2011/12/27

春を待つ谷間で 【再読】

春を待つ谷間で (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 352899

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
第6弾。ビル視点。
舞台が初めてニューヨーク(大都会)を離れ、アップステート(不便でなんにもないけど景色が素晴らしい田舎)になる。ビルがふだんの生活にぶちっとなって仕事とかいろんな日常のシガラミを離れたくなったときに住む隠れ家みたいな小屋がある場所なんだけど、今回はそこに仕事を引き受けるためにやってきた。これは結構異例のことらしい。

ある農婦の盗まれた品物を内密に探し出して欲しいという例によって静かな出だしだったのだが、地元のゴロツキが出てきたり殺人が起こったり知っている人間が無実なのにけ警察に犯人と決めつけられていたり地元有力者のアバズレ娘を連れ戻して欲しいという命令みたいな依頼をされたり尾行されたり尾行したりとどんどんヤバい展開になるのはお馴染み。

にしても地下室の死体の真犯人の殺人動機はひどいなあ。殺されたのもゴロツキだから自業自得なのかも知れないけどそれにしても、もうちょっと重みのある行動しろよ、っていうか人生最初っからやり直せよと説教したくなる。まあいろいろツライことがあったのかなとかも思うけど。
結局、なんにもわかってなかったんだよね。だからああいう最後になっちゃうんだ。

前回読んだときはそうでもなかったみたいなんだけど、今回読んでると今回のそもそもの依頼人のキャラがわたしはあんまり好きじゃないというか、身勝手だなあ、と感じてしまうことがしばしばあった。まあ自由なんだろうけど。そもそもそんなに大事なものならお金はたくさんあるんだからもっと管理方法を考えろよ、くらいのことは言いたい。

2011/12/23

“文学少女”と死にたがりの道化

“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)
野村 美月
エンターブレイン
売り上げランキング: 53959

■野村美月
『ビブリア…』を読んで、「このお話読むと取り上げられている(有名文学)作品を読みたくなるなあ」と感想を述べたところ、ラノベをこよなく愛するウェンディさんに本作を薦められた。あ、これ本屋さんで表紙平積みしてあるの見たことある。わたしもかつてはいわゆる「文学少女」だったので(いまは年齢的に「本好き」くらいが相応しいか)、単語に反応し記憶に残っていたのだ。ただこのジャンルには手を出しにくかったのでスルーしていた。

ちゃんと手に取ってタイトルを真面目に見つめる。うっ、もしかして「死にたがりの道化」って太宰治のことっすか。わたしも高校とか大学くらいのときは太宰治というハシカにかかったひとりなんだよね。しかもけっこう重度の。
中身を読んでみるとあっさりビンゴ。こういうの、なんていうんだろう、「本好きの本好きによる太宰好きのための前向きな(←これがポイント)読書案内」か。

メインテーマは太宰治(に代表される、自己を偽って道化のように人生を演じているという苦しみを抱えているタイプの人間)なんだけど、それ以外の文学の作者名とかタイトルとかもいっぱい出てきて、読書ラブの十代読者には「ああ、知ってる」「わたしもそれ好きー」などと受けるのかもしれない。

主人公は高校1年生の少年・井上心葉で、彼は中学生時代に何気なく女の子名義で小説を書いたところそれが大ベストセラーになって億単位の印税を稼ぎ出すもなんか精神的にまいっちゃってそれを黒歴史として封印しているという特異な存在。でもそれ以外はごくふつーの、人当たりの良い男の子として通っている。

”文学少女”はこの男の子の先輩にあたる高校3年生・天野遠子のことで、文芸部の部長である。といっても部員は主人公だけみたいで、ふつうこういうクラブ活動とかは5人くらいメンバーが揃ってないと廃部にされるんじゃないのかとか思ったけどそんなこと云ってたらお話が成立しないので気にしないでおく。

というか、しばらく読んでみて悟ったのだが、このお話は現実とかリアルとかそういうものをいちいち気にしていたら楽しむことが難しいタイプの作品なのだ。
こんな喋り方リアルにしているひと(登場人物のほぼ全員が芝居みたいなあるいは漫画みたいな台詞回しを多用する)がいたらどれだけ不自然か、とか、高校生の女の子が下着見えそうな場面に同年代の異性がいることを気にしないわけがあるまい、とか、屋上は普通がっちり施錠されてて入れないだろう、とか、――
っていうかなんで本とかお話の書かれた紙食べてそれが主食でふつうのおかずとかは味しないとか言ってる人間がいるんだああ( ̄Д ̄;)

とかさまざまな「些細な」事象を気にしていたら読めない。んである(人間なんだよなあ?主人公は「妖怪」とか揶揄してるけど)。

そう、そんなことは些細なことだ。
この著者がこの作品を通して描きたいのはただひとつのメッセージであり、この作品のキャラもさまざまな設定もストーリーもすべてはそれをできるだけ多くの若い読者に難しい話はイヤだとか思われずに読んでもらいたいが為に創り上げられたものであろうからである。

っていうか通して読んだらそれ以外にこの突飛で破天荒なストーリーの意味が思いつかない。

ちなみに遠子さんのオススメのラインナップと自分のこれまでの読書歴が面白いくらい重ならないのでどうも根本的な趣味が違うようだ。ううむ残念。
だけど太宰治についてこれだけ明るく前向きに解釈してあるのは初めて読んだからなかなか興味深かったしなんか嬉しかったりした。

こういう作品もあるんだなあ。っていうかラノベ界では珍しくないのかなあ。この作者のスタンス、嫌いじゃないぞ。

2011/12/22

苦い祝宴 【再読】

苦い祝宴 (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 307044

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
シリーズ第5弾はリディア主観。
例によってチャイナタウンから話が始まり、アメリカにおける中国人社会のいろんなひとが出てくる。同じ中国出身でも広東語と福建語とか、それぞれの使用地域出身者による違いがあるんだっていうのは前回のリディア視点話でも出てきたけど今回も絡んでいた。そして中国で産まれて出稼ぎみたいにアメリカに来たひとと、産まれたときからアメリカに住んでる中国人との違いも。

中華料理店でウェイターをしていた4人がある日行方不明になった。リディアの親友であり刑事でもあるメアリーの彼氏で弁護士のピーターから彼らを探すよう依頼されて調査を開始するが爆発事件が起き……。

なんか、大の大人の見も知らぬ中国人青年の失踪になんでリディアはそんなに親身になれるのかがいまひとつわからなくて共感しにくかったのだけどうーん、これはやっぱ住んでたところとか探索して家族の写真とか見ちゃったからなのかなあ。あとピーターの思いとか受けたからかなあ。それにしてもなんか持って回った調査方法に思えて仕方なかったというか、正直あんまり面白くなかった。と、思って初読みの感想(2004.1.31)を探したらメモ程度しか残っていなかったのだが「読了。おもしろかった。一言一句堪能せずにはいられない、そういうのはほんとに数少ないけど、このシリーズはそのうちのひとつである。」と書いてあって、うーんそうかあ。という感じ。

出てくる料理が美味しそうなのはリディアシリーズの特徴、特に今回は一時的に飲茶レディも勤めちゃう。中国人は飲茶の後にラーメンで〆ると書いてあった気がするけど、ラーメンて中華料理じゃないんじゃなかったっけ?と思って読み返したら「ラーメン」じゃなくて「麺類」で締めくくることを好む、だった。ふーん。

それにしてもビルはリディアが好きだけど距離をきちんと保っていて、リディアは態度を明確にしていないわりに接触が(日本人の感覚からすると)多いんだよなあ。まあ、おはようのキス、おやすみのキス、っていうのが小さいころからある国で育ってるひとは違うか。に、してもある意味ずるいと思っちゃうのは間違いなのだろうか。

2011/12/18

どこよりも冷たいところ 【再読】

どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 134084

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
ビル視点。建設現場が舞台。
ローザンは建築家として勤務していた経歴もあるということで、例えばタイトルの「どこよりも冷たいところ」というのは文中で説明されているように建築中の建物のなんともいえない底冷えしたさまから来ているらしいが、こういう実感からくる言葉はリアリティがあるなあ。

ローザンのシリーズは導入部が(ミステリーとしては)地味でも話が進むとどんどん事件が大きくなる、というパターンが多いかも知れない。今回も、最初は現場の部品がちょろまかされていて何かありそうだという程度だったのに、ビルが事件に乗り出すや殺人やらなにやら物騒な展開がどんどん起きて行って、なんにも知らなかったらまるでビル・スミスそのものが厄介ごとを呼び込んでいるかのようだ(まぁ、探偵物って多かれ少なかれそういう傾向があるから「それを言っちゃあおしまいよ」的な突っ込みなのかもだけど)。

ビルを建てるのに、誰かが不正をして、設計で指定された資材より質の劣った安い部品で納入して壊れはしないけど欠陥住宅になることが目に見えている……というのは数年前に実際に起こった事件を思い出さずにはいられなかった。そういえばあれの某社の社長の判決の件とかごく最近新聞のベタ記事で見かけたような気がするが。

あと、今回はビルに事件を依頼したのは探偵事務所を抱えているイタリア人のチャックという人物なんだけど、「イタリア人が何人寄ればマフィアと関わりのある人間が交じってくるでしょう?」というビルの台詞はなかなか興味深かった。そういうものなのかしら。うーん。

事件の根っこにマフィアの大物は絡んでいるのか、どう絡んでいるのか。
建設現場の労働者のマッチョぶり。
そして今回事務員に扮してビルのアシストをするリディアが何気に大活躍するのも楽しい。ミシカ・ヤマモトの別名は今回も出てくる、あの船のくだりは最高だったなあ。

2011/12/14

新生の街 【再々読】

新生の街 (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 41008

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
リディア視点。
リディア視点の事件というのはその所属するチャイナタウンの性質故なのか、今回も依頼人が身内の紹介のパターンだ。リディアには4人も兄がいて、いずれも妹が私立探偵なんかやっていることに反対しているのだけれど、今回出てくる4歳上の兄アンドリューはどっちかというとまだ「話せる」部類に属するらしい。職業も写真家で、ほかの兄が弁護士やら医者やらなのに比べるとぐっと柔らかいし。しかもあの母親の息子なのにゲイときた。絶対に理解してくれそうにないもんなあ。

アンドリューの友人ジェンナは中国人の新進気鋭のデザイナー。もうすぐ春物コレクションのイベントを行い、それによって自身のブランドを周知確立することになるであろう大事な時期にデザインのスケッチを盗まれた。犯人は現金を要求しており、その受け渡しにリディアが雇われた。ごく単純な仕事に思われたのだが、いざその場に行って現金を指定の場所に置いたとたんに銃撃を受け、いきなり物騒な展開になる……。

