2012/09/30

黒後家蜘蛛の会 1 【再々読】

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)
アイザック・アシモフ
東京創元社
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■アイザック・アシモフ 翻訳;池央耿
ブラックユーモアというかピリリとスパイスの効いたミステリー、後に残らないパズラー。12篇。
忘れたころに読みかえす。大きなトリックは無いけど、キャラ立てがきいてて(いちばん目立っているのは「まえがき」と各話毎にある(!)「あとがき」で登場するアシモフなのが面白い。日本の作家はここまで自信過剰になれないよなあ。
ちょっと気の利いた小噺、程度の謎解きなのでたまに「なんじゃそれー」と脱力しないこともないが、気軽に楽しめる。

「会心の笑い」
盗まれたものは何?

「贋物(Phony)のPh」
カンニングはどのように行われたのか?

「実を言えば」
決して嘘を言わない男?

「行け、小さき書物よ」
マッチブックに隠された暗号とは?

「日曜の朝早く」
珍しく殺人事件。

「明白な要素」
超心理学的現象は本当にあるのか?

「指し示す指」
遺産相続をめぐるダイイング・メッセージの謎。

「何国代表?」
狙われているのはミス・どこの国?

「ブロードウェーの子守歌
アパートで聞こえる謎のハンマーの音の正体は?

「ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く」
無意識下での言動をもとにスパイを探せ!

「不思議な省略」
“アリスの不思議な省略”とは。

「死角」
情報を流したスパイは誰だ?

2012/09/28

三四郎 【十代からの愛読書】

三四郎 (新潮文庫)
三四郎 (新潮文庫)
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夏目 漱石
新潮社
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■夏目漱石
この作品は1908年(明治41年)、「朝日新聞」に9月1日から12月29日にかけて連載されたもので、『それから』『門』へと続く前期三部作の一つ。
文章や描写に噛めば噛むほど味が出るのはどの作品にでも言えることかと思うが、『猫』や『坊っちゃん』、そしてこの『三四郎』は明るくて気楽に読めるのが好きだ。

「三四郎は難しい高嶺の花に恋したもんだなあ」とか「美禰子さんは野々宮さんに惚れてるんだけど相手がクール過ぎるのかね」とか下世話な感想を持ったりする、なんにせよ明治の話だろうが昭和・平成だろうが若い男女の恋愛ということで「基本的なことは変わらんのだなあ」としみじみ思う。美禰子が最後に選ぶ結婚相手とかね……なるほどなあ、女心って難しいなあ、でもわからないでもないなあ、とか。スジだけそのまま昼ドラに出来そうだよなあ。

解説に依れば『三四郎』は『草枕』の系列にあって、漱石はスジどうこうでなく「感じ」を描きたかったということらしい。そう謂われたらそうのような気もするが。でも田舎から出てきた愚直で初心な青年がいきなり都会の洗練された美人に惚れちゃって、そう積極的になれるでもなし、すごくリアルだと思うんだけどなあ。『草枕』みたく浮世離れしてるとか思わなかったけどなあ。

難しいことはわからないが、いま読んでも、何度読んでも面白い小説だと思う。野々宮さんは格好いいよなあ。与次郎はあんまりお金のこととかは信用できないけど基本的に気持ちの良い明るくて親切な良い友だちだなあ。三四郎は美禰子よりよし子さんのほうが合っているような。よし子さん可愛くて素直でさっぱりしててめちゃキュートだなあ。……などと具にもつかないことも考えた。

三四郎のモデルは漱石門下で漱石ラブで有名な小宮豊隆、野々宮さんのモデルはやはり門下で物理学者で作家でもある寺田寅彦、美禰子のモデルは婦人運動家の平塚らいてふ。

ところでどうでもイイ疑問なんだけど、三四郎って名前は長男次男ときて三男に付けそうな名前のような気もするけど文中に兄弟の話はいっさい出てこないしお母さんからの手紙はマメにくるしマメに返事書いてるみたいだし、一人っ子なのかしらね。そして三四郎は後々、郷里の御光さんと結婚したのかしらね。しなかったとしたらずっといろいろ特別に想って羽織り拵えたりしていた御光さんはさぞショックだったろうなあ。

