2011/12/27

春を待つ谷間で 【再読】

春を待つ谷間で (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 352899

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
第6弾。ビル視点。
舞台が初めてニューヨーク(大都会)を離れ、アップステート(不便でなんにもないけど景色が素晴らしい田舎)になる。ビルがふだんの生活にぶちっとなって仕事とかいろんな日常のシガラミを離れたくなったときに住む隠れ家みたいな小屋がある場所なんだけど、今回はそこに仕事を引き受けるためにやってきた。これは結構異例のことらしい。

ある農婦の盗まれた品物を内密に探し出して欲しいという例によって静かな出だしだったのだが、地元のゴロツキが出てきたり殺人が起こったり知っている人間が無実なのにけ警察に犯人と決めつけられていたり地元有力者のアバズレ娘を連れ戻して欲しいという命令みたいな依頼をされたり尾行されたり尾行したりとどんどんヤバい展開になるのはお馴染み。

にしても地下室の死体の真犯人の殺人動機はひどいなあ。殺されたのもゴロツキだから自業自得なのかも知れないけどそれにしても、もうちょっと重みのある行動しろよ、っていうか人生最初っからやり直せよと説教したくなる。まあいろいろツライことがあったのかなとかも思うけど。
結局、なんにもわかってなかったんだよね。だからああいう最後になっちゃうんだ。

前回読んだときはそうでもなかったみたいなんだけど、今回読んでると今回のそもそもの依頼人のキャラがわたしはあんまり好きじゃないというか、身勝手だなあ、と感じてしまうことがしばしばあった。まあ自由なんだろうけど。そもそもそんなに大事なものならお金はたくさんあるんだからもっと管理方法を考えろよ、くらいのことは言いたい。

2011/12/23

“文学少女”と死にたがりの道化

“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)
野村 美月
エンターブレイン
売り上げランキング: 53959

■野村美月
『ビブリア…』を読んで、「このお話読むと取り上げられている(有名文学)作品を読みたくなるなあ」と感想を述べたところ、ラノベをこよなく愛するウェンディさんに本作を薦められた。あ、これ本屋さんで表紙平積みしてあるの見たことある。わたしもかつてはいわゆる「文学少女」だったので(いまは年齢的に「本好き」くらいが相応しいか)、単語に反応し記憶に残っていたのだ。ただこのジャンルには手を出しにくかったのでスルーしていた。

ちゃんと手に取ってタイトルを真面目に見つめる。うっ、もしかして「死にたがりの道化」って太宰治のことっすか。わたしも高校とか大学くらいのときは太宰治というハシカにかかったひとりなんだよね。しかもけっこう重度の。
中身を読んでみるとあっさりビンゴ。こういうの、なんていうんだろう、「本好きの本好きによる太宰好きのための前向きな(←これがポイント)読書案内」か。

メインテーマは太宰治(に代表される、自己を偽って道化のように人生を演じているという苦しみを抱えているタイプの人間)なんだけど、それ以外の文学の作者名とかタイトルとかもいっぱい出てきて、読書ラブの十代読者には「ああ、知ってる」「わたしもそれ好きー」などと受けるのかもしれない。

主人公は高校1年生の少年・井上心葉で、彼は中学生時代に何気なく女の子名義で小説を書いたところそれが大ベストセラーになって億単位の印税を稼ぎ出すもなんか精神的にまいっちゃってそれを黒歴史として封印しているという特異な存在。でもそれ以外はごくふつーの、人当たりの良い男の子として通っている。

”文学少女”はこの男の子の先輩にあたる高校3年生・天野遠子のことで、文芸部の部長である。といっても部員は主人公だけみたいで、ふつうこういうクラブ活動とかは5人くらいメンバーが揃ってないと廃部にされるんじゃないのかとか思ったけどそんなこと云ってたらお話が成立しないので気にしないでおく。

