻503頁、下巻460頁、どどーんの大長編だが、読み始めてしばらくすると夢中になってしまう面白さでこの「長さ」が嬉しい。たっぷりひたれる。
真冬一月のデントンが舞台。相変わらず極度の人員不足かつ事件が目白押しという状態。
変質者による連続幼女誘拐殺人事件。残虐非道な暴行による娼婦連続殺人事件。ショットガンを用いたコンビニ強盗事件。酔っ払い集団フーリガン事件。“怪盗枕カヴァー”による連続窃盗事件。
モジュラー型ミステリーなので、いろんな事件が次々に起こり、別にそれらが絡んでるとかいうのではなく、別件。リアルな警察ってこんな感じ? でもひとりの警部がここまで担当しないよね。

フロスト警部がだらしなく、リズ・モードが出世欲に燃え、マレット署長が上層部にはこびへつらい署員には無茶な無理を強いる、というのもお馴染み。かてて加えて、今回は“芋にいちゃん(タフィ)”ことモーガン刑事の無能ぶりがこれでもかと炸裂して……。

ここから下はネタバレ含みます。
未読の方は読んじゃダメΨ( ̄∇ ̄)Ψ。


こ こ か ら し た は ね た ば れ あ り ま す よ ?
いままでこのシリーズではマレット署長をはじめとする、点数稼ぎの、どちらかというと秀才タイプのキャラに苛立たされることが多かった。今回もそういうのが無いわけじゃない。モーガンの無能っぷりがそれを超越していたのだ。あまりにも、ひどい。悪意があるわけじゃないけどどうにかならんのかと思わずにはいられない。読みながら、フロスト警部は出来た上司だなあ、気が長いなあ、なんて優しいんだと驚き感心することしきりだった。
しょうもない失敗を繰り返し、迷惑をかけまくり、自分の頭では考えず、「すみません、親父さん」「それで、どうしたらいいですか、親父さん」ばっかり繰り返す。ほんとに反省してんの?と思っちゃう。挙句の果てにはとんでもない行動を取り、そのせいで最終的には仲間の命を危うくする。
モーガンは刑事に向いてないと思う……。
せめて、自分でそれに気づいて辞表を書き、フロストがそれを慰留する、くらいのくだりが無いと許せないレベル。ごめんで済んだら警察要らないんだよと言いたくなる。若い女とみると見境なくサカり、しまいに亭主に怒鳴り込まれるし。こんなボンクラに文句のひとつも言わずマレットからかばってやるフロストはほんっっっとうに、偉いなあ。わたしだったら絶対キレてるわ。
長い長い話でいくつも事件が起こり、たまにウルトラCで解決したりするのだけど下巻に入っても全然目途が立っていない事件がいくつもあり、下巻中盤になってもまだまだで、最後までにちゃんと片付くんだろうかと危ぶんでいたが、ラストのほうはもう、ばたばたばたっ、と蓋が次々に閉じられていくのだった。おお、そうきたか。
でも娼婦連続殺人事件の後味は最悪だなあ。リズが可哀想過ぎる。連続幼女のほうもやるせないし。このへん、これだけ長く引っ張ってきたんだからもうちょっと丁寧に説明してほしかったような気もする、でもどう言われようとこんな犯罪に「納得」なんて無い、よなあ、とも思う。
最後の1行には思わず「巧い!座布団いちまい!」と唸ってしまった。しかしこれ、原語ではどうなってるんでしょうかねえ。日本語があまりに素晴らしく綺麗に決まっているので気になるなあ。