2011/10/27

追悼 どくとるマンボウきーた

船乗りクプクプの冒険 (新潮文庫)
北 杜夫
新潮社
売り上げランキング: 25733


北杜夫さんが亡くなられたとのこと。
小学校高学年で児童書『ぼくのおじさん』を読んだのが最初の出会いだったと思う。
本格的にファンになったのは高校生くらいだったか。『さびしい王様』シリーズや『船乗りクプクプの冒険』『どくとるマンボウ』シリーズをはじめそのユーモラスなエッセイ群、そして純文学『幽霊』『楡家の人々』……。

独特の、品のあるおかしみのある文章を書かれる方で、その文学にはいつもどこか含羞があるというか、……なにか一歩浮世から引いた視点で美しいはかない世界のきらきらを大切にされている、そんな気がした。

謹んでご冥福をお祈りいたします


さびしい王様 (新潮文庫)
さびしい王様 (新潮文庫)
posted with amazlet at 11.10.26
北 杜夫
新潮社
売り上げランキング: 3602


2011/10/19

買物71番勝負

買物71番勝負 (中公文庫)
平松 洋子
中央公論新社
売り上げランキング: 375363

■平松洋子
絶版。マーケットプレイスでゲット。
平松さんがいろんなモノを買ってそれへのこだわりとか美点とかをるんるんうきうきハイテンションで綴ってある。そのあまりにもノリノリなはっちゃけぶりは冷静な傍目には少々痛々しさを感じるくらいだ。
料理がらみの専門家だけど、本書で取り上げられるモノはそれに限らず、下着や時計や文庫なんかもある。

不思議なことに、平松さんフリークであり、彼女のいろんなエッセイに出てくるものたちに物欲を刺激されることがままあるわたしなのだが、本書に限ってはそういう気持ちになることがほぼ無かった。あまりの平松さんの作ったような上機嫌になかばボウゼンとしていたらすっかり取り残された。ほんとなんなの、このテンション。絶対自然じゃないでしょう。「婦人画報」連載、うーんそういう媒体の影響もあるのかなと勘繰ってしまったり。

もうちょっと、落ち着いてクールにキメた文章のほうが良い様な気がするが、まあ、買い物するときの女っていうのは得てしてこのような騒々しいまでの躁状態にあるのかも知れぬ。

2011/10/15

おまえさん

おまえさん(上) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 32

■宮部みゆき
宮部みゆきの作品というだけでもう充分なのだが、その中でも時代ミステリ、中でも"ぼんくら"シリーズはかなり好き。その第3弾がいよいよ出る、しかも単行本版と文庫版が同時に刊行されるという出版界での大きなニュースを伴って。
というわけで発売前から楽しみにしつつ、さてどっちの形態で買いましょうかとちょっと悩んでいた。
『ぼんくら』2000年4月刊。
『日暮らし』(上下巻)2004年12月刊。
ともに、単行本で出版早々に買い求めて持っている。――ということは、普通にいけばシリーズ第3作も「単行本だよなぁ」と思っていたのだ。だけど日が迫って実際の形式と単価を見てひるんだ。うお、また単行本でも上下巻か……。まー良いお値段。
思えば通勤読書派のわたしが何を好きこのんで高い単行本を購うかといえばイチに「いちはやく、その作家の新作を読みたいから」でニに「装丁の美しさと紙の手触り」。
イチの理由が無くなったイマ、単行本の「見てくれ」にすべてはかかっている……。
発売日に書店で実物を手に取って、わたしは数秒のためらいの後、あっさり文庫購入に転んだんであった。すまん宮部さま。安くて読みやすい方取っちゃったわ。


おまえさん(下) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 34


さて肝心の内容である。
事件のはじまりは、謎の辻斬り。被害者は裕福から程遠い体つきで、その遺体があった場所にいつまでも影がくっきりと残っているといういささか面妖な幕開け。続いて流行りの薬屋の主人が屋敷内でやはり袈裟懸けに惨殺される。太刀筋から、下手人は同一人物とされた。そしてその動機は怨恨だと。
この身分も立場も違うふたりを同じく恨む、犯人はいったいどういう人物なのか?

