2012/05/30

古書収集十番勝負

古書収集十番勝負 (創元推理文庫)
紀田 順一郎
東京創元社
売り上げランキング: 91391

■紀田順一郎
著者の作品はわたしがホームページを始める2001年より以前に『古本屋探偵の事件簿』を読んで以来。
書店に行ったら創元推理文庫のコーナーにこれが平積みされてあり、加藤木麻莉のイラストに目が引き寄せられ(調べたらやっぱり『桑潟准教授の』の表紙描いたひとだった、最近ほんとこのひとの装画よく見るよなあ)、タイトルが面白そうで、帯に「『ビブリア古書店の事件手帖』の出発点!! 「ビブリア」を書くにあたって強く影響を受けています。――三上延」などというアオリ文句が並んでいるのを見て、紀田順一郎でネタが古書ならミステリ云々でなく古書店についての薀蓄てんこもりという感じかな、と思って読んでみることにした。

本書は1991年に単行本『魔術的な急斜面』として刊行されたのを改題したらしいが、読み始めてしばらくして思わず「えーと、これいつの本だ?」と確かめたくなったくらい、登場人物の設定とか物言いとかいろんなところが古臭い。そして話が泥臭い。昭和の、第三の新人とかあのへんの小説読んでるみたいな気がするがいちおう平成の本なんだなあー。

とにかく出てくるヤツにまともな性格をしているのがひとりもいないと言って良いくらいで、古書がらみの商売をしている人間が古書のためならひとを騙したり犯罪まがいのこともする、というだけでなく、古書店の店員のそれぞれの嫁(これが実の姉妹)がお互い言い合う日常会話がほんとに性格悪くて根性がひん曲がっていて……。まあ、この姉妹が仲良しだったらそもそもこの小説のメインネタである「古書収集十番勝負」は行われる必要も生じなかったわけだから、姉妹の軋轢を書かないと始まらないというのはわかるが、とにかく、読んでいるとかなり不愉快。
いっそ途中放棄しようかと何度か考えたがアマゾンの感想を読んでみるとあんまりみんな気にしてないみたい。そしてこれはやっぱり古書道薀蓄を楽しむためだけの小説だということが確認できたので、もう割り切って、キャラの性格については能面のような心境になってさくさく筋だけを追っていった。

結論としては、古書収集ネタであれば何でも興味があるという向き以外にはオススメする要素がひとつもなく、ミステリーとしても噴飯もの、「ビブリア」のようなほのぼの感を求めて本書を手に取ったら大間違い、という感じ。

それにしても単行本のタイトルってひどいネタバレだったんだなあと最後まで読んでから見るとあらためて驚愕、文庫はちょっとタイトルだけが良すぎるという気がしないでもない……。

2012/05/27

日の名残り 【再読】

日の名残り (ハヤカワepi文庫)
カズオ イシグロ
早川書房
売り上げランキング: 913

■カズオ・イシグロ 翻訳;土屋政雄
最初に読んだときは、大好きな「執事」さんが出ずっぱり(だって一人称だもん)なのにやや興奮しながら読んでいくうちにどんどん頭が冷静になって引き込まれていったものだ。

今回は最初から比較的冷静に、前回よりもう少し醒めた目でスティーブンスの言い分を読んでみようというスタンスで読んでいった。そしてやはり最終的に感じたのはスティーブンスへの深い同情だった。彼の生き方が間違っていたなんて誰が言えよう。

とにかく読んでいると彼が「執事」という自分の職業を誇りに思っていること、そしてかつて長年仕えていた主人への深くて強い敬愛の念、「信じぬく」とはまさにこういうことだ、という感慨の念がわきおこってくる。

世間の誰もがご主人を非難しようと、スティーブンスは揺るがない。「主人に仕えること」がそれすなわち「執事」たるものの使命、存在意義だと信じているし、そして彼にとってダーリントン卿は紛れもなく「ご主人様」たる人物だったのだから。
そのへんの温度差を考えるとどうしても「頑迷な」とか「盲目的献身」といった表現が出てきてしまうのだが、だけれどもそれは「第三者」がやればいいことであって、スティーブンス本人の信念がそうであったのだ。今日の思想から過去を振り返って他人をやいやい批判して賢こぶったふりをする輩とどちらをわたしは愛せるか。答えは明白である。

