2013/01/28

大あたり殺人事件 → 大はずれ殺人事件 【逆送:再々読】

大あたり殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 2-3)
クレイグ・ライス
早川書房
売り上げランキング: 506,294

大はずれ殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 2-2)
クレイグ・ライス
早川書房
売り上げランキング: 406,160

■クレイグ・ライス 翻訳;小泉喜美子
正しい順序は「大はずれ」→「大あたり」なんだけど。
今回は、「大あたり」だけ読みかえすつもりで読んだらやっぱり「大はずれ」も読みかえしたくなったので、逆送になったのである。初めて読まれる方は、この読み方だと「大はずれ」のネタバレがしちゃうので、要注意。

やっぱり何度読んでも好き! 面白い。
ミステリとして出来がどうとかいうレベルじゃなくて、小説として、大好きなのである。登場人物のキャラが立ってて、みんなとっても素敵なんである。
ジョン・J・マローン、ジェーク・ジャスタス、ヘレン・ジャスタスという主要トリオだけじゃなく、フォン・フラナガン警部をはじめとするみーんな、楽しくって、良いの。

詳しいことは、前回正しい順序で再読したときのこちらをどうぞ

おべんとうの時間

おべんとうの時間
おべんとうの時間
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阿部 了(写真) 阿部 直美(文)
木楽舎
売り上げランキング: 4,510

■阿部了(写真)・阿部直美(文)
いろんなそのへんにいる普通のひとの、ごく普通の日常のお弁当の写真を撮る、というコンセプトにした企画。既に「2」が出ていて、大変な評判になっているそうだ。

なんだったかで飛行機に乗った時に機内誌に載っていたこの連載、それを見たときに良いなと思っていたのをその評判を知って思い出し、身近な書店には置いていなかったので、大きい書店に探しに行った。

おととし一時期自分用のお弁当を作っていて、昨年秋くらいから復活した(外食・コンビニに飽きたので)。それを見た家人からリクエストされ、毎朝2人分詰めるようになった。
自分のだけだと前の晩のおかずの残りでじゅうぶんだったのが、食べてくれるひとのぶんも、となると多少気を遣う。凝ったことなどは共働きだし朝から無理なので、可能な限り晩のうちに作り置きしておくのだが毎日どうしようかなあ、と考えている日々だったので、こういう、「作りすぎない」「キャラ弁でない」ふつうのお弁当の写真が出てくるひとの数だけ載っているような本は、とても参考になると思った。
レシピ本ではないので、作り方とかは載っていないけど、「やっぱ卵焼きって入れるひと多いなあ」とか「唐揚げリクエスト複数いるんだ」とか「混ぜご飯はやっぱ美味しそう」とか「ちくわにキュウリ詰めるのやってるひと結構いるなあ」とか、ほんと、いくらでも見ていられる。

文章は、お弁当の主の仕事とかお弁当とかそのへんについての雑談をまとめたもの。お弁当についてはほとんど触れられていない場合もある。しゃべり言葉がそのまま生き生きと写し取られている。

あともうひとつ、お弁当を作る際に頭に置いているのは、奥田英朗『我が家の問題』所収の「ハズバンド」で奥さんが作るお弁当のこと。
わたしの作るお弁当に「可愛い」は要らない。
そして「おべんとうの時間」のお弁当に「可愛い」は無い。
あるのは「きれい」とか「美味しそう」とかそういう本当に大事なことだけだ。
それが素晴らしい。

※本書にはレシピは載っていません。

2013/01/21

何者

何者
何者
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朝井 リョウ
新潮社
売り上げランキング: 7

■朝井リョウ
先日決まったばかりの、第148回直木賞受賞作である。
朝井さんといえば2009年に『桐島、部活やめるってよ』でデビューされた1989年生まれの若い作家さんで、当時雑誌の広告でこれを見て、すごいタイトルだなあと思ったが「部活」の話は読みたくなかったのでスルーしていた。おおお、あのひとがもう直木賞か!早っ!
TVニュースで受賞作について紹介されていたのによると就職活動ネタであるらしい。しかも、ご本人は現在サラリーマン1年生(営業)だそう。経験を活かしての作品らしい。
そりゃ面白そうだな、読んでみたい、という興味と、作家1本で充分食べていけそうなのに就職もするんだという驚愕が同時におしよせた。純文学作家というわけでもなく、学生時代から作家として成功してて有名なのに、二足のわらじしちゃうの!? すごいなあ、意外だなあ。

頭痛でぐるぐるしつつもプチ残業をしたその足で手近な書店に寄ってみるとあっさり棚にささっていて、ぱらっと中身を確かめるといきなり飛び込んできたのはツイッターへの書き込みの記述で、ややビビる。ツイッターなんてツールは恐ろしくて無理っすと近付かないことにしているのでとっさに身構えてしまったのだが「いまの若者はそんなこと言ってたらきっと就職活動自体無理なのかもしれないなあ……」とか思う。文体そのものには拒否反応が起こらなかったのでそのままレジへ。
直木賞受賞したての本をレジで買うのはなんだか少しミーハーみたいで恥ずかしい、というどうでもいい自意識が沸く、そんなこと考えちゃうなんてまだまだ青いなあと自嘲。

休日の本日、昼食後に読みはじめて夕方まで時々煮卵を作ったりテレビを観たり休憩をはさみながら一息に読み切ってしまったのは、内容がまだ「何者」でも無くて自分はきっと「何者」かに成れるはずと信じているその感じが本当にリアルで、時々立ち上がって「いまの日常」の生活の息を吸わないと少しキツかったからだ。でも同時に読みはじめたら途中でやめられない引力・魅力・面白さが絶対的にあって、休憩が終わるとむさぼるように読んでいた。

ああ、わたしは就活が(とうの昔に)既に終わっていて、ほんとうに良かった!