というか、しばらく読んでみて悟ったのだが、このお話は現実とかリアルとかそういうものをいちいち気にしていたら楽しむことが難しいタイプの作品なのだ。
こんな喋り方リアルにしているひと(登場人物のほぼ全員が芝居みたいなあるいは漫画みたいな台詞回しを多用する)がいたらどれだけ不自然か、とか、高校生の女の子が下着見えそうな場面に同年代の異性がいることを気にしないわけがあるまい、とか、屋上は普通がっちり施錠されてて入れないだろう、とか、――
っていうかなんで本とかお話の書かれた紙食べてそれが主食でふつうのおかずとかは味しないとか言ってる人間がいるんだああ( ̄Д ̄;)

とかさまざまな「些細な」事象を気にしていたら読めない。んである(人間なんだよなあ?主人公は「妖怪」とか揶揄してるけど)。

そう、そんなことは些細なことだ。
この著者がこの作品を通して描きたいのはただひとつのメッセージであり、この作品のキャラもさまざまな設定もストーリーもすべてはそれをできるだけ多くの若い読者に難しい話はイヤだとか思われずに読んでもらいたいが為に創り上げられたものであろうからである。

っていうか通して読んだらそれ以外にこの突飛で破天荒なストーリーの意味が思いつかない。

ちなみに遠子さんのオススメのラインナップと自分のこれまでの読書歴が面白いくらい重ならないのでどうも根本的な趣味が違うようだ。ううむ残念。
だけど太宰治についてこれだけ明るく前向きに解釈してあるのは初めて読んだからなかなか興味深かったしなんか嬉しかったりした。

こういう作品もあるんだなあ。っていうかラノベ界では珍しくないのかなあ。この作者のスタンス、嫌いじゃないぞ。

2011/12/22

苦い祝宴 【再読】

苦い祝宴 (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 307044

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
シリーズ第5弾はリディア主観。
例によってチャイナタウンから話が始まり、アメリカにおける中国人社会のいろんなひとが出てくる。同じ中国出身でも広東語と福建語とか、それぞれの使用地域出身者による違いがあるんだっていうのは前回のリディア視点話でも出てきたけど今回も絡んでいた。そして中国で産まれて出稼ぎみたいにアメリカに来たひとと、産まれたときからアメリカに住んでる中国人との違いも。

中華料理店でウェイターをしていた4人がある日行方不明になった。リディアの親友であり刑事でもあるメアリーの彼氏で弁護士のピーターから彼らを探すよう依頼されて調査を開始するが爆発事件が起き……。

なんか、大の大人の見も知らぬ中国人青年の失踪になんでリディアはそんなに親身になれるのかがいまひとつわからなくて共感しにくかったのだけどうーん、これはやっぱ住んでたところとか探索して家族の写真とか見ちゃったからなのかなあ。あとピーターの思いとか受けたからかなあ。それにしてもなんか持って回った調査方法に思えて仕方なかったというか、正直あんまり面白くなかった。と、思って初読みの感想(2004.1.31)を探したらメモ程度しか残っていなかったのだが「読了。おもしろかった。一言一句堪能せずにはいられない、そういうのはほんとに数少ないけど、このシリーズはそのうちのひとつである。」と書いてあって、うーんそうかあ。という感じ。

出てくる料理が美味しそうなのはリディアシリーズの特徴、特に今回は一時的に飲茶レディも勤めちゃう。中国人は飲茶の後にラーメンで〆ると書いてあった気がするけど、ラーメンて中華料理じゃないんじゃなかったっけ?と思って読み返したら「ラーメン」じゃなくて「麺類」で締めくくることを好む、だった。ふーん。

それにしてもビルはリディアが好きだけど距離をきちんと保っていて、リディアは態度を明確にしていないわりに接触が(日本人の感覚からすると)多いんだよなあ。まあ、おはようのキス、おやすみのキス、っていうのが小さいころからある国で育ってるひとは違うか。に、してもある意味ずるいと思っちゃうのは間違いなのだろうか。

2011/12/18

どこよりも冷たいところ 【再読】

どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 134084

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
ビル視点。建設現場が舞台。
ローザンは建築家として勤務していた経歴もあるということで、例えばタイトルの「どこよりも冷たいところ」というのは文中で説明されているように建築中の建物のなんともいえない底冷えしたさまから来ているらしいが、こういう実感からくる言葉はリアリティがあるなあ。