それにしてもスティーブンスと女中頭ミス・ケントンのやりとりはもどっかしいというかなんというか。ミス・ケントンは持って回った言い方とか挑戦的な言い方しか出来ない自分に自己嫌悪しつつも「ご主人様命」でその他のひとの感情なんかアウトオブ眼中な想いびとのつれなさをなじりたくなったんだろうなあ。意に沿わぬけれどもやけっぱちで結婚しちゃって、旦那さんは優しいひとだったけれど最初愛せなくてきっとスティーブンスのこととか考えていろいろ煩悶したんだろうなあ。うーむ。

アマゾンの感想を読んでいるとこれは原書で読むとさらに素晴らしいらしいが……たぶん、たとえ読んでも英語の素養が無いのでわたしにはその素晴らしさを理解することが出来ないのだった。カナシイ。いやでも、邦訳もほんと悪くないというか良い文章で読んでて心が落ち着くんだなあ。

2012/05/25

ずっとお城で暮らしてる 【再読】

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)
シャーリィ ジャクスン
東京創元社
売り上げランキング: 41760
■シャーリィ・ジャクスン 翻訳;市田泉
町の本屋に行っても読みたい本が無い。
というわけで手持ちのをもっかい。
「怖い」という評判を受けて読んだ本書、初読み時にはちっとも怖く感じることが出来なくて、あれ?と戸惑ってしまったものだが再読したらひょっとしたら怖いかな?ともくろんだんだけど結果的にちいっとも怖がることが出来なかった。なんでだろー。なんで世間はこれが怖いんだろう。町のひとに対する感情は「怒り」だし、メリキャットやコンスタンスに抱くのは「悲しみ」「愛おしさ」だし。

細かいことはけっこう忘れてたりしたんで丁寧に読んだんだけど、とりあえず今回もめちゃくちゃメリキャットに共感してしまい、やっぱヲレはどっか壊れてるのかとちょっと思った。コンスタンスやメリキャットが健全だとか、一般的な言動するひとだとは思えないけれど、読んでいるとすうっと理解できていく。モノを叩きつけて割ったりするのはちょっとヤバイと思うけど、っていうか18歳なのにほんとに13歳で時が止まっている、言葉をまだ見つけられないロウティーンそのものの言動にはうーむと考えざるを得ないけど、でも、やっぱメリキャットの怒りと守りたいものはわかる。コンスタンスがなに考えてるかは正直よくわからないけれど、メリキャットに同化して読んでいるから、憧れと好意でいっぱいだ。冷静にこうやって書き連ねると異常な世界なんだなあということがじわじわ実感としてわいてくるけれども、それでもやっぱり……このお話大好き!!だ。

前回読んだときに大方の感想は書いてしまったので。

2012/05/23

ウランバーナの森

ウランバーナの森 (講談社文庫)
奥田 英朗
講談社
売り上げランキング: 36195

■奥田英朗
奥田さんの作品を読み始めて以来、この作品の存在は視界の端っこに常にあったが(なんせデビュー作だ)、タイトルや装丁にどうも惹かれず、後回しになっていた。先日、これがビートルズのジョン・レノンをモデルにした小説だということを知った(知ってしまった)。あれだけのスターなので代表作はもちろん知っている、だが、別段ファンということはないので、ジョン・レノンの私生活について知っていることなんて日本人オノ・ヨーコと結婚して当時は相当な騒ぎになったらしい、ということくらいだ。
エッセイなどからうかがうに、奥田さんはけっこう音楽好きのようだ。
どういうふうにジョン・レノンが描かれているのか、読んでみたくなった。