2012/09/25

十月の旅人 【十代からの愛読書】

十月の旅人 (新潮文庫)
十月の旅人 (新潮文庫)
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レイ ブラッドベリ
新潮社
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■レイ・ブラッドベリ 翻訳;伊藤典夫
東逸子さんのカバーイラストが美しい。
中学か高校のときに買って十代に繰り返し読んだ作品集。大人になってからも何度か親しんだ。一番最近読み返したのは2005年5月18日らしい(日記から)。今回7年ぶりに読み返したわけだが、さすがに記憶のひだに染み込んでいる感じがするなあ。本書は既に絶版になって久しい。
翻訳者による解説によれば、「習作時代から円熟期にかけての作品のうち、一九七四年の時点でわが国では短編集に収録されていなかった十編」を1974年(昭和49年)に大和書房から上梓したものが親本。わたしの手元にあるのはそれを昭和62年に新潮文庫から出したものの平成元年版(第4刷)だ。

タイトルの横に原書の発表年、★印は好きな度合い。

「十月のゲーム」 1948 ★★★
ハロウィンの話。妻に対して憎しみしか持てなくなり、しかも我が子すら愛せなくなった男が行った復讐とは……。タッチが明るいのですんなり読めてしまうのだけれど映像化したらグロすぎる。ホラー・サスペンス。でも面白い。

「休日」 1949
火星にひとびとが移住している時代。「花火」ってそういうことか……。一度きりの天体ショー(超ブラック)。これは自然的結末じゃなさそうだよなあ。

「対象」 1948 ★★★
ラベリングすることでそのものになってしまう宇宙生命体。本来はどんな形にも縛られない未確定の存在だったのだが……。「未確定」な生命体が宇宙船でどうこうする文明なんだとしたらもうちょっと対策持ってる筈だと思うけどなあ。あと今気付いたけどこれ、「ドゥーダッド」とネタがかぶってるなあ。こういう話好きだしどっちも面白いので歓迎だが。

「永遠と地球」 1950
トマス・ウルフ(1900-1938)が未来で小説を書いたなら。ウルフはSFのひとじゃないけど未来では宇宙がSFじゃないってことかあ。凄いなあ。

「昼下がりの死」 1946 ★★
血友病患者に迫る殺人の罠。にしてもこの男、無防備すぎ。そしてこの犯人は捕まる気がする。殺人だってばれないわけがない。

「灰の怒り」 1944 ★★
殺された男の一人称語り。なんかむかーしのミステリ・ドラマみたいな雰囲気。

「過ぎ去りし日々」 1947
ひとつの家の歴史、家と老人の思い出が残像ではなく。詩情豊かに。

「ドゥーダッド」 1943 ★★★
「あれ」とか「それ」とか言う代わりに英語圏ではこう言うんだなあ。こんなにあるんだなあ。と昔思ったことを思い出した。「なんとかかんとか」とか「でっぱったやつ」とか「まるっこいやつ」とかそんな感じなのかしら。ドラえもんの道具にありそうな。

「夢魔」 1948
不時着した宇宙飛行士の睡眠中の意識を襲う存在。

「すると岩が叫んだ」 1953
白人支配の世が終わったとき。日本人にはちょっとわかりにくい感覚。2012年でもこうなるのかな?

2012/09/21

ゼラニウムの庭

ゼラニウムの庭 (一般書)
大島真寿美
ポプラ社
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■大島真寿美
 “人は永遠の若さを願うけれど。
  彼女の秘密はあまりにも切ない。”


紀伊國屋からのお知らせメールで発売を知り、タイトルと、あおり文句と、本屋大賞第3位の『ピエタ』後の同一出版社からの新作ということで、発売の翌日たまたま出掛けたショッピングモールや地域の個人書店で探したけれど影も形も無かった。だいたい、その種の本屋では文芸書の取り扱いそのものがホントに少なくなっているのだ。売れないから仕入れられない、たまに来たお客は無いから買えない、という負のスパイラルなのだなと3軒目を無収穫で後にしながら思ったりした、まあ今更な話なんだけど、本屋大賞3位の作家でもそうなのか、やはり1位じゃないとダメなのか。
仕方がないからネット書店で発注。
届いた翌日通勤読書に持って出、往復と帰ってからの家読書であっというまに読了してしまった。面白かった。続きをどんどこ追ってしまって。