今回もなかなかハードボイルドっていうか、荒っぽい展開で、殺人も絡むし他のいろんな犯罪も明らかになってくる。いろんな人間の思惑が事件を追うにつれて見えてきて、あーもうなんだかなーって思う。

それにしても「職業に理解を示す」というのと「妹が危ない目に遭うかも知れないのを止めずにはいられない」というのは両立するんだよね、兄が妹を心配するのは当たり前じゃない、とこのシリーズを読んでいるといつも思っちゃうんだけど、妹たるリディアはそういう保護心に逆毛を立てて怒り狂うんだよねー。銃があたりまえに所持されてる国だもん、不安にならないほうがおかしくない? これは、わたしが長女で、弟しかいないからなんだろうか。まあ、好きでなってる職業で、誇りを持って一生懸命頑張ってるのに頭からダメだって決めつけられて、一方的に叱りつけたり反対されたりしたら反発しちゃうのもわかるけど。うーん。
家族って、難しいわねぇ。遠慮がないから余計にね。白人はこういうのはあんまりないみたいなことが文中で書いてあるけど、そういうものなのかなあ。

表紙画像でも描かれているけど、今回リディアは職業上のなりゆきから髪をかなりショートに切る。しかもラストはなんとモデルまでやっちゃうことになる。
ビルとの仲は、いままでの3作の中で一番進展したというか、親密度が深まったというか、リディアはビルを好きなんだと自覚したけど、だからこそ恋愛関係に持ち込みたくないんだと悟った、うーんそれはなんか、わかる。中途半端なイロコイをやって、せっかく得た貴重な職業上のベストパートナーを失いたくないってのはね。

それにしてもこうやって読むとあらためて……ビルって大人だし、良い男だなあとしみじみ。決してハンサムじゃないらしいけど内面がここまで出来てるひとってそうそういないと思うわよ、リディア?

2011/12/11

ピアノ・ソナタ 【再々読】

ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 123180

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
シリーズ第2弾はビル視点。
第1弾がリディア主観で、つまり中国系の若い女性が主人公の異色探偵物だったのに対し、こちらはアメリカ人の中年の白人男性が主人公だからミステリーとしてはほんとに王道な感じ。作品のハードボイルドな空気感に、ビルの弾くピアノ・ソナタの繊細さが実にいい感じに哀愁を加えていて、とっても落ち着いた良い仕上がりになっている。これを読むと表面上は飄々としているビルがその内面は結構ナイーブというか、細かいことまで神経をつかっているタイプの人間だということがよくわかる。

そもそもビルというひとはその生活とか身内とかについてほとんど喋らない。リディア視点だと母親が常に出てきて兄もいらぬおせっかいをしてきて身内とか町内とかそういうのが非常に濃密に絡んでいるのと対照的だ。まあ一般的に大人の男性というのは女性と比べるとそういうことを実社会であんまり喋らない率が高いような気はするが、そういう問題ではなくて、ビルの場合はどうやら心情的にいろいろ家族のことで問題があって、だからもうどっちかっていうと絶対に話したくない。という感じのようなのだ。

というわけで、あんまり多くを語ってくれないので読者は書いてあることだけを材料にビルの周囲を探っていかなくてはいけない。今回の依頼者は彼がひよっこのころから世話になっているボビーなる人物。どうも彼がビルに探偵としての基礎を叩き込んで教えた人物らしい。その甥っ子がガードマンをしていて、何者かに殺された。警察は周囲で幅を利かせている不良グループの仕業と断じているが、ボビーはどうも納得がいかない。自分ではもう体がいうことをきかないのでビルに真相を究明しろというわけだ。

本書を読んでわかることはビルが実の父親と十代のころから離れていること、少年期は叔父さんのところで暮らしていてその叔父さんというのが警官だったこと、悪さばかりしていてついに叔父さんから軍隊に入れといわれて海軍にいたこと、そこで腕にけっこうな刺青を彫ったこと、などだ。母親のことは書かれていない。

暴力と、さまざまな人間の欲と、建前と本音、いろんな言い訳や嘘や保身が絡み合って今回の事件は起こった。それをビルはあせらず淡々とじわじわ紐解いていく。この性格の重みはすごい。リディア視点のときにはちょっと窺わせるだけだったそういう実直な面がビル視点だとストレートに見ることができる。ふだんの軽口が仮面だということを、そういう仮面を着けなければならないような脆い面を奥底に秘めているひとりの男性なんだということを、いやおうなしに悟らされる。

ビルのキャラクター造形にポイントを置いて読んだのでそういう感想になってしまったが、純粋にお話として、ミステリーとして非常に面白い作品であり、シェイマス賞を受賞しているらしいのだが、シェイマス賞ってどんな賞なんだか知らないのでよくわからない。まあでもビルはロマンチストだよ。そしてこのお話はハードボイルドの典型だよ。
男の美学。っていう感じがする。
事件を解決するのが目的なんじゃなくて、関わったひとの笑顔を取り戻したいというスタンスなのがほんと、どこのチャンドラーかって感じだわねえ。
こういう優しさはとても美しい。そしてとても切ない。

2011/12/03

チャイナタウン 【再々読】

チャイナタウン (創元推理文庫)
S・J・ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 81425

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
先日読んだ第9弾が良かったので、シリーズ最初から読み返してみることに。
最初にこのお話を読んだのは当時はまだ読書日記をつけていなかったのではっきりとはわからないが手持ちのが1997年11月の初版で版を重ねていないことからたぶんその当時。再読したのは2004年。

久々に読んだので、事件の細かいこととかすーーーっかり忘れていた。
それと、ビルとリディアの雰囲気。
いまより、ずーーーっと甘かったのね。つきあってないのは最初も今もおんなじなんだけど。
なんていうか。
砂吐きそう。
つきあってないだけ、余計、甘さだけがあるっていうか。
第4弾くらいになるともうこういう空気は減っていくんだよなあ確か……。

このシリーズは、アメリカ生まれの中国人系の28歳の女の子、リディア・チンと白人の中年男ビル・スミスという私立探偵コンビが作品ごとに語り手を交換して綴られていくミステリーで、しかもこういう設定にありがちなコージーではなく、どっちかというとハードボイルドっぽい空気を備えていて、なおかつ、このコンビの微妙な関係が色を添えてそういう意味でもどきどきさせてくれるという、なかなかありそうで無い作品だ。

リディアの中国人名はチン・リン・ワンジュと云い、身内や中国人系の知り合いからはリン・ワンジュと呼ばれたりする。これ、可愛い名前だなあ、漢字で書くとどういう字なんだろうといつも思うが出てきたことは無い、と思う。
いっぽうのビルはまるで偽名のような、たぶん日本だったら鈴木一郎みたいな名前なのだがこれが本名。ビルっていうのは正式にはウィリアムなんだろうけど、ビルがウィリアムって呼ばれているシーンもたぶん、無い、はずだ。

第1話の語り手はリディア。
チャイナタウンにある目立たない美術館から寄贈されて間もない磁器が盗まれた。警察に知らせると盗難が公になってしまうため、それを避けたい美術館は中国人系で知り合いの私立探偵であるリディアに盗まれた品々を見つけ出して取り戻すよう依頼した。
こういうところではギャングがそれぞれ縄張りを持っており、まずはそこから捜査の手を伸ばしはじめたリディアだったが……。

中国人系のアメリカ人の生活はアメリカ人とも中国に住む中国人とも、そして日本人とも違うのだけれど、同じ東洋系として同居している母親と交わす会話やその関係などはなかなか興味深いし(ここまで拘束が強い母親は中国人ならではなんだろうか?)、食欲旺盛な彼女が口にする食事はメニューというか素材を読んでいるだけでそそられるものばかり、実に美味しそうなのである。リディアがその食事を目の前にすると、読んでいるこっちの脳内にネギとか海老とか、それが中華鍋の中でどういうふうにじゅわっと踊って旨味を濃縮されているのか、という絵面がやけにリアルにあつあつの様子で浮かぶのだ。なんでだろう。

ミステリーとして、ストーリーも犯人もどんぐりかえりの真相解明までのあれこれも全部忘却の彼方だったので実に新鮮に読めた。盗難事件で幕を開けるのだが、途中で殺人も起こる。タフな探偵モノであるから、若い女の子たるリディアだって無傷ではいられない。それでもへこたれず頑張る。立ち上がる。小柄で、ノーメイクだと小学生に間違えられるような幼い可愛い顔をしているらしいけれど、なかなかのマッチョなのだ。そのためのツールに薬草たっぷりのお風呂とかが出てくるところがとってもオリエンタルで素敵だが。なんかだんだん自分も薬草風呂に浸かりたくなってくるのだ、ああローザンってこっちの本能的な欲求のツボを刺激するのが上手いのねえ。

警察に刑事として勤める友人メアリーとか、いったいこのひとは何者なのかその底知れなさがおそろしいガオおじいさんとか、魅力ある脇役の存在もなかなか。スティーヴ・ベイリーみたいな明るいひとがこのシリーズの常連でいてくれても楽しいと思うんだけど。

2011/11/30

ビブリア古書堂の事件手帖 ――栞子さんと奇妙な客人たち

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
三上 延
アスキーメディアワークス (2011-03-25)
売り上げランキング: 82

■三上延
初・三上延。というかラノベらしいラノベを珍しく買ってしまった。初・メディアワークス文庫購入でもあるな。これは本屋さんで見かけるたびに「おおっ、古書店ネタかっ。しかもこの女の子(の絵)可愛いなー」と気になりつつも期待倒れを恐れて購入を控えていたもの。
先日アマゾンでレビューを10秒ほどチラ見したらすごく好評っぽかったのでなんか読みたくなってしまった。

イラストは「越島はぐ」という方によるらしい。表紙を開くとカラーのビブリア古書堂外観みたいな絵があって、その裏も店内のカラーイラストになっていて、さらに連作短篇になっている本書のお話ごとに扉絵もこれはモノクロだが、ある。

ひとの死なないタイプのミステリー。
一話ごとの謎解きもあるし、本書全体を通してのそれもある。なかなか美しひ。

鎌倉の、小さな目立たない古本屋さんのお話で、なんと表紙に書かれている可憐なうら若き乙女がこのビブリア古書堂の店長さんだったりするからオドロキだ。お祖父さんの代からほそぼそと続いているお店で、彼女の父親が他界したので継いだという設定。なるほどね。

本をめぐるミステリーで、だけど「ラノベでしょ?」と読む前はかなり高を括っていたのだが、取り上げられている作品とそれへの(薀蓄はそれほどでもないのだが)情熱というか愛情の深さに少し感動してしまった。っていうか古書好きによくある物質的な、稀少本への愛着、ではなくて、内容・中身へのこだわりとか純粋に「このお話が好きなんだっ!」というスタンスがすごく嬉しくて。