本編、そして「文庫版へのあとがき」に至るまで、直接「ビートルズ」や「ジョン・レノン」の名称が書かれることは一度たりともない。出てくるのはただのどこにでもある「ジョン」という名前あるいは「ポップスター」という言葉だけだ。だけど、読んでいるとたいていの読者にはモデルが誰のことなのかわかるように書かれている、らしい。読む前から知ってしまっていたわたしには判断のしようがないのだが。

ここに出てくるジョンは、バンドを解散し、最初の妻と別れ日本人の妻を得て、さらに彼女とのあいだに男の子をもうけ引退した後のいわば隠遁のひとである。仕事をしないことはもちろん、社交の場に出ることすら拒否するような、いまでいう「ひきこもり」みたいになっている。
息子を大切にしているらしいがべったり一緒というわけではなく、だいたいは家政婦まかせにしているところらへんが西洋風だなあと思ったり(向こうの親って上流になるほど両親は子どもを必要以上にはかまわないというか、けっこう大人の社会とこどものそれを区別してるらしい)。

ジョン・レノンについて世代のズレということもあり、ほぼ白紙に近かったので、例えばオノ・ヨーコとのなれそめとか、そもそもそのときは既婚者だったこととか、マネージャーの問題とか両親に愛されて育ったわけではないことなどなんにも知らなくて、びっくりした。

小説としては便秘問題が軽いジャブかと思いきやずーーーーっと出てくることが「奥田さんらしいなあ」と。あと、中盤からやたらスピリチュアルというのか、非現実的な、あの世とこの世の交流みたいな展開が出てきたりして、「あれ?奥田さんこんなの書いてたの?」とかなり意外な気がしたが、話の流れとか空気的に不思議と違和感が無く、拒絶反応も起こらず、読むことが出来たのはオカルトチックな展開でありながらそのスタンスがオカルトでは無いからかな。「これはフィクションだよっ」っていう著者からのわかりやすい目配せっていうか、「小説だから出来る夢」なんだな、という、「ああ奥田さんは小説でジョン・レノンの魂を救済してあげたかったっていうか、それくらいきっと好きなんだなあ」という気持ちにもなった。最後まで理性的な判断を曲げない医師の存在も良いなあこの「流してしまわない」筆者のバランス、って面白かったし。

ちなみに「ウランバーナってなに?」という答えも本文中に丁寧に描いてあるので事前にググらないほうが納得できるように思う。
心療内科と、オカルトと、神話と、仏教。
なんかいろいろ混ざっていてとっても不思議な世界、奥田さんの第2作目以降とはちょっと雰囲気が違うなあ。

2012/05/20

妊娠カレンダー 【再読】

妊娠カレンダー (文春文庫)
小川 洋子
文藝春秋
売り上げランキング: 62120

■小川洋子
3つの短篇収録。
表題作「妊娠カレンダー」
前回読んだとき(2004年4月)、「胎教に悪そうだなあ」と思ったものだが、今回もそれはやはり変わらず。タイトル見てアットホームな母性出まくりの「赤ちゃんを待っている幸せママの図」を想像していたらトンデモなかったという。
久しぶりに読んだけど、うーんだって語り手たる「妹」も妊婦である「姉」も性格悪すぎじゃない? やたら従順で文句も言わず姉夫婦の家に同居し、姉の言うままに動いているまだ学生らしいわたし(=妹)。妊娠したことで喜ぶわけでもなくかといって不安であたりちらすとかいうわけじゃないけど淡々と自己中心的な主張を貫くちょっと精神的に弱いらしい姉(なんかあるとお気に入りの精神科医である二階堂先生のところへかけこむ)。

「わたし」の目に映る登場人物で魅力的に描かれているひとは一人もいない。姉への隠された、でも明らかな底意が良い感情だとはとても思えないし、その夫も、二階堂先生もなんだかみんなごくつまらない、生命力の薄い存在として切り捨てられている。唯一の「嫁の妊娠を喜び、孫の誕生を心待ちにしている」存在として登場するのは義兄の両親だが、彼らの存在感はまるで彼岸のことのようだ。

