2013/12/28

小説のように

小説のように (新潮クレスト・ブックス)
アリス マンロー
新潮社
売り上げランキング: 15,992

■アリス・マンロー 翻訳:小竹由美子
表題作を含む10篇収録。
マンローは数年前に2冊読んで「小説は巧いけど、あんまり好きではないなあ。だってこの人絶対性格悪いよなあ」という感想だったがこのたびノーベル文学賞を受賞したというので再評価すべきかと久しぶりに読んでみた。
短編だけど、ひとつひとつが重いというか深いというか、噛み砕いて嚥下し、消化するのにものすごいエネルギーが要る感じ。
昼休みに少しずつ、ゆっくり時間をおいての吸収で。
結論としては、印象は変わらず。

以下はストーリーの内容にふれた上での感想になっています。
ネタバレあり。白紙で読みたいという未読の方はどうぞスルーしてください。


次元
いったいこの女の人の身に何が起こったのかは伏せられていて、読んでいくうちに徐々にわかってくる。セラピーに通わなくてはならないほどの精神的ショックを受けたということは相当な悲劇だろうと予想し身構え進んでいく。男の異常な性格がわかるがそれに唯々諾々と従っているこの女性もふつうとは思えなくて、「事件」の後も夫の面会に通い続ける気持ちが理解できなかった。そして最後の最後であの展開。びっくりしてしばらくページを見つめて考え込まねばならなかった。はあ、そういうもんなの、人間ってそういうふうに変わるときがある? しかし不思議と説得力があるのだ。

小説のように
ふたりとも賢くて、現代的で、同志のような気持でいた夫婦だったのに、夫はいつのまにか心変わりをして全然垢抜けない子持ちのダサい女と暮らすことを選んでしまった。自分のほうが美人で有能でイケてるのに! 主人公のプライドはズタズタ。
というのが前半で、後半はいきなりそれから何年(何十年?)も経った時点の、裕福で社会的地位も教養もある夫との落ち着いた暮らしをしている主人公になっている。現在は満ち足りた生活である彼女はある日パーティでひとりの若い娘の顔が妙に気が障ることに気付く。そして後日その娘の書いた本を見つけて読む。そこにはあの頃の自分が書かれていた……。
前振りの衝撃と、その後の幸せ、それをつなぐ「いまに至る期間」についての説明が一切無いことが、著者の意図なんだろうなあと思う。自分の拠って立つべき自信を奪われ、地にはいつくばった主人公がどういうふうに再生したのか、その苦悩の期間がすぱっと省略されている。だからこそ、幸福である「いま」に「昔」が入り込むその些細なとげが主人公にとって気になって仕方ないのだということがよりわかりやすくなっている気がする。
双方複数の離婚と再婚をしていて、それぞれに前妻前夫がいて、そのみんなが集まって談笑するパーティが出てくる。わからん。そこまであっけらかんとしてるものなのかなあ。カナダだからかなあ。 

ウェンロック・エッジ
ルームメイトのニナは若いけれども既に波乱万丈の人生を送ってきていた。早すぎる妊娠、出産、男の出奔を経ていまは性格の歪んだ金持ち老人に囲われている。女子大生である主人公はある日、その老人から食事に招かれる。屋敷に行くと秘書から全裸になることを命令される。しかし結局老人は彼女に指一本触れるでもなかった……。
なんなんだろうこの話は。変態?でもそれが主眼じゃないのよね。変な話だよなあ。人間の尊厳とかそういうことかなあ。命令されて聞いてしまった時点で実害がなくとも精神的トラウマは残る、自分はそういうことに従ってしまったのだという悔いと共に思い出すっていう……。恐いわねえ。

深い穴
家族でピクニックへ行き、ふざけて深い穴に落ち両足を折って意識を失った長男を父親が助けに降り、母親がひっぱりあげて助けた。めでたしめでたし、という話ではなくて、その少年は穴に落ちる前からちょっと独特の思考をする感じだったのだけど、長じて妙な団体とか思想にかぶれていって家族や社会的な輪から完全にはずれていく。父親は完全に息子を切り捨て、母親は戸惑いつつ会いに行ってやっぱりわけがわからないと絶望する話。
なんだかなあ。説明出来ないんだけど、この息子、大嫌い。

遊離基
Kotobankによれば、遊離基とは【フリーラジカルfree radicalまたは略してラジカルradicalともいう。通常の分子は偶数個の電子をもち,これらが対をつくっているが,遊離基には全体として奇数個の電子が含まれ,対になっていない電子がある。】とのこと。
主人公は老いた女。癌を患っていて、当然自分が先に逝くだろうと思っていたら健康診断もバッチリだった夫があっけなく突然死してしまって、だれも自分の気持ちなどわからないと慰めに寄ってくる周囲をわずらわしく思っている。
この家に家族3人を身勝手な理由で殺害したキチガイ野郎がやってきて……。
強盗相手に主人公が身を守るために昔の夫の女の話とかして毒殺したとか嘘をつくんだけど、例えばクリスティーのミステリだと間違いなくこの主人公は強盗を殺すことになるんだけど、最後のあれはえーと、事故?それとも?


顔半分に大きな痣を持って生まれた少年が主人公。
父親は彼の存在を否定し、母親は彼を溺愛し、学校にもやらず甘やかして育てた。
敷地内の小さな離れには父親の愛人?とその娘がいて、少年と少女は仲の良い遊び友達だった。が、ある日少女が赤いペンキを顔にかぶり少年の模倣だとしたことから二人は決別することになる。少女はふざけてやったと思っていたが何年も経って少年が大人になってからある事実が明かされる……。
この少女の愛というかなんというか、は凄いなあ。でも幼すぎて、どうなんだろう、長じて彼女は自分の頬の傷をどう思っていたんだろう。

女たち
田舎の村に、白血病の夫とその妻と妻の母親が住んでいて、主人公はその家に週何回か手伝いにいく下女みたいな立場。この妻は大卒で大学教授というインテリで、古い因習に固まった村人や主人公の母親は陰口をたたいていた。
この家にやたら陽気で人懐っこいマッサージを専門とする女が出入りするようになる。妻と主人公以外はこの女を受け入れているように見えたのだが……。
女の戦い?だわね。水面下の。めちゃくちゃ微妙な人間関係とか好悪の微妙な変化、食い違いみたいなものを実に巧く掬い出して描いてある。こんなの書くかあという感じ。あるよね、みんなに好かれている明るいひとだけどでも自分はなーんかイヤなの、みたいな。

子供の遊び
2週間の夏季キャンプで出会って、偶然同じ帽子をかぶっていたことや名前が似ていたことから双子のように扱われ、仲よくなったマーリーンとシャーリーン。いろんな打ち明け話をして秘密などを話していくなかで、主人公は自分の家(二世帯住宅みたいな感じで日本のように親子ではなくて他人が住んでいる)にいる障害児学級に通う少女ヴァーナが自分に関心を持ってつきまとい、周囲の大人にとっては些細なことだけれども自分にしたら脅威でいじめられているとしか思えないことをしてくるから理屈抜きで嫌悪感を持っているのだと打ち明ける。そしてそのキャンプもあと数日で終わるというときになって、障害のある子どもたちが彼女らのキャンプに合流し、その中にヴァーナもいた。
大人たちの、ハンデのある人間への対応と、それを「偽善」と断じる主人公の子ども視点、ただ本能的にヴァーナを恐れ、キャンプでも目を合わせないように逃げる心理などが克明に描かれていて、容赦がない。マンローの視点はこれを認めているわけではないし、これを読んで「差別だ」というのは明らかな読み間違いであるが、例えばこれをそのまま日本のテレビで放映することは不可能だろうなあとは思う。
主人公ともうひとりの少女はその夏、ある罪を犯し、そしてそれは表面化することなく彼女らは成長し、大人になった。現在ひとりは病により死の床にあって、懺悔し許されることを願っている。しかしもういっぽうの主人公は……。
よくこんなの書くなあ。


いろんな樹木にすごく関心があって大事に考えているロイ。
家具の布張りや表面の磨き直し、椅子やテーブルの修理もするけれど、それよりも彼にとって重要なのは森を歩き、木を見て回り、薪になるものを切り出していくこと。
森林を持っているひとと個人的に交渉して許可を得て、ひとりで入って行って仕事をするのだ。ちょっと危ないなあと思っていたら案の定というか、商売絡みの心配事に頭を悩ませていたからなのか、ふつうだったら考えられない初歩的なミスをしてロイは森の中でバランスを崩し、結果的に足をかなり痛めてしまう。立ち上がることさえ困難な状態で、這って戻ろうと努力するロイを助けにきたのはなんと妻であった。彼女は昔は陽気で活気があったのだが、最近は鬱のようになっていて、暗く考え込んでいることが多かった、その妻が、というのがおおおという感じ。
木があると寄って行って撫でてしまう木材フェチなので、萌えながら読んだ。ロイみたいに見ただけで何の木かわかるほど詳しくはないので、ロイの樹木への愛はすごいなっと面白く読めた。

あまりに幸せ
これはフィクションだけれども、実在のロシアの女性数学者ソフィア・コワレフスカヤの実際の人生を下敷きにしてあるらしい。
短篇というか中篇だけど、登場人物が多く、おまけに時系列が現在と過去を行ったり来たりしてややこしい。しかもコワレフスカヤさんにはなんの関心も無いんだもの! 「壊れやすい」みたいな名前だわね、とか思いつつざっと読んだけど、整理しようと思ってウィキペディアで彼女の人生の概略を見たらその段階で既にめちゃくちゃややこしかった。1850年1月15日~ 1891年2月10日。
当時のロシア人女性は国内で高等教育を受けることができなかった。しかも夫や父親の許可証なしに家族と別居して外国へ行くこともできなかったのである。そのため、ドイツやフランスの大学へ留学することに憧れていた上流階級の進歩的な女性たちの間では、やむをえず偽装結婚する者が多かった。】とウィキペディアにあるが、こういう時代だったからこそ彼女の人生は波乱万丈にならざるを得なかったと言えるかもしれない。

2013/12/25

know

know (ハヤカワ文庫JA)
know (ハヤカワ文庫JA)
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野崎まど
早川書房
売り上げランキング: 1,961

■野﨑まど
初・野﨑まど。「本の雑誌」2014.1月号で初めて知った作家さん。
京都が舞台だというのと、表紙のイラストの美少女が可愛いので読んでみたくなった(変態)。ぱらりと中身を確かめるとSFらしいので、いったんは保留にしたのだがやはり気になると。
で、読み始めて100頁くらいすんごく退屈だったのだが、我慢して読み続けるとそれなりに面白くなっていった。

2080年代が舞台の近未来SF。
人間の脳に「電子葉」なるCPUみたいなもの?が埋め込まれるのが一般化した社会(30年くらいの移行期あり)。現在の我々がパソコンや情報端末でインターネット検索して得る知識を体内に組み込んだそれによって行うから、未来のその世界では「知っている」という言葉の意味が2013年とは違うという。たとえ知らないワードでも聞いた瞬間に脳内の電子葉で瞬時に調べ、知識として口に出せるのだから、調べる前には知らなかったこともほぼ同時に知っていることになる時代、というわけだ。おー、面白い。けど、そういう時代の学力試験なんかはどうするのかね? と素朴な疑問。まあ、数学の難しいのは検索しただけで理解はできないから教わる→理解するの過程が必要だろうけど例えば歴史とかスペリングとか漢字とか翻訳とかね、どうなるんでしょうね。
以下、ネタバレあり
未読のかたはスルー推奨!
ネタバレ じゃんじゃんばりばり してますよ!
これから読むっていうひとは読まない(* ̄(エ) ̄)/


というわけで、以下は既読を前提に書かせていただく。

思いっきり根本的な最初の設定で横道に逸れたけれどもそういう細かいことのほかに最後まで読んでもよくわからなかったのが、結局あの天才と呼ばれた道終先生は何をどうしたくて少女「知ル」をそういうふうに育て、そんであの時点でいきなり自殺しちゃったのか、ということ。いや、量子葉を埋めたヒトを作って育てる、その気持ちも目的もわかるよ? でもなんで死んじゃえるわけ? 理解とか共感とかが追いつかなかった。実験の為だとして、なんで最後まで見届けなかったのか。書いてあったかもしれないけど。読み飛ばしたのかなあ。生きてると不都合なことがある?じゃあ隠れてたら?駄目なのかなあ。 いや、他にもいろいろ読んでる最中に疑問は浮かんだんだけど、ちゃんと作中で納得できたので。まあ天才の考えることはわからん、ということなのかもだけど。