この本の語り手は若い兄ちゃんで、古書店の美人店主・篠川栞子さんにほぼ一目惚れしてあとはまー、ふらふら吸い寄せられている感じなのだが、幼年期のトラウマが原因(かと思われる、本書であえて断定はされていないので後にどんでん返しでも仕込まれているのだろうかうがちすぎだろうか)で本が読めない。

一方の栞子さんは本ラブ! 中身も外見もそれに纏わるエトセトラもみんな好き好き大好きっ というひとで、ふだんは大人しくて人見知りで発言もしどろもどろなのに話題が本のことになるとヒトが変わったかのように瞳を輝かせててきぱきと語る語る語る……というキャラである。
綺麗で、頭の回転が良くて(本書の名探偵役=安楽椅子探偵)、しぐさや言動が無意識に可愛くて、巨乳で眼鏡が似合って、性格設定がこれ。しかも怪我で入院していてか弱さを漂わせている。

……なんぼほど萌え要素盛り込むねんっっっ( ̄□ ̄;)
というか、
ほー。萌えキャラっていうのはこういうふうに創るのね(@_@)
というか。
勉強になりますた(違)。

本書に登場する本は以下4点。
1、夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)
2、小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
3、ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)
4、太宰治『晩年』(砂子屋書房)

2011/11/25

天地明察

天地明察
天地明察
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冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 3017

■冲方丁
いえーい初・冲方丁!
これで うぶかた・とう と読むらしい。ムズカしい。
ずっとなんとなく沖方汀とかぼんやり認識してたけどちゃんと見たら「沖」じゃなくて「冲」、「汀」じゃなくて「丁」なのだった。
北上次郎さんが誉めてらしたんだよね、『マルドゥック・スクランブル』を。このひとはSFのひとで、北上さんはSF基本読まないひとなのに。で、ふーんって思ったんだけど、SF読みじゃないしこれ全3巻もあるので躊躇してたのだ。そしていま調べたら当時わたしが書店でよく見掛けてた↓のは廃盤になって完全版が出てるらしい。へー。



ウィキペディアで調べてみると「冲」という字の字源は会意形声で「冫(=氷)」+音符「中」、氷の中をとんとついて割ること(=衝)、またはその音。だそうだ。へー。意義は「つきあたる」とか「幼い」とか「中身がない、むなしい」とか書いてあるぞ……。よく苗字に使う気になったなあ。

話がだいぶそれてしまった。
『天地明察』の、小説の感想なのだが。
そもそもこれは、本書が出版されたのは2009年の11月で、第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞し,第143回直木賞の候補となった。
だからこのブログの書き手はなんで今頃読んでんだ、ってハナシで、こういうのにアンテナ張ってるひとはとっくの昔に読んでるし、世間の評価も済んでるし、そもそも読書ファンならせめて去年読んどけよ、って感じなんであって、いまさらレビューとかしなくてもいいかー、しかも冲方丁も初めての初心者だしー、とかついつい思って横道にそれまくってるわけだったりする。っていうか実際去年の年末に紀伊國屋で3×4冊くらいの広いスペース取って平積みされてて、手に取って吟味するまではしてたんだすよね……。でもなんか「天文とか地理の話? 難しそうだなあ、著者SFのひとだし」とか怯んじゃって読まなかったんだすよね。
何故かたまたまウェンディさんが今頃(!)買ってきて、おお、そういうことならばお借りいたしまするっ、ということになったのだ。

世間的に既に一定以上の評価を受けており、来年はV6の岡田君主演、ヒロインは宮あおいで映画化も決まっているというだけのことはあって、実際読みはじめたらかなり面白かった。数学とか碁とか地理学とかあとどうやらこのはなしは史実というか実際に存在した人物をモデルに書いてあるから歴史もうっすら混ざっているのだけれど案に相違して全然、難しくないのだった。すいすい読める。
「逆に」という言葉の使い方とか、ときに「筆すべりじゃないのかなあ?」と思うところが数箇所あるが「エンタメだもん。純文学じゃないもん」と割り切って読むとそう気にならない。
主人公が、フィナーレに向けてどのような問題と取り組み、人間関係を経て、成長していくのか、どうやって「明察」に至るのかという大きなミステリー(サスペンス)と、あと数学の怪物みたいな謎の「関さん」の正体という小さなミステリー(謎)があって、ページを繰る手を止めがたい。

ただ、最後まで読んでの正直な疑問なのだが……。
終盤にきてなんか、面白さとかなんだかがいっきに失速してしまった気がするのは私だけなんだろうか?
正直あの「脳ミソぱーん」的なシーン(注・ネタバレ防止のための抽象表現です。脳漿が飛び散るシーンなど本書には一切ございません)がこの小説の山場で、あとなんか身辺でイロイロあって、関さんの正体も割れて、まあそのへんはまだまあまあ面白いんだけども、最後の仕上げに向けての部分が。本来ならばいちばん手に汗握る、緊迫の部分が。
――だってこの展開だったらそうなるに決まってるんだもんなあ。
というこちらの気持ちと、そしてそれまでさんざん潰されまくったせいだからわからんでもないのだがいままで序盤から着実に築き上げてきた、主人公のひとが良くて世情に疎くて地位名誉に頓着しない絵に描いたような愛すべきドジっ子キャラからは想像できないというか違和感ありまくりの行動を取りまくるのである。

いや分からんでも無いよ?
自分の夢だけじゃなくいろんなひとのいろんな重いほどの思いを背負って朝廷相手に喧嘩売ろうってんだから甘っちょろいこと云ってらんない、ってのは。

ただそのね、なんていうか、読み終えた後あんまり「わーっ」って感動出来なかった、んだすよね。で、「あれ?」って自分でも愕然として。
だってけっこうのめり込んで読んでたし、最後でカタルシス得ようって期待はいやがおうにも高まってたし、感動する気満々だったのに、――なんで? と思って。

まあ「脳ミソぱーん」までは文句なしに面白かったしドジっ子キャラだったからこそ親近感が持てて春海を応援したくなってずっと楽しく読めたんだと思うし。エンタメとしては文句なしの出来だと思う。

それにしても「暦」を作る、ってこんな大変な事業だったんだなあ……。それ知れただけでも良かった。

2011/11/21

ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺4

ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺 4 (笑酔亭梅寿謎解噺)
田中 啓文
集英社 (2011-10-20)
売り上げランキング: 16182

■田中啓文
金髪鶏冠頭の竜二こと笑酔亭梅駆(しょうすいてい・ばいく)の落語エンタメ人情・いちおうミステリーでもあるシリーズの第4弾である。連作短篇集。なお、シリーズのタイトルになっている梅寿というのは師匠の名前で、これは落語好きが読むとすぐに「ああ、笑福亭松鶴師匠をモデルにしてはんねんな」とわかるようだ。

今回はミステリー色が弱くて人情とドタバタエンタメをぐっと押し出してあって、良かった。このシリーズは気楽に読めて、ほっこり出来て、登場人物にも愛着がわく。なんだか落語と似たトーンだ(まあ、まさにそれを狙って書いてあるんでしょうが)。竜二が「天才」っぽいのを説得力無く書いてあったいままでと違ってそういう無理もあんまり無くて、しかも竜二の良さがきっちり描かれていたのも嬉しかったな。だいたいハッピーエンドに収まるので安心でもある。

今回の演目は、二人癖、仔猫、兵庫船、皿屋敷、猫の忠信、鬼あざみ、牛の丸薬、ひとり酒盛。

なお、このシリーズの監修は月亭八天さんなのだが、第4弾の解説者はその師匠の月亭八方師匠だった。そういえば八方師匠がバラエティーに出てるのはよく見かけたけど落語は聞いたこと無いなあ……。

2011/11/17

シャンハイ・ムーン

シャンハイ・ムーン (創元推理文庫)
S・J・ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 40319

■S・J・ローザン 翻訳;直良和美
ニューヨークの私立探偵リディア・チンとビル・スミスのコンビシリーズ第9弾がついに出てくれた。8作目から原語ベースでも7年間が開いていたので(それまではだいたい1年1作ペースだった)、もしやこれで終わってしまうのかと少々危惧していたので、続いてくれただけでも嬉しかった。しかも。
しかも読みはじめたらなかなかどうして面白く、少しずつ読み進んでもずっと面白く、……っていうか、やっぱこのふたりの世界好きだあああ・ローザンは長篇書いてなんぼのひとだあああ。という意を強くした次第。

作品ごとに交互に一人称=語り手が変わることでも御馴染みのこのシリーズ、今回の「わたし」はリディア。
リディア主役の作品はミステリーとしてはビル主役のそれに劣る、というのがこれまでのファンや書評家たちの共通認識としてあったので、正直最初はあんまり期待していなかった。
駄菓子菓子。

今回のは良かったよー!
タイトルになっているシャンハイ・ムーンというのは宝石の名前で。
第二次大戦前後のユダヤ人に起こったことや上海の状況といった深い歴史的背景を背負いながら、ロマンスあり、幻の宝石をめぐる悲喜こもごもありというロマンティックな設定。といっても甘いことよりはつらいことのほうが多く、殺人やひとの生死、人生に関わるさまざまな事件が起こる。出てくる登場人物のそれぞれについて丁寧に書き込まれているので、自然に彼ら彼女らに親しみや愛情を感じ、ことの成り行きに固唾を呑んでしまう。

そして前作でいろいろあったビルとリディアの微妙な関係(に進展は果たしてあるのか!?)というこのシリーズ好きにはいささか気になる要素も忘れてはいけない。ほのめかし好きのわたしにはたまらん! なんなのこの意味深な台詞。特に最終部のあれは……。きゃー。顔がニヤけちゃうぅう(莫迦)。
いやー今回はリディアがだいぶね……弱ってるのかなあ?ほだされかけてる? って感じだったぞ。どうなるんだろうこのふたり。

例によってミステリーなので余計なことは言わないが、戦争絡みで波乱万丈な人生が複数絡んでいるし、といって悲惨なだけではなく夢や浪漫もあふれていて、読んでいて飽きない。残念ながら主役ふたりのそれではないが素晴らしい純愛も描かれているし、なんせメインが「幻の宝石」だし、シリーズの中でドラマティック度も糖度も高めなほうだと思う。純粋にミステリーとしてもなかなか読ませるものがあった(意外性というよりも、そこまで引っ張っていくストーリー性が素晴らしい)。

この調子で第10作も来年か再来年にはさくっと出てほしいものだ。

2011/11/05

安全な妄想

安全な妄想
安全な妄想
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長嶋有
平凡社
売り上げランキング: 11883

■長嶋有
長嶋有のエッセイもまた鉄板である(「も」というからには他に最低1人は鉄板だと紹介したことがあるというわけで、その1人とは奥田英朗である)。

先日ふらりと書店に入って文庫棚をざっとチェックし、次にまあ一応ね、くらいの気持ちで単行本コーナーに行ったらいきなり目があったこの渋い表紙!
おお、なんか武者小路実篤みたいではないか。
著者名が目に入ったのは次の段階である。
おお、しかも長嶋有ではないか!