「わたし」も「姉」もあまりにも一方的な描かれ方だから、なんだか現実味が無い。――そんなことを考えながら通勤電車に揺られていたらふっ、と思い当たった。「わたし」と「姉」は表裏一体なのではないだろうか。ふたりで現実的にはひとりというか、「妊娠」というものに行き当たったときに通常期待されるところと違うベクトルに感情が行ったときそこに「小説」が生まれるのだとすれば、そのベクトルから物語を紡ぐべく登場人物を設定したときに、本来ひとりである「妊婦」にあえて属性たる存在として「妹」を持ってきたのではあるまいか、だとしたらこの妹の傍観と無抵抗は理解ができる。そしてもちろん、そのグレープフルーツにかかった農薬を黙って差し出す残酷さは、「妊娠を喜べない女」の中に同時に存在しているものを具象化したものなのではないか――。

妄想であるし、これが正解だとは思わない。ただ、そういう読み方もあるか、という思いつきである。
なにもかもがどろっとした気持ちの悪い描写にある中で、姉が子を産む場所として選んだ産院がとっても素敵なのが興味深い。

「ドミトリイ」
前回も読んだであろうに、なにひとつ記憶に残っていなかった。
さきに海外赴任先に行ってしまった夫のあと日本に残り、「待機中」である「わたし」。毎日が暇でしょうがなく、パッチワークなどして時間をつぶしている。そんな語り手に、年の離れた従弟から電話があり、彼が望む下宿先としてかつて自分が暮らしていた学生寮を6年ぶりに訪れることになった――。

なんとなくアンニュイな雰囲気から始まるこの小説、鍵となるのはその学生寮を管理している「先生」と呼ばれる人物である。会話からどうやら生まれつき両手と右足が無いらしい。こういう身体的特徴、うーん小川洋子が好きな世界だなあぁ、としみじみ。先生が若いひとの骨格や筋肉についてやたら熱心に細かく語るのも、その変態的な情熱も、お馴染みの世界だ。
それにしても久しぶりに著者の小説を読んで、「ホントにこのひとの登場人物たちは『義務感』で働かないなあ」と。海外から夫が引っ越しや海外移住のための準備事項を細かく言ってきているのになんかいまそういうことやる気分じゃないのよねとばかりに無視してパッチワークしたりしている。この妻は夫を追いかけて海外に行かないんじゃないかとうかがわせる。先生への関心の高さも思わせぶりだ。

最後はまるでホラーかサスペンスのような展開になるが、すっと肩すかしを食らわせたような形でいて、いやいや待て待て、事実はまだ明かされていないままだ。想像は、本物かもしれないという余韻が残る。

「夕暮れの給食室と雨のプール」
周りに反対された年の離れたバツイチでうだつのあがらない男との結婚を決めた「わたし」がちょっと風変わりな「宗教勧誘員」の男とその幼い子どもと出会い、男の少年時代のトラウマみたいなエピソードを聞いたりする話。
給食準備室とかむかーし最初に通った学校にはあったけど、こんなに面白かったかなあ。著者の魔法目線が入っているような気もする。


3篇通じて、話は違うけれどどれも「食べる」ということがテーマになっている。と言っても「食の安全」とか「栄養を考えて」とかそういう健全な精神で書かれているわけではない。なんだかどろどろとした、どうしようもない行為であったり、どこかエロチックだったり、なぜか罪の意識と結びついていたり。
著者自身による「文庫版のためのあとがき」があり、非常に興味深い内容だ。
村松栄子さんの「解説」は「知り合いどうしの作家が健全に解説しようとしたらこう書くしかないかなあ」という感じ。こうまっとうには、読めなかったなあ。

2012/05/17

池田澄子句集

池田澄子句集 (現代俳句文庫)
池田 澄子
ふらんす堂
売り上げランキング: 320498

■池田澄子
ずーっと前に買って、句集だもんで、ぱらぱら読んで、「おー」とか思って本棚に戻して、という感じで置いてあった。このまま気の向くときにパラ見するだけでは永遠に読み終わらないと思って今回アタマから順番にきちんと読んでいった。
すっ、と呑み込める句もあれば、正直意味がよくわからない句もあった。でもなんか、好き。解説はできないけど、良いなあと思うのが多い。難しくない、というのが良いんだろう。随分変わった句もいくつかあったが前衛的とか、奇をてらっているとかそういうスタンスでないのだ。たぶん、著者の「ナチュラル」がちょっと変わっているんだろうな。