ローザンのシリーズは導入部が(ミステリーとしては)地味でも話が進むとどんどん事件が大きくなる、というパターンが多いかも知れない。今回も、最初は現場の部品がちょろまかされていて何かありそうだという程度だったのに、ビルが事件に乗り出すや殺人やらなにやら物騒な展開がどんどん起きて行って、なんにも知らなかったらまるでビル・スミスそのものが厄介ごとを呼び込んでいるかのようだ(まぁ、探偵物って多かれ少なかれそういう傾向があるから「それを言っちゃあおしまいよ」的な突っ込みなのかもだけど)。

ビルを建てるのに、誰かが不正をして、設計で指定された資材より質の劣った安い部品で納入して壊れはしないけど欠陥住宅になることが目に見えている……というのは数年前に実際に起こった事件を思い出さずにはいられなかった。そういえばあれの某社の社長の判決の件とかごく最近新聞のベタ記事で見かけたような気がするが。

あと、今回はビルに事件を依頼したのは探偵事務所を抱えているイタリア人のチャックという人物なんだけど、「イタリア人が何人寄ればマフィアと関わりのある人間が交じってくるでしょう?」というビルの台詞はなかなか興味深かった。そういうものなのかしら。うーん。

事件の根っこにマフィアの大物は絡んでいるのか、どう絡んでいるのか。
建設現場の労働者のマッチョぶり。
そして今回事務員に扮してビルのアシストをするリディアが何気に大活躍するのも楽しい。ミシカ・ヤマモトの別名は今回も出てくる、あの船のくだりは最高だったなあ。

2011/12/14

新生の街 【再々読】

新生の街 (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 41008

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
リディア視点。
リディア視点の事件というのはその所属するチャイナタウンの性質故なのか、今回も依頼人が身内の紹介のパターンだ。リディアには4人も兄がいて、いずれも妹が私立探偵なんかやっていることに反対しているのだけれど、今回出てくる4歳上の兄アンドリューはどっちかというとまだ「話せる」部類に属するらしい。職業も写真家で、ほかの兄が弁護士やら医者やらなのに比べるとぐっと柔らかいし。しかもあの母親の息子なのにゲイときた。絶対に理解してくれそうにないもんなあ。

アンドリューの友人ジェンナは中国人の新進気鋭のデザイナー。もうすぐ春物コレクションのイベントを行い、それによって自身のブランドを周知確立することになるであろう大事な時期にデザインのスケッチを盗まれた。犯人は現金を要求しており、その受け渡しにリディアが雇われた。ごく単純な仕事に思われたのだが、いざその場に行って現金を指定の場所に置いたとたんに銃撃を受け、いきなり物騒な展開になる……。

今回もなかなかハードボイルドっていうか、荒っぽい展開で、殺人も絡むし他のいろんな犯罪も明らかになってくる。いろんな人間の思惑が事件を追うにつれて見えてきて、あーもうなんだかなーって思う。

それにしても「職業に理解を示す」というのと「妹が危ない目に遭うかも知れないのを止めずにはいられない」というのは両立するんだよね、兄が妹を心配するのは当たり前じゃない、とこのシリーズを読んでいるといつも思っちゃうんだけど、妹たるリディアはそういう保護心に逆毛を立てて怒り狂うんだよねー。銃があたりまえに所持されてる国だもん、不安にならないほうがおかしくない? これは、わたしが長女で、弟しかいないからなんだろうか。まあ、好きでなってる職業で、誇りを持って一生懸命頑張ってるのに頭からダメだって決めつけられて、一方的に叱りつけたり反対されたりしたら反発しちゃうのもわかるけど。うーん。
家族って、難しいわねぇ。遠慮がないから余計にね。白人はこういうのはあんまりないみたいなことが文中で書いてあるけど、そういうものなのかなあ。

