2012/12/29

0能者ミナト <5>

0能者ミナト〈5〉 (メディアワークス文庫)
葉山 透
アスキーメディアワークス (2012-12-25)
売り上げランキング: 193

■葉山透
ネタバレも含むので白紙で読みたい方はスルー推奨 ( ̄∠  ̄ )ノ

…なんかこの、小説の続刊が数ヶ月単位でどんどこ出てくるという実態に感覚が慣れないので変な感じがする。むかし、新井素子の「星へいく船」シリーズとか氷室冴子の「ジャパネスク」シリーズとかあったけど、年単位だったような気がするんだが。凄いよなあ昨今のラノベ界というのは。消耗激しくないんかい?

というわけで口の減らない28歳のガキ(0能者=湊)が悪タレをつきつつも怪異に予想外の手段で立ち向かい解決しちゃって「ああその手があったか目からウロコー・コロンブスの卵ー♪」なシリーズ第5弾でっす。
今回も面白かった。主人公湊よりも16歳のヒロイン沙耶ちゃんと可愛げの残る10歳の少年ユウキ君のほうが出番が多く、活躍もメインでしていて、正直湊の才能は認めるがその傍若無人な言動が好ましいとはとても思えない許容範囲の狭いワタクシにとっては非常に読みやすかった。それにやっぱ、基本構造がミステリーなので、馴染みやすい。

中篇ふたつと、いつもの大人組3人の茶店で次巻への前振り。
」は夜泣き石の話という導入だったが実はその正体は殺生石で、九尾の狐をいかに倒すかというバトル・アクション(違)。沙耶ちゃんとユウキ君だけで退治する話なので、法力とか神道巫女パワーとかその類の描写が多いので。それをちょっとマニアックな第三者が評価するという快感を刺激する構造になってる。でも最後に見出した解決方法に使われた道具がね、ああやっぱこのシリーズだなあという。
殺生石も小学校のときに読んだ「日本の伝説」に出てきたなあ、このシリーズ読んでいるとやっぱあの本にリンクしていくのが多いなあ。でも松尾芭蕉云々は知らなかった。面白い。
このシリーズで最も半死半生な目に遭うことが多いユウキ君。湊の沙耶ちゃんへのツッコミが鋭くてうむぅと思った。天然ヒロインって、残酷なんだよね。

」は前巻のあとがきでちょっと触れられていた湊対詐欺師の話。湊のキャラがそもそも胡散臭い詐欺師っぽいというか実は悪ぶってても根は善人、というおおいなるテンプレがあるからそれに逆らうために「湊は善人じゃないよっ」ということが繰り返し強調して書いてあるこのシリーズだもんで(そしてまあ確かに殺人とかほんとの詐欺とかはしないから悪人では無いと思うんだけど)、どっちもどっちという話かなあとうっすら想定していたら結構智恵合戦みたくなっていて、怪異云々よりもそのへんの心理戦・駆け引き・狐と狸の騙し合いがなかなか面白かった。
それにしてもこの話に出てくるサトリの親玉は随分暴力主義というか粗暴だよなあ、サトリってこんな怪異だったっけ? 被害に遭ったひとたちが気の毒すぎる、とんだ巻き添えなんだもん。
小さな怪異さんは愛らしくて可愛かった。ちょっとだけだったけど、ユウキ君に遊んでもらえて良かったね。これからは悪いひとにつかまらないで済むといいなあ。骸との関係はなんとなく、シータとその力を悪用しようとするムスカを思い出してしまった。っていうか骸って本名なのか、そんな名前付ける親いるかあー?「幽遊白書」のあれは人間じゃなかったからなあ。
イタコさんが出てきたのも興味津々で読んだ、あれも独特の世界だよなあ。
高利貸しの高田老人の奥さんとのきゃぴきゃぴトークには脱帽。や、若いころならわかるけどそのノリ、その御年になっても健在ってまじっすかって感じ。

それにしてもサトリと数日寝食を共にする、しかも純真で自分を慕ってくれている姪も一緒に、ってどんな罰ゲームだ。凄い状況だなあ。理彩子さんは何故か急な出張で帰宅出来なくなったりしたんじゃないかしら?