この俳人を知ったのは、川上弘美の書評集に拠る。
そのとき紹介されていたのがたしか、
  じゃんけんで負けてほたるに生まれたの
という句だったと思う。
気に入った句いくつか。

  花なずな胸のぼたんをひとつはずす
  主婦の夏指が氷にくっついて
  おさなごの永きいちにち花ふぶき
  同室のががんぼよまだ眠れぬか
  おかあさんどいてと君子蘭通る

  

ダ・ヴィンチ 2012年6月号

ダ・ヴィンチ 2012年 06月号 [雑誌]

メディアファクトリー (2012-05-07)


表紙が堺雅人さまvvv だから買いました(* ´ ▽ ` *)

「ダ・ヴィンチ」は10年以上前に1年ばかり毎月購読していたのだけれど、なんか合わないなあーという思いが強くなってやめたんだった。今回久しぶりにぱらぱら読んだら「あーダ・ヴィンチだなー」と思うところもあったけど、昔とは変わっている面もあったように思う。
『雪と珊瑚と』の特集ページもあって、いろんなひとの感想が載っていて、うーんほんと、いろんな読み方が出来るんだなあと感心した。
オードリーの若林さん連載してるんだね。読書芸人だもんね。
あと、本屋さんで穂村(弘)さんと角田(光代)さんの共著を見掛けて気になっていたのの特集というか直接おふたりの対談記事もあって興味深く拝読した。恋愛がテーマかあ。うーん体質が違いすぎるからわかんないかもなー。どうかなー。

特集は「男と、本」ということで、堺さんほか計3名の俳優さんに自分を形作っている3冊を選んでもらって語ってもらって…みたいな。
自分の人生を形作る本を3冊で表現する、というのはかなり難しいような気がするが、まあそこは「お遊び」感覚で。
ちなみにわたしならホームズ・シリーズをまず挙げるかなー。あと新井素子の”星へ行く船”シリーズでしょ、んで星新一と北杜夫と太宰治と漱石……、
って絶対3冊なんて無理ーっ(ノ ̄□ ̄)ノ!

2012/05/14

世界を見に行く。

世界を見に行く。
世界を見に行く。
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石川 直樹
リトル・モア
売り上げランキング: 139282

■石川直樹
写真集。
と言っても自分用に買ったのではないので、書店で選ぶ際にぱらぱら見た程度。
世界のあちこちの景色とか、ひととか。
写真の雰囲気が良いなと。
切り取ると、絵葉書にもなる。
それにしてもセンス良いなと思ったら帯に「糸井重里」の名前が。
ほぼ日の企画モノだったんですね……流石。
自分用にも欲しいような気もする。

贈りもの歳時記

贈りもの歳時記
贈りもの歳時記
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平松 洋子
主婦の友社
売り上げランキング: 94640

■平松洋子
平松さんの本はとりあえずいろいろ読んでみることにしている、買って、通勤向けの本じゃないので(サイズとか活字の量とか)、しばらく寝かせてあった。
カラーの、写真集、に近い。
平松さんが選んだ、「あのひとにこんな素敵な物送ると楽しいわ」というシナモノたちのカタログ。
季節に添えての一文と、それぞれの商品についてのコメントが良い。

