2012/01/30

日暮らし 【再読】

日暮らし 上
日暮らし 上
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宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 102684


日暮らし 下
日暮らし 下
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宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 59260

■宮部みゆき
『ぼんくら』の続編『日暮らし』。
連作長編。
やっぱり、めちゃくちゃ面白いぃぃぃぃ。

井筒の旦那、弓之助ちゃん、おでこちゃんをメインにしたこのシリーズ、ほんっとに登場人物が良くて、話が面白くて、雰囲気も良くて。読んでていろんなことを考える。いろんな人間の人情の強さ、脆さ、残酷さが心を揺さぶる。「生きている人間」だからこそ、っていうのがしみじみとまざまざと。

話は思いっきり逸れるが、昨日テレビを観ていたら、クリス松村さんが「生きているといろいろあるわあ!」とおっしゃっていて、それがずどーんと胸に響いた。若い人が云うんじゃなくて、ある程度人生経験を経た方が明るく、さばっと何気なく口にされる言葉はやっぱりそれなりの重みがある(番組上のそのシーンは全然暗い場面じゃなくて珍しいことを体験するものねえ、という文脈だったんだが、受け手が仕事上のことでぐるぐる悩んでいる最中だからなんだか妙にしんみり受け取ってしまったんである)。

「生きているといろいろある」。宮部さんの描く「ぼんくら」シリーズにも同じことを感じる。
善人ばかりじゃなく、かといって根っからの悪人だけが出てくるわけじゃない。
あるひとにとっては恩人であっても、異なる立場の人間にしたら憎き相手、恨んでも恨み足りない相手だったりする。
そこまで極端な例は卑近にはそうそうないだろうが、それでも、誰でも、ある程度は知っていることだ。人間というものは、多面性を持っていると。だから、難しいのだと。でもだからこそ、そこに「救い」もあるのだと。

このあいだ『ぼんくら』を読み返して、最後の最後にあのひとを出して、ああいうふうに描いた著者の意図や如何――と思ったと書いたが、この続編を読むとまた違う面がいろいろ出てきて、それと起こった事件を合わせて考えて、うーむと唸りたくなる。
こいつが下手人だ、で大団円になる、万事すべて丸く収まる、それがひとの世ではない。何か起こったらその波紋はずっと遠くまで影響を与えるし、ときには長く長く尾を引くこともある。
いろんなひとの手前勝手と、思惑と、欲が錯綜する。そしてその大多数は「善人」なのだ。

それにしても弓之助ちゃんはせいぜい十ばかりの幼い少年であるのにそこらの機微を本当によく知っていて、末恐ろしいほどである。ショタともいわれるほどの宮部さんの筆だからめいっぱい可愛く茶目っ気たっぷりなのが救いだが、それにしてもここまでになるとはいったいどんだけいろいろ見聞きしたんだと思ってしまう。

用もないのに

用もないのに (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋 (2012-01-04)
売り上げランキング: 35046

■奥田英朗
単行本を眺めて迷い、手に取り迷いしていたものが想定よりもやや早く文庫落ちしてくれた(単行本は2009年5月刊)。奥田さん、オヤジ化が進んでるなあ。「ほっほっほ。」はほとんど使用されなかったけど「ワオ。」は健在。
目次は以下の通り。

野球篇
再び、泳いで帰れ
 北京五輪の星野ジャパンの野球について書いたもの。それは奥田さんの好きなカッコいい野球、熱い野球からは程遠いものだった。
 五輪当時の北京の様子とかも活写されていて面白い。
 マスコミは全体論で語るけど、こういうエッセイは個の視点だから良いなあ。

アット・ニューヨーク ~または小説家は如何にして心配するのをやめて野球とジャズを愛するようになったか
 このタイトルは村上春樹のパロディなんだろうなあ。
 でも安心(?)してたもれ、内容はいつもの奥田さんである。わかりやすくおやじくさぃキャラやってるぅー(貶してるわけじゃないスよ)。
 この文章では一人称「わたし」じゃなく、三人称で自分を「小説家」として書いてある。同行者が編集者とカメラマンで、職業で書くのもまた面白いという試みなのかな。
 奥田さんがジャズに詳しいとは、知らなかったなあ。それもけっこうミーハーなノリなんである。
 同じことをそれこそ村上さん(やはりジャズの熱心なファン)が書いたらまた全然違う雰囲気になったんだろうな。