不思議な話である。
大島さんの作品はいくつか読んでみたが、『ピエタ』から作風変えたのかな。それまではずっと身近などこにでもいそうな女性や少女の話だったのに(全部読んではいないが作品リストやアラスジから確認出来る)。
今回も、日本の話でこそあるものの、だいぶ変わった設定の物語だ。「あら、わたしもそうよ」なんて共感者はまず存在しない、はず。
終盤まで読んで、ここで終わり?と思ってからもう一段あるのだけれど、そこの部分を読みながらものすごく「ああSFみたいだなあ~」という実感を噛みしめていた。いや、それまでの話も十分奇妙なんだけど、語り手のスタンスというか立場というか、いろいろな違いでね。
とにかく、この部分があって、ぐっと良くなったというか、深みが増した。綺麗なままにしておきたかった、という部分が無くもなかったけど、まあ、生きてりゃいろいろ業があって当然、ってことなのかな。小説だし。

この物語は主人公の家にある「秘密」について書かれたものなんだけど、それが「どうして」なのか、その原因とか理由とか納得のいく説明どころか迷信じみたこじつけすらほぼ書かれないから、なんだかずっと宙ぶらりんな気持ちのまま読んでいくことになり、でも読み終えて考えるに、こんな設定の話にどんな理由を持ってこようがそれは絵空事でしかないわけで、変な因縁とか書いたところで日本昔話の縁起物となにが違うんだ、そんなもの読みたいかっていうと、違うよな。ということだった。

『ピエタ』は他人だけど同じ年頃の同じ施設で育った姉妹みたいな双子みたいなひとたちの話だったけれど、このお話は「正真正銘の」双生児の物語だ。その一生をリアルに想像、というか、お互いの思いとかを想像したりすると壮絶だ。語り手を孫にしたのはまだしも読み手に近い存在であるという点で正解だったように思う。

答えを求めても詮無いとわかっていてもそれでも、「何故?」と思ってしまう、とても引力の強い話で、あと一族と周辺の人間模様とかそういうのも面白かった。
なんにせよ大島さんという作家は、材料はどうあれ、ある程度年齢を経た「女の業」みたいなのを書くのにとっても執念を燃やしておられる方なんだな、ということを強く認識致した次第。

2012/09/19

買おうかどうか

買おうかどうか (双葉文庫)
岸本 葉子
双葉社 (2012-09-13)
売り上げランキング: 6419

■岸本葉子
初・岸本葉子。
闘病記などで有名で、お名前をちょくちょく見掛けるのでその存在は以前から存じ上げていた。勝手なイメージとして「教養人で、知識人で一本筋が通ったひと。ちょっと硬いかもしれない」とか思っていたが、今回初めて岸本さんの買い物エッセイを拝読して、「意外に、気さくな方だったんだなあ」と思った。

本書は2009年8月単行本の文庫化版。書店で、文庫新刊で平積みになっているのを何気なく手に取って、目次を見たら自分でも「買おうかどうか」と思ったことのあるのや身近な品物がラインナップされているのを見て速攻購入、読みはじめてしばらくして「それはそうと、この著者ってどういうひとだっけ?」とカバー折り返しにある略歴に目を通したら、うおっ! 東大出身であらっしゃいマシタか。でも本文読んでみると全然そんなインテリっぽくないから気負わず読める。

電気とかコンピュータ関係にあんまり強くなくてややこしいことしてまで便利にならなくてもいい、ファッション用語とか流行の最先端とかには少し疎くて、レギンスを「ももひき」とか脳内変換している。1961年生まれか……成る程。
ファッションとかおしゃれとかそういうのは二の次で、ダイエットなんか考えてもみないっぽくて、とりあえず着ていて楽!なものを追求する姿勢とかが……既に違う境地に達しておられるなあ、と。
楽を求めるあまりにマタニティショップに買いに行き、店員さんに妊婦さんとして非常に丁重に扱われて内心冷や汗たらたら、のシーンとか、その内面描写がコミカルに徹して書かれていて、絶妙。

買うか、買うまいか。
悩んでおられるかたには、実際に悩んで様々な方面から検討した結果、実際に購入された岸本さんのエッセイはすごく参考になると思う。これを読んで「あ、そうなの。買わなくていいか」と欲求を抑えてもらったり、「あら、そんな欠点が」などと事前に知ることが出来てとても便利だ。
「これ良いわよ、わたしはこんなに良いもの持ってる(買った)わよ」というスタンスのエッセイもあるが、岸本さんのはおしゃれとか雰囲気とかよりも実用主義・質実剛健主義なので、お世辞や美化がほとんど無いのが特徴かな。