――に、しても、平松さんのコンセプトは「気軽に、気負わず、良いものを」ということらしいのが文章上では何度も繰り返されるのだが、そのお値段が数千円から数万円、とりあえずわたしの感覚からすると「た、高いっ…!」。
なんてゆーか、普段使いじゃなくて贅沢品とか一点豪華主義的なもの、としか思えないのがまー甲斐性の違いってヤツですか。
急須21,000円とか、文鎮10,500円とか…。
確かにセンスは良いよ、だけどだけど、これってふつうの会社員であるわたしの感覚だと「かなり特別な贈りもの」だよ。
他に、数千円のものとかもたくさん出てくるけど、例えば1枚735円するふきんとか、2,100円する団扇とか、基本、「良いもの、だけどお値段もそれなりに」というスタンスかなあ。ふきんとかそのへんで100円くらいで買えるじゃないか、団扇なんてタダで配ってたりするぞ、って言っちゃうと無粋なのはわかっている。まぁ、プレゼントって「自分では買えないけど貰うと嬉しいプチ贅沢品」っていうのが選ぶ基準のひとつではあるんで、まさに打ってつけの書、なのかも知れないけれど、うーん。自分用のご褒美に買いたいなってものがほぼ無かった、っていうのもナンですね。

ちなみに平松さんが結婚するご自分の御嬢さんに送った品は1枚87,150円の木のお盆。
これは、まあ、相当トクベツだから、わかる、けどスゴイ漢前なお母さんだなー。

2012/05/10

強運の持ち主

強運の持ち主 (文春文庫)
瀬尾 まいこ
文藝春秋
売り上げランキング: 26179

■瀬尾まいこ
単行本は2006年5月。
元OLが占い師に転身、営業で鍛えた人付き合いの技術を活かしてと文中に出てくるけど、どう読んでももともと向いていたとしか言いようがないと思った。4つのお話を通しての主人公ルイーズこと吉田幸子さんの占いは占いっていうよりも人生相談の色が濃いような気がする。占い師ってこんなふうにお仕事してるんだなあと興味深かった。”迷っているひとの背中を押してあげる役”というのはその通りなんだろうなと思う。

「ニベア」は父親と母親のことで占いにやってくる少年の話。
「ファミリーセンター」はどうしても振り向かせたいひとのことを相談にくる女子高生の話。
「おしまい予言」は”おしまい”が見えてしまう青年の話。
「強運の持ち主」は主人公の同棲している恋人の話と、アシスタントの話。

現実どうこうというよりは、占いがテーマなので、なにか不思議な雰囲気がどのお話にもちょっとあって(もちろん非現実的なパワーなんて出てこないけど)、面白かった。
気になったのは、ルイーズさんの師匠ジュリエさんだ。なんだかとっても謎めいているし、「本物」っぽい雰囲気と描写があるし、いただきものはどんなものでも持ち帰らずに食べきってしまうという変人ぶりもなかなかだ。明らかに脇役キャラなのに、めちゃくちゃキャラ立ちしているし、存在感がありまくる。
ジュリエさんメインのお話をそのうち書いてくれたりしないのかなー。

2012/05/09

卵の緒

卵の緒 (新潮文庫)
卵の緒 (新潮文庫)
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瀬尾 まいこ
新潮社
売り上げランキング: 12927

■瀬尾まいこ
自分の中で瀬尾さんは、むかし2作ほど読んだときの記憶で止まっていて、このあいだ比較的近作を読んであれっ?認識が揺らぐ感じになったので、もうちょっと確かめてみたく、評判の良いらしいデビュー作をば今頃。

本書には中篇が2つ収められており、表題作と「7's blood」というのだが、「卵の緒」の語り手・僕が「育生」くんで、物語の最後に産まれてくる妹の名前が「育子」ちゃん。そして「7's blood」の語り手・私が「七子」ちゃんでその弟の名前が「七生」くん。
――もちろん環境設定とか年齢とかいろんなところが違っているのでまったく違うひとの話なんだけど、これはもう、どうしたってセットで受け止めるように書かれているんだろうな、と思うし、一緒に読んで、やっぱ、「うん」と頷けるものがある。
どちらも、家族のつながりが、きずなが、書いてある。
そしてそれは、血のつながりだとか、そういうんじゃなくて。
むしろ家族のつながりに「血」なんて関係あるの?っていうスタンスで。
なにが大切で、家族ってなんなのかっていうことの、根本を。データとか、統計とか数字とか学者のいうこととか「てやんでぇ」って遠くへぽーい、って感じで、書いてある。

こういうのをお涙頂戴に切なく感動的に語りあげるのではなく、とっても日常的なふんわりした雰囲気のまま、けっこう重たい問題も必要以上に悲しんだり真面目になったりしないで自然な軽い明るいトーンで書き通してある、のがすごい。
いわゆる「型」通りでは無い斬新な、思い切った家族像を書いてあるのにあんまりにも肩に力を入れずに書いてあるから「あーそうかー、そうだよねー、それでいいんだよねー」ってめっちゃナチュラルに読めてしまってしかもなんか非常に納得してしまう。

これは究極の、愛の物語。
濾過して濾過して美しーく研ぎ澄まして、透明度クリア120%まで磨き上げてカラッと仕上げてある。
童話のような夢のような儚さ。

2012/05/07

祝福

祝福
祝福
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長嶋 有
河出書房新社
売り上げランキング: 228517

■長嶋有
刊行時(2010年12月)になんとなく買いそびれていて、最近読みたいなと思うようになって、でも書店で見かけるのが全部第2刷だったので初版好きとしては「うーん」という感じだったのがこのあいだ棚の上のほうに長嶋有が並んでいて台に乗って取ってみたら初版だったのでラッキーと思って買うことにした。

書店でカバーをかけてもらって、全部読み終えてからそれをはずしたら帯にいろんなアオリ文句が並んでいるのが目に入った。「デビュー10周年を迎える10作品集」で、「女ごころを書いたら、女子以上 ダメ男を書いたら、日本一! 長嶋有によるひとり紅白歌合戦 女主人公5人 男主人公5人」。
そうそう、この帯を平積みで見て「うーんなんかいいや……」と購入を見送ったんだった(帯の存在意義、台無し)。

実際読んでみてまず強く思ったのは、「やっぱ長嶋さんの言葉の選び方とか、センスが凄いなあ、好きだなあ」ということ。
内容は、けっこう予想したよりもなんていうかアバンギャルド。
最近氏の「なんにもおこらない」長篇なんかを読んで、のほほんとした空気というイメージにたゆたっていたから、「おおおおお」という感じ。そうかそうだ、短篇こんなん書くひとだった。でもめちゃくちゃ巧い。好き嫌いでいうと微妙だけど、巧いのはこれはもう力いっぱい断言できる。
なにが巧いか。
この、空気感。というか、人生の、シーンの、切り取り方。照明の当て方。
真正面からでなく、さりとて奇を衒うわけでもなく、絶妙の、ちょっとだけズラした視点でぐいいっ、と心理の深層をえぐってくるような。
それで、「答え」を描かずに、読み手の気持ちに「印象」「インパクト」「余韻」を与えてさくっ、と終わっているところが。
巧いなあああ。
以下、タイトルと好き度と、話を思い出すきっかけメモ的な。詳しい感想は野暮にしかならない!のでやめておく。とりあえずこれを読んでちょっとココロがぐらぐらした。いや「現実」は俺は大丈夫なんだけど。しっかり日常しあわせなんだけど。でもなんだかぐらっとさせられる、久々にそういう影響を受けるだけの、なんだか空気の圧力があるっていうか……。

「丹下」★★★★★ サンマ定食を求めて歩く
「マラソンをさぼる」 ★★★ マラソンをさぼる
「穴場で」★★ 花火を見る
「山根と六郎」★★★★ コンビニでカップラーメンを買って、買い食いする
「噛みながら」★★★ 銀行強盗に遭いながら、思い出しているむかし
「ジャージの一人」★★★ ひとり山荘バージョン
「ファットスプレッド」★★★ いろんな夫婦がいるんだ、という
「海の男」★★★★★ ひさしぶりの友人と海釣りにいく
「十時間」★★★★ 幼い姉妹の 宮澤賢治の物語を連想させる これ異色なような気が
「祝福」★★★ 結婚式の二次会に招かれた男のちょっと入り込めない感

装丁も凝っていて、面白い。板野公一+吉田友美(welle design)。

2012/05/03

雪と珊瑚と

雪と珊瑚と
雪と珊瑚と
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梨木 香歩
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 1590