松坂にも勝っちゃいました ~楽天イーグルス地元開幕戦寒中観戦記
 ネタが古いわ! と言ってはいけない。そういう新鮮さを求める読者は雑誌「オール讀物」できちんとチェックしておくまではいかずともせめて単行本で買って読んでいるべきだから。
 野球のルールは知っているが、セ・リーグの知識も数年前から更新されておらずましてやパ・リーグとなると。というレベルのわたしはうろ覚えの情報と照合しつつ読んだ。また、場所が場所だけに震災のことと考え合わさずに読むというのは難しかった。奥田さんは野球が、野球を楽しむひとびとが、本当にお好きなんだなあ。

遠足篇
おやじフジロックに行く。しかも雨……。
 わたしは「フジロックって何?」というレベルだったので(ry
 知らないアーティストがいっぱい出てきたが、奥田さんと同世代(50歳くらい)の方々にはウケまくりなような気がする。
 それにしても野外ロックコンサート会場に銀座のホステス数名ひきつれて登場した編集者っていうのは……おのれはどこのバブルの生き残りだっ。っていうかあれか、一流出版社ってのはまだそういう文化残ってんのかっ。くっそー(言葉遣いを改めたまへヲレ)。
 あと作家様に云うことじゃないとは重々承知の上だが章タイトルに「しかも雨……。」は必要なの? 無いとちょっとカッコ良すぎだからあえて、なのかなあ。

灼熱の「愛知万博」駆け込み行列ルポ
 ――あったねえ、愛知万博。微妙に遠いし忙しくて行けなかったけど。このルポ読んだかぎりだと、行かなくて正解だったようだけど。それにしても奥田さん、編集者さんたちと仲良しだね。

世界一ジェットコースター「ええじゃないか」絶叫体験記
 そうだよなあ、そうなんだよなあ、これが普通の絶叫マシーン体験記だよなあ。
 宮田珠己の本なんかを愛読していると、思わずそんなことを確認したくなってくるんである。

四国お遍路 歩き旅
 うおっ。なんすか今回は。また宮田大兄とネタかぶってるじゃないか。
 このお遍路旅のルポも宮田大兄と比較すると「あーあー、そうだよなあ普通の感覚はそうなんだろうなあ」と。特にまとめかたが非常に殊勝な態度なのが。
 宮田大兄を愛読しているのはその変人ぶりを尊敬しまくっているからなのだが、こうしてみると奥田さんは自分を偏屈な変人だと自虐っぽく書いておられたときもあったが(行動範囲が狭いとかひとが多いのが嫌いだとか)、十分普通の一般感覚をお持ちであることがわかり、なかなか興味深かった。
 ていうか、奥田英朗おっさん化進みすぎで笑える。体力云々じゃなくて、仕事がらみの人脈でつるみまくってるところが。

2012/01/25

ぼんくら 【再々読】

ぼんくら
ぼんくら
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宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 200558

■宮部みゆき
このあいだ刊行された第3弾『おまえさん』を受けて、このシリーズを久しぶりに読み返してみたく。
読みだしたらやっぱり面白くて、大好きで、ああ良いなあ~としみじみ。
単行本で分厚いので通勤に持っていくには向いておらず、週末にイッキ読みした。さすがに三度目なので途中でこの話の主筋は思い出したが、別にそれでつまらなくなるわけでもないのはこの話がただの謎解きというよりは、いろんなひとが出てきていろんな思いがあってそれらが時に複雑に絡み合ったりこじれたりする、そういうのを日常の細やかなシーンから丁寧に書いてある小説だからだ。というか、もっと単純にいえば出てくる登場人物が良いからだ。

全体的な感想は前回の感想で書いてあるのでここでは省かせていただく。

ただ今回読んで、最終章であのひとをああいうふうに描く、そのへんの著者の思いはどのへんにあるのかな、なかなか深くてシビアな視線だよなあといろいろ考えさせられたことを付け加えておきたい。
書かない方法もあったろう。
だけどやっぱり、書くのだ、それもああいうふうに。
その人物に、お徳さんが取った行動も意味深だよなあ。