というわけで、速攻購入となった。買ってすぐは他に読んでいる本とかがあってなかなか読めなかったのだがいざ読み始めたらほんとに(文章が)上手くて(内容が)面白くて、あっというまだった。すごく楽しかった。通勤のときは平静を装っていたが、自宅で読んでいるときなど文字通り笑い転げてしばらく中断しなくてはならないこともあったほどだ。
いやー、笑ったなあ。
っていうかそうそう、久々に長嶋さんのエッセイ読んで思い出したけど、このひとほんっとサービス精神旺盛な方なんだよね。奥田さんもそういう「おもろいこと書いて笑わせたろ~」的なスタンスを感じるけど長嶋さんは素がだいぶ変わっていて、しかもちょっとキモい系のこともあっさり暴露しちゃうというか、奥田さんはまだ自分というものを守ろうとする二枚目意識があるんだけど、長嶋さんはそのハードルがだいぶ低い。ような気がする。

天気予報が外れたときの予報士に対する苦情(?)からはじまりなんだかほんわかほろっとさせられるホットコーヒーの話が一番好き。
あとこれは著者のじゃなくて赤塚不二夫の作品紹介の中に出てくるのだが芥川賞を目指すインチキ作家がいて、彼の書くものはみんな有名作のパクリみたいなタイトルらしくて、その中でも長嶋さんが最も好きだと紹介しているタイトルが『ああ無理』。

これはね、もう、ずーーーっと笑ってる。最初に読んだ時はしばらく起き上がれないくらい笑ってしまった。「ああ無理」て。「無理」っていうのがもう、すっごくおかしい。っていうかこれ書いてるいまも既にだいぶ慣れているはずなのにまた笑っちゃってる。『ああ無情』のあの崇高なお話の、って思うからまた余計笑えてしかたがない。赤塚不二夫さすがだなあ。

なお、本書の装丁や中の挿画は100%オレンジ。
中にはとてもプロのイラストレーターが描いたとは思えないヘタな絵もあって、つまりこれはわざと「ヘタ」を演技して描かれているわけだが、確かにそのエッセイにふつうの可愛い絵とかおしゃれなスマートな絵とか持ってきても全然合わないわなーってすごく納得できるというか。

読んでいて「共感」とか「そのとおり」と思うというのはあんまり無くて、「いやいやいやいや」(←このフレーズ、本文中に何回も出てくる)というのが多いんだけど、でも「変なひとやなあ」「変わってるなあ」「なんでそうなる」「なんでそこまで」というのを著者自身も狙っているんだろうなということくらいはわかって、つまり、要するにこの著者は捨て身で笑いを取りにいっているんである。
見上げた精神ではないか。

本書を読んでいてほんとに何回も「このひと書くの上手いなあ」と感嘆のため息をついてしまった。テンポとか言葉選びとか、たぶんすっごく計算して周到に書かれてる。推敲しまくってるというよりかは、このひとのセンスなんだろうと思う。
ネタは些細なこともある。だけどその「最も効果が上がる広げ方」をこのひとはきちんと知っている。

なお巻末にエッセイに対する補完というかプチあとがきみたいなのが付いててこれもまた面白い。

2011/11/02

井上ひさしの日本語相談

井上ひさしの日本語相談 (新潮文庫)
井上 ひさし
新潮社 (2011-09-28)
売り上げランキング: 13907

■井上ひさし
十代終りくらい、たぶん高校生のときに『吉里吉里人』を読んだりしたくらいなのだが本書が書店で平積みになっていてぱらぱら見たらなかなか良さそうだったので読んでみたら思ったより易しく丁寧に説明されていて気軽でしかもわかりやすく、面白かった。いやー形容詞とか形容動詞とか助詞とかそういうの、意識しなくなって一体何年経つんだろう(笑)って感じ。なつかしーなー。

「週刊朝日」に連載されていたものだそうで、読者からの日本語に関する質問に井上先生が答えるというスタイル。脚注もあり、たまに筆者ではなく丸谷才一や大野晋が記入していたりするのも楽しい。回答者が複数いて、それぞれが得意分野の質問に対応していたんだろうな。なんか夏休み子ども電話相談みたい。

掲載の年月は書かれていないのだけれど、質問の中に『サラダ記念日』がベストセラーになっている云々とあるのでだいたいざっと20年前前後かな? だからちょっと内容的に古いなーというのもあるけど、いやはや日本語ってやっぱちょっと齧っただけでも面白いなあ。

こういう問題は学者先生によって解釈が分かれることが多い、日本人だから素人だってそれなりにこだわりがあったりする、だから本書を読んで異議をとなえたくなったり、首を傾げることも無くはない。しかしこういう種類の脳を使うの自体久々だったから、なんか刺激がもらえて勉強になった。

ちなみに「嬉しかったです」「おいしかったです」は文法的に正しくないらしいけど「嬉しいでした」「おいしいでした」っていうのはいくら文法的に正しいと云われてもなんか変だし「嬉しゅうございました」「おいしゅうございました」が最も正しいらしいけど大時代になっちゃってどうなんだろうなあ、というのが数年来の私のなかにあったのだけれどあっさり「嬉しいと思いました」「おいしいと思いました」と書けばどこからも文句は出ないと書いてあって、あーそういえばそうねえ。でも「思いました」ばっかり並べるのもまた野暮ったくなっちゃうんだよなあ……。

2011/10/27

追悼 どくとるマンボウきーた

船乗りクプクプの冒険 (新潮文庫)
北 杜夫
新潮社
売り上げランキング: 25733


北杜夫さんが亡くなられたとのこと。
小学校高学年で児童書『ぼくのおじさん』を読んだのが最初の出会いだったと思う。
本格的にファンになったのは高校生くらいだったか。『さびしい王様』シリーズや『船乗りクプクプの冒険』『どくとるマンボウ』シリーズをはじめそのユーモラスなエッセイ群、そして純文学『幽霊』『楡家の人々』……。

独特の、品のあるおかしみのある文章を書かれる方で、その文学にはいつもどこか含羞があるというか、……なにか一歩浮世から引いた視点で美しいはかない世界のきらきらを大切にされている、そんな気がした。

謹んでご冥福をお祈りいたします


さびしい王様 (新潮文庫)
さびしい王様 (新潮文庫)
posted with amazlet at 11.10.26
北 杜夫
新潮社
売り上げランキング: 3602


2011/10/19

買物71番勝負

買物71番勝負 (中公文庫)
平松 洋子
中央公論新社
売り上げランキング: 375363

■平松洋子
絶版。マーケットプレイスでゲット。
平松さんがいろんなモノを買ってそれへのこだわりとか美点とかをるんるんうきうきハイテンションで綴ってある。そのあまりにもノリノリなはっちゃけぶりは冷静な傍目には少々痛々しさを感じるくらいだ。
料理がらみの専門家だけど、本書で取り上げられるモノはそれに限らず、下着や時計や文庫なんかもある。

不思議なことに、平松さんフリークであり、彼女のいろんなエッセイに出てくるものたちに物欲を刺激されることがままあるわたしなのだが、本書に限ってはそういう気持ちになることがほぼ無かった。あまりの平松さんの作ったような上機嫌になかばボウゼンとしていたらすっかり取り残された。ほんとなんなの、このテンション。絶対自然じゃないでしょう。「婦人画報」連載、うーんそういう媒体の影響もあるのかなと勘繰ってしまったり。

もうちょっと、落ち着いてクールにキメた文章のほうが良い様な気がするが、まあ、買い物するときの女っていうのは得てしてこのような騒々しいまでの躁状態にあるのかも知れぬ。

2011/10/15

おまえさん

おまえさん(上) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 32

■宮部みゆき
宮部みゆきの作品というだけでもう充分なのだが、その中でも時代ミステリ、中でも"ぼんくら"シリーズはかなり好き。その第3弾がいよいよ出る、しかも単行本版と文庫版が同時に刊行されるという出版界での大きなニュースを伴って。
というわけで発売前から楽しみにしつつ、さてどっちの形態で買いましょうかとちょっと悩んでいた。
『ぼんくら』2000年4月刊。
『日暮らし』(上下巻)2004年12月刊。
ともに、単行本で出版早々に買い求めて持っている。――ということは、普通にいけばシリーズ第3作も「単行本だよなぁ」と思っていたのだ。だけど日が迫って実際の形式と単価を見てひるんだ。うお、また単行本でも上下巻か……。まー良いお値段。
思えば通勤読書派のわたしが何を好きこのんで高い単行本を購うかといえばイチに「いちはやく、その作家の新作を読みたいから」でニに「装丁の美しさと紙の手触り」。
イチの理由が無くなったイマ、単行本の「見てくれ」にすべてはかかっている……。
発売日に書店で実物を手に取って、わたしは数秒のためらいの後、あっさり文庫購入に転んだんであった。すまん宮部さま。安くて読みやすい方取っちゃったわ。


おまえさん(下) (講談社文庫)
宮部 みゆき
講談社
売り上げランキング: 34


さて肝心の内容である。
事件のはじまりは、謎の辻斬り。被害者は裕福から程遠い体つきで、その遺体があった場所にいつまでも影がくっきりと残っているといういささか面妖な幕開け。続いて流行りの薬屋の主人が屋敷内でやはり袈裟懸けに惨殺される。太刀筋から、下手人は同一人物とされた。そしてその動機は怨恨だと。
この身分も立場も違うふたりを同じく恨む、犯人はいったいどういう人物なのか?