2012/12/28

園芸家12カ月

園芸家12カ月 (中公文庫)
カレル チャペック
中央公論社
売り上げランキング: 50,329

■カレル・チャペック 翻訳;小松太郎
園芸のことを書いた有名すぎる名著。
もちろん以前からその存在は知っていたが、手に取って中身をチラ見するに、どうも本当に園芸のことしか書いていないっぽいのがわかり、これは文芸じゃなくて実用書に類するというか、園芸家じゃないと読んでもつまらないのではないかと棚に戻していたのだ。
いま現在も園芸家にはなっていないが、ベランダに鉢を並べ、その成長に一喜一憂して1年余り、いとうせいこう『ボタニカル・ライフ』は既に3回読んだ。
先日、つれづれなるままに書店に赴き、棚をつつーっと視線で流しているときにこの書が目に留まった。ああそういえば、まだ読んでなかったな、と思った。当然読んでおくべき名著なのに、まだだったな、と。

実際読んでみると、1929年くらいにチェコのひとによって書かれたものなのに、なんなんだろうこの共感というか親近感はという感じ。もちろんチェコと日本では気象条件やなんやかやが違うのでまったく同じというわけではないが、基本的に、植物を育てるうえでぶつかる壁は同じだし、水やりや日照時間やなんやかやに対する思いは「そうか、カレル・チャペックでもそうなのか」とびっくりしつつ共感のためいきをついてしまう。

基本的にユーモラスな感じで、園芸家の特徴などをおもしろおかしく、ときに自虐やペーソスを織り交ぜて描いてあり、ちょっと北杜夫とかそういう雰囲気、『ボートの三人男』とか近いかな。読めば読むほど味が出てくるというか。
好きなものに打ち込む熱狂ファンというのは冷静に見ると誰も少なからず奇妙な振る舞いをしてしまうものだと思うが、そういう第三者の視線を常にツッコミに想定してボケ倒してあるというか。
園芸家はまた同時に蒐集家でもある、というのはなんだか深く頷いてしまったな。あと、花を育てているというのは要するに土を育てることというかむしろそっちが大事だけどそれを実行したら庭がそれでいっぱいになってしまって花を植える場所が無くなってしまうから……というのとか、うーんそうかそうだよなあー、と。
冬の間は庭いじりをあまり出来なくて欲求不満になって、鉢植えを部屋に置けばいいんだ!と思いついて実行しようとするも家族に阻まれる、とか、ほんとどこにでもありそうなリアリティ。

本書には挿絵がたくさんあるがこれは著者の兄ヨゼフ・チャペックによるもの。
素敵なタッチのイラストで、これも楽しい。

解説に、著者のことやその時代についての説明があり、興味深かった。またたくさんある訳注がこれまた面白くて、園芸・植物のことについてなのだが、実に丁寧というか、注釈というよりは訳者氏のプチエッセイ?に近いものになっているものもあって、やはり庭と植物を愛するひとならではの、言わずにはいられないっという情熱が伝わってきておかしい。面白い。特にマンドラゴラについての奇想天外な謂れについて、なんとなくあちこちで拾い読みして「なんなんだろうその植物は」と思っていたのがここに全部まとめて書いてあった。抜くときにとてもおそろしい叫び声をあげるからそれを聞いたひとはびっくりして死んでしまう、とかね、凄いよなあ。

2012/12/20

私を知らないで

私を知らないで (集英社文庫)
白河 三兎
集英社 (2012-10-19)
売り上げランキング: 3177

■白河三兎
初めての作家さん。
このまえ偶然目にしたBSジャパンに「本の雑誌」前発行人の北上(次郎=目黒考二)さんが出ていらして、今年のベストテンを紹介していたのだが本作品を1位に上げられていて興味を持ったのだ。ちなみに「最初の展開からこのラストにたどりつくとは誰も想像できない!すごい!」と感動している北上さんの横で大森(望)さんが「いや、僕はそれほど……」と苦笑されていたのも面白かったな。
2009年にメフィスト賞を受賞してデビューした作家さんだそうだ。