なんにせよ、やっぱりいちばん怖いのは、生きている人間だ。

2012/01/20

アイスクリン強し

アイスクリン強し (講談社文庫)
畠中 恵
講談社 (2011-12-15)
売り上げランキング: 12730

■畠中恵
むかし、『しゃばけ』シリーズを3作ほど読んだことがあるが、そのときに「うーん、面白いんだけど、なんていうか、ぬるい」と思ったものだ。
今回久しぶりに読んでこのひとの文章の波になかなか乗れず「あれ?」という感じだったのは「しゃばけ」には無かった説明調というのか調べたことそのまんま並べました的記述が散見されたからか。
明治維新で江戸から東京になって、変わったこと。
なんか歴史の教科書で習ったようなことなどが交互に交わされる会話で書かれているんだけど、お話の設定は維新から23年後なんである。そういうときに、当時を知る人間ならともかくまだ若い青年たちがいきなりそんな、並べ立てるだけの説得力がないし、別に小説の筋上必要なことでもないんだから読んでいてちょっと戸惑ってしまった。

しかもこのお話の主眼がわかりにくい。
こんな短い小説なのに、主人公は当時は画期的に新しい洋菓子屋の若き店主というなかなか興味深い設定なのに、ウエイトをそこだけに置くのでは何故かいけないと判断したのか、「若様組」なる維新前は若様だったけどねという身分で今はおまわりさんやってるひとたちもほぼ主役と同じくらいの割合で出てきて、それなりに活躍する。
まあ別にそれはそれでいいかも知れないんだけど、タイトルが「アイスクリン強し」なんだし、帯にでっかく「西洋菓子は開化の夢千――。」とか書いてあるんだし、おまけに気合の入った「風琴屋西洋菓子帖」なる月報みたいなもの(挟み込みチラシみたいなやつ)まで挟んでくれてある、にしては……どうなんだろう。

それにしてもひとつめの話は出てくる脇役がめちゃくちゃ自分勝手なのばっかりで、主人公は親切なのにいろいろ迷惑を蒙って、ほんとに気の毒だ。このひとメインで洋菓子屋の日常と時代風景を丁寧に書き込んで欲しかった。中途半端な謎解きなんか義務みたいにのっけてないでさぁ。

表紙の絵につられて買ったとも云える、丹治陽子というイラストレーターだそうだ。この絵には単行本の時から惹かれていたが、文庫もおんなじ絵で良かった。
女学生が描かれているが、この沙羅さんと主人公のリボンのエピソードはなかなか良かったと思う。

どうもこのお話、シリーズ化しているようで、だからこそ中途半端な説明で放り投げられたままだったりいろんな脇役の意義が不明のキャラ立てがあったりするんだろうけど、いやー、正直もう続きは読む気しないなあ。

2012/01/15

第2図書係補佐

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
又吉 直樹
幻冬舎
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■又吉直樹
わざわざ書くまでもない周知の事実だとは思うが又吉さんというのは作家さんではなく、芸人さんで、ピースというお笑いコンビのボケ担当をつとめている。
最初の印象として、個性的な風貌と雰囲気のひとだなあと思っていたが、ある日アメトーークの「気にしすぎ芸人」で密着レポみたいなのを受けていて、そのときはけっこう暑い日だったようなのだが、「前回スタッフさんとお会いしたとき長袖を着ていたので今回もわかりやすいように長袖で来ました……半袖だと印象が変わってわかってもらえないおそれがあるので」というような内容のことを最初に言われて、まあそれはテーマに合わせたネタだろうといううがった見方も無いではないだろうが、とりあえずそれを聞いたときは素直にびっくりした。ここまで他人の立場に立って、常に「最悪の場合」を想定し、かつそれに対処する手段を実行しているひとというのは逆の意味でものすごい自意識なのだが、それにしたって自分を低く見積もり過ぎだ。

先日ふらりと入った本屋さんの文庫コーナーで著者名と表紙の顔を見て「あっ、あの"長袖のひと"だ」と思った。そういえばどこかで読書家だと聞いたような気がする。タイトルなどからして、小説ではなく、書評というか、読書案内というか、好きな本について語っている類の本のようだ。
んー、でもタレントさんの書いた本だし、きっと軽いノリなんだろうな。
読みもしないでその場の購入を見送ったわたしを責めないで欲しい。
後日、やっぱり気になるので買ってみた。「はじめに」を読んで、その文章レベルの高さに驚くとともに内容・姿勢に深く感銘を受け、頷かされた。
この本は、"長袖のひと"じゃないと書けない視点と深い洞察に満ちている。

想像していたような読書案内ではなくて、ある作品を基に掘りおこされた記憶や触発されたりして考えたことを丁寧に綴った「又吉さんの」エッセイ集だった。いつも人生の傍らに本がある。本があるから、生きてこられた。――読書が趣味のひとつではなく、読書が思考の畝の中に複雑に絡みこんでいるような、実体験と読書で得たものが混ざり合って人格が成されたというタイプがいる。時と場合によっては本しかすがるものが無い、そういう精神状態に追い込まれることがある。読書は「娯楽」「教養」でもあるのだがあらゆる意味で「支え」なのだ。世間一般からは健全とされないような気がするがしょうがないのである。
わたしはそういう人間であり、又吉さんもまた、そうなのであると知った。