シリーズ第3弾なので、メイン・キャラはお馴染みの面々。顔の長い自称"ぼんくら"本所深川の同心・井筒平四郎。その有能な岡っ引き・政五郎。平四郎の美人で大人(たいじん)な妻。類い希なる美形の甥っ子・弓之助。そのちびっこ仲間(?)であり政五郎とお紺夫婦に引き取られたおでこの三ちゃんこと三太郎。煮物屋の名物おかみ・お徳さん。それに加えて若くて有能でマジメ一徹、だけど容姿にコンプレックスありまくりの間島信之輔、その大叔父・齢70を越えて矍鑠とした本宮源右衛門、長屋の野菜売りの丸助さんなどアジと魅力にあふれた登場人物が盛りだくさん。
しかも今回は弓之助の3番目のやはり美形で女(だけじゃなく人)あしらいの超絶上手いお兄さんも出てくるし、15歳の美少女、寡婦になりたてのたおやかな美女、クールビューティでしっかり者の(だけど性格は正直良くないように書かれてる)女差配人、アダな年増の夜鷹の姐さんまで出てくるぞっ。

ミステリーとしての出来不出来は正直二の次で、これら多彩な人物が織りなす人間模様と宮部みゆきならではの深刻と茶目っ気の絶妙のバランスが生む空気・雰囲気をじっくりと堪能した。そしてそれでまあ正解だった。後味は……なんのしこりも残さずに、とはいかなかったのはうーんまあ人生・現実そんなもんかなーという。史乃ちゃんがなあ……もうちょっとどうにかならんかったのかなあとずっと考えちゃうんだよなあ。

第3弾を文庫で読んで、正直かなり忘れている第1弾・第2弾を文庫で買い直そうかとぐらぐら迷い中。ハッ、これぞ講談社文庫の思う壺っ。
なお、ちょっとググったら宮部さんは第3弾は文庫だけを考えていたようで、震災もあったし紙の節約とかで。だけど担当編集さんが単行本で集められている方もいるだろうしじゃあいっそ両方いっぺんに出しちゃいましょうとなったとかで。そしたら偶然同じ事務所の京極夏彦さんも異媒体同時刊行を考えていたそうでこれは前々から準備されていたとかで全体としてスムーズに話が進んだとかで。ついでに第2弾の文庫は上中下巻なのを今回上下巻で出し直すことにしたとかで。
この「ナントカカンントカなんで」という言い回しは例の長屋の丸助さんの口癖なんで、読んでいると自然にうつっちゃうんで。
……おあとがよろしいようで。

平松洋子のカジュアルに骨董を楽しむ暮らし

平松洋子のカジュアルに骨董を楽しむ暮らし (主婦の友生活シリーズ)
平松 洋子
主婦の友社
売り上げランキング: 388843

■平松洋子
初・アマゾンマーケットプレイス「出品者からお求めいただけます」への発注品である。
いや前々からのマイ・平松さんブームが進むにつれ、いろいろ検索しては「この本良さそうだなあ……でも絶版かあぁ」とため息をついていたのだ。それだけれども基本、新本好きなので古本まではなかなか食指が動かなかったのだ。

が、先日近所の図書館にぶらりと出かけて館内検索して見つけた本書をぱらぱら見るにつけ……
「こっ、この本欲しいぃぃぃっっっ!」
欲求が、メラメラと燃え上がってしまったんである。
だってだって、アマゾンで表紙だけ見て想像していたよりずっと良いんだもん!
写真いっぱいあるし、ほぼ全部カラーだし、アジアンアンティーク好きには萌え満載なのだあああ!

ああ、思えば昔からわたしにとって図書館は本を借りる場所ではなく、「これは借りるだけじゃなくて手元に置きたい」という、そのへんの新刊書店ではあんまり見かけない本を見つけてしまってその叶えられない物欲にもだえ苦しむことになる魅惑の城なんであった。
それでも「コレハぜっぱん」「ホンヤさんには売っテナイから欲しガッチャダメ」とロボットのように呪文を脳内でぐるぐる回して必死にタタカッているわたしに悪魔がなんでもないことのように(実際なんでもないことなんだが)あっさりのたまったのだ「マーケットプレイスで買えば?」。

いや~この本のなにがいいって紹介されている平松さんイチオシの小道具屋さんが東京だけじゃなく京都のも載ってるところ。関西在住の身にはめっちゃ嬉しい。実際そこで売られている品々まで身近かどうかは別として……今度ちょっと行ってみようか、と気軽に思えるところが。

文章も載ってるけど、どちらかといえば写真中心。
お料理よりは、器とか雑貨がメイン。
真の骨董ファンには物足りないかも知れない。初心者向けなんだと思う。それもけっこう女性ターゲットのような。日常的に身の回りに置きたくなるモノたち。

ちなみに本書は75円のを購入、送料が250円。送料のほうが高い。でもあるかないかわかんない本をあちこちの古本屋さんで探すこと考えたら断然安い。
あと、ついでにもう2冊絶版の{『平松洋子の台所』(ブックマン社)単行本版。文庫は持ってるけど、やっぱ最初に出会った単行本版が手元に欲しくなった/同じく平松さんの『買物71番勝負』(中公文庫)}を買ったんだけど、1つのお店で同時に買っても送料は1点につき250円という仕組みなんだなあ。初めて知った。たくさん買っても全然お得にならない。
だけど、予想外に美本だったし。
つくづく、便利な世の中になってるんだなあ。

2011/10/03

どくとるマンボウ航海記 【もはや何べん読んだかさだかではない】

どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)
北 杜夫
新潮社
売り上げランキング: 136787

■北杜夫
十代の終りに初めて読んで、以来、ことあるごとに何べんも繰り返し読み、愛読してきた本書。そのたびに面白いなあ、良いなあこの雰囲気・空気としみじみ感じ入る。
もう細かいところまですっかり御馴染みなんだけど、やっぱり覚えているその襞をじっくりゆっくりたどっていくのがなんともいえず心地よい。
ちょっと持って回ったような、独特のユーモラスな文章。
含羞のある、上品な著者の人柄がにじみでた文体。
特に大きな事件があるわけでもなく、突飛さや派手さは無くて、のんびりゆらゆらと、波間をただようマンボウのごとくその航海記は綴られていく。

斉藤茂吉の次男として生まれた北さんは若いころ精神科のお医者さんだった。その彼がひょんなことから水産庁のマグロ漁調査船に船医として5ヶ月にわたりインド洋から欧州にかけて各地をまわることになった、その経験をのほほんとしたスタイルで書いたもので、出版当時(1960年・中央公論社)はベストセラーになったとか。

航海記というからどこそこの港はこうで、何がおいしくて何が美しくて、みたいないわゆる観光案内みたいなものを期待されるむきもあろうが、この作品はそういうスタンスで書かれていない。まあいちおう各所で見聞きしたものも描かれているが、むしろ北さんの、当時海外旅行といえば「ちょっとしたもの」であったであろうその経験にも関わらず一向にしゃちほこばらない、肩の力のイイ具合に抜けた、それでいてちょっとウガったところも何気にスルドく差し挟まれている独特のセカイをでろ~んと愉しむことをオススメしたい。

北さんが旅行出発にあたり、荷造りをしている箇所をちょこっと引用させていただく。

  なにしろ私はめったに床をあげぬほど無精者なので、手際よく荷物をつくりあげるなどという芸当は生れつき不可能なのである。私はカバンの蓋など開け、その中に幾冊かの書物と衣類をつめこんだが、それだけで疲れてしまい、すでに半分ほど飽きてしまい、果ては茫然としてマンガなど読みだす始末であった。しかるに航海の経験をもつ連中が現れて、いろんなことを言う。そのたびに私は、インド洋はさぞかし暑かろうと半ズボンなどをつめ、冬の北大西洋はさぞかし寒かろうと登山に使うヤッケなぞをつめた。「なだ・いなだ」というふざけたペンネームを有するHが現われ、いいかね、山みたいな大波がくるぞ、コップでも何でも忽ち木っ端ミジンだ、などと大仰なことを言うので、私はわざわざ金属製のコップ、灰皿などを買いこんだ。Aという心理学者で国際ゴロみたいな男が現われ、フカを機関銃で射つのは面白いぞと教えてくれたが、機関銃を買いこむわけにはいかず、ただ彼が船中で飲むコーヒーのいかに美味であるかを力説するので、わざわざネスカフェーなど買いに出かけた。その間、私はそれまでの勤務にカタをつけねばならず、船の検疫と予防接種に立ち会ったり、海運局で船員手帳を貰ったり、夜は夜で飲みに出かけなければならなかった。
   

2011/09/25

コンビネーション

コンビネーション (ソノラマ文庫)
谷山 由紀
朝日ソノラマ
売り上げランキング: 1110436

■谷山由紀
ラノベをこよなく愛する読書家ウェンディ様(仮名)から借りた絶版本。
少女漫画みたいな表紙で(イラストは「まる伝次郎」さんだそうだ。よくわからないので検索したらコナン君の青山さんとちょっと関係ある?のかな)、むかしのコバルトとかそういう、少女小説系。1995年に出た作品で、高校野球の話かと思ったらなんとプロ野球の話なのだった。1つのチームをめぐる、いろんな立場のひとがいろんな視点から語る。オムニバス短篇集。

正直第1話「ジンクス」の語り手・岡野のしゃべりかたが気持ち悪くて性格も悪くて鳥肌モンで、どえらいもん借りてしまった~というか借り物じゃなかったらここで読むのやめて壁に投げてるよ~って感じだったのだが頑張って読んだ。そしたら第2話から語り手が変わっていて、文体も全然問題無くなって、普通に読めるようになった。それどころか文章が気に触らなくなってしまったら純粋にこの(ほぼ)野球人間ばっかり出てくるお話たちはどれもけっこー面白いのだった。

努力家・名倉(全篇通じての主人公的存在)が良いんだよなあ。まあ、欠点らしき欠点がいっさい無い、っていうのが「そんなデキた若い男がいるもんか~っ」というツッコミをいれずにはいられないところなのだがでもだってこれ、少女小説だもんね、ドリーム書いてなんぼの商売だもんね。最後の話は乙女が主人公の甘酸っぱさがあくまでライトにソフトに、そして女の子の立場がすごく上手く書かれててなるほどこれが出てくるのが少年向けと違うとこだよなぁと妙に納得したり。

2011/09/20

死亡フラグが立ちました! 凶器は…バナナの皮!?殺人事件

死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) (宝島社文庫 C な 5-1)
七尾 与史
宝島社 (2010-07-06)
売り上げランキング: 21181

■七尾与史
あんまりややこしいことを考えたくなくてこのタイトルからしてどーみても「バカミス」っぽい本書を借りた。全然まったく期待していなかったのが良かったのか、漫画のような設定も、トンデモ系の展開も、予想外に面白く楽しんで読めた。

というか、本屋さんで本書が目の端に引っかかったことはあったのだけどこれって小説と認識してなかったっていうか。全国のみなさんの体験談を寄せた読み物的な内容だと思っていたのだ(『死ぬかと思った』という作品があってそれと混同していたみたいである)。

本書はけっこう登場人物が多くて、最初のほうはそれぞれがバラバラのシチュエーションで出てくるので休み休み読んでいるとなんだかちょっと混乱する。というわけで中盤からはイッキに結末まで読み通した。それぞれの章・人物の連鎖もわかってくるし、ミステリーとしてのサスペンスも盛り上がってくるし、途中でやめる気にならなかった、うーん、ぶっとびもここまで徹底すると逆に素直に読めるわ。なにげに説得力(?)もあるし。

「死神」という殺し屋がいる。そのターゲットになると、24時間以内にどう見ても偶然の事故によって殺される。――そういう都市伝説みたいな噂があって、だけど編集長から死神の尻尾を掴んで記事にできなければクビだと言い渡された売れないライター・陣内。そんなのいるわけねーよ、と彼は思っていたのだが調べていくと……。

