2011/11/30

ビブリア古書堂の事件手帖 ――栞子さんと奇妙な客人たち

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
三上 延
アスキーメディアワークス (2011-03-25)
売り上げランキング: 82

■三上延
初・三上延。というかラノベらしいラノベを珍しく買ってしまった。初・メディアワークス文庫購入でもあるな。これは本屋さんで見かけるたびに「おおっ、古書店ネタかっ。しかもこの女の子(の絵)可愛いなー」と気になりつつも期待倒れを恐れて購入を控えていたもの。
先日アマゾンでレビューを10秒ほどチラ見したらすごく好評っぽかったのでなんか読みたくなってしまった。

イラストは「越島はぐ」という方によるらしい。表紙を開くとカラーのビブリア古書堂外観みたいな絵があって、その裏も店内のカラーイラストになっていて、さらに連作短篇になっている本書のお話ごとに扉絵もこれはモノクロだが、ある。

ひとの死なないタイプのミステリー。
一話ごとの謎解きもあるし、本書全体を通してのそれもある。なかなか美しひ。

鎌倉の、小さな目立たない古本屋さんのお話で、なんと表紙に書かれている可憐なうら若き乙女がこのビブリア古書堂の店長さんだったりするからオドロキだ。お祖父さんの代からほそぼそと続いているお店で、彼女の父親が他界したので継いだという設定。なるほどね。

本をめぐるミステリーで、だけど「ラノベでしょ?」と読む前はかなり高を括っていたのだが、取り上げられている作品とそれへの(薀蓄はそれほどでもないのだが)情熱というか愛情の深さに少し感動してしまった。っていうか古書好きによくある物質的な、稀少本への愛着、ではなくて、内容・中身へのこだわりとか純粋に「このお話が好きなんだっ!」というスタンスがすごく嬉しくて。

この本の語り手は若い兄ちゃんで、古書店の美人店主・篠川栞子さんにほぼ一目惚れしてあとはまー、ふらふら吸い寄せられている感じなのだが、幼年期のトラウマが原因(かと思われる、本書であえて断定はされていないので後にどんでん返しでも仕込まれているのだろうかうがちすぎだろうか)で本が読めない。

一方の栞子さんは本ラブ! 中身も外見もそれに纏わるエトセトラもみんな好き好き大好きっ というひとで、ふだんは大人しくて人見知りで発言もしどろもどろなのに話題が本のことになるとヒトが変わったかのように瞳を輝かせててきぱきと語る語る語る……というキャラである。
綺麗で、頭の回転が良くて(本書の名探偵役=安楽椅子探偵)、しぐさや言動が無意識に可愛くて、巨乳で眼鏡が似合って、性格設定がこれ。しかも怪我で入院していてか弱さを漂わせている。

……なんぼほど萌え要素盛り込むねんっっっ( ̄□ ̄;)
というか、
ほー。萌えキャラっていうのはこういうふうに創るのね(@_@)
というか。
勉強になりますた(違)。

本書に登場する本は以下4点。
1、夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)
2、小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
3、ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)
4、太宰治『晩年』(砂子屋書房)

2011/11/25

天地明察

天地明察
天地明察
posted with amazlet at 11.11.24
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 3017

■冲方丁
いえーい初・冲方丁!
これで うぶかた・とう と読むらしい。ムズカしい。
ずっとなんとなく沖方汀とかぼんやり認識してたけどちゃんと見たら「沖」じゃなくて「冲」、「汀」じゃなくて「丁」なのだった。
北上次郎さんが誉めてらしたんだよね、『マルドゥック・スクランブル』を。このひとはSFのひとで、北上さんはSF基本読まないひとなのに。で、ふーんって思ったんだけど、SF読みじゃないしこれ全3巻もあるので躊躇してたのだ。そしていま調べたら当時わたしが書店でよく見掛けてた↓のは廃盤になって完全版が出てるらしい。へー。



ウィキペディアで調べてみると「冲」という字の字源は会意形声で「冫(=氷)」+音符「中」、氷の中をとんとついて割ること(=衝)、またはその音。だそうだ。へー。意義は「つきあたる」とか「幼い」とか「中身がない、むなしい」とか書いてあるぞ……。よく苗字に使う気になったなあ。