この小説の語り手「僕」黒田慎平は序章では成人した大人のようだ(最後まで読むと彼のこのときの年齢は分かるようになっている)。本編は、彼が13歳、中学2年のときに転校した先で出会ったとてもきれいな少女(新藤ひかり)と、明るくハンサムなやはり転校生の少年(高野三四郎)との3人をメインに紡がれていく。

なかなか風変わりな設定で、出てくるキャラも個性的な子ばかりだし、読みはじめると自然に引き込まれ、どんどん読んでいった。面白かった。
ただ、リアリティとか共感とか心に迫るとかそういった類とは全然無縁の「作られたキャラによる作られたお話」だなあ、というのは常にあって、ある種のクセもアクもあるから、受け付けないひともいるような気がする。だいたい、「中学生ってこんなんだっけ?」という感じで、「なんであえて中学生の話にしたんだろう、高校生だったらだめなのかな、これだけ複雑な思考するのって中学生としては特殊じゃない?」とずっと考えていたのだが、最後まで読んだら「ああ、これは小学生では無理だし、高校生以上だと成立しない。中学生ならではの話だったんだ」とすごく納得した。

最初どちらかといえば重たい空気の設定で、中学生って、思春期っていろいろ逃げ道が無くて大変だなあ、と思って読んでいたのだが、次々いろんな展開があって、文化祭くらいから予想外の展開があって、そしてミステリーとしてのある事件があるんだけどそれはまあ伏線張ってあったその通りの展開だったんだけど、その解決方法はかなり想定外で、うーむそうかそういうトコロに持っていきたいがために主人公の性格設定とかいろいろ全部決まっていったわけね、と感心した。
なんていうか、いろいろ考えて、練って、「きれいに作りこんである」作り物、という感じだ。
複雑な家庭事情とか、現実にありそうな事件とか、深刻で重たいものも練りこんであって、それに対する根本的な解決がしてあるかというとそうではないのだが、しかし安易にどうなるものでもなし、それよりも著者が書きたかったテーマに向かっていきおいでうまいこと持っていったなあと思う。
「家族」というものについて、こんなのもありでは?
虚をつかれるような展開が、待っている。

感動はしない。別に好きでもない。
でもメインのストーリーだけでなく枝葉の設定などもうまく盛り込まれていて時間を忘れて読める面白さがあり、最後まで飽きさせない。しかも読み終わった後は清々しく、余韻はなにかくすぐったいような、甘酸っぱい想いすらあり、良かったな、と思える。
これが北上さんの今年の1位かあ~。
まあ、北上さんはヤングアダルト小説好きだし、家族小説好きだし、こういうの好きそうだよなあ。逆に大森さんには「またこのカラーか」という感じなのかも。読んでいて雰囲気が似ているというか思い出したのは『凍りのくじら』だ。あそこまでイタいキャラはいないけど、すべての台詞が作り物みたいなところとか、いわゆる「中二病」満載なところとかが。途中までは、「だって中学2年生の話だもん」と開き直るためにこの年齢設定というのもあるんじゃないのとツッコみつつ読んでいたくらいだ。『凍りの』の数倍爽やかだけどね。

この話を読んで、リアル中学生はどう思うのかを知りたい。

2012/12/18

なれる!SE 8 ――案件防衛?ハンドブック

なれる! SE8 案件防衛?ハンドブック (電撃文庫)
夏海公司
アスキー・メディアワークス (2012-12-08)
売り上げランキング: 136

■夏海公司
もともと専門用語とかはスルーの方向で読んでいるこのシリーズだけど、「最初にんな無茶なーっていう問題が起きて、とんでもねーってことになるけど、新人の主人公が何故かウルトラC(死語?)の頓智を働かせて華麗に逆転し、めでたしとなる」という起承転結がくっきりした作り、且つ、「主人公は負けないヒーローものと同じ」なんだと呑み込めてしまったので、「一気読みすると爽快だけど途中で置くとつらい」という認識になってしまった。リアル仕事がけっこう忙しいこともあって「フィクションでまで面倒くさいの嫌だから途中の詳しい仕事の説明的なとことかどうせ読んでもわかんないし、業界用語はナナメ読みしてとにかく最後まで読み切っちゃおう」というスタンスで読んでみたらマッハの速度で読み終わってしまった( ̄Д ̄;)。うーむ、なんのために読んでるのかわからんなこれじゃ。
そもそもこのシリーズに限らず小説というものの魅力はデティールを愉しんでこそというものだ。スジだけ追うなんて野暮の骨頂。
最初は未知の業界を覗き見する程度で十分楽しめたのだが巻を追うごとにSEさんの楽屋ネタがわからないと通じないマニア度が増していて、うーん、トーシロー読者はこのへんで卒業が妥当ということか。後見人についてちょこっと情報が足されたこともあり、立華ちゃんの隠された過去(?)とか多少気にはなるが……。