というのが読みながらと、読み終えての一番の感想だ。
わたしが就職活動をしていた時期も氷河期だとか超氷河期だとか言われていて、ほんとに精神的にしんどかったし二度とやりたくないと思うが、いまはインターネットとかツイッターとかそういうので情報がいっぱいあるぶん、常にアンテナを張り生活のすべてで気を張っていなくちゃいけないようなイメージがあり、すごく消耗するような印象があった。この小説を読んで思っていたのと違う面もあったが、いろいろ時代が違うゆえの大変さがやはりあるようで、若い時って自意識の高さがハンパないのにそれをネットでいろんなカタチでアウトプットし続けるって、そしてそれを他人が簡単に見られるって、絶対しんどいなーとつくづく、思った。

たとえば友人つながりで同じ就職活動生が数名集まっていろいろ喋ってて、でも同時にツイッターとかでそのときの感想とかコメントとかをそれぞれが書いてネットに上げてる、で、それについて同じグループの人間が目を通したりしてるんだけどオンで書かれてることについてオフでいちいちコメントしたりはしないってルールがやっぱりあるみたいで、それをわざわざするときはそれなりに「理由」があるとき、のようだ。仲間に見られていることを前提にしているツイッターとそうでない本音のツイッターがあったりするようだ。
わたしはこういう文化で育ってないけど、いまの十代とかは物心ついた頃からそういう環境にあるわけだな、と想像したら気が遠くなった。この小説の作者の世代ではこういうのが当たり前なのだ。

自分の考えていることを、限られた文字数で、どういうふうに、どれだけオモテに晒して生きていくのか。彼らは、それを本能的に取捨選択し、ずっと日常的に行って生きている。
それはなんというか、本能的に「怖い」と思ってしまう。

あと、この小説を読んでいて思い出したのはある作家の方が、ネットで本の感想などを書いているひとを「誰に頼まれたわけでもないのにわざわざ」と、無責任に無記名で批判を撒き散らすことについてのマイナスの感情を書いておられたことがあって、それを読んだときに、ああそうだよな、著者は全部さらして闘っているのにいい加減な気持ちで作品を否定するのは卑怯だよなと深く心に刻んだ、そのことだ。
傍観者になって、少し高見に立ったつもりになって、他人の言動や作品を冷静に批判して、それで相手より上に立っていると思ったらそれは大間違いだし驕りでしかない。
そのことに、この小説の主人公が気付かされるのを読んで、凄い、と思った。

こういう小説は社会人10年、とかだったらイロイロ邪魔するものが多すぎて書けないだろう。
就職活動からまだ遠くなく、社会人としてまだキラキラの新人だからこそ書ける小説だなと思った。
朝井さんはご自身の経験を作品に活かすタイプの作家さんのようだ。
就活は、あくまで社会人になるまでの、助走でしかない。
実際社会に出てみて、朝井さんがこれからどういう小説を書いていかれるのか、とても楽しみである。

高慢と偏見、そして殺人


■P・D・ジェイムズ 翻訳;羽田詩津子
本書は、ジェイン・オースティン(1775-1817)によって書かれたロマンス小説の古典『高慢と偏見』の続篇である。ただし、書いたのがミステリー界の巨匠だから、ロマンス小説というよりはミステリーになっている、というものである。

この本を読もうと思う読者は2パターンあるだろう、原作ファンか、P・D・ジェイムズファンかの。わたしは後者である。
原作は10年ほど前にちくま文庫から新訳が出た際に「有名だから読んでおこうかな」くらいの軽いノリで読んだが、純文学系かと思ったらそうではなく、ぐっと通俗的な話だったんだなというくらいの感想だった。

P・D・ジェイムズの小説を再読していて、90歳を過ぎてまだ現役(!)という彼女の新作はどうなんだろうと考えているときにこの作品が出たので買ってみたのだが、「続篇」なのだからやはり(例によって随分前に読んだきりだからほぼ忘れている)原作を再読してから読むべきかと思って、だけど手元にそれがもう無い状態だったので、新しく今度は別の翻訳で読んでみようかなどと考えているうちに読むのが遅くなってしまった。

まあなんとかなるかなとプロローグを読んでみたらこれが原作のダイジェストらしいのだが、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなややこしさで、どうしようかと2回も読んでしまったのだが、いざ本編を読みはじめたら原作を覚えていないことなど無関係で、ふつうに昔が舞台のミステリーとして面白かった。これは1800年くらいが舞台の話、ということさえ知っていれば原作を読んでいなくても大丈夫なのではないだろうか。もちろん、原作を読み込んでいれば主人公のエリザベスやダーシーに対する思い入れが違うだろうし、原作の雰囲気との共通点やなんやかやで楽しみも増えようというものだろうが。