時々、「こーんなに慎重で、実用主義でらっしゃるのになんでそんなもん買われるのかなあ……」と首をかしげたくなるセレクトもあるんだけど、これはあれかな、やっぱ半分は「エッセイのネタになるし!」というのが動機になってるのかな。編集者から「失敗したほうが面白い」とか言われたそうだし。

目次。
アロマオイル ホームベーカリー パソコン パソコン出張サービス 人間ドック ゴミ出し用万能バサミ 電子レンジ インターネット スーツケース お雛様 茶こし一体型ポット 財布 吸盤フック フードストッパー付きまな板 スパッツ デニムレギンス チップスメーカー ハンドル付きぬか漬け容器 ホーローのやかん ホットカーペット 醤油さし ケーブルプラス電話 ギャベ 老眼鏡

実際買ってみるとどうだったかは、読んでのお楽しみということで。
「あとがき」で本文が書かれた少し後の状況報告、さらに「文庫版あとがき」でその数年後の実情が書かれているのも大変に興味深く参考になる。

本書には著者以外にもいろいろな作家さんが関わっていて、その多さがちょっと珍しい。

一文字書:武田双龍(項目ごとのタイトルページに書かれている)
デザイン:松岡史恵
カバー・目次イラスト:樋口たつの
本文図解イラスト:カツヤマケイコ(物のイラスト、全部には無い)
本文人物イラスト:浅羽容子(項目ごとの最後に「グッ!!(good)」とか「オーマイガーッ」とか買い物についての評価イラストが描かれている。これがいろいろな種類があって面白い)。
解説:大矢博子(書評家)

イラストレーター1人で賄えたんじゃないのか……? とちょっと思わないでもない。

2012/09/16

光ってみえるもの、あれは

光ってみえるもの、あれは (中公文庫)
川上 弘美
中央公論新社
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■川上弘美
これも以前にジュンク堂に行ったときに、“もしも明日自分の店が閉まるとしたら、 どうしても今日売っておきたい1冊”フェアで採り上げられていて、川上弘美はだいぶ前に何作か読んで「雰囲気」を作るのが巧い作家だなという印象で、だけど自分のこころにはそんなに共感を呼ばないので、あれもこれも読むという気にはならなかったのだが、フェアのことが頭の片隅に残っていたので久しぶりなのでちょっと確かめてみようかという気になった。

結論から云うと、感想は以前と変わらなかった。上手いし、雰囲気も好きだし、悪くない。だけどそれだけなのだ。全然こちらのタマシイに響かない。

この物語の主人公は16歳の高校生の男の子で、読んで受ける印象は「きれいな男の子」だ。別に美形だとかそういうんじゃない。色素薄そう、汗とかかかなさそう。女の子とおつきあいはしていて、女の子の身体も知っているんだけど、全然ガツガツしていない。性欲が薄いわけじゃないけど、それに振り回されている感じが無い。なんとなく、すごーく昔(高校生の頃)に読んだのでもう忘れてしまっているけれど、山田詠美『ぼくは勉強ができない』の主人公はあれは設定として美形の少年で、女の人に愛されて、でもどこか醒めている高校生だったので、その話を思い出そうとして、忘れているので無理なのだが、比較してみたいような気もした。

これがリアルな男子高校生かどうか、――――そんなことはわからないし、いつのどこのどういう基準でもって判断するかという問題があるのでまあ不可能なのでそれは脇に置いておくしかない。そいでもって、自分自身と比べてみて、どうか、というと、ほんとに全然違うタイプのにんげんだなー、としか思えないので、そういう設定のヒトの話、として読んだわけである。最初はこれのどこが面白いんだろうかと思っていたけど読んでいるとそれなりに引き込まれていって、共感は相変わらず湧かないままなのだけれど、関心を持つことは出来るようになった。

少年・翠は、そのシングルマザーである母親・愛子と、祖母・匡子と3人で暮らしている。翠の遺伝子上の父親である大鳥はけっこうちょくちょくやってきて、別に険悪でもなんでもないが、飄々として父親らしさはまったく無い。愛子には恋人兼編集者の佐藤というのがいる。
翠にはクラスメイトの彼女(平山水絵)がいて、親友(花田)がいる。担任の教師(国語)の北川(通称・キタガー)。