今回はスルガシステムと同じレベルの会社の、桜坂工兵と同じく新卒の新人{お約束で可愛い子ちゃん(死語2回目)}が超強力なやり手のライバルとして現れる。しかも出会いがしらにぶつかって、……って随分ベタな少女漫画的展開じゃのう。一見ドジッ子キャラでなんにもわかってないぽやぽや系と見えた彼女が実はとんでもない切れ者だった、というのもある種テンプレだろう。

前にあった、「大企業とだって互角に戦えるんだぜっ!」というのも燃えるシチュエーションだったが、こういう「どっちも、弱小だけどアイディアと能力だけでどれだけ戦えるか」という同じ土俵に立つ者同士のバトルというのはもう、壮絶だね。実際問題、入社後1年未満のイチ社員がここまで出来るって相当凄いというかちょっと考えられないくらい放任主義の組織だなあって感じてしまうんだけど、業界的には普通なのかなー。競合の件もここまで価格・能力主義で業界のしがらみとか馴れ合いとか無視できるというか考えないで良いって素晴らしいよね。一般的な感覚だとどうしても大手が強いし、昔からの取引先がまずはやっぱり信頼感があるんじゃと思っちゃうんだけど、たとえば価格競争でも現場レベルで情報根回しとかがあったりしないのかなーとか。談合だともちろん違法だからそこまでいかないレベルで。今回の事案だって、橋本課長と桜坂の間である意味情報交換あったでしょ。社会って詰まる所、ああいうのの積み重ねをいかに作れるか、っていうのがモノを言う気がしてるんだけど。
表紙見てまず「また新しいオンナかっ」と呆れ、ある意味尊敬しちゃったけどこういう展開とはね。

個人的には、8巻にして初登場、スルガシステムのソフトウェア開発部の福大さん、このひとの仕事師としての凄さをもうちょっと詳しく書いていただけると嬉しかったのになと思う。だってミーハーなこと言わせてもらうと「ソフトウェア開発部」っていう単語だけで「ごはん5杯はイケますっ(* ´ ▽ ` *)ノ」ってくらい萌えるんだもん。理由?そんなもん、無いけど、なんかクリエイティブな感じでかっこいいじゃなーいvvv(アホですまん)。

てゆーか出てくる女性はみんな可愛いのにたまに男性新キャラが登場したらこれかよ。容貌の説明なんか読者の想像に任せてくれればいいのに、「イケメンではない」ことを説明するためにえらく丁寧に描写してあって苦笑。
見てくれはともかく、立華ちゃんの説明で想像した図は性格的に相当気持ち悪かったけど実際出てきたら社会人としてまともだったからなんかほっとした。ヲタクだって、想像で萌えてるだけで、TPOさえ守れるなら全然だいじょーぶ(なにが?)。危ないのは現実と妄想の区別できない輩だけだから、うん。案外カモメちゃんとかとお似合いじゃないの~なーんてね☆あるわけないよねー主人公ハーレムであるべきこの手のシリーズで。

でもひとつ言いたい。
桜坂はクリスマスのくだりで、さもモテない男代表みたいなカオして気持ち代弁したりしていたが、いやいやいやいや。矛盾してるっしょー。あなたハーレムドリーム小説の主人公でしょうが、無駄にモテてる設定だろうがっ! 例えば姪乃浜梢ちゃんは100%、橋本課長とか薬院加奈子ちゃんとかでも「ごはん行きませんか?」って言ったらかなりの高確率でデートくらいは出来る設定になってるでしょうがっ。少なくともいままで読んできた感じではそういう立ち位置の筈だぞっ。立華ちゃんですら「室見さんに断られたらしかたないから姪乃浜さんで我慢しますけどー、ホントは室見さんと行きたいんです」とか対抗心を煽っていけば成功しそうな、そういう設定だろーがっ! 