ミステリーとしての出来はあまり期待しないほうが良いのかもと思いつつ読んでいったのだが、たしかに驚愕とかは無かったけど、それなりに意外な事実などが出てくるので、面白かった。ただし「それは言われないとわからないよな」というものも結構あったので、「証拠はすべてここまでに書かれている」といったタイプの話では無い。
昔のミステリーではお馴染みの検死審問、陪審員による裁判など、その過程が興味深い。にしても、判決が出てからあれはひどいよねー、正直やってられんわー、と思っちゃうだろうなあ。

原作を読みかえそうかと迷っているときに調べてみたら『高慢と偏見』の和訳はいろいろあって、ざっとググっただけでも5つもある。そしてそれぞれが訳し方が違って雰囲気も異なるようなのである。まずどれを選ぶかで読書感想は違ってくるのではないのか。この話が大好きだったら5つとも読んで比べるのも楽しいだろうが残念ながらそれほどの情熱は沸かないのであった。

この続篇を読んで、別に原作を読みかえしたいとは思わなかったが、原作で消化不良になっている感情面への現代作家からの補填がなされているように思った、P・D・ジェイムズが原作を愛しているというのは確かなようだ。

高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)
ジェイン オースティン
筑摩書房
売り上げランキング: 139,174

高慢と偏見〔新装版〕 (河出文庫)
ジェイン・オースティン
河出書房新社
売り上げランキング: 43,012

自負と偏見 (新潮文庫)
自負と偏見 (新潮文庫)
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J. オースティン
新潮社
売り上げランキング: 17,285

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)
ジェーン オースティン
岩波書店
売り上げランキング: 114,158

高慢と偏見(上) (光文社古典新訳文庫)
ジェイン オースティン
光文社 (2011-11-10)
売り上げランキング: 265,295

2013/01/15

ジュゼベルの死 【再読】

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)
クリスチアナ・ブランド
早川書房
売り上げランキング: 210,619
■クリスチアナ・ブランド 翻訳;恩地三保子
ネタバレあり。
未読の方はこの感想を読まないでください。


北村(薫)さんは昔からブランドを絶賛しているのだが最近そういう内容のエッセイを読んだのでまたブランドを読みかえしたくなって読んだ。以前『招かれざる客たちのビュッフェ』を読んだときも同じことを思ったのだが、やはり、今回これをじっくり読んでの結論。わたしはクリスチアナ・ブランドはそんなに凄いと思えない。途中まではセンセーショナルな筋立てなので興味を惹かれて読むんだけど、肝心の解決部がどうもすっきりしない、わかりにくい。「kubi」のトリックの衝撃はまぁ認めるけど出し方もうちょっと工夫したらもっと良くなるんじゃないかなー。ごちゃごちゃしすぎな気がする。人間の嫌な面が書かれるんだけどそのへんの説得力も無いし……みんな自白しにきたその根拠も意味不明なんだけど、これはわたしの読解力が足りないせいなんだろうけど、うーん、やっぱ合わない。

昔の恋愛絡みが原因で自殺した青年、その復讐のために関わった男女が殺害予告を受け実際に殺されるというミステリー。でもパーペチュアまで狙われるのはお門違いでは、と違和感があったんだけど、そこはコックリル警部が理解してくれてあって、そこだけは納得できた。
この作品には「マザーディア―」と揶揄される少年が出てくるんだけど、このひともまともじゃないわねえ。リアリティも無いし。向こうの言葉でこういう言い方があるのかな。何故「マザコン」と訳さずそのままカタカナにしてあるんだろう?

2013/01/14

古本の雑誌

古本の雑誌 (別冊本の雑誌)

本の雑誌社
売り上げランキング: 16,988

■本の雑誌編集部
古本好きのひと、古本・古書マニアのひとには「そうそうそう、そうなんだよなー」と共感を呼ぶ書なのだと思う。わたしのように、ほぼ新刊主義、入手不可能な場合のみ古本探し、という人間には「気持ちはわからんでもないけど、っていうかこれがわかるようになったら大変だなー」という世界。
同じ「本」を対象としていても、古本道はまた全然違うし、奥行き・底の深さが全然レベルが違うのだ。
(三浦)しをんさんは作家になる前~作家になってしばらくの間古書店でアルバイトをしていたというのは有名な話だけど、そのゆかりのお店に関する座談会に出席されていて、その記事もたいへん面白かった。
全国のおすすめ古本屋についての座談会記事も興味深い。っていうかほんと全国ほとんど行ってるひとがいるっていうのが凄いよなあ、新刊書店でそんなことをしてもあまり意味は無いだろう。古本屋だからこそ、そこに行かなければ手に入らないなにかを探し求めて行ってしまうのだ。行かずにはいられない衝動があるのだろう。大変である。しかしやはり東京だけで店の数・充実度ともに群を抜いている。

わたしは奈良出身者だが、奈良のもちいどの商店街の古本屋さんがしっかりチェックされていたので流石、と思った。わたしも学生時代、床積みの古雑誌の下に埋もれていた太宰治の奥さんの書いた本が定価の半値で売られているのを発見して目を疑い、胸にかかえるようにしてレジに行ったことがある。「あ、これ、値段間違えてた」と言われるんじゃないかとドキドキしながら(言われなかった!)。同じ本をしばらくして京都の赤尾照文堂(当時は純文学が多かったがいつのまにか美術書中心に変わっていた)で見かけたら定価の倍の価格が付いていて、まあそうだよなーそれが相場だよなーと思った。古本の世界にはこういうことがあるから面白い。
まあ、いまだったらまずネットで最安値検索してポチれば良いんだし、ブックオフとかもあるからなあ。時代が変わったなあ……(遠い目)。