ふだん読んでいるのと全然違う設定やストーリー展開で面白かった。登場人物の名前が漢字とカタカナの妙な組み合わせで、これは2080年代の流行を示しているのかなと思って読んでいたのだけれど、読後、アマゾンのレビューを見るに未来とかは関係なくてこの著者の特徴のひとつ、なのかな。
現在の人類では想像できないレベル9の人間がどういう思考・言動をするかとか、面白い。なんでこんな平然としてられるのかなと思ったら「全部よける」とか……! なんたること。しかもフォーマルにドレスアップしてるんだぜ! 超絶すぎて、真面目にツッコむなど無粋を誰がが出来ようか。

メディアワークスの作品かと錯覚するけど早川文庫。
主人公が28歳の遊び人の青年で、恋も仕事もスマートにこなす超エリート設定で、美人で有能な部下が実は惚れていて転職先までくっついてくる。なんとも脳内オメデタイことで、という感じ。ほんとラノベっぽい。アサハカだなあ。この設定要る?要らんよね?まあドリームっつーことでスルーするが。駄菓子菓子、14歳の美少女が好奇心から迫ってくるのに刹那的としか判断しようがない感情で手を出しちゃうのはいかんでしょ。(事後、純愛ぽくしたいんだな、という描写が見受けられたが、無駄である。どう読んでも稚拙な独占欲と動物的欲情だけだった)。
あと、アスタリスク(レベル*)の野郎があそこまで品性下劣だとリアリティや説得力に欠けるのでは。敵だけどさあ~バカすぎるんだもん~なんでこの能力と権限与えられてんのかわかんないわ~、みたいな。

身体に直接検索機能を埋め込んで、というのは先例があるけど(菅浩江『永遠の森 博物館惑星』2001年)、それが全人類対象で、どういうふうに社会的に機能しているかとか丁寧に設定があって、全然違うパターンで面白かった。京都の寺のお坊さんに話を聞きに行って全部吸い取るところとか良かったなあ。あのへんは「0能者ミナト」をちょっと連想したり。なんか、高僧もそうだったし、電子葉を埋め込んでないヒトのほうが一周まわってカッコイイんだよね。

読む動機のひとつであった、京都が舞台である意味はあんまり感じられなかったので少し残念だったが(例えばそのまま京大→東大、京都御所→皇居としてなにか差しさわりがあるだろうか)、地理的に親しみやすいし京都の地名がいろいろ出てきて嬉しかった。
ラストへの展開は、えええこれだけ壮大な話で「知りたかったこと」ってそれ!?と拍子抜けせんでもなかったが……エピローグ読んで、かなりギョッとして「ああ、確かにこれはいままで読んだことなかったところに持っていったな」と思って、いろんなこと考えるヒトがいるもんだとびっくりした。

カバーイラストはシライシユウコ。カバーデザインは有馬トモユキ。題字プログラミングは坪谷サトシ。
これ、題字はカバーデザインのひとが一緒にやっちゃうわけにはいかないのかな? カバーデザインって装丁ということでしょ? なんでわけるんだろう。
よくわからん。

2013/12/19

本の雑誌 2014年1月号

本の雑誌367号
本の雑誌367号
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本の雑誌社
売り上げランキング: 2,492

■本の雑誌編集部
いろいろ考慮のすえ、ここ2年は1月号しか買わなくなりました。
住宅事情、雑誌の変化とわたしの読書傾向やスタンスの変化などいろんな事情をふまえてのことです。
1年ぶりに読むと独特の世界だなあと思います。
1997年1月号から持っていたんですがこれもすべての年の1月号だけを残してほかは処分したのが半年ほど前。
最近この、1月号を夜、順番に読み返していっています。
1998年に松村さんと浜田さんが新人さんとして出てくるとか。
このあたりは椎名さんが編集長時代なんだよなあとか。
編集部に金子さんがいる~、吉田伸子さんが97年のベストでは「編集」としてまだいらっしゃる~とか。
「この時に既にこの作家を発見、絶賛しているとはすごい、さすが」
などとうなり、感心することもしばしばあります。
本好き万歳。

2013/12/12

箱庭図書館

箱庭図書館 (集英社文庫)
乙一
集英社 (2013-11-20)
売り上げランキング: 14,687

■乙一
集英社WEB文芸「RENZ ABURO」の人気企画「オツイチ小説再生工場」から生まれた6つの物語。
乙一がそれぞれをリメイクすると同時に6篇を共通する町で起こっている、登場人物がリンクする連作短篇集の形に仕上げている。

原作はwebで読むことが出来る。原作というのでどの程度かと思ったら、印象的な部分を抜き出して原案からかなり構成・テーマなど変わっている物もあれば、リメイク後の面白いところは全部原案にあって感心しきり、というようなものもある。
原作が面白かったのは「青春絶縁体」。野村美月の「文学少女」シリーズとかぶる?と最初の2頁くらいは思ったけど、すぐにそんなことは気にならなくなるくらい面白かった。原作はちょっと漫画チックでそのへんの動きの描写が「ああこういうことやりたいんだろうなあ」とはわかるけど惜しい、アイデアに言葉がついていってない、という点はあったけど乙一版よりもユーモラス方面が強調してあって面白かったし。乙一版はふたりの学校生活からのはみ出し方に重点が置かれていて、最終部に至る展開のひねりなどはややこしいのを鮮やかに書きだしてあって、流石プロの技、という感じだった。

「小説家のつくりかた」
原作「蝶と街灯」
乙一版の主人公の小説家になった動機がいまいち理解できない。それがなんで復讐になるの?

「コンビニ日和!」
原作「コンビニ日和!」
コンビニが舞台で強盗というのはありきたりすぎるんだが……。

「青春絶縁体」★★★★★
原作「青春絶縁体」★★★★★
上記コメント参照。
文芸部ネタというだけでも美味しいのだが内容もキャラ立ても会話の面白さも絶妙!

「ワンダーランド」
原作「鍵」
原作と乙一版の主人公キャラの微妙な違いが興味深い。

「王国の旗」
原作「王国の旗」
こういう話は十代じゃないと思いつかないよなあ、っていうか十代のころこういう思考文化が周囲にも児童書にもあったなあと懐かしかった。おとなは敵、だったねえ。しみじみ。

「ホワイト・ステップ」★★★★★
原作「積雪メッセージ」
雪の上に姿はないのに足跡が、すわ密室モノ!?――とミステリファンは考えたがその後の展開は予想をはるかに上回るファンタジーというかSFというか、すんごくわくわくする面白展開で、そしてそれが悲しい、あたかかい、切ない、下手したら泣きそうになる物語になっていくのだった。すごおおく良かった。主人公の男性の自虐的なキャラはちょっとモリミー思い出したけど。丁々発止の友人との会話も面白いし。
原作を読んで、あらためて乙一の言葉や設定の巧さを確認できた。うんうん、やっぱ同じ場所で、文字だけじゃなく足跡からはじまって、のほうが断然良いよね、とか。
このお話を読んでいると、6つの話を通してリンクして出てくるひとびとが、それぞれ少しずつ、ささやかだけど幸せな人生を送っているのかな、と思える描写がちょこちょこ出てきて、作者の目のあたたかさみたいなのを感じて、良いなあ、とじんわりこころがあたたまる気がした。

解説・友井羊というひと。乙一のコアなファンだったひとが作家になったらしい。すごいなあ。

2013/12/10

ジーノの家 ――イタリア10景 【再読】

ジーノの家 (文春文庫)
ジーノの家 (文春文庫)
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内田 洋子
文藝春秋 (2013-03-08)
売り上げランキング: 12,642

■内田洋子
初読みは今年の4月なので、再読するのはちと早いのであるが、ちょっと読みかえしたくなって開いたらどんどん入って行って、やっぱり堀江先生に似てて、好きだなあと思うのだった。今回はアトランダムに読んだ。

「黒いミラノ」はやはり日本人って甘いのかなと思う。
「黒猫クラブ」は市場でチーズを買うくだり、みんなが屋上で食べるところが良い。
「ジーノの家」はドラマだなあ、つらいなあと思う。
「初めてで、最後のコーヒー」は最後がかっこいいよね。
「私がポッジに住んだ訳」は修道女はじめ出てくるいろんな立場のひとの人生模様が面白い。
「船との別れ」は劇的映画になりそうだ。
「サボテンに恋して」は最後のどんでんがえしに向けての前振りがわかって読むととってもユーモラス。
「リグリアで北斎に会う」はちょっとどう消化していいかわからない。
「僕とタンゴを踊ってくれたら」も実はあんまりぴんとこない。
「犬の身代金」は前半の犬の散歩仲間とカフェに毎朝行くエピ、自宅に招いててんぷらパーティをするくだりまでが好きである。誘拐はいかんよ。犯人のダメ男とぬけめのなさそうな嫁のくだりがなんとも、ねえ。

2013/12/06

東京百景

東京百景 (ヨシモトブックス)
又吉 直樹
ワニブックス
売り上げランキング: 34,997

■又吉直樹
太宰治の「東京八景」を思い出させるタイトル。そういえば「富嶽百景」というのもあったな。
この連想はあながち間違いではなかろうという感触があって、「はじめに」で確認して頷いた。又吉さんは太宰ラブを公言されているからだ。
初めてそれを聞いたとき、思わず又吉さんの年齢を確認した。凄いなあ、と思った。太宰と言えば「はしか」に例えられるように思春期や学生時代などの若いときにハマる者はハマるが、後年、いい年になると恥ずかしくて読めなくなるというので有名な作家だからだ。十代のひとが公言しても微笑ましく思うだけで別に感動はしないけど、1980年生まれのひとが真顔で真剣に言い切ったのでおお、と思ったのである。
このひとは本物(の太宰好き・文学好き)やな。と確信した。と同時に精神的にちょっと疲れているというか繊細すぎるというか危ういんじゃないか、大丈夫なのかな、と心配もしている。
大阪出身で、上京して最初に住んだ三鷹のアパートが偶然太宰の家の跡だったというエピソードは恰好良すぎて「これぞ“選ばれた者(の恍惚と不安)”」とか口走りたくなってしまう。

本書は4年くらいの間に書かれた百のエッセイで、いずれもどこか東京の地名や場所(浦安もあったけど)と、そこであったことや思ったことなどが書かれている。景色や風景描写はほとんどない。
長さは1頁だけのものも数ページにわたるものもあり、まちまちである。
読んでいると、うぉ!と内心叫び、もっかい読み返し、その通りだなあ、凄い核心を突いた真実だなあとしみじみ感じ入ることが何回もあった。思わず鉛筆で傍線を引くとかポストイットを貼るとかしたくなった。しかしいざそこをここに引用しようとすると、あまりにも真実なのでちょっと自分の青さをさらけだすようで恥ずかしいということも判明した。

それにしても又吉さんはご自分を低く見積り過ぎなこと甚だしく、お洒落でセンスが良く頭も良く文章もうまいのに非常な謙遜家である。
全部じっくり読ませていただいき、面白がったり共感したりしたが、特に好きだったのは、クラブに行って酔って醜態をさらしたときに「お前のどこが人見知りやねん」と言われたことに対する反撃のために書かれた面白いくらい持って回った渾身の分析&批判で、全部「まえおき」なのだが、こういう理論武装、話の持って行き方は非常によくわかるし共感する。しかもその中身がめっちゃ良い。単なる冗長ではなく密度の濃い真理であるところが凄い。ちっとも逃げてなくて感心した。「くくるのは人であって自分であってはいけない」。

ほかにも、放送作家にタクシーの中でネタを説明したのに運転手が最後の作家の台詞で爆笑した話、ライブ会場で音響さんと照明さんの粋な反応があって盛り上がった話が特に良かった。木の実が落ちるのを同時に見たことから始まった恋の話はなかなかに切ない。将来の夢の話に大阪城が出てくる話はまるで漫才のネタのようだ。栗原類君の楽屋にいったときの類君の挨拶は偉いなあ、とわたしも見習おうと思った。ちょっと文章としては敬語がくどい感じだけど。
よく職務質問されるというのはへえーという感じだけど最近は有名になったから減ったかな? 
東京に土地鑑のあるひとが読んだらもっと臨場感があるのかもしれない。