表紙画像でも描かれているけど、今回リディアは職業上のなりゆきから髪をかなりショートに切る。しかもラストはなんとモデルまでやっちゃうことになる。
ビルとの仲は、いままでの3作の中で一番進展したというか、親密度が深まったというか、リディアはビルを好きなんだと自覚したけど、だからこそ恋愛関係に持ち込みたくないんだと悟った、うーんそれはなんか、わかる。中途半端なイロコイをやって、せっかく得た貴重な職業上のベストパートナーを失いたくないってのはね。

それにしてもこうやって読むとあらためて……ビルって大人だし、良い男だなあとしみじみ。決してハンサムじゃないらしいけど内面がここまで出来てるひとってそうそういないと思うわよ、リディア?

2011/12/11

ピアノ・ソナタ 【再々読】

ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 123180

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
シリーズ第2弾はビル視点。
第1弾がリディア主観で、つまり中国系の若い女性が主人公の異色探偵物だったのに対し、こちらはアメリカ人の中年の白人男性が主人公だからミステリーとしてはほんとに王道な感じ。作品のハードボイルドな空気感に、ビルの弾くピアノ・ソナタの繊細さが実にいい感じに哀愁を加えていて、とっても落ち着いた良い仕上がりになっている。これを読むと表面上は飄々としているビルがその内面は結構ナイーブというか、細かいことまで神経をつかっているタイプの人間だということがよくわかる。

そもそもビルというひとはその生活とか身内とかについてほとんど喋らない。リディア視点だと母親が常に出てきて兄もいらぬおせっかいをしてきて身内とか町内とかそういうのが非常に濃密に絡んでいるのと対照的だ。まあ一般的に大人の男性というのは女性と比べるとそういうことを実社会であんまり喋らない率が高いような気はするが、そういう問題ではなくて、ビルの場合はどうやら心情的にいろいろ家族のことで問題があって、だからもうどっちかっていうと絶対に話したくない。という感じのようなのだ。

というわけで、あんまり多くを語ってくれないので読者は書いてあることだけを材料にビルの周囲を探っていかなくてはいけない。今回の依頼者は彼がひよっこのころから世話になっているボビーなる人物。どうも彼がビルに探偵としての基礎を叩き込んで教えた人物らしい。その甥っ子がガードマンをしていて、何者かに殺された。警察は周囲で幅を利かせている不良グループの仕業と断じているが、ボビーはどうも納得がいかない。自分ではもう体がいうことをきかないのでビルに真相を究明しろというわけだ。

本書を読んでわかることはビルが実の父親と十代のころから離れていること、少年期は叔父さんのところで暮らしていてその叔父さんというのが警官だったこと、悪さばかりしていてついに叔父さんから軍隊に入れといわれて海軍にいたこと、そこで腕にけっこうな刺青を彫ったこと、などだ。母親のことは書かれていない。

暴力と、さまざまな人間の欲と、建前と本音、いろんな言い訳や嘘や保身が絡み合って今回の事件は起こった。それをビルはあせらず淡々とじわじわ紐解いていく。この性格の重みはすごい。リディア視点のときにはちょっと窺わせるだけだったそういう実直な面がビル視点だとストレートに見ることができる。ふだんの軽口が仮面だということを、そういう仮面を着けなければならないような脆い面を奥底に秘めているひとりの男性なんだということを、いやおうなしに悟らされる。

ビルのキャラクター造形にポイントを置いて読んだのでそういう感想になってしまったが、純粋にお話として、ミステリーとして非常に面白い作品であり、シェイマス賞を受賞しているらしいのだが、シェイマス賞ってどんな賞なんだか知らないのでよくわからない。まあでもビルはロマンチストだよ。そしてこのお話はハードボイルドの典型だよ。
男の美学。っていう感じがする。
事件を解決するのが目的なんじゃなくて、関わったひとの笑顔を取り戻したいというスタンスなのがほんと、どこのチャンドラーかって感じだわねえ。
こういう優しさはとても美しい。そしてとても切ない。