というわけで諸君、桜坂工兵にダマされてはイカンよ(。・ω・)ノ (いま我に返ったがヲレは誰をなんのために説得しとるんだ)。

2012/12/17

停電の夜に 【再読】

停電の夜に (新潮文庫)
ジュンパ ラヒリ
新潮社
売り上げランキング: 21979

■ジュンパ・ラヒリ 翻訳;小川高義
前回初めて読んだのは2007年で、その年読んだベストテンの1位に上げるほど感動した。
だから「良い」のはわかっていたんだけど、表題作になっている話のテーマが結構強烈で忘れようがなかったので逆に今まで再読しないままだったのだが、今回5年ぶりに読みだすやいなや、まず文章からしてあまりにも素晴らしいのに感動してしまった。小川さん最高っス……ラヒリさんみたいな天才をこんな素晴らしい訳文でわたしたちに教えてくれて、有難う!!

短篇集。9つのお話、それぞれは繋がっていなくて、ばらばら。
著者はインド人の両親を持つけれど、生まれたのはロンドンで(1967年)、幼いときに両親と共にアメリカに渡って以来、ロードアイランド州で育った女性。だからアメリカ人。インドで生活したことは無いようだ。2001年に結婚し、ニューヨークに住んでいるらしい。
この短篇集にはインドが舞台の話もあるけれど、インドと全然関係ない話もあって、別に「異国情緒」がどうこう、という作家ではない。そういう特色を売りにしているわけではなさそう。

「停電の夜に」
5日間だけ、夜間1時間停電することになった。語り手(夫)とその妻の話。結婚して3年。どうやらこのふたりのあいだには気持ちのすれ違いがあるらしい。停電をきっかけに、お互いの打ち明け話をすることになったのだが……。
この結末はあまりにも衝撃的だったので憶えていたが、それをわかって読んでいてもまさか、とやっぱり驚いてしまうのだった。何故、と。
相手がなにを考えているかなんて、理解できると思うのが傲慢なのだろう。人間て、夫婦って、なんだろうなあ。と読後しみじみと考え込んでしまう。何故このふたりは一緒にいられないのだろう。なんとも切ないけれど、でもとても心に沁みる話だ。

「ビルザダさんが食事に来たころ」
10歳の少女の視点。まったくの幼い子ではないから思いやることなどはできるが大人の会話がまだ完全に理解できるほど世界の状況はわかっていない、その彼女が両親のもとに客としてやってくるピルザダさんのことを回想して書いている。
パキスタンの内乱があった年のことで、奥さんと7人の娘を祖国に残しひとりアメリカに仕事でやってきていたピルザダさん。
大切なひとの命の安否を何もできない遠い場所で祈ることしか出来ないつらさというのは想像を絶する。
幼いなりに純粋にその気持ちを思いやる少女なりの方法などがとても共感できて、良かった。

「病気の通訳」
観光地で通訳をする中年男性の話。
男のひとというのはこういうぐあいに考えるものなんだなあ、と興味深く読んだ。
いささか勇み足、というやつか。

「本物の門番」
これはインドが舞台の話かな。アパートというか、共同住宅みたいな建物の階段掃除をする老女が主人公。インドでは「流し」って買って持って帰ってくるものなのか……それを建物の入り口に置いて共同の「流し」にするとか、うーんすごいなあ生活のやりかたが全然違う、とかそういう読み方をしてしまったんだけどいいのかな?
最後の展開とか、あっけにとられてしまうよなあ。日本の話だとこういうオチは無いような気が。

「セクシー」
妻子ある男性と不倫関係にある独身女性の話。
なんでこういう男に寄っていく女がいるのか、わたしにはわからない。最初に目が合ったときには知らなかっただろうけど、言葉を交わしてすぐに妻帯者だと知らされて、そこでブレーキをかけないのはどうして?