京都のアスタルテ書房も取り上げられていたが、ここはほんっとに見付けにくいというか、フツーの住居マンションみたいなのの2階にあって、看板とかも出てないんだよね。靴脱いで上がるし。わたしが行ったときはお客が誰もいなくて、超緊張したよ……。品揃えは面白かったけど。もう1回行けと言われてもまた迷うと断言出来る。
神戸の海文堂が出てきたのも嬉しかったなー。新刊書店だけど、古書も置いてあるんだよね、1回しか行ってないけど良い本屋さんだったと覚えていたので。
大阪では、天神橋筋商店街に古本屋さんが集まっているそうで、行ってみたいと思う。

なお、雑誌「本の雑誌」に掲載された古本関係の記事ばかり集めた部分が結構ある。そういう意味でも「雑誌」というタイトルだけど「書籍」である。

2013/01/12

家蠅とカナリア 【再読】

家蝿とカナリア (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ
東京創元社
売り上げランキング: 318,461

■ヘレン・マクロイ 翻訳;深町眞理子
最近マクロイのミステリーを2つほど読んで感慨を新たにしたので、お正月に実家に帰省したときに久しぶりに読みかえそうと本書を持って帰ってきた。
どういう事件だったかはだいたい覚えていたのだが細かいことは忘れていて、あらためて興味をそそられるシチュエーションだなあ、ミステリ好きにはたまらん、ワクワクさせられるぜと思った。

観客が詰めている芝居の本番上演中に舞台上で起こった殺人事件。
被害者は、死にかかっている男の役だったため、メイクもそれに応じたもので、台詞もなく、ピクリとも動かないという演技をしていた。だから本番中のいつ殺されたのか、わからないのだ! いつまでがウソの死体でどこからがホントの死体だったのか、犯人だけが知っている……!
舞台にいたのは3人だけ。それぞれが、舞台奥手にいた被害者と近付き、ふたりきりになった機会が2回ずつあった。いったい犯人は誰なのか?

これはサスペンスとかではなく、本格ミステリ。
精神分析学者ベイジル・ウィリングもの。

犯人とかいろんなことが忘却の彼方だったのですごく面白く読めたが、読みながら「数年前の記憶がほぼ無いとは……うーむ喜んでいていいのかなあ」と複雑な心境だった。が、読み終えて、さっき自分のブログの記事を検索して初読みの日付を見て驚愕してしまった、2002年だとう!?まるまる10年以上前だとう!?
ああああそーんな前のことなのかこれ読んだの。つい最近のことのように思っていたのにー!!!!!

ミステリなので、余計なことは言えないが、犯人がわかってしまうとその動機は平凡だし、そもそも何故その殺害方法で被害者が暴れなかったのかとかいろいろ疑問は残るのだが(だってその瞬間「ギャッ」とか「あっ」とか声を上げられたらもうそれでアウトでしょ? 薬でも使ったのかと思ってたけどその説明一切無いんだもん)、読んでる最中楽しかったので良いのだ。犯人当て以外に、登場人物のドラマもそれなりにあるしね。マグパイがいちばんこの話の中では興味深かったなあ。身近にいたら好きになれるか微妙だけど。

あと、前回読んだときは気にならなかったんだけど、今回読んで訳が少し昔風かな、とは思った。最近の翻訳はどんどん進化してるからなー。深町さんはベテランだから悪いとかいうんじゃないけど、やっぱ少し古く感じたのはそうかー10年経ったんだなー、という感じ。でも原題そのまま邦訳じゃなくてオリジナルの邦題、これは文句なしに上手いよね。なんだろう?と思わせるもの。あとミステリと蝿は因縁があるし。
そういえば「ハエ」は「蝿」と書くけど創元推理文庫では「蠅」なのについさっき初めて気が付いた。ので、このブログタイトルはそれに合わせてみた。「蠅」は手で書いたことたぶんいままで一回も無いだろうなあ……。

2013/01/09

先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!

先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!
小林朋道
築地書館
売り上げランキング: 174,301

■小林朋道
毎年年末に来年度の干支の入った絵本を検索して面白そうだったら買って読んだりしているのだが、今回はへびが苦手なこともあって、ヘビの絵や写真がどんどん出てくるのをびくびくして調べていたところ、この本のタイトルがあんまりにも面白そうだったので一瞬で飛びついてしまった。
アマゾンの紹介文などを見るに、大学の動物行動学の先生が書かれた本のようだ。でも、堅苦しい学術書ではなさそうで、なんだか面白そうだ。

実際に読んでみたら、予想以上に読みやすく、くだけた内容で面白く、例えば動物に興味がある中学生や高校生などでも楽しめそうだった。もちろん、おとなが読んでも面白い。実を言うとわたしはそんなに動物が好きなタイプではないというか、金魚くらいしか飼ったことがなく、動物の扱い方を知らない人間なのだが、それでも興味深く時にはニコニコ・にやにやしたりしながらあっというまに読んでしまった(全部で200ページくらいの薄い本だというのもあるけど)。
正直あんまり「勉強になったなあ」というのは感じず、動物行動学を学びたいという目的にはほんの導入部というか、これをきっかけにいろいろ他の本を読んでいく……という感じになるのかな。
とにかく小林先生がとってもユニークで、学生さんにも慕われている感じが伝わってきて、微笑ましい。あ、動物たちとももちろんとっても仲良し(?)みたい。へびやイモリがどう感じているかは謎だけど……。
動物が苦手なひとは、突然ページをめくるとヘビやネズミやイモリの写真があるので、ちょっとだけ気構えが必要かも。白黒写真とはいえ、ひやっ、としてしまう。でも面白いもので、文章を読んでいくとその苦手なはずのヘビやイモリやネズミに愛着がわいてくるんだよなあ。少なくとも小林先生が書く彼らには愛嬌があるというか……。