以下、好きだった章具体的に列挙する。 [ ]内は自分用メモ
22.一九九九年、立川駅北口の風景 [高校で出会った友人エピ1]
26. 国立の夜明け [高校で出会った友人エピ2]
35. 杉並区馬橋公園の薄暮 [しずる村上さんエピ]
36. 堀ノ内妙法寺の雨降る夜 [江戸川乱歩みたい]
56. 赤坂草月ホール [誕生日サプライズ]
63. 池袋西口の地図 [職質]
76. 池尻大橋の小さな部屋 [東京のハイライト]
82. ルミネtheよしもと [音響さん!照明さん!]
85. 麻布の地下にある空間 [人見知り]
87. 蒲田の文学フリマ [そら目立つがな]
91. 車窓から見た淡島通り [一読爆笑でちゅ]
94. 湾岸スタジオの片隅 [類君偉い]

2013/11/30

ひさしぶりの海苔弁

ひさしぶりの海苔弁
ひさしぶりの海苔弁
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平松 洋子 安西 水丸
文藝春秋
売り上げランキング: 48,606

■平松洋子
週刊文春連載「この味」(2011年8月11・18日号~2013年4月25日号)の単行本化。
発売前に新刊情報でこれを知り、著者名に平松洋子と安西水丸と両氏の名前が並んでいたから、安西さんが書き言葉を添えたイラストを描いたりしてもっと出張ってくる感じの、濃厚なお二人のタッグを楽しみにしていたのだが、実際に読んでみるとあにはからんや、安西さんはごく大人しくふつうに本文に合ったイラストを添えているだけなのだった。なーんだと拍子抜けしたけれどまあ、当たり前っちゃー当たり前か。いや、村上(春樹)さんの挿し絵のときにちょっと戯れておられるイメージがあったので。

どーんと83のメニュー、目次を書き写しながら内容を思い出し、にやにやと楽しい。そういえばわたしの場合はね、と喋りだしたくなる。
連載が週刊誌ということもあってか、ターゲット読者層がややおじさん向けかな?という感じ。女性向けの細やかな家庭料理とかグルメとかじゃなくて、日常の、昔からよくあるみんな知ってる気負わないメニューが多い気がする。
本書では衝撃の告白が平松さんからなされた。なんと。あの何でも美味しく食べる健啖家の平松さんにして、「おでん」が苦手だったとは!!
しかしその克服(?)のためにいきなり鹿児島に飛んじゃうのが何故また、と思ったらかの南国のおでんには「なんこつ」が入っていてそれがトロトロでめっぽう美味いという。へええええ。

それにしても本書だけでなく平松さんの近刊を読んでいて少しく気になるのが「男子」「女子」という流行語使い。まぁ「男子厨房に入らず」は昔から言うけど、あくまで一般的に、例えば10年前なら「男性」「女性」というはずのところを、例えば「三十代素敵女子」とか書かれると、かなりげんなりする。三十代は女子じゃねえ!!とマシンガンをぶっ放したくなるのである。かまぼこの項に出てくる「ごめんねごめんねー」はもしかしなくてもU字工事か。そういえば脈略上必要かどうか、冒頭のツカミなんだろうけど「きゃりーぱみゅぱみゅ」も出てきたなあ。
週刊誌だもん、読んでもらえてナンボ、今どきの言葉だって使いますってことなんだろうけど、こういう旬モノは食べ物と一緒、新しいときはいいけれど、5年もすれば古さを強調するだけの材料だと思う。イカガナモノカ、と思ってしまう吾のアタマが固いんだろうけど。

まあ重箱の隅をつつくようなことを書いてしまったけど、本書が面白かったのは間違いない。パパパパパインの項で穂村(弘)さんと酒井(順子)さんが西荻窪仲間で出てきておお、と反応したり、カマボコってなんかそれぞれ思い入れがあるのかなやっぱ、とか思ったり。
平松さんの料理は読んでいると作りたくなる。食べに行きたくなる、のは遠いところが多いのでそこで「遠さ」がブレーキになるのかな。どうも細かく分量を指示されるレシピより、こういうふうにざっくりとした手順と材料を書いただけのもののほうが、わたしには向いているようである。
あ、モチロン海苔弁も作りマシタよ!

恒例目次写し。
Ⅰひさしぶりの海苔弁
きゅ うりをがぶり/豚足と「昭和の女」/エプロンにはレースでしょ/カフェ・ラテ 八月の真実/すいか相手にぶつかり稽古/バーでキャンプファイヤー/ラストチャンス!みょうが/なすは肉でした/油揚げ賛江/うれしい鮭缶/どうする、目 玉焼き/全裸のとんかつ/ミニカレーの誘惑/れんこん讃歌/伊勢海老の執念/越前がにがやってきた/ぬくもりの神さま/歳末感とともに、切山椒/パセリを 丼いっぱい/パパパパパインはいかがです/オリーブオイル恋慕/柑橘ガールズの追っかけ/女子マネ気分/ニッカボッカの男めし/ひさしぶりの海苔弁/きょ うも海苔弁
Ⅱアタマのいい鴨はうまい
根室の秋さんま/卵焼きキムパプ/負け るな!山田うどん/南国おでんの宇宙へ/鶏飯を朝市で/あぶない三つ巴/本日みぞれ模様/「うみねこパン」を盗み喰い/左右のパリパリふりかけ/新宿三丁 目の貝御殿/「まいにち大食堂」に行ってみた/高級紅茶に完敗/天空のジンギスカン/野郎ども、かかれ/自由が丘へお弁当遠足/奥州のぬか釜ごはん/いよ いよピーマンうどん/アスパラ祭り/道頓堀のさえずり/さぬきうどんの純白/青いレモンの鮮烈/ドリアンの悪魔/イラン式女の台所/モロッコの「いのちの 鍋」/金粉ショーとカスレ/クレープをモンルージュで/アタマのいい鴨はうまい
Ⅲ二十五年目のハンバーグ
か まぼこ板の美学/かまぼこ五連発/いくらバターごはん!/『刑務所の中』とおなじだった/サンドウィッチ対決/五秒ください/逃避の虫が疼く/さかさま油 淋鶏/秋みょうがの味噌汁/冷蔵庫の肥やし/トイレ問題で叱られた/グリーンピースに泣く/豚汁とスケアクロウ/「とん」ですか「ぶた」ですか/わかめ スープの漆黒/深夜のジェノヴェーゼ/ニッキは冬の香り/湯豆腐大作戦/春先だけのステーキ/アントニオさんのテーブル/さよなら、ホットケーキ/好子さ んといっしょ/夜中のひとり煮込み/昔カレーの救い/一升瓶マニア/二十五年目のハンバーグ/ぽろぽろ/幸せなほうじゃのう/緑の大入り汁/銀の針



2013/11/28

ポトスライムの舟 【再読】

ポトスライムの舟 (講談社文庫)
津村 記久子
講談社 (2011-04-15)
売り上げランキング: 69,452

■津村記久子
前回は単行本で読んで、今回この続篇が近々出ると知ったので文庫版を買い直して読んだ。
二篇収録。まずは表題作。
やはり良い小説だ。文章も好きだし雰囲気も好きだ。
この話は、29歳独身、母と二人暮らしの契約社員女性が主人公である。彼女は新卒で入った会社で凄まじいモラルハラスメントを受けた経験を持つ。そのため、現在も暇になることが怖いらしく、バイトから始めて契約社員になった化粧品工場の仕事の後に、友人がほそぼそと経営するカフェでの給仕のバイトをほぼ毎日し、パソコンにデータを入力する自宅バイト、週末はパソコン教室の講師のバイトを掛け持ちしている。契約社員としての手取りが年でだいたい160万ちょっと。
カフェ経営の友人のほかに、大学卒業と同時に結婚していまは2児の母で専業主婦の友人と、就職3年で結婚退職して幼稚園に通う娘が1人いる友人が登場する。
なんというか、若いなあ……まだまだ全然いけるやん、というのが今回読み直しての率直な感想だ。例えばこれが35歳のひとたちの話だったらもっと逼迫してくるだろう、そしてその設定が現実感がないかといえば決してそうではないんだから。
あと、就職せずに永久就職で専業主婦っていう立場のひとが身近にいたことがないのだが、本書では彼女が別世界のひとみたいな、「ずっと同じところをループしてる成長のないひと」扱いであるのが果たして公平な書かれ方であるのだろうか、というのが今回は少し気になった。冷静に考えるといまどきめっちゃ恵まれた環境ではないか、凄いなあ、羨ましいなあと思うが、どうやら姑と頻繁な交流があるようだし、ママ友グループとも上手くいってないようだし、彼女なりの苦労があるようなのだが、独身組にはそれはうまく共感できないらしく、見事にスルーされている。
「女の友情は共感が大事」というけれど、まさにそんな感じ。
自分の立場とか拠って立つところを是とするには、まったく違う価値観を是とするものを認めると矛盾が出てくるので、そうならざるを得ないのかなと思ったりする。実際はそんな一元的な単純な比較が出来るもんじゃないんだけど。
主人公たちが結婚して同じ立場に立つとどうなるのかなあ。どういう相手とどういう結婚をするかってほんと人生左右するよなあ。
続篇の彼女たちはどうなっているのか、ぜひ知りたい。

「十二月の窓辺」
前回読んだとき、こんな異常な上司にモラハラを受ける苦しい話は一読で充分だ、もうごめんだと思って、今回も「ポトスライム」だけ読むつもりだったのだが、ポトスライムを読んだらこちらも読まずには収まらなくなってしまって、歯を食いしばってというか、いじめられているシーンはできるだけ「無」になって入り込まないように気を付けて読んだ。
そういう上での感想だが、やっぱり冷静に読んでもV係長は個人としても会社の一員としても問題があり、それを放置している組織にも上役にも問題がある。モンスター社員ってこういう感じなんじゃないだろうか。
主人公の性格および働き方や職場への接し方にまったく問題がないとは言わないが、彼女が最初からこんなひきつった顔しかできなかったわけではないだろうから、やはり周りが悪すぎたとしか言いようがない。あと、主人公の言動に対して常に感情を見せずにしか対応しないP先輩とかも嫌な感じだよなあ。
しかしあれだね、部長はこの主人公を本社に異動させるとかなんでしないのか。支社と本社の軋轢が最初のほうでさらりと書かれていたけどそのへんかなあ。みんな自分の立場守るのが一番だもんなあ。けっ、って感じだ。

前回読んだときは主人公のことで精一杯な感じだったのだが、今回はときどきお昼を一緒にする他社のひとのこととかにも気を配って読んだのだが、自分が苦しいときに他の苦しさまでどうこうするのは難しいだろうし、でも彼女はむしろ積極的に主人公の愚痴を聞いてあげていて、これは性格的なものもあるので一概には言えないが、それにしても彼女の抱えていた闇の大きさみたいなものがかえって強調される気がして、もし彼女の視点で書かれる物語があるとしたらそれってどういうふうになるんだろうと考えると暗澹たる気持ちになった。主人公は会社を辞められたけど、彼女は辞められないなにかがあって、こういう方向に出ちゃったのかなあ…。

2013/11/21

御馳走帖 【再々読】

御馳走帖 (中公文庫)
御馳走帖 (中公文庫)
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内田 百けん
中央公論社
売り上げランキング: 65,311

■内田百閒
本書は現代流通している一般書籍にはかなり珍しい部類だと思うのだが、旧仮名遣いである。少なくともわたしの手元にあるものはそうである(1979年1月10日初版発行/1996年9月3日改版印刷/1996年9月18日改版発行)。例えば上に写した「シヤムパン」「吸ひ殻」は入力ミスではないというわけである。
「蔬」とか「酲」とか「聯」とか、目次だけでも難しい漢字があるくらいなので、本文でも普段目にしないようなのがちょこちょこ出てきて、まあ前後の関係もあるし、読めるのだが、自分では使いこなせそうもない雅やかな言葉遣いであって、なんというか、眼福である。