2011/12/03

チャイナタウン 【再々読】

チャイナタウン (創元推理文庫)
S・J・ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 81425

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
先日読んだ第9弾が良かったので、シリーズ最初から読み返してみることに。
最初にこのお話を読んだのは当時はまだ読書日記をつけていなかったのではっきりとはわからないが手持ちのが1997年11月の初版で版を重ねていないことからたぶんその当時。再読したのは2004年。

久々に読んだので、事件の細かいこととかすーーーっかり忘れていた。
それと、ビルとリディアの雰囲気。
いまより、ずーーーっと甘かったのね。つきあってないのは最初も今もおんなじなんだけど。
なんていうか。
砂吐きそう。
つきあってないだけ、余計、甘さだけがあるっていうか。
第4弾くらいになるともうこういう空気は減っていくんだよなあ確か……。

このシリーズは、アメリカ生まれの中国人系の28歳の女の子、リディア・チンと白人の中年男ビル・スミスという私立探偵コンビが作品ごとに語り手を交換して綴られていくミステリーで、しかもこういう設定にありがちなコージーではなく、どっちかというとハードボイルドっぽい空気を備えていて、なおかつ、このコンビの微妙な関係が色を添えてそういう意味でもどきどきさせてくれるという、なかなかありそうで無い作品だ。

リディアの中国人名はチン・リン・ワンジュと云い、身内や中国人系の知り合いからはリン・ワンジュと呼ばれたりする。これ、可愛い名前だなあ、漢字で書くとどういう字なんだろうといつも思うが出てきたことは無い、と思う。
いっぽうのビルはまるで偽名のような、たぶん日本だったら鈴木一郎みたいな名前なのだがこれが本名。ビルっていうのは正式にはウィリアムなんだろうけど、ビルがウィリアムって呼ばれているシーンもたぶん、無い、はずだ。

第1話の語り手はリディア。
チャイナタウンにある目立たない美術館から寄贈されて間もない磁器が盗まれた。警察に知らせると盗難が公になってしまうため、それを避けたい美術館は中国人系で知り合いの私立探偵であるリディアに盗まれた品々を見つけ出して取り戻すよう依頼した。
こういうところではギャングがそれぞれ縄張りを持っており、まずはそこから捜査の手を伸ばしはじめたリディアだったが……。

中国人系のアメリカ人の生活はアメリカ人とも中国に住む中国人とも、そして日本人とも違うのだけれど、同じ東洋系として同居している母親と交わす会話やその関係などはなかなか興味深いし(ここまで拘束が強い母親は中国人ならではなんだろうか?)、食欲旺盛な彼女が口にする食事はメニューというか素材を読んでいるだけでそそられるものばかり、実に美味しそうなのである。リディアがその食事を目の前にすると、読んでいるこっちの脳内にネギとか海老とか、それが中華鍋の中でどういうふうにじゅわっと踊って旨味を濃縮されているのか、という絵面がやけにリアルにあつあつの様子で浮かぶのだ。なんでだろう。

ミステリーとして、ストーリーも犯人もどんぐりかえりの真相解明までのあれこれも全部忘却の彼方だったので実に新鮮に読めた。盗難事件で幕を開けるのだが、途中で殺人も起こる。タフな探偵モノであるから、若い女の子たるリディアだって無傷ではいられない。それでもへこたれず頑張る。立ち上がる。小柄で、ノーメイクだと小学生に間違えられるような幼い可愛い顔をしているらしいけれど、なかなかのマッチョなのだ。そのためのツールに薬草たっぷりのお風呂とかが出てくるところがとってもオリエンタルで素敵だが。なんかだんだん自分も薬草風呂に浸かりたくなってくるのだ、ああローザンってこっちの本能的な欲求のツボを刺激するのが上手いのねえ。

警察に刑事として勤める友人メアリーとか、いったいこのひとは何者なのかその底知れなさがおそろしいガオおじいさんとか、魅力ある脇役の存在もなかなか。スティーヴ・ベイリーみたいな明るいひとがこのシリーズの常連でいてくれても楽しいと思うんだけど。