「セン夫人の家」
11歳の少年が、母親が働いているあいだベビーシッターに預けられたその先がセンというインド系の夫妻の家だった。セン氏は大学で教えるためにアメリカにやってきたが、夫人はアメリカに馴染めず、インドを忘れられないようだ。魚を丸ごと食べたいのに売っている場所が少ないとか、車の運転をしたくないとか、そういう些末なことの積み重ねが苦しいというのもあるだろうけど、なにがいちばん悪いって、この夫がもうちょっと妻のつらさを理解してやらないのがいけないんだと思った。

「神の恵みの家」
皮肉とユーモアの利いた話。
アメリカで暮らすふたりのインド系男女が、その両親が知り合いだったとかで出会うきっかけを作られ、縁あって結婚した。そして新婚の住居を購入した。住んでみるとその家にはあちこちに「隠しもの」があったのだ。っそれはすべてキリスト教絡みの置物やタペストリーなどだった。ふたりともヒンドゥー教だが、妻は何故か次々出てくる品物を見つけては喜んでいる。それをまったく理解できないどころか腹立たしくてしかたない夫の視点。どうなることかとはらはらしつつ読んでいったが、うーんなるほどなあ。このふたりはなんのかんのいって、このバランスでずっとうまくやっていきそうな気がする。
それにしても、この奥さんの感覚は八百万の神を受け入れる日本人的には理解し易いんだけど、一般的なインドの方にはどうなんだろう。

「ビビ・ハルダーの治療」
これもインドの話。
原因不明の病気(ヒステリーとかその類?)にずっとかかっていてどんな医者にも匙を投げられて、親戚に厄介者扱いされているビビ(29歳)の話。
文明国ではそもそもこういう話は成立しないよなあ。

「三度目で最後の大陸」
初読みのとき、この話を読んで短篇なのにこの空間的にも時間的にも広がりのある物語の大きさはどうよ!と感激したことを覚えているのだが、今回冷静に読むとそれはまあ覚えているからびっくりもしない代わりに、そこに至るまでの語り手の独身時代から結婚に至る過程などや妻となった女性への他人としか思えない淡々とした筆致にいろいろ考えさせられ、そしてそのいっそ冷たいとしか思えなかった思考が下宿屋の100歳を越える老女の鶴の一声で一瞬にして溶かされる、その人生の不思議というかひとのこころの機微というか、そういう説明出来ない成り行きにううむと唸ってしまった。突飛だけど、わかってしまうのだ、ああそういうもんなんだよなって、どっちに転がるかなんて、実はそういう些細なきっかけだったりするんだろうなって。
奥さん、良かったね、ってなんかすごく思った。

以前読んだ時の感想はこちら

2012/12/13

趣味は何ですか?

趣味は何ですか? (角川文庫)
高橋 秀実
角川書店(角川グループパブリッシング) (2012-11-22)
売り上げランキング: 31776

■高橋秀実
はい、泳げません』で水泳のことを書き、無茶苦茶面白かったタカハシヒデミネさん。
今回のテーマは「趣味」ということで、取っつき易そうと読んでみたら予想とは随分違う方向に流れていき、さすが一筋縄ではいかない書き手さんだなあと思った。
本書の構成は以下のようになっている。

(導入部 英国の小話紹介)
序章 趣味の発見 ――人生の味わい
第一章 幕末をゆく ――官僚は「鉄道」と「坂本龍馬」がお好き
第二章 マニアの苦悩 ――「航空無線」を傍受せよ
第三章 硬めの愛 ――男は「蕎麦」、女は「ヨガ」
第四章 スタンプ巡礼 ――「八十八カ所巡り」から「切手」「消印」「手相」まで
第五章 地球に優しく ――「エコ」の醍醐味
第六章 備えよ常に ――楽しい「防災」
第七章 カメの気持ち ――「カメ」になった人々
第八章 本当はさめている? ――「ファン」「ゲーム」「ラジコン」心理
第九章 レーンを読む ――ひとりで「ボウリング」
第十章 時間潰しの作法 ――「武士道」に「階段」
第十一章 田舎の時間割 ――「ウォーキング」「茶道」「ガーデニング」の果て
第十二章 なぜ山に登るのか? ――「登山」の心得
あとがき 趣味の再発見