それにしてもあらためてじっくり読んだが百閒先生はイラチだなあ(これ関西人にしか通じないか。せっかち、短気なひと)、とつい思ってしまう。他人が批判的に書いたわけではなくご自分をここまで客観視して正直に書いておられるそこには自虐やユーモアのための誇張もあろうからそう思うのは浅慮とわかっているのだが。そして毎度出掛ける仕度に異様に時間がかかっている気がする。朝にはてんで弱く、午餐の蕎麦屋の出前が正午ちょうどに届いておらねば機嫌が悪く、晩餐は晩酌であってずるずると長そうだ。奥さんやまわりの若い方や編集者のみなさんは大変だったろうなあああ、と思う。岡山の造り酒屋に生まれ乳母日傘で育てられたというから基本的に「ワガママ坊やちゃん」なのかもしれない。しかし同時にお育ちがとっても良いのであろう。すくすく歪まず真っ直ぐきれいなキラキラのこころのままで大きくおなりになったのであろう。そうでなければあの伝説の「イヤダカラ、イヤダ」なんて名言は出て来ない。周囲のみなさんのみならず後世のたくさんの読者に好かれ、愛され、尊敬されているのだからどれだけ愛嬌のある天性の魅力と知性にあふれた御仁であったかと思う。

全篇食べ物や飲み物、口にする嗜好品に関する随筆ばかりなのでお腹が空くかもしれない。昔はアイスクリームを「飲む」とか言ったんだなあ。「唐茄子の味噌汁」エピソードが出てきて「唐茄子」とはナスビの種類かとググったら南瓜のことだった。無知を恥じる。でも「水菓子は果物のこと」とわかっていても「菓子」といわれるとやっぱり水羊羹とかゼリーの類の映像が最初に脳裏に浮かんでしまう。字面で連想しちゃうんだよなあ。

だいたいにおいて年寄りの思い出話は繰り返しが多くなるもので、本書だけでも同じエピソードが数回出てくるが、幼いころの煙草をめぐるエピソードでねじこむ相手が祖母と母親で異なっているのがあった。
黒澤明が百閒先生をモデルに描いた名作映画「まあだだよ」に出てくる馬の肉を買うシーンにしても本書だけで3回書かれてそれぞれ微妙に味付けが違う。
だんだん思い出したのか、脚色がすすんだのか。
解説の平山さんは「阿房列車」でおなじみのヒマラヤ山系氏である。解説というより詳細で貴重な資料という感じで、これまた面白い。


まあだだよ デジタル・リマスター版 [DVD]
角川映画 (2010-07-23)
売り上げランキング: 7,664
目次
序に代へて
薬喰|食而|菊世界|解夏宵行|饗応|林檎|沢庵|雷魚|百鬼園日暦|謝肉祭|酒光漫筆|三鞭酒|芥 子飯|河豚|養生訓|白魚漫記|撿校の宴|蒲鉾|おから|シュークリーム|鬼苑日記|腰弁の弁|宿酲|廊下|馬食会|窮屈|牛乳|チース|下宿屋の正月| 玄冬観桜の宴|船の御馳走|バナナの菓子|カステラ|紅茶|不心得|痩せ薬|茶柱|缶詰|喰意地|人垣|油揚|大手饅頭|可否茶館|麦酒|吸ひ殻|餓鬼道 肴蔬目録|こち飯|お祭鮨 魚島鮨|猪の足頸|食用蛙|雅会|小難|がんもどき|酌|鼻赤|列車食堂|めそ|一本七勺|御慶|お膳の我儘|す|我が酒歴| 焼豆腐とマアガリン|ひがみ|未練|実益アリ|おからでシヤムパン|聯想繊維|煙歴七十年|牛カツ豚カツ豆腐|鹿ノミナラズ|車窓の稲光り|解説(平山三 郎)

2013/11/15

家守綺譚 【再々々々読】

家守綺譚
家守綺譚
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梨木 香歩
新潮社
売り上げランキング: 6,956

■梨木香歩
『冬虫夏草』を読んだらこちらも読みたくなってまた読む。さすがにほとんど記憶にあるのをなぞっていく感じだがそれがまた良い。おいしい御馳走はなんど食べても嬉しい。

綿貫は変なやつ(誉め言葉)だと思っていたがそうなのだ、ヒツジグサのところで「この水草が、最近、『けけけっ』とたいそうけたたましく鳴く。ヒツジなら他に鳴きようもあろうに。」とかしゃらっと書いてある。こういうところが変なのだ。ふつうは「ヒツジグサのあたりから妙な鳴き声がする、なにか棲み付いたんだろうか」と云うんじゃないかと思う。そこをすっ飛ばしている。案の定、ヒツジグサじゃなくそこにいた河童が鳴いてたんだ、そーれみろ。
っていうか河童(がリアルに存在する世界)かよ!
という素晴らしい脳内ノリつっこみが出来てしまうのだ、ああ楽しい!!(変態)。
全篇そんな感じでにやにやわくわくしながら楽しんじゃう。

それにしてもわたしは白木蓮ファンなのだがあの花を見て中に龍の仔を身籠っているとは思いついたことが無かった(おおいま気付いたが籠るという字には龍がおるぞ!)。
池には河童が、川にはカワウソがいて、カワウソが母方の祖父である長虫屋がいる。
狐と狸の化かし合いかと思いきやサルスベリまで人間のなりで登場する。

あまり意識していなかったがわたしは高堂が好きみたいで、何故今回わかったかというと『冬虫夏草』にはくだんの登場割合が少なかったから少し物足りなかったのである、ということをあらためて「家守」のほうを読み直してようやく気付いた。あとゴローが、というかゴローと隣のおかみさんの交流具合も好きみたいである。和尚と綿貫のやりとりは「草枕」のそれも連想させて好き。
要するにまあ、たいがい好きなんである。ちなみに「冬虫」では村の地元の人々と交流するさまが好きだった。

2013/11/10

冬虫夏草

冬虫夏草
冬虫夏草
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梨木 香歩
新潮社
売り上げランキング: 156

■梨木香歩
わたしはなっきーのファンであり、その著作はどれも好きであるが、中でも一番と言っていいくらい好きなのが『家守綺譚』で、その年のベスト1位はもちろん「今まで読んだ中のベストテン」でも2位に上げているくらい好きである(1位は漱石『草枕』)。
考えてみれば「草枕」も「家守」も、浮世離れした主人公で、俗世からちょっと浮いたような世界観があって、山とか自然とかが濃厚で、事件らしい事件も無く、人間関係のややこしさも無く、ただ素の己のままに清々しく生きている、そういう共通点があるかも知れない。いやそんな理屈は抜きにしてただもう、読んでいるだけでしあわせというか、なにもササクレ立つところが無いというか、問答無用に「いい」のであるが。

そんな『家守綺譚』のつづきがあるなんて夢のような、とにわかには信じ難かったのが数年前「yom yom」という雑誌に載せられていた短篇を見つけたときで、当時はまだヨンダパンダの原色表紙時代であった。おおおお、あれの続きを書いてくれたかヨムヨム編集者よくやったグッジョブ!と快哉を叫んだものだ。とは言え、わたしは雑誌の連載を読むタイプではないので単行本になるのを待つしかなかった。

魚をよく知らないので表紙を見たとき鮎?と思ったけれども内容を読んでみればこれはイワナらしかった。
文士・綿貫征四郎のちょっと不思議な「ほんの百年前」の日々が綴られている、今回のメインは「鈴鹿山脈」。鈴鹿というとサーキットしか知らなかったが、そう、あらためて地図を見ると鈴鹿の山は近江の国から続いているのだ。自分が奈良育ちのため、「近江は奈良の北、三重は奈良の東」という位置把握でその二県が繋がっているという意識が無かったことを自覚、うーんなんという自己中で貧相な地理感覚よ、と反省したそれはさておき。

作中に登場する植物関係の学者南川氏によれば鈴鹿というのは「本州では陸地が一番狭まったところに在しているので、かなりな風の通り道」になっていて、さらに「岳によって地質も分かれて」おり「石灰岩質、花崗岩質、と、当然山の姿形もそれを好む植物も違ってくる」というわけで「そのような天の事情、地の事情が絡み合い、彼の地では日本海経由大陸経由の北方系植物と、黒潮由来の南方系植物が奇怪な混淆を成している」「標高から云えば大したことはないが、驚くほどの植物層を有している」のだそうだ。「どうだ、俺がのめり込むのも無理はなかろう」と南川氏はのたまうが、読み手はここで深く頷き「なるほど、我らがなっきーがのめり込むのも無理はない」と心中つぶやいたことである。

綿貫氏の家にはゴロー君という実に賢い犬君がいるが、今回のお話では序盤くらいでこれが結構長い間留守にしていて、任意のことなのかのっぴきならない事態に陥っているのかはたまたその無事は、という心配な状態になる。探そうにもゴロー君の行動範囲はめっぽう広く、あても「どこそこの山でいつぞや見掛けた気がするが」という甚だ頼りない伝聞である。旅の途中でも氏はイワナの夫婦がやっているという宿に心惹かれたりなんだりして寄り道が多く、あんまりそのことだけに気を取られて我を忘れてという感じではない。ただ心の隅にずっとひっかかっている感じではある。わたしは犬を飼ったことがないのでわからないがこんなものなのかな?

相変わらず河童が普通に人間にまぎれて生計を営んでいたり、そもそもがイワナが人間になって宿をやっているという話がわりと素で出てきたり、さすがは「家守綺譚」の世界である。お菊ちゃんの話はかなり胸を突かれた。人間の生き死にというのはほんとうにどういうことになっているのか、病がちでも細々とそれでも長生きする人生もあればついこのあいだまで元気溌剌だったのにちょっとしたつまづきであれよあれよというまにはかなくなってしまうひともいる。この話には年を重ねられたおじいさんやおばあさんも出てこられるが、彼らがカクシャクとされているのを読んでいるとやはりそれはそれなりの得難いこと・有難いことなのだなあとしみじみ感じ入る。ことに若宮八幡神社の神主のご母堂の様子は読んでいるだけで楽しいというか、良いなあ、かく有って欲しいなあという存在感であった。

  聞けばその子の家は神社のすぐ近くであった。そばで逐一聞いていた、齢九十の母上は、
  ――――おまはんはここにおり。うらが行くのがええ。
  何もかも心得た風で、すたすたと歩いていった。お母はんにはいつまでたってもかなん、と神主はぼやいた。



梨木さんの作品すべてに言えることだが、本シリーズにも植物はたくさん登場し、章ごとのタイトルがそれになっているのが特徴のひとつだ。読後、それらをネットで検索し、ああこういう花であったかと確認するのも楽しい。
本書で登場する中でいちばんこれは美しいと感じ入ったのはアケボノソウ

それにしても、最初のほうで出てきたイシガメの産卵はなんだったのか。このシリーズはまだまだ続いておかしくない気配がある、というか続いて欲しい。
どうぞよろしくお願いいたします(祈っちゃうよもう)。

2013/11/01

HAPPY HALLOWEEN

Pumpkin Moonshine
Pumpkin Moonshine
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Tasha Tudor
Simon & Schuster Books for Young Readers
売り上げランキング: 11,597

あの素晴らしい庭で有名な、アメリカを代表する絵本作家の1人、ターシャ・テューダー1938年のデビュー作だそうです。絶版。持ってません。手に取ったこともありません。和訳版はいまいちっぽい?

ガンジス河でバタフライ

ガンジス河でバタフライ (幻冬舎文庫)
たかの てるこ
幻冬舎
売り上げランキング: 43,892

■たかのてるこ
単行本は幻冬舎から2000年11月刊。本書はその文庫版で、2002年3月刊。――を、今頃買って読んだ。
単行本刊行時に書評誌に載っていてそのあまりにも印象的なタイトルに度肝を抜かれてずっと覚えていたが何故かタイミングが合わずというのかなんというのか、読むに至らぬままこんにちまで来た。
先日、ふらりと入ったヴィレッジ・ヴァンガードでは相変わらず本書が平積み状態で置いてあり、「ああそういえばこれはまだ読んでいなかった。今日買わねばまた読みそびれてしまうだろうそうだろう」というわけで買ってきて読んだ。

なんとなく想像していたみたいに読んで爆笑とか吹き出す、とかは無かったのであるが、まあ、大阪の面白いおねーちゃんが関西弁でいうところの「イキってる」というか、こういう感じのお笑いなひとは昔からクラスにひとりはいたなあ、とか思ってにやにやしながら読んでいたのだが、それにしてもこのひとはものすごく会う人間に恵まれているというかご本人の人徳なのか、だんだんある種の尊敬すら覚えるようになった。

当時女子大生だった著者が1991年に香港とシンガポール、翌年にはインドへと一人旅をした、そのときのことを面白おかしいフランクな文体で綴ったエッセイ?旅行記?なのだが、『深夜特急』みたいなストイックなもの、典型的なバックパッカーものをなんとなく想定して読んでいくとそれはことごとく覆される、まではいかなくてもずらされる、くらいはある、なんとも不思議な展開が待っているのであった。そしてその原因というか要因はすべて著者・たかのてるこの素晴らしき性格に因る、と思う!