話がだいぶそれてしまった。
『天地明察』の、小説の感想なのだが。
そもそもこれは、本書が出版されたのは2009年の11月で、第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞し,第143回直木賞の候補となった。
だからこのブログの書き手はなんで今頃読んでんだ、ってハナシで、こういうのにアンテナ張ってるひとはとっくの昔に読んでるし、世間の評価も済んでるし、そもそも読書ファンならせめて去年読んどけよ、って感じなんであって、いまさらレビューとかしなくてもいいかー、しかも冲方丁も初めての初心者だしー、とかついつい思って横道にそれまくってるわけだったりする。っていうか実際去年の年末に紀伊國屋で3×4冊くらいの広いスペース取って平積みされてて、手に取って吟味するまではしてたんだすよね……。でもなんか「天文とか地理の話? 難しそうだなあ、著者SFのひとだし」とか怯んじゃって読まなかったんだすよね。
何故かたまたまウェンディさんが今頃(!)買ってきて、おお、そういうことならばお借りいたしまするっ、ということになったのだ。

世間的に既に一定以上の評価を受けており、来年はV6の岡田君主演、ヒロインは宮あおいで映画化も決まっているというだけのことはあって、実際読みはじめたらかなり面白かった。数学とか碁とか地理学とかあとどうやらこのはなしは史実というか実際に存在した人物をモデルに書いてあるから歴史もうっすら混ざっているのだけれど案に相違して全然、難しくないのだった。すいすい読める。
「逆に」という言葉の使い方とか、ときに「筆すべりじゃないのかなあ?」と思うところが数箇所あるが「エンタメだもん。純文学じゃないもん」と割り切って読むとそう気にならない。
主人公が、フィナーレに向けてどのような問題と取り組み、人間関係を経て、成長していくのか、どうやって「明察」に至るのかという大きなミステリー(サスペンス)と、あと数学の怪物みたいな謎の「関さん」の正体という小さなミステリー(謎)があって、ページを繰る手を止めがたい。

ただ、最後まで読んでの正直な疑問なのだが……。
終盤にきてなんか、面白さとかなんだかがいっきに失速してしまった気がするのは私だけなんだろうか?
正直あの「脳ミソぱーん」的なシーン(注・ネタバレ防止のための抽象表現です。脳漿が飛び散るシーンなど本書には一切ございません)がこの小説の山場で、あとなんか身辺でイロイロあって、関さんの正体も割れて、まあそのへんはまだまあまあ面白いんだけども、最後の仕上げに向けての部分が。本来ならばいちばん手に汗握る、緊迫の部分が。
――だってこの展開だったらそうなるに決まってるんだもんなあ。
というこちらの気持ちと、そしてそれまでさんざん潰されまくったせいだからわからんでもないのだがいままで序盤から着実に築き上げてきた、主人公のひとが良くて世情に疎くて地位名誉に頓着しない絵に描いたような愛すべきドジっ子キャラからは想像できないというか違和感ありまくりの行動を取りまくるのである。

いや分からんでも無いよ?
自分の夢だけじゃなくいろんなひとのいろんな重いほどの思いを背負って朝廷相手に喧嘩売ろうってんだから甘っちょろいこと云ってらんない、ってのは。

ただそのね、なんていうか、読み終えた後あんまり「わーっ」って感動出来なかった、んだすよね。で、「あれ?」って自分でも愕然として。
だってけっこうのめり込んで読んでたし、最後でカタルシス得ようって期待はいやがおうにも高まってたし、感動する気満々だったのに、――なんで? と思って。

まあ「脳ミソぱーん」までは文句なしに面白かったしドジっ子キャラだったからこそ親近感が持てて春海を応援したくなってずっと楽しく読めたんだと思うし。エンタメとしては文句なしの出来だと思う。

それにしても「暦」を作る、ってこんな大変な事業だったんだなあ……。それ知れただけでも良かった。

2011/11/21

ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺4

ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺 4 (笑酔亭梅寿謎解噺)
田中 啓文
集英社 (2011-10-20)
売り上げランキング: 16182

■田中啓文
金髪鶏冠頭の竜二こと笑酔亭梅駆(しょうすいてい・ばいく)の落語エンタメ人情・いちおうミステリーでもあるシリーズの第4弾である。連作短篇集。なお、シリーズのタイトルになっている梅寿というのは師匠の名前で、これは落語好きが読むとすぐに「ああ、笑福亭松鶴師匠をモデルにしてはんねんな」とわかるようだ。

今回はミステリー色が弱くて人情とドタバタエンタメをぐっと押し出してあって、良かった。このシリーズは気楽に読めて、ほっこり出来て、登場人物にも愛着がわく。なんだか落語と似たトーンだ(まあ、まさにそれを狙って書いてあるんでしょうが)。竜二が「天才」っぽいのを説得力無く書いてあったいままでと違ってそういう無理もあんまり無くて、しかも竜二の良さがきっちり描かれていたのも嬉しかったな。だいたいハッピーエンドに収まるので安心でもある。