いろんな職業、立ち居地のキャラクターが出てきて、それぞれがわりと個性的なのも面白い。

なかなかユニークなこのミステリー、でもミステリーとして最も大事なラストのシメがアマゾンなんかざっくり眺めた感じだと評判が悪いみたい。わたしはあれはあれで悪くないと思ったけどな。っていうかきっちり書くにはかなりの力量と大技が必要でしょう、だって普通の展開だったら面白くないし。普通の展開で後味悪いの書かれた日にはどーしよーもないから、だったらあれでまぁ妥当だったかな、とか。

解説は大森望。本作品は第8回「このミス」大賞最終候補作品にして著者デビュー作だそうだ。

2011/09/15

インドなんて二度と行くか!ボケ!! ――…でもまた行きたいかも


■さくら剛
借りた本。気楽に読めそうかなと思って、そして実際この内容はマジメに読むようなスタンスで書かれていなくて、なんていうかブログとかネットで流し読みするような感覚に近いのであった。

著者は軽めの引きこもりだそうだがその彼がインドに行って「うぎゃー信じらんねー」連発の日々をすごし、それを非常にライトでふざけた文体でものしたのがこの作品、のようだ。
なにか、現代の流行語を拾わずにはいられなく、細かいギャグも挟まずにはいられなく、笑わせるためならしょーもない駄洒落だって連発することにやぶさかではない……という書き手の思いが彼がふざければふざけるほど伝わってくるので逆に泣けてくる。いや別に泣きはせんが「頑張ってるなあ」と思ってしまう。読んでてたまに吹き出したりして。

インドに行ったら客引きが凄くて、モノ買わせようとする鉄面皮ぶりが凄まじくて、トイレとか衛生関係は目茶苦茶で、日本人の感覚とは合わないことがたっくさんある。
――というのは、別にさくら氏にあらためて教えてもらわずともいままで多くのひとがいろんな場所で書いている。だから本書が目新しいのはそこではなくて……それに対応する著者のキャラクター。
最初はただのヘタレさんなのかと思っていたが予想外にたくましく、インドにいる間にめきめきしぶとくなっていく。リキシャに囲まれて「ちょっと待ってね」とかユダンさせておいていきなりワーッとダッシュで逃げようとするシーンなんか最高に面白かった。

読んでいて、「あーヲレにはインドは無理……」と何度思ったか。っていうかシモの話多すぎだろ。いままで読んだ旅行記の中でいちばんトイレネタが多い。そりゃ重要なことだしそれだけ逼迫感も強かったんだろうけどふつーは「作品化」する時点でフィルターかかるもんなんだと思うんだよね……「それだけを感覚のままリアルに書いていては雪隠の話で終わってしまう」という。そのフィルターなしで書かれた素直な文章がこれだというわけか。

それにしてもインドに行けてる時点で全然引きこもりじゃなくね?

2011/09/10

日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典


■蛇蔵&海野凪子
実はわたしもめちゃ楽しんで読ませていただいてました『日本人の知らない日本語』シリーズ。
「日本語」名コンビさんが次に出してこられた作品は「日本文学」でございました。

近代文学派だったとはいえヲレいちおう国文学科卒業だし凪子先生が「基礎でございます」と紹介されるような本なら当然ホンモノ(は難しいにしても最低現代語訳版程度では)読んでおくべきじゃないのかそれをここで安易に漫画でわかりやすく読んで知ったかぶったーしてしまって良いものなのか!?
とか無駄なストッパー(自己制約)かけてしまって保留にしていたりした、のですが次にまたリアル書店で見掛けてためしに中身パラ見したらうおーこれめっちゃおもしろそーやん。とか思っちゃって気がついたら速攻買ってました。なんてゆるゆるのストッパーなんだ。

実際読んでみてわかったことですがこれは作品の筋とか文学的位置とか鑑賞とかいうよりもそれを書いた著者のキャラクターを現代人の価値観でもわかりやすい視点から紹介することによって親近感を抱かせる、そういうスタンスによって書かれているんですね。「こんなひとが書いたお話ってどんななんだろう?」って。中学とか高校で実際に古典学ぶ前にこういうの読んだら興味持って学べるような気がする……。

本書でとりあげられている人物。
清少納言、紫式部、藤原道長、安倍晴明、源頼光、菅原孝標女、鴨長明、(吉田)兼好、ヤマトタケル

本書は基本漫画ですがそれだけじゃなくて、凪子先生によるあいかわらず性格の良い紹介文も付いてます。
ちなみに菅原孝標女の『更科日記』の現代訳は文学好き女子が書いた日記ということで勝手に親近感持ってわたしも十代のころ読んで面白かったです。大人になってからの日記はそうでもないけど少女時代の回想が「いまも昔も夢見る物語好きは同じねー」という感じ。蛇蔵さんの描く孝標女はイメージどおりだったのでなんか嬉しかったです。




日本人の知らない日本語
蛇蔵&海野凪子
メディアファクトリー
売り上げランキング: 552

日本人の知らない日本語2
蛇蔵 海野凪子
メディアファクトリー (2010-02-19)
売り上げランキング: 805

平松洋子の台所 【単行本】

平松洋子の台所
平松洋子の台所
posted with amazlet at 11.10.15
平松 洋子 日置 武晴
ブックマン社
売り上げランキング: 245325
■平松洋子
最初に出会った単行本版がどうしても欲しくなってマーケットプレイスでポチりました。
だってブックマン社の本とか持ってないしっ。
単行本だと日置さんの素晴らしい写真も大きいしっ。
感想とかについては文庫版の感想をご覧ください。
とりあえず影響受けまくって我が家の米びつもネットで探しまくってブリキ製でございますv

2011/09/03

雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行 【再々読】

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 2137

■村上春樹
本書は2つの旅のエッセイというのか雑感というのか紀行文というのかから成っている。そして手持ちの村上春樹の作品の中でもベスト5に入るくらい好きな本である。特に前半のギリシャ・アトス篇が素晴らしく好みに合っていて、アトスというのは女人禁制なのでいくら憧れても行けない土地なんだけど行きたいというか、とにかく読んでいて心地よいんだね。
なにがそんなに好きなんだろう。
あんまりなんにも事件が起こらなくて、1つの島の数日間の記録で、禁欲的で、グルメからはほど遠い粗食の世界で、ひたすら歩いて歩いて歩いて……。の、世界だからかも知れない。ううむ。
僧たちが作った硬いパンと野菜をもそもそと食べて与えられた寝室で丸くなって眠る……なんかこれって百年くらい前の名作文学の貧乏な主人公みたいな。少なくとも現代社会の「日常」では有り得ない。その独特の、非日常が日常たる世界がまだ世の中にはあるんである、という面白さ。

それに比べると軍隊が権力を握っていて治安とか衛生とか経済とかあんまり良くなくて場合によっては命の危険がしゃれにならない感じであるというトルコ篇はもう全然行きたいという気にはならないがこれもまあ読んでいるだけだと「タフねえ村上さん……」という感じで興味深くはある。

2011/08/24

死んでも治らない 大道寺圭の事件簿【再読】

死んでも治らない (光文社文庫)
若竹 七海
光文社
売り上げランキング: 339052

■若竹七海
連作短篇集をあいだに入れた章でぐるうっと取り込んでラストまで読むと実に綺麗なおおきなひとつの環っか(=長篇小説)になっているという美しさはミステリ好きには堪らないと思う。

ひっさびさに読み返したので「面白かった」「主役がけっこうキャラ的に好きだった」という記憶しかなかったのだが、読んでいても全然記憶が甦って来ず、ほぼ初読みのような感じで我ながら記憶力どないなっとんねんという感じだがそれはともかくいや~若竹七海ってほんっと性格悪い人間を毒気たっぷりに書くの上手いよなあ~。
法で裁くレベルでは極悪というほどの犯罪者ではない小悪党レベルが多いのだけれどそれ以前に人間としてもう全然なってないというタイプとか、自己中とか、読んでてすっごいムカつくっていうキャラ。こんなやつが実際にゴロゴロいるとは信じたくないのでここでそのリアリティはあえて追究したくもないが、そうして読者みんなのココロがヒトツになってある人物に対して反感抱くことその極み、みたいなところまで持っていってズサーッと袈裟懸けに斬ってくれるその爽快さ。これぞカタルシス。

という仕組みの小説なのでいったん読み始めたらさくさく読み進まずにはいられない、だってゆっくり読んで途中で置いたら腹立てさせられた状況で保留になっちゃうんだもの、それに短篇としての事件とその解決もあるけれども間に書かれる長篇小説としての通しの謎もあるから気になってしまうしね。

この小説の底のところに流れているのはほんとうに断腸ものの深い悲しみなのだけれどあえてそれはオモテに出さない演出。毒気もたっぷりあるけれど、基本的にコメディタッチで書かれたタイプのいわゆるコージー・ミステリーなのでところどころ小さく笑ってしまうようなくすぐりもあって、面白い。ブラック・コージーが得意な若竹七海らしい良作。

ちなみにわたしが持っているのはノベルス版だが↑画像は文庫版。

2011/08/23

失踪当時の服装は 【再読】

失踪当時の服装は (創元推理文庫 152-1)
ヒラリー・ウォー
東京創元社
売り上げランキング: 323691

■ヒラリー・ウォー 翻訳;山本恭子
たまに新刊書店を覗いているのだがどうにも食指が動かず再読月間が続いている。こないだ買取王子とかいう古本回収業を試してみてブックオフ以下の二束三文の査定で引き取られていったショックが酷すぎたのかも知れぬ。あれ、自分できっちり箱詰めしなくちゃいけないし結構大変だったのに。査定結果が1冊ずつエクセル表でもらえるのはなかなか興味深かったけど。

話がめちゃくちゃ逸れてしまった。
えー、この『失踪当時の服装は』というのはミステリー好きを名乗るなら当然読んでるよね的な超有名作品で、最初にわたしが読んだのもそういう、素養というか基礎知識としてマストであろうという意識があったように思う。単純にタイトルからして秀逸だし、紹介文に惹かれたというのも当然あったのだろうけれど。

ある日突然、キャンパスから忽然と姿をくらませてしまった女子学生。
周りの評判も悪くなく、しっかりしたまじめな娘に一体何が起こったのか、失踪は自発的なものなのか、それとも事件に巻き込まれたのか――。

1950年のアメリカの女子大が舞台の小説で、出版年は1952年、創元推理文庫から邦訳が出たのが1960年だから、たまに「翻訳が古いなー」とか「登場人物の思考がいわゆる"今風"とは違うなー」とかいうのはある。でもフォード署長が事件を捜査していくうちに行方不明の女子大生に親の立場で深く同情して理性的であるべき仕事の中にも人情を出してしまうところとか、親が娘を信じ抜いているところとかは今も昔も関係ない、読んでいてこちらも深く共感するところだ。