どこまでリアルそのままかよくわからないのだけど、たかのさんは怖い目に遭ったりしなかったのかなー、いろいろ大変な状況になったり行き当たりばったりだったりしても、周りのひとたちが本当に親切に助けてくれるんだよね。いやー……ふつうはこう上手くいかないってば。

わたしはインドとか行ったことないけど、この本を読んで真似するのだけは無謀だと言い切れる。
たかのてるこ凄過ぎ・ナニモノ!(ええ、世間は10年前に知ってたざんすね)。

2013/10/31

買えない味 【再読】

買えない味 (ちくま文庫)
買えない味 (ちくま文庫)
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平松 洋子
筑摩書房
売り上げランキング: 23,271

■平松洋子
感想思いつくまま箇条書き。
・箸置きってコレクション欲をそそられる。平松さんみたいに砂浜で拾った珊瑚のカケラとか木の枝とかでもいいんだなあ。
・白い器は定期的に漂白してしまうが放っておくと味わいが出る?…いや、でもなあ。
・豆皿も蒐集し出すとオソロシイ世界なのね。
・葉っぱを器にしちゃうなんて斬新ざんす。
・テーブルクロスとプレイスマット両方なのかー。うちはプレイスマットだけっす。実家はテーブルクロス。
・野菜の皮は時と場合によるけど確かに滋味があって嫌いじゃない。
・たしかに当たり前に使ってるけど醤油ってそのものが美味しい。
・冷やごはん礼讃。ってそういえば、お弁当のごはんがまさにそうなんだよなあ。本来の味かあ。飯櫃の項でも冷やごはんしみじみしてる。うーんでもわたしは炊きたてが好き。
・パンチングのザル欲しい。
・蒸籠の見た目の美しさで購入実績あったりしマス。
・晒しを料理に使うとは。でもキッチンペーパーのほうが気楽だよなあ。
・平松さんといえば土鍋フェチ。
・麻のクロスが欲しくなってきた。
・片口は平松さんの影響で買った。
・ろうそくが日々の灯りの生活って優雅だなあ。
・エプロンは自分もしないが割烹着は持っている。
・あああルクーゼの鍋(の蓋が重石に)!でも数万円はやっぱおいそれとは!
結論、わたしの台所には平松さんの影響が大きい。そしてこれからも。でも辛いのは苦手なので真似できんのであった。
目次。
朝のお膳立て
箸置き/白いうつわ/取り皿/豆皿/大皿/緑の葉/漆/テーブルクロス/プレイスマット/木のお盆/うつわに花を
買えない味
指/レモン/唐辛子/水/風/野菜の皮とへた/本/熟れる、腐る/醤油/冷やごはん
キレる力を!
注ぎ口/調理スプーン/ザルとボウル/塩壺/トング/まな板/蒸籠/竹の皮/巻き簀/晒し/楊枝/土鍋/鉄瓶/キッチンクロス/片口/保存容器/石/飯櫃
機嫌のよい一日
買い物かご/木の弁当箱/茶筒/ろうそく/手土産/エプロン/うつわの収納/皿洗い/空き箱/土瓶/重し
あとがき 日々に穿つ楔
解説 平松さんはかっこいい(中島京子)
写真 日置武晴

2013/10/29

瞬きよりも速く

瞬(まばた)きよりも速く〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)
レイ ブラッドベリ
早川書房
売り上げランキング: 426,654

■レイ・ブラッドベリ 翻訳:伊藤典夫、村上博基、風間賢二
ちょっと読みたくなる事情があって久しぶりにブラッドベリの新刊を買った。本書は、2007年に早川文庫NVより刊行されたものの新装版で、2012年9月に刊行されたもの。
21篇の短篇集。
前回はNVで、今回はSFという早川文庫の中の区分けが変わったのか……。ちなみにNVというのはNOVELからきているらしく、海外一般小説というくくりらしい。早川にはほかにファンタジーのFTというサブレーベルもあるのだが何故これが一般小説に入れられたのかなあ。

以下、ネタバレも含む、自分用の忘備メモ的感想。
未読の方は注意されたし。

「Uボート・ドクター」
これは正直面白さがよくわからなかった。
「ザハロフ/リヒタースケールⅤ」
震災とかいろいろあってこれを読むとなんともなあ。
「忘れじのサーシャ」
書かれてみれば、おおこれはなんとも夢のある希望のある、何故いままで書かれなかったかという話。
「またこのざまだ」★
映画に詳しいひとにはもっと感動する話かも。でもそうじゃなくても、良い話だと思った。
「電気椅子」
ああ昔からの男と女の。ブラックですな。
「石蹴り遊び」
少年と少女の、誰かさんと誰かさんが麦畑♪
「フィネガン」★★
ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』とは関係あるのかな? このお話の中では「子どもより大きな蜘蛛」の話。ミステリアス・ホラー。
「芝生で泣いてる女」★★
この語り手と芝生で泣いてる女の関係は読んでいると容易に想像がつくのだけれど、いやでも、少女の夢をうまいこと描くブラッドベリらしい話だなあ。
「優雅な殺人者」★★★
コメディチックなミステリー?サスペンス? この夫婦は実は愛し合っていたんだよね?
「瞬きよりも速く」
自分とそっくりな人間がショーの舞台にいて。タイトルがすごく意味深なのだけど内容は女芸人の天才的スリ技のこと。
「究極のドリアン」★★
果物のドリアンじゃなくて、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』のほうだというのは読めばわかる。ちょっと村上春樹の『1Q84』に出てきた教祖様を思い出したり。
「何事もなし、あるいは、何が犬を殺したのか」★★
愛犬家の一家の話?だよね。昨今のペットはペットじゃなくて「家族」なので人間並みに扱うのが普通になってきている、これを読んでユーモアと悲しみがわかる状態ではあってほしい。
「魔女の扉」★★
これはコワい。時空の歪み。魔女裁判って狂気ですな。
「機械のなかの幽霊」
こういうノリはちょっとついていけない、とりあえず群衆怖すぎ。
「九年目の終わりに」★
どこが9年の区切りとするの、あ、誕生日か。妻を愛してる夫だねえ。
「バッグ」
バッグという踊り(ソシアル)の天才の話…でいいのかな。
「レガートでもう一度」★
小鳥たちが美しいメロディを奏でている、それをSF的にエスカレートさせたドタバタもの。面白い発想だ。
「交歓」★★
こんな図書館司書さんはなんにんいらっしゃることか。男の方が実は死んでるんじゃないかとずーーっと疑って読んでしまった。
「無料の土」★
イヤイヤイヤイヤ、いくら無料だからって墓場の土もらってきて自分の庭に撒きます?
「最後の秘跡」
死後名を成した作家たちへの敬愛が書かせた話らしい。
「失われた街道」★★★
このシチュエーション好きだなあ。旧道をどんどこ行って。でもそこで過去に行くとかそういう不思議がいっさい起こらないのが意外。

「あとがき――――生きるなら走れ」
これを読むと、ブラッドベリ自身が作品解説(?)みたいな「暗喩(メタファー)」解説をしてくれてあり、大変面白い。
全篇通して、すごくよくわかるのもあれば、その反対のもあったが、久しぶりに読んだにしてはすんなり溶け込める話が多く、予想以上に楽しかった。

2013/10/28

ふしぎ盆栽ホンノンボ 【再読】

ふしぎ盆栽ホンノンボ (講談社文庫)
宮田 珠己
講談社 (2011-02-15)
売り上げランキング: 306,490

■宮田珠己
眠る前に少しずつ、ほのぼのほんのんぼー、と再読。
ホンノンボとは、ベトナムとかで盛んな、盆栽の、石の部分が多くて、周りに水が張ってあって、陶器のミニチュアが乗せられている、山のジオラマ?みたいなのを言うらしい。
日本では盆栽が盛んだが、中国では盆景というのがあって、これは盆栽とホンノンボの中間くらいの感じなのかな。でもホンノンボの特徴のひとつとして「間抜け感」というのがけっこう重要ポイントのようで、それは盆栽や盆景には無い要素な気がする。

詳しい感想は初読みのときに書いたのでこのへんで。

2013/10/20

平松洋子の台所 【再読】

平松洋子の台所
平松洋子の台所
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平松 洋子 日置 武晴
ブックマン社
売り上げランキング: 109,879

平松洋子の台所 (新潮文庫)
平松 洋子
新潮社
売り上げランキング: 43,644

■平松洋子
久しぶりに読みかえしてみた。
通勤に文庫を持って行って会社に「置き本」して、家では単行本のほうで読むという、両方持ってるからこそ出来るパラレル(?)な読書方法を取ってみたりして。
――というか、たまたま文庫を会社に「忘れて」きて、うー続き読みたかったのに。っていうかそういえば続き家に単行本あったんだと気付いたというのが真相だったり)。

単行本と文庫本の違い、それはねー、日置さんの写真がすべてカラーなこと、少しだけ写真の掲載数が多いこと、もちろん単行本のほうがね。
紙が真っ白じゃなくてやわらかい素材でほのかにあたたかいから、写真もぽわん、と和んで見える。
文庫の写真は、カラーの部分もあるけれどほとんどはモノクロ。
モノクロ写真もそれはそれで悪かないんだけど、やっぱりカラーはきれいだしインパクトが強い。両方同時に読み進んでいって、そう感じた。

それにしてもやっぱり「平松洋子の台所」読んでると物欲がシゲキされるなあ! 鍋とか、お皿とか食器類、台所雑貨的なものが欲しくてうずうずしてしまう、ここ数日忙しくて帰りに店に寄る気力がないからいいけど(いいのか?)。土鍋……1種類は持ってるとりあえず、でもうーん、こういうの欲しいなー石釜1個でいいからあるとオモシロそうだよなあ使いこなせないかな難しそうかなー。とか、ついつい思考がさまよっているのに気付いて「はっ!いまヲレはなにをっ」状態。あぶないあぶない。

平松さんは他の作品でも思ったけど、アジア好きねー。食器とかお鍋とか買うためにその国の市場とか駈けずり回っていらっしゃる印象。まあ、その土地の料理を美味しく作るのにはその土地のお鍋使わなくちゃ味が出せないというその理屈はよくわかるんだけど。でもここ数年ニュースとかでイロイロ出てきたからどうなのかな、安全性とか?って不安がどうしても先に立っちゃって、食器とか鍋とかはやっぱ日本製選んでるんだけど。まあ、どこの国で作っているか、じゃなくて、店単位とか職人単位とかで判断するものなのかもしれないけどね。

買えない味2 はっとする味

買えない味2 はっとする味 (ちくま文庫)
平松 洋子
筑摩書房
売り上げランキング: 48,737

鰻にでもする?
鰻にでもする?
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平松 洋子
筑摩書房
売り上げランキング: 569,468

■平松洋子
本書は2010年8月に筑摩書房から出た『鰻にでもする?』を文庫化するにあたり改題されたもの。
まあ、2010年も鰻は減ってたかもしれないけれど2013年の夏なんてもう、鰻が希少で高くて高くて……。なんとなく、そのままのタイトルで文庫化はいかがなものか、ってなったんでしょうね。
平松さんの書籍タイトルってでも、結構単行本を文庫にする際に改題になっているのがあるのだ。

さて中身の感想。今回もいろんな「味わい」があって、面白かった。
もくじを写しながら振り返ってみたい。⇒感想コメント。

はっとする味
 パセリ ――「つけ合わせ」以上の美学  
     ⇒パセリはもう食べなくなって久しいなぁ。特に外食では絶対無理。
 魚の骨 ――ゼラチン質をまとう
     ⇒鯛とかはやっぱ、骨も出汁取ったりしなくちゃもったいないよね。
 ドライフルーツ ――失って得るものがある
 タジン ――砂漠の国の知恵のたまもの
     ⇒去年景品でもらったけど使いこなせてないというか小さすぎた。でも野菜美味しくなるのは本当。
 骨つき ――肉でも皮でも筋でもなく
 ミント ――たちまち気分転換
     ⇒ミント食べるのは苦手なのでミントライスとか絶対無理。
 スムージー ――初夏になると恋しくなる
     ⇒関西人はミックスジュースは大好きやで。
 卵 ――みょうに不可解
 胡椒 ――香辛料界の帝王
    ⇒それは平松さんが辛い物がお好きだからです。わたしラーメンに胡椒かけません。
 油揚げ ――贔屓が過ぎるでしょうか
    ⇒こないだ堺さんも油揚げのこと書いてらしたなあ。わたしも炊いたのより焼いたほうが好き。
 餅 ――せっせと世話を焼く