シリーズ第3弾なので、メイン・キャラはお馴染みの面々。顔の長い自称"ぼんくら"本所深川の同心・井筒平四郎。その有能な岡っ引き・政五郎。平四郎の美人で大人(たいじん)な妻。類い希なる美形の甥っ子・弓之助。そのちびっこ仲間(?)であり政五郎とお紺夫婦に引き取られたおでこの三ちゃんこと三太郎。煮物屋の名物おかみ・お徳さん。それに加えて若くて有能でマジメ一徹、だけど容姿にコンプレックスありまくりの間島信之輔、その大叔父・齢70を越えて矍鑠とした本宮源右衛門、長屋の野菜売りの丸助さんなどアジと魅力にあふれた登場人物が盛りだくさん。
しかも今回は弓之助の3番目のやはり美形で女(だけじゃなく人)あしらいの超絶上手いお兄さんも出てくるし、15歳の美少女、寡婦になりたてのたおやかな美女、クールビューティでしっかり者の(だけど性格は正直良くないように書かれてる)女差配人、アダな年増の夜鷹の姐さんまで出てくるぞっ。

ミステリーとしての出来不出来は正直二の次で、これら多彩な人物が織りなす人間模様と宮部みゆきならではの深刻と茶目っ気の絶妙のバランスが生む空気・雰囲気をじっくりと堪能した。そしてそれでまあ正解だった。後味は……なんのしこりも残さずに、とはいかなかったのはうーんまあ人生・現実そんなもんかなーという。史乃ちゃんがなあ……もうちょっとどうにかならんかったのかなあとずっと考えちゃうんだよなあ。

第3弾を文庫で読んで、正直かなり忘れている第1弾・第2弾を文庫で買い直そうかとぐらぐら迷い中。ハッ、これぞ講談社文庫の思う壺っ。
なお、ちょっとググったら宮部さんは第3弾は文庫だけを考えていたようで、震災もあったし紙の節約とかで。だけど担当編集さんが単行本で集められている方もいるだろうしじゃあいっそ両方いっぺんに出しちゃいましょうとなったとかで。そしたら偶然同じ事務所の京極夏彦さんも異媒体同時刊行を考えていたそうでこれは前々から準備されていたとかで全体としてスムーズに話が進んだとかで。ついでに第2弾の文庫は上中下巻なのを今回上下巻で出し直すことにしたとかで。
この「ナントカカンントカなんで」という言い回しは例の長屋の丸助さんの口癖なんで、読んでいると自然にうつっちゃうんで。
……おあとがよろしいようで。

平松洋子のカジュアルに骨董を楽しむ暮らし

平松洋子のカジュアルに骨董を楽しむ暮らし (主婦の友生活シリーズ)
平松 洋子
主婦の友社
売り上げランキング: 388843

■平松洋子
初・アマゾンマーケットプレイス「出品者からお求めいただけます」への発注品である。
いや前々からのマイ・平松さんブームが進むにつれ、いろいろ検索しては「この本良さそうだなあ……でも絶版かあぁ」とため息をついていたのだ。それだけれども基本、新本好きなので古本まではなかなか食指が動かなかったのだ。

が、先日近所の図書館にぶらりと出かけて館内検索して見つけた本書をぱらぱら見るにつけ……
「こっ、この本欲しいぃぃぃっっっ!」
欲求が、メラメラと燃え上がってしまったんである。
だってだって、アマゾンで表紙だけ見て想像していたよりずっと良いんだもん!
写真いっぱいあるし、ほぼ全部カラーだし、アジアンアンティーク好きには萌え満載なのだあああ!

ああ、思えば昔からわたしにとって図書館は本を借りる場所ではなく、「これは借りるだけじゃなくて手元に置きたい」という、そのへんの新刊書店ではあんまり見かけない本を見つけてしまってその叶えられない物欲にもだえ苦しむことになる魅惑の城なんであった。
それでも「コレハぜっぱん」「ホンヤさんには売っテナイから欲しガッチャダメ」とロボットのように呪文を脳内でぐるぐる回して必死にタタカッているわたしに悪魔がなんでもないことのように(実際なんでもないことなんだが)あっさりのたまったのだ「マーケットプレイスで買えば?」。

いや~この本のなにがいいって紹介されている平松さんイチオシの小道具屋さんが東京だけじゃなく京都のも載ってるところ。関西在住の身にはめっちゃ嬉しい。実際そこで売られている品々まで身近かどうかは別として……今度ちょっと行ってみようか、と気軽に思えるところが。