本書には47の作品(ほぼ小説)が取り上げられ、それにまつわるエッセイが収められている。エッセイを読んでもどういう話かは直接的には書かれていなかったりするが、それぞれの末尾に「あらすじ」が紹介されている。
又吉さんは日本の純文学をよく読みこまれているらしく、このラインナップはその中でも「学生に読んでもらいたいもの」を中心に選んだそうだ。掲載誌がヨシモトのフリーペーパーだったかららしい。

巻末には中村(文則)さんとの対談も収録されている。この作家の作品は未読なのでどうだろう? とあやぶんだけど面白くて、けっこう長めで、読みがいのある興味深い内容だった。読書ファンには心に響くものがあるだろう。

2012/01/12

四次元温泉日記

四次元温泉日記
四次元温泉日記
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宮田 珠己
筑摩書房
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■宮田珠己
この本の存在を知ったとき、まず、えっ、宮田大兄ったらいつのまに温泉好きになったの。と思った。他のエッセイの中で温泉っていうかまずお風呂自体がめんどくさいとか書いてあって、何かで外国で温泉にたまたま入ることになったときの文章もなんというか、ほんとにその行為を喜んでいない感が満載で、多くの日本人は温泉っていうだけでなんだかもうボカぁシアワセだなあ。という表情を浮かべがちなのに、意外だったので、印象に残っていたのだ。
おおお、あの宮田大兄もついに温泉にほだされたかあ(←間違った表現)と思って、さて、といざ読んでみたら、違った。

別に宮田大兄は温泉に惹かれてこの企画をはじめたわけではないらしい。じゃあなんでまた、という理由とかはなんか最初のほうにうだうだ書いてある。まあ平たく言ったら宮田大兄もおじさんになったってことかな(とかまとめるとものすごく乱暴なんだけど、まあ、そーゆーことだ)。

それにしても自然な成り行きとして、あちこちの温泉に出かけて行って浸かっているうちに、うんちくや知識はあまり増えないけれども「温泉」に対する認識はかなり好意的に変化していくのだが、最初のほうなんて

  温泉なんて風呂だ!

――なんて名言(迷言?)を大きく叫ばれたりなさっていて、ホントにこのひとはまあ。と驚くやらあきれるやらだったのだが、ためしに身近なひとにこのことを話したら激しく同意していたので、温泉に価値を見出さない人種には非常に共感を呼ぶ書なのかも知れない。

前々から宮田大兄は迷路とかそういうフクザツな場所に興味津々であり、本書の企画でも温泉旅行と銘打ちながらそのメイン(というか筆者の関心の基)は旅館の構造がいかに入り組んでいて建て増しとかしまくってわけわからない状況になっているか、になっていた。温泉には見取り図とかもあるらしいが、それを見ても実態がよくわからなかったり、中には図面に無いものがあったりするのもあるらしい。
えーと、消防法は?

と何回も頭の中に疑問が浮かんだんだけど、宿泊施設なんだからちゃんと認可下りてるんだよね、だったら正確で詳細な図面くらいあるんだよね???
じゃなかったらいくら魅力的な旅館でも怖くっておちおち泊まっていられないではないか。それともあれか、消火器とか避難経路さえ確保されてたら図面なんていらないのかあの法律は。

「この部屋から玄関にはこっちの廊下しか逃げられないのに誰も見てないのはなんでだ?」
「犯人はきっとあっちの廊下から逃げたんですよっ」
「えっ、んな廊下口絵の図面に載ってないぞ」
……本格ミステリだったら許されないオキテ破りだなあ。

本書で紹介される温泉とお宿(仮名になっている)。
・三朝温泉K旅館
・伊勢A旅館と湯の峰温泉
・奥那須K温泉
・四万温泉S館
・花巻南温泉峡
・秋田H温泉(←この章でねぶた祭について熱く語っている)
・微温湯温泉と東鳴子温泉T旅館
・瀬見温泉K楼
・伊勢長岡温泉N荘
・湯河原U屋旅館
・別府鉄輪温泉Y荘
・九州 明礬温泉別府温泉保養ランド泥湯・照湯温泉・神丘温泉
・地獄谷温泉と渋温泉K屋
・下呂温泉Y館