花田というのは小学校1年からのつきあいらしいのだが、彼はなかなか見どころがあった。話し方とか考え方とかがそのへんにいる高校生とはとても思えないユニークなもので、面白い。
また、キタガーは大人にしてはなかなか物事のとらえ方とかがセンスが良くて、雰囲気も良くて、素敵だ。
平山水絵は途中までは可愛い女の子だなあと思っていただけに、終盤に判明するデキゴトによってなんだかがっかりしちゃった。16歳でそんなことやってて、どうすんの。

良くも悪くもこれは、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性が「作った」お話だ。うまく仕上げてあるが、そして共感するひとにはかなりぐっとくる場合もあるようだが、残念ながらわたしにはただの「器用な話」だった。

ってゆーか花田! 花田が好きなのは絶対翠でしょう! 腐った意見ってわけじゃなく、そういうのが読みたいってわけじゃ全然なく、書かれ方がっ! ふつうは寝ている友達に覆いかぶさったりしないもん、耳元で起こしたりしないもん、そこを追及すればもうちょっとマシなリアルが書けたのにそこは回避するんだよなあ。

「きれいな青春」、なんて虚像だよねえ。もっとぐちゃぐちゃで不器用で焦って迷って間違えて、それでも笑い転げるのが青春の特権だと思うんだが。まあそれも一種の「理想」なのかもしれん気がするが。
青春ってなんだっけなー。

2012/09/15

スットコランド日記【再読】→スットコランド日記・深煎り【再読】

スットコランド日記
スットコランド日記
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宮田 珠己
本の雑誌社
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スットコランド日記 深煎り
宮田 珠己
本の雑誌社
売り上げランキング: 332070

■宮田珠己
『スットコランド日記』は2008年4月7日から2009年3月31日までのweb日記の書籍化。
出版は2009年8月。


『スットコランド日記 深煎り』は2009年4月1日から2010年4月1日までのweb日記の書籍化。
出版は2010年8月。


前回読んだときはwebで読んでおらず、書籍で読んだから1年開けて読んだわけだけれど、実際の日記は地続きだったわけだからと続けて読んでみた。そしたら、初読みのときは、1巻目は明るく笑いどころも多かったけれど2巻目はなんだか暗め、という漠然とした印象だったのが、「それほど差は無いかな?」という印象に変わった。
まあ、考えてみれば毎日書いてるんだから、そんな急に日記のトーンが変わるとかはよほど大きな出来事でも起こらなければないだろうから、当然かな。1年開けて読むことで、継続の記憶じゃなくなるから、毎日会う親には言われないけれど久しぶりに会った親戚のおばさんには「大きくなったわねえ」と言われるような感じか。

つまり、あれだ。宮田大兄は基本、ナイーブで真面目なんだな。
毎月定期健診行ってたり、仕事の方針とかあるべき姿とか茶化しながらも考えずにはいられない、根が優等生なんだ。サラリーマン辞めてフリーになってバックパッカーとか昔はしてたから自由人ぽく誤解されるかもしれないけれども、それは「旅行好き」ということなんだよな。
連載の内容とか指針とかによって文体やトーンを使い分けたり、連載後に結局は全部手直ししたりしてるという記述があったがいやー、真面目だよなあ。

それにしても1巻目のほうでさかんに小説を執筆しているというアピールがあるんだが、他に挙げているエッセイとか旅行記とかはばんばん書籍化しているのに、小説のほうはいっこうにその気配が無いのはどうして?

それと、『深煎り』でもこの続篇としてぼちぼちだけど書いていく予定みたいになっていたスットコランド王国盛衰史を検索するとその跡地???みたいなのはあって、だけどそこに出てる文章は違うひとが書いた奥田英朗『ガール』の書評になってるっていうかページの表示がヘンだし。一時は、連載あったのかなあ。でもやめちゃったのかなあ。うーん。なんのかんの言って、日記も面白かったのに。

2012/09/08

ぐるりのこと 【再読】

ぐるりのこと
ぐるりのこと
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梨木 香歩
新潮社
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■梨木香歩
『f植物園…』→『沼地のある…』ときて近い時期に書かれたエッセイで著者の思考を少しでも追ってみたい(無理だけど)、とこれ。

最初順番に読んでいこうとして頭に入ってこなかったので、アトランダムに開いて興味を持ったことを書いているところを見つけてそこのくだりの最初に戻って読む、というのを何度も繰り返すことで1冊を読み終えた、著者の思考の順番はそうではないのだからどうかとは思うが、このほうが流し読みせずテーマに集中できたので。