目次を書き写してみよう。

はじめに
イノシシ捕獲大作戦
人間動物行動学から見た、〝尊敬”の意味
駅前広場にヤギを放しませんか?
狩猟採集人の心が駅前通りをデザインする!
駅前に残された“ニオイづけ”はタヌキの溜め糞?
スプレーで描かれたサインの動物行動学的意味
餌は目で、ヘビはニオイで察知するヤギ部のヤギコ
Iくん・Nくんの野望と私の密かな実験
飼育箱を脱走して45日間生きぬいたヘビの話
何がヘビを救ったか?
シマリスは、ヘビの頭をかじる
私が出会った愛すべきシマリスたち
イモリ、1500メートルの高山を行く
そのアカハライモリは低地のアカハライモリとはかなり違っていた
ナガレホトケドジョウを求めて谷を登る懲りない狩猟採集人
そして私の研究室の机の周りは要塞になった
一万円札をプレゼントしてくれたアカネズミ
そのネズミは少し変わった小さな島の住人だった
野外学習の学生たちを〝串刺し”に走りぬけていった雌雄のテン
どの動物も雄はけなげである
自分で主人を選んだイヌとネコ
動物たちの豊かな内面を認識すべきとき

2013/01/08

読まずにはいられない 北村薫のエッセイ

読まずにはいられない: 北村薫のエッセイ
北村 薫
新潮社
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■北村薫
1989年に『空飛ぶ馬』で鮮やかに作家デビューする前の高校教師時代に書いたものも含め、1978年から2001までの23年間ぶんのコラムや書評を集めたファン待望の書。
「エッセイ集」とあるけれど、日常生活ネタはほぼ無い、というか書いてあってもやはり本につながるので、書評集というか……しかし「書評集」と言うにはあたりがやわらかい文体なのでイメージが違うだろうし、まあ、「本格ミステリラブ!本格至上主義ステキ!」っていういつもの北村先生の愛があふれかえった楽しい1冊であることは確かである。
30代半ばに編集を手がけられた東京創元社『日本探偵小説全集』の内容紹介、1985年版「東西ミステリベスト100」のいくつかの作品の「あらすじ」と「うんちく」をワセミスつながりで担当した記事など、あれも、これもという感じ。
興味深かったのはデビューのいきさつと覆面作家になった経緯とかなんだけど、至極端的に、さらりと書かれている。そのへんにも出て来られるけど、本書のあちこちに顔を出され、その名編集長ぶりがうかがえるのが北村ファンにはお馴染み・元東京創元社の戸川安宣氏(ウィキペディアによれば編集長、編集部長、社長、会長、特別顧問を経て、現在は相談役とのこと)。
ミステリが好きで、実力・実行力・媒体を持ったおふたりがタッグを組んだらどれだけ面白いことになるか……という実績・実録の書でもあると言えそう。

本書の構成は以下のようになっている。
1|読書 1978-2001 (5~250ページ)
2|自作の周辺 (251~285ページ)
3|日常の謎 愛しいもの (287~345ページ)
あとがき (346~348ページ)
作品リスト (350~368ページ)←「本書に登場する作品」
北村薫 著作リスト (375~378ページ)


日本探偵小説全集〈2〉江戸川乱歩集 (創元推理文庫)
江戸川 乱歩
東京創元社
売り上げランキング: 77,541


2013/01/07

殺す者と殺される者

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ
東京創元社
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■ヘレン・マクロイ 翻訳;務台夏子
原書刊行は1957年で、過去に一度邦訳出版されたのち長らく絶版になっていたが、2009年創元推理文庫50周年記念として読者復刊リクエストを募り、見事第3位を獲得したため、新訳で刊行されたものだそうだ。ちなみに第1位は『幽霊の2/3』。

これはベイジル・ウィリング博士ものではなく、ノン・シリーズだ。
思いがけない遺産を相続した主人公は、昔住んでいたことのある、亡き母の故郷に移住してのんびり暮らすことにした。そんな彼の周辺で少しずつ異変が起こる……。

解説氏も書いていたが、この作品の最初の文章がちょっと面白く、書店で冒頭数行読んで買うかどうか決めることが多いのだが、これはそれで決めた。
引用してみよう。

  図書館は自伝をフィクションとして分類すべきだ――――わたしはかねがねそう思っていた。われわれは心ならずも自身の人生の半分以上を忘れてしまう。

ミステリーのはじまりとしては、なかなかユニークだと思う。そして読んで驚き、感動したのだが、この文章は単なる飾りではなかったのだ。この作品は、「主人公の記憶」が大変重要なカギとなっているのである。