決して派手な展開もどんでん返しも無いし、地道な実際的な警察の捜査の様子が日を追って描かれるこの小説はともすればどんどん斬新なトリックやキャラクターで盛り上げられる昨今のミステリーを読みなれた読者には退屈ととらえられるかも知れない。そもそも警察小説というのは名探偵が活躍する小説とは違うのだ。ちなみに本作には探偵も登場するが、彼みたいなのがリアルなんだろうなと思う。この小説には説得力がある。地に足がついたミステリー。

2011/08/21

五匹の赤い鰊 【再々読】

五匹の赤い鰊 (創元推理文庫)
ドロシー・L・セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 181573

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳;浅羽莢子
スコットランドの田舎。のどかな美しい風景の村で嫌われ者が死体で見つかった。最初は足を滑らせて崖から落ちた事故死かと思われたがピーター卿が”ある物”が見つからないのでこれは殺人だと言う……。
容疑者は6人。誰が嘘をついているのか?
地元警察と協力してこつこつと裏をとっていくピーター卿。
ミステリーとして王道な感じで、しかも舞台やキャラクターが愉快な感じで、面白かった。

2011/08/16

殺人は広告する 【再々読】

殺人は広告する (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
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■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳;浅羽莢子
本書でいきなり主役を張るデス・ブリードンとは何者か?
というのは読んでいればすぐにわかってくるのだけれどいちおうここでは伏せておきたい。
ちなみにスペルはDeath Bredonだそうで――この名前は実際「アリ」なんだろーか。うーむ。
ついでにいうとピーター卿のフル・ネームも本文中で出てくる。

セイヤーズは当時の女性としてはまだ珍しかったらしい大卒で、コピーライターとしてバリバリに働くキャリア・ウーマンだったのだけれど、この小説の舞台は広告代理店で、その経験がものすごく活かされている。当時の広告業界の日常業務や社内の雰囲気などが実にこと細かに描かれていて、その活写が素晴らしい。
ピーター卿モノとしてはけっこう変わっていて、コスプレみたいな愉しみ(ちょっと違うけど)もあるし、事件も現代風だし。メインの殺人はともかくその動機というか原因となった犯罪っていうのがそのまま現代でも使えそうなネタなのだ。

なお、バンターさまの大ファンとしては非常に残念極まることに、本書には彼はほぼ登場しない。
またこの当時のピーター卿はある特定の女性に求愛している期間にあたるのだが、彼女に対するほのめかしがあるのは実に1箇所のみである。

解説にセイヤーズの広告会社勤務時代の出来事などがけっこう詳しく書いてあり、読むとそのまま最近の話として通用することに驚く、ってまあ、いまさらだけどね。
この小説が出版されたのは1933年。つまり昭和8年。満/州/事/変が起こったのが1931年。まあそんな感じの時代。イギリスではこんな女性がいたんだなあ……。
そういう意味で興味深い存在だったのはミートヤードさん。著者とちょっと重なってるところとかあるのかな。
あ、そうそう、ジンジャー・ジョーはとっても可愛くて賢くって良かったなあ。出てくるとにこにこして和んじゃった。
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◆ピーター卿シリーズリスト
《長篇》
誰の死体?/Whose Body? 1923
雲なす証言/Clouds of Witness 1926
不自然な死/Unnatural Death 1927
ベローナ・クラブの不愉快な事件/The Unpleasantness at the Bellona Club 1928
毒を食らわば/Strong Poison 1930
五匹の赤い鰊/The Five Red Herrings 1931
死体をどうぞ/Have His Carcase 1932
殺人は広告する/Murder Must Advertise 1933
ナイン・テイラーズ/The Nine Tailors 1934
学寮祭の夜/Gaudy Night 1935
忙しい蜜月旅行/Busman's Honeymoon 1936
《短篇集》
ピーター卿の事件簿(日本オリジナル版)
顔のない男・ピーター卿の事件簿Ⅱ(日本オリジナル版)

2011/08/13

ナイン・テイラーズ 【再々読】

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 105692

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳;浅羽莢子
ピーター卿とバンターがフェン(イギリス東部の沼沢地方)の雪深い小村に迷い込み、そこで思わぬ交流をすることになった。地域に流感が蔓延していたため、欠員が出来てしまった転座鳴鐘を助けるため、御前おん自ら鐘綱を握ることになったのだ。
そんなことがあってやがてやってきた春、教区ではちょっとしたミステリーが「掘り返された」。なんと、教会の墓地の中にいつのまにか見知らぬ男の死体が埋葬されていたのだ、それもどう考えても殺された遺体が。
混乱を極めた中、善良な教区長は冬に訪れて縁ができたピーター卿がシャーロック・ホームズばりの名探偵だということを知り、捜査を依頼する……。

鐘のこととか、けっこう「冗長だなー」と思うところなきにしもあらずのこの話だけれど、今回読んで村の中の人間模様とか、教区長夫妻はじめ、人柄が良くて読んでいると「良いなあ」と思える登場人物が多いことにほんわかさせられた。ま、犯罪を扱った小説なのでそればっかりではいられないのだけれど、でも、基本的にゆったりしていられる。
こんなおっとりした村、おっとりしたひとびとが多い中でも殺人とかが起こっちゃうのはやっぱどこかで不自然な力とか金品が投じられるからで。
この小説で誰が可哀想ってヒラリー・ソープがダントツで、誰が憎たらしいかってもうこれは断然、ウィルブラハム夫人だったりするのはそれだからなのだ。殺人犯も泥棒も悪いしいけないし好かないけれど、この夫人さえもうちょっと常識的で注意深くあれば、あるいはその事件後の言動がもう少し思いやりがあったならば、と天を仰ぎたくなってしまう。これは理性的ではないかも知れないのだが感情としてはそうだ。セイヤーズの書き方も読者の感想をそういう方向に導いているとしか思えないし。

ミステリーを読んでいるとほんと、殺人の動機なんて大きく分ければせいぜい2つに絞られるのに気付く。要はお金か、恋愛問題だ。そして実際のニュースを見ていてもそれはあんまり変わらないように思える。100年まえのミステリーも、100年後の現実も。
やっぱお金はこわい。

2011/08/11

不自然な死 【再々読】

不自然な死 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 193587

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳;浅羽莢子
途中までは真面目に読んでいたがあまりにも犯人が身勝手で残虐でなんにんも殺していくので腹が立ってしかたなかった。3回目の読書ということもあり、終盤ナナメ読み。だって読んでて不愉快なんだもの。
この小説では中盤くらいからもう小説上で犯人は誰か8割がた見当がつけられていて、だけど証拠とかがつかめないしそのあいだにもまた犠牲者が出ちゃう、みたいな。
ミステリーとしてはかなり面白い部類の作品であることは確か。初読みだったらスリリングでもあるだろう。

ベローナ・クラブの不愉快な事件 【再々読】

ベローナ・クラブの不愉快な事件 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 236817

■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳;浅羽莢子
こちらはタイトルに「不愉快」とあるけれど前の「不自然な死」よりずーっと楽しく、というと語弊があるな、――えっと、抵抗なく、読めた。
イギリスのクラブというと紳士たちのたまり場みたいなものらしいが、そこで衆人の中であるご老体がいつのまにか亡くなっていた。呼ばれた医師は持病による死とし、なにごともなく葬られた。だがその後、老人の死の時間が何時何分だったかによって遺産の配分が変わるという事態にあることが判明し、例によって御前さまが調査にのりだす。静かだった沼はかきたてられたことによって思わぬ展開を見せ――。

時代とか、戦争がもたらしたひとびとの精神への影響だとかそういうのも読みがいがあった。展開も面白いし。全体にユーモアが静かに流れているのが良い。
それにしてもセイヤーズの書く女性たちはとても1928年とは思えないほど進歩的だなあ。そしてみんな個性的というか偏っているというかこれが一般的とはとても思えない性質のひとが多い。男性はそうでもないのにね。

むかつく二人

むかつく二人 (幻冬舎文庫)
三谷 幸喜 清水 ミチコ
幻冬舎 (2011-08-04)
売り上げランキング: 2163

■三谷幸喜 &  清水ミチコ
単行本でみかけて「読みたいなー」と思ったけれどちょっと高いなと保留になっていたのが文庫化してくれているのを新聞広告で発見。やったー。とさっそく買ってよみはじめたら電車内では笑いをこらえるのがけっこう大変でひらきなおって顔が笑うくらいは勘弁してもらいつつ読み、昼休みは心おきなく吹き出しつつ読み、帰りの電車内では慣れてきて内心にやにや/表面真顔で読んであっというまに読了。
いやー、面白かった、やっぱふたりともコメディ界の第一人者だもん、最強。

本書はラジオ番組で話されたことにちょっと手を入れて文章化したものらしいけど、解説によればラジオで聴くのと文章で読むのとではかなり印象などに違いがあるらしい。ふーん。よくわからないけれど、活字のほうが圧倒的にマイペースに、そして気になった箇所はいくらでも反芻し、じっくり味わえるという特質があるのに対し、ラジオは流れていくもの、あっと思っても録音してない限り聞き返せないし、そもそも自分の聞きたい速度で話してもらうとか不可能だものね。

三谷さんの似たようなタイトルの著作に『気まずい二人』というのがあるけれど、清水さんとのやりとりはほんっとにテンポが良くて、漫才みたい。丁々発止とはこのこと。何気なく話しているようでいて、だけどコメディアン&コメディエンヌとしての眼差しは真剣で完全にプロの仕事なのがすごいと思う。

2011/08/07

雲なす証言 【再々読】

雲なす証言 (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
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■ドロシー・L・セイヤーズ 翻訳;浅羽莢子
ピーター卿の堅物のお兄様がなんと殺人事件の被告人として囚われてしまう、シリーズ第2弾。
お兄様もお難しそうな御方だけれどもその夫人、ヘレン(現デンヴァー公妃)ってなんだかセイヤーズからも好かれてないみたいな感じねえ、描写に全然愛がないんだもの。ピーター卿の妹のメアリ姫もいかにも貴族のお姫様っぽいところがあってその言動とか性格が良いとは決して思えないし。ヘレンのほうがまだつきあいやすいかな? 押さえるところ押さえておけば間違いなさそう(=常識的にふるまえばよい)んだから。メアリはねー、可愛いかもしれないけどちょっと極端かなー。男運の悪さは目も当てられないし。あ、でも最後につかまえたのはとても良い人だったからめでたしめでたし、か。