「歯痛」とか「酵母」とかにちょっと反応しながら、しかしあんまり小説に絡むような書き方はされていないので、やっぱりエッセイと創作は全然別のスタンスだよなあ、と思いつつ。
本書は雑誌「考えるひと」2002年夏号から2005年秋号に掲載されたものなので、なかに当時ニュースで大きく報じられていた事件がいくつか出てきて、「ああ、そういうのあったな」と思い出したりしつつ読んでいたのだけれど、当時のマスコミの論調とか世論とかそういう「空気」みたいなのは後の読者になればなるほど伝わらなくなるんだよなあ、でもこれそういうのを知ってるのをちょっと前提として書かれているよなあというのがあったりして、でもまああれから10年くらい経つわけだけど、あんまり社会の根本的な考え方みたいなのは変わってないもんなあとかも思ったり。

前に読んだときに真面目な感想を書いてあるので今回は特に気に入ったテーマを思いつくままにメモる程度で。

・信楽から伊賀上野に偶然便利な新しくできた道ですぱーんと行っちゃって、そのあまりの速さに身体が距離感を実感することが出来なくてなんだかすごく違和感、みたいな話、ああわかるわかる、そういう感覚ってあるよなあとしみじみした。

・犬の散歩中にいつも吠える犬がしばらくいなくて、それがあるときまた戻ってきてて、そのときに梨木さんの飼い犬が見せた表情の話が興味深い。わたしは犬も猫も飼ったことないんだけど、道を歩いてて散歩中の犬と目が合ったときとか、明らかに「意味をもった表情」をしているなと思ったことが何度もあるので。たまに見掛けるだけであんなに面白いんだからずっと一緒にいたらもっといろいろあるのだろう。

・藤原旅子さんのお墓がどこか、というのを調べる話もなにかいろいろ響くものを感じて、しんしんと読み込んでいた。自分が最後に還っていきたいところ、それはどこだろう……とか。希望通りなるというものでもなさそうだし。難しいなあ。

2012/09/06

沼地のある森を抜けて 【再読】

沼地のある森を抜けて
沼地のある森を抜けて
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梨木 香歩
新潮社
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■梨木香歩
前回読んだのは刊行時の2005年9月で、ほぼ7年前。その年読んだ本の5位に挙げさせてもらったりした。
けっこう中身の濃いぃ話だから、ふらりと再読とかする気になれなくて、今回は『f植物園…』を読み返した流れで本棚を見ていたらなにか似たトーンを感じて「次はこれだな」と。

久しぶりに読んだため、細かいところは読んでいて思い出していくという感じで、忘れている部分の多さに我ながらあきれつつでもさすがにあの衝撃的なラストは覚えていたりして、それにしても前回自分はどんなことを思ったんだろう、と見てみたら今回一番強く、何度も思ったことについてはほぼ触れていなくて、これは「思ったけどあえて書かなかった」のか、「気にならないくらいにしか思わなかった」のか、どっちだったんだか、前者のような気がしないでもなくて、そういう目で見ればそのような感想がオブラートに包んで書いてあるようにも読めるが、そしてそうだったからこそ7年も読みかえさなかったんだと思うが、じゃあオブラートの厚さをどの程度に調整したのだろう。よく覚えていない。

今回最も強く何度か思ったことというのはこの小説を読んでいてわき起こるフリオへの不愉快さだとか、糠漬けから青い卵が出てくる気持ち悪さとか、カッサンドラの毒だとか、主人公の結婚や異性に対する極端な思考の凝り固まった偏りだとか、そのほか全体を包んでいるなんとも言い難い「生々しさ」だとか、具体的に挙げていけばいろいろあるのだが、率直に読んでいての感覚としてもう正直に「気持ち悪い」ということだった。梨木さん大好きだし、このお話も面白いし、再読だけど夢中になって読めるだけの引力があるのは確かで、だからこんなこと思いたくもないんだけどやっぱ、わたしがおかしいのかも知れないけど、――――薄ら気持ち悪いんだよなあ、この話。

だってそもそも糠漬けからひとが出てくるなんて。それ「人間」じゃないじゃん。でも「人間」としてずっと生きている。社会の中で普通に生活して周囲に溶け込んでる。怖い、という感想が出てきそうなものだが、この小説の書かれ方だとそういう怖さはあんまり強く感じなくて、それは糠床から出てきた「ひと」が恐怖を与えるような存在では無いからなのだが、……。
気持ちの悪さは糠床だけに原因があるわけじゃなくて、それだったらむしろ話は簡単なのだが、そうじゃなくて、いろんなメイン以外の人間とかの言動とかそういうのから出てくる生殖・繁殖についての表現とか思考回路とかがこれまた気持ち悪く、薄気味悪い。