今回の演目は、二人癖、仔猫、兵庫船、皿屋敷、猫の忠信、鬼あざみ、牛の丸薬、ひとり酒盛。

なお、このシリーズの監修は月亭八天さんなのだが、第4弾の解説者はその師匠の月亭八方師匠だった。そういえば八方師匠がバラエティーに出てるのはよく見かけたけど落語は聞いたこと無いなあ……。

2011/11/17

シャンハイ・ムーン

シャンハイ・ムーン (創元推理文庫)
S・J・ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 40319

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
ニューヨークの私立探偵リディア・チンとビル・スミスのコンビシリーズ第9弾がついに出てくれた。8作目から原語ベースでも7年間が開いていたので(それまではだいたい1年1作ペースだった)、もしやこれで終わってしまうのかと少々危惧していたので、続いてくれただけでも嬉しかった。しかも。
しかも読みはじめたらなかなかどうして面白く、少しずつ読み進んでもずっと面白く、……っていうか、やっぱこのふたりの世界好きだあああ・ローザンは長篇書いてなんぼのひとだあああ。という意を強くした次第。

作品ごとに交互に一人称=語り手が変わることでも御馴染みのこのシリーズ、今回の「わたし」はリディア。
リディア主役の作品はミステリーとしてはビル主役のそれに劣る、というのがこれまでのファンや書評家たちの共通認識としてあったので、正直最初はあんまり期待していなかった。
駄菓子菓子。

今回のは良かったよー!
タイトルになっているシャンハイ・ムーンというのは宝石の名前で。
第二次大戦前後のユダヤ人に起こったことや上海の状況といった深い歴史的背景を背負いながら、ロマンスあり、幻の宝石をめぐる悲喜こもごもありというロマンティックな設定。といっても甘いことよりはつらいことのほうが多く、殺人やひとの生死、人生に関わるさまざまな事件が起こる。出てくる登場人物のそれぞれについて丁寧に書き込まれているので、自然に彼ら彼女らに親しみや愛情を感じ、ことの成り行きに固唾を呑んでしまう。

そして前作でいろいろあったビルとリディアの微妙な関係(に進展は果たしてあるのか!?)というこのシリーズ好きにはいささか気になる要素も忘れてはいけない。ほのめかし好きのわたしにはたまらん! なんなのこの意味深な台詞。特に最終部のあれは……。きゃー。顔がニヤけちゃうぅう(莫迦)。
いやー今回はリディアがだいぶね……弱ってるのかなあ?ほだされかけてる? って感じだったぞ。どうなるんだろうこのふたり。

例によってミステリーなので余計なことは言わないが、戦争絡みで波乱万丈な人生が複数絡んでいるし、といって悲惨なだけではなく夢や浪漫もあふれていて、読んでいて飽きない。残念ながら主役ふたりのそれではないが素晴らしい純愛も描かれているし、なんせメインが「幻の宝石」だし、シリーズの中でドラマティック度も糖度も高めなほうだと思う。純粋にミステリーとしてもなかなか読ませるものがあった(意外性というよりも、そこまで引っ張っていくストーリー性が素晴らしい)。

この調子で第10作も来年か再来年にはさくっと出てほしいものだ。

2011/11/05

安全な妄想

安全な妄想
安全な妄想
posted with amazlet at 11.11.04
長嶋有
平凡社
売り上げランキング: 11883

■長嶋有
長嶋有のエッセイもまた鉄板である(「も」というからには他に最低1人は鉄板だと紹介したことがあるというわけで、その1人とは奥田英朗である)。

先日ふらりと書店に入って文庫棚をざっとチェックし、次にまあ一応ね、くらいの気持ちで単行本コーナーに行ったらいきなり目があったこの渋い表紙!
おお、なんか武者小路実篤みたいではないか。
著者名が目に入ったのは次の段階である。
おお、しかも長嶋有ではないか!

というわけで、速攻購入となった。買ってすぐは他に読んでいる本とかがあってなかなか読めなかったのだがいざ読み始めたらほんとに(文章が)上手くて(内容が)面白くて、あっというまだった。すごく楽しかった。通勤のときは平静を装っていたが、自宅で読んでいるときなど文字通り笑い転げてしばらく中断しなくてはならないこともあったほどだ。
いやー、笑ったなあ。
っていうかそうそう、久々に長嶋さんのエッセイ読んで思い出したけど、このひとほんっとサービス精神旺盛な方なんだよね。奥田さんもそういう「おもろいこと書いて笑わせたろ~」的なスタンスを感じるけど長嶋さんは素がだいぶ変わっていて、しかもちょっとキモい系のこともあっさり暴露しちゃうというか、奥田さんはまだ自分というものを守ろうとする二枚目意識があるんだけど、長嶋さんはそのハードルがだいぶ低い。ような気がする。