ここまで細々書き写してきて疲れました(オイ)。以下、もくじの写しはハイフン以下は省略いたします。感想コメントがある場合は[ ]内に。

鰻にもでもする?
 鰻 酒[日本酒呑めたら世界が広がるよなあー。わたしは無理です] 旅 菓子折り おすそわけ マスター[なんで人間が] ホットケーキ[平松さん家のホットケーキは大きさカタチ以前に黄色いなあ。卵たっぷりなのかな] 甘いもの[写真にある本が気になります] 鼻 氷[わたしの贅沢は……好きな食材1種類だけを満腹食べること、かな?] カップ酒[またお酒!てかカップ酒て!淑女が呑むもの?もっといいお酒呑みなさいよとわたしだって言いたくなるよ] 残りもの[残るときと残すときと。夏場は注意が要りますがね] 献立[スーパーの特売に左右されがち] 

なくてはだめなのだ、もう
 精米 たわし 輪ゴム かまぼこ板[ミニサイズのまな板になる、成程!いいなそれ真似させてもらいマス!] トースト[トースターじゃダメなのか……] だしパック うちわ 串[串のまま食べると突き刺さりそうな気がして。先端恐怖症とまではいかないんだけど。はずしてから食べてちゃダメでしょうか] 焙烙 おろし金[ぎゃーおろし金で手を擦っちゃうとか痛そうぅ~平松さんでもそんな失敗をなさるのか] ワックスペーパー[薬局に売ってるのかな?文化が無かったので。これは真似したいと思います] 中華包丁[おろし金で手を擦るひとが、大丈夫なのかと一瞬だけ思った] アルミホイル[たしかに便利ですな] 中華鍋[これも便利。でかい鍋代わりになるし]

日常のすきま
 小鉢 ガラス ビニール袋[これは文章の出だしとどうつながってるのかやや不明] 強火弱火[強火か弱火でやっちゃうなあ。中火が使いこなせない] 急須 うつわのふた お重 冷蔵庫[この写真のどこがスカスカ?] ごみ 新聞紙 食器の数

日常の贅沢について
解説 勝手に弟子入り!? 室井滋

庭にくる鳥 (みすずライブラリー)
朝永 振一郎
みすず書房
売り上げランキング: 475,554


2013/10/15

有頂天家族

有頂天家族 (幻冬舎文庫)
森見 登美彦
幻冬舎 (2010-08-05)
売り上げランキング: 1,027

■森見登美彦
これは京都が舞台になっているというのは著者の他作品と同じだけれども、語り手(主人公=三男)が狸なのである。というか、登場するキャラクターの八割がたが狸であって、残りは天狗とか半天狗の人間とか半分ケモノみたいな人間なのである。
7章にわたる4百ページ越えの長篇だが、大筋は京都に棲む狸一家の内輪の中の権力争いであって、それをドタバタ・ファンタジー・コメディ風に書いてある。
暇つぶしに読むにはまあ悪くなくて、呑気な感じで読んでいけて、別に最後にもどうということはなくて、大団円になるだろうという予想を裏切らない。
表紙のイラストにもあるようにテレビアニメ化されたようだ。

狸が主人公なのだけれど、だいたいは人間に化けて暮らしていて、しかし書かれる彼らの生活はふつうの人間にはあり得ない、まず経済活動をしていない。学生でも無い。よくわからない。だって狸だからな。
つまりいつもの「モリミーの京大腐れ学生ライフ」な世界とは違う。
だけど森に棲む自然動物の狸の生活を書いてあるわけでもない。
つまりこれはとりあえず「狸」ということにしてある「ファンタジーな架空の、想像上の生き物」が主人公である、といったほうが正しいのかも知れない。
だって狸って人間に化けて暮らしていないからな!
京都の町中にこんなふうに棲んでる狸なんていないもんな!(ああさっきから阿呆みたいになっている)

なんだか読んでいて、中途半端に「人間」だったり「狸」だったりして、そのどっちに比重を置いて読んで良いのかわからなくてちょっと気持ちが悪かった。普段人間の形をしていても、動揺したり怖くなったりびっくりしたり気力が衰えたりすると狸に戻ってしまうのだが、「息子」が「母親」を抱っこして雷から守ったりするの、これ、中途半端に人間だったりするから違和感が。主人公の狸が大学生くらいの精神年齢なのにその「工場に働きに行っている」弟の設定年齢がどう読んでも小学生でしかなくて、よくわからない。「小さい弟」と出てきたからそうかと思うんだけどでもじゃあ、「働き」にはいかないでしょう?
まあそういう細かいことはファンタジーだから目を瞑って読むんだけど、繰り返し出てくる父の「狸鍋にされて人間に食われた」設定が生々しいというか、そこに至った事情とかも深刻すぎていまいちふわふわとしていられない。
天狗の色惚けとかもスパイスとしてはいいんだけどずっとしつこく同じことが書いてあって鬱陶しい。せっかく天狗なのにただの世俗にまみれた人間となにが違うんだ。

とりあえずふわふわ「狸」で和んで読むから騙されがちだけど書いてあることは人間に置き換えたらベッタベタのダッラダラの手垢にまみれた家族の勝手なわがままが凝縮された話で、多分読むに堪えないんだろうけど、そこへキャラクター設定や「飛ぶ茶室」「風神雷神扇」などのエンタメ要素をふんだんに盛り込み、ユーモラスな文体で愉しめる小説に仕上げてある、器用な作品と言えよう。

2013/10/13

祝 ノーベル文学賞 アリス・マンロー

アリス・マンロー(Alice Ann Munro 1931年7月10日 - )はカナダ人の作家。短篇小説の名手として知られる。2013年ノーベル文学賞受賞。【ウィキペディアより】

自分が既読の作家がノーベル賞作家になるのはあんまり無いので、ちょっとミーハー心がシゲキされました。
邦訳されてるのは新潮クレストが3冊、もう1冊は中央公論新社だけど絶版?なのかな。

わたしが既読なのは『イラクサ』『林檎の木の下で』の2冊です。

イラクサ (新潮クレスト・ブックス)
アリス・マンロー
新潮社
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林檎の木の下で (新潮クレスト・ブックス)
アリス マンロー
新潮社
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小説のように (新潮クレスト・ブックス)
アリス マンロー
新潮社
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木星の月
木星の月
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アリス マンロー Alice Munro 横山 和子
中央公論社
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2013/10/11

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)
森見 登美彦
祥伝社
売り上げランキング: 22,846

■森見登美彦
これは2007年に単行本が上梓された「名作パロディ集」が文庫化したもので、単行本時あとがき、文庫版あとがき、そしてアニメ監督による解説が付いている。
原作は中島敦、芥川龍之介、太宰治、坂口安吾、森鷗外という純文学界に燦然と輝く大文豪、それの別に代表作をというわけではなくて、モリミーが読んで現代版に書いてみたいと思った作品を選んだのだそうで、まあ最初の4つはともかく、鷗外の代表作が「百物語」だという意見はほぼ無いだろうからなあ。

原作に愛を注いで、とかそういう趣旨で書かれていないので、原作熱烈愛読者の中にはひょっとしたらモリミー版を読んで眉を顰めるかたもおられるかもしれないが、まあ、原作は下敷きというかアウトラインというかスパイス程度に、森見登美彦の短篇集を読むというスタンスでのぞむといろんなパターンの話があって文体も工夫されていて面白いなあ、と感心できると思う。
なお、それぞれ独立した話ではあるが、この著者の特徴のひとつに作品世界のキャラクターのリンクというのがあって、本短篇集でも同様のことが為されている。そういう点でちょっと連作短篇集の色合いもある。
口絵?にモリミー応援団であるらしい「まなみ組」の地図があるのも愉しい。
装画は山本祐布子。装丁はchutte。単行本のとき、レトロな感じで良いなあと思っていたので文庫も同じ表紙を採用してくれて嬉しい。
ざくっとレビュー。

山月記
文体と内容がぴったりで、完全にモリミーお得意の世界。自己完結した孤高のモラトリアム大学生書かせたらぴか一だもんね。最初、さぐりさぐりで読んで行って文学パロディかな?とか思っていたら夏目が学生の折の「うっす」という台詞があり、そのあまりにもあまりな原典にはあり得ない、でもモリミーの世界では最適であるキャラクターにぴったりの言い回しにぶっとんだ、と同時にこれらの作品群のスタンスを理解した。
中島敦のテーマ、美文、格調はどこかへ行ってしまって完全にお笑いの方向に驀進している。面白い。でもその中にペーソスがあるのが味わい深い。

藪の中
芥川のは殺人で、これは単なる三角関係だし、随分さわやかに落としてしまったわねえという感じ。まあこれはこれで面白かったけど。最後の一文を読むと、モリミーの解釈では惚れた男の弱み、みたいなことなのかな。夫を殺したのは妻だったと。これを読んで原作を読みかえしたくなって青空文庫で確認したけど、あらためて芥川凄すぎ、壮絶。というか、よく考えると、こんな悲惨な、人間の誰を信じても誰かがウソをついていることになる話を書いたそのひとの精神状態というか人間解釈はなんというかうううむ、苦しかったろうのう。と思う。

走れメロス
驚愕した。太宰には死んでも書けないこの芯からの明るさ。目からウロコ、そうそう「友情」とはむしろこっちのほうが現代学生にはリアルである。そして徹底したこの道化っぷり、阿呆っぷりが見事。
太宰で卒論を書いたファンだからこそ愛をこめてあえて言うけど、太宰は文豪としては凄いけど、人間としてはいろいろ駄目だったからなあ。たぶん、太宰がこのモリミー版メロスを読んだらその天性の明るさと才能に嫉妬しまくるんじゃないかな。

桜の森の満開の下
これは美しい小説だなあ!続けて二回読んじゃった。余韻がある。
女性の書き方がぞわぞわするくらい「有りそう」で、悲しいけど怖い。ううう、巧いなあ~。
原作は女が人間離れして妖鬼っぽかったけど、モリミーのはどこにでもいそうな女だからいろいろ考えちゃう。ふつうの女のひと、なんだよね、どこにでもいそうな。で、男のひともそのへんにいそう。そんなふたりの日常なんだけど、歯車がどんどんずれていき、男の側がどんどん苦しくなっていく、それが少しずつ少しずつ、水が砂を洗うように、真綿で首を絞めるかのように、というのがなんともなあ。

百物語
傍観者というか、主催者に対する視点の向け方とか、最後の解釈が微妙に違うのとか、面白いなあ。たくさん登場人物が出てきて、ほかの作品とかぶるひとがいっぱいいて、そういうのも面白い。鷗外は「太郎」という芸者さんにもかなり関心を示していたけど、これにはそれに対応するひとは出てこないね。「桜の森の」の女のひとは出てくるけど。あと、F君ってなんで伏字なんだろう? 原作には伏字のひといないから、どういう意図があるのかなあ。
モリミーの新釈は面白いので、「寒山拾得」も是非読みたかった。

2013/10/08

四畳半神話大系

四畳半神話大系 (角川文庫)
森見 登美彦
角川書店
売り上げランキング: 3,340

■森見登美彦
というわけで順番をやや意図的に間違えて『四畳半王国見聞録』の後にこちらを読んだわけであるが。
いやー。
びっくりしたね!!
これを先に読んでなきゃとか、作品のリンクがどうのこうのという問題じゃないじゃんっ!
こっちのほうが断然傑作じゃないのっっっ!!!
むしろこれは必読、『見聞録』はまあ、興味があれば読んだら? くらいの出来の違いがあるじゃないか。

ちょっと筒井康隆思い出して、えーと、『ダンシング・ヴァニティ』がやっぱり超絶傑作で、繰り返しの物語だったような。と思って調べたら、本作の単行本刊行が2005年1月書き下ろし、『ヴァニティ』は2008年1月。
おお、モリミーのほうが先だ。
っていうかまあ、テーマとかいろいろ違うのでどっちがどう、ということでも無いんだけどね。
でも畳の部屋がどこまでもどこまでも続いていくのとか、やっぱり筒井氏の「遠い座敷」とかとどっかで繋がってそうな、そういう、ファンタジーの連鎖みたいな連想が動いて、すごく楽しかった。

『太陽の塔』系の、せっかく京大生なのにそれを棒にふるかのような無為無策の日々で無駄に埋め尽くしているような男子学生が主人公なのだが、彼が3回生になるにあたり、己の大学生活をかえりみて、「どこで俺は間違えたんだろう」と嘆く、それはまあよくあることかもしれないけれど、これが小説であるのはその「選択」と「結果」のパターンが4つ描かれることで、これはワープロというかコピペ機能があればこその作品だと思うが、そのへんについては「解説」に詳しいのでここでは省く。
とにかく、「そのまんま×4」じゃなくて、少しずつズレていくのとか、順序の絶妙の変化とかが巧いんだよね。で、3パターン読んでちょっとマンネリ化というか、油断していたところへあの「パターン4」が来るもんだから、「おおおおお」となるわけで、最後の方はうまい具合にちょっと感動テイストなんか絡めちゃったりなんだりしてね。作為的過ぎて、ちょっとアレだったけどね。

「解説」といえば、「解説」を読んで初めておお、そう言われれば小津ってすっごいスキル高い学生なんだよなあ、と気づいた、主人公視点だとどうしても小津って小悪党で人間性に問題があるぬらりひょん、としか思えないんだよなあ。でも可愛い彼女がいるくらいだし、魅力がわかるひとにはわかる、のかなあ?