2012/01/08

日日の麺麭・風貌

日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)
小山 清
講談社
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■小山清
『ビブリア古書堂の事件手帖』を読んで、新潮文庫の『落穂拾ひ・聖アンデルセン』を読みたくなるのはごくごく自然な欲求だと思うが、アマゾンで検索してみたら絶版で、中古本の在庫すら無いとのことであった。無念であるが、仕方ない。

ところがある日、つれづれなるままに某おされ系スポットを冷かしていたらそこにその店のコンセプトに合わせた文学好き女子系向けと思われる書籍コーナーがあって、その棚をなめるように見ていたらその中にこれがあったのである、「あ、小山清」。中身を確認したらくだんの短編「落穂拾い」も収められている。例によって講談社文芸文庫だから文庫と云いつつお値段が単行本並みにお高いので一瞬躊躇したが、新潮読めないんだしこれまた仕方なし。

しばらく寝かせておいて、それからおもむろに読みはじめた。
このひとの作品を読むのは初めてだが、名前は学生時代、太宰治にハマっていたから見覚えがあった。本書内にはそのものずばり、太宰について書いた文章、その師・井伏鱒二の人と文学にふれた文章があって、それがとおりいっぺんの回想ではなく、とても自然な視点で日常的な感覚で描かれているから、読んでいるとなんだかとてもおふたりを近しく感じることが出来、思いがけず、良かった。井伏さんに関しては本書に先立って読んだ永井さんの本でも触れられていたけど主観が違うとまた印象が違うものなんだなあとつくづく思わされた。
あの難しい太宰治と、井伏鱒二と、このような肩肘の張らない素直な間柄でいられたこの小山清というのはつくづく、真っ直ぐで気持ちの良い青年であったんだろうなあと感じ入らずにはいられない。太宰が疎開していたときに、三鷹の留守番をつとめたというからよっぽど愛されていたんだろう。

太宰にハマっていたくせに小山清という作家についてはほぼノーマークで、どんなひとかもよく知らなかったのだが解説の冒頭に「小説は少ない。」と言い切られているくらいで、しかも短編しか書かなかったそうである。

本書には短編小説9つと、さきほど述べた作家ふたりについての文章が収録されている。
・落穂拾い
これ、いまの若い人にも共感しやすいんじゃないだろうか。作家を目指して、いまはまだなにものでもない「僕」の訥々とした語りや視点の移りが「なんだかこういう感覚、知ってるなあ……」と。くっきりとカタチにしてしまうと嘘になってしまう、あのぼんやりとした中途半端さがよく出ている。

・朴歯の下駄
朴訥としたいきなり主人公が入るのが遊郭なんだから最初はびっくりしたがそういうのが当たり前の時代だったんだね。

・桜林
幼いころの思い出話みたいな。当時の風俗や幼い少年の心の動きが面白い。

・おじさんの話
戦争のときくらいの話、このひとの、おじさんを見る視線や距離感がとても好きだ。

・日々の麺麭
末吉さんのおでんを食べたい。

・聖家族
小説らしい小説。しかしマリア様がこんな喋り方をしてるってのがなんだか違和感あるなあ。こういう素材でこういう筋を書くってところなんかは太宰治の弟子なんだなぁという気がする。

・栞
なるほど、それでタイトルが栞か。
甘酸っぱい思い出を美しくなり過ぎずに書いてある。純真な感じが良い。

・老人と鳩
解説を後で読んで知ったけどこれは著者自身もそうだったらしい。「ハト」という喫茶店の娘さんと老人の交流が清々しい。

・老人と孤独な娘
これも老人と娘さんの話で、娘さんは別のひとなのだが、鳩の話と雰囲気的に似たものを感じた。

・風貌――太宰治のこと
・井伏鱒二によせて

解説と年譜、著者目録が巻末にあり。

2012/01/04

竜の子ラッキーと音楽師

竜の子ラッキーと音楽師 (大型絵本)
ローズマリ・サトクリフ
岩波書店
売り上げランキング: 52841

■ローズマリ・サトクリフ/文
エマ・チチェスター=クラーク/絵
翻訳;猪熊 葉子

毎年恒例の、干支にちなんだ絵本を買って読むぜキャンペーン☆(ひとりで勝手にやってるだけ)です。
竜というか、絵の感じなんか「ドラゴン」ですね。
ちょっとくすんだような色づかいですが、みひらきの絵とかもあって、筆づかいもいきいきとして、きれい。「絵本」だけど文章は思ったよりたくさんありましたので、ある程度活字になれているお子さまはひとりでも大丈夫でしょうがおかあさんが読み聞かせしてあげるのもいいかも。