ネタバレをしたくはないので具体的には書かないが、このミステリーの後半で判明するある「事実」そしてそこから描かれるシーンにわたしはビックリギョーテンした。そそそそんなのって有り!?としばしボウゼン。
だがまあ、それも含めて頭からシッポまできちんと整合性が取れる美しい仕上がりになっているし、二番煎じは不可能だが、うーんよくもまあ、こんなのを書いたよなあ、としばらくあれこれ考えてしまうのだった。そしていろんな描写にすべて意味があったんだ、ということを確かめて、讃嘆するほかないのであった。

この小説は分類するとしたらサスペンス。
中盤以降の怒涛の展開に、スリリングな驚きと喜びを味わうことが出来る逸品だ。

2013/01/06

なんらかの事情

なんらかの事情
なんらかの事情
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岸本 佐知子
筑摩書房
売り上げランキング: 596

■岸本佐知子
お取り置き本3冊目。2012年11月に出たもの。
気になる部分』『ねにもつタイプ』に続く、ファン待望のエッセイ第3弾!!である。

岸本さんの感性というのはなんだかとても不思議で、ともすれば「へんちくりん」なんだけど、でもなんかすっごく気になる、妙にざわざわする、そういう感触があるので、彼女が翻訳したものはいちおう気になってチェックする。そしてあまりにも「一筋縄ではいかなさそう」だと読むのを保留する。100%の波長の合い方ではないのだ、だから合わないこともあるけれど、合うとこれがなかなかどうして……。
さあ、今作はどういう趣向で来られたかな?

岸本さんのエッセイはエッセイなんだけど、でもどこか途中で創作になっていく、物語になっていくものが少なくない。全部本当かも知れないじゃん、と言われるかもしれないけど、どう考えたって現実では不可能なものがあるから。例えば今回ので言えば耳たぶの話とかね。
もちろん素材は彼女の実際の体験や考えたことだろう。というかもう「考えたこと」という時点で多分「創作」が入ってきているというか、彼女の「妄想力」はとにかくすさまじいのだ。よくわからない、なにを言ってるんだ、なぜそうなる、とか冷静になる前にどんどん腕をつかまれ引っぱられていく。
そうかそういう視点ありなのかと目からウロコというよりは呆然としてしまったり。

ちょっとやってみよう。
共感は◎、共感しないは×、共感はしないがエッセイとしては面白いは★。
最初はエッセイだったが途中から創作になってると思うもの (っ´∀`)っ

才能  ・・・・・レジ並びの話。◎ (っ´∀`)っ  
ダース考  ・・・・・ダース・ベイダーのこと。★
運  ・・・・・ボタンや傘がすぐダメになるという話。★
変化  ・・・・・モヤモヤする言葉。★ (っ´∀`)っ
物言う物  ・・・・・電化製品がしゃべる件。★
応援  ・・・・・自分が注目すると無くなる件。★
おもなできごと  ・・・・・日記風。★ (っ´∀`)っ
D熱  ・・・・・衝動のようにわきおこるドンタコス熱について。★ (っ´∀`)っ
上映  ・・・・・走馬灯の準備。★
マシンの身だしなみ  ・・・・・「ついつい入れてしまった飾り」への愛。★
素敵なアロマ生活  ・・・・・素敵生活の始まりとその突然の終り。トカトントン。★
次  ・・・・・生まれ変わったら。KYな自分。★
瓶記  ・・・・・日記風。空き瓶を整理する話。★
きれはし  ・・・・・知らない人が話していた気になる話。★
何らかの事情  ・・・・・聞くたびに変な気持ちになる言葉について。★
レモンの気持ち  ・・・・・レモン○個分とかいう表現について。★
友の会  ・・・・・アスパラガスの謎。★  
珍道具  ・・・・・傘と扇風機って変じゃない?という話。★
ガニ  ・・・・・うまい・まずいの基準。★
閉会式  ・・・・・オリンピック閉会式の思い出。★ (っ´∀`)っ
ファラの呪い  ・・・・・サーファーカットについて。★
みんなの名前  ・・・・・ニックネーム。★
スキーの記憶  ・・・・・冬のスポーツが嫌いという話。★
愛先生  ・・・・・ラブ先生の思い出。★
着ぐるみフォビア  ・・・・・着ぐるみの真実。★ (っ´∀`)っ
イ  ・・・・・イカとっくりについて。★
新しい習慣  ・・・・・片足立ちの話。★ (っ´∀`)っ
ハッピー・ニュー・イヤー  ・・・・・捨てまくる。★ (っ´∀`)っ
読書体験  ・・・・・本を読んでいると。★ (っ´∀`)っ
遺言状  ・・・・・胃カメラをのむ。★ (っ´∀`)っ
Mさんち  ・・・・・幼いころみた大人の素敵生活。★ (っ´∀`)っ
キラキラ  ・・・・・人から聞いた不思議な話。★ (っ´∀`)っ
転職の夢  ・・・・・サザエのふたへの愛。◎
金づち  ・・・・・数字が浮かぶひとのミステリー。★★★
ザ・ベスト・ブック・オブ・マイ・ライフ  ・・・・・夢の本。★
海ほたる  ・・・・・古いカーナビの話。★★ (っ´∀`)っ
M高原の馬  ・・・・・大きな馬の妄想。★ (っ´∀`)っ
雨季  ・・・・・雨への愛。◎
万物の律義さ  ・・・・・ある物がある場所にあるときは別の場所にはないということ。★
行けない場所  ・・・・・夢で行く場所。★
おめでとう  ・・・・・お正月の風習の由来。★ (っ´∀`)っ
耳  ・・・・・耳たぶへの愛。★
やぼう  ・・・・・「め」「ぬ」などひらがなの形状について。◎
会う  ・・・・・基本的な言葉についての考察。★
選ばれし者  ・・・・・トークショーで見た夢。★
おめでとう、元気で  ・・・・・周囲の個性派たち。★
やばさの基準  ・・・・・「あの宇宙人」と比較する。★