それにしてもモリミーは「黒髪の乙女」が好きだね。「茶髪の女学生」は駄目なのかなー。

2013/10/06

ぐっとくる題名 【再読】

ぐっとくる題名 (中公新書ラクレ)
ブルボン小林
中央公論新社
売り上げランキング: 22,565

■ブルボン小林
新書向けに書かれているので、実用書としても使えることを目指した「良い題名」とはなにかを探る評論というかエッセイというか。
長嶋さん、じゃなかった、ブルボンさんも言ってるけど掲載が最初はweb、次が「活字倶楽部」という若い女性向けの文芸誌だったということで、だいぶ文体はゆるいから気軽に読める。

再読の感想なので、本書で採り上げられている時点で何かしら優れた題名だということだが、その中でもわたしが特に良いなあ巧いなあすごいなあと思うのを列挙してみよう。
なお、小説のタイトルだけではなく、音楽や漫画、映画のタイトルも紹介されている。
後ろに「索引」があるのも便利。さっそく活用してそこから上げてみる。ちなみに中身も読んだことがあるのには※印をつけておく。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?※
蹴りたい田中※
現実入門※
これからはあるくのだ※
淋しいのはお前だけじゃな
幸せではないが、もういい
11人いる!※
世界音痴※
それから※
タンノイのエジンバラ※
D坂の殺人事件※
図書館の神様※
光ってみえるもの、あれは※
必殺仕事人
百年の誤読※
猛スピードで母は※
夕子ちゃんの近道※

良いタイトルというのは読みたくなるものなのだ。

本書に出てこないけど自分の記憶のなかにあるので印象的なタイトルというと……やりかけて、キリがないことに気づき、断念。
だって面白そうと思ったからこそ買って読んでるんだもんなあ!

蚊がいる

蚊がいる (ダ・ヴィンチブックス)
穂村弘
メディアファクトリー
売り上げランキング: 9,170

■穂村弘
ブックデザインが横尾忠則。
角々カクーッとしたカタチ、赤とコバルトブルーの美しいコントラスト、蚊取り線香のパッケージを意識したとっても美しい個性的な装丁だ。
ほむほむのエッセイ集が出ると知り、ネットでこのデザインを見た瞬間、ああこれはもうぜひ買わねば、という感じだった。電子書籍ではこの満足は味わえない。

初出は以下のとおり。
「L25」2008年4月10日号~2009年8月27日号
「週刊文春」2011年3月10日号~2013年7月4日号
「読売新聞夕刊」2009年6月23日~2010年3月16日
「GINGER L」2010年1月号~2013年10月号
「東京人」2010年3月号

短歌についてはほとんど無くて、大衆に相容れない、「生きにくいワタクシ」について書かれてある。まあいつもの穂村さんといえばそうだけど、今回読んでいて以前に思ったことがなくて今回思ったことというと「穂村さんも年齢を重ねて、おじさんになったなあ」ということ、かな。万年青年みたいな不器用さを書いてらっしゃるけど、うーんでもなんのかんの言いながら結局はちゃんと「ふつうのひと」のふりをするスキルを身に着けているからこその、「元総務課長」だったりすると思うから。
ふつうのひとのふりをしていて、女のひとには多分すごくモテて、でも内面がわかってくると「?」が増えていってうまくいかない、ということだったのかな。奥さんは、それが大丈夫なひとだったんだろうね。

共感するというよりは、「へえええ、そういうふうに考えているんだ」というふうに驚きつつ読むことが多かった。誇張もあるような気がするけど。
本書でいちばん「良いなあ」と思ったのは「長友」。
別に穂村さんはなにをしているわけでもないけれど、でもこれをきっちりとらえて見事な手順、技術で最高の形で再現してくれている、それこそがセンスなのだ。
それにしてもこの女の子、イカしてるなあ! ホレるぜ!

巻末の「特別対談 穂村弘×又吉直樹」がかなり面白い。又吉さんと穂村さんの組み合わせってめっちゃ夢のようで、一番最初に読んだ。それにしても足踏まれてそれが言えないとか……わからん。でも、とっさのリアクションに失敗してしまって考えすぎでぐちゃぐちゃになるとかいうのは、個人差はあるんだろうけど、うん、わからんではないなあ。

2013/10/04

四畳半王国見聞録

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)
森見 登美彦
新潮社 (2013-06-26)
売り上げランキング: 7,126

■森見登美彦
ちょっと読む順番を間違ってしまったようだ。
これはモリミーの既刊作品とリンク色が濃い作品だそうで、少なくとも『四畳半神話大系』『新釈走れメロス他四篇』は読んでから臨んだほうがいいのだそうで。

……いや、タイトルに「四畳半」って付いてるから先に出てる「四畳半神話大系」の続篇なのかな、とかは思ってたんだけれども。小さい書店でそっちが無かったっていうのと。表紙イラストが「大系」のほうは以前読んで内容が合わなかった『夜は短し恋せよ乙女』と同じ絵師さんなもんで、イヤこの中村佑介さんの絵そのものは大好きなんだけど、なんだか手が伸びにくくて。

まあ、大丈夫だろう、と先にこちらを読んだ。
結論から云うと、「まあまあ大丈夫」ではあった、のだとは思う。
たぶん既刊作品を既読であれば「あああのひと」とかニヤリとしながら読めたんだろうなーとは思うけれども、例えばわたしは「乙女」はあんまり肌が合わなくて、「四畳半」はそれと「太陽の塔」が混ざったような感じだなあと思った、そういう感触というのにはあまり影響がないだろう。

京都大学の大学生を描いた連作短篇集。順番につながってファンタジーというか、世界が大きいところから口の中の親不知の山のなかから広がってそのつぎはカタツムリの触角の先へ、というふうに不思議に展開していくので順番に読んでいくのがよろしかろう。こういう展開のつながりかたは大好きである。

「四畳半王国建国史」「蝸牛の角」「真夏のブリーフ」「大日本凡人會」「四畳半統括委員会」「グッド・バイ」「四畳半王国開国史」の7篇。

それにしても仮にも現役学生を描いた小説なのに勉強絡みのエピソードがほとんどなく、アルバイトネタも脇役でちょっと出てくるくらい、サークル?は変てこなものばかり。異様だ。
京都大学が舞台なので、モリミーの他作品にも登場する叡山電鉄周辺とか、吉田神社とか百万遍とかそのへんのお馴染みの地名がたくさん出てくる。
京都・モリミー・文学散歩とかしたくなってくるなあ。

表紙イラストは古屋兎丸という、漫画家さんのようだ。


四畳半神話大系 (角川文庫)
森見 登美彦
角川書店
売り上げランキング: 3,286

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)
森見 登美彦
祥伝社
売り上げランキング: 5,019


2013/09/29

ピーター卿の事件簿 【再読】

ピーター卿の事件溥―シャーロック・ホームズのライヴァルたち (創元推理文庫)
ドロシー L.セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 432,472

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:宇野利泰
先日再読した『事件簿Ⅱ』は比較的近年に邦訳出版されたもので2001年4月刊だが、Ⅰにあたる本書が創元推理文庫から出たのは1979年3月が初版。わたしの手元にあるのは1997年12月の第15刷である。

短篇7つ収録。ざくっとレビュー。

「鏡の映像」★★
内臓が左右入れ替わった男の話。なんだか『ジキルとハイド』みたい。やや竜頭蛇尾の感なきにしもあらず。

「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」★★★
ピレネーの山嶽地帯に妻とふたりで棲む医学博士の恐るべき犯罪行為とは。

「盗まれた胃袋」
ホームズにもこのネタあるなあ。鵞鳥かなんかの。

「完全アリバイ」★★★
アリバイの話。現代では成立しないなあ。でも面白い。

「銅の指を持つ男の悲惨な話」★★
嫉妬にくるった狂気の芸術家。

「幽霊に憑かれた巡査」
巡査は素面だったし、見間違えたわけではないのだが?

「不和の種、小さな村のメロドラマ」
お金をめぐる人間性の薄汚さが露呈する。

なお、解説に相当する「シャーロック・ホームズのライヴァルたち――――ピーター卿と生みの親セイヤーズ」の書き手は戸川安宣御大である。

2013/09/27

顔のない男 ピーター卿の事件簿Ⅱ 【再読】

顔のない男―ピーター卿の事件簿〈2〉 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 133,861

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:宮脇孝雄
日本オリジナルの短篇集。Ⅰ、Ⅱがあるのだけれど、今回はⅡを再読。
短篇7つのほかに、1931年に実際にあった事件を経過を追って丁寧にセイヤーズが推理する「ジュリア・ウォレス殺し」と、探偵・怪奇小説の傑作集(1928年)の序文として書かれたセイヤーズが(いまでは古典となった)ミステリーの名作を具体的に挙げ、解説しながらミステリ論を滔々と語る才知あふれる評論「探偵小説論」が収録されている。

「ジュリア・ウォレス殺し」には興味がないというか、実際にあった事件で裁判もあって判決も済んでいて、でも実際どうだったか?は永遠の謎というのをいまさら読んでもなあ、自分がリアルタイムに生きていて事件を知っているのならともなくも、という感じでこれは最初の方をちょっと読んでパス。初読みのときは読んだのかなあ、どうだったっけ。
「探偵小説論」はその名作を読んでいないとネタバレ満載だが、ミステリ好きには面白く、興味深い内容だ。こういうのはどんどん新しくなっていくものだから、論点が古いのはあたりまえだけど、でも根本は変わらない、ミステリーに対する愛、興味はいつの時代も一緒だからかな。

以下、短篇はネタバレしないようにほんのさわりのレビューだけ。

「顔のない男」★★★
海岸で発見された顔をめちゃくちゃにされた殺された男の事件の真相にピーター卿が心理捜査官さながらに迫る。

「因業じじいの遺言」
クロスワールド・パズル好きにはたまらないかも。っていうかバンターもそうだったのか!おじいさんのキャラクターが素敵。

「ジョーカーの使い道」
いまどきのドラマのちょっとしたエピソードとかにも出てきそうな使い古された感があるけどこれは1926年に発表されたものだからして。

「趣味の問題」
利き酒の話。本物はだあれ?