正直、わからない分野のことが多いが、ちょっと知っている分野のことから全体を推して述べることを許してもらえるならば、この本に出てくるひとは全然代表的なタイプじゃないと思う。場合によっては、極端だったりするのではないか。
「まあ、そういうのも、あるのか」とうなずくこともあったが「それはないやろー」と突っ込みたくなることもあった。趣味に対する男女の差というのもあったな。男のひとはだいたい、なんでも構えて考えすぎのような気がしないでもない。
本書を読むと、「つくづく、いろんな考え方があるんだなあ」と思う。

趣味とはすなわち熱中であり執着であるから、語り手にはみなそれぞれの持論がある。だけど著者である高橋さんは、聞き手として、話し手に寄り添わない。安易に同調してくれないのである。たまに、受け流すようでさらりと斬り込んだり、皮肉を盛り込んだりする。

趣味が無いと言い、編集者の意向に乗ってテーマを「趣味」とした高橋さんは、随所随所で「趣味」についての考察をめぐらす。「趣味」についてなんて、難しく考えるものじゃないと思うんだけど、考えることがお仕事のひとだから。
そして最後に高橋さんが出した結論とは!

解説は三浦しをん。短い文章でもきっちり笑わせてくれ、ピリリと要所を突き、作品を褒め上げるべき立場も忘れない。
興味深かったのは、本書「序章」で高橋さんが国木田独歩の代表作として『牛肉と馬鈴薯』を上げているのに対し、しをんさんが「何故無難に『武蔵野』ではないのか?」と疑問を呈していることだ。高橋氏のくだんの文章を読むに、あまり深い意味は無さそうな気がするのだが……。

2012/12/09

47都道府県 女ひとりで行ってみよう

47都道府県女ひとりで行ってみよう (幻冬舎文庫)
益田 ミリ
幻冬舎 (2011-04-12)
売り上げランキング: 107490

■益田ミリ
初・益田ミリ。
以前から、本屋さんに行くとこのひとの本がちらちら目に入ってくるので読んでみたいと思っていた。本職は漫画家さんだけど、エッセイも手がけられているようだ。
本書はエッセイのほう。
タイトルで、面白そうな企画だなと前から気になっていたので、気軽に読めそうかなと購入した。
内容は、タイトル通り、企画当時の年齢で32歳~37歳の著者が思いつくまま都道府県のどこかに1か月1ヶ所のペースで1人旅し、それをエッセイにしてある。
興味を引く、良い企画だ。
なのに、

ここまで面白くないというかヒドいとはどういうことなんだ

という感じである。以下は具体的に貶しますので、益田さんのファンの方はお読みにならないでください。

最初アトランダムに自分の興味がある場所から読んでみて肩すかしをくらい、「あれ?」と思いつつあちこち読み、最後「やっぱり買ったからには全部読もう」と通して最後まで頑張って読んだのだが読んでいるうちにだんだん腹が立ってきたくらいだ。
どうもこの益田ミリというひとは性格的に1人旅に向いていない、と思う。
「1人」であることをずっと気にしていて、「1人であること」をマイナスにしか解釈していなくて、周囲の目が気になって仕方なく、「あのひとは1人だからさびしそう」と思われるんじゃないかと極端に気にし続け、それをカムフラージュするために演技したりする。自分は東京には友達がたくさんいるんだと言い訳を繰り返す。
……20代の若い自立していない女の子ならまだしも、30も半ばを過ぎてアホか、としか思えない。
誰も(自分が意識している半分も)他人なんか気にしてないし、それに他人にどう思われようと自分がきちんとしてたら揺らぐことなんかないわけで。しかもそれが何回も出てくる。まあたまに気弱になるのはわからないでもないけど、しつこく同じこと何回悩む?
旅先でひとりだからわからないことに遭遇るすることもあるようだが、そのときも地元のひとに質問することが出来ない(変な自意識が邪魔をするらしい)。そういう性格なら事前に下調べしていけばいいんだけど、それさえしていれば簡単にわかることも何にも準備していない。
また、食べ物の偏食が多いのはまあそれは仕方ないとしても、嫌いなくせに「名産だから」と注文し、「やっぱり無理だった」と残す、というのが1回なら許すが何回も何回も、中盤になっても出てくるのだから意味がわからない。
名産品だからと頼むのはやめよう、と書いたあとにも同じ失敗を繰り返しているのだから悪いと思ってないんだろうな。
たとえば海鮮丼を頼んどいて残し、実は魚介類に苦手なものが多い、とか。
牛タンを頼んで残し、そもそも牛タンは好きではないのだ、とか。
なんなのこのひと。
キライなら、頼まなければ良いじゃない。百歩譲って、海鮮丼で例えば貝が苦手ならそれを注文時に「抜いてください」って頼めよ。そんなことも出来ない30代って、しかもこれだけ恥ずべきことをしていて文章に書いて公にしちゃってる精神が意味不明。
あと、開き直って、歴史とか地理知らないと何回も出てくるんだけどその程度にも程がある、というもので……。ちょっとびっくりしてしまう。
文庫あとがきでは42歳になっている著者だが、やっていることは相変わらず、のようだった。
食べ物をこういうふうに粗末にする人間って信用できないな。
いままで旅行記・ルポ・エッセイをいろいろ読んできたけど、これはレベル違いのダントツ最低だった。
旅先のことが伝わらず、旅している著者がちっとも楽しそうでなくダルそうだったりぐじぐじぐずぐずして言い訳ばっかりしている、仕事がきたから引き受けたんだろうけど、編集部も人選誤ったよなあ。どうも旅にかかった費用は自腹切ってたみたいだけど、それは大変だなって思うけど(でもある程度は経費で落ちるような気がするんだが)。
なんのために47都道府県に「仕事で」行ったの?
趣味で行ってるんじゃないでしょう。