天気予報が外れたときの予報士に対する苦情(?)からはじまりなんだかほんわかほろっとさせられるホットコーヒーの話が一番好き。
あとこれは著者のじゃなくて赤塚不二夫の作品紹介の中に出てくるのだが芥川賞を目指すインチキ作家がいて、彼の書くものはみんな有名作のパクリみたいなタイトルらしくて、その中でも長嶋さんが最も好きだと紹介しているタイトルが『ああ無理』。

これはね、もう、ずーーーっと笑ってる。最初に読んだ時はしばらく起き上がれないくらい笑ってしまった。「ああ無理」て。「無理」っていうのがもう、すっごくおかしい。っていうかこれ書いてるいまも既にだいぶ慣れているはずなのにまた笑っちゃってる。『ああ無情』のあの崇高なお話の、って思うからまた余計笑えてしかたがない。赤塚不二夫さすがだなあ。

なお、本書の装丁や中の挿画は100%オレンジ。
中にはとてもプロのイラストレーターが描いたとは思えないヘタな絵もあって、つまりこれはわざと「ヘタ」を演技して描かれているわけだが、確かにそのエッセイにふつうの可愛い絵とかおしゃれなスマートな絵とか持ってきても全然合わないわなーってすごく納得できるというか。

読んでいて「共感」とか「そのとおり」と思うというのはあんまり無くて、「いやいやいやいや」(←このフレーズ、本文中に何回も出てくる)というのが多いんだけど、でも「変なひとやなあ」「変わってるなあ」「なんでそうなる」「なんでそこまで」というのを著者自身も狙っているんだろうなということくらいはわかって、つまり、要するにこの著者は捨て身で笑いを取りにいっているんである。
見上げた精神ではないか。

本書を読んでいてほんとに何回も「このひと書くの上手いなあ」と感嘆のため息をついてしまった。テンポとか言葉選びとか、たぶんすっごく計算して周到に書かれてる。推敲しまくってるというよりかは、このひとのセンスなんだろうと思う。
ネタは些細なこともある。だけどその「最も効果が上がる広げ方」をこのひとはきちんと知っている。

なお巻末にエッセイに対する補完というかプチあとがきみたいなのが付いててこれもまた面白い。

2011/11/02

井上ひさしの日本語相談

井上ひさしの日本語相談 (新潮文庫)
井上 ひさし
新潮社 (2011-09-28)
売り上げランキング: 13907

■井上ひさし
十代終りくらい、たぶん高校生のときに『吉里吉里人』を読んだりしたくらいなのだが本書が書店で平積みになっていてぱらぱら見たらなかなか良さそうだったので読んでみたら思ったより易しく丁寧に説明されていて気軽でしかもわかりやすく、面白かった。いやー形容詞とか形容動詞とか助詞とかそういうの、意識しなくなって一体何年経つんだろう(笑)って感じ。なつかしーなー。

「週刊朝日」に連載されていたものだそうで、読者からの日本語に関する質問に井上先生が答えるというスタイル。脚注もあり、たまに筆者ではなく丸谷才一や大野晋が記入していたりするのも楽しい。回答者が複数いて、それぞれが得意分野の質問に対応していたんだろうな。なんか夏休み子ども電話相談みたい。

掲載の年月は書かれていないのだけれど、質問の中に『サラダ記念日』がベストセラーになっている云々とあるのでだいたいざっと20年前前後かな? だからちょっと内容的に古いなーというのもあるけど、いやはや日本語ってやっぱちょっと齧っただけでも面白いなあ。

こういう問題は学者先生によって解釈が分かれることが多い、日本人だから素人だってそれなりにこだわりがあったりする、だから本書を読んで異議をとなえたくなったり、首を傾げることも無くはない。しかしこういう種類の脳を使うの自体久々だったから、なんか刺激がもらえて勉強になった。

ちなみに「嬉しかったです」「おいしかったです」は文法的に正しくないらしいけど「嬉しいでした」「おいしいでした」っていうのはいくら文法的に正しいと云われてもなんか変だし「嬉しゅうございました」「おいしゅうございました」が最も正しいらしいけど大時代になっちゃってどうなんだろうなあ、というのが数年来の私のなかにあったのだけれどあっさり「嬉しいと思いました」「おいしいと思いました」と書けばどこからも文句は出ないと書いてあって、あーそういえばそうねえ。でも「思いました」ばっかり並べるのもまた野暮ったくなっちゃうんだよなあ……。