実際ひとつひとつ見てみると◎が異様に少なくて愕然としたが、逆に「共感できない」はゼロなのだ。そして「創作になっていく」 (っ´∀`)っの多さ。夢妄想と明らかなのだからあえてつけなかったものもある。
この各エッセイのタイトルを目次から書き写していて、あらためて岸本さんの「言葉」への情熱、センスと選択の確かさがびしばしと伝わってきて、小さく感動した。
言葉って美しいなあ。
装丁:クラフト・エヴィング商會

2013/01/03

本当のことしかいってない

本当のことしかいってない
長嶋 有
幻戯書房
売り上げランキング: 15,102

■長嶋有
記念すべき新年の初めに読む本はこれ。昨年末入手したが、大切にお取り置きしてあった。ふふふ。
素敵な装画(竹井千佳)を用いた素晴らしい装丁(緒方修一)の本書は、ネットで発売情報を得ると同時にチェックし、著者公式ホームページに書いてあった発売日(2012.12.22)に大きな書店にいくという家人に頼んだら見つからず、書店員さんに「まだ出てないっすねー」と冷たく(?)あしらわれたそうだ。なるほどアマゾンで検索してみると発売日は26日……だがもう一回確かめに行った著者公式サイトではやはり22日となっておるではないか!
こういうときはいまは慌てず騒がずネット発注。というわけで様子をみていたら26日夜に無事商品は発送された。

エッセイかと思っていたら書評集で、しかもものすごっく真面目に、真剣に書いてある。純文学作家長嶋有の姿がどどんとせまってくる情熱の書であった。その姿勢はすぐに理解できたから、こちらもほほう、と居ずまいを正す感じになり(気持ち上)正座する感じで読ませていただいたのだが、とても面白かった。文字通り、吹き出して笑ってしまう箇所もあったが、そういう「笑い」の面白さだけじゃなくて、興味深い、タメになる、納得する、参考になる、こころに響く、という意味での「面白さ」が真面目に伝わってくるのだった。ああ長嶋さんってすごく小説とか文学が好きで、大切になさっているんだな、ということがびしびし感じ取れるので、嬉しくなってにこにこしてしまう。

採り上げられている作品には既読のものもあったが、未読どころかその存在すら寡聞にして知らなかったものが多く、書評を読んで「読んでみたいな」と思ったり、「この書評より本物は面白いんだろうか」とか失礼なことを考えたりした。既読のものに関して書いてあることが結構「ああそうか、そういうふうに読むものなのか」という感じだったので、つまり材料になっているテキストそのものよりもさまざまな作品の書評を通して読むことで見えてくる長嶋有という作家の考え方・有り方が相当面白く感じたので。

あと一般の読者には無理な読み方というのが作家本人とつきあいがあって普段のひととなりを「知っている」バックボーンがあって作品を読むという状態、しかも同業者。これがめっちゃ興味深し。川上(弘美)さんの書評にもそういう面白さがあったけど、著者のキャラクター(キャラクターって言うな)が異なるから違う面白さがある。
具体的には、吉田修一、角田光代、穂村弘、佐野洋子、川上弘美、山崎ナオコーラ、枡野浩一なんかが親しそうなメンバーだ。凄い!ミーハーの血が騒いでしまいそうだ。筒井康隆とは直接の交流はないようだが、ネットでアマチュア時代にお世話になったりしていて、すごく尊敬しているんだな、ということがあっちからもこっちからも伝わってくる。尊敬といえば佐野さんについてもそうで、かのひとが「ジャージの二人」の遠山さんのモデルじゃないか、という想像はわたしもしてしまっていたが、そうか、違うのか。その佐野さんが長嶋さんに送ってよこしたという感想文はもう最高。
あと、山崎ナオコーラ=ロボット説、というのも面白かった。静かに衝撃を受けたのは離婚届の保証人を穂村さんに頼んだとかいう一節で……そうか、そうだったのかうーむ、という感じ。

「本当のことしかいってない」とググるとグーグル先生に「もしかして、『本当のことしか言ってない』では?」と訊き返されてしまうがひらがななんだよーん。
この本の装丁、カバーを取ってみるとちょっと荒川洋治の文芸時評みたいだ。もちろん意識してのことだろう。なのに上のほうから気が抜けるような謎の波線(手書きふう)がぐねぐねと複数下りてきている。なんなんだろうなあ、これ。

一度目はふつうに読んだだけだが、二度目は付箋など用意して、読みたい本をチェックしてみたいと思う。

ことり

ことり
ことり
posted with amazlet at 13.01.02
小川 洋子
朝日新聞出版 (2012-11-07)
売り上げランキング: 2,032

■小川洋子
お正月休みの徒然に、珍しく1日に2作品も読んでしまった。これも昨年暮れに出ていた本で買ってお取り置きしてあった。梅田の紀伊国屋で買い求めたらサイン本だったというのも嬉しい。
12年ぶりの書き下ろし長編小説。