2012/12/07

古本道場 【再々読】

古本道場 (ポプラ文庫)
古本道場 (ポプラ文庫)
posted with amazlet at 12.12.06
角田 光代 岡崎 武志
ポプラ社
売り上げランキング: 70823

■角田光代 岡崎武志
なにげなく読みかえし始めたら面白く、ずっと読んでしまった、ってこれ前回もそうだったんじゃないか。
古本初心者の角田さんが古本師匠岡崎氏に弟子入りするというスタイルの企画本。
ポプラ社の名編集者、矢内さんがモデルという矢之助と岡崎師匠のかけあい漫才も楽しい。なんか毎回昭和?とかの流行歌歌ってるのもわからんけど面白いし。
これの京都とか大阪版もあればなあ。

2012/12/05

凍りついた香り 【再読】

凍りついた香り
凍りついた香り
posted with amazlet at 12.12.04
小川 洋子
幻冬舎
売り上げランキング: 686249

■小川洋子
これは2004年5月時点では絶版で、文庫化はしてたみたいなのだけど、何故か古本で単行本を入手している……何故だろう。表紙が気に入ったからか。文庫が見つけられなかったからか。なにかのついでで古書で買ったのか。自分の行動だけど、覚えていない。当時の日記の数日前とか読んでみたけどわからん。
うっすら……「表紙」へのこだわりだったように、思うんだが。

「面白かった」という記憶があったのだが久しぶりに読みかえして、面白いというよりも前面に拒否反応が出てしまったのは読み手の心境の変化ゆえか。いやでもこの主人公なんか好きになれない(変にしつこいし)、恋人の母親は気持ち悪いし、その弟もなんだか下心ありそうでイヤだし。

嫌な話だなあ、と思いながら我慢して読んでいって、プラハでのちょっと不思議な感じの出来事なんかは良いなと思ったけど、主人公の恋人の死の理由がはっきりしたとき、そのあまりの切なさというか悲しさというか、どう表現していいのかわからない感情になった。ひょっとしたら「儚い」というのもあるかもしれない、ひとのこころの脆弱さ。でも責めるわけではなくて。
もし、責めるとするならば、それは「彼」ではなくて「彼女」の無関心さ、無神経さだ。

という結論まで達して、弱っている彼女に対してそんなことを考えるのはひどすぎると思い直し、なんて残酷な話なんだと思った。

知らなければ良かったのに。
でもこの彼女、彼の弟と数年後には結婚してそうな気が果てしなくする、な。
彼の弱すぎる背中を思い、彼女のたくましいしなやかさを思う。
なんていうか……生きてるひとが「勝ち」なんだなあ。

初読み時感想はこちら