文章も載ってるけど、どちらかといえば写真中心。
お料理よりは、器とか雑貨がメイン。
真の骨董ファンには物足りないかも知れない。初心者向けなんだと思う。それもけっこう女性ターゲットのような。日常的に身の回りに置きたくなるモノたち。

ちなみに本書は75円のを購入、送料が250円。送料のほうが高い。でもあるかないかわかんない本をあちこちの古本屋さんで探すこと考えたら断然安い。
あと、ついでにもう2冊絶版の{『平松洋子の台所』(ブックマン社)単行本版。文庫は持ってるけど、やっぱ最初に出会った単行本版が手元に欲しくなった/同じく平松さんの『買物71番勝負』(中公文庫)}を買ったんだけど、1つのお店で同時に買っても送料は1点につき250円という仕組みなんだなあ。初めて知った。たくさん買っても全然お得にならない。
だけど、予想外に美本だったし。
つくづく、便利な世の中になってるんだなあ。

2011/10/03

どくとるマンボウ航海記 【もはや何べん読んだかさだかではない】

どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)
北 杜夫
新潮社
売り上げランキング: 136787

■北杜夫
十代の終りに初めて読んで、以来、ことあるごとに何べんも繰り返し読み、愛読してきた本書。そのたびに面白いなあ、良いなあこの雰囲気・空気としみじみ感じ入る。
もう細かいところまですっかり御馴染みなんだけど、やっぱり覚えているその襞をじっくりゆっくりたどっていくのがなんともいえず心地よい。
ちょっと持って回ったような、独特のユーモラスな文章。
含羞のある、上品な著者の人柄がにじみでた文体。
特に大きな事件があるわけでもなく、突飛さや派手さは無くて、のんびりゆらゆらと、波間をただようマンボウのごとくその航海記は綴られていく。

斉藤茂吉の次男として生まれた北さんは若いころ精神科のお医者さんだった。その彼がひょんなことから水産庁のマグロ漁調査船に船医として5ヶ月にわたりインド洋から欧州にかけて各地をまわることになった、その経験をのほほんとしたスタイルで書いたもので、出版当時(1960年・中央公論社)はベストセラーになったとか。

航海記というからどこそこの港はこうで、何がおいしくて何が美しくて、みたいないわゆる観光案内みたいなものを期待されるむきもあろうが、この作品はそういうスタンスで書かれていない。まあいちおう各所で見聞きしたものも描かれているが、むしろ北さんの、当時海外旅行といえば「ちょっとしたもの」であったであろうその経験にも関わらず一向にしゃちほこばらない、肩の力のイイ具合に抜けた、それでいてちょっとウガったところも何気にスルドく差し挟まれている独特のセカイをでろ~んと愉しむことをオススメしたい。

北さんが旅行出発にあたり、荷造りをしている箇所をちょこっと引用させていただく。

  なにしろ私はめったに床をあげぬほど無精者なので、手際よく荷物をつくりあげるなどという芸当は生れつき不可能なのである。私はカバンの蓋など開け、その中に幾冊かの書物と衣類をつめこんだが、それだけで疲れてしまい、すでに半分ほど飽きてしまい、果ては茫然としてマンガなど読みだす始末であった。しかるに航海の経験をもつ連中が現れて、いろんなことを言う。そのたびに私は、インド洋はさぞかし暑かろうと半ズボンなどをつめ、冬の北大西洋はさぞかし寒かろうと登山に使うヤッケなぞをつめた。「なだ・いなだ」というふざけたペンネームを有するHが現われ、いいかね、山みたいな大波がくるぞ、コップでも何でも忽ち木っ端ミジンだ、などと大仰なことを言うので、私はわざわざ金属製のコップ、灰皿などを買いこんだ。Aという心理学者で国際ゴロみたいな男が現われ、フカを機関銃で射つのは面白いぞと教えてくれたが、機関銃を買いこむわけにはいかず、ただ彼が船中で飲むコーヒーのいかに美味であるかを力説するので、わざわざネスカフェーなど買いに出かけた。その間、私はそれまでの勤務にカタをつけねばならず、船の検疫と予防接種に立ち会ったり、海運局で船員手帳を貰ったり、夜は夜で飲みに出かけなければならなかった。