親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、
そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。


出版社の紹介文の冒頭にはこうあり、そこから思い出したのは2007年上半期の芥川賞受賞作・諏訪哲史『アサッテの人』だった。たしかあれ、小川さんが選評で絶賛してたんだよなあ。
もちろん違う話だし設定などは違うんだけど、「そのひとにしかわからない言語」という世界は共通している。
『アサッテのひと』の細かいことは忘れてしまったんだけど、なにか連想させるものが『ことり』にはあるような気がした。ぱくりだとかそういうこと言いたいんじゃ決して無いので誤解なさらぬよう。ただ、「小川さんが好きそうな話」なんだから、触発などはある、かもしれないがわからない。

アサッテの人
アサッテの人
posted with amazlet on 07.08.04
諏訪 哲史
講談社 (2007/07/21)
売り上げランキング: 115

紹介文を読んだだけだと「自分たちだけの世界を築いていた兄弟の話」なのかと思わせるが、実際読んでみるとお兄さんは250ページある作品のなんと87ページにして早々に亡くなってしまう。
もちろん、亡くなったからといって弟の頭の中にはずっと寄り添っているから、「これは兄弟の話ではない」ということにはならないが、その展開の速さはやや意外だった。
そもそもこの物語の語り口には最初から違和感があって、それは主人公は「小鳥の小父さん」と呼ばれていたのだが、物語の最初のほうは幼い少年だったりするのに、そのときですらも彼を示すことばは苗字や名前ではなく、「弟」そして「小父さん」なのだった。「いま」から語り手が「過去」を振り返っているので、そうなるんだ、と頭では理解していても、頑是ない幼子の言動に「小父さん」というのはなにか、幼さに浸りこめない距離感を感じる。この違和感は、「語り手=主人公」だとすればほとんど感じないのだろうけれど、語り手というのは物語上では存在しないことになっていて、主人公はあくまで小鳥の小父さんだから、のように思う。

兄の死後、その存在にこころの殆どを占められていた小鳥の小父さんが腑抜けのようになってしまったらどうしよう、と危惧していたがそうはならず、案外しっかりと自分の生活をマイペースで保っていく姿にひどく安心した。兄とゆかりのあった幼稚園の鳥小屋の管理・清掃をかってでて、毎日小鳥の世話をする。図書館に通い、小鳥に関する本を毎週1冊ずつ借りて読む。ちなみに小鳥の小父さんの口を糊するための仕事は22歳のときから同じ、ある企業の持っているゲストハウスの管理人だ。「小父さん」にはぴったりのように思うが、二十代の若者が選ぶ職業としてはかなり渋いセレクトだ。それ以前に両親を亡くしていたため、兄の様子をいつでも見に帰れるから選んだ、とある。

兄の享年が52歳であるから、7歳下の小父さんは図書館に通い出した時点で45歳くらいだったはずなのだが、そこで20代の若い司書の女性に淡い恋心を抱くようになる。積極的にどうこうできるわけでもなくて、生々しい欲望なども書かれないのだが、おそらく初めて親切にしてもらったきれいな女性だったので、気にならずにはいられなかったのだろう。でも逆に女の立場からいうなら、「ここまで無防備になれるのは、まったく恋愛対象にはならない、それこそ“おじさん”だからこそだろうなあ、罪つくりなひとだなあ」と読んでいて思った。そして司書さん自身がある程度以上親しくなってしまったときにその危うさに気が付いたらしく、実に潔く舞台から身を消すのだった。

兄に去られ、想いびとにも会えなくなってしまい、でも物語は続く。鈴虫を愛する老人が出てきて、このひとは虫云々ではなく別の部分で変態であり、正直気持ちが悪かったがそれでもまあ良い友人になるのかと思いきや、物語は少々主人公に酷い仕打ちを与えていく。この終盤の展開は読んでいてけっこうつらかった。何故この物語のタイトルが『小鳥』ではなく『ことり』なのか……その隠された意味を知ったときはそのおそろしさ、残酷さに衝撃を受けた。にんげんってやっぱ恐い。無責任な噂とか思い込みとかで簡単にひとを貶め、追い込むんだね、それでいて自分の善良さはつゆほども疑わないんだ。

最後の方に出てくるメジロの泣き合わせ会の実態は、数年前にテレビが潜入レポートをやっているのを観て知っており、だから小鳥の小父さんの取った行動には思わず喝采をさけんだ。
しかし、物語がもたらすカタルシスにはなにか繋がらず、読み終えてのわいた感情は喜びではなく切なさや悲しみだった。小川洋子の書く物語にはしばしば美しすぎる、純粋すぎるからこその悲しみがあると思うが、これもそうだった。小鳥の小父さんは最後しあわせだったんだろうか。
天国でお兄さんと再会し、笑っているといいなと思う。

2013/01/02



あけましておめでとうございます

いつもありがとうございます

新しい年も みなさまにとって

さらに良き日々になりますように


 2013年1月1日 翌の読書手帖



先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!
小林朋道
築地書館
売り上げランキング: 73,737

恒例、干支関連の本をでアマゾンでググっていたらこんなのありました。
へびは苦手なのでもろにその写真とか使ってある表紙とかPCの前で凍りつく感じです。。。
これは絵本ではありません、人間動物行動学の本らしいけど面白そう。
思わず発注してしまいました。
新たな分野開拓になるかな?