なんなんだろう。
「種の存続、繁栄」が常に目的にあるようにすべてがその方向に「向かわされている」という、人知を越えた力の存在。
理屈も理性もその前には意味が無い。わかっていながら、流されていく。そのありかたが……自分には受け付け難い。

最後のほうの展開なんか、すごく綺麗で、荘厳で、ロマンチックで、生命の神秘を感じさせて、素晴らしいはずなんだけど、そこは覚えているからというのもあって、頭のどこかが冷静で、「いや、こんなに理性無くなってていいのか、操られてるっていうのに」とか思ったりしていて、読者としてこれは正しい姿勢とはいえないのではないか、とか悲しくなってくるのだった。

こんなこと書いていて、信じてもらえないかもしれないけど、この話はそれでも全然否定したくないのである。いろいろ考えたり感じたりしてぐるぐるして、読むたびに自分を見つめなおすきっかけをくれる。
傑作、なのである。

2012/09/04

f植物園の巣穴 【再読】

f植物園の巣穴
f植物園の巣穴
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梨木 香歩
朝日新聞出版
売り上げランキング: 255649

■梨木香歩
面白かった。なにかおっとりしたものを読みたく、この作品を読み返してみたら、記憶にあったよりもいろんな物語の不思議要素がたくさんあって、へんてこりんな出来事とかいっぱいで、再読だけど枝葉末節は忘れていることが多かったため、非常に楽しむことが出来た。

まず、語り口が良い。
時代設定とか明らかじゃないんだけど、たぶん一昔前の、おっとりした時代を思わせる、主人公の物言いだとか、あれやこれやで。幼いころの記憶に「ねえや」が普通にいたり、「草履」が日常に使われていたりする。
そして物語としても大変に興味深い。
主人公の、夢、あるいは無意識の海にどんどんもぐっていくような。お話の中では歩いて「下りて」いくわけだが。羊水みたいなのも出てくるし。フロイト的な、心理学的に意味合いを求めてしまいたくなるような、ファンタジー。
最後の締めもあたたかく、こころに染み入る。

装丁・装画も素晴らしく美しいので、先日文庫が出たが、単行本はカバーを外してもいと雅であることよ。
詳しい感想は一読目のほうに。

2012/09/03

その死者の名は 【再々読】

その死者の名は (創元推理文庫)
エリザベス フェラーズ
東京創元社
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■エリザベス・フェラーズ 翻訳;中村有希
3読目。
トビー・ダイク&ジョージものの第1作にしてフェラーズのデビュー作だけど何故か創元推理での発行は4番目だという。
そのへんのいきさつは、『ひよこはなぜ道を渡る』で翻訳者さんが書かれていたけど、要するに、ぶっちゃけ、「この出来では後に続かん」と判断された、っちゅーことでしょうな。面白いんだけど。打ち上げ花火にはならんと思われちゃった、と。

今回も部分的にしか覚えておらず、犯人とか忘れていたので楽しめた。あんまり良い性格のキャラは出てこないんだけど……。
それにしてもフェラーズの作品、版元に見に行ってみたけど全部在庫なしなんだなあ。あんまり売れなかったのかしら。翻訳ミステリ冬の時代といわれて久しいし、どっちかというとコージー寄りの雰囲気だから日本のファンには受けなかったのかしらん。わたしは大好きなのにー。

2012/09/01

猿来たりなば 【再々々読】

猿来たりなば (創元推理文庫)
エリザベス フェラーズ
東京創元社
売り上げランキング: 535157

■エリザベス・フェラーズ 翻訳;中村有希
4読目だが、……面白かった。見事に犯人もトリックも大事なことは全部忘れていて、最後の謎解きやなんかで「ああ、そういえば、そうだったっけ」とぼんやり思い出したくらいで、我ながらなんというノウミソだと愕然とする次第である。さすがに細かいとことかはちょこちょこ覚えてたんだけどね。
ミステリーとしても素晴らしいが、小説としても、読んでいて面白い。主要キャラの個性とか。ユーモアたっぷりの雰囲気とか。好きだから、何回も読めちゃう。
ジョージ大好き! かわいい! そして名探偵!

詳しい感想は再々読のときに書いたので、どうぞ。