「白のクイーン」
短篇なのに15人も登場人物がいて、しかもそれを名前で読んだりパーティでしている仮想の格好にちなんで読んだりして非常にややこしいのだが、まあ、骨格はごく単純だ。

「証拠に歯向かって」★★★
車の中で火災によって真っ黒になって死んだ男の死因は? 短いけどピリッと効いたミステリー。

「歩く塔」
とてもミステリーとは思えない、夢の話なんか延々書いてあって、ちょっと不思議な感じの。ミステリの骨格は単純なんだけど味付けによって面白く仕上がった。

2013/09/25

ナイン・テイラーズ 【再々々読】

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 112,303

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:浅羽莢子
ナイン・テイラーズというのは死者を送るための鐘の鳴らし方で、この小説ではある8つの鐘を持つ教会が舞台になっている。
これも4回目の通読なので大筋は覚えていたけれども、細かいことは結構忘れていた。メインの犯人というかそのへんは衝撃的だったので忘れようもないのだが、脇で起こっているいろんなこととか。

教区長の先生も、奥さまも、とってもとっても素晴らしい方だなあああ。ということをしみじみと感じた。知的で思いやりがあって、上品で、ほのぼの。そして彼らを含めたすべての登場人物の人間性というものがきちんと話のスジを支えている、これはミステリーではなかなかあるようで無い美点なのであることよ、流石セイヤーズ女史。というようなことを読後つらつら考えたり。

前回読んだときは、ウィルブラハム夫人に一番怒りを覚えたらしいのだが、自分のことだけど、うーんそうかあという感じ、まあ確かにこのひとは問題あるけどね。
今回読んで怒りというのはあんまりなくて、むしろ、善男善女が織りなす悲しい話とか人生のあれこれが胸にせまって、ああこれはやっぱりシリーズの中で一番最高の、名作だなあ、傑作だなあ、トリックがどうとかじゃなくて小説として、と静かに強く確信したのであった。ほかの作品ももちろん面白いし大好きなんだけど、それは変化球の面白さというか。キャラ萌えとか。キャラ立ちとか。ストーリーとか道具立て、設定の面白さ、トリックとか舞台建てとかそういうのが派手で面白いんだけど、これは、地味に(いやはや決して地味じゃないんだけども)、実直に、ストレートの速球の美しさ、面白さというか。

読むたびに、その良さが深まる気がする。不朽の名作ということだろうなあ。

2013/09/22

誰の死体? 【再々々読】

誰の死体? (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 99,937

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:浅羽莢子
4回目の通読なので、しかも登場人物は限られているので、さすがに犯人とかいろいろ読んでいると覚えていて、つまりは記憶をなぞっていくかたちになるのだが、本作はピーター卿、バンター、パーカーが揃って登場していて嬉しい。前ふたりは言うに及ばず、チャールズ・パーカーも良いキャラなのだ! おまけに先代公妃も活躍なさるし。バザーのくだりとかほんとチャーミングで頭が良いお方よね。
それにしてもこの犯人は冷静で怖いわあ。何故怖いかを書くとネタバレしちゃうんだけど。本来ひとのためにするべきことを犯罪のために向けるとこうなるという……嫌ねえ!

2013/09/20

忙しい蜜月旅行 【再々読】

忙しい蜜月旅行 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 413)
ドロシイ・セイヤーズ
早川書房
売り上げランキング: 180,857

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:深井淳
再々読。先日『学寮祭』を再読したのでその続きにあたるこれを。
これだけ早川書房のハヤカワ・ポケミスで、翻訳者も違う。
たしか最初に読んだときは『学寮祭』がまだ翻訳されていなかったのだ。
ずっと浅羽莢子さんの翻訳で読んできたから、深井淳氏訳のセイヤーズは違和感がある、それだけでなく、キャラの印象が違う、特にハリエット・ヴェインは別人としか思えない。しかしまあ、浅羽訳の『蜜月旅行』は存在しないわけだから、しかたがない。

↓↓↓こちらは松下祥子さんによる新訳で2005年6月に出たハヤカワ文庫版。未読です。ずっと気にはなってるけど、でも一番読みたい浅羽莢子さんじゃなし、ネットでちらちら評判を見てもやっぱ違和感あるみたいだし……。

忙しい蜜月旅行 (ハヤカワ文庫 HM (305-1))
ドロシイ・L・セイヤーズ
早川書房
売り上げランキング: 254,751


本書はミステリーとしてはどうっていうことのないトリックだし、むしろミステリーはスパイス程度でしかなく、メインはなにかというと、シリーズの主役とその恋する相手がついに結ばれ、めでたく新婚旅行としてハリエットが昔住んでいた村の古い家を買って、そこにしばらく住む、そのばたばた新鮮な様子や、ご近所との濃厚な人間関係だ。あと、主人と従僕があまりにもぴったりとしているそこへ若奥様として入り込む(?)ことになった、ハリエット・ヴェインの新妻日記みたいなふうにも読める。

前に読んだときも思ったみたいだけど、今回も、いざ犯人がつかまってからのピーター卿の心理状態というか憔悴ぶりとかにすっごく違和感がある。だってぜんぜん同情すべき犯人とかじゃないんだもの。利己的で、幼稚で、他人に迷惑かけまくってる下品な犯人なのに。いままでいろんな犯人を指摘してきたピーター卿がなんでここでここまで落ち込むのか、いまいちよくわからない。説得されるべき材料が見当たらない。最後のシーンを書きたかったからなのかなあ。それだったらもう少し犯人の人間像をどうにかしてほしかったなあ。

ああ、松下版も読むべきだろうか(※)。
どうもこのポケミス版は翻訳的に問題があるようで、読んでいて意味が通らない箇所が数点気になったことでもあるし。うーむ。
とりあえずバンターは有能すぎる。
しかし自分の化粧台などは自分で片づけたい、と思う。バンターがきちんと直してくれるとか、ありがたいけど恥ずかしいよ。ハリエットは貴族出身じゃないのになんで平気なのだろう。召使が当たり前だった時代のひとだからかなあやっぱり。
あとピーター卿のお母様はやっぱり素敵ねv

※松下版を購入、読んでみて旧訳の明らかな誤訳(意味が通っていないのとか)は直っていて正しく読めるのだけれどやっぱり浅羽訳とは全然違うのでしっくりこないという点では満たされないのでした。悲しい。

2013/09/16

学寮祭の夜 【再読】

学寮祭の夜 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 381,553

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳:浅羽莢子
なんか唐突にピーター・ウィムジイ卿とハリエット・ヴェインの恋愛が読みたくなって、これを再読。
ハリエット視点で、舞台はオクスフォード。

ピーター卿の言動は読んでるだけでファンなので「素敵…」とうっとりしちゃう。対するハリエットが頭が良すぎて自尊心が高すぎていろいろ考えまくってるところが「もったいない~っ」と思っちゃう、まあわかるけど。出会いがアレだし、身分とか立場とか、自分ばっかり助けてもらってるのとか、負担に感じちゃうのはあたりまえの感性だろう。

それにしても10年以上ぶりに読んだので、例によって犯人のこととかは忘れきっていたのだが、すごい小説だなあ改めて! ミステリとしてだけじゃなく、自立心のある全女性の心をわしづかみにするだろう。しかもこれ書かれたのって、1935年なんだよ! その普遍性に凄いというべきか、100年前からいまだにその問題が社会的に解消されずに残っていることを嘆くべきか。どっちも、かなあ。

700ページを超える長篇で、手首がなかなか疲れたけど、面白いのでずっと読んじゃう。最後の犯人の長台詞は強烈で、もうここまで来ると気が狂っていてどうしようもないのだけれど、でも恐ろしいのはいまでもこういう考えた方の人間がそこらにうじゃうじゃいるのがわかっていること、違いはわざわざそれを口にしたりしないだけということ。

女の生き方って難しいなーと思った。でもねー、やっぱり少なくとも1935年よりは2013年のほうがマシだね。

ミステリとしても、シリーズものの中の恋愛色の濃いエピソードとしても、そして普通小説としても読める、いろんなものを含んでいる実力作。
純粋にミステリーを楽しみたい、という方にはちょっと枝葉部分が多すぎて冗長とみえてしまうかも。

2013/09/13

猛スピードで母は 【再々読】

猛スピードで母は
猛スピードで母は
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長嶋 有
文藝春秋
売り上げランキング: 176,555

■長嶋有
長嶋さんは本書の表題作で第126回芥川賞を受賞した。
本書には「サイドカーに犬」という話と「猛スピードで母は」の2篇が収録されている。このふたつはまったく別の話で連作とかそういうのではない。ただ両方とも子どもの視点でおとなの女のひとのことが書いてある。
これも感想のほとんどは前回までに書いてしまったので今回思ったことを。

①やっぱり「サイドカーに犬」の洋子さんみたいなひとは好きになれない。嫌いというわけではないが、周囲にいたとして、まあ必要最小限の関わりしか持ちたくない。子どもに食事を用意してあげるときにそれを「エサ」と言うのとか、悪意がまったくないことはわかっているが、そういう問題では無く、もうダメなのである。自分が食べるものを言うのならまだ許容範囲だが。

②「猛スピードで母は」のお母さんもやはり同様に好きにはなれない。何故かというと、こういうタイプは苦手だからである。価値観が違うし、向こうからしたら自分はきっとつまらない人間に見えるんだろうなとか勝手に思ってしまう。

③そういう苦手な人物を描いてあるにもかかわらず、この2作とも小説としてはものすごく面白く、素晴らしく、何度でも読めてしまう。それは文章が素晴らしいからだ。そして、小説は細部に宿ると言うが、細部まで神経が行き届いた、嘘や手抜きの無い作品だからだ。語り手である子どもの視点が子ども騙しされていない。大人視点の子どもになっていない。本当の、あの不憫で真面目で融通がきかなくて弱くて可哀想で可愛い、子ども独特の思考が書いてあって、もちろん個人差があるので「わたしならそういうふうには考えない」とかはあるんだけども、ああでもこういうふうだったよなあ、としみじみ共感する。

それにしてもロクな大人が出てこんな。


猛スピードで母は (文春文庫)
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2013/09/12

ジャージの二人 【再々読】

ジャージの二人 (集英社文庫 な 44-1)
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■長嶋有
アマゾンでふらふらしておおそうじゃ、これは原作が好きだし良いのではないかということで「ジャージの二人」の映画のDVDを購入したのだが、まだ大切に置いてあるばかりで観ていない。
最近初読みが続いたのでここらで再読でもするかと思い、映画のための予習復習を兼ねて本作を引っ張り出した。

やっぱり面白い。
大好きだ、この話。

細かい感想は前回までに書いたので、今回思ったことだけ書いておくと、
①このお父さんは3回目の結婚なんだなあ。
②お祖母さんの改築好きは既にここでさらりと書かれていたんだなあ。
③どうも長嶋有さんは「結婚していて、だけど妻は他の男に真剣な恋愛感情を持っている」という設定に萌えているとしか思えない。ゲームなのだ。これは。
④これに出てくる別荘地のご近所さんは佐野洋子さんがモデルなのかなあ。違うかもしれないけど、でもやっぱりそう思って読んじゃう。
⑤カマドウマは前回検索したからもう見ない。
⑥あ、解説が柴崎さんだ。やっぱ仲良しグループなんだなあ。

いちばん感心したシーンは、「ジャージの三人」で、キャベツ畑で妻が主人公に腕をからませてきたときにとっさに振り払ってしまい、それでそれが「選択をした」んだと考えるとこらへん。それぞれの感情とか、微妙ないろいろとかあって、言葉でははっきりお互い言わないんだけど、でもこういう無意識のときの行動でね、肌が拒否るっていうか。わかっちゃうんだよね、一瞬でぜんぶ。
それでああもっとゆっくり考えて解決していきたいとか曖昧にしておきたかったのにとか後でいろいろ考えちゃう感じの、でも「選択してしまう」「せざるを得ない」「待ったなし」な時が人生にはあるというような意味のことを主人公はぐるぐる考えているんだけど、「そうだよなあー」ってすごく納得したので。

  選択。一瞬で、分かれ道の一方を選ばされた。どんな選択だったのかまったく分からないのに、選択したという感触が今なお右腕に強く残っている。
  あのとき妻はどんなつもりだったのだろうか。その瞬間のことを思い出しながら、腕をからませてきたわけを考える。
 (中略)
  分からないが、とにかく選択だった。選択してしまった。どうしようもなかった。日頃から人生は選択の連続のように見える。だけど本当には選択できる機会なんて、ごくわずかなのだ。大抵は、否応なく選ばされる。

あと、今回は「これ映画でも出てくるんだろうか?」というのをあれこれ予想しながら読んだ。
「和小学校」の読み方は忘れていた……。
↓ちなみにいまの文庫の表紙はこうなっている模様。


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