1926年に書かれた小説だけど、この小説で描かれる恋愛模様はどれもなかなかどうして、ドラマチックで刺激的だと思う、あ、1926年という時代だからこその制約と歴史的影響みたいなのがあるからそうなるのか。
ミステリとしてのメインは実はそうたいした仕掛けではないから(種明かし読んで種明かし以外の周辺事項のほうがよっぽど面白いと思わざるを得なかった)、むしろ枝葉の、人間模様に着目して楽しんでしまう感じの作品。
いやーそれにしてもピーター卿が沼地で危機一髪のシーンはイギリスならではだなあ。バスカヴィル家の犬を連想しちゃった。そしてバンターはこの作品でも素晴らしいのであった。

2011/08/05

誰の死体? 【再々読】

誰の死体? (創元推理文庫)
ドロシー・L. セイヤーズ
東京創元社
売り上げランキング: 188092

■ドロシー・L・セイヤーズ
大っっっ好きなピーター・ウィムジイ卿と従僕マーヴィン・バンターが出てくるこのシリーズは正直読んでいるだけでものすごく萌える。ずっとうきうきるんるん。ミステリーだから、そういう楽しみもあるんだけれど、そしてさすがのセイヤーズだからプロットとかもきっちりしてるんだけど、でも一番はやっぱりキャラクタとその会話の妙、なのよね。おまけにもう覚えているだけでも3回目だし。

うふふふふふ、やっぱピーター卿はお素敵だわあ~。バンターには(執事じゃなくて従僕だけど)執事萌えっ!だし。「御前」っていう呼び名も、鉄板の礼儀正しさも、そしてその底知れぬ有能さも、ほんっと惚れ惚れしちゃう。ピーター卿の友人のチャールズ・パーカー警部もなかなかどうして、萌えさせてくれるし。良いなあこういう身分を越えたざっくばらんな友情。それと忘れちゃいけないのがピーター卿のおかあさまの最強ぶりとチャーミングさ。ほんとお可愛らしい。

とりあえず出てくるひとが魅力満載なのに昨今流行のキャラクター小説とかじゃなくてメインはしっかりくっきり本格ミステリだというのがイギリスではセイヤーズがクリスティよりも評価されているという意見もある所以か。

2011/08/03

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 【再々々読】

■村上春樹
超有名な名作なのでいまさらレビューでもあるまいと好き勝手なことを書かせていただく (それはいつもじゃないのかという突っ込みがあるかも知れないが)。

ひさしぶりに再読したけどやっぱよく覚えていた。でもけっこう忘れていたり記憶の改変がおこなわれていたことに気付いてえーっ、と思ったりもした。特にラストの展開をなんとなくで違うように記憶していたのはこれはなんなんだろうな。

最初に読んだときわたしはまだ大学生だった。
ものすごく面白いと思った、なんていうか、設定とか世界の展開とかがめちゃくちゃビシバシ響いてくる感じだったというか。
いまも、たぶん昔も、わたしは村上春樹の主人公の思考世界と深く共感するということは無くて、でも反発するとかでも無くて、君の考え方はすごくよくわかるしまっとうだとも思うんだけど、でもわたしはまったく同じようには考えられないし、行動もできないな、という感じ。読みながら常に「えっ」とか「おお?」とか感じている。だいたい、村上春樹の小説に出てくるみたいな会話を現実にしている人間が周囲にいるものなの? ほぼ初対面の男女があんな直裁な内容話すかな?

何が言いたいかというと村上春樹の小説っていうのはわたしにとっては違和感がいっぱいの作品なんである、にもかかわらずある種のシンパシーは感じるし、なによりも、読んでいてとっても面白い。これってなんなのかな? と今回読みながら思ったので。

ビルに入って動いてるのかどうかもわかんないエレベータで運ばれた先のタンスの奥に深い深い地下道に通じるルートがあってそこにはやみくろとかがうごめいていて音が消せたりするマッド・サイエンティストがいて、とかなんなのこの面白さはっ。しかももうひとつの「世界の終り」には黄金の一角獣がいて壁の中で世界が完結していて主人公は夢読みとして図書館に出かけていって一角獣の古い頭蓋骨から夢を読むっていうんだぜぇ。
――くっはあ~! なんてなんてツボ刺激しまくりの世界なんだぁあああ。


それにしても村上さんの雑文読んでるとすっごく自然にしみこんでくるし違和感ないんだけどな。なんで小説だとこうなんだろうな。やっぱ根本的なスタンスが違うからか。世代が違うからか。男女の違いか。
うーむ。
今回読んでみていろいろまた感じるところがあったけれど、特に強く感じたのは「このときは村上春樹はまだ若かったんだな」ということと、「この話を最初に読んだときのわたしはすっごく若くて、いまはそうじゃないんだなあ」ということだった。

ちなみにわたしの記憶の中では主人公と影は南のたまりに一緒に飛び込んで濁流に呑まれ、そのあと現実世界にもどってきて地下鉄の構内に出てくるのだ。いろいろ間違っているうえに時系列も混ざっている。なんでこう改変したのかな、こうあってほしかったのかな。

わたしが持っている平成初期の新潮文庫版は↑のものだけど、いまはこんな↓装丁になってるそうだ。文字が大きくなっているそうだ。この装丁もなかなか良いなあ。




2011/07/27

密やかな結晶 【再読】

密やかな結晶 (講談社文庫)
小川 洋子
講談社
売り上げランキング: 122632

■小川洋子
読み始めるまで忘れていたけれどそうかこれって小川洋子流『最後の物たちの国で』だったんだ……。
ひとつずつ少しずつ、「消滅」が起こる世界。
「消滅」が起こると、島に棲むひとびとにとってその対象物は記憶の中からも消えてしまう。例えば香水が「消滅」した場合、彼ら彼女らはもはや香水の香りを感じ取ることが出来なくなってしまうのだ。
しかし住人の中には「消滅」が起こってもずっと変わらず覚え続けているひとびともいた。そんな彼らを待ち受けているのは秘密警察による連行であり、それはすなわち死を意味していた。
記憶を抱き続ける者たちはそのことを隠し通そうとするがさまざまな検査によってそれは発覚を免れがたく、彼らはやがて「隠れ家」を見つけてはそこに身を潜めるようになる――。

小川洋子が『アンネの日記』を愛していたことを知る読者には、この物語とナチスのユダヤ人虐殺の史実を重ねあわさずに読むことは難しい。もちろんこれは物語であり、まったく違う色も備えているのだけれど。

主人公の「わたし」が住む島の物語と、小説家である「わたし」が描くもうひとりの「わたし」の物語は別次元のまったく違うストーリーをたどっているようでいて、実は深いところでリンクしていてそれが読んでいると段々深まっていく。

とても残酷な設定で、悲しくさびしいトーンではあるのだけれど、主人公のスタンスがとても物静かで落ち着き払っていて、その日々がすごく丁寧に描かれている。だからとっても穏やかにその世界に身をひたすことができる。そして小川洋子独特の色っぽさ、ああこの官能はどこから来るんだろうとどきどきしてしまう。

2011/07/25

寡黙な死骸 みだらな弔い 【再読】

寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)
小川 洋子
中央公論新社
売り上げランキング: 95078

■小川洋子
「死」にまつわる11の連作短篇集。
大人なタイトルだなあ、と思う。この題名の作品は無くて、通しのタイトルがこれ。
メニューを開くといきなりデザートからはじまるようでこれも面白いが内容は狂気への序章といった感じだ。まずは、ジャブ。

読み始めればすうっと文章が肌に吸い付くように馴染んでいくのがここちよい。
どろりと解け腐りおちていく死骸はいっけん「寡黙」でありながら同時に雄弁で、その死を弔う生きているにんげんたちはどこか官能的なものを含んだ「みだら」な色をまとっている、そんな作品群。

「洋菓子屋の午後」
「果汁」
「老婆J」
「眠りの精」
「白衣」
「心臓の仮縫い」
「拷問博物館へようこそ」
「ギブスを売る人」
「ベンガル虎の臨終」
「トマトと満月」
「毒草」

死を書くことも、つまりは残された側=生きている側からしか書くことは出来ないのであり、死を描くことはすなわち違う方向から光をあてて生を浮かび上がらせることに他ならない。
死の物語は、11の生々しい人間の息遣いを伝えてくる。
小川洋子の変態ぶり(誉めてます)が冴え渡るおとなのための物語集。

2011/07/24

わが切抜帖より・昔の東京

わが切抜帖より・昔の東京 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
永井 龍男
講談社
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■永井龍男
「わが切抜帖より」
新聞や雑誌で目に留まったものを切り抜いて自分だけの愉しみとして置いてあったものを紹介し、永井氏のそれへの感想を添えてある、というスタイルなのだけれどその切り抜いていく基準というのがぼんやりと想定していたよりずっと地味というか、ふーんそこなんだ、みたいなのがあって意外だった。文末に掲載雑誌名(「銀座百点」)と掲載年月が載っているのだがそれが昭和39年とかで……「あー昔ってそうだったんだー」というのが日常生活レベルであって、でも中にはいまでもけっこう「あるある」「変わってない」っていう感覚で読めるのもあって、面白い。女中さんが混乱して大金を風呂釜の焚き付けにしちゃった話はその顛末もそうだが永井さんの感想がちょっとユニークだし、大穴を当ててしまった少年の話はすごくリアルで可愛いし、身の上相談の話はいつの時代も根本は変わらないなってため息。床屋の話はそのまま現代に通じるだろうし、デンキ屋問答なんかもそう、だろうと思いたい、「文学」って「純文学小説家」って、そういうスタンス、そういう生き方であって欲しい、っていう理想、でも現実はそれだけじゃ食っていけないねっていうのがこの短い記事の中に滲み出ている、だから永井先生も書かれたんだろうなあ。
読む前は「他人のふんどしってやつ?」ってちょっと思わないでもなかったけど、いやー全然。
次元が違うわ。

「昔の東京」
もう鎌倉の住人となって久しい著者は東京生まれ、東京育ち。だからこのひとにとっての「東京」はすべて過去にしか存在せず、移り変わりの激しいいまの東京の中にはその面影を探すしかない。
昔語りの中の東京、落語寄席と東京、岡本綺堂の随筆で描かれる魚河岸……。
兄弟のこと、関東大震災のことは何度か繰り返し登場するがこの手のパターンによくある「描写の揺らぎ」がまったく見受けられず一貫しているところが流石。あと、「二昔三昔」が淡々と書かれる中にすごく人生の奥行きを感じさせる思いもよらぬドラマがあって、……なんていうか、うーん。凄いな。
これをこういうふうに書けるようになるまでどのくらいかかるんだろう、っていうか偶然再会したときにこういうふうにまた挨拶できる生き方があってこそなんだよな……とか。
渋すぎる。
巻末に「人と作品」「年譜」「著者目録」有り。