■梨木香歩
既刊エッセイ(『渡りの足跡2010年4月刊)の中で「カフェを舞台にした小説の取材」という趣旨の一文を見つけて以来「ナッキーとカフェの組み合わせって意外すぎる……どういうお話になるんだろう」と刊行を楽しみにしていたもの。うーむこうくるとはね。
大変興味深く読んだ。
雪ちゃんという赤ちゃんが出てくるのだが、そのしぐさのひとつひとつまでがかわいらしく愛しくてたまらない。
この小説はアラスジなどでストーリーをまとめてしまうとものすごく陳腐になってしまうというか、物語の持つ独特の雰囲気が全部飛んでしまうので、出来ないのだった。

箇条書きで感想。
①カフェのデティールは文句のつけようがない、素晴らしいもの。また、とてもナッキーらしい店構え、メニュー、素材へのこだわりである。実際に身近にあればどんなに良いか。
②登場人物の設定の重さと実際に描かれている描写の量がアンバランスなように思う。少なくとも読み手のわたしには未消化。消化できない。
③現実的に主人公みたいな立場の人間(21歳のシングルマザー)にいまの社会ってこんなに優しいか?という疑問がどうしてもわいてくる。

もうちょっと細かい感想。
①について。
樹木いっぱいの昔ながらの個人宅を可能なかぎりそのまま使って自然派なお店。門を入って店までが木立の中を歩いていくような。庭にはいろんな花々とハーブがあって、木々では野鳥が鳴き交わす。テーブルや椅子は不揃いだけどナチュラルな素材、加工。素材は野菜中心で、無農薬農家と提携して仕入れ。手作りの素朴な料理。……萌え要素てんこもり。素晴らしすぎる。料理の作り方がけっこう具体的なのも参考に出来て嬉しい。

②③について。
わたしはこういうテーマは苦手で、古い観念にガンジガラメになっているタイプであるので偏見になってしまうと思う。ので、そういうのご承知おきください。

主人公の生い立ち、育った環境と現在の性格設定と取っている言動と、結婚、出産、離婚のくだりがどうもバラバラにしか思えない。こんなに慎重な性格で真面目なのになんで妊娠→結婚→離婚の過程がこうなるのか、それは育ちがこうだから、実母に愛されてなかったから、ということなのだろうが、どうにもうまく飲み込めないのはなんだか理屈では理解できても心情的感情的に拒否反応があるからだろう。
そういった「拒否反応」がそのまま強化されて具体化されたような登場人物(主人公を一方的に嫌う女性)が登場するが、彼女の書き方がものすごく性格悪く書かれているのが残念。ここまで極端なのはむしろ珍しいと思うんだけど。このひと以外は主人公全面支援派ばっかりというのも不自然と思う。もちろん尊敬し、共感するひともいると思う。だけど若くして妊娠して出産したけど離婚してしまったシングルマザーにいまの「世間」ってここまで優しいか? 現実はもっと冷たいと思うんだけど。そりゃ大人だから表面立って批判はしないだろうけど、あたらずさわらず、っていうのが大勢と違うのかなあ。事なかれ主義っていうか。
こういう問題は、ともすれば「あなたはそういう目に遭っていないから」と云われたら反論できないようなものだし、主人公のようなひとを批判していると誤解されるおそれがあるような、非常にデリケートなテーマである。だからあえて云うけど、主人公は立派だと思うよ。だけど、なんで妊娠についてもっと注意しないんだ。もっと相手の男の本性をちゃんと見極めた上で結婚しないんだ。自分が苦労したぶん、そういう面には慎重になってしかるべきじゃないの? っていうかまあ間違いとか判断違いはあって当たり前なんだけど、でもその件について全然まったく後悔も反省もしてないのはどうなんだろう?
なんかこのへんの理解が、追いつかなかったというか。
梨木さんはいつもけっこう重たいテーマを選ばれることが多いし、だからこそのファンでもある。要は、もっと細かく丁寧に長く書いて欲しかった。いろんな見方、反応、ひとがいるってことをもっと書いて欲しかった。