変わったお話なのかなと期待していましたがものすごくオーソドックスな展開でした。
音楽師(ひと)とラッキー(竜の子ども)の絆を描いてある。
あおり文句に「中世を美しく描いた」とあるけどうーんまあこれはあんまり期待しないほうがいいような。

お城の中にいろんな変わった生き物がいるシーンの絵が良かったのと、蝶々のくだりの書き方がちょっと面白かったかな。ラッキーは神龍や日本昔話の竜みたいに巨大化しないのかなあ……。

へっぽこ先生 その他

へっぽこ先生その他 (講談社文芸文庫)
永井 龍男
講談社
売り上げランキング: 435688
■永井龍男
随筆集。
不思議だ。
前に同著者の『わが切抜帖より・昔の東京』を読んだときはそれほどにも感じず「ふーん」くらいだったのだが、今回は文章が読んでて気持ち良くて、内容も興味深くて、すごく面白かった。
なんでだろうと考えてみるに、1、前回は奥田英朗や角田光代が誉めるあの永井龍男を読むんだっという変なキオイというか畏まった気持ちで臨んだが、今回は正直期待していなかったのでナチュラルなスタンスで読めた 2、純粋にテーマや内容が卑近な感じでわかりやすかった
――てなところか。
本書の構成は大きく二分され、「身辺即事」はいわゆる身辺雑記、日々の雑感などを綴った随筆である。初老の、孫がいるひとの、枯れたようなでもすっきりと筋の通った穏やかな視線がなんだか素敵である。
もうひとつの「人の印象」は著者がつきあいのあった恩人先輩友人知人について紹介してあるのだが、昭和2年23歳のときに文芸春秋社に入社し編集業を務め、昭和10年に芥川賞・直木賞が制定された折には準備事務一切を担当し、21年42歳のときに菊池寛が同社の解散を表明する頃には専務取締役となっていた著者である(しかもその間に小説も発表し続けている)。とにかく顔が広いというか、出てくるひとみんな近代文学をちょっとかじっただけの人間でも知ってるレベルの有名人ばっかり。その内輪話というか、お酒の席でどうだとか、ふだんこういうふうだった、という回想なのである。面白くないわけがない。

まあ、そりゃーいろいろシガラミがあるから全部本音だとは思わないし書き方に気を配ったということは絶対にあるだろうけどでもやっぱ普段着の文人が活写されているのは貴重だよね。中には夫婦仲がどうのというちょっと週刊誌ネタみたいなのもあって、こういうのは真面目な文献には載ってないもんね。へえ~って感じ。

この調子で芥川とかも書いて欲しかったんだけど世代的に交流がほとんどなかったみたいだからしょうがなし。
それにしてもこうしてブログなどで言葉を重ねて「この感動をどう書けばいいんだあ」とか悩んだりすることが少なくないわが身にあらためて正道を説いてくださったのが以下の文章で、少し引用させていただく。


うまい文章とは、どのようなものを指していうのか。
ここにまず、いろいろと問題があるようだが、そのような論議はいまは省くとして、「うまい文章」とか「うまい文章の書き方」とかいう「うまい」を、私は最初に否定する。
文章の目的は、うまいことにあるのではなく、「正確」な表現でなければならない。その人の思想、感情を出来るだけ正確に表現するのが文章の役目である。また文章は、文章自体でなり立つのではなく、その人の思想、感情の表現として、はじめて形をなすのである。
(中略)
正確な文章を書く秘訣とはなにかということになる。
秘訣は、文章にあるのではなく、表現したい思想なり感情を、しっかりつかむことにある。
(中略)
自分で文章を書いているうちに、知らず知らず嘘を云っていることはないだろうか。
このようなことも、「うまい文章」を書こうとするあやまりからきているように思われる。言葉のあやで、飾りつけるのが文章だと思い込んでいるから、意識せずにそのような誤りをおかすことになる。言葉を化粧するのが、文章道ではないのである。


ああもう、本当にそのとおりでございますだああああ、という感じ。
ぐうのねもでまへん。

2012/01/02




あけましておめでとうございます

いつもありがとうございます

新しい年がみなさまにとって

より良き日々になりますように


 2012年元旦 翌の読書手帖




竜の子ラッキーと音楽師 (大型絵本)
ローズマリ・サトクリフ
岩波書店
売り